バスタオルと濡れた服を脱衣所に置き去りにしてシャワールームに入る。
今はお湯よりも水を浴びたい気分だ。体調?頭を冷やすほうが大事なんだよダボが。
水を出して全身に浴びようとして、蹲る。もう限界。
「ぬおああああああああああ!!!!」
シャワールームにくぐもった呻き声が虚しく響く。シャワーの音にかき消されてくれ頼む!
なんてことをしてしまったのか!
なんてことをしてしまったのか!!
大事なことなので二回言いましたァ!!!
思考・欲望・煩悩を全部吐き出してしまった!
消えてしまいたい。この世からスパッと!
恥ずかしい!リアル全裸を晒すよりも尚恥ずかしい!俺が玲さんをどんな目で見てたのかなんて可能な限り隠しておきたかったのに!
下心ダダ漏れの本心とか恋人に一番見せたくないものを…!この口が!この口がぁ!
「ああああああああ!!!!……あぶっあぶっ…ゲホッゴホッ」
口を開けっ放して声を絞り出してたら顔を伝った冷水が口の中に入り、そのまま息を吸い込んで水が気管に飛び込んでむせる。一回休み。
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しばらく頭から冷水を浴び続けてたら震えが止まらなくなってきたので改めて温水を浴びなおす。
ユニットバスの方でシャワーの温水を浴びながら多少なりとも湯を張っていく。玲さんを待たせるのは申し訳なさに溢れるが多分互いに時間が必要だろう。冷静になるための時間が。
「色んな意味で頭が痛い…」
また風邪引いてないよな。JGEの二の舞はまっぴらだぞ。
さて、盛大な自爆をかましたところで俺はこれからどうすればいいのか。
まだ短い付き合いではあるが、玲さん自身は俺の自爆について、そこまで悪くは思っていない…と信じている。貶したわけじゃないし。
問題はここがラブホで容姿をべた褒めしてしまった事だ。しかもエロいとまで言った。
これでもし玲さんが「その気」になってしまったらどうしよう。俺は果たして拒めるのだろうか。あの姿のままの玲さんを。
脳内ディプスロが右手の指で作った輪っかに左手の指を抜き差しし始めたので四肢をふん縛って転がしておく。喜ぶな変態。
確証は無い。が、耐えられる算段はある。
そろそろ洗濯機の方が終わる頃なので、それを玲さんに回収してもらえばとりあえず玲さんは服を着てくれる。
俺の服の洗濯が終わるまで俺はバスタオル一丁で耐えるしか無いのだが、ベッドのシーツでもなんでも被れば隠せはする。問題ない。
仮に玲さんがバスタオルのままだったとしても、一目見た時の衝撃よりも、一回分でも慣れが入った二回目の衝撃の方が小さい。
脳内シミュレーションの限りでは辛うじて理性が耐えきれた。後は可能な限りテンションを平静に保ち、玲さんの前に姿を表す。その後はアドリブ。
ピピッ、と電子音。ちょうど洗濯が終わったようだ。一旦脱衣所まで出て俺の服をシャワールームに持ってくる。
「玲さーん、洗濯終わったよー」
声は返ってこないが、洗濯機の蓋を開け、また閉める音が聞こえた。回収は済んだらしい。
俺の身体もわりかし温まってきたので、そろそろ出るか。
シャワールームを出て洗濯機に俺の服を放り込んで起動。頼んだぜ洗濯機君よ。
深呼吸だ。深呼吸すれば気持ちは落ち着く。プラシーボ効果でもバックラー効果でも何でも良いからとにかく地に足を着けろ。
深く吸って、ゆっくりと吐く。
ゆっくりと吸って、深く吐く。
…よし。
バスタオルを腰に巻き直して脱衣所を出る。いざ決戦のバトルフィールドへ。
意識してテンションを均し、一息入れてからベッドの方へと振り向く。
今の俺には要塞の如き鉄壁の平常心がある。多少の飛び道具じゃびくともしない…!
「ごめん、お待たせ玲さ
『一糸まとわぬ姿の玲さん』という
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形のいい(比較対象とか特に無いけどそう思う)胸も、くびれた細い腰も、…その下も。全部見えてしまっている。
一応腕で最低限だけ隠しているが、そのポーズの時点で、暴力的な魅力が俺の理性をジェットハンマーで殴りつける。
鎮まれマイサン!自己主張を強めるんじゃあない!俺は自らを律しなきゃならないんだよ!
身体は正直ですね畜生め!
「れれれれれ玲さん!?な、何やっ…てえェェェ!!?」
俺が声をかけるよりも前に動き出していた玲さんが生まれたままの姿で抱きついてくる。
ああ!胸が!胸が!僅かに残ったなけなしの理性すら押し流さんとする欲望の奔流を必死に堰き止めるがこれはヤバい!一刻も早く引き剥がさないとマジで襲ってしまいかねない!
反射的に両手で玲さんの肩を掴む。
が、
「楽郎くん…私は、酷くて、卑しい女なんです…」
俺の胸に顔を埋めた玲さんが、涙まじりにこぼした言葉に俺の動きが止まる。
卑しい?ナンデ?
「楽郎くんが、私達の将来の為に、耐えてくれている事に…気づいているのに…っ、身体が、疼いて…。止ま、止まらないんです…」
ふと気づく。俺の身体に回した腕。玲さんの指が濡れている。水ではないぬめりを帯びて。
…まさか俺がシャワー浴びに行ってから、一人で?何それエロじゃん…
「お願いします…楽郎くん…。私の、身も心も、貴方のものにしてください…私の全身をめちゃくちゃにして、一生消えない傷をつけてください…」
「この先何があっても、貴方を忘れられないように…私に貴方を刻み込んでください…!」
ぞわり、ぞわりと背筋を通って欲望が上ってくる。窓の外は暗く、仄暗い照明と漏れる雨音が背徳感を演出する。
人はどうしてか、それがやってはいけないこと、道徳、モラルに反する程に、それをしたくなる天邪鬼な性質を抱えている。
俺も御多分に洩れずそのクチだったらしい。
「将来の為に避けるべき」、「無責任な行為」。
欲望を縛り付ける筈の文句が、欲望を刺激する燃料にすり替わる。
俺の目の前にいるこの人は、俺のすることの全てを受け入れようとしている。いじらしくて、健気で、愛おしくて、それでいて――どうしようもなく、蠱惑的な誘い。
俺の中で、何かのスイッチが入った。
「………玲さん、顔上げて」
俺の言う通りに、彼女が顔を上げる。
至近距離で見つめ合って、ちょっとだけ首を傾けて、唇がそっと触れ合うだけのバードキス。
…まさかラブホでファーストキスをすることになろうとは。だが今の俺にとっては、それすら興奮を掻き立てるスパイスとなる。
「…これが、俺の答え。それでも、最後にもう一度だけ聞くよ。…本当に、良いの?」
既に、これからする行為の結果の全てを受け入れる覚悟は決めた。
いざとなれば、俺は俺の進路を蹴ってでも、彼女の為に全てを捧げるつもりだ。
そして、それが玲さんも同じかどうか。聞いておきたかった。
玲さんは少しだけ俯き、再び顔を上げる。
その目に映る覚悟の光は玲さんのものか、俺のものを玲さんが映しているのか。きっと、両方だろう。
「…はい。」
最早、抑えが効かないのは俺も同じだった。