燻りと兆し
私と、楽郎くんがその…
私はそれまでと変わらない日々を過ごしている。
…嘘です、ほんとは1つだけ、変わったことがあります。
夜、ベッドに潜り込んで眠る前に…勝手に火照りだす身体を慰めること。
あの日以来、ベッドに入る時にどうしてもあの日のことを思い出してしまう。裸身を晒して彼を誘惑したことも、彼の手で何度も絶頂に導かれたことも、後ろから強引に挿入され、しかしそれを待ち望んでいたことも、その後の肉と肉が蕩け合うような…熱く激しく長い睦み合いのことも。
その最中で得た快感も含めて、全部。
その度に顔から火が出そうになり…同時に、下腹部が熱を伴って疼いてしまう。どうしても寝付けなくて、あの時を思い出しながら、昂ぶる欲望を自分の手でなんとか発散している。
下腹部にそっと手を当てる。それだけで、ぞくぞくと快感が込み上げて、じわりと身体の奥底から欲望が溢れてくる。
寝間着を無駄に汚すだけなので、最近はまず全裸でベッドに潜り込み、事が済んでから寝間着を着込むようになった。はしたない真似をしている自覚はあるけど…それがむしろ興奮を煽る燃料になる。私、変わってしまった…
私の右手が下腹部から滑って秘所に触れる。甘い電流が身体の中を駆け抜ける。
私の左手が胸に触れる。小さな痺れが全身に伝播していく。
「んっ、ふっ…、ぷはっ、ふむっ!」
シーツを噛んで声を噛み殺しながら、刺激を繰り返し性感を高めていく。
やがて、
「っ!~~~~~~~っっ!」
閾値を越えた快感に全身が痙攣する。視界にぱちぱちと光が映り、意識が少し朧げになる。
「はぁっ……はぁ……は、ふ………」
呼吸を整えて、一度ベッドから出る。寝間着を着込みながら、つい考えてしまう。
「…また、やっちゃった」
ベッドを汚して、身体も洗わないと。家族や使用人にもバレないように、夜の内にキレイにしないと。
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一時の欲望は収まった。けれど、全てが無くなってはくれない。
心に残った小さな棘は、日毎にその存在感を増していく。
足りない。
楽郎くんとのときは、もっと気持ちよかった。
叶うならば、もう一度――
「っ!!!」
頭を振って危険な思考を追い出す。あの時は、状況とか、いろんな条件が符号してしまったが為に起きてしまった
男女の機微に聡い方ではないけれど、こういうことは互いの足並みが合わないと良いことは無いことくらいは知っている。
我慢、我慢しなきゃ…!
手早く後始末を済ませ、疲労に身を任せて眠りについた。
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翌朝、姉に呼ばれて居間に向かった私を出迎えたのは床に並べられた3つの段ボール箱だった。
「姉さん、これは一体…」
「筍です。毎年の事ですが、親戚筋からお裾分けを戴きました」
確かに、毎年送られてきている。けれど、これは…
「それにしては…その、多くありませんか?」
普段はこの半分くらいなのに。…それでも十分に多いのだけれど。
「今年はどうやら豊作だったようで…使用人と近隣にも配りますが、流石に食べきれませんね」
「どうします?」
「ふむ………ああ、そうですね」
姉さんが何か閃いた顔をした。何か嫌な予感が。
「玲、彼の家にも持っていってあげてください」
ふぁあああーーーー!!?!?
「私は心配しているのですよ玲。あなた達が付き合いはじめてもう3ヶ月。初体験こそ済ませたもののお互いの家に訪れた事も無いではありませんか。これはいい機会というものでしょう」
「はつっ…!そ、それは今関係ないじゃないですか!それより!そ、そんな、いきなりなんて失礼では!?」
私の家に彼が来たのは付き合ったその日と、その前に一回きり。逆に私はまだ楽郎くんの家に行ったことがない…けれども!
「事前に連絡をして許可を取れば問題はありません」
「そ、そうかもしれませんが…」
こんなに急になんて!服は何を着れば、持ち物はどうすれば!
私が、楽郎くんの家に…!?楽郎くんの、部屋、に………
「ぁ、ぅ………」
脳内でピンク色の思考がぐるぐると駆け巡る。
って違う!これは、あくまで筍のお裾分け!
「異存はありませんね?今日中に連絡をしておくように」
言うだけ言って姉さんはさっさと居間を去ってしまう。
「………仕方ない、ですよね?」
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「と、というわけで、筍、如何でしょうか…」
『あー親に聞いてみる。ちょっと待ってて』
……
『聞いてきたよ。そういうことなら是非にって』
「そ、そうでしたかっ!で、では持っていきますね!」
『え、あーっと…。……うわっ何だよ瑠美。え?………あー…それもそうか』
「どう、しましたか?」
『…玲さんが1人で持ってくるのは大変だろうから、受け取りに行けって』
「わ、わざわざそんな…!」
『いやいや、こっちは貰う側なのに何もしないのも申し訳ないからさ』
「わかり、ました…」
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楽郎くんと並んで、楽郎くんの家までの道を歩く。
道すがらに楽郎くんがしてくれた話はどれも面白くて、私の知らないゲームの事をいっぱい教えてくれる。
そのどれもが、私には大変そうなゲームばかりで、楽郎くんもしきりに「俺が異常なだけだからね。玲さんはやらなくていいからね」と念を押してくる。
私を想っての事だから嬉しくはあるんだけれど、彼と同じ場所に立てないのは少し寂しい。
…やっぱり、やってみたいな。真奈さんに聞いたら教えてくれるかな。
「ただいま。…なーんで誰もいないんですかね」
そして、この30分弱の道のりのなかで、気付いたことがある。
楽郎くんが、私の胸を意識してる。
「父さん母さんはいつもので瑠美もバイトか…えー…筍の保存の仕方なんて知らねーんだけど…」
直接視線を向けられた訳ではない。急に顔を背ける事が何度もあって、私の顔を見ていた視線が、顔を背ける直前だけ吸い寄せられているのを感じるのだ。
赤の他人の視線なんて、マイナスにしか思ったことはないのに、楽郎くんに見られてると思うと、途端にドキドキが止まらなくなる。
真奈さん曰く「クソゲー脳みそ」な彼が、私の身体に魅力を感じている。
過去の記憶にないその視線の由来は考えるまでもない。
「玲さん、筍ってどうやって保管すりゃ長持ちする……玲さん?」
――楽郎くんも、あの日の事を身体が覚えているんだ。
「玲さん?もしもーし?」
単純に脳に『記憶』しているのではなく、身体に『刻み込まれた』快楽の味。
忘れようとして忘れられるものではない。あの時感じた肉体が、すぐ間近にある。
どくん、どくんと胸が高鳴って、その事だけが頭を埋め尽くしていく。
「…フリーズかな?」
ずくん、ずくんと身体が疼いて。
ずっと煙を吹いていた欲望に火が付いて。
我慢が、出来なくなった。
「…楽郎くん」
「お目覚め……む!?」
ちゅっ、ちゅぷ、ちゅぱっ、ちゅむ。
楽郎くんの頭にしがみついて、自分の唇を押し付ける。
楽郎くんの手から筍の入った袋が落ちる。
どさり。
その音で、私はくっつけていた唇を離した。楽郎くんと私の間で、細い糸が伝う。
今のは、殆ど無意識的に。
けれどここからは、私の意志で。
「私…楽郎くんの部屋に、行きたいです」
「えっいやそれはちょとまずいっていうか散らかってるかも知れないし今
午前中だし色々と準備とか足りてないと思うし…えっとほら筍さっさと保管しない、と…」
真奈さんに教えてもらった。「男をときめかせるには仕草が大事」と。
身長…視点の高さの差を活かした仕草の1つ。
私が楽郎くんの目を見ようとすると、必然的に少しだけ見上げる形になるけれど、顔の角度を若干落として、目で楽郎くんの目を見る。
即ち――『上目遣い』。
「だめ、ですか…?」
「んっぐ!」
楽郎くんの喉が鳴って、頭が忙しなく動く。迷っているのかな。
数秒の逡巡を経て、
「…部屋二、上ゲルダケ、デスヨ?」
部屋に上げるだけで済んだんでしょうか。ご想像におまかせします。
直接の続きは書きません。細かい違いはあれど大体本編の焼き直しになるので(ネタバラシ)
R-18部分をすっ飛ばして続きが生えました。