昭和の初期に心躍らせたヒーローたちの夢をもう一度描いてみました。長編ですが、暇なときに、少しずつ読んでください。ゲイ的要素があるので、そういうことに嫌悪感のある方は、開かないでください。

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昭和のレクイエム

西暦2052年、地球は地磁気の乱れによって電磁波と強い紫外線にさいなまれ、地表は荒れ果てていた。

外出する時は、いつも強力なフィルタのついた顔をすっぽり覆うマスクが必要で、強い紫外線の薄れた日没後にすることが身を守る手段となっている。昔、二酸化炭素濃度が上昇するとどうだこうだと言っている間もなく世界中で老朽化した原子力発電所が次々に爆発し、また使用済み核燃料もあまりに数が多くなり、貯蔵スペースもいっぱいで浸み出した放射性物質が徐々に地下水や土を汚染していったが、誰もその対策を考えようとしなかった。廃棄物を押し付けられる国家間の争いも絶えず、上空にはいつもミサイルが飛び交う、そんな光景が日常化している。

 人の心は荒れはて絆を忘れ、ごく表面的なつながりだけに終始する浅薄な人間社会ができあがっていた。政府に対する信頼もとっくに消えさり、自分の身を守るのは自分という不文律が子供の頃がらしっかりとたたきこまれていた。治安も乱れ、将来に希望を失った若者は快楽を求め、バイクを暴走させたり、力で相手を屈服させるようなことにはけ口をもとめていた。そんな中、昔各地にあった暴走族と言われる集団は次第に合従連衡を繰り返しいまや巨大な「悪魔の騎士団」と名乗る反政府勢力となり各地で自衛軍や警察と衝突を繰り返している。実のところ、この勢力はあまりに規模が大きいこともあり、いまや政府の手におえない暴力集団と化してしまっているのである。

それを取り締まるべき警察は地域の治安を守る地方警察と、それを監督し,より重大な事件に対応する国家警察にわかれてはいるが、住民の治安を担当する地方警察は、騎士団からの報復を恐れ、被害を受けた人からの訴えには耳を貸さず、うるさいものには蓋をしていくような正義や規律から程遠い組織に堕落している。

 しかし、そんな警察組織の中にあっても、正義感に燃えた若者も少なからず存在する。

不動明。23歳、国家警察交通機動隊に所属し緊急出動となれば、真っ先に白バイを駆けて現場に参上する。レスリングで鍛えられた肉体は美しい。逞しい胸の双丘ときれいに分離した鋼鉄の玉が並んだような腹筋、太い上腕、丸太のような太腿・・そして股間には宙を仰ぐようにそそり立つシンボルが存在する。美しいガタイは全て彼の頭脳から発せられるシグナルを正確にコントロールするのに余りある筋肉を備えている。彼の現在の階級は巡査長。精神より運動発達だけに偏りがあるのがやや欠点と言えばそうだ。

そして、友田剛。22歳。同じく交通機動隊に属しているが、こちらは警部補である。大学のレスリング部で不動とは先輩後輩の関係であったが、こちらは上級試験合格のキャリアだから部署内では立場が逆転しているのだ。

白バイに乗務する日は、専用のスーツを着装する。それは極く薄手の、硬質だが伸縮性の高い素材でできており、それ一枚で体を覆うすべての機能を持っている。着用時は全裸となって、皮膚とスーツの密着性を完全にするため全身に特殊なミストを吹き付ける。これは着装を容易にするためとフィット感を究極まで高めるためでもある。実はこのミストは自らの体液を基にしてその成分を純化したもので、隊員それぞれ使用する液体が決まっている。

当初は全身のラインが露わとなるスーツに嫌悪感を示す隊員もいたが、着装感が素晴らしいので今は誰も文句を言う男はいない。むしろ、隊員たちは自分の肉体を誇示できるこのスーツが気に入っているようで、日々の過酷な訓練を乗り切る精神力の一助になっているようだ。

スーツは頭から足先までの一体成型で体をすっぽり覆うようにできており昔着用が義務付けられたヘルメットはもはや必要ない。素材自体が優れた衝撃吸収能力をもっているのだが、全身を包むブルーメタリックのスーツは非常に美しい輝きを放っている。

 今日は明、剛はペアとなってパトロールにあたることになっている。

陰毛も剃って完全な裸でミストを浴びた明は大きな鏡の前で全身にまんべんなく、液体が付着しているか確認している。高圧で吹き付けられるミストも体の姿勢によっては十分に付着していない部分があるからだ。形のいい引き締まった尻の間から前部の急所にかけては、補助ボトルから自分の手で塗るのが習慣になっている。

背中の手の届かない部分にミストが不足している部分を見つけた明。「おーい、剛、ちょっとここ塗ってくれ」能天気な声を出した。剛は少しふくれたように「先輩、ここでは警部補と呼んでください」と文句を言うがまんざらではなさそうである。「はいはい、警部補殿、じゃ、頼むな」とポンと自分のボトルを投げてよこす。受け取った剛は明の背後に回り、ボトルのキャップをとり背中に塗るため近づく。ほのかに明の汗の臭い、男の体臭が感じられる。隆々とした体躯、がっしりとした一厘の無駄のない背中の筋群、しばしボーっとなって我を忘れる。「おい、警部補どの、何をしてるんだ?」振り向いた明の凛凛しい横顔を見て、我に返り、急いで背中に液体を丁寧に塗る剛。熱い明の皮膚に触れるにつれて、自分の下半身が薄手のビキニの中で膨らみはじめていることをハッキリ感じる。「やべーな、次は俺がミストを浴びる番なのに・・・」

自分の肌にぴったりフィットした制服を脱ぎ、おもむろに俯くとそこには今にも爆発しそうな肉棒が股間から突き出ていた。筋肉質ではあるが、どちらかといえば色白の美しい肢体はレスラーというより体操選手を彷彿させる。スーツ着装前の剃毛を済ませてあり、肉棒の硬度が茎からハッキリ増しているのが分かる。

「でかいな、警部補君・・」にやにやしながら、自分のガタイを乾燥させている明の手が伸びて、思いっきり剛のモノをわしづかみにした。「痛てっ・・」と一瞬その端正な顔を顰める剛。が、すぐに恍惚とした顔へと変化した。

 しばし、その状態で時間が過ぎたが、不意にドアを開ける音がして二人は何事もなかったかのように、剛はミストルームの中に入っていく。

ミストを浴びながら剛はさっきの余韻に浸っていた。

同じ部署を志望をし、かなえられたものの、学生時代のように示し合せて派手に愛し合う、ガタイを絡ませることがなかなかできない、そんな欲求不満が渦まいていた。ミストのぬめりが怪しい感触をうみだす。無意識の内に彼の左手は膨隆しきった肉棒をつかみ、しごき、右手は尻の秘孔をゆっくり往復させていた。頭の中には先ほどの明のあられもない姿が・・・。しかし、この狭い空間の中ではそれを噴出することもできない。この空間のミストと新たな精が化学変化をおこし、ミストが効力を失ってしまうのだ。

不意に半透明のドアの向こうから明と所属の隊長の会話が聞こえてきた。新たな出動命令のようだ。

「不動、騎士団に不穏な動きがある。お前たち二人は第一武装部隊の出動前に先遣隊としてライダーパトロールに専従してくれ」

「了解、速やかに準備にかかります」

「友田警部補はどうした?」

「まだ、ミストルームです。あいつはやたら時間がかかってしょうがない・・」

「おい、友田はお前の上司だ。その口のきき方はなんだ」

「あ、はい、申し訳ありません。気を付けます」

「速やかにこれを着装しろ。新しいスーツ2着だ。」

先輩が叱責されているのを、ドア越しに聞きながら、友田の体の処理は完了。ドアが自動的に開くと、隊長と不動の視線がさっとこちらに向かった。裸体を見せるのは慣れているから、彼は特に前を隠すこともせず、堂々と脱ぎ捨てた制服を取りに向かったが、その時、不動が「おい、剛・・じゃない友田警部補、これより出動であります」

「了解、直ちに準備にかかります」

とはいえ、二人ともまだ全裸の状態である。これから着装にかかるがスーツは制服というよりは広げれば人体の形をした人形のようなものだ。3層構造で表面は美しい光を放つ超エラスティックな繊維でできていて、表面の摩擦は0。しかし、外力に対する耐貫通性は銃やナイフで穴を開けることが不可能なばかりか、表面にキズさえつかないのである。2層目は超低反発性の素材なのだが、厚さが1mmあるかないかの薄さであらゆる衝撃を吸収してしまう能力を秘めている。これが頭のてっぺんから足先まで覆っているので、高速走行時に転倒しても、まったく怪我を負うこともない。そして3層目。これは生地というよりは、生き物なのだ。2層目と3層目は密着しているように見え、事実そのとおりなのだが、着装した途端、3層目はカラダ全身のミストと反応してまるで頭脳をもった生物のように伸縮をし、からだのすみずみまで張り付くような動きを見せる。だから、着装後の隊員は体のラインそのものである。前の急所は内部で強めに締め付けられサポートされるので、巨大な肉棒も苦痛なく収納されている。

二人とも、手慣れた順序で装用をはじめている。両足を通し、太い大腿、股間までスーツを引き上げ急所の玉と肉棒を形よく収める。次に丸太のような両腕を通し、指先まで引き上げ、続いて顔と頭部を覆うマスクをすっぽりかぶる。体幹は両方から生地を引き、中央で両方の一部を指でくっつけるだけ。その後は体の装着が終わったところから、スーツがかってに動きだししわのないぴんと張ったライダースーツを完成しくれる。体幹中央のつなぎ目もあっという間にシームレスの状態になった。

装着が終わった二人は全身にレーザー光線による剥離部分がないかどうかのチェックを受ける。常に全身を無毛の状態にしているのは、スーツとの間に空気を入れないようにするためだ。

モニター前に立つ二人。OKのサインが出るといよいよ出動だ。頭部に機動隊本部とバイクとの通信機能をもった黄金色のV型のアンテナをマスクに覆われた額に装着。これにより、意識下で脳波から読み取ったシグナルを具体化して通信指令と常に自動的に交信ができているのである。進化した白バイは高性能なイオンエンジンを備え、アンテナからのライダーの意思を正確に、内蔵されたAIが読み取り解析し制御するという高度なメカニズムをもっている。流れるような流線型の形は搭乗しているライダーとともに若い女性たちの羨望の的となっている。

数十年前、男は中性的で、なよっとした男がもてはやされるような時代があった。しかし、時代の荒廃とともに、そのような男は社会や環境にも適応できず、世間からも白い目で見られ、しだいに淘汰され隅に追いやられていった。

今や力強い強靭な肉体と強い精神力をもつ男だけが世間の崇拝者となり真のエリートとしてあがめられる世なのである。

出動の時が来た。バイクにまたがり前傾姿勢を取るふたり。シルバーメタリックと明るいブルーメタに塗り分けられた流線型のバイクは乗務するライダーのスーツともよくマッチし一体となって見える。

「発進っ」明がそう意識すると音もなく鋭い加速でバイクは動き出した。続いて剛。「追尾っ」剛のバイクは明のバイクの軌跡を寸分たがわず追っていく。これからわずか1時間後におぞましい恐怖のどんぞこに突き落とされるとは、この時二人は想像だにもしなかった。

 

 一方こちらは地下深く、およそ地上から5000mに達しようかという暗黒の世界。そこには、まだ人類が出現する以前から脈々と地底社会が築かれていた。そこに住む生物たちは、独自の進化をとげ、高度の知能と運動能力を持っていた。昔は地上社会に嫉妬しその征服をもくろむ一派もいたが、今では平和で地上に住む人類よりもはるかに優秀な地底人達は、高い誇りを持っている。独特の社会組織を形成しているが、中でも警備を行う

防衛隊は精神、肉体と共に優れた能力を持つもののなかから選抜された者たちだ。

彼らを取りしきるのはゴッド。防衛隊隊長だ。

「アモン、前へ」 ゴッドの声が回廊に響き渡った。整列した筋肉美を曝す屈強な男たちの中でひときわ逞しい隊員が前に進み出た。

「御前に・・」アモンが答える。

アモン、通常彼はデビルマンと呼ばれているが、防衛隊きっての勇者である。2メートルに達しようかと言う大男であるが巨大で厚い胸板は見事に二つの山をなし、腹部にかけては筋肉以外の何も無駄のない体躯である。太い腕や脚は真の勇者たるものを具現化したのようだ。股間はビキニのような薄い布で覆われているが、そのカタチははっきりわかる。頭部は優れた勇者だけに冠せられるマスクに覆われている。 屈指の超能力の使い手で、迫り来る敵に対する戦闘能力は地下社会では誰も及ばない。

「アモン、いやデビルマン、お前に命令だ。地上世界の偵察に行って来きてくれ。」

「地上世界の偵察?・・・それが私の任務ですか?」

意表を突かれたように問い返すデビルマン。後方では他の隊員たちのざわめきが聞こえる。「そんなことは俺でもできるのに・・」と他の隊員は自分が選ばれなかった理由に対する不満が一瞬くすぶった。

「いや違う。今や地上世界は荒廃を極めている。強い電磁波や遮るもののない強力な紫外線は高レベルのエネルギーとなってそれを遮断する能力を持たない我々の体を短時間で蝕んでしまう。それに耐える能力を持った戦士はお前だけなのだ」

「了解。任務を遂行します。」

「待て、聞けアモン。おまえの肉体と精神力をもってしても、そのような環境に長い時間は耐えることはできない。地上に出たらお前のやどりぎとして合体できる人間を速やかに探しださなけれがならない。しかもそれはお前との合体に耐えられる強靭な肉体の持ち主をだ。」

「わかりました。ゴッド様。必ず任務を遂行します」

「よし、それでは赴く前に、地上世界に適応しやすいようにお前の体内のエネルギーをコントロールする」と言うやゴッドの右腕が大きく空を上下に切った。デビルマンの股間を覆っていたパンツがひらりと落ちた。急所があらわとなるが、そのまままえに進みゴッドと相対峙する。究極の肉体をもつデビルマンであるが、ゴッドの前ではかすむ・・というか、ゴッドから放たれるオーラが彼の肉体を含め、絶大なエネルギーを絶えず放出しているのである。一瞬ゴッドの体全身が黄金色に輝いた。と、同時に全身から放出されるプラズマのような強い光線が二人を包み、彼が着用していた股間を覆うビキニも消え、一気に二人の距離は狭まった。神々しく光る二人。そのときゴッドの右手がデビルマンの頭部をつかみ、左手が股間の急所をわしづかみにし、一気に電撃的にエネルギーチャージが。一体となって青白く光るゴッドとデビルマン。後方で一部始終を見ていた他の戦士たちも、しばしの間は恍惚としている。しばらくすると、ゴッドの手は股間から離れデビルマンの両脇にまわり強く抱擁する体勢となった。おびただしい光の渦の中でゴッドの体からのプラズマ放出が終わり、二人は離れる。再びゴッドが空を切るように腕を動かすとデビルマンのビキニは再び舞い上がり股間を覆うように密着し、すべての行為は終わった。

 片膝を立ててゴッドの前にひざまずくデビルマン。

「では、行ってまいります」

「頼んだぞ、アモン、地上人との合体までの時間は12時間だ。それを超えると今の行為の効き目も薄れ,さしものお前の体にも異変が現れる。」

「わかりました。では・・」

デビルマンはすっと立ち上がり、大声で叫ぶ。「ウィングー・・」とそのとき彼の背中が裂け、2枚の大きな翼が出現しアーチを形成した。そしてやや膝をかがめ軽くジャンプすると彼の肉体は宙に浮き勇者たちの見守る中、地表との通路となっている巨大なクレパスの裂目をぐんぐん速度を上げで飛んでいった。

物陰からその様子をうかがう一人の男。全身をきつめのタイツで覆われ、正規の防衛隊員ではないようだ。突然、彼のカラダから氷がとけるように全身から蒸気が噴出し、それが塊となって雲のように漂いながら、デビルマンの後を追うように音もなく飛んでいった。

 

 

再び地上界へ戻って・・・不動と友田の乗ったイオンエンジンの白バイは音もなく快走しパトロールも無事終わろうとしていた。

「結局なんにもなかったじゃねーか」とあきらがやや不満そうにつぶやく。通信マイクを通して剛が「先輩、そんなこというもんじゃありませんよ。なんにもないことが、俺達にとって最高じゃないすか」

「どこまでも、じじくせーヤツだな、ははは、よし、剛、ここはさっさと仕事切り上げて帰ったら久しぶりイッパツぶちこんでやるからな」

「ええっほんとですか?」顔をあからめる剛、しかし心底ウレしそうである。そんな軽口を飛ばしながら、帰路に就く二人。

突然の閃光。昼間だというのにその数万倍の光に二人は包まれた。

強烈な熱風と砂塵が舞い上がる。エンジンの出力が急速に低下しバイクは急停止した。エマジェンシーロックがかかり、かろうじてバイクから投げ出されずにすんだ明と剛。

「一体どうなってるんだ」いぶかしがる明。

不意に彼らを取り巻くように数人の男が現れた。毒々しい赤い一体型のスーツを身に着けている。体側には金のラインが。

「騎士団だ、気をつけろ」剛に注意を促す明。

スーツのいたるところに仕組まれたセンサーが最上位の警戒レベルのシグナルを二人とそれぞれのバイクに送り続けている。これによりバイクは形を変え、戦闘モードに入る・・・はずであるが、変化がない。

直ちに手動でモードを変えようとするが、全く反応がない。

「無駄だ、ポリさんよぉ」男がにやっと笑いながら言った。

「バックアップも働かねーぜ、ふふふ、さーお前たちは今日の餌食となってもらおうか」正面からリーダーと思われる男が近づく。

そのとき、明が拳をつくり男の方向に腕をさしだすと、強力なレーザー光が男の胸元に照射された。一瞬ふらつく男。しかし、すぐに体勢を立て直し、挑んでくる。頭部や腹部に強烈なパンチ、俊敏な運動能力がそのほとんどをかわしいるが、不意に背後に気配を感じジャンプし空中に舞い上がり、1回転して着地。

「さすが機動隊随一のヒーロー、不動だな。」

急に背後から裸締め。しかしレスリングでは超人的な力を発揮する不動の前には、騎士団もなかなか手を下せない。しかも仮にまともにパンチを食らっても、スーツの耐衝撃能力が高いため、ほとんど体の痛みを感じないのである。

一方の剛の方も果敢な戦いをみせている。体躯は明には及ばないが強靭なガタイは戦闘モードのアンドロイドのようである。

戦闘が続くが、さすがに日々の訓練で、形勢は圧倒的に不動たちの勝利に見えた。突然、再びあの閃光が、二人の目を眩ませた。自動的にゴーグルが目を保護する暗色に変わるが、間に合わなかったようだ。

眼前の明るさに再び慣れだしたころ、二人の前には黄金に輝くスーツを身にまとって、頭にはどくろを模った黄金のハーフマスクで顔を覆った男が立っていた。右手にはこれも黄金色のスティックが握られ、

背にはやはり黄金色のマントが翻っている。

「バット・・」明がつぶやく。彼はミュータントで超能力者だった。空を飛び、熱光線を放射したり・・彼のステッキはあらゆるものを貫通する。明がバットに戦いを挑む。明の右手がバットの胸元をつかんだ瞬間、バットの左手が明の首筋をつかみ軽々と持ち上げ宙に放り投げた。地面に叩きつけられるがスーツのおかげで、痛みは感じない。

次に剛が挑戦するが、バットの口から噴き出した気体が剛の体にまとわりつき、自由を奪い、胸、腹、股間と次々に蛇に絡まれたように、剛の体を締め上げ始めた。彼を救おうとして、明はバットの背後にまわり強烈な羽交い絞め、チョークを食らわせるが、「ふふふ・・」と不敵な笑みを浮かべている。次の瞬間、バットのマントが急に明のガタイを覆い始めた。「しまった・・」一瞬の出来事で、腕や足、体躯など全てが赤いマントに覆われて身動きがとれず、なすすべもない。

マントはその後すぐに強烈な力で全身を締め付け始めた。その間も不敵な笑いを続けるバット。

しばらくして、マントがひらりとバットのガタイに戻ると、そこには明の体が地面にころがっている。剛の方も呪縛が解かれたが、そのままぴくりともしない。

一部始終を見ていた騎士団の男たちは一斉に二人のもとへ駆け寄って

ガタイをむさぼりはじめた。一人がナイフを取り出し、スーツを切り裂こうとするがまったく歯がたたない。傍観するバット。突然自らのステッキを明の尻から頭に向かってさーっと移動した。

今度は男たちが明を仰向けにひっくり返し、同じように明の股間から首に向かって滑らせる逞しい胸、腹と共に形のよい肉棒があらわとなった。剛も同じように処理され、残る男たちの餌食となっている。

巨大な大胸筋の上の丸い乳輪をもてあそび、舐めたりゆびでこねたり・・・二人の若いオスの体臭と汗のにおいに酔いしれているようだ。我慢の限界を超えた男の一人が明の胸から腹筋上に大量の液体を放出した。さっきから男たちの乱交を見ていたバットは自らのスーツの胴と股間を覆う黄金色のきわめて薄いビキニを脱いだ。そこには美しい輝きを放つ肉球と天を突き刺すような肉棒が。

バットが急に左腕を弧を描くように前に出すとゆっくりと明の体が横になったまま宙に浮かんだ。「殺すには惜しい男だ。」

いきなりバットは自分の肉棒を明の秘孔にさしこむやいなや、大量の体液を体内に放出した。しばらくして、抜いたあとの緩んだ明の秘孔からは体内に収容しきれないバットの体液が流れ出ていた。

儀式は終わった。黄金色のビキニを再び着用したバットは再び空中へ飛び去る。騎士団のおとこたちも去ってそこに残されたのは明と剛の、破れたスーツを半分身にまとうガタイが地面に転がっているだけだ。意識はない。生きているのかいるのかも死んでいるのかも定かでないのだが・・・。

 

 

デビルマンは地表のクレパスの隙間から勢いよく地上の世界に飛び出した。彼にとっては初めての探訪である。強烈な陽光を浴びながら大空を飛行するうちに、彼は自身の肉体に変化が起き始めていることに気付いた。

地底に住む人々は生まれながら、ありとあらゆるエネルギーを吸収しながら生きている。ごくわずかな光のエネルギーでさえ彼らは吸収し、蓄積し、必要なときはそれを一気に放出する能力を持っている。いわばエネルギーの塊のようなカラダである。

しかし、今のデビルマンを取り巻く地上の環境は異常なエネルギーの塊となって、彼を襲った。

「う、なんだ、俺の体が・・・張り裂けそうだ」

もともとエネルギー吸収を抑制する力は彼には備えられていない。効率よく吸収する体のメカニズムが、ここではあだとなっているのだ。そのときデビルマンの体の細胞に異変が起き始めた。猛烈な勢いで分裂を開始しだしたのである。みるみるうちに彼の躯体は巨大化し、10メートルを超える巨人と化し、そして変化が止まった。吸収と蓄積されるエネルギーバランスが均衡したのである。

再び自分のガタイのコントロール可能となったデビルマンはであるが、彼が空を飛行する間、太陽のエネルギーの蓄積が続く。

次第に彼はいままで経験したことのない、不思議な気分にとらわれ始めた。股間が異様にうずくのである。地底社会にいる間にはまったく関心のなかったカラダの部分である。我慢の限界に達した彼は唯一の着衣であるビキニを右にずらし、現れた巨大な急所を左手でわしづかみにした。激しい快感が彼を過り、彼の強大な肉体は空中でのけぞるように翼を下にしてアーチを描いた。自らの手から出る、強烈なパルス状の電撃が刺激となって、肉棒は累々と血管を露出し、彼の欲情は頂点に達した。その時肉棒の先から大量の液体が噴出し、カラダ全身から稲妻のようなビームが放出された。

しばらく呆然としていたが、大量のエネルギー放出が終わり我をとりもどした彼。

「そうだ、ゴッド様がおっしゃったことはこれなんだ。このままでは俺の肉体が持たないな。早く合体する相手を探さねば・・・」

デビルマンは再び地上に目を凝らしながら空を飛び続けた。

それを追う水蒸気の塊。しかし今のデビルマンには、それに気づく余裕は無かった。

しばらく飛翔するうちに二つの物体が地表に転がっていることに気付く。ゆっくり降下し、近くに着地。二体とも人間のようだがぴくりともしない。生命反応をサーチしてみるが一体から極めて弱いレベルで検知されるだけだ。もう一体は検知はされないが、まだそんなに時間は経過はしていないようだ。

そう、明と剛である。デビルマンが合体先として選んだのは明である。肉体の損傷ははげしいが、それだけの傷を受けてもまだ生命を維持している明。彼なら合体に伴って起きる肉体メカニズムの変化に耐えられる力があるだろう。

にしても、デビルマンはまだ10メートルを超える巨体のままである。彼は額についたアーチ型のリングから明の復活に必要なエネルギーを弱いビーム状にして放射した。スーツが破れ、半身裸体となった明はそのビームに包まれて自身のエネルギーレベルを回復し、損傷部分の修復が始まった。適度のエネルギー放出を終えてデビルマンはまた元のサイズに戻った。明の体の修復が終わったことを見届けて合体が始まった。ベルトを外しビキニを脱いで完全な裸体となったデビルマン。うつ伏せで横たわっている明の背後にまわり、背の上に座り両脇に腕を入れ立ち上がらせた。体を密着させたまま、彼の肉棒が明の秘孔を貫きどんどん体内に伸びていく。そしてその先からは高いエネルギーを持つデビルマンの体液が明の肉体の中に充満するまで、放出された。と並行してデビルマンの肉体は次第に薄らいでゆき、遂にはすっかり消失してしまった。明の体の中でデビルマンの肉体の細胞合成が始まる。そして、それが完了すると明はふらふらと立ち上がり、デビルマンが着用していたビキニを身に着け、ベルトを装着した。

そして右手で拳を作り天に突きだすように翳し、叫ぶ。

「デッビール」

雷鳴が轟き天からの鋭い雷のようなビームに包まれ彼の体は青いデビルマンの皮膚に変化したが、そこで再び気を失った。

次にデビルマンの後を追ってきた気体の塊が地表に到着した。それらが凝縮し、そこには一体の逞しい男が立っている。明を見つめる男。彼はデビルマンとの合体の一部始終を上空から見ていた。次に剛に視線を移し、じっくりと観察している。すでに呼吸も心臓の拍動もストップしている。

再び彼の体から噴き出る気体。彼は消え、一塊となった気体は剛の裸体を包み込む。そして気体はしばらくするとすべて剛の体に吸い込まれるように消えて行った。

不思議な光景であった。誰もそれを目撃するものもなく、当の二人も何事がおこったのか、知る由もないまま時間が過ぎて行った。

電磁バリアが消え、バイクからの緊急信号をようやく機動隊本部がキャッチできた

機動隊から救援の車両が到着した。降りて現場を把握しようとするが、周囲は重機によって破壊されたような有様で、そのなかに二人の男が横たわっている。

抱きかかえる隊員。裸体であるがほとんど外傷は見られない。二人とも意識を失っているが、呼吸も脈も正常である。

「不動、友田、しっかりするんだ・・・」隊長の声。他の隊員が意識を回復させるために弱いパルスで二人の頸部を刺激した。明が隊員に抱きかかえられてゆっくりと目を開けた。続けて剛も意識が戻り、ゆっくりと起き上ってきたが、まだ周りのこの状況を把握するのには二人には時間がかかりそうだった。

「いったいどうしたんだ・・」隊長の声が響く。

「いや俺にも・・私にもわかりません。ここで何が起こったか・・」

というか、なぜ自分達がここにいるのかさえ分からなかった。

完全にこの一時間のあいだに起きたことの記憶は失われていた。

「とりあえず、隊に戻って話を聞こう。ストレッチャー用意しろ!」

「大丈夫、歩けます」気丈に答える明と剛。実際、彼らにはある一時期の記憶を喪失していること以外には何も変化は感じていない。

ただ「警部補、体温が下がっておりますが、気分は悪くないですか」と,先ほど剛を抱き起した若い隊員はやや不思議そうに尋ねた。

友田の体は氷のように冷たかったのだ。

「いえ、大丈夫です。」無表情に答える剛。

「何か着るものはないか?」隊長が隊員に指示を出す。「予備のタイツはありますが、それでいいでしょうか?」二人は頷く。

「バイクはどうなっている?」

「エンジンは無事ですが、制御系は完全にやられてます。CPU内のメモリーやイオン制御系もNGです。」

「修理はできそうか?」

「ハードは大丈夫ですから、メモリーに書き戻せばOKです。すぐに修理を開始します。しかし、これほど外界からのウィルスに強固なセキュリティで守られているイオンエンジンがこのような事故に遭遇するのは、極めて不思議です。」

「ウィルスではないかもしれないな・・」と明がつぶやく。

バイクは2台とも救援車に積みこまれ、明と剛も同じ車に乗って、本部へ戻っていった。

医務室。最新鋭の診断機器に取り囲まれている明と剛。カラダにはいろいろなセンサーが装着されてモニターへと繋がれている。全身の精密なスキャンの結果は異常がなかった。

しかし、消された記憶は明と剛のアタマの脳波解析や海馬のスキャンによっても再構築できなかった。若い医務官が、見事な体躯をさらしている二人からセンサーを外しながら、下半身のうずきに耐えていた。

「不動巡査長、友田警部補、検査は終了です。お疲れ様でした。」

「結果はどうでしたか?」とやや心配そうな明。

「それが、まったく異常がありません。血液にも変化がないし、通常の勤務に直ぐに復帰できます。」

「で剛のほうは?」

「おなじく、異常ナシです。でも体温が低いのがただひとつ変った点です。ストレスのためかも知れません。」

それを聞いている剛は相変わらず、無表情である。

「おい剛、じゃない、友田警部補、聞いているのか?」

ふと我に帰ったように、あわてて、「あ、はい、異常なしです」と若干ちぐはぐな返事をする。

「では、スーツを着ていいですか?」と許可を得て二人は用意された真新しい隊員用のスーツを手にした。「あ、そうだ先生、俺の・・じゃない、私の尻を診てもらえませんか?」不意に明が切り出した。

「尻って??」余りにあけすけに言われた内容に若い医師はどぎまぎしている。

「いや、穴の方なんですが、どうもヘンな違和感あって・・」

そんな話しを何の恥じらいもなく話す明は1メートル90近い、筋骨隆々とした、まさに戦闘員である。対する若い医師はスリムで長身ではあるが、頭ひとつ及ばない。研究者タイプであるが、彼が現在の職場に就いたのも希望がかなってのことである。

全身のスキャンは済んでいるのでこれ以上調べる必要はないと思われたが、彼の明に対する欲望が昔の診察術を思い起こさせた。「じゃあ、そこのベッドにうつぶせに横になって・・」目の前で逞しい体躯が言われた通りの姿勢をとる。彼の鼓動はもうどうしようもないくらい高鳴っている。かろうじて、冷静を装い、右手に手袋をはめ、彼に近づく。裸の明からかすかな体臭が漂ってくる。爽やかな雄の匂いだ。すでに下半身は白衣を突き破りそうにいきりたっている。明の秘孔に人さし指を挿入。よく引き締まった明の尻の双丘が一瞬、かすかにひきつり、「うっ」と小さくうめく明。

 さらに挿入すると、さらさらとした液体に触れた。水のようでもないしペースト状でもない、不思議な感触だった。次の瞬間指先にぴりぴりとした電撃を感じ、慌てて指を抜くと、指先からは不思議な光が輝きながらパチパチと電気が放電していた。急いで手袋を外そうとするが手に密着してなかなか外れない。そのうち液体からの発光や放電が終わるとまったく跡形もなく、それらは消え去った。

「どうかしましたか?」狼狽する若い医官を見ていぶかしげに尋ねる明。

「あ、いやなんでもない、なんでもありません」しかし、動揺は隠せないようだ。

「・・・それじゃ、起きていいですか?」

「いい、いいです」

 二人の様子を見つめる剛。しかし、平然としている。まるで全てを悟っているかのようだ。明はベッドから降り、立ち上がる。彼の股間には半立ちになった雄が顔を出している。呆然とする医官の股間も濡れて見えるが、これは噴出した体液のせいかもしれない。

手際よく真新しい隊内用のスーツを着装する明と剛の二人。足先から、顔、頭を覆い完了。完全にボディーにフィットした彼らの雄姿を見て医務官はうっとりとしている。

「では次の任務に着任します。有り難うございました」と敬礼し二人は部屋を出て行った。医務官も答礼し見送った。

 しばらくして我に帰り自分の股間の異変に気付く医務官であったが、今体験した不思議な体験が脳裏をよぎり、恥じらいも忘れていた。

所属の部署に戻りながら明は剛にたずねた。「剛、お前は何か見てるんじゃないか、あの1時間の間に何がおこったのかを・・」

剛は何も答えなかった。そして、「不動巡査長、私は友田警部補だ、今後そう呼ぶことを上官として命令するっ!」

突然の剛の豹変に戸惑った明であるが、ここはひとまず自分の部署に戻ることとした。

そして数日が経過したある夜。 今夜は非番で、久しぶりの自由な時間である。

支給された股間をやっと覆う小さなアンダーだけを身につけ、ベッドの上に仰向けになって、両手を頭の後ろで組んで天井を見つめる。ゆったりとした時間が流れていく。

子供の頃、スーパーヒーローに憧れ、自分もあんな風に空を飛べたり熱光線を出したり銃弾をはね返したりとそんなことができる肉体を持ちたいと思っていた。

極め付きの肉体と類まれな運動能力で格闘技では向かうところ敵なしという戦績を残してきた明であるが、子供の頃の夢は夢のままであった。高性能の戦闘用スーツの着装で実戦では少しはヒーローらしさがあるのだが、やはり人間は人間である。そんな超人的な動きができるはずがない。

「ばかばかしい・・」と呟く。「それにしても、剛はどうしたんだろう」

この数日妙によそよそしい態度である。「いろいろ、あったからな」と勝手に納得し、そのまま眠りに落ちていった。

不思議な夢を見た。場所は地底界。長い回廊が続く。すれ違う人々はみんな彼に尊敬のまなざしを送る。わざとカラダに触れる者もいる。

しばらく歩いて鏡のような池のそばでしばらく足を休める。水面に映る姿は頭部にマスクを着け、隆々とした肉体を持つ凛々しい男、そうデビルマンであった。明が小さいころから心に描いていたスーパーヒーローそのものである。夢の中で彼はさまざまなな超能力を、これはこういうように使うんだということを、明に教えているかのようだ。

 翌朝目覚めた彼は、夢の意味をしばらく考えていた。しかし、その奇想天外なストーリーは、自分でもばかばかしくなり、いつものようにこの日の任務に就いた。

しかしその夜もあくる夜も見る夢は同じ、まるで明が早く真の姿に目覚めることを促しているかのようだ。

幼い頃の夢を具現化したものに過ぎないという思いから他に話すのをためらっていたが、意を決して再び医務室の扉を開けた。にこやかに笑みを浮かべて医務官は明を招き入れた。明の話を聞いて、「それじゃその記憶をイメージングしてみましょう。」と頭に装着するヘルメット状のセンサーをかぶって、明は再び頭の中で夢の筋道をたどりはじめた。モニター上にはその映像が鮮明に映し出されている。あの、池の前まで来ると突然、映像が切れてしまった。

「あれ、どうしたのかな・・」と医官はいろいろと調整を試みるが、やはり水面に己の姿を映す寸前で映像がストップしてしまう。「なにかここにセンシングを遮断するノイズがはいるようだ。」「こんどは、ノイズフィルタを通してみます。」しかし、結果は同じであった。

何かそこから先は他人が見てはいけないという、何か強い意思が働いてイメージングを妨げているようだ。

その時、急に剛がドアを開け、荒々しく入室してきた。「不動、なにをしている。」若い医官がいきさつを説明するが、聞くや色をなして「止めろ、デビ・・いや不動」と、無理に頭部のセンサーとはがしとろうとする。

「何をするんです。止めてください」医務官は阻止しようとするが聞かず、頭部に隙間なく密着しているヘルを力づくで外そうとする。脳細胞との交信中に無理に回路を切断することは脳に大きな損傷を与えることになり非常に危険である。急いで友田の後ろに回り羽交い絞めにして引き離そうとするが、明ほどではないにしても、剛は同じく屈強な戦闘員である。体力ではひ弱な医務官の立ち向かえる相手ではない。それに、彼らが着用しているスーツは表面の摩擦がほとんどないので、するすると滑って力の入れどころがないのだ。医官はあわてて、緊急停止装置を作動させて、機械は安全に停止した。友田によってヘルがはがしとられるのとほぼ同時,まさに間一髪である。

「友田警部補、君は同僚を極めて危険な状態にさらした。私は君を懲罰委員会で審判にかけることを上申する」医務官は激怒していた。同じ20代とはいえ、医務官は階級も高くプライドも高い。警察社会の中では上官の命に逆らったり、命令を無視して勝手な行動をとることは許されない。友田はややうなだれて視線を下に落とした。

しばし意識が朦朧としていた明であるがこのやりとりで、やや覚醒した。

「友田・・いったい、おまえ・・」剛は無言であった。

緊急停止装置が作動したことで、アラームを聞きつけた警備隊員らが駆けつけてきた。

医務官からの報告で直ちに友田はその場で両腕がロックされ、連行された。

急激なセンサーの遮断で不動はまだ夢と現実の間をさまよっている。さきほど、イメージングが止まった後の続きの映像が明の頭の中に写し出されている。やはり同じ超人が湖の水面に投影されている。そして、彼が振り向いて明に話しかける。「俺はお前だ。いつかお前は俺の力に気付く時がくる。その時を待つのだ」と。

その夜、独房に拘留されている剛は考え込んでいた。彼の今の立場をどのように話せば良いのかをずっと悩んでいる。外見は剛であるが、これは単に宿り木で、本体は別の人格であるということをどうすれば明に理解してもらえるかを。しかも、その人格は地底界でデビルマンに憧れを抱きつづけているオトコであると・・。

意を決した彼はすっと立ちあがり、両腕を頭に上でクロスさせると全身から気体が巻き上がり、それに包まれた彼の肉体は消えた。気体は空中を漂い明の部屋に侵入していった。

眠っている明。そのカラダの傍で気体は凝集し、再び剛の肉体が形成された。

「デビルマン・・」彼は呟く。明を見つめるうちに、無性に地底界での姿に戻りたくなり、彼のカラダの中心から変身が始まった。あっと言う間に精悍な裸体が出現した。全身は青みを帯びて透き通った氷のような筋肉で覆われている。

そのとき、明が気配を感じ目を開けた。昼間の出来事でまだ夢うつつの区別がはっきりできない状態である。慌ててもとの姿に戻る。

「剛・・じゃないか・・でも、どうしてここに・・」

「・・・・」

「なぜ、黙ってる?」

彼はこの数日、わずかに残った剛の記憶を再生し、じぶんの記憶として再構築することに腐心していた。その中で剛が心底、明を尊敬し彼らが深い友情で結ばれていることを知った。それは自分がデビルマンに抱く感情そのものであり、二組の男同士がくしくも同じ関係にある男同士で合体したことがわかったのである。

「先輩・・・俺は・・・本当に今日はすみませんでした。」

「どうしたんだ、急に」

「俺は先輩に話さなくてはならないことがあります」

「・・・?」

「あの日、俺達は・・・」

彼はあの日の出来事を正確に話し始めた。そして闘いの中で自分は息絶えたことも話すが明にとってはにわかに信じがたい話しだった。しかし、あの日以来続く不思議な体験がその話に真実味を持たせた。

「で、死んでしまったお前がどうしてここにいる?」

「それは、彼の肉体が俺によって置き換わったと考えるとわかりやすいと思います。」

「剛ではないということか?」

「外見はまったく剛のままです。」

「ふーん、一つ聞くがお前は俺達の敵かそれとも味方か?」

「味方であることは間違いありません、剛のままです。」

「俺のカラダはどうなってるんだ?」

「それは、先輩が自分の意思で目覚める時を待たねばなりません。」

「目覚める・・・とは?」

「それは言えませんが、今日俺があのようなことをしたのは、先輩が他の力を借りて自らを目覚めさせるのことは許されないからです。」

「・・・」「もう戻らねばなりません。」

「戻るってどこへ、だ」

「俺は今とらわれの身ですから」笑いながら剛は言う。

「そうだったな、でもそれでどうやって俺の部屋までやってこれたんだ」

「それは直ぐにわかります」

「???」

「先輩・・・俺は・・」

と言って剛は明を抱きしめた。剛はひんやりとした感触だったが明のほてった体にはいたって心地よかった。

「・・・うれしいです。」

そう言うと剛のカラダは再び気体となって独房へと帰っていった。

しばし、呆然と眺めている明であったが、まだ今のできごとが現実のこととしては受け入れられないようだ。

翌朝、真っ先に剛が拘留されている独房へと向かった。

剛は確かに拘留されていた。柵越しに面会すると相変わらず無表情な剛だった。昨夜のことを確かめに行ったのであるが、なんだかその気も失せ、その場を離れた。その足で隊長の執務室に出向き、彼の処分は寛大にやってほしいと嘆願した。隊長も同じ方向で動いている様子だった。

「ところで不動、来週には全国きっての武道の達人が集合するが、体調は大丈夫か?」

「大丈夫です。体力も回復しています。」

「そうか、3年連続制覇、期待してるぞ」

「了解です」

それは、年1回全国各地の精鋭たちが集まって戦闘力を競い合う異種間格闘技の大会である。レスラーは勿論だが、ボクサーも柔道家も空手家もそれぞれの格闘技の特色を生かして戦うのである。その大会で明は3年連続首位という輝かしい戦績を誇っている。

もちろん完全に相手をたたきのめすか、戦意をうしない自ら敗北を宣言するまで戦い続けるのだが、明の出場する試合では3分以内にはけりがついていた。

「剛は出れるでしょうか?」

「ちょっとむずかしいかも知れないが最大限、その方向で努力しよう」

「有り難うございます。」

剛はその後、日をおかずに、釈放され部隊に復帰した。

厳重注意処分がくだされたが、処分としては異例に軽い処分だった。

剛は明の大切な練習相手でもあった。お互い気心を知り尽くした練習のパートナーはそう簡単には見つけられない。二人は大会に備えて練習を開始した。彼らはレスラーとして出場するので、大会での着衣は腰を覆うとても薄い繊維でできた小さいサポーターと、足に完全にフィットするシューズをつけるだけである。ほとんど裸と言っていい状態で男同士が全身全霊で戦うのである。それは太古の昔のレスリングを彷彿させるのであるが、相手を打倒するまで徹底的に戦う姿はすざまじいエネルギーを周りに放出する。

練習での明の攻撃は本番と同じで激しいものあるが剛はそれによく耐えた。剛のアドバイスも的を得ており二人は本当に最良のコンビである。

強烈な打撃から跳躍、次にキックそしてグラウンドに持ち込み最後羽交い締めで相手をおとすという戦略であるが、彼のグラウンド技は誰も決して逃れることはできず、たいがいのオトコは失神し、救急室で治療を受けるはめになる。

「先輩、俺を徹底的にうちのめしてくれませんか?」

「えっ、しかし・・」

「いや、先輩の攻撃のツボは心得てますから、だいじょうぶです」

「・・・わかった、しかし、実戦でやるぞ、いいか」

「了解です」

二人は向き合い戦闘を開始するポーズをとった。明は1m90にも達する大男である。対する剛も明に比べれば身長こそ低いがそれでも1m80は超えている。二人とも大胸筋、腹筋、四肢の筋肉は極限まで発達し、人間というよりはまるでサイボーグである。

まず剛が明を襲う。明の体につかみ掛かる寸前、明の体は消えた。次の瞬間、剛のカラダは軽々と持ち上げられ宙に舞った。着地する寸前強い膝蹴りを腹に食いその後マットにたたきつけられる。強い痛みが彼の腹部に走るが果敢にも彼は立ちあがる。顔を上げ再び相対峙するが間髪を置かず、回し蹴りの連続が剛を襲う。ハイキックが頭部を直撃しマットに倒れる剛。瞬間明は人間とは思えない高さまで跳躍し空中で一回転し自らの体を剛に叩きつける。優に体重が100kgを超える衝撃は想像を絶する。

「うぐっ・・」うめき声を上げる剛。

明は剛の背後に回り頭部に太い腕を回し強烈に締め上げた。割れそうな痛みである。

ふらふら立ちあがる剛に目にも止まらない早さの首投げを食らわせる。マットは敷いているが、あまりに切れのいい技の連続で体の消耗は激しい。剛はしばらく起き上がることができない。

明は最後の決めわざとばかり首と股間に腕を入れ軽々と剛を持ち上げ頭上でバックブリーカーの体勢を取る。痛みに耐える剛であったが、急に明の力が止まった。そして剛をマット上におろして、彼のそばに立ったまま静かに見下ろしている。

「どうしたんです。先輩」

「・・・なぜ、反撃しない・・・」

確かに今日の剛は防戦にまわってばかりである。いつもと違う。

「先輩、いまの俺はすでに目覚めています。闘いの戦士となるにはもとの姿にもどらねばなりません」

「元の姿?」

「それは、先輩が目覚めたときにお見せできるでしょう」

「いったい目覚める、とはどういうことなんだ?」

「今は深い闇にとじこめられた、真の自分の姿を自分の意思で導き出すことです。」

「・・・・」

「そして、その時が近づいてきています」

明には言葉の意味がいまいち理解できなかった。

 

こちらは、明たちの所属する部隊から遠く離れた別の防衛隊。

ここでも、格闘技大会に出場する選手の選抜が行われている。

連続制覇の明を打倒するべく、部内でトーナメント形式で選手選考をおこなってきたが、最も有力視されてきた隊員は最終の選抜試合で複雑骨折で病院送りとなり、出場の望みは絶たれた。

部隊長は頭が痛い。

「これで、誰も出場させられないことになると、本部長からの訓示ではすまないなあ」

「ルール通りにいけば、失格となりましたが2位の佐々木ということになりますが」と副隊長。

「あの狂犬をか・・・部隊の恥さらしになるな」ため息をつく。

「トランキライザーの注射で一日くらいは、首に綱をつけた状態にはできますが。」

「いまあいつはどうしているんだ?」

「謹慎期間ですが、命令がでたことに怒り狂っています。危険防止のため、麻酔銃で眠らせて警備が独房に連れてゆき収容していますが」

「どうして、あんな奴がここに入隊してきたんだ・・・」

佐々木は明と同じく優れた肉体の持ち主で、運動能力も秀でている。

ただ、明と異なる点は理性のかけらも持ち合わせていない、ということか。すぐに激高し、そうなると誰も制止できず、止めに入った同僚に大怪我を負わせたり、追い詰めた犯人を半殺しにしてしまったりで暴行事件は枚挙にいとまがない。処分の回数も異常であるが、一応彼が怒り狂う状況になるまでの途中経過にはわずかながら理解できる部分もあるため、免職になることはなかった。

「しかし、佐々木には格闘技の心得はあるのか・・?」

「ええ・・まあ・・うちの隊員ですから・・ほとんど暴行に近いですが。」

「大会ルールがあるとは言え、目的は隊員の戦闘能力の向上だから資格がないわけではないが、危険すぎる・・」

「やはり当日トランキライザーを注射して出場させるということで」

「しかたがない。そうしよう」

 

数日後、全国の防衛隊の精鋭たちが、中央警察の体育館に終結した。

明と剛もその中に参加しているが、さすがに巨漢ぞろいの中にあっては目立たない。

今日は剛は参戦しないが、剛のセコンドとして一緒に付き添ってきた。

「先輩・・・」

「ん?」

「先輩は、強い恐怖や怒り、激しい憎しみの心を持ったことがありますか?」

「いや、それはあまりないな、入隊してからは常に平常心を保つようにコントロールされているから」

「そうですか・・人間にはそういう感情は必要ないのでしょうか?」

「そんなことはないが、俺達にとっては職務の遂行上邪魔になる。」

「私は地下社会で生きてきましたが、そのような感情は一部の人しか持つことができません。」

「ふーん、でもなぜそんなことを聞くんだ?」

「・・今日何が起こっても先輩は先輩であり続けて欲しいのです。」

「そりゃ、変わらんさ、で・・」

 ふと視線を剛に向けると、剛の目には涙が浮かんでいた。

「剛・・・」

「あ、すみません。さあ、さっさと着替えてウォーミングアップしないと・・」

更衣室に入るとそこは各地から終結した猛者たちが裸になって試合の準備をしている。

着衣は小さ目のサポーターとシューズだけだが、どちらも皮膚と密着させるための液体を塗って着用する。空気層ができると格段に密着性が落ちるのでたいてい二人一組で相手の股間や脚に塗りこんでいる。

別の選手控え室には、佐々木の姿があった。試合当日とあってややハイである。付き添いで同席している医務官がこれから注射をするところである。

「それはなんのクスリだ?」と問いかける。

「君の過剰な興奮を抑えるクスリだ」と医務官が答える。

「そんなものはいらねえよ」

「そんなわけにはいかない。これをやらないと、君は出場資格を失うぞ」

「先生は注射が好きかい?」

「ははは、他人の体にするのはな」

「じゃあ、たまには自分にやってみな」

突然彼は器具を持った医務官の手を握り、彼の反対側の腕に針を押し込み一気に液を流し込んだ。一瞬のできごとで、静止する時間もなかった。

「な、なにをする・・・」声を上げるが、強力な鎮静剤は直ぐに彼の体内を巡り、あっという間に深い眠りにおちた。腕から針を引き抜くと同時に監視役の上司がドアを開けてはいってきた。

「注射は終わったのか?」

「は、終わりました」と空のシリンジを差し出す。医務官は椅子の背もたれにカラダをゆだねて寝息をたてている。

「お前の付き添いで疲れておられるのだろう。そっとしておけ。」

「は、了解しました」

「注射のせいか、今日はやけに従順だな」

「ありがとうございます」にやりと笑う佐々木。

開会式に続き試合が開始された。格闘技大会とはいえ、各地の優秀な戦闘員達が実戦形式でやる闘いである。プロレスラーのような体格から柔道体形の裸の男達がぶつかり合い、肉体が砲弾となって相手のカラダを貫くような激しい武闘がくりひろげられている。

不動はAグループ、佐々木はBグループに属し、当初の下馬評通り二人は順当に勝ち進んで行った。ただ、不動の動きには極限まで練習を積んだ華麗さがあるが、対する佐々木は終始喧嘩暴行のたぐいで、勝利は手にするが、まわりの顰蹙をかっていた。

試合は終盤戦となり準決勝から決勝へ。

最後に対戦するのは、やはり不動と佐々木であった。これまでの試合では佐々木にとって相手の力量が満足なものではなかったのであるが、こんどは違う。

その頃控え室では、医務官がやっと眠りから目覚めた。時計を見てうろたえた。

「佐々木は?」

「試合中です。先生がおつかれの様子なので、お起こししませんでした。」

彼は慌てた。

「試合はどの辺まで進んでいる?」

「今、最終決戦ですよ。先生の注射のおかげで現在まで無事通過です。」

「対戦相手は誰だ?」

「不動です」

彼は血の気が引く思いだった。佐々木がターゲットにしているオトコである。

「大変だ。直ぐに試合を中止させなければ・・」

彼は上官に佐々木が今朝注射を受けていないことを話し、不動に対し敵意をあらわにした場合に抑制が効かなくなり、大変な事態になることを告げた。

しかし、最終の試合はすでに開始されていた。当初、両者互角の展開であったが、ハーフタイムを過ぎるあたりから、不動の正統的なわざに対し佐々木のチカラのみに頼る闘いはしだいに劣勢となり誰の目にも不動の勝利は明らかだった。ここ一発で決めようとばかりに、ハイジャンプし得意技の空中回転キックを浴びせようとした瞬間、彼の右足は相手のゴツい左手にガシッと握られ無理に折られ、同時に強烈な右手のパンチが明の股間を襲った。ビキニの特殊な繊維はかなり強い衝撃も吸収するのであるが、あまりに強い衝撃は繊維自体がばらばらに破壊されてしまうのでその後は本来の機能を失う。

そのまま、明はマット状に叩きつけられ、その激痛にうずくまっていたが、その間にエネルギーレベルが回復した佐々木は背後から首に腕を回し、容赦なく締め上げ、ボディシザーズの体勢で明の動きを完全に止めてしまった。意識を失う寸前に明から離れ、にやにやと笑いながら、明が立ち上がるのを待つ。意識が朦朧としているが何とか四つ這いの姿勢となるや、首をつかみ両手で軽々と持ち上げネックハンギングでいたぶった後そのまま空中で体を左右に振り放り投げ、明の背を自分の肩に乗せ股間と首を背後から締め上げ弓形状態で弓を引くように力を加え続ける。ボキボキと骨が崩れる音が聞こえるが、止めようとはしない。狂気の沙汰である。獣のまなざしで明という餌食をもてあそぶ、狂ったサイボーグのようだ。これ以上の試合続行は不可能と判断した警備員が二人を引き離そうとするが、片っ端から空中に放り投げたり壁にぶつけられたりで、気絶するものばかりである。

そのうち明の両足首をつかみ、明の体を空中に持ち上げてはマットに叩きつけるという荒業を繰り返し始めた。そのたびに、明の背と後頭部が鈍い音を立てる。医務官らは麻酔銃の用意をしてきたが、あまりに動作が早く不規則なためコンピュターロックによる照準固定ができないのだ。

周りが騒然とする中、一部始終を静かな目で見守っている男がいる。剛である。彼は明の変化が近いことをを予見していた。

アリーナでは戦慄の戦いが続いている。次に彼はマット外のコンクリート床に明を引きずって行った。そして同じように両足首を手にし、明を空中高くに持ち上げまさに固い床に叩きつけようとした瞬間、あたりは目を開けていられない鋭い閃光と「バーーーーーン」という耳をつんざく大音響が会場内に響き渡り、直後アリーナ内は暗転し換気装置も停止した。何がおきたのか誰にもわからない。数十秒後非常電源が不安定ながら作動し、あたりはやや明るさをとりもどしたが、状況を把握するには不十分だった。

「目覚めだ」剛は感動のあまり涙を流していた。彼はこの日を待ち焦がれていたのだ。すぐに駆け寄って祝福したいところであるが、現状はそれを許さない。

アリーナは騒然としている。通常電源が作動しアリーナは明るさを取り戻したがそこには佐々木の姿はなかった。明だけが何もなかったように、一人立っている。床にはところどころに煤のように真っ黒い物体が散乱していたが、誰もその正体がなんであったかを気に留めもしなかった。

直ちに明は精密検査を行ったが肉体には何の異常もない。いやあれだけの激しい衝撃を繰り返し受けて、キズ一つないことが異常なのだが。

しかし、これで格闘技選手たちの戦いは終わり、明が優勝、佐々木が所在不明なため失格、3位4位が繰り上がって入賞した。

表彰が終わり、剛が明のそばに駆け寄ってきた。

「先輩、おめでとうございます。」

「おお、剛、なにがなんだかわからんが・・・勝ったぞ」

「俺ははっきり見ていました。先輩の目覚めを」

「あれがお前の言っていた・・・目覚めなのか・・・」

この不思議な出来事は明の記憶にもはっきり焼き付いている。

自分の体に一瞬のうちにあらゆる空間からエネルギーが集積し、自分の体が全く別の肉体に変化したことを。そして、その肉体からは強烈な熱光線が放射され一瞬のうちに佐々木を燃やし尽くしたことも。

つまり彼は初めて自分が合体により超能力を持っていることを自分の意思として自覚し、それを初めて使用したのである。そして、この時が彼がデビルマンとして悪と戦う第一歩となったのだ。

 

選手たちの更衣室。試合の後ということで、リラックスした男たちの熱気と若いオスたちの体臭に満ちている。

大会の話にわいているが、大方の選手は佐々木憎しで憤懣をぶちまけている。

「あの野郎、格闘技なんて全然知らねーんじゃないか。ただ暴れまわってるだけじゃねーか。あんな奴、なんでここへ出場させるんだ」

「全くだ。あんな反則技の連続じゃあ、こっちはやってらんねーぜ」

「消えちまってせいせいしたぜ。優勝でもしようもんなら、俺が叩き殺してやってたぜ。」

「いやあ、あいつは、銃で撃たれても死なんぞ」

「で、あいつ一体どこへ消えちまたんだ」

そんなざわめきの中に不動が着替えのために入室してきた。

みんなの一斉に視線が不動に向けられた。

「不動隊員、おめでとうございます。」

知らず拍手が沸き起こる。

「ありがとうございます。」と、不動が答礼。試合中の彼の華麗な技とクリーンな戦いに賞賛の声が上がった

しかし、更衣室の中の隊員たちの目は不動のカラダにくぎ付けになっている。あれだけ激しい戦いを演じながら全く無キズなのである。

「ガタイ、大丈夫ですか?」一人が問うた。

「いや何も・・・大丈夫です。かわりはありません」と平静に答える。

「鋼鉄の肉体ですね」と茶化して言われると、少しはにかんだ。

 制服に着替えるため、身に着けていたビキニを脱いだ。通常、強靭なファウルカップを形成しているはずの前の部分は繊維の結合がずたずたに破壊され、単なる薄布に変化し佐々木のパンチの衝撃の物凄さを物語っていた。

その夜、優勝祝賀の小さな宴が持たれたが、明への賛辞の後は、もっぱらあの鋭い閃光と、大音響に関心が移った。全員が全く経験したことのない事態に対して何の見解も出てこず話題は自然とほかの話に変わっていった。

「後で俺の部屋に来てくれ」明が剛に言う。

「わかりました」剛はすぐに了解した。

祝賀会が終わり部屋に戻ると、明は今日の出来事を一人初めから、回想していた。

「どうして、あのタイミングで俺は目覚めたのだろう。それに俺の変身したあいつは一体誰なんだ?」

そこにドアをノックする音。剛が入室してきた。

「先輩、いやアモン様、今までのかずかずのご無礼をお許しください。」

不動にはなんのことだかさっぱり理解できない。

「アモン?、それはいったい誰なんだ」

「先輩の体を借りている地底界斬っての最も優れた勇者です。いつかの夢の中に現われた勇者です。」

そのとおりであった。今日明の肉体が変化して現れたのは、あの時の強靭な肉体を持ったまさにその男である。

「それで、彼はなぜ現れたんだ?」

「先輩、いや貴方がはじめて抱いた恐怖心が、変身をひきおこしたのです。必要に迫られたときには、直ぐに現れます。しかしアモン様はあなたが先輩の姿をしている限り、あなたのコントロール下にあります。」

「そうだったのか・・・、それであの時・・・。剛、いったいお前は何者なんだ。」

「アモン様はもうお忘れだと思われます。私のことなど・・・むかし、子供の頃を一緒に過ごした・・・」

「お前はドランゴ、そうドランゴだな・・・」

「覚えておいででしたか、光栄です」喜びを隠さず明に伝える。

「ドランゴ、なぜ私の前から姿を消した?」

「アモン様と私とでは身分が違いすぎます。成長するにつれ、私はアモン様とは同じ立場でないことを悟りました。」

「身分? 俺とお前は友達だろう?」

「アモン様は生まれながらにして、いろいろな超能力を自由にあやつれる最高位の地底人です。それにひきかえ私はたった一つの力しかない最下層の民なのです。」

「・・・」

「しかし、私はアモン様がゴッド様の親衛隊長として、また防衛隊で華々しい活躍をされていることをずっと誇りに思っておりました。」

彼は涙を流していた。

「なぜ泣いている?」

「アモン様、私がゴッド様から受けた命はアモン様を地上界で目覚めさせることです。それが実現した今私は、また地底社会へ戻らねばなりません。」

「地底界へ戻る?」

「そうです。お別れをせねばなりません・・・ただ私は・・ずっとアモン様が・・好きでした。」

「それは俺も同じだ。」

「ありがとうございます。ではお願いがあります。戻る前に一度私を抱いていただけないでしょうか?」

「・・・・・」

無言のまま、明はアモンに変身し、剛はドランゴに変身した。

「美しいカラダだ」アモンはドランゴに言った。ドランゴの体は青みを帯びて透きとおるような筋肉美である。

「アモン様こそ、素晴らしい肉体をお持ちです。私のようなものに・・」後は何を話せば良いかわからなくなった。

剛は感極まったように、アモンを抱きアモンもまたそれに答えた。二人の股間は膨らみ、お互いのものを摩擦するたびにさらに膨らんで、二人が唯一身に着けている小さなパンツからはみ出さんばかりである。

アモンはドランゴのビキニを引きずりおろし、ドランゴもまた、アモンのビキニをずらし、二人の巨大な肉棒が露わになった。ドランゴはアモンのそれにむさぼりつくように舐めはじめ、アモンは恍惚としている。アモンの硬度が極限に達したとき、ドランゴの向きを変えさせ、ドランゴの秘孔に己のモノをあてがい背後から強い力でドランゴを締め上げた。ドランゴは身動きができず、自分の体内にアモンの巨大な肉棒が侵入してくるのを感じた。

「ああっ、アモン様、すごくいい。たまらないです。」

アモンはゆっくりと前後に腰を振り、至上の快感を味わっていた。ドランゴは体内もひんやりとしており、熱いアモンのモノを冷却しながらことは進んだ。

「ああっ、もうだめです。俺はイキそうです。もう限界・・」

その瞬間ドランゴの体内に心地よい刺激が走り、前方に向かって大量の液体が噴出した。後方では秘孔からパチパチと放電しながら、ドランゴの体内に収容しきれないアモンの雄汁が流れ出している。

抱き合ったまま、二人は高揚感が通り過ぎるのを待った。

先に話始めたのはドランゴだった。

「アモン様、有り難うございました。これから私は地底へ戻ります。」名残惜しそうなドランゴである。

しかしアモンにはひとつ気がかりなことがある。

「お前の宿り木となっているこの青年はどうなるのだ?」

「・・・彼は、すでに息絶えております。私が彼の肉体から離れた瞬間に、彼はこの時空から消滅するでしょう。」

アモンはそれを聞き、心に何かやるせないものを感じた。

「ドランゴ、よく聞け。俺にとってお前がかけがえのない友であるように、この男も明とは強い絆で結ばれているのだ。剛を失うことは明にとって深い悲しみと絶望感をもたらすであろう。お前はここで剛を演じつづけなければならない。」

「しかし、それではゴッド様の命に背くことになります。私にはそれはできません」

「ゴッド様には俺から事情を話しておく。だから、しばらく帰るのは待て」「は、アモン様がそうおっしゃるなら・・」

二人は床のビキニを拾い上げ、再び着用した。

時をおかず、明の部屋の一角が非常にまばゆく光り出した。そしてその光がやや薄らいだ時、そこにゴッドが出現した。

跪くふたり。

「アモン、ドランゴ、ご苦労であった。アモンの合体が完了したことを嬉しく思う。アモンの目を通して私は地上界の全てを知った。想像以上に地上界はすさんでいる。この影響は遠からず、我々の地底界へ及ぶだろう。アモン、お前は地底界きっての勇者だ。お前の力はこの社会の悪と戦うには余りある。またお前が合体した明という青年は、心身ともにまれに見る非常に優れた男で正義感が強い。ただ明に希望を与え続けてきたのは、剛である。剛は聡明な青年で、肉体、技能も優れている。だから、ドランゴ、お前はアモンのそばにあって、アモンと共にこの地上界の悪と戦うのだ。

アモンよ、ドランゴはお前とは身分こそ違うが、優れた知恵をもっている。そして、決してお前を裏切ることのない清い心の持ち主だ。

それは剛と明についてもいえる。お互いを失うことのできない関係だ。

アモン、ドランゴ、お前達はここに残り正義のために戦ってくれ」

そう言い残すと輝きは薄れ、いつもの明の部屋の状態に戻った。

アモンは、ドランゴの方に目やった。俯いてはいるが、目に熱いものを感じているようだ。アモンはドランゴの肩に手をやりそっと引き寄せた。しばらく、熱い抱擁が続く。

 

 数日後、明と剛は久しぶりに白バイ乗務で市内から郊外の警邏に出た。彼らは、大会での功績を認められ、1階級ずつ昇級していた。明は巡査長に、剛は警部に。

前回暴行事件が発生してから3月が過ぎ、その間に隊内でも隊員の安全を保障するためのマニュアルができ、隊員はそれに沿った行動が求められるのだが、「そんなもの、守っていられるかい」というのが、明をはじめとする隊員たちの意見だ。やはり正義感の強い精鋭たちのことはある。

 前方に目をやると一人の男が二人の男に暴行をうけている。ヘルメットのサイトビューが自動的にTELEにかわり、その光景がぐんと近づいて見える。暴行を受けているのは地元警察の若い警官で、あとの二人は騎士団の連中であることがはっきり見て取れる。

「やめさせねば」と明が言う。

「ちょっと待ってください」と剛は左手を二人に向けた。鋭い閃光が剛の指先から放射され、瞬く間に二人は氷塊のなかにとじこめられた。

「ね、便利でしょう、先輩。俺は変身しなくてもこれが使えるんです。たったこれだけですが・・・」

と、やや得意げに話す剛。明は苦笑している。

警官に近づくと、彼はひどい暴行を受けていたことがわかった。

制服の上着ははがれ、シャツははだけ、ズボンやビキニも膝まで脱がされ局所は腫れ上がっていた。明はころがっている制帽を拾い上げて、彼の傍に置く。

後ろから明が抱き起し、声をかけると意識を取り戻した。

「もう大丈夫だ。いったいどうしたんだ?」

不動と友田が彼の憧れとしている国家警察の機動隊員であることが分かり、ホッとしたようだ。彼、沢木は不動に後ろから抱きかかえられたまま話し始めた。

 沢木はまだ18歳で今年地元警察に任官したばかりであった。幼い頃に両親を騎士団に殺され、養育施設で育てられたとのこと。正義感が強く迷わず警察官を志願した。しかし地元警察は腐敗がひどく、絶望感にさいなまれているという。しかしたとえそうであってもこの社会の悪と戦うことが自分の使命であると考え一人で戦っている、と。

地方警察はどこも資金難で、警察官の制服も仕方なく昔の制服をそのまま流用しているくらいである。また上層部が騎士団と通じていることが多く、中には騎士団から資金の供与を受けているところもある。組織自体の規律が崩壊の危機にさらされているのだ。

また氷に閉じ込められた二人は、この一帯の騎士団のごろつきで暴行や殺人を繰り返し、何度も逮捕されるのであるが、直ぐに釈放されてしまうとのこと。今日は彼らが車を襲い、民間人に暴行を働いているのを阻止しようとして、逆に自分が襲われてしまった、と悔しそうに話す。

隣の氷漬けの二人に目をやると、ともに巨体で全身に入れ墨をほった、いかにも悪人面した男たちだ。

「警部、こいつらをどうしますか?」

「う~ん、こんな奴らは・・」と友田は人差し指でパシッと氷塊を弾いた。と、突然氷に無数のひび割れができ、中の男もろともばらばらに砕け散り、あっという間に飛び散ってしまった。

沢木はあっけにとられて見ていた。彼はまだあどけなさの残る少年であった。

不動が制帽の土ぼこりを払いながら沢木に手渡し、言った。

「君の勇気と正義感は必ず報われる日が来る。だからけっして諦めてはいけない。」

彼は感動のあまり声が出ない。

「では、我々は帰任する。君はどうする?」

「パトロールのバイクで帰ります。あの、よかったらお名前を・・」

「こちらは友田警部、私は不動巡査長です。」

「えっ、あの不動さんですか!自分はあなたに憧れて・・・あなたのようになりたいと思って、この道を選んだのです」

「そうか、そいつは光栄だ。またいつか会おう」

明と剛は彼に敬礼をし、沢木もまた答礼をした。二人が去っていく後姿を見送って、今度は今の自分の姿に目をやった。そしてふっと何かを決意したかのように、バイクに飛び乗って自分の職場へと戻って行った。

彼は署に戻り、自分の直属の上司武田巡査長に先ほどの出来事を報告した。それを聞いた武田は一瞬色を失った。そして「今のことは、絶対誰にも口外するな」と言い、沢木も不審に思いつつ了解した。武田は署長への報告をためらった。なぜなら、署長は以前より騎士団との関係が取りざたされているような人物であったからだ。事実を署長が知れば直ぐに騎士団の知るところとなり、沢木への報復につながる。

自分を兄のようにしたう沢木を騎士団に売り渡すようなことはできない。彼はこの事実を自分の胸にしまっておこうと決心した。

 

 

 

ひと月が過ぎ、不動と友田にとっては久しぶりに巡ってきた非番の日である。季節は初夏を過ぎ、夏の暑さを感じる日が多くなった。

二人はミストルーム隣の更衣室で素っ裸になり、紫外線を完全に遮断するローションボトルをセットしスイッチを押した。狭いルーム内で二つの肉体が擦れ合うようにミストを浴びる。お互いの背にはまんべんなく塗りあうが、そのぬるっとした感触が性感をかきたてる。どちらからともなく、相手の肉棒をつかみ刺激する。剛は明の巨大な胸筋に両腕をまわし、明は剛の頭部に腕をからませ、お互いを引き寄せ、そして唇を近づける。明のほのかな匂いが剛につたわる。一気に唇を合わせ、舌をからませると二人は狭い空間で最高潮に達し体液を相手の体にとどまることなく噴射した。強烈なオスの匂いがするが、そんなことは気にもせず、二人ほそれを腹部に塗り付け、そのまま外出着に着替えて更衣室を後にした。

借りておいた4駆で向かった先は、美しい海に面した砂浜である。この時期、紫外線が極めて強く有害なためだれひとりビーチを散策するものなどいない。穢れのない真っ白な砂浜がゆるやかなアーチを描いている。

砂に4駆のタイヤ痕を作りながらビーチ中央までやってきて車から降り二人は肩を並べて砂の上に座った。まぶしい日差しである。紫外線の防御コーティングをしていなければすぐに全身がやけどをするくらいの強烈な日光が彼らを襲う。カラダの処理をしているとは言っても、長時間の滞在は無理である。

「剛、俺は今ここで変身できるか?」

「できますが、あまりにエネルギーが強すぎて直ちに巨大化してしまいます。」

「おまえはどうなんだ」

「私は、アモン様とは逆に光線を出す瞬間に相手の持つ様々なエネルギーを吸収するのです。ですから、あまり変化はありません」

「ならば、変身したお前の姿を見せてくれ」

「わかりました」

そう言って剛は砂の上に立ち上がった。両手を頭の上でクロスさせると体の中心からドランゴのカラダが出現した。強いひざしの中で見るドランゴは光り輝き、ひときわ美しい肉体であった。

「さあ、今度はアモン様の番です。」

「わかった」

明も立ち上がり、右手に拳を作り天に向けて力強く伸ばすと、晴天であるのにもかかわらず、突然目がくらむほどの閃光が走り、四方八方から拳に向かって稲妻が集積した、空には巨大な雷鳴が轟き、天変地異のような凄まじさであったが、それが終わるとそこには身長が10メートルにも達する巨大なアモンが出現していた。頭部には体と一体になったマスクを着け腰にはベルト、股間を覆うビキニを唯一身にまとい、両側の腕と下腿には皮膚から変化した鋭い刃がついている。それにしても、素晴らしい筋肉美である。どんなボディビルダーも及ばない全く無駄のない筋肉を持っている。

ドランゴは静かに見守っていたが、

「アモン様、昔よくやった遊びを覚えていますか?」

「・・・・」

「アモン様が私の技から抜けられるかどうかの・・・」

「覚えている。あのころは力は互角だったが・・」

「では、やってみます」

というや、ドランゴの体は宙に浮かび、クロスした両腕からは鋭い光がアモンの体に照射された。その瞬間彼の体は厚い氷に閉ざされた。

しかし、ほどなくパキパキと音がし、氷塊があっというまに崩れ、アモンの体はもとに戻った。

「さすがにアモンさまの力は強大です。こんなに簡単に破られるとは・・」

ドランゴは落胆というより、アモンの力に心底惚れ込んでいる。

「ドランゴ、しばらく空からのパトロールをしてみよう」

「お供いたします」

アモンは「ウィング」と叫ぶ。彼の背が割れ2枚の強靭で巨大な翼が現れ広がった。軽く跳躍し彼は空へ飛び立った。ドランゴは気体となってそれに続く。

天空での太陽からのエネルギーは強大である。いくら巨大化しているとはいえアモンのエネルギー蓄積能力には限界がある。彼はしだいに股間の疼きを感じ始めた。耐えがたくなって空中であお向けで弓なりの姿勢となり、手を股間に持っていきビキニの下からすでにはみ出さんばかりに膨隆している自分のモノを引き出し、刺激を始めた。

アモンの後を追うようについてきた気体は、しばらく様子をうかがっていたが、急に彼の股間を覆うように集まり、緩やかな流れとなって彼の股間を循環しはじめた。それはアモンにとって経験したことのない究極の快感であった。自然と彼の手は肉棒から離れ、肉棒はビキニに吸いこまれるように収納されたが循環していた気体は今度はビキニの中にもぐりこみ、秘孔から前部にかけてをゆっくりと流れるようになり、さすがのアモンも今まで味わったたことのない悦楽に浸っている。そして、それが頂点に達した時、彼の体から信じがたい量の体液が天空に向かって噴水のように吹き上げ空中できらきら輝きながら、ぱちぱちと放電し消えていった。

エネルギーの放出が終わった後、彼らは再び空中を飛びつづけ、地上の様子を探っていた。

ふと目にしたエリアに大勢の人が集まっている。そこは一月前沢木と出会った場所である。アモンは視力を拡大し、情況を把握した。それは、陰惨なリンチの現場だった。

暴行を受けているのは、沢木とその上司武田である。実は武田が胸にしまいこんだ出来事は、騎士団側に察知され、騎士団から署長へ突き上げで直ぐに関与した警官は知られてしまった。署長は武田が事実を報告しなかったことを厳しく叱責し処分が下されようとしてたが、騎士団側から「処分ならこちらでしますぜぃ」という脅迫があり、署長は自らの命乞いと引き換えに、二人を騎士団のシマとしているエリアに無理やりパトロールに就かせたのだった。

待ちうけていたのは、騎士団の戦闘部隊である。狂気の連中だ。

警察官とは言え、地方警察であるから、二人の身を守るものとして旧型のヘルメットと警棒くらいのものである。拳銃は銃弾の購入費節約で、携帯はしているものの使用はできない。せいぜい空砲で威嚇する程度である。

対する騎士団の戦闘部隊は赤い全身防御型のスーツを着用しており最新鋭のレーザーガンやスタンガンを携帯していた。地域住民にとってはある意味あてにならない地元警察の代用のようなところもあり、エリアによっては警察よりも頼りにされるが、ただ平均的には隊員の規律は劣悪で暴行や殺人は日常茶飯事に起きていた。

沢木と武田は制服は破れ、殆ど裸の状態でサンドバッグのように殴られ続けている。

アモンは地上にこの姿のまま降り立つことにはややためらいがあったが彼ら二人を見殺しにも出来ずその場に舞い降りた。2人対31人、そこにアモンとドランゴが助っ人のような形で闘いに加わったのだが、いくら騎士団の戦闘部隊とは言え、束になってもアモンの敵ではなかった。

突然の強大な戦士の参戦に仰天した隊員達は狼狽しいっせいにレーザーガンをアモンにむけて撃ったが、もともとそんな攻撃にはびくともしない肉体である。しかも彼にはそのような攻撃を跳ね返してしまう能力があり、レーザー光は全て発射した隊員に反射し、赤い隊員達のスーツの至る所にプスプスと穴があき、繊維が燃える臭いと肉が焦げる臭いが混ざり合ってひどい悪臭が周りにたちこめた。

結局アモンがなんの攻撃もくわえないまま、彼らは自滅した。突然一人の男が足をひきずりながらアモンの背後に迫っていった。手には鋭いサバイバルナイフが光っている。アモンは動じない。背中から突き刺そうとするが瞬間ナイフは青白く溶解し、地面に流れ落ちた。男はさらにアモンを羽交い絞めにしようとするが、アモンは無言のまま翼を広げた。翼のエッジは鋭い角度を持っており男の腕と脚はあっという間にばらばらに切り裂かれ、鈍い音を立てて地面に落下した。

終始、無言無表情のアモンは二人の男に目をやった。二人ともひどい傷を負っているが命には別条なさそうである。意識を回復した沢木と武田。傍に立って自分たちを覗き込んでいるアモンとドランゴを見て驚いた様子だったが、まわりに騎士団の隊員たちの死体が転がっているのをみて、敵ではないことを悟りホッと安どの色を浮かべた。

ハッと沢木が表情を変え一人の男の傍に足をひきずりながら歩いて行き、うつ伏せに倒れている男を仰向けにした。彼はうっすらと目を開けた。

「ヤマト、やっぱりヤマトじゃないかよう~・・。おまえ、なんで騎士団なんかに・・・」

「・・ケイくん、さっきは殴ったりしてごめんな。ケイくんだってことはすぐわかったんだ。でも僕は騎士団の中で生きてかなくちゃならなかったから。だから・・。」

「ヤマト、俺たちは小さい時からずっと一緒だったじゃないか。いつも一緒に遊んでるときも正義のために悪と戦うんだって言って・・なのになんで・・」

「ケイくん、僕はケイくんほど強くなかったんだ。だから、誘われてこんな道に入っちゃった・・・ばかだよね・・でも最後ケイくんに会えて・・・ほんとに・・良かった・・」

そう言って彼はガクッと肩を落とした。

「ヤマトーーー・・・」

彼は抱きかかえながら、わき目もはばからず、男泣きに泣いた。

その様子を3人の男が見ていた。感じ方は三者三様であったが、ひとしきりして武田が沢木を遺体から引き離した。武田と沢木は外傷がひどく乗ってきたバイクも叩き壊されていたため、ひとまず国家警察に連れてゆき治療をすることにした。アモンは二人を両脇に抱え空へ舞いあがる。すぐにドランゴも後を追う。

海岸に降り立ち二人を降ろして、アモンとドランゴはもとの姿に戻る前にアモンが二人の頭の前で手をかざし、沢木と武田の直近の記憶を抜き去った。

すでに潮が満ちてきており、タイヤのすぐそばまで波が寄せてきている。急いで4駆の後部座席に二人を乗せ不動たちも乗りこみエンジンを始動し4人は隊へ向かった。

警備隊員は部外者の立ち入りに難色を示していたが、不動が直接上官と折衝し許可が下りた。沢木と武田は一通りの検査と治療を受けその後国家警察の上層部から査問をうけることになった。地方警察の内情を暴露することに武田は最初ためらいがあったが、署長が部下を売ってしまうような今の状態が続くことよりはマシだと考え正確に実情を話し始めた。

 

数日後、地方警察の署長室では署長が騎士団のエリアの族長から激しい突き上げに合っていた。わずか二人の丸腰に近い警官に、騎士団の血気盛んな若い連中31人がやられてしまったのである。あり得ない話しであるが、族長は頭に血が昇っていた。

署長にはそこでどんな闘いが繰り広げられたのかを知る由もないが、せっかく騎士団の罠に加担して自分が送りこんだ二人が闘いで勝利してしまうなど考えられないし、また騎士団のふがいなさにもややあきれている。

「で、どうしろと?」

署長に問われ、返す言葉に一瞬つまったが、彼はさらに激高して

「俺がシバいてやる。あの二人をここへ引きずってこい」

族長が完全に冷静さを失っているのを見て署長は、

「二人はあの日以来戻ってやしませんぜ」と軽く受け流す。

族長といったって、まだ20代半ばで、署長から見れば子供のようなものだ。

「探すったって、金がかかるぜ・・」と露骨に金を要求する。

「いくらぐらいだ」族長はすぐにひっかかる。

「ん、まあこんなもんで・・」といって片手を広げて族長に示す。

「500万・・・」族長は絶句する。

「まあ、こんなもんで、この辺のシマを自由にできるんだから、安いもんだろ?それとも何かい?国家警察にでもチクッてあんたらをパクってもらうかい?」まるで恐喝である。

「わ、わかった・・・金はなんとかする。そのかわりあの二人をさっさと探してくれ。でないと、俺は八つ裂きにされちまうんだよう」

半泣きで懇願する族長に署長は「てめえらに軽くあしらわれるような俺じゃねえぜ。それに」

カラダにフィットした赤いスーツ姿の若い族長は、つっぱってはいるがみるからに自信なくうつむている。

「人にものを頼むときはよう・・」と、署長はゆっくり彼の前に歩み寄り椅子から引きずりおろし、倒れた彼を左手で軽々とネックハンギングし右手拳で彼の鳩尾に強烈なパンチを食らわせた。族長は数メートル飛ばされて床に背中を打ち付けた。

そして仰向けの彼の股間の膨らみを自分のブーツで踏みつけ、股間を蹴り上げる。激痛で股間を押えて床に丸く転がっている彼の臀部にピンと張ったタイツ状の薄いスーツを警棒で切り裂き、露わになった秘孔に警棒を力づくで差し込んだ。

「ぎゃー・・」と族長は悲鳴を上げる。激しい痛みが彼の下半身を襲う。

「へっ、あっかい派手なスーツ着てよう、このざまじゃあなあ・・。」署長は恐怖に顔をひきつらせている族長のそばで、制服のベルトをはずしズボンを下ろし、ボクサーをはぎ取るように脱いだ。

プロレスラーだと言っても誰も疑わないような体躯で、自身もそれにふさわしい極太である。

「もっと気持ち良くしてやるぜー」

署長は彼の両足首をつかみ、体を空中に持ち上げ秘孔に挿入しようとするが、族長はまだこのような行為は未体験でまだ固く十分な拡張もできない。署長は強引に挿入していく。族長の肛門が裂け血が飛び散る。それでもかまわず、署長はその長大な一物を完全に挿入し、両脚もったままをピストン運動を繰り返している。族長はあま

数日後、地方警察の署長室では署長が騎士団のエリアの族長から激しい突き上げに合っていた。わずか二人の丸腰に近い警官に、騎士団の血気盛んな若い連中31人がやられてしまったのである。あり得ない話しであるが、族長は頭に血が昇っていた。

署長にはそこでどんな闘いが繰り広げられたのかを知る由もないが、せっかく騎士団の罠に加担して自分が送りこんだ二人が闘いで勝利してしまうなど考えられないし、また騎士団のふがいなさにもややあきれている。

「で、どうしろと?」

署長に問われ、返す言葉に一瞬つまったが、彼はさらに激高して

「俺がシバいてやる。あの二人をここへ引きずってこい」

族長が完全に冷静さを失っているのを見て署長は、

「二人はあの日以来戻ってやしませんぜ」と軽く受け流す。

族長といったって、まだ20代半ばで、署長から見れば子供のようなものだ。

「探すったって、金がかかるぜ・・」と露骨に金を要求する。

「いくらぐらいだ」族長はすぐにひっかかる。

「ん、まあこんなもんで・・」といって片手を広げて族長に示す。

「500万・・・」族長は絶句する。

「まあ、こんなもんで、この辺のシマを自由にできるんだから、安いもんだろ?それとも何かい?国家警察にでもチクッてあんたらをパクってもらうかい?」まるで恐喝である。

「わ、わかった・・・金はなんとかする。そのかわりあの二人をさっさと探してくれ。でないと、俺は八つ裂きにされちまうんだよう」

半泣きで懇願する族長に署長は「てめえらに軽くあしらわれるような俺じゃねえぜ。それに」

カラダにフィットした赤いスーツ姿の若い族長は、つっぱってはいるがみるからに自信なくうつむている。

「人にものを頼むときはよう・・」と、署長はゆっくり彼の前に歩み寄り椅子から引きずりおろし、倒れた彼を左手で軽々とネックハンギングし右手拳で彼の鳩尾に強烈なパンチを食らわせた。族長は数メートル飛ばされて床に背中を打ち付けた。

そして仰向けの彼の股間の膨らみを自分のブーツで踏みつけ、股間を蹴り上げる。激痛で股間を押えて床に丸く転がっている彼の臀部にピンと張ったタイツ状の薄いスーツを警棒で切り裂き、露わになった秘孔に警棒を力づくで差し込んだ。

「ぎゃー・・」と族長は悲鳴を上げる。激しい痛みが彼の下半身を襲う。

「へっ、あっかい派手なスーツ着てよう、このざまじゃあなあ・・。」署長は恐怖に顔をひきつらせている族長のそばで、制服のベルトをはずしズボンを下ろし、ボクサーをはぎ取るように脱いだ。

プロレスラーだと言っても誰も疑わないような体躯で、自身もそれにふさわしい極太である。

「もっと気持ち良くしてやるぜー」

署長は彼の両足首をつかみ、体を空中に持ち上げ秘孔に挿入しようとするが、族長はまだこのような行為は未体験でまだ固く十分な拡張もできない。署長は強引に挿入していく。族長の肛門が裂け血が飛び散る。それでもかまわず、署長はその長大な一物を完全に挿入し、両脚もったままをピストン運動を繰り返している。族長はあまりの激痛にほとんど失神状態であるが、まだ止まる気配はない。

そのうち、最高潮に達したとき、署長は大声をあげて、彼の体内に多量の体液を噴射した。直腸だけではおさまらずさらに上部にも体液は上がって行ったが、署長がヌボッと引き抜くとねっとりと彼の体外に流れ出た。署長は彼を放り投げるように床に転がし、尻を思い切り足蹴にした。床の彼の姿勢は若干変わったがそれ以外の体の動きはなく完全に気絶しているようだった。

「へっ、大したことない奴・・」ペッと唾を浴びせ、また自分の制服のズボンを穿き始めた。

部下を呼んで、「こいつを、拘置室へでも放り込んどけ」と命令し、署員は両脇を抱えて、引きずるようにして、署内の拘置室へ投げこみ鍵をかけた。

騎士団に族長が拘留されたことが伝わったが、隊員の武闘メンバーはこの前の戦いで全員亡くなり、残ったのはさらにその下のベースメンバーばかりである。まだ16歳、17歳くらいの彼らがこんな事態にどう対処したらいいのかわかるはずもない。とにかく、族長を返してもらわないと活動が止まってしまう。

そこで代表を選び、騎士団内の金をかき集めて保釈金を作ろうとするが、そんな大金が直ぐに集まるわけもなく、代表はなけなしの金を持って署長との直談判におもむいた。署長は相手があまりに幼い少年であることにいささか拍子抜けした様子であった。彼もまた赤の全身タイツ様のスーツを着用しているがほっそりとした体付きでひ弱である。面会はしたものの、持参した金額があまりに少ない額であったため、大声で少年を罵倒し怒鳴り散らした。そして族長のときと同じように片手で首を持ってつるし上げ壁に何度もたたきつけた。少年はがくがくと震えながら「すみません、すみません、金は何とかしますから、リーダーと会わせてください。」と懇願する。「ばかやろう、あいつは人質だ。会いたけりゃさっさと金を用意するんだな。」と逆に突き上げをくらう。

その時である。署員が血相変えて、ノックもせず署長室へ入ってきた。

「署長、国家警察です。」一瞬にして、署長の顔色が変わる。

と同時に国家警察の大勢の機動隊員が署長室になだれ込んできた。

「なんか、ご用ですかい?」

署長はしらを切り、努めて平静を装った。

「署長、君を、暴行、監禁、恐喝、収賄その他諸々の容疑で逮捕する」

「へえ、何の証拠があって?」とあくまでもしらを切り通す署長。

「証拠はこれだ」と机の上に置かれた金を指し示す。

ふと壁側に目をやると、先ほどの騎士団の少年がわなわなと震えている。頭部を覆うマスクは破れ頭から出血していた。

彼は今までの一部始終を話し、「リーダーを・・・・リーダーを助けてください」と隊長に頼んだ。署員に案内させ、拘置室に向かう。

そこでリーダーは食事も与えられず、やつれ、全身を覆うタイツもぼろぼろに引き裂かれていた。カラダの各所に深いキズがあり、拷問を受けていたことは明らかである。

「リーダー、すみません、俺たちがもっと早く行動を起こせば・・」

とメンバーの少年は涙を流しながら詫びている。族長は薄く目を開けて彼を見て、何も言わずまた目を閉じた。救出されたことに安堵の表情を見せた。

地方警察の署長と族長はそのまま国家警察に連行され族長は部隊の中で治療することになった。署長には厳しい処分が下され、裁判により重い処罰を受けた。この地方警察は取り潰しとなり、このエリアは国家警察の直轄となったが、一方の騎士団はリーダーや主要なメンバーがいなくなったこともあり、少年たちは更生の道を選び、このエリアから消えていった。

 部隊内体育室。明と剛はレスリングの訓練中である。それを沢木と武田が見学している。レスリングと言っても武器を持って挑んでくる相手を本当に倒すための格闘技、護身術であるからルールはない。彼らの訓練スタイルも実践さながらで、生きるか死ぬかの激しさである。剛は明の体を何とか捉えようとするが明の瞬発的な動きに追随できない。急に背後に回って首を絞められると完全に気道がつぶされ呼吸ができない。次の瞬間今度は正面よりベアハグで背骨が割れていく音が聞こえる。股間に片腕を入れそのまま上に持ち上げられ天井近いところから両脚をもって叩き落したり、激しい回し蹴りを数回連続して浴びせるなど人間の技とは思えない動きである。いつもは相手がギブアップしたところで試合終了であるが、今日は練習だから10分で区切りをつける。

「次、沢木」と不動はコールする。沢木はまだ格闘技経験はない。

「沢木、人間に勝負を挑むときは攻める順序を考えるんだ。やみくもにかかって行ってもかわされる。相手の弱点を考えろ。とりあえず今日は俺の体を使って、攻撃をしかけたら相手がどんな反撃をするのかをアタマにたたきこめ」

不動と沢木は身長差が20㎝ほどあり、通常の練習は無理であるが、初心者ということで胸を貸すことにした。沢木にしてみれば目の前に憧れの不動がいて、ほとんど裸で格闘技の手ほどきをしてくれるのだ。なんとか、期待をそこなわないように挑むがさっとかわされてばかりである。

「一定の距離を置いた状態から、隙を与えることなく短時間で相手と密着した状態に持っていくのが制圧する基本だ。」

不動は手本を見せる。体重が100キロ近い不動が極めて俊敏にさっと体を移動し沢木の背後にまわり沢木を羽交い絞めにして、

「ここから、どうするかだ」

と相手の戦意を喪失させるための技を一つ一つ、軽くかけて体験させ指導していく。

「じゃ、苦しいかもしれないが実戦形式でやる。耐えるんだ」と実際の戦いでどんな威力があるかをわかるように、実戦形式での練習が始まった。はじめてであるから、沢木は攻撃をどうかわすかに重点をおいた。

対戦が始まった瞬間明の体は沢木の前にはなく、背後より強烈な羽交い締めで腕と首が全く動かすことができなくなった。そのまま前に倒され背後より不動の右腕が頭部に回る。

「すこし、我慢しろ」

と、右腕が頭を取り巻くようにして強い力で頭部を締め上げていく。目の前に火花が散り、アタマに激痛が走る。しかし、彼は耐える。意識が遠のきかけたころ今度は不動の巨大な胸が背中を覆い両腕は胸に回ってチョーク状態となり、呼吸ができなくなった。もうフラフラであるが、なんとか耐える沢木。最後は両腕を背後に回され手錠でロックという段取りだ。

「わかったか、沢木。戦いというものは自分にできるだけ危害が加わらないようにして相手を制圧することだ。それを常に念頭において戦うのだ。では、次,武田巡査長」

「今度は敵と相対峙したときだ。正面どうしで、間隔を保てず、しかもターゲットが武器を持っている場合を想定しよう。さあ、どうやって確保するかだ?友田警部、犯人役で武田と向き合ってもらえますか?」

 

「了解、それじゃ・・」と模擬ナイフを取り出し、これから武田を襲うという態勢をとる。しかし、受けて立つ武田はすばやく身をかわしナイフを手から叩き落し、すかさず友田の手をつかんで回転させ、地面に叩きつける。見事に犯人役の友田を制した。

これには、不動も友田も感服し賞賛した。

武田は「我々は高機能な武器を携行できず、身を守るのは自分のカラダだけであるという精神の元で任官して以来、ずっと訓練を受けてきました。だからこの様な場面の護身は自然と身についているんです。」と謙虚に話すが、沢木の前で二人に賞賛されたことで面目が立った。そしてこれは日本古来からの合気道をベースにした逮捕術で、さまざまな技が考案されていることも武田は話した。「ただ、近頃のように凶悪化した犯罪には無力です。遠くからレーザー銃で狙われたらひとたまりもありません」

確かに不動たちの着用しているスーツは銃やレーザーでは貫通しないし、強い衝撃に対してもそれを緩和する機能を持っている。それに引き換え武田や沢木の制服はいかにも時代遅れで身を守るための機能はまったくと言っていいくらい無い。素手で武装した悪人と戦っているのである。

しかし不動には武田がなぜ自分の命を投げ出してまで闘おうとするのかが理解できない。彼らはまず自分の身の安全を確保した上での攻撃という視点で訓練教育をされてきたからだ。

「私と沢木が任官したのは、やはりこの悪に満ちた社会を少しでも変えたい、良くしたいという気持ちからです。今の世は殺伐としていますが、やはり世界には正義と言うものが必要です。人の心が忘れかけている悪に立ち向かう心を取り戻すまではたとえ一人になっても私は闘います。」

今の、武田の話しを聞いて不動と友打は強く感銘を受けた。考えてみれば彼らは地方警察が処理した後の楽な実況検分や、大きな事件では装甲車や重装備で現地に向かい、当然のことながら相手は制圧される、それを功績としていたようなものだ。それであるのに、こつこつと事件を解決する地方警察を見下したような今の制度に自分達は乗っているだけである。逆に、そのような下部組織であっても実に前向きに職を全うしようとする若い警察官がいるということは非常に頼もしいことに思えた。

ただ、武田は苦悩していた。腐りきっていたとは言え、自分の職場が自分の証言により取り潰しとなり、職を失ったこと。沢木の今後も考えねばならないし、また回りの同僚が失職しているのに、自分達だけが国家警察にお世話になっていることもわだかまりがある。今やここに留まる理由はなにもないのだが、さりとて新しい職にありつけるかどうかが気がかりである。

さらにもうひとつ武田には時々体験する不思議な現象があった。これは、誰にも言えない秘密なのであるが、彼は起きているときは悪を憎み正義を貫く高邁な精神を持った警察官である。しかし、ひとたび眠りにつくと夢に現われる人物は邪悪な髑髏の仮面をつけ全身が黄金色に輝き、国家警察の隊員たちを超能力で翻弄する悪の権化なのである。最初の頃は、自分の深層心理に流れる国家警察への妬みがそんな夢を見させるのかと思っていた。しかし、自分は地方警察と言う職場が気に入っていたし特に国家警察への嫉妬心もなかったので、多分幼い頃見た劇画などの思い出が夢の中で再現されてくるのだろうと考えていた。

しかしある時、夢の中でその怪人が暴れまわった場所に出動命令が出て現地に赴くとそこは夢と寸分違わない状況であった。息も絶え絶えの隊員達の話から、ターゲットは自分の夢の中の怪人そのものであることがわかった。

彼は驚いたが、その後次々に起こる不可思議な現象は、まさしく彼の夢の中のできごとそのものであった。国家警察は秘密にしていたが、その怪人のコードをバットと名付けその対応に苦慮しているようだ。

「武田巡査長、今度は私と実戦でやりませんか?」

不意に不動が呼びかけた。武田はすぐに快諾して二人の戦いが始まった。明は攻撃の手をゆるめないが、防戦にまわる武田もうまくかわしている。しかし、一瞬の隙をついて不動が武田の体を捉え、背後にまわり羽交い絞めに持ち込もうとした時、不動には不思議な記憶がよみがえった。

「この匂い・・・」それは汗にまみれた武田の体からのものであったが、それには不動がいつか分からないが戦いにまみえた相手の匂いと同一であった。「武田との対戦は初めてのはずだか・・」若干の戸惑いを見せる不動。その隙を突いて武田は不動の体から離れ、間髪をおかず不動の鳩尾に鋭い回し蹴りを見舞った。その場に倒れこむ不動。しかし不動も持ち前の回復力の早さで態勢を立てなおし、その場で空中にジャンプし1回転後、武田の顔面に強烈なキックを浴びせた。後ろに倒れこみ後頭部を打ち一瞬意識が朦朧とした武田を後ろから左腕で首を締め上げ、右腕でそれをロックし最後は不動の勝利となった。

「いやあ、やっぱり不動巡査長は強い。完敗です。」武田はサバサバとした表情で率直に言う。

「武田巡査長も相当な戦闘能力をもっておられます。ぜひ、我々にその技を伝授していただきたい。」と、お世辞ではなく本当に武田の実力を評価している。実際武田の行動パターンには不動にも読めない神秘的なものがあった。力で抑えこむのではなくあの極めて俊敏かつ超人的な動きで相手を制圧する手法は誰も経験したことがなかった。

「有難うございます。努力いたします」

実は武田には暗い過去ががあった。彼の祖父は日本古来からの数々の武道を自在にあやつる高名な武闘家であった。彼を師範として教えを乞うものには差別なく技を伝授したがひときわ自分の息子、すなわち武田の父に対しての指導は厳しかった。父はその厳しさに耐えられず、家を飛び出しやくざな世界へと入って行った。そんな中でその筋の女と結ばれ子供をもうけたが、ちょうどその当時は各地で地元やくざと騎士団との抗争事件が勃発しており父はそれに巻き込まれ亡くなった。子供の養育に困った母はかねて聞いていた祖父の元に子すなわち武田を託し姿を消した。祖父はこのような事態になったことについては自分に責任があるとして、自分の孫を育てる決心をし、祖母とともに手塩にかけて育てた。直系であるから格闘技の手ほどきもおこなうと、子供のころから祖父が驚くほど上達が早く中学生ですでに師範として立派に指導ができる力量を携えていた。高校生では数々の選手権で優勝するような力量を持っており、祖父はこのままここで自分の後継ぎとなって後輩の指導者となることを望んでいたが、武田の持ち前の正義感はやはり悪と実際に対峙して正しい社会をつくる、社会の役に立つ仕事をするという決意となり、地方警察に入ることとなった。それについて祖父は反対はしなかった。

武田は武勇も優れ、清らかな心と思いやりを持っておりだれからも信頼されている男である。しかし、彼の心の中には騎士団に対する激しい憎しみがある。父を殺されたという思いがあるからだが、しかし彼の心の中にはもう一つ、彼自身も気づいていないベールに隠された闇があった。

1か月後、武田はいろいろ考えた末、隊長の元へ出向き自分は隊を去ることにしましたと告げた。隊長は慰留したが彼の決意は変わらなかった。

「お願いがあります。沢木のことですが、もしできるのであれば彼をこのままここにおいていただけないでしょうか? 彼はまだ18歳です。技能はまだまだこれからですが、非常に強い正義感と闘争心を持っています。ここで鍛え上げれば、立派な隊員に成長するはずです。」

隊長の決済により、このことは了承された。

「ところで武田、君はここを出て何をするつもりだ?」と隊長が問うと一瞬返事につまるが、「祖父の元へ帰って武道の指導に当たります。」とその場をとりつくろう。しかし実は武田が地方警察に入職して間もなく祖父は亡くなり、道場も閉鎖されていた。

不動と友田は武田が隊を去るということを知って、ひどく残念に思った。しかし、今更留まるように声をかけることもできず、せめて最後の晩に沢木を含めた4人で会を持とうということになった。

そこで、初めて武田は自分の身の上をあかしたが、それを聞きながら沢木は途中で泣き出してしまった。何か自分の身の上と重なるものを感じたのだろう。

ただ、職を失ってしまうということには3人とも気の毒に思えた。

友田は「人間には善と悪の二面性があって、双方がうまくバランスを取りながら生きている。そしてそれをうまくコントロールしているのが理性であるが、それは生活や心の安寧があってこそはじめて成り立つのじゃないか。」と話す。職を失っても武田の倫理観が変わらないか友田には一抹の不安あった。

「いえそんなことはありません。私はどんな境遇にあっても自分が正しいと思える道を選びます。邪悪な心など芽生えるはずがありません。」と即座に反論する。それ以上友田も彼に口をさしはさむことはしなかった。

友田は、いやドランゴは極めて聡明なオトコであった。彼は相手を一瞬で冷凍させてしまうだけでなく、その氷のような目で冷徹に相手の心を読み取ることができる。武田の心を分析しながら、彼には読み取ることができない閉ざされた空間が武田の心の一角に存在することが分かった。なぜその部分の解析ができないのかドランゴにはわからなかったが、何か大きな力でブロックされているようであった。

翌日、武田は隊を後にした。不動と沢木は武田の新しい出発を祝福しているが、友田には一抹の不安が残った。不動が友田のその心情を見逃すはずがなかった。

「警部、どうかされたのですか?」

沢木巡査が同席しているので、不動は敬語で話す。

「いや、なんでもないのだが・・沢木巡査、武田さんに最近変わったことはなかったか?」

「は、異変と言えるかどうかわかりませんが、最近夢にうなされておられるようでした。以前は苦しんでおられるようでしたが、最近は勝利の雄叫びというか、内容がすこし変化してきたような気がしておりました。」

「その中で、彼は具体的な名前とか場所とかを口にすることはなかったか?」

「バット・・だったか、なにかそのようなことを口にされていました。」

「沢木巡査、君はその夢の内容について武田に聞いたことはあるか?」

「一度だけありますが、その時はさっと顔色が変わり、何も言われませんでした。」

「そうか、わかった。ありがとう」

友田は不動と顔を合わせた。

「沢木巡査、君はもう通常任務に戻れ。」

「了解です。」沢木が退室したあと、不動が友田に問いかける。

「警部、いや剛、何か不審な点でもあるのか?」

「アモン様、まだ確信は持てないのですが、武田には私に見通せない心の闇があります。そしてそれはなにか大きな力によって隠蔽されている・・・そして今の沢木巡査からの話から、その力は日増しに武田巡査を支配しつつあるように思えます。」

「ドランゴ、常にお前の判断は冷徹で正しいものだ。その闇とは邪悪なものか?」

「残念ながら、さように思われます。そして、近いうちに大きな敵として我々の前に立ちはだかる・・・そのような予感がいたします。」

「先ほど、沢木はバットと言っていたが、我々のターゲット、バットと関連があるだろうか?」

「それはわかりませんが、その可能性があります。それと・・」

「それと、何だ」

「あ、いやこれはなんでもありません」

「ふーん、それにしてもこれは大変なことになったな。早急に武田を連れ戻さねば・・」

しかし、もはや武田の行方はよよとして分からなかった。

時は過ぎ1年が経過した。明と剛が定時のパトロールから帰隊し報告のため隊本部に向かっているところである。

「いやあ、今日は騎士団の連中が多かったな。またどっかから集結しているようだから、警戒がいるな。」と明。

「そうっすね、でも俺たちの姿、見たとたんにクモの子散らすように逃げて行ったからまだ雑魚クラスかな」剛も話を合わせる。

「まあ今のうちに摘み取っておかないとな」

「そうですね」

ちょうど前方より沢木がこちらに向かってくる姿が見えた。二人を見つけて急いで駆け寄ってくる。

「お疲れ様です。これから、体育室へいくところです。」

「おお、練習か。お前もだいぶ腕を磨いたな。そう言えば段位の検定、もうすぐだな」と明。

「そうです。段位が上がって入隊の許可が下りたら是非、警部や巡査長と一緒の任務につきたいです。」

「不動巡査長、この後の予定は?」と剛。

「警らレポートを作成しその後は非番となりますが」

「じゃ、これから沢木に訓練の相手をしてやって下さい。」

「え、じゃレポートは・・・?」

「私が提出しておくから、大丈夫です。」

「了解。じゃ沢木、これからみっちり2時間だ」

「ありがとうございます。」

沢木は明に練習をつけてもらえるのが至福の時間である。

明の指導は非常に厳しいが実戦に即した戦い方を伝授してもらえるし、それに明の体に触れることができるということに、彼は幸福感を感じるのである。

二人は更衣室にはいった。格闘技用の練習衣に着かえるため、明は着ているスーツを脱いで壁のフックに掛け、裸で自分のロッカーを開けに行った。沢木はそこで強い劣情に襲われ、思わず明のスーツ

を手に取り、自分の顔に押し当てた。さわやかな男のにおい、汗の匂いが彼の心を陶酔させた。スーツ表面の特殊加工されたさらさらした感触と、内側の皮膚へのフィット感がしばし時間を忘れさせた。

さっと後方から手が伸びスーツが持ち去られた。そこにはすでに着かえが終わった明が立っていた。着かえと言っても、小さなプロレスのショートタイツ様のビキニと、シューズをつけた、ほとんど裸の明であったが。

「沢木、お前がこのスーツを着るのはもうちょっと先だな」

と何もなかったように明が話しかけた。沢木は赤面しているが、明は全く意に介せずといったところである。

「練習衣は?」

「いえ、俺、いや私はまだ支給がありませんから、普通のシャツとパンツでやっています。」

「じゃ、俺のを貸すからこっちで」と自分のロッカーの方に連れてゆき、同じショートタイツとシューズを手渡し、ロッカーの空いた隙間へ自分のスーツを押しこんだ。

沢木は空いているロッカーに制服をきちんとたたんで入れ、下着もぬいで全裸となって明から渡されたタイツを穿いた。若干汗のじわっとした感触があったが、それはかえって沢木を奮い立たせた。シューズは明と足のサイズが同じなのでぴったりフィットした。

「今日は武器を持った敵が襲ってきた時、どうかわしその後にどのように敵を拘束するかだ。その辺の実戦訓練を行う。」

まず敵を沢木が演じる。ナイフを持ってやみくもに明に突進するが、直ぐにナイフは叩き落され脚払いを食ってまえのめりに転倒し、両腕をとられロックされた。

「そんな単純な敵はいない。これが実戦での闘い方だ。」と明は言って、ナイフを取り上げ、沢木と向かい合う。お互いにらみ合い、じわじわと距離を縮めてゆく。突然明が前進しナイフを沢木の顔に向けて突き出す。沢木はとっさに右にかわすが、瞬間左半身が無防備になっていた。すかさず左腕を明の腕が捉えバックから首も固められた。容赦無く、両側の頚動脈が締め上げられ沢木は気が遠くなっていった。

後ろからドンと衝撃を受け、沢木は意識を取り戻した。

「気がついたか、沢木。お前の攻撃力、防衛力ではまだ実戦では使い物にならない。攻撃を受けるときは敵がどんな心理状態で襲ってくるかを考えろ。単純な敵は相手にするほどのものではない。しかし、緻密な行動心理をベースに向かってくる敵には、こちらの心理を読まれないように注意する必要がある。特に一人対集団の場合はどのような順序で相手が闘いを挑んでくるのかを読み取ることが大事だ。無心となって周囲の気配に集中する。心の眼を開き前後左右の敵の動きを察知し無駄な動きをできるだけ抑えるようにする。そうして一人ずつ確実に倒してゆくのだ。そして、たおした相手の傍には決して近づいてはいけない。必ず5mの間隔を保つようにすることを忘れるな。」

その後、明は戦闘での個別の格闘について毎日丁寧に指導していった。厳しい指導であったが、沢木はよくマスターし訓練の苦しみにも耐えた。そしていよいよ、明日は昇段検定試験である。

「明日はいよいよ検定だな。俺は、直接お前を指導したので、判定には関与できない。しかしお前の今までの真摯な訓練態度と優れた技能は必ず認められるはずだ。だから今までの練習の成果を思う存分さらけだしてこい」

不動が沢木に激をとばす。沢木は真剣に聞いている。

「わかりました。教わった技を出し尽くして頑張ってきます。」

 

同席する剛も沢木の成長に驚いているようだったが、

「沢木巡査、3人がチームになれる日を待っているぞ」

と珍しく優しい言葉をかけた。

技能検定の当日、検定を受けるのは10人であった。それぞれこの日のために練習を積んできた若鷲たちである。

検定方法は第1段階では、受験者対有段の隊員が1対1で戦い、次に全員が一丸となって二人の敵役の隊員を制圧する第2段階、第3段階では逆に受験者が二人ずつに分かれそれぞれ10人の敵と戦うという実戦型の検定である。総合点で合否は判断されるが、当然途中のステージで脱落するものもおり、非常に厳しい試験であることが窺える。全員に訓練用のスーツが渡され、それに着替える。緊張感からか更衣室では雑談を交わすこともなく黙々と着替えている。抽選で沢木は6番目の検定となった。

第1段階は日ごろの練習の成果もあり、みんな順当な成績を残した。基本的な技のチェックから攻撃力など一般的な技能が評価された。

ここで休憩が入り、みんなは休憩室に移動した。少し、緊張が緩み会話がはずんでいる。

「次からが本番だな。対戦のプランでも立てなくちゃ」

「頭の中に攻撃のイメージでも作って、かからないとな・・」

「いや、でも10人対二人だろ、俺たちが束になってかかれば制圧できるだろう」

「いーや、その二人は選り抜きの隊員で凄腕らしいぜ」

果たして、実際その通りであった。二人は実戦で10年以上の経験を持つベテランの隊員で一人でも彼ら10人を病院送りにできる腕を持っていた。受験者は果敢に立ち向かうのであるが、攻撃は空回りしている。

沢木はその中にあって冷静に二人の動きを観察し一人が次の一手に出ようとした瞬間空中高く飛び上がり顔面に強烈なキックを浴びせた。あまりに突然の技でかわしようもなく後ろ向きに倒れたが、もう一人がそれに気を取られた瞬間沢木は彼の背後にまわり全身の力で頸部を締め上げた。必死で、それをふり払おうとするが技は非常に堅固で、もはや意識を失う寸前であった。

ここで会場内の電子音が2回鳴った。勝負ありである。それでこのステージは終了である。教官側の敗北は前代未聞であったが、ただここに至るまでに、受験者も6人が骨折や捻挫、脳震盪で医務室送りになっており、次のステージには進めなくなっていた。

残るは4人。彼らは2人ずつに分かれてそれぞれが試験時間内でどんな戦闘役割を担うかを話し合った。抽選が行われ、A班B班が決められたが、沢木はB班になった。公平を期するため、B班はA班が対戦中は別室待機で第3段階の検定の様子を見ることはできない。

A班の検定が始まったようで、時々どよめきが聞こえてくるが、どのような試合運びになっているか伺い知ることはできない。およそ10分後に電子音が2回なった。勝負ありである。結果は二人の敗北であった。

彼らには事前に知らされていなかったが、実は第3段階は完全な戦闘であった。次から次に襲いくる敵にどのように対処する能力があるかを試すステージである。だからルールと言うものはなく、ただひたすら戦い続けてどちらかが白旗を上げるかもしくは戦闘の継続が不可能になった時点で検定が終了という過酷なものである。

このことを不動が前もって沢木に知らせると失格となるため、沢木も当然知る由もない。

コールがあり二人は体育室へ入ってゆく。そこには彼らを取り巻くように屈強な隊員10名が立っていた。そこで初めて二人にはこのステージの進行方法が話された。隊員たちは戦闘用のスーツを着用しており後ろ手に組んで直立して、雰囲気はただならぬ緊張感がはりつめている。

「それじゃ、B班2人、用意」

彼らは背中合わせに並び四方から向かってくる敵に備える。

電子音がヒュッと1回鳴り、戦闘が開始された。開始と同時に彼らは果敢に戦った。二人の連携もうまくできており絶えずお互いを補完する体勢が出来上がっていた。沢木は得意の離れ業や回転飛び蹴りで隊員たちを翻弄した。激しい蹴りを浴びせられても、隊員らはスーツ着用でダメージは少ないが、技の的中度により自発的にこの戦闘から退出していくことになっている。それにしても沢木らの動きは目にも止まらない早さである。一人ひとり確実に制圧し、残るは5人となった。

相棒の回し蹴りが隊員の鳩尾に炸裂し隊員はもんどりうって倒れた。相棒はやや気になって隊員の傍により、安否を確かめるために声をかけようとした。「やめろ、離れるんだ」と沢木が叫ぶが、それより一瞬早く隊員は「馬鹿が・・」と言って彼の両足をつかみ関節技にもちこんだ。激痛が彼を襲い、動きが鈍ったところへ他の隊員が首に手を回しがっしり締め上げる。意識が遠のき彼は倒れる。

沢木は一人で5人を相手にすることになった。そこに不動の声が記憶のかなたから聞こえてくる。「無心になれ。心の目を開け。そして四方の気配を感じ取れ」と。

そこで彼は仁王立ちになり、各隊員の動きを敏感に察知した。突然の後ろからの攻撃をかわし投げから首絞め、首関節をずらせ倒す。次に正面から向かってきた敵には瞬間さっと身をかわし、首を後ろからがっしりつかんでがぶり、強烈な膝蹴りを見舞う。その体制でまた後ろから掴みかかってきた隊員は背負い投げで数メートル飛ばし激しく床にたたきつける。残るは2人であるが、一人が沢木を後ろから羽交い絞めにしつつ、他の一人が模擬ナイフを持って迫ってき、ナイフの先端が沢木にあと1mという瞬間、沢木は全身の力を振り絞って、羽交い絞めにしている隊員を見事な首投げで自分の前に立たせた。勢い余ってナイフは隊員の胸にぐさっとささる・・・模擬ナイフであるから怪我はないがナイフで同僚を刺してしまった若い隊員は動揺を隠せない。すかさず沢木は突進しジャンプし彼の頭に激しいとび蹴りが炸裂する。よろめく彼に回し蹴りを執拗に浴びせる。後方に倒れこむ隊員の頸部を完全にロックし、めりめりと音が出るくらい締め上げ、強靭な隊員も意識が薄らいでいる、ここでバックから股間と首に手を差し込み一気に沢木の首の後部に隊員を持ち上げ、バックブリーカーの体勢で弓形に猛烈な力を振り絞った。隊員は「ぎゃー」と言う叫びをあげ、気を失い、沢木はやっと手を緩め、隊員を床にどさっと投げ捨てた。恐るべし沢木のパワーである。

これで検定終了ある。もちろん、電子音は2回、勝負あり、沢木側の勝利である。しかし、沢木は喜びにひたるまえに倒れている相棒の傍に駆け寄り、抱き起した。彼は意識を戻し沢木から勝利したことを聞き二人抱き合って泣いて喜んだ。隊員たちも過去の自分たちを思い出したのか、自然と拍手がわき、中には涙ぐむものもいた。

表彰式。検定合格は2名。沢木がもちろん最優秀選手で、相棒も優秀選手として表彰された。賞状を受け取って向きを変えるとやや離れた場所に不動と友田の姿があった。沢木が駆け寄って行き最優秀選手として選ばれたことを二人に報告したが、「ほんとうによくやった」「おめでとう」と最大限の褒め言葉が贈られると今までの緊張が一気にときほぐれたのか、彼は男泣きに泣いた。

「よく泣く奴だな」と剛が笑いながら話す。

「今後は俺たちと一緒にその力を正義のために使ってくれ」と明が声をかけると、彼は泣きながら何度も頷いた。

 

ところで1年前隊を離れた武田はその後各地を転々とし、その先々で職を求めたがなかなか新たな仕事に就くことはできなかった。その日の生活にも困窮するようになってきたので、アルバイトや日雇いの作業などでなんとか食いつないでいるがたいした金にはならない。憂さを晴らすために酒に溺れ、顔もやつれて精悍さが消え、別人のように見えるが、持ち前の正義感は薄れることはなかった。街中で市民が騎士団のチンピラに脅されていると中に割って入り撃退した。

しかし彼を悩ませ続けているのは、相変わらず夢である。夢の中の怪人は最近は毎日のように出現するようになった。ある時は語りかけ、ある時は戦闘のなかにあり、またある時は単に空を飛びまわって地上を眺めているような、様々なシーンが夢の中で展開された。しかし大きな流れとしては自分が怪人の世界に埋没していくというか、精神が乗っ取られそうな恐怖を抱くくらい、怪人の支配力は強まっていた。

ある夜の夢に怪人は再び現れ、武田をどこかに導こうとしている。怪人に抱きかかえられて空を飛びたどり着いた先は、高校までの時期を過ごした彼の祖父の家であった。懐かしさがこみあげてきた。一角に道場があり練習生の元気な掛け声が聞こえてくる。怪人はそちらには寄らず、奥の土蔵に向かって歩いていく。強固な鍵がかけられているが、怪人の持つバトンの先端がそれをなぞると簡単に二つに割れてしまった。土蔵の中にはいろいろなモノが保管されていたが、その中の一つの木箱は厳重に鎖で巻かれ施錠されていた。彼はそれを指さしている。開けろと指示しているようである。土蔵の扉が開き一人の男が駆け込んできた。怪人は男を外へ追いやろうとするが、男は抵抗し遂に男は怪人の持つスティックに一突きにされその場に倒れこんだ。男の顔をのぞくとそれは彼の祖父であった。

 はっと目が覚めた。全身が汗にまみれている。もう日が昇り朝を迎えていた。

彼は今の夢の意味を考えてみた。確かに建物の配置は夢の通りである。しかし土蔵は彼が幼い頃、自分が悪さをしたとき、こらしめるため祖父に土蔵に閉じ込められたりしたため、トラウマとなってあまり近づくことはなかった。彼が武田に何を指示しようとしたのか、気になった。

直ぐに駅に向かい、一番早い列車に乗り郷里に向かった。まだ早い時間で乗客は疎らである。およそ2時間の列車の旅であるが、沿線の風景を見ていると子供の頃の思い出がよみがえってきた。ちょうど線路沿いに植えられたうすずみの桜の花が満開で列車の通過が巻き起こす風で花吹雪となって舞い散っていく。

郷里の駅に降り立ち周りを眺めて見ると子供の頃と変わらないのどかな光景であった。彼の実家は駅から歩いて10分ほどの距離の田園地帯の中にある。家が近づくにつれ、自分は今日戻ってきて良かったのかという不安にかられる。思えば祖父の葬儀にも参列していないし随分親不孝をしている。意を決して、家の門を開け、中に入るとそこは練習生の声こそ聞こえないが、夢で見たそのままの状態である。

一人の年老いた女がゆっくり歩いてくる。武田を見て驚く。

「健太郎じゃないか、よく戻ってきてくれたなあ。」と家に招き入れる。

彼の祖母であった。家を出てもう5年がたっている。

「おじいちゃんのお葬式にも出れなくてごめんな・・」

「いやあ、それはいいんじゃ、お前は警官だし、おじいちゃんがあんな死に方で、なんか迷惑がかかるといかんと思ってわざと来てもらわんようにしたんだよ」

「あんな死に方って?病気じゃなかったの?」

「いや、それは今もってわからないんだ。弟子と練習中、なんでか蔵へ入ってそこで倒れておったんじゃ。警察が来ていろいろ調べていったが、結局、なんの傷もないし病気っちゅうことになったんやが、あんな元気な人がのう・・・。」

「ふーん、蔵の中でかあ・・」

「そうじゃ、でもこれは運命だから仕方がないんかもしれん。それにしてもよう帰ってきてくれた。まあ、ゆっくりしていきなさい」

久しぶりに祖母のいれたお茶をすすりながらひとしきり会話が弾んだ。いろいろあって自分はもう警察官ではないこと、今仕事を探しているがなかなかみつからないこと、などなど話は尽きなかった。

「だったらしばらくここにいてくれない?」と祖母に言われるが、「それにしても仕事は見つけなければ」と、困って言葉を濁す。

田舎では都会以上に仕事を探すのは大変である。農業は土地が荒れていて水も枯れているから作物もできない。

ひとしきりして、武田が気になっていること、そう、蔵の中のあの箱の中身である。祖母に尋ねてみるが祖母はあまり蔵の中の蔵物には関心が無いようで、「そんなものがあったかねえ」と記憶が定かでない。今日はもう遅いので、あす蔵の中を調べてみることにした。

久しぶりの実家の夜である。実家の匂いが彼にはこよなく愛おしく思えた。明けて次の日の朝、天気はあいにくの雨である。

「蔵は最近、整理していないし・・雨漏りもしてるんじゃないかねえ」祖母は一緒に土蔵に向かいながら話す。たどり着くと錆びた鍵で施錠されている。「鍵はどこへやったかねえ、なんせおじいさんが、全部やってたから」と家に鍵を探しに戻る。

武田が鍵に触れるとぽろぽろと錆びが落ち、錠前に隙間ができ、簡単に開錠できてしまった。扉を開け、薄暗い中をのぞくとかび臭いにおいがする。相当長い期間換気されていないようだ。ライトで中を照らすとたくさんの物品が保管されていたが、その中に彼が探しているものが確かにあった。しかも夢の通り、鎖で厳重に巻かれており、何か重大なものが梱包されているようだった。彼は携えていた鎖切りでそれを切断し蓋を取った。そこにはかなり古い文書が一番上に置かれていたが、彼には読解することができなかった。古文書を取り除くと、その下には金色の布で覆われた物体がありそれを箱から取り出して布をゆっくりと広げていき中に包まれていた物体を見て戦慄を覚えた。

そこには、あの夢の中に出てくる黄金の怪人がつけているマスクとさらさらとした粉末が入った壺があった。しかもそれらを覆っていた布は怪人が身につけているマントであった。彼は思い切って壺の蓋を全部開け中身を確かめようとした。

そのとき、天井から一滴の雨粒が落ちてきて壺の中に入った。途端に中の粉末が激しく振動し出し壺から飛び出し、武田の目、口、鼻、耳と体のありとあらゆるところから、体内に侵入し始めた。それが終わるや否や、武田の体の遺伝子の組み換えが始まり、激しい痛みが彼の全身を貫き、しばし彼は意識を失った。

全ての遺伝子の組み換えが終わると、痛みが和らぎ武田は意識を回復したが、気が付くと彼の裸体は筋骨隆々として黄金に輝き燦然とした光を放っている。着ていた服はすべて、ぼろぼろになって周囲に飛び散っている。自分に何が起こったのかわからないまま、傍に置かれているマスクを顔に近づけると急にマスクは顔に吸着し、離れなくなった。そしてマスクの中からうすい繊維が伸びてきて頭、胸、腹、背中や腰、四肢を全て覆い尽くした。股間はさらに別のやや厚い生地でガードされた。マスクと壺を包んでいたマントを肩から首にまとうと彼は夢で見た完全な怪人の姿となった。実体を持ったバットの誕生である。

 

彼は扉の外に出て、ひらりと舞いあがり遠くへ飛び去って行った。

しばらくして、祖母が鍵を持って蔵に戻ってきたが、そこには切られた鎖や中身のない古い木箱と目にした事の無い壷が床に転がっていた。武田がいないことを不審に思ったが、木箱のそばに置かれた古文書に目を通し、顔色が変わる。「なんてことを・・・・」

そこには昔人々を苦しめてきた魔人を人々が力を合わせて捕らえ、釜で焼き灰にして壷に封じ込めたものであると書かれてあった。それは、魔人のDNAの乾燥粉末で、壷の蓋を開ける事はもちろん一滴の水も加えてはならないと書かれている。水を得ればたちまちもとの姿に戻り、地上に恐ろしい災いをもたらすであろう、と。箱はまさしくパンドラの箱だったのである。

彼の意思は最早ほとんどバットに支配されていた。二千年近く窮屈な場所に閉じ込められ、人間に対する恨みも昂じていたので、行く先々で大暴れをしている。強大な力と、人間の能力をはるかに超越した行動力や精神力を持っており、とても人間が太刀打ちできるものではない。

突然、騎士団の訓練中の戦闘部隊の真ん中に舞い降りると、荒くれ男達を相手に闘いが始まった。バットは仁王立ちになり、両腕を前に伸ばし両拳を揃えそのまま左右に広げるとそこに彼のスティックが現れた。スティックは超硬質でその先端は鋭い切れ味を持っている。四方から迫って行く屈強な戦闘員もバットのカラダを捕らえる前にスーツもろとも切り裂かれるか、まるで意思持っているかのように飛んでくるスティックに突き刺されてバタバタと倒れていった。驚いた戦闘員は重戦車を持ち出して踏み潰そうとするのだが、さっと空中に飛び上がって空中から戦車めがけて体当たりすると戦車は粉々にくだけてしまった。バットの後方からじわっと接近する戦闘員。いきなりバットの首を絞め動きをとめようとするが、突然彼のマントが波打ち、戦闘員の体を取り巻くように動き出す。戦闘員はあわててバットから離れようとするがすでに完全にマントに包まれてしまって、その後マントは激しい締め上げで戦闘員のカラダを折り曲げたり反らせたりでマントを通してボキボキと骨が折れる音やバリッという皮膚や筋肉がひきちぎられる音が聞こえてくる。あえなく息絶えた彼は地面にどさっと落ちるが、もはや人の原型をとどめていない。

レーザー銃による攻撃はバットのカラダから発散される光によって、急激にレーザー光が衰弱し武器にはならない。逃げ惑う戦闘員にスティックを振りかざすと、スティックは長いロープ状に形を変え、残った戦闘員達を全て束にして捕らえ、そこに強烈な電撃を加えた。後には黒焦げの死体の山が出来あがったが、バットが右腕を天空に向けかざし、自らスピンすると竜巻が発生し、そこにあるもの全てを空中に舞い上げ、後には何も残らなかった。

 

 

バットが暴れ回っているという情報は当然国家警察にも伝わっていた。ただ、なぜある日を境にしてなぜバットの現れる日が多くなり、しかも以前と比べものにならないくらいパワーが強大になっているのかは誰にもわからなかった。

念願の機動隊員となった沢木は不動、友田とチームを組み、隊内では最強のパワーとチームワークを誇っている。

「このチームになってそろそろ一年になるな。どうだ沢木、力を出し切れてるか?」

明が尋ねると

「いえ、なかなかそんな場面に出くわさないのが残念です。」

と沢木はやや不満そうである。

「馬鹿言え、そのほうがいいに決まってる。パトロール中にバットにでも出くわしたらどうする。」と不動が笑いながら冗談めかして言うが、

「そんな時は俺がこの手でたたきのめしてやります」と勇ましい言葉を返す。

友田は、そんな二人の会話を頼もしく聞きながら

「そう言えば最近奴は隊内には出没しなくなったな」とつぶやく。

「きっと俺たちの威力ですよ。俺たちには魔除けの力もある。」

と沢木が誇らしげに言うと二人は大声で笑った。

確かにバットの姿を見なくなってもう2年ほどになる。それまでは隊内で一線を交えることがよくあったが最近はとんと姿を現さない。しかし一方の騎士団とは激しいバトルが演じられてるようで、隊ではその対策に議論が交わされていた。

「騎士団を蹴散らしてくれるんだからいいじゃないか」と言う軟派や「エリア内の秩序を乱す奴は、どんな奴でも許せない」とする強硬派もいてどう行動するかで統一した意見はない。

しかし、バットの力が強大になっていることについては誰もが認めるところで戦闘態勢の編成をどのように組むかは両者ともに真剣に考えていた。

次の日、不動たち3人はまたパトロールに出かけた。沢木はイオンエンジンの白バイがひどく気に入って、非番の日でも手入れに余念がない。おかげで3台のバイクはいつも絶好調である。加速減速が非常にスムーズで自由自在にコントロールできるのが、若い彼には魅力的なのだろう。

ライダースーツに着替えた彼らは隊長の前で整列し点呼を受け乗務する。沢木の体つきはここ2年で大きく変わり、カラダにフィットしたスーツを着ると劇画に出てくるスーパーヒーローを彷彿させる。

ヘルメットをスーツと一体化させると、準備は完了である。

「発進」と念じるだけで急発進し、あとの2台も「追尾」と念じると自動的に先頭のあとを追うようにセットされる。

日差しは強いがまあまあいい気候である。彼らは市街地を出て郊外に向かうが、その時上空をさーっと何かが通過し、前方にさっと着地した。

「バットだ。気をつけろ」と不動。沢木が銃に手をやろうとするが、「待て、沢木」友田がそれを静止する。しばらく睨み合いが続いたあと突然バットはこちらに向かって歩いてくる。3人に緊張が走る。向かい風なので、マントがひらひらとたなびき、日光が黄金の体に反射してそれなりに美しい姿である。数メートルまで近付いたところで彼は無言のまま沢木達3人を見つめ立ち止まった。しばらく睨みあって少し俯いたかと思うとまたさーっと空へ舞いあがって行った。

「なぜ止めたんです、チャンスだったのに・・」沢木は不満そうである。友田は何も答えず、表情も変えずそのまま、また白バイに乗車しパトロールを続行した。

友田はバットとの遭遇の瞬間から彼の心を読もうとしていた。しかし、バットの心には頑丈なガードがあり、なかなか彼の心理の中に入っていくことは困難だった。しかしわずかにその一角に昔読みとった心と同一のモノがあることを見出した。それは、武田の心だった。

帰隊した3人。

不動が「奴はなぜ攻撃をしかけてこなかったんだろうな」と不思議に思っている。「そりゃあ、勝ち目がないと思ったからじゃないですか?」と沢木。相変らず友田は押し黙ったままである。不動にはすでに友田が何かを把握していることがわかった。

 

 その夜、不動の部屋で。

「アモン様、バットは除隊した武田そのものです。しかし彼の心はほとんど、バットに牛耳られています。今はわずかに彼の正義を見つめる心が残っていますが、それがいつまでもつか・・。

以前のバットはきっかけはわかりませんが、武田の心と結びつき、彼の心を操ってその強い意思の力を借りて、テレサイコキネシスでこの世界に出没していたのですが、なんらかの方法で、彼の実体を手に入れ彼の肉体を自分のカラダに置き換え一気に強大な力を手に入れたようです。バットが武田の意思と心を完全に奪い去ってしまうのには、それほど時間はかからないと思われます。

今のバットと戦うためには、我々はもとの姿に戻り全力で戦わねば勝ち目はありません。しかし、もし今日のようなカタチで戦闘となれば、私たちは沢木の目の前で変身せねばなりません。アモン様にはその覚悟がおありですか?」

アモンはしばらく考えて窓の外を見つめ静かに話す。

「我々が地上に送られたのは、地上の悪を逐一排除するためだ。幸い我々が合体した人間は我々と同じ意思と清らかな心、強靭な肉体を持つ男で、彼らが目指す地上の平和は我々にとっても同じものだった。しかし、バットに肉体を奪われた武田は邪悪な心に自分の正義の心がゆがめられていくことに苦しんでいることであろう。ドランゴ、我々が全力で戦えばバットを叩き潰すことは可能だろう。しかしそれでは同時に武田もこの世から消えてしまう。我々がバットを倒す前に武田の肉体をバットの邪悪な心から引き離さなければならない。そのためには沢木の力がどうしても必要だ。我々3人が一丸となって、彼の危機を救わねばならない。それはすなわち地上界の危機でもあるからだ。

沢木にはいずれ真実を知らさねばならない時期が来るだろう。それによって我々3人の間にはなんの秘密も存在しない真に心が通じ合う戦隊となれるのだ。」

友田はじっと彼の話しを聞いている。アモンの考えの深さに感服している。

「アモン様、私が浅はかでした。お許し下さい。では私は執務室に戻り今後の戦略を考えてみます。武田の体がバットに置き換わっていることは沢木に話しておいたほうが良いでしょうか?」

「いや、それはもう少し時間をかけて伝えた方がいいだろう。今はまだ時期が早い」

「わかりました」

友田は部屋を出ていった。ほどなくして、またドアをノックする音。ドアが開き沢木が訪ねてきた。沢木が不動の部屋に訪れることはめったにないのだが。

「巡査長、私は警部と巡査長と共に仕事ができることを大変光栄に思っています。ただ、上官と私の間には溝があるような気がしてなりません。私に何か至らない点があれば改めます。ですから、私を一人前の隊員として同じように扱っていただきたいのです。」

不動には彼の言いたいことがよく理解できた。確かに不動と友田は常に意思の疎通があり、一方沢木との間には、言葉を介しての命令伝達しかない。沢木がそう思うのも無理はない。

「沢木、確かに今のお前の立場は我々の補完役になっている。しかし、この後のバットとの闘いでは、理由は言えないが、お前がとても大きな役割を果たすことになるだろう。それは、とても大きな苦しみとなるが、お前はそれに耐え、闘いを勝利に導く先導役とならねばならんのだ。俺達はお前にその十分な資質が備わっていると確信している。」

「有難うございます。巡査長にそう言っていただけると自信がつきます。」

沢木は本当にそう思ったので、率直に謝意を述べた。

「これからのお前の活躍に期待しているぞ。」

「不動巡査長・・」

「ん、なんだ?」

「俺は・・いや、自分は・・」

一番言いたいことがあるのだが、そこから先はなかなか言葉が出ない。

「不動巡査長を・・尊敬しています・・だから俺は・・・」

不動は沢木を見つめていたが、彼の思いを察して肩を引き寄せ静かに抱きしめた。まだ二十歳の青年であるが一途で将来性のある若者である。

しばらくの抱擁のあと、彼の目にはうっすらと涙が光っていた。

「これから、つらいこともあるだろうが耐えるんだ。頑張るんだぞ」

と、言葉をかけると彼は手で涙をぬぐい「ありがとうございました」と敬礼し、不動も答礼し、彼は部屋から出ていった。

 

バットはその頃、深い森に中に入り人の寄り付かない洞窟で夜を過ごしている。彼の一日の中でしばしの時間武田として、日々薄れて行く人間らしさを取り戻せる時間である。マスクを外し、マントをとると、燦然と輝く武田の肉体が泉に映っている。

この間偶然に不動や友田、沢木と出会ったものの、自分の今の姿で昔と同じように言葉を交わすことはとてもできなかった。地に片膝をつき両手を壁に押し当てて自分の運命を情けなく思う。

もともとバットは大古の時代の山深く、人や動物の実世界から隔絶された魔界に住む男だった。魔界と言っても恐怖の空間ではなく妖精が住み、草木が話しをしたり、大きな葉の下に小人が住んだりそんな御伽噺の世界が実在したのである。その中で彼はいろいろな魔法を操る魔人であったが、余りに魔力が強いため魔界の平和を乱すということで追放になったのだった。

しかたなく人の住む世界にやってきたものの、そこで受け入れられるはずもなく、人からは恐ろしい悪魔として忌み嫌われた。そして人々により捕らえられ処刑されたあと、高温の陶器釜に投げ込まれ、3日3晩焼かれてその灰は壷に入れて封印され、そして壷は古くからの旧家である武田家の蔵に代々厳重に保管されてきたのであった。

そう言う点では気の毒な男であるが、2千年にわたって窮屈な場所に押しこめられた彼の魂は次第に人への憎しみを増幅させ、なんとか元の肉体を取り戻したいと、絶えずそのチャンスを窺っていた。

武田が子供の頃、懲らしめのために蔵に閉じ込められると人間嫌いのバットもあわれに思っていつも武田の心の中に子供の形で現れて一緒に遊んでやっていたのだった。しばらくして祖父が蔵の扉を再び開けると、いつもすやすやと安らかに寝息をたてているのが不思議に思えた。しかし、そのようにしてバットは武田の心の深層にひそかに入りこんでいった。

バットはもともとは位の高い魔人であるから、高い超能力があり、その気になれば地球を真っ二つに割って火山を爆発させてしまうこともできる男だ。しかし、それなりの情けも備えており、本来なら武田の心をそっくり奪い取ることはいとも簡単なことだが、彼とは幼なじみのようなもので、そのような荒っぽい手段に出ることはなかった。

武田は心がバットに完全にコントロールされてしまうことを恐れながら日々を送っているが彼にはどうすることもできない。すでに体の構成細胞は全てバットのものと置き換わっており、自分はそれに指令を送っているだけなのだから、いっそのこと、こんな辛さしか感じない残った心は無い方がマシとも思える。しかし、こんどまた不動や沢木に出会った時、このカラダを自制することができなければ取り返しのつかないことになってしまう。

彼は再びマスクを着け、マントを肩から首に装着し空へと飛び立った。地上は闇のなかであったが、ところどころに明かりが灯り、人の生活の場がそこにあった。ひときわ明るく夜空を照らすサーチライトがいくつも交差する大きな施設がある。国家警察の機動隊である。

彼はその中に静かに降り立ち周囲を見渡した。自分のいたころと変化はないが、こんな時間で人影はない。

突然1本のサーチライトが彼を赤々と照らし出し、大音響の警戒放送が施設内に流れ始めた。

一斉に警備隊員が集結しバットを取り巻き銃を構えた。もとよりバットには戦う意思はなかったが、一斉に射撃が始まったため、マントで体を覆うようにし銃弾を避けた。玉はマントに当たる前に炸裂し、一発も命中することはない。しかしその後に続く執拗な武装攻撃にバット自身の人への憎悪が武田の心を完全に遮断し、バットの反撃が始まった。両腕を頭の上で広げ、スティックを取り出し戦いを挑んでくる隊員たちを鋭い先端が切り裂いていった。銃弾さえ貫通しないスーツを着ていても何の役にも立たず、重火機による攻撃もバットはそれらを軽々と持ち上げ他の機の上に投げつけ炎上爆発させてしまう。スティックが変化した生き物のようなロープが隊員を束にして空中高く持ち上げいきなり地面にたたきつけるなど、暴れ回るバットにはもはや反撃のしようがない。

突然、暗闇を切り裂く閃光が走った。周りは真昼以上の明るさになり目がくらみ何も見えない。大音響と共に稲妻が天空のいろいろな方向から隊内の一点に集中するように何度も走る。強烈な閃光と雷鳴が落ち着くとそこにはアモンが立っていた。直ぐにバットと対峙し闘いの態勢をとる。突然の闖入車にバットは驚いたが、すぐさまスティックを彼に投げつけカラダを突き刺そうとするが、一瞬早くアモンがかわしスティックを受けとめ両手でボキッと折ってしまった。

アモンはすかさずバットに飛びかかり激しい蹴りやパンチを浴びせるが、バットにはあまり効いていない様だ。バットは大きく息を噴出すとそれがつながり大蛇となってアモンのカラダに巻きつき、彼を強く締め上げる。しかしそんなものはアモンが軽く力を加えれば簡単に切断されてしまいばらばらになって地面に落ちた。アモンは彼の背後に回り後ろから締め上げるが、その瞬間マントが彼を巻き込み出した。ほとんどアモンを覆い尽くしたとき、彼の背中が割れ鋭いエッジを持つ翼が出現してマントを切り裂いた。断片となったマントは地面に落ちてもまだ動き回っており、しばらくするとそれらは終結しまた一枚のマントのカタチに戻った。首を絞めバットにカラダを密着させたまま、激しい電撃を彼に見舞う。バットは一瞬気が遠くなるが、その瞬間アモンは空中に飛び上がり、バットを見下ろすところから、超高温のプラズマを彼に浴びせた。

「うわー、ぎゃーーーー」とバットの苦痛の叫びが隊内に響く。

しかしアモンは途中で照射を止め、地に降り彼に近づく。まだ直接触れると大火傷するほどの熱がバットから伝わってくる。黄金のスーツも余りの高熱に赤く色が変っている。

アモンは顔からマスクを外すと赤く火ぶくれた、武田の顔がそこにあった。

「目をさませ、武田」

彼は薄く目を開けた。アモンを見て驚いた様子でなんとか逃れようとするが、今はカラダの自由が効かない。

「お前の心が開放されているのはバットのカラダの細胞修復が終わるまでの数分だ。

よく聞け。俺は今お前を殺すことはない。しかし、バットはお前がコントロールができなければまたこのような殺戮を繰り返すであろう。そうなれば、私は容赦なくバットすなわちお前を殺す。お前は持ち前の強い意思でバットの心への侵入と闘うのだ。そしていつの日かまた武田の肉体を取り戻し、正義のために戦うのだ。」

カラダが冷え、元の肉体に戻ったバットは地面の上のマントを身につけ再び大空へ帰っていった。

そばに友田がやってきていた。

「アモン様、武田はどうでしたか?」

「やはり、苦しんでいるようであった。おそらく今夜やってきたのも我々になにか伝えたいことがあったのだろう。私には心が読めないが、彼の目はそれを訴えていた。」

「私もそう思います。バットに乗っ取られたカラダを必死になって元の自分に取り戻したい、そのような強い意思を感じました。」

「しかし、いまさらバットの心とカラダを分離するのは難しいだろう」

「強い武田の意思の力に頼るほかありません。」

アモンは多くの隊員たちが倒れているグラウンドの方に目をやった。

「もう一つやっておかねばならない大仕事がある」

そう言うとアモンは、大きく腕を広げ彼のエネルギーを地上のあちこちに散乱している隊員たちの生命の回復のために放出している。一人あたりは僅かだが、人数が多いのでアモンのエネルギーロスは大きい。それが終わると彼はまた不動の姿に戻り隊務に復帰した。

翌日の朝の隊員食堂では昨夜の話しでもちきりだった。バットの突然の襲来で話がもちきりであるが、それより関心事はなぜ自分が今生きているのか、である。

「俺はあいつのスティックが腹を貫通したんだぜ。でどっと血が出るし、ああこりゃだめだわ、って覚悟決めたんだ。で戦闘終わって気付いてみたら、怪我もしてねーし、傷もない。」と言って自分のシャツを捲り上げ、みんなに指差して見せる。

「こんなことって・・俺は夢でも見てたのかな・・」

「そんなことはねーよ、俺も高いとっから地面に思いっきり打ちつけられて、ボキって骨が折れる音、聞いたからよー、でも今はぜんぜんなんともないしな」

「でも、顔ゆがんでんじゃないかよお」

「バーカ、俺はもともとこんなんだ」と大声で笑う。

しかし、そのなかで一人食事ものどを通らない男がいた。沢木である。実は彼は昨夜のアモンとバットの闘いの一部始終を見ていたのである。

昨夜、沢木は非番だったが非常召集がかかり、一歩出遅れて出陣したが、すでに隊員とバットの戦いは勝敗がついたあとだった。そこにあの閃光と雷鳴でさすがの沢木も度肝を抜かれ、その後のバットとアモンの戦いも実際に目の前で行われているとは信じられないような、まるで劇画の世界だった。しかも、そのアモンが戦いの後、剛と親しそうに話し、極め付きはアモンが変身すると明になったことで、彼はいくら頭の中を整理しようとしても混乱が続いている。あれは夢だったのか?いや、そんなことはない。この目ではっきり見たことだ。

「よう、元気か?」ポンと肩をたたいて食事の乗ったトレイを前の席に置く明。気が動転して、沢木は持っていた皿を床に落とし、割れる音が周囲に響き渡った。隊員の視線がさっとこちらを向きあわてて拾い集める。

「どうしたんだ?お前らしくもない・・・」と不審に思う明。

「あ、いえ何でもありません。」と、その場を取り繕うが、明にはぴーんとくるものがあった。

その夜、再び不動の部屋を沢木が訪れた。一日悩んだ末にやはり真実を知りたいと思う心がはやらせた。率直に昨晩、見たことを不動に話し、不動はそれを静かに聞いていた。沢木が一通り話し終えたころ剛も部屋に入ってきた。

「いつかは、お前にもわかることだった。」と明が話し出す。地底界での話。地上界に来た理由。自分と剛と、それぞれの地底人との合体のいきさつから、武田と沢木のリンチ事件のこと、バットの話など今まで剛との二人だけの秘密にしていたことを洗いざらい沢木に知らせた。昨夜のことがなければ到底信じることのできない話であったが、今の沢木には真実として受け入れられた。ただ、バットの正体については話には出さなかった。武田に兄弟のような感情を抱く沢木にそれを知らせることは、今後のバットとの戦いに少なからぬ影響があると思えたからだ。

「で、どうだった?俺の本当の姿は。幻滅したか・・・」と笑いながら明がはなすと、沢木は顔を紅潮させ「いえ、素晴らしかったです。俺もあんな戦いをしてみたいです。」と沢木。まるで、劇画を読んだ子供の感想文のようなコメントだが今の彼にはこれが精いっぱいだった。「沢木」と後ろからすでに変身を済ませたドランゴが握手を求めている。青く透き通るような体が美しい。沢木はその手をしっかり握り、感動のあまり涙を流す。不動もアモンに変身し静かに話す。

「沢木、これでわれわれの間には秘密はなくなった。お前には我々の様な超能力を持つことはできないが、もともと優れた運動能力を身に着けている。我々3人はすべて、めいめいを必要としている。これからは、お前も立派な、チームの一員として働いてもらわねばならない。わかったな」

「わかりました。私はあなたのことをなんと呼べばいいのですか?」

ドランゴがすかさず、「無礼な言い方をするな」とたしなめるが、

「いやドランゴ、これからは3人は対等な立場でそれぞれの役割を担うことになるだろう。そのためには上下の関係は邪魔になる。

私は地底界ではデビルマンと呼ばれていた。だからこれからは私のことをそう呼んでくれ。」

「もったいのうございます。しかし、それがアモン様のご所望なら」

「沢木」

「はい」

「今のお前は私に対する絶対的な信頼をもっているか?」

「俺は、いや自分は、いつも不動巡査長を尊敬し信頼してきました。」

「今の私の姿であっても、それは変わることはないか?」

「変わることはありません。忠誠を誓います。」

「わかった。・・・・それでは、服を脱いで裸になれ。」

ドキッとしたが、言われるとおりにした。彼のモノはもはやいきりたっているが、それを隠そうともしない。

「これから私の体液を注入する。それによってお前の筋肉細胞を改造し、お前の持つ運動能力を極限まで高めることが出来る。」

デビルマンは股間を覆っていたサポーターを脱ぎ、ベルトをはずすとそこには巨大な彼自身が屹立している。見とれている沢木に

「向こうを向け」と指示する。「苦しいが耐えるんだ」

デビルマンは沢木の背に密着し、太い両腕を彼の厚い胸板の両側から回し、強い力で彼を引き寄せる。と同時に背中から出現した大きな翼が両側から前に周り二人を包み込み、その瞬間沢木の秘孔からデビルマンの極太のモノが体内に挿入され大量の体液が沢木のカラダに流れ込んだ。と同時に沢木のカラダに異変が起こった。筋肉が脈打つように震え、脈拍が上昇し、体温が60℃まで上がり皮膚が紅潮している。沢木は苦しそうであるが、耐えている。しばらくして翼が収納され、デビルマンが沢木の体から離れると、彼は前に倒れ、床に手をついて四つ這いの姿勢でハーハーとあえいでいる。デビルマンとドランゴは静かに見つめていたが、ころあいを見計らって、

「もういいだろう、冷やしてやれ」とドランゴに指示する。

ドランゴは気体状になって彼の体を覆い尽くし、ゆっくり循環し冷却している。

沢木にとっては今まで経験したことのない極上の悦楽である。沢木の体温が元に戻ると気体はまた集結し元のドランゴのカラダとなった。デビルマンのサポーターも股間に張りついている。

意識を取り戻した沢木はふらふらと立ちあがり、なんとかアモンと顔を合わせることが出きた。

「これでお前の力は今までの数万倍にパワーが増強された。しかしこの力は正義のため以外には絶対に使ってはいけない。もしお前が悪事のために私が与えた力を使うようなことがあれば、私は容赦なくお前を殺す」デビルマンの言葉には重みがある。

「もう一つ、今夜の儀式は他言無用だ。決して話してはいけない。わかったな」

沢木はスーツを着て敬礼をした。デビルマンとドランゴも元の不動と友田に戻り答礼。

沢木は部屋を出て歩き始めたが、余りの緊張感にどっと疲れが出た。

次の日の朝、目覚めるとカラダが軽くなったような気がした。ためしに外へ出て走ってみて驚いた。あっという間にグラウンドの端にたどり着いたのである。野球をやっている隊員の投げた球もまるで止まっているかのように見える。走ってその球をつかみ、またもとの場所に戻るのに0.1秒もかからなかった。グラウンド上では急に球が消えてしまったので、隊員たちが探している。笑いをこらえて「おーい、球はここだぞ」と叫び、投げ返すと超豪速球となり、球は途中で炎を上げ燃え尽きてしまった。

ロビーでくつろいでいると不動が入ってきた。不動の顔に珍しく疲れの色が見える。沢木が今朝の話を面白おかしくするが、不動は表情を変えない。しかし、弾みで昨夜の話しに入ろうとした瞬間、不動の目は鋭いデビルマンの目に変化した。デビルマンの声が聞こえる。「それは決して話をしてはいけない・・」と。

はっと驚き、周囲を見まわすが、不動と二人だけである。そうであった。昨夜の出来事は決して口にしない約束である。

遅れて友田も加わり、またいつもながらの3人での冗談を交えた会話が始まった。

「お前はまだ自分のパワーの限界を知らないようだな。」

不動が急に切り出した。

「限界って・・昨日の今日じゃまだ全然わかりません。」

「一度試してみるか」

「試すってどうやってすか?」

「まあそれは行ってみてのお楽しみだが」

意味深長である。

「俺たちがそれをやるんじゃ、お前は限界までパワーを出し切らんだろうから実戦で戦ってみろ。」

「了解です。しかし誰と??」

「行けばわかる。」

 

 

1週間がたって、今日は不動と沢木は非番である。ロビーでくつろいでいると友田もやってきた。

「警部、今日は非番ですか?」

「そうだが」

「じゃ俺たちと、外出しませんか?」

「しかし不動、君は少しは体を休めた方がいいんじゃないか」

「いえ大丈夫です。それに俺は、エネルギーチャージがいるんで・・」

確かにそうである。ここ連日、大量のパワーを放出しており体内のエネルギーレベルはかなり低下していた。

「急速なチャージはやはり上空の方でなければ」

それで3人は4駆を借り出して、山手の深い森に入って行った。

滝が轟音をたてて流れ落ちているその前に車を止め、しばらく澄んだ空気を吸っている。人間ならこれだけでも十分リフレッシュはできそうな場所だが、不動には全く不十分である。

「沢木、少し離れていてくれ」と言って彼は拳を作って空中に右腕を突き出した。天空に閃光が走り、真昼だというのに目を開けていられないくらいまぶしい。耳を押えても防ぎきれない轟音が響き渡る。

それらが落ち着くと不動に変わってデビルマンが立っている。

「俺は天空でチャージだ。ドランゴ、お前はどうする?」

「あ、お供いたします」

即座に剛はドランゴに変身し、さらに気体となった。

「沢木、お前はここで待っていてくれ」

と言い残しデビルマンは大空へ飛び上がった。ドランゴもそれについて行く。残された沢木はまたふくれっ面である。

「また俺だけかよう。なんでこんなところで俺の力が試せるんだ??」

一方、上空の二人は・・・

「アモン様、沢木一人で大丈夫でしょうか?このあたりは・・」

「バットのテリトリーか・・それはわかっている。今日は沢木がバットとの闘いで、どのようなを展開をするか見るためにやって来たんだ。そして、もうひとつ、バットすなわち武田が人間としての心がまだ残っているかを確認するためだ。俺たちは上空でそれを高みの見物だ。」

「しかし、沢木はまだバットが武田であることを知りません。」

「だから、なんだ。」

「アモン様は・・・・非情でございます」

「そうかな。」

森の中では沢木が二人の帰りを待っていた。滝の流れ落ちる音と鳥のさえずりでしばし心の安らぎを感じる。

しかし、突然静寂を打ち破るように、上空をざーっと通り過ぎる音がした。そして、数メートルの距離を置いて、着地する。バットであった。黄金の輝きを放ちながら、不敵な笑いを浮かべている。沢木は直ぐに戦闘の態勢をとる。確かに彼の動きは格段の違いがある。とび蹴り、投げ、パンチ・・様々な技を駆使してバットを翻弄する。彼の動きは目にも止まらない速さで、バットにも彼を捉えることができない。しかし、バットには強大なサイコパワーがあり、それに捕らえられてしまうと沢木の俊敏な動きは急に精彩がなくなった。スティックから伸びたロープが沢木の足に巻きつくとバットはそのままロープを大きく回転させ、沢木を激しく立ち木にぶつける。そのまま、上下に振って何度も地面にたたきつけた。沢木の動きが止まったとき、スティックを振り上げ今にも沢木を突き刺そうとしているが、その腕が、わずかに震えている。

「だめだ、俺にはどうしてもできない」と言ってスティックを放り投げ地に四つ這いになって涙を流している。沢木はその隙にスティックを奪った沢木はバットを背中から突き刺そうとするが・・・

「沢木、俺を殺してくれ。そのスティックで俺を一刺しにしてくれ」バットの涙声。

「なぜ、俺の名を知っている」いぶかしがる沢木。

そこに上空からエネルギーチャージが終わったアモンとドランゴが舞い降りてきた。

「沢木、止めろ、もういい。そいつはお前の相棒だった武田だ。」

「ええっ、そんな・・・なぜ・・」

デビルマンはバットの方に向き直り

「バットよ、これで分かったろう。お前がいくら一人の人間の心を支配しようとしても人にはそれぞれ固有の強い意思がある。お前が武田の肉体を乗っ取ったところで彼の心まで奪い去ることはできないのだ。

バット、お前はもともと位の高い精霊ではないか。なぜこの様な人間を苦しめるようなことをするのだ。」

その瞬間、バットのカラダから淡いもやもやとした気体が噴き出しそれが再び半透明のもう一人のバットの形となって、デビルマンの前に立った。そして自分の今までの迫害の苦しみを切々と訴え、それで心が捻じ曲がり人に対する怨念が芽生えたのだと言う。

「この男にはたいへん申し訳ないことをした。ただ私は新しい肉体を手に入れたかっただけなのだ。すでに体は私の体細胞で置き換わっており、いまさら元に戻すことは不可能だ。私はこの男から離脱するが、彼の肉体はここに残す。私は魔界に戻って、今後は、みんなと協調しながら、暮らしてゆきたい」と言い残すと、彼の半透明の体は薄らぎ始め最後は消えてしまった。

武田はしばらく意識を失っていたが、デビルマンが軽くビームを照射すると回復した。

マントを取り、マスクを外すとそこに武田の顔があった。沢木にとっては久しぶりの対面である。今までの闘いで軋轢は残るが懐かしさが先に立って沢木は武田と抱き合って泣いた。武田もやっとバットの怨念から開放された安堵からか珍しく男泣きである。

武田の体はバットの置き土産のようなもので、まだ燦然と輝いている。肉体的な超能力はそのままであり数トンもある巨石を持ちあげたり拳でそれを叩き割ったりすることはいとも簡単にできる。しかしサイコキネティックな力は消えており、空を飛ぶことはできなくなったが、少しでももとの人間に近づいたことが彼にとっては喜ばしいことだった。

ただ今後の身のふりかたを考えると暗い気持ちになる。騎士団に壊滅的な打撃を与え続けてきたことで社会の平和に貢献したが、まだ街中には残党がいる。この姿で出て行けば間違いなく襲われるだろう。それに好奇の目で見られるのも嫌だ。

「武田、この先どうやって生きていくつもりだ」ドランゴの姿のまま剛が尋ねる。

「まだわかりません。この姿では受け入れてくれるところもないだろうし・・」

「機動部隊に戻るか?」デビルマンが尋ねると

「しかし、部隊は私が襲撃をしかけたばかりですし、隊では厳しい処分が待ってるでしょう」と落胆している。

「襲撃したのはバットであってお前ではない。だから、お前が自分の立場を十分に説明し謝罪すれば受け入れらるだろう」

「そうは言っても隊長がなんと言われるか・・」とかなり武田は気落ちしている。

不動と友田は元の姿にもどりそれぞれ4駆に乗りこんだ。後部に沢木と武田を乗せ隊に向けて出発する。しかし、乗車の直前、武田が地面に転がっているスティックをさっと拾い上げ、隠し持ったことは誰も気づかなかった。夏の終わりで夕方に鳴くひぐらし蝉の大合唱を聞きながら森の中、車を走らせる。

帰隊すると、やはりゲートの警備隊員は武田の立ち入りを拒んだ。友田が直接隊長に連絡を取りOKをもらいまっすぐ隊長の執務室へ向かう。入室すると隊長は武田の変貌に驚いたが武田や不動から話を聞き、また武田の祖母が隊長宛に送ってきていた古文書などから、話は事実だと判断し、とりあえず数日間の滞在は許可された。

「沢木、お前の部屋のベッドは空いていたな。この時間だから短期滞在者用の部屋はセッティングできないだろう。とりあえず今夜はお前の部屋で泊まってもらえ」と隊長が言い、今夜は沢木と同室することになった。4人が退室したあと、沢木一人が再度呼び返されて、「これは重要命令だ、今夜は武田から絶対に目を離すな、厳重に監視してろ。」

沢木の部屋に入る頃には夜もふけ、沢木は急いでベッドのセッティングをする。自分の隊内用のスーツを脱ぎサポータ一枚になって、スーツをクローゼットにかける。「先輩は、こちらで・・」と声をかけるが、部屋に武田はいなかった。「しまった」とあわてて廊下に出て探すが、見つからない。グラウンドにでると月明かりの下の芝生の上で美しく輝いている武田がいた。沢木が「何をしてるんです、こんなところで・・」と声をかける。

夏の終わりで夜は虫の声とともに、吹き抜けていく風も心地よい。

「いや、少しこれからのことを、考えていた。」

武田は今の自分がこんな目にあったのは、やはり自分に原因があるのだと思う、と話し始めた。グラウンドに二人肩を並べてすわり、武田は、幼い頃両親に捨てられて、祖父の元で甘えることを知らずに育った彼は成人してからもやはり誰かにそのような感情を求めていたのだと思う。孤独感が常に付きまとい、自分の弱さにつけこまれてしまった・・そのような話しが武田の口から出てくることが沢木には違和感があったが、武田の話しは続く。

「うまくは言えないのだが、自分は同じ肉体をバットと共有していることにある種の幸福感を感じていた。バットも自分に対しては何か同じような感情を持っていたように思う。攻撃対象があるときは常に自分の心は完全に遮断されたが、それは自分に辛い思いをさせたくないという、バット独特の思いやりだった。だからそうでない時は何か運命共同体のような不思議な連帯感を自分とバットは持っていた。とはいえ、今日沢木、お前に攻撃をしかけてしまったことは、本当に悪いことをしたと思っている。許してくれ・・」

「もうその話しはよしましょうよ。俺は忘れました。俺は久々に先輩に会えてホントに幸せな気分すよ~。」と、努めて明るく話す。「夜もふけてきたし、そろそろ部屋に戻って寝ましょうよ」というと、「いや、自分はここでもう少し過ごしたい」と沢木に言う。「じゃ、俺も付き合います。」と言って、3年前武田が隊を去ってからのことなどを沢木は話し始めた。

しばらくすると沢木の話が止まり、武田が「沢木」と声をかけるが返事がない。隣でスースーと寝息をたてている。武田は「お別れだな」とぽつりと言い、そっとその場を立ちあがりグラウンドの隅の人目につかない場所に行き、隠し持っていたバットのバトンを伸ばし鋭い先端を自分の胸に突き刺した。ほとばしる血液、ほどなくして彼はがくっと膝を折りその場に倒れた。さーっと一陣の涼風が流れていった。

 

「大変だ、人が倒れているぞ」「医務官を呼べー」

翌日早朝、周囲の大声で沢木は目を覚ました。ハッと隣を見るが武田はいない。

大声のする方向へ走っていくとすでにひとだかりができ、医務官が蘇生に必死で取り組んでいる。そこにはすでに輝きを失い、表情のない武田の遺体が横になっている。沢木は人垣をかき分ふらふらと遺体に近づき突然大声で泣き叫んだ。「武田先輩ぃー、なんでだよぉー、なんで俺を残していくんだよぉー・・・」と人目もはばからず半狂乱になって泣き叫ぶ。覆いかぶさる様にしがみつく沢木を引き離そうとするが、誰も彼の力には及ばない。騒ぎを聞いて不動と友田もかけつけてきた。そして、不動は泣きわめく彼を力づくで遺体から引き離し、同時に武田の状態を観察している。友田が不動に顔を向ける。不動は首を横に振って、なすすべがないことを友田に知らせる。

「不動巡査長、俺が悪いんだ、俺が眠ってしまったばっかりにこんなことになってしまった。俺の命なんかくれてやるから、頼むよう、武田の兄ぃを生き返らせてくれよう」と必死に頼むが、物理的にそれは無理であった。武田の体はバットによってすべての構成細胞がバットのモノに置換されており、それを0レベルから通常の生活レベルまで引き上げるには、人間1体の数万倍のエネルギーが必要でとてもそれだけのエネルギーを彼に与える余裕はなかった。

とにかく半狂乱の沢木が冷静さを取り戻すように鎮静剤が打たれ、医務室で眠らせることにした。

その日の夕方、沢木は直属の上司である不動と友田と一緒に、重要命令職務違反についての事情聴取と弁明のため隊長の執務室に呼ばれた。

「どうだ、沢木、気分は落ち着いたか?」隊長が問う。

「はい、少しおちつきました。」

「では、昨夜のことを聞こう。正直に包み隠さず話してくれ。」

沢木はその場で、部屋から急に武田がいなくなったこと、探しに行くとグラウンドの芝生の上でたたずんでいたこと、二人肩を並べて座りいろいろな話をしたことなどを、正直に細大漏らさず隊長に話した。そして、話している途中で睡魔に襲われ、不覚にも眠ってしまったこと、そして、叫び声で目覚めた時には、武田は帰らぬ人となってしまっていたことなど事実通り時間を追って説明した。

「よしわかった」と隊長は静かに話す。「ほかに何か言いたいことはないか?」と問われ、沢木が答える。

「私が重要命令職務違反をしたことは明白な事実であります。これについては、私はどんな処分も甘んじて受けます。ただ、わたしはそれよりも、劣悪な環境の地方警察で手取り足取り指導してくれた武田を失ったことがことが本当に悲しいのです」と言うや、再び泣き崩れてしまった。

「隊長」と友田が話す。「なんだ、友田」

「武田がスティックを所持していたことを見逃したのは私の責任です。どうかご処分を。」

「いえ、隊長、最も悪いのは武田の心情を汲み取れなかったわたしであります。」と不動。「私が表面的ないさかいにばかり気をとられず、もっと彼の内面を把握できていればこんなことにはならなかった。最も処罰をうけるべきは私であります」

隊長は「ほんとに処分を受けたい奴ばかりなんだな」と苦笑しながら話す。

「では、本来であれば重処分の対象となり、審判を行うべきであるが、君たちの普段の功績に免じて本官の即決処分とする。君たち3名をこれからの3日間夜間の外出を禁止する。付帯条項として、その間に沢木の心情を回復させ、業務に耐えうる精神状態に復帰させること。である」

「了解いたしました」と3人は姿勢を正して、敬礼をしながら言う。この処分は重要命令職務違反の処分としては異例に軽いので隊長の心遣いとして3人はありがたく拝命した。

自室に帰る途中「沢木、ちょっと来い」と不動が言う。自室に入れ、部屋の隅に積まれた箱の中から1冊のファイルを取り出しそれを沢木に渡す。

「それは3年前武田が隊を出るときもし自分になにかあったときはお前に渡してくれと頼まれたものだ。私は目を通していないが、今回の事件の糸口がつかめるかもしれないので、お前に渡す」

その中には彼が昨日の夜に沢木に話したことに加え、子供のころから絶えず誰かに依存したいと思っていたことや、そういう心を他人に見られるのが嫌で強がっていたこと。そして沢木と言う弟を持てたことを心から嬉しく思っていたこと、沢木の心の強さは自分とは比較にならないし、せめて自分にその何分の一かの強さがあればもっと男としての自信が持てたのではないか。そして、沢木には今後どんなことがあっても今の正義感を持ち続け自分の職務を全うしてくれ、と結んであった。いわば、武田の遺書であった。

沢木は読みながら目頭が熱くなるのを感じたが、すでに涙は枯れ果てていた。それを持って彼はだまって不動の部屋を出て行った。

デビルマンにはなぜ人間が死を望むのかわからなかった。そこに至るまでの細やかな心の変化は彼の能力をもってしても知る由がない。死と言うものが存在しない地底界にあってはそれ自体不可解なものであった。

ドアをノックし剛が入ってきたので今の疑問について尋ねてみた。

「人間には我々にはない寿命というものがあります。それが長い人もいれば、短い人もいる。さらにそれを長いと感じる心もあれば、逆に短いと思う心もあるのです。寿命があるからこそ、その間にいくつか成し遂げるべき課題が生まれますが、達成できる人、そうでない人が生まれます。達成できなかった人には挫折という悪い心が支配し始めそれに覆われた時、人は寿命を短くしたいと思うようです。」

「しかし、生きていればまた明るい日差しが見えてくるであろう。生きてまた未来を見たいとは思わないのか?」

「そういう気持ちになれるかどうかが、心の強さでございましょう。残念ながら武田はあまりに心が翻弄され、疲弊し、すでに自らの心のコントロールが不可能な状態に陥っていたと思われます。」

「しかし、彼はバットとの間に心の連帯があったと・・」

「人独特の孤独感、寂寥感がそう感じさせたのでしょう」

「これだけ人間がいてもそのような感情をもつものなのか?」

「はい、人の心は高度な選択性をもっていますから」

「ドランゴ、俺を非情だと思うか?」

「・・・・」

「なぜ黙っている。」

「アモン様は・・・・非情でございます」

「そうか、しかし、闘いのなかにあっては、それは邪魔になる。」

「・・・・」

「俺は戦闘を目的として生まれてきたような男であるから・・・」

「アモン様・・・・ご無礼を承知で申し上げるのなら、アモン様は地底の防衛隊員としては不思議なくらい情を持っておられます。しかしそれは自分の味方に対する情であって、敵に対しては非情で冷酷です。アモン様は近い将来、次のゴッドとして地底界に君臨しなければなりません。そのためには、たとえ敵であろうとも、情を汲み取りまたそれを与えると言う寛大な心が必要ではないかと思われます。」

「お前が、俺に意見をするとはめずらしいな」

「お許し下さい。罰はどんな罰でも受ける覚悟です。」

「いや、私がお前に罰を与えるはずがない。確かに私に欠けていたのはその部分であろう。それを持っていたなら武田を死に追いやることはなかったかもしれない。」

「いえ、それは違います。武田の死はすでに3年前から決まっており変えることができなかったのです。」

「なぜ、そう言える?」

「私には、その人の心を読み取ると同時に人の未来、生死を予測することができるのです。しかしその結果はたとえアモン様であっても申し上げることはできませんでした。どうか、お許し下さい。」

「そうだったのか・・・うーん、人の心とは難しいものだ。」

そのような話がかわされたあと、友田は不動の部屋から出て行った。

自分の部屋に戻る途中、ふとグラウンドに目をやると芝生の上に人影があった。外に出て近づいてゆくとそれは沢木であった。ややうつむき加減に両膝を抱えて座っているその隣に友田も腰を下ろす。月明りで二人の影が後ろに伸びた。

しばらくの沈黙を破って沢木が話し始めた。

「警部、なぜみんな俺を置いて去っていくんでしょうか?」

友田はどう答えたらいいのか返答に迷う。

「みんな俺が強い奴だという。でも本当はそんなことはない。俺は小さいころから両親もいないし一人だったけれど孤独を感じたことはなかった。俺の周りにはいつも俺を支えてくれる人がいたように思う。

就職してからも武田先輩や不動巡査長のように尊敬する人とも巡り会えた。確かにそんな人の数は少ないけれど俺は十分に幸せな気持ちで今までを過ごしてきた。俺の心が弱くなったりくじけそうなときは、誰かがささえてくれた。俺にはほんとうにそれで十分だった。

武田先輩と昨日ここでいろいろな話をして、先輩はまだ俺よりも優れた技能や才能をもっているしお祖母さんと言う家族もいる。せっ

かく新しい力も持ったのに、なんで死んでしまったうんだろう。そして、残された俺はいつまで悲しみにくれればいいんだ・・・」

ドランゴはそれを聞きながら、沢木の心の中を読み取る。澄み切った一寸の陰りもない心であった。

 

「地上の人には死を悼み悲しむ心がある。われわれにはそれがない。

我々には死と言うものをどのように考えればいいのかわからないが、人にあっては寿命というものが必ず存在する。それが生物学的な寿命であることもあれば、人為的に作られたものもある。いずれの場合であってもそれはその人が生まれた瞬間に運命付けられたものなのだ。だから人がそれを変えることはできない。

しかし、人の死を悼むこと、悲しむことは美しいこと、清らかなことだと思う。だから、お前が死を悼む気持ちや悲しむ心を苦しみとか心が弱いことだと考える必要はない。それらが、自然と薄らいでゆき、思い出となって心の整理がつくまでには時間がかかるのは当然のことだ。

お前は今日まで自分一人の力で生きてきたわけではない。多くの人がお前に生きていくための力を授け、お前もその人々にそのお返しをしているはずだ。だから、お前が生きてきた人生は知らず知らず多くの人の影響を受け、また与えている。武田の死は悲しいことではあるが、彼はお前を愛し彼の知識や技能を全て伝授したことを見届けてのことだった。今朝の彼の遺体から聞こえてくる最後の微かなメッセージは「沢木は強くなったな」という言葉だった。彼はこの世には何も思い残すことはなく、お前との暖かい友情に包まれて死んでいったのだ。」

それを聞いて沢木は再び大泣きに泣いたが、それは今までの悲しみとは少し異質のものであった。安堵感が芽生え、苦痛が和らいでいた。そっと、剛が沢木の肩に手をかけ引き寄せると彼は剛の胸に顔をうずめ涙を流していた。

翌日、武田の遺体は検死の結果問題は見られなかったため、そのまま隊内で荼毘にふされた。祖母にも連絡を取ったがそこまで出かけていくことができないということであった。不動、友田、沢木の3人が遺骨を届けにいくことになったが武田の実家までは車で片道3時間かかるため、次の日の朝早く彼らは4駆で出発した。

月が替わり9月になっていたが、まだ夏草が生い茂り青空と日中の強い日差しは真夏と変わらない。何度か街と田舎が交替して武田の故郷に到着した。武田の実家の前で車から降りると祖母が門の前に迎えに出ていた。

「遠いところご苦労さんじゃったのぉ。さあ、中へ」と招き入れられた。昔ながらの大きな屋敷に3人は驚いていたが、「もう住むのも私ひとりじゃから、もてあましとるんじゃ」とやや寂しそうである。

仏間にお骨を納め、3人が手を合わせて、その後しばらくは4人で話をかわす。祖母は意外とさばさばしており、絶えず今日までの武田に対する3人の心遣いに謝意をしめした。

「おお、あんたが沢木さんかい。二年前に戻ってきたとき、自分にいい弟ができたといって喜んどったんじゃ。あれはずっと一人で、おじいちゃんも私もあんまり寂しい思いをさせないようにしとったんやが、やっぱりどっか暗さがあってのぉ、警察に入るって言った時はこれで、健太郎にも仲間ができるって二人で安心しておった。沢木さんのことはほんまに好きじゃったみたいだ。俺はあいつがいたからやってこれたって・・でも健太郎は心は優しいけれど、やはり人間は最後は独りなんだって言ってたから、やっぱどっかに・・・どっかに寂しさのようなものが絶えずつきまとっておったんじゃろうな・・」と言って目頭を押さえた。剛が沢木の方をちらっと見ると俯いて顔を見せないようにしているが、肩が震えており滴がひざの上にぽたりぽたりと落ちている。祖母もそれに気づき「ああ、沢木さん、つらい思いをさせてすまんのぉ、でもあれはしかたのないことじゃったんじゃ。」

といって3人を土蔵のほうにつれていった。「あの時は、わたしもうかつじゃった。武田家はここじゃ一番の旧家でのぉ。代々絶えることはなかったんじゃが、息子があんなことになって早死にしたもんだから、健太郎に武田家の一番大事な伝承をすることを忘れとったんじゃ。あの壺はもう千年以上前からこの家にあって、絶対に手に触れてはいけないというものじゃった。何が入ってるかは私らも知らなかったが、開けると必ず災いがもたらされるって・・・まあ、昔の人ってそんな言い伝えが好きだから、あんまり気にもしてなかったんじゃが。で、おじいちゃんが亡くなってそのことすっかり忘れてしまって・・。健太郎が帰ってきたとき、すぐに思い出せばよかったんやが」と言って扉を開ける。「ほれ、この箱。壺も気持ち悪いからそのままにしてあるけどね、古文書読んだときは驚いたね。もうそのときは健太郎もいなくなってたし・・なにか悪いことが起こらなければいいと思っていたけど。でもあんなふうにカラダ乗っ取られちゃうと健太郎の寿命は2年くらいなんだって。癌みたいなもんだね。」

その後、3人は武田が子供の頃この家で暮らしていた時の部屋に連れて行かれた。「まだ、家を出て行った時のままなんだけど、ついこのまえのことみたいじゃねえ。もうあれから何年になるか・・。あれは、小さい頃から武道が得意で・・・やっぱおじいちゃんの影響だけどぐんぐん上達してね、高校じゃ日本一になったくらいだから、そりゃおじいちゃんも随分期待してたよ。でこれが、そのときの写真とトロフィー。」

写真はまだういういしい、目を輝かせている凛々しい武田だった。

「あれは、絵も好きで小さいころからスーパーヒーローになるんだって、想像して自分でいろいろ描いてたね。」と言ってスケッチブックを不動に手渡した。中をめくってみて3人は驚いた。デビルマンとドランゴともう一人は人間であるが沢木そっくりである。表紙は3人が武器を持って戦いのポーズをとっている。ぱらぱらめくっていると、デビルマンとドランゴが地底からやって来て正義のために戦っている。途中からはバットも出てきて、バットはデビルマン達と交戦するが最後は人間のヒーローと戦い、負けてそのヒーローに許しを請い、自ら命を絶ってしまう、と言うストーリーだった。仰天した不動は友田の方に視線を向けると、彼は目を閉じて、何かを冥想しているようだった。

「まあ、なんか気に入ったものでもあればなんでも持って帰っておくれ。形見たって、この部屋にあるもんしか・・・あ、そうそう、最後に戻ってきたときバッグにこれが入っていたけど、なんかのおまじないかね」

と言って祖母から手渡されたものは、武田が隊を出るとき沢木が渡した護身用のお守りだった。

沢木は写真とお守りを、不動たちはスケッチブックをもらって部屋を出た。

出された昼食をとると、もう時刻は2時となりそろそろ帰隊する時間である。剛が「ありがとうございました。これで任務を遂行できました。」と敬礼、あとの二人も後ろに並んで敬礼。「ほんとにありがとう。これであの子もまっすぐ天に昇っていけるよ」と祖母は涙を流しながら別れを惜しんだ。

帰りの車は沢木が運転している。まだ心の動揺が続く沢木だがそれに打ち勝つ訓練だと不動が命令を下した。

「しかし、驚いたな。一体武田はなんで俺たちのこと・・・」

先ほどのスケッチブックを再びめくっていくと最後のページに8月30日と書かれている。彼が自殺した日である。

「おそらく彼は非常に強い霊感を持つことができたのでしょう。それがバットと言う精霊を呼び寄せた原因かもしれませんが。」

「霊感とはテレパシーのようなものか?」

「いや、もっと範囲の広い、一部の人間だけが持てる不思議な能力です。」

「ふーん」

車はどんどん走ってゆき、隊まであと数十キロとなった。左手に海が見え、日も傾き始めていた。海面が黄金色にきらきら光って美しい。

「沢木、次を左に曲がってくれ」と言って、剛の方を向き目配せを送る。

車は海岸に出て砂浜をしばらく走行した。

「ここは・・・」と沢木。

「そうだ、ここはお前と武田を乗せて、初めて隊へ向かったところだ。どうだ、懐かしいだろう。」

「はい、・・・でもあの時はどうやってここまできたのか、ぜんぜん覚えてないんですよ。」

「それは俺がお前たちを連れてきたんだ、空の散歩がてら」

それを聞いて沢木はすこし笑顔をみせた。

「またそんな空中散歩をしてみたいです。」沢木は水平線をみつめながら言う。

「じゃ飛んでみるか」と言って不動はデビルマンに変身し沢木の胸にがっちり腕を回し空へ飛び立った。夏の潮風を受けながら空中より地上を見わたすのは快適であった。約10分の飛行のあと、二人はまたビーチへ帰還したが、沢木の心はすがすがしく晴れていた。やっと吹っ切れたようで、彼はまたハンドルを握り、隊への道を急いだ。

隊へ着いたのは6時前。門限すれすれであった。今日でやっと夜間外出禁止が解かれる日であるから、時間厳守である。

帰隊しすぐに任務完了報告書を作成し各自の部屋に戻る。沢木は剛と明に「今日は本当にありがとうございました。」と感謝したが、

「ははは、これは俺たち3人の任務だからな、今日までにお前の精神状態を元に戻して通常勤務に戻ってもらわないと、俺たちの首が飛ぶんだよ。」

と不動が軽く受け流すととその場がなごみ、沢木はこんなすばらしい上司に恵まれたことを本当に幸せに思っている。

その後2年が経って、不動たちのチームはますます団結を固め、隊内だけではなく国家警察最強のチームとして、内外にその名を轟かすようになった。彼らに憧れて警察を志望する男たちも後を絶たない。

騎士団が消滅し周辺エリアではしばらくは平和が続いていた。騎士団の残党も雲散霧消し組織は壊滅している。これはバットすなわち武田の功績なのだが、国家警察としてはそれをあまり認めたくなくて、さかんに自分たちの日々活躍の成果だと宣伝している。国家警察はバットが悪人だったのか正義の味方だったのか未だに結論を出しあぐねているようだ。

 

 

不動たちの任務は前と変わらずエリア内のパトロールであるが、緊急出動は目に見えて減っている。

しかし、これはエリア内だけの話で国家の上層部は国外のある重大な異変について情報収集やその対応に追われていた。近隣の某国が近いうちに宣戦布告してくる可能性があるというのだ。この国は昔は最貧国であったが、もともと軍隊は強力で兵士のサイボーグ化を進め、隣の支援を受けていた国に恩を忘れて戦争をしかけ、その国を乗っ取ってしまった。もともと賢い民族だったからいろいろな新兵器を開発し世界で屈指の軍備を築き上げた。周辺の国は当たらず触らずであまり関わりを持ちたくないという姿勢だったが、それがこの国の横暴を助長させた。

核ミサイルを多数保有しており、世界のあらゆる国へ発射するスタンバイはできあっがている。そんな国のサイボーグ戦士を乗せた艦隊がこちらに向かってきているとの情報がもたらされたのだ。

果たしてそれは事実であった。いろいろな武器や弾薬、兵器を満載した艦船が2日後予告もなく港に入港して来た。

船は岸壁につけハッチが開きタラップが下ろされ前後をがっちりガードされた総督が船から降りてきた。ガードしているのはサイボーグ戦隊であるが、カラダも超合金で覆われて、武器も最新式の高出力レーザー銃を携えている。総督が突堤に立ち、その後ろにずらっと一列に整列する。

「我々は本日平和裏に貴国を併合するためにはるばるやって来たものだ。要求を無条件に受け入れれば流血は避けられるだろう。我々は無駄な戦いは我々は好まない。それにしても・・」

大声で叫ぶが前方を見渡しても誰も出迎えはいない。

「なんてやつらだ」とたいそうオカンムリである。

その間にも船からは大勢のサイボーグ兵士が続々と上陸してくるが、よく見ると彼らの風体は千差万別である。高性能な器材を装備したサイボーグは一部で大半は筋力アップの補助的人工筋を装着した程度である。もともと、サイボーグ化の計画は、兵士に食わせる食料が足りなくて、代替燃料で兵士の体を動かす試みから始まった。現在も基本的には変わっていないので、製品の品質管理言う点ではイマイチで、故障や誤動作が多い。また、人以外のサイボーグ化も試験的に行われており、サイボーグ犬はまだいいとして、サイボーグ狸やサイボーグアナコンダ、サイボーグ雀といった訳のわからないものまで試作されている。とにかく作ってみて用途はあとから考えるという方針である。

突然、一匹の野良犬がサイボーグ兵士の人工筋肉に噛みつき食いちぎってしまった。青白いスパークを上げながら筋肉は異常収縮をおこし、兵士の大腿の骨がぼきっと折れた。使い物にならなくなった兵士はその場で海に投げ捨てられた。

「展開」と総督は命令を出すが、道路を行き交う人々もちらっと彼らの様子を見て不思議そうな顔をして通りすぎてゆくばかりである。

実は政府は情報収集が遅れ、地方にはその対応のための連絡がされていなかった。

長年外国からの侵略などとは無縁で平和ボケの状態であったから、この様な悠長な態勢しか取れないのだ。

サイボーグ兵士達は一斉に走り出してレーザー銃で撃ちまくり、ばたばたと人が倒れていくが、それが済むと今度は一斉にコンビニを襲い、食料をむさぼり食い始めた。

彼らは人工筋肉の駆動用燃料は補給されるが食料はここ数ヶ月口にしたことがないので、腹がへってしかたがなかった。満腹になった彼らは満足し戦意を喪失し、店長にお礼を言いながら店から撤退した。なんのことはない、彼らが攻めてきた最大の理由は食料の確保だったのである。一般の兵士は装備も満足に与えられておらず規律も厳格に守られているとはいいがたいが、高性能な装備で固められた上級士官らはさすがに戦闘能力に優れ、これから始まる戦争では重要な働きをになう。

対する、防衛軍や国家警察は防戦の遅れを挽回しようとしているがイマイチ何から始めれば良いかわからず、指揮系統もはっきりしていない。どうも国家間の戦争に対する弱点を突かれたようだ。政府の上層部が余りに平和外交にこだわりすぎて、実戦訓練を怠ってきた弊害である。

敵艦船の着岸の情報を受けて機動隊員の間でも動揺が広がっている。

朝の隊員たちの食堂で

「あいつら、心を持ち合わせてないからよう、きっと負けたらキンタマちょん切られて、食われちゃうんじゃないか??」

「ばーか、お前のキンタマなんかくさくて食えるか。」

「スープにでもすればケッコウ美味いかもな。」

「ゲー、気色の悪いこと言うな。」

「だけど、サイボーグ戦士ってロボットみたいなもんだろ?」

「ゲームのリモコン戦士なら俺もコントロールしたことあるぞ」

とまあ、つかみどころのない話ばかりである。

しかし管理職についている剛は防衛隊と政府の対策本部と連絡を取り合うのに大忙しである。情報はこま切れで、敵兵士の人数も不明でこちらがどのような戦術で挑むのか、まったく計画が立たない。いまだに政府は宣戦布告なしの戦闘開始は国際法違反だってなんてことを言っているが、そんなことが分かるような連中ではない。

時間がたつにつれて侵入者らは暴行や略奪、重火器による砲撃など攻撃が一段とエスカレートしてきた。防衛軍の兵力では足りず国家警察の機動隊も対戦に加わることになった。不動、友田、沢木の3人もそれに加わり派兵されるが、希望で3人まとめて同じ前線に就くことができた。彼らは通常の戦闘用スーツではなく、防衛軍が着る迷彩色の高度戦闘用スーツが支給されたが、これは24時間常時着用せねばならず、若い3人にはやや苦痛であるが、耐貫通性や、衝撃回避力は機動隊のスーツより優れている。

部隊に合流した翌日からさっそく、押し寄せてくるサイボーグ兵士軍との戦いが幕を切っておとされた。

最前線の下級サイボーグは筋力が強められているとはいえ、人工筋肉の装備のための重量が過大で動きが鈍く、次々に防衛軍の射撃によりほぼ全滅した。しかし、士官クラスのサイボーグは、非常に俊敏な動きで、体に内蔵された銃を駆使して防衛軍を翻弄する。通常のレーザー銃では彼らの体を覆う超合金のパネルが反射してしまうため、新しく開発されたプラズマ銃が用いられ、コンピュータが照準をロックすると、自動的にパルス状の超高温プラズマが放出され彼らは即座に装備もろとも蒸発してしまう。敵味方の自動判別もやってくれるので、こちらはただスイッチをオンにするだけでいい。また電源車のないところでも使えるよう省エネ設計で、山岳地帯での交戦にも対応できる。

武器に関しては高度にIT化が進んだ防衛軍側に分があり、人と人との格闘戦が始まる前に侵略軍は3分の1に数を減らしていた。相変わらず食料の補給がないため、空腹が耐えがたくなるとコンビニを襲い満腹なれば、また戦隊に復帰すると言うことの繰り返しで、業を煮やしたコンビニ側も自衛策として食料にゴキブリホイホイを混ぜたり強力下剤を降りかけて兵士に出す店もでてきた。食事をとった彼らは急に視力が低下したり、激しい下痢で脱水を起こし、ばたばたと倒れていった。

侵略軍の総督は怒り心頭で、「K1を呼んで来い」と部下に命じる。「はっ!」

と駆け足で彼を呼びに行く。

船内の狭いベッドで出陣の準備をしている男。巨大な大胸筋や鉄の球を2列に整列させたような腹筋、手足の筋肉は極端に発達し、その筋繊維の一本一本がはっきり見えるくらい脂肪が少ない。立ちあがると身長は2m近くの大男であるが、全身が厚みのある筋肉に覆われているため少し離れて見れば良く鍛えられたアスリートである。

テコンドーの有力選手でオリンピックの出場経験もあるつわものであるが、徴兵のため選手生活を中断している。

「K1、総督がお呼びです。」まだ若い兵士はドアを開け、あけすけにそう呼び捨てにした。

K1のこめかみがピクリと動く。彼はK1と呼ばれることをことのほか嫌っている。元の名をキムと言う。サイボーグ嫌いでサイボーグ化されることを嫌がっていたが、無理やり眠らされ目覚めた時には90%が電子部品や駆動部分と置き換えられていた。外見的には変化はないが史上最強のサイボーグ兵士K1の誕生となったわけである。

「おい、こっちへ来い」

「はい」

「上官に向かってモノいうときは口のきき方に気いつけろ!」

と言って軽く兵士の鼻を指ではじく。バシッと彼の鼻が砕け、あまりの痛みに両手で顔を覆いうずくまるが、指の間から血がぽたぽたおちる。見ればまだ今年入隊したばかりの新人で制服もまだ新しい。

自分の制服はは破れがめだち、昨日までの戦闘で泥だらけである。総督の前に出るにはみっともない。

若い兵士の首を右手の親指と人差し指で挟み、空中に軽々と吊り上げ

「お前の制服をよこせ」といって、兵士を床に投げ捨てる。

わなわなと震えながら、彼は自分の制服やアンダーシャツ、ボクサーを全部脱いで裸になりそれらをK1に差し出し着せ始めた。兵士もそこそこ筋肉質でがっしりはしてるが、カラダの大きさが二回りほど違うのでボクサーはピチピチである。シャツも胸や上腕が破れそうで、カラダのラインそのままの姿が出ている。制服は多少伸縮性があるからなんとか着用できた。

「お前はここでしばらく静かにしてな」と裸の兵士の鳩尾に手をやり、軽く投げ上げると、兵士は激しく天井にぶつかり、そのまま2段ベッドの上に落ち、気絶してしまった。

総督の部屋でドアにノックする。

「キムであります。」

「おお、K1か。」

「いや、キムであります。命令はなんでしょうか?」

「いや、ほかでもない、今の戦況は我が方は非常に苦戦しておる。我が方の軍備力,精神力をもってすれば、叩きのめせるはずなのだが・・何か不足しているものでもあるのだろうか。」

不足しているのは、食料に決まっているだろう・・と喉まで出るがぐっとこらえて「了解。では私が最前線に出向き、敵方との戦いに挑んでまいりましょう。必ず勝利に導いてまいります。」

「頼もしい奴じゃ。期待しとるぞ。」

で、作戦と言えるものではないが、執行命令は終わりである。

これでホントに戦えるのかと思われるが、K1は今までの戦争で数々の勝利をあげてきた。しかも、ほとんど彼独りで、である。

それほどの凄腕であるが総督がいままで前線に出さなかったのは、今回彼が敵、味方の国家の血を半分ずつ受けたハーフだからである。

本人はあまり気にしてはいないが、やはり自分の母の国と言うものがどんなところかは知りたいと思っていた。図らずも、訪れることはできたが、この混乱ではそれを知ることもできない。

その日の午後から体に装着するパネルの組み立て作業が始まり夕方には完成した。彼の武器はレーザー銃ではなく長さが10mにもなる合金製の棒である。屈指の棒術の使い手でもあり、今のような高度な電子式の武器に対処するには、このような古くからの伝統的な武器が役立つことが多い。

翌日彼は最前線へ向かい、防衛隊や国家警察の機動隊とにらみ合うことになった。開戦時にはサイボーグ軍隊に恐れをなしていた彼らであったが実際対戦してみると、たいした戦力でもなかったので若干気の緩みが出ている。戦況はこちらに圧倒的に有利であり、もはや勝利を手にしたも同然という驕りがあった。

K1は突然棒を回転させながらこちらに向かって突進してくる。レーザーは体を覆うパネルに当たって反射してしまう。プラズマ銃は長い合金製の棒が回転しておりK1の移動速度があまりに速いので照準を捉えられず、空振りの連続で周囲はあちこちから火の手が上がっている。隊員達のなかに殴りこんでいったK1は超高硬度で先端の鋭い棒を縦横無尽に操り、刺したり切り裂いたり突いたり殴ったりであっという間に隊員の怪我人が続出し戦力は急速に落ちていった。不動も果敢な闘いをみせるが、なんといっても相手はサイボーグであり力は人の及ぶところではない。このままではますます犠牲者が増えるばかりであり、隊員達の目の前であるが変身を決め沢木に

「俺は変身する。援護してくれ」と頼む。沢木は持ち前の俊敏な動きでK1を翻弄する。さすがのK1も体に装着している数々の防具が妨げとなって沢木の動きに追いつけない。

その間に不動は右手で拳を空中に上げると同時に、天空から激しい稲妻が大音響とともに不動の体に集結し、スーツを突き破ってK1の目の前にアモンが出現した。彼は一瞬たじろいだが、どうせ同じようなサイボーグだろう思いと攻撃を再開する。アモンにはK1の攻撃パターンはすでにインプットされていたため直ぐに飛び上がり空中からK1に攻撃をとる作戦に出た。K1は手に持っている超合金の棒をアモンに投げつけるが、アモンはさっと身をかわしてその棒をつかみ、捻じ曲げてしまった。K1もこれには驚き、最大の武器も奪われてしまったので、自分の体で闘う以外の手段がなくなった。

K1には退去撤退という行動に出るプログラムは組み込まれていない。あくまでも、闘い抜き破壊されるまで、戦い尽くすのが彼の運命である。しかも敗北時には、恐ろしいプログラムがセットされている。

アモンは上空から激しい蹴りやパンチを浴びせるが高度に機械化されているサイボーグにはダメージも少ない。アモンの頭部から発射される強力な電磁ビームのパルスも効果は一時的である。しかし続いて空中より超高温のプラズマを浴びせると、急にK1の動きが止まりカラダの表面がブツブツと沸騰し始め、彼の表面を覆っていたパネルが溶解しはじめた。一方防衛隊のプラズマ砲もK1の動きが止まっていることで照準がロックでき、一斉に彼に向けて高温度のプラズマが放射された。目もくらむような状況で誰もK1の変化を視認することができない。この様な大出力のプラズマ放射はいくら電源車を並列にしてもせいぜい5分くらいしかもたず、バッテリー残が0となった時点で放射は自然に停止した。

K1は強い光の塊となって目を開けていられないくらいまばゆい。熱も100m離れていても熱気が伝わってくるくらいの高温である。誰もがK1を撃退できたと信じている。

突然、かすかに光の塊に変化が始まり、人間が起き上がるような形で光が地面から上に伸びていった。よくみるとそれらは無機質な金

属でできた骨格だった。すべての皮膚は焼け落ちており、頭も髑髏仮面のような状態で不気味な姿をさらしている。いろいろな部位を動かすたびに、きしんだモーター音が聞こえる。しかしこの姿になっても、K1はさらなる戦いを挑んできた。重装備が取れた分、軽快な動きができるようになった。武器はないが、もちまえのテコンドーの動きを最大限駆使して隊員たちを苦しめる。手や足の合金製の指は鋭く、突きや蹴りを食らうと簡単に人体を貫通した。俊敏な沢木も今度は逃れることができず右腕に大きな怪我をしさらにK1の右手が沢木の胸を貫こうとしたそのとき、K1の体が凍りつき身動きがとれなくなった。

ドランゴである。その隙に沢木はK1のメカのカラダを離れるが、すぐに氷にひびがはいり、K1は元通りになった。デビルマンは再び猛キックで頭部を狙うが即座に鋭い爪で両足を捉えられ激しい痛みとともに、ひどい出血をしている。そのままデビルマンをふりまわし、激しく地面にたたきつける。なんどもプラズマを浴びせ、ドランゴも凍結させようと努めるが、全く止まるところを知らず暴れまわっている。しかし、ある瞬間に変化が訪れた。K1のカラダからボルトやネジがポロリポロリと落ち始めたのである。

もともと工作精度が悪く、超高温と超低温の繰り返し攻撃を受けて溶接部分にひびがはいりはじめ、接合部のネジ穴がこわれ崩壊が始まったのだ。こうなるとデビルマンが少し腕をひねると、肩関節がボキと折れ顔をキックすれば首が後方にずれてしまうなど、次第にサイボーグとしての機能を果たさなくなり、単なる金属の塊になった。

リモートで戦艦からK1の状態をモニターしていた総督はこれでK1はもう使い物にならないと判断しコンソールにある赤いボタンを押した。それは、K1の体内に内蔵された起爆装置のボタンである。

一方のK1は起爆装置がリモートでセットされたことに非常な憤りを感じていた。いままでさんざんこき使われ、負傷すると廃棄物のように捨てられる・・・俺はこんな国のために働いてきたんだ、と言うことがわかり、彼の怒りは祖国への憎悪となって心の中を埋め尽くした。ここは一矢報いたい。

「おい、お前、飛べるのか?」とデビルマンに話しかける。

「飛べるが、それがどうかしたか?」

「いや・・・高性能なメカだな。だったら俺を戦艦まで運んで行ってくれ」

「修理でもするのか?」

「いや違う、説明している暇はないが、このままではここの連中もろとも跡形もなくなってしまうぞ」

「よし、じゃ運んでいってやろう。しかし、途中おかしなマネはするなよ」

デビルマンはK1を両腕で抱きかかえるようにして上空へ飛び立つ。

それを地上から見ていたドランゴであるが、デビルマンが負傷しており許容以上にエネルギーを使い過ぎているため、心配している。即座に、彼も気体になって後を追った。

季節は秋も半ばを過ぎ、木々の紅葉が真っ盛りで、上空から見る山々はパッチワークを施したような美しい風景を形作っていた。K1は自分の母がこんな美しい国で生まれ育ったのだということがわかり心が安らいだ。

「美しい国だ」とぽつりと言う。

「えっ」デビルマンは聞き取れなくて、問い返すが答えはない。

「早くしろ、俺をあの船に向かって投げつけるんだ。」

「しかし・・」

「何をためらっている。もう時間がない。俺を投げたら急いでここから離れろ。」

アモンは言われるがままに、K1を戦艦に向かって放り投げた。そして、急いで向きを変え戦場の方へ飛んでいく。その直後戦艦は轟音とともに大爆発をおこし、アモンの体を何度も衝撃波が襲う。後ろを振り向くと船は木端微塵になってあとかたもなく、散乱物が海面に浮いている。K1にセットされた核爆弾が爆発したのだ。

衝撃波でデビルマン自身もからだに大きな損傷を負い、翼も半分ちぎれそうになっている。しかも、その傷のためにカラダの修復のためのエネルギーチャージができない。なんとか残りのエネルギーを振り絞って、元の戦場に飛来できたが、彼は満身創痍である。股間のサポーターも破れ、彼自身のモノが外にはみ出ている。

しかし休む暇はなかった。目の前には大勢の軍の兵士や沢木ら機動隊員の死体やけが人がその場を埋め尽くしている。彼らを復活させねばならない。アモンは満身の力をこめ彼らに生へのエネルギーを送り続けた。最後の一人の体にわずかに残ったエネルギーを送り終えるとアモンはその場所に突っ伏すように倒れた。

 

彼は夢を見ていた。地底社会の池のそばにたたずんでいる。通り過ぎる人々はみんなこちらを向いて微笑んでいる。まるで今までの労をねぎらうかのようである。そこに、地底の防衛隊員らが大勢やって来ていろいろな話をし、またアモンからの話を聞こうとする。和気あいあいとした雰囲気の中にゴッドが現れ、アモンを支配者の椅子にかついでゆくように命令する。椅子に座ったアモンに対して、最大の賛辞をおくり、みんなで「デビルマン」「デビルマン」とエールを送っている。

 

「不動警・・いやデビルマン、起きてください、大丈夫ですか?」

うっすら目を開くと、沢木がいた。そして彼ら二人をを取り巻くように大勢の防衛隊員と機動隊員が心配そうにのぞきこんでいる。

みんなは今回の勝利がデビルマンの活躍がなければ、到底あり得なかったことを目の当たりにしているし、また、今自分が生きているのも、デビルマンのおかげであることも理解している。

沢木が後ろから抱き起そうとするが、巨大な翼が邪魔をしてなかなか起こすことができない。それを見たほかの隊員たちが力を合わせてデビルマンの体を支える。

「俺のカラダは時間がたてばもとに戻るさ。それはそうと、剛はどうした、無事か・・?」

沢木は一瞬顔を曇らせ、「それが、どちらにおられるか分からないのです。」

「沢木、ちょっと肩を貸してくれ。」と言って立ち上がろうとすると反対側にも自発的に防衛隊員が肩をいれ、立ち上がらせてくれた。

意識を集中しエリア内の友田の意識と交信しようとするが、反応はなかった。

「ちょっと離れていてくれないか」と沢木と周囲の隊員に頼み、両腕を頭の上でクロスさせ力をこめると自然界のエネルギーが彼に集中し全身の傷口から破片や流れ出た血液が飛んでゆき、輝く光が彼をきらきらと取り巻きながら、修復が始まった。周りの人々は呆然と見ていたが、ものの5分もたたないうちに彼のカラダは完全に元の状態に戻った。彼は今の自分の姿に対しても地上の人々が特に嫌悪感も示さず心から心配していろいろ手助けをしてくれたことをたいそう嬉しく思った。

しかしデビルマンに嫌な予感がした。ドランゴはひょっとすると自分の後を追ってきてあの爆風に巻き込まれたのじゃないか、と。防衛隊の分隊長に「これから、友田を探しに行ってきてもよいか」と許可を得て敬礼し、その場を飛び立とうとするが、急に沢木が「私も一緒に連れていってください」とデビルマンに頼み、分隊長はこれも許可を与えた。

彼は左腕で沢木を抱き、右腕を空中にかざし飛び立っていく。そして、K1の時と同じルートをたどり、ちょうど港が見える付近に近づいてきた時、僅かながらドランゴの意識を感じ取ることができるようになった。地上に降りたち付近を捜すが、爆風でほとんどの建物は倒壊しコンクリートや鉄骨といった瓦礫の山となっている。交信を続けようとするが、意識は断続的でドランゴの身に何か異変が起こっていることを予感させた。意識の強まる方向に歩いて行くと地下に下りる階段があり、地下通路の一部がボーっと明るくなっている。

そばに駆け寄ると、やはりドランゴだった。しかし、彼の姿は頭と上体はあるが、四肢はなく至る所から青い血液が流れ出している。

「ドランゴ」と呼びかけると、僅かに目を開け、デビルマンと沢木であることがわかり、すこし安堵の表情を浮かべるが、彼の状況は極めて深刻である。

彼が後を追って港にさしかかったころ大爆発が起きて、気体状の彼の体は衝撃波をまともに受け、飛び散ってしまった。ようやく20%は集結できたが、多くはかなりの遠方に飛ばされたようで、カラダに集結することはなかった。彼のカラダの修復機能をもってしても気体の60%が必要で、今回は原体に戻すことは不可能である。このまま死を迎えることになる。

「私にできることはないか?」とデビルマンが尋ねるとドランゴは

「その瞬間を迎えるまで私を抱いていてください。」という。デビルマンは両腕で彼をしっかりと抱きしめる。感きわまった沢木もドランゴにすがって涙を流すが、彼は薄く目を開け「こんどは私のために泣いてくれるのだな」と言いつつ彼の体はしだいに薄らいでゆき、ついに消滅した。デビルマンはしばらく姿勢を変えず、その後静かに立ちあがったが、その目には薄く涙が光っていた。

二人はその後前線に戻り軍の分隊長と機動隊長に友田の死を報告した。爆風のため損傷が激しく遺体の回収はできなかったと伝えると、二人は承諾し友田の死を深く悼んだ。

戦いが終わった戦場からはすでに各部隊は撤退の準備を進めており、沢木と不動もそれに加わった。

帰隊は翌日となったが、不動には気の晴れない夜であった。沢木も不動のこのような落ち込みを見たことがなかったので、どのように慰めればいいのか思い浮かばない。

「ひとりにしてくれないか」

不動に言われ沢木は、一人外に出て空を見上げていた。武田の時と同じ月夜の夜であるが、秋も深まっており風は冷たい。こんな時、友田であればどういう風に言って不動の心をなごませるのか、やはり自分と友田では不動との心の距離はかなり差があったんだと、少し残念に思う。

しばらくして、人影がこちらに向かって歩いて来るのに気づく。不動であった。

「沢木、さっきはすまなかった。」

「いえ、警部、お気持ちは痛いくらいわかります。ただ、私には警部のお気持ちをどのようにすればなごませることができるのか、わからないのです。申し訳ありません。」

「いや、俺は今までこのような場に遭遇したことが無かった。ただ他人がこんな場面で嘆き悲しんでいるのを冷たく見ているだけだった。

俺は、こんな場面でも平常心で貫き通せると思っていたが、そうではなかった。自分の弱さを他人に見せるのが嫌で、自分にはそんなものは存在しないと強がっていた。なのに、それがもろくも崩れてしまったことが情けないんだ。」

「警部、お気持ちはわかりますが、私は死を悼む気持ちは尊いものだと思います。悲しく思えば泣く、愛おしければ思い出にひたる、心が晴れなければ、それををさらけだす、それでいいのではないでしょうか?俺はいろいろと悲しい体験をしてきましたが、その度心の中をさらけだして、それを乗り越えるたびに強くなってきたように思います。警部は今日最良の友を失われたのですから、警部の気持ちを覆い隠す必要はありません。今の気持ちのありのままをここで話されれば、気持ちはきっと軽くなります。」といって、沢木がそこに腰をおろした。

不動は沢木からこのような言葉が返ってくるとは思わなかったので、ためらいはあったが同じように沢木の隣に座った。

周りは虫の声、風の音、遠くからは戦争が終わってほっとしたのか、かすかに笑い声も聞こえてくる。

不動は自身とデビルマンとの二重生活に疲れているようだった。もう合体してから10年である。この間、肉体を酷使し精神的にも疲弊していることが自分でも感じられるようになったという。強大なエネルギーを一瞬で吸収し急激な放出を繰り返すことはデビルマンだけではなく不動自身のカラダにとっても大きな負担となっていた。

「わかりました。私には友田さんのかわりになれるほどの力量はありません。しかし、警部がそのように苦しんでおられるのなら、できるだけ警部の心が軽くなる様に努力を惜しみません。そして最後に友田は凄い奴だったが、沢木はもっと凄いと警部に言わせて見せますよ。」

と努めて明るく言った。不動は彼の言葉を聞き、沢木の成長を強く感じた。そして不動も明日からの活力をもらったようで気分も晴れた。

翌日、前線での機材、装備は全て撤収され防衛軍と機動隊にそれぞれ搬入が完了した。機動隊で隊員の労をねぎらうレセプションがあったが、やはり話の中心となったのは不動、すなわちデビルマンだった。

隊員達の目の前、ど真ん中での変身であったから、デビルマンが不動だということが知れわたってしまい、ここで変身して見せてくれと言う品のないリクエストもあったが、そんなことしたら、ここのみなさんは黒焦げになりますよと茶化してその場をわかせた。

それから半年がたった。戦争での功績により、不動は警視に、沢木は警部に特進したが、職務はほとんど同じであった。ただ平和な時代が続き、警備の負担は軽くなり、アモンに変身せねばならないような事態はなくなった。

ある日、沢木とパトロール中、不動にとっては思い出の場所・・・苦い思い出であるが、騎士団の連中やバットと初めて出くわしたあの場所である。

周りのがれきはあの時のままで、10年の年月が嘘のようである。しばらくエンジンの出力を落としそこにたたずむが、当然空から飛来するものがあった。一瞬身構えるがそれはかつての地底界の防衛隊の仲間であった。

ふらふらと着地し、よつ這で苦しそうである。

「アモン、そろそろ帰って来てくれないか?」と力なく不動に言う。

不動は変身せず、そのままの姿で問いかける。

「なにかあったのか?」

「ゴッド様が病で力が弱体化され、地底界の平和に亀裂が入っている。これを治められるのはお前だけだ。」

「それは緊急を要するな。急いでその準備にかかる。」

「それでは、俺は地底界で待っている」と言って飛び上がろうとするが「痛てっ」といってまたもやその場にうずくまってしまった。よく見ると全身いたるところに深い傷があり、マスクや翼もひきちられて破れている。「クーデター派の攻撃にあったからな・・・俺がお前を呼びに地上に出ることをなんとか阻止しようとする連中の・・」

不動は右腕を天に向かって翳し地上のエネルギーを一気にカラダに集める。そして、アモンに変身すると、仲間のカラダの修復のためのエネルギーを照射し始めた。修復が終わると仲間は立ち上がりまた飛び立とうとする。

「おい、すこしカラダを休めてからのほうがいいんじゃないか」と言っても「いや、こうしているうちにも事態はどんどん悪くなっているから」

沢木は地底界の緊急事態の話を聞いていて、ただならぬことと感じアモンに、直ちに同行して下さいと申し出る。

「私も一緒にいきましょうか?」と尋ねると

「いや地底界は地上人が決して足を踏み入れてはいけないところだ。だから私ひとりで行く」「ただ、不動のカラダが心配だ。できればここで離脱してやりたいところであるが・・・」

これには沢木もどう答えていいかわからなかったが、ことは緊急を要しているので、アモンと仲間は二人で地底界へ飛び立った。

沢木は祈るような気持ちで二人を見送り、その後不動の白バイを自動操縦に切り替えて追尾させ帰隊した。

アモンらはクレパスからどんどん地底へ降りてゆき地底界の回廊を歩きゴッドの元へ急いだ。ゴッドの部屋の周囲を取り巻く警備は防衛隊ではなく、下級の地底人が行っている。アモンを見て驚き一斉に飛びかかろうとするが、アモンのカラダから放出されるプラズマで一気に蒸発してしまう。

ゴッドが横たわっていた。顔色も悪くやせて見る影もなく弱弱しい。

「どうなされたのです。」と尋ねるとゴッドは話始める。

今まで、地底界はいくつかの身分階層に分かれ、それぞれが自分の分をわきまえ、その領域の中で役割を持っていたが、しだいにそれに不満を持つものが出てきた。能力を持っていても防衛隊員として活躍することは許されず、逆に無能な隊員であっても首にならないばかりか、下級の地底人を殺しても罪には問われなかった。そんな社会に一人の男が立ち上がった。名をファルコというが、ドランゴと同じ最下層の民であったが、非常に聡明で武闘も優れていた。彼は何度も防衛隊員となることを希望したが、鼻で笑われ相手にされなかった。

しだいに、「こんな地底界は俺が変えてやる」と、同じ考えを持つ仲間を呼び集めついにクーデターを敢行した。悪いことに、ゴッドは病に倒れており、求心力は失われていたし、防衛隊員の規律も失われつつあったので、あっという間に隊員らは制圧され捕えられて投獄された。なんとか、一人は逃れることができ、ゴッドは彼にアモンを呼び返すように指示を出したものの、途中でクーデター側に見つかり交戦の末、何とか地上に脱出できたのだという。

それを冷静に聞いていたアモンであるが憤ることはなく

「それでは私がファルコと話をしてみましょう。」とゴッドに言い残し部屋を出た。ファルコの部屋は地底界の隅の小さな貧しいたたずまいであった。その部屋を警備するものは誰もおらず、アモンはノックして部屋に入っていった。部屋の中にファルコがいて、アモンを見て一瞬驚いた表情を見せたが、それよりもっと驚いたのは、アモンのほうであった。ファルコはドランゴとそっくりであった。

「アモン、君は我々最下層のエリアに足を踏み入れたことはないんだね」と笑みを浮かべながら、静かに話し始めた。アモンのような高い階級はこのエリアのことはあまり知らない。交流を持つことはまずなかったのでそれは当然であった。

「我々は、みんな同じ顔、形をしてるんだよ。だけど、心は澄み切っている。みんなこの地底界を愛し、地底界のためなら誰にでも尽くし、みんなで協力して命を捧げたって惜しくはないって思ってるんだ。でも防衛隊の奴らはそんな俺たちの気持ちを踏みにじり、もてあそんでさんざん馬鹿にしてきた。さいわいゴッド様は私たちの願いをよくくみ取って下さったが、でも病で倒れられてからは、防衛隊の首領のいいなりになってしまわれた。

アモン、俺は君の力を知っているよ。だから君と戦って勝ち目がないことも分かっている。でも俺たちは最後まで戦って地底界にも俺たちの様な民がいるんだってことを知らしめてから処刑されたい。」という。

アモンは静かに彼の話しを聞いていた。「その首領とはだれか」と尋ねる。

「トリクです。」

アモンはやっぱりあいつか、と苦々しく思う。

仲間の防衛隊員に牢獄に案内させる道すがら、反乱軍側と小競り合いはあったが、アモンを見ると逃げ出し、大きな衝突はないまま牢獄隔壁のバリアの前に来た、反乱軍の番人にバリアを解除させ、全員を牢から出した。その中にトリクもいた。

「トリク、ちょっと待て」

トリクはドキッとしてアモンの方に近づいた。久しぶりの再会であったが、あまり良好な雰囲気ではない。アモンはトリクにファルコの話を伝え、これが真実かどうかを確かめた。

「確かにそのとおりですが、そのことはいままでもそうだったじゃないですか」

「しかし、ゴッド様の意向はそうでなかったはずだ。いつからお前はゴッド様になりかわったのだ」

そしてファルコとトリクの二人を前にして、全ての防衛隊員を集め、二人の主張を聞かせ、どちらの主張が正しいと思うかを挙手させた。結果はファルコ側が圧倒的で、トリクの側に賛同したのは数名であった。トリクは今までの罰として、マスクをはがされ、再び投獄された。

ファルコは自分が処刑されることを覚悟していたのでこの審判には大変驚きアモンの深い思慮に感謝の意をあらわした。

アモンはゴッドにこのようになったという報告をし、ゴッドも承諾をした。

「アモン、私はもう病に伏して長い。私の求心力や統治能力も落ちている。このようなできごとももとはと言えば私の力量不足に原因があるのだ。

アモン、そろそろゴッドの座をお前に譲りたいと思っているので、そろそろ、地上界から戻って来てくれ」

「ゴッド様、私は今もあなたの忠実な部下です。ゴッド様がそう仰るのであればいつでも戻ってまいります。ただ今の私は地上人と合体しております。地底界に戻る前に彼を離脱せねばなりません。そのためには一度また地上に戻る必要があります。」

ゴッドとの話がしばらく続き、その後彼はまた地上世界への旅に出た。アモンは機動隊の中庭に降り立ったが、出迎えた沢木や隊員に地底界の現在の出来事を詳しく話し、こんどは永久に地底での生活に戻らねばならなくなったことを告げた。

「もう会えないんですね・・・」と沢木は寂しそうである。

「沢木、それは俺にとっても同じ思いだ。この10年間、私の中には地上の人々との触れ合いの中で地底社会では経験したことのない感情が芽生えてき、カラダのなかで成熟した。今私は、相手の心の中に入ってその気持ちを共有することができる。俺はそういった心のふれあいといったことは必要のないものだと考えていた。戦うのに邪魔になると考えていたが、そうではなかった。心の交流があれば、理解しあえるし無駄な戦いで血を流さなくてもよい。地上にやってきて初めてそれがわかったのだ。そして、それを教えてくれたのは、沢木、お前だ。お前のことは、地底界に戻っても決して忘れない。」

「それは、自分も同じです。あなたから教わった勇気と授かったこの力をこれからも正義と平和のために使ってゆきます。」

「そうしてくれ。お前に授けた力がそのような形で使われることが私の一番大きな置き土産だ。」

「不動警視は一緒に行かれるのですか?」

「いや、不動はここに残す。不動とお前はお互いを失うことが大きな痛手となる。沢木、お前は不動から多くのことを学んだが、私と合体してからの不動の記憶は断片的なものになっているだろう。彼にはこの10年間、大きな肉体的、精神的な負担をかけて済まないと思うが私が去ったあとは、お前が不動を支えてやってくれ。」

「わかりました。必ず不動警視の右腕となってみせます。」

そして不動との体の離脱が始まった。万が一に備えて医官も待機している。彼は空中に両腕をかざし、静かに自然界のエネルギーをカラダに蓄えて行った。そしてそれが頂点に達したとき光の輪が彼をとりまき、まぶしい閃光を放ちながらアモンのカラダか中心から左右に裂けはじめ中に不動の裸体があらわれた。分離が完全に終わると光は消えアモンのカラダはもとに戻り二人のカラダは別々の個体となった。

不動のカラダはやや痩せてはいるが、二人が合体した時の若さに戻っている。彼は眠っているようだ。

「不動はこのまましばらくは眠り続ける。目覚めた時には私の記憶は全て消えさっている。しばらくは混乱があるかもしれないがそれは時間と共に薄らいでいく。もちまえの精神力の強さで乗り越えられるだろう。私は、もう戻らねばならない。お前のこと、隊のみなさんのこと、地上の人々のことは決してわすれない・・・」

そう言い残して彼は再び地底界へと飛び去った。皆は呆然として彼を見送った。

不動は彼の部屋に移されたが、こんこんと眠り続けその間沢木が部屋で付き添った。およそ3日間眠り続け、不動は目を覚ました。

「おお、沢木じゃないか・・なんで俺はこんなところにいる・・なんか変な夢を見ていたが・・おかしな気分だ。」

「そりゃ、警視、合体を離脱したばかりですから」

「合体、離脱・・? なんのことだ?」

沢木ははっとして、不動の顔を見た。彼の顔は10年前に戻っている。

「警視、今日は何年何月何日ですか?」

「そりゃ、2052年4月23日だろう?」

「いえ、今年は2062年ですよ。月日は合ってますが。」

「えっ・・・ってことは、俺は10年間眠り続けたってことか? んな・・ハズはないよな。まあそんなことはどうでもいいか・・でさっきから、ケイシケイシってなんのことだ?」

「現在の先輩の階級です。」

「そうかぁ、眠っている間に4階級特進か、こりゃ得したな・・」

「眠っておられた訳ではありません。」

「まあそんなことはどうでもいい、しかし、ヘンな夢を見たもんだなあ。アモンやらドランゴやら・・なんだったんだろうな、あいつら・・・俺の深層心理かな??・・」

不動は混乱している。沢木の質問に対する答えもちぐはぐである。記憶が断片的で、アモンに変身していた時の記憶が離脱とともにほとんど持ち去られたため、時間の感覚がおかしくなっている。しかし、冷静に心の奥底のわずかな記憶をたよりに、沢木も協力して時間をかけて記憶を再構築していくうちにこの10年間の軌跡がほぼよみがえってきた。

「で友田は・・・?」

沢木にとっては一番尋ねられたくない質問で返答にためらいがあったが、思いきって

「友田さんは10年前に亡くなられています。」ときっぱりと答えた。

不動は、目を瞑り静かに思い出していた。

「そうだったな。あの時は俺の力が及ばず救うことができなかった・・・。」

沢木はドランゴからこの時の様子を聞いていたから、特に否定もせず、不動の言葉通りに受け流した。

「沢木、これからは俺とお前でペアを組んでこのエリアの治安を守ることになる。頼むぞ」

沢木はこの言葉を聞いて胸が熱くなるのを感じた。自分が今まで夢にまで見てきた瞬間であった。

「はい、もちろんです。不動警視の右腕となって尽くします。」とはりきって答えた。一方で今までは、どうしても、友田の次という立場で、友田に対する遠慮があったがこれでやっと不動を独り占めできる、という不埒な欲望がむらむらと今の彼を支配し始めた。

というのも、今目の前にいる不動は一糸まとわぬ素っ裸である。自分がこんな会話を冷静にしていられるのが不思議なくらいである。しかも不動の顔はどうみても自分よりは若いし、敬愛の気持ちなど吹き飛んでしまっている。

「警視、俺は・・・俺は・・」

「なんだ、沢木?」

「俺はもう我慢ができない。」と叫び着ていたアンダーやビキニを一気に脱ぎ捨て不動に襲いかかった。不動はそんな沢木を初めは押しのけようとしたが、沢木の力に負け受け入れてしまう。不動の心には友田の影がよぎり、彼にすまないと思ったが年月がそれを許してくれるだろうと考え、新しいパートナーに身をゆだねた。二人が絶頂をきわめたとき、大量の体液が空中を舞った。そして、ともに抱き合って今後の結束を誓い合った。

 

一方、デビルマンは地底に戻り、多くの人々の歓待を受けながら、ゴッド引退後の新しい王として玉座に着席した。地上で学んだ、多くのことを今後の地底界の統治に生かしていくことで、争いのない社会を作り上げようとしていた。身分などという馬鹿げた制度は一気に撤廃し、誰もが試験によって希望する職につけるように制度を改め、ファルコらは新しく防衛隊に採用された。皆がデビルマンの心の広さに感服し、彼は歴代で最良の王として地底界に君臨した。

 

 

「おーい、沢木、出動だ。ぐずぐずするなぁ。」と不動が激をとばす。二人はぴったり息が合って、お互い最良のパートナーである。

若い二人がパトロールする姿もなかなかカッコよく、治安が良くなったこのエリアの人気者となっている。

「あーあ、また今日も何もなく帰るのかー」と不動がぐちをこぼすと、沢木は「そんなこと言うもんじゃありません」とたしなめる。「じじくっせーヤツ」と笑い飛ばすが、いつかどっかでこんな会話があったなと、ふと昔を回顧する不動であった。    (完)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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