仕事と友達との約束。
どうしても今日中に東京へと戻らないといけない五代君と春香ちゃんを見送った響子さんは、お店の手伝いを終えて、義父の待つ病院へと向かった。
~病院内の義父のいる病室~
そこには昨日の元気さとは程遠い、闘病中の義父の姿があった。
そしてその傍らには毎日通ってくる義母の姿も。
[てっきり帰ってしまったと思ったのに]
[嬉しいと言うべきか何と言うべきか]
今日もわざわざこんな病人の所へ来てくれた嬉しさと、昨日突然とんでもない事を言ってしまって、
響子さんを足止めしたような格好になってしまった申し訳なさとが入り乱れる義父の心。
[昨日話した事は忘れて欲しい。響子さん]
[ここんとこ、こうして病院に入院してるとどうしても弱気になってしまって]
[それと、つい裕作の態度に腹が立ってカッとして言ってしまったのでな]
義父は昨日の事は自分の本心ではない、忘れてくれと響子さんに言うが・・・。
[いいえ、あたし・・・いえ、あたしたち、余りにもお義父さまとお義母さまのこと・・・考えていませんでした]
[ずっと自分たちの事しか見ないで生きてきてしまったんですね]
[昨日のお義父さまの言葉には本当に考えさせられました]
[あたしもそうですし、もちろん裕作さんも・・本当にごめんなさい・・・申し訳ないです・・至らない嫁でして]
今までどれだけ自分が義理の両親の事を気に掛けていただろうか?
義父の昨日の言葉に後悔しきりの響子さんだった。
響子さんが夫と子供を先に東京へ帰してまでこの地に一人残った強い思い。
それはやはり、亡くなった惣一郎さんと音無の義父と、今の夫の義父、義母との関係を対比して考えた時、
如何に今の夫の両親との関係が希薄だったのかと改めて思い知らされたからだ。
2度の結婚を体験した響子さん。
その環境に流されていた自分に気付いた。
ほとんど隠居状態で、自由に生きていた音無の義父。
一方定食屋を義理の息子夫婦と切り盛りするために、1年中額に汗して働き、暇らしい暇すらない五代君の両親。
惣一郎さんと結婚した時はそのまま音無の家で音無家の家族と暮らした。
しかし、五代君との時は新婚の時は一刻館の管理人室にそのまま間借り、その後仕事と収入も安定したので今のマンションを購入して入居した。
夫の仕事の関係もあるのだが、ずっと東京暮らしで、夫の実家の新潟で生活するなんて事は、心の片隅にも置いていなかった。
わずか半年程度の結婚生活しか送れなかった音無家との繋がりと、子供も出来て、17年以上夫婦をやっている五代家の両親との記憶を呼び起こした時、
響子さんにはどうしても、音無の義父との記憶ばかりが鮮明に蘇ってしまうのだった。
音無の義父は惣一郎さんが亡くなった後もいつも近くにいた。
だから接する機会も多かった。
それは五代君と結婚した後、音無の義父が亡くなるまで変わる事はなかった。
義父は自分の息子が急死して未亡人となった元嫁の響子さんを実の娘のように心配し気遣ってくれて、五代君と遂に再婚をする際にも真心を込めて祝福してくれたのが本当にありがたかった。
音無家から籍を抜き完全な他人となってしまった響子さんなのに・・・。
一方、五代君の両親は遠くに住んでいるだけではなく、仕事柄なかなかまとまった休みも取れない。
だから逢う機会も少なく、必然的に電話位のやり取りに終始してしまった。
しかし、それは言い訳に過ぎないと思う響子さんだった。
[いやいや、響子さん、そんな事はないよ]
[あんまり自分を責めなさんな]
[それに昨日の話はねえ、本人の意思もある事だから]
義父は本人の意思・・・という言葉を口にした。
[分かっています。お義父さま]
義父の口にした“本人の意思”。
その言葉の意味も含めて響子さんは考えてみたいと言う。
その“本人の意思”・・・とは?
[春香・・・にお婿さんを取らせると言う事も含めて]
そう、一番肝心なのは、“跡取り”なのだ。
五代君夫婦が単に新潟へ戻って、姉夫婦と定食屋を営むだけでは話は終わらない。
必然的に二人の、いや、五代家の血を引く春香ちゃんが、最終的にはお婿さんをもらうなりして継いで行かないとならないのだ。
[気持ちは嬉しいが、響子さん、焦って変な考えを起こしちゃダメだ]
[裕作も東京で自分の生きる道を探して真面目にずっと・・必死に頑張って、勤めている保育園で園長になれたんだし仕事には愛着だって人並みにあるだろうしな]
[春香だって優しくて明るい女の子なのは分かってて知っとるけども、生まれも育ちも東京なのに新潟でいきなり実家で跡継ぎの為に婿を取れなんて言ったら、それこそ本気で怒り出すだろう]
[現代っ子と言うより、あの子だって”何でパパとママは大恋愛でお互いに好きな相手と結婚したのに娘のあたしは恋愛して好きな相手と結婚したら駄目なの?”くらいは主張したいだろうな。我が侭じゃなくて当然のことだ]
響子さんの言うことは嬉しいが、余りに急ぎ過ぎていると釘を刺す義父。
[それに、始まりがあれば終わりはあるもの]
[今すぐにあの店がどうこうというわけじゃないから、そうなったらそうなったで、その時考えたらいいさ]
[20年、いや30年位先になるかもしれんが、もう嫁に出した2人の孫娘のうち誰かの子供が定食屋を継いでやってみたいと言うかも知れないしね]
義父は先の事なんか取り敢えず気にするなと、にこやかに響子さんに話した。
[お父さんの言う通り]
[今は私たちの事は気にしないで、自分たちの生きたいように生きなさい、響子さん]
[まだまだ老けこんだりしないわよ、私たちは]
ずっと黙って二人の話を聞いていた義母が初めて口を開いた。
[それがいい]
[私も今月中には退院するんだし、そうすれば多少でも店の手伝いは出来る]
[裕作にもそう言っておいて下さい]
努めて明るく義父は言った。
[はい、分かりました]
義父と義母の言葉にモヤモヤが晴れていくような気分になった響子さん。
[急げばまだ何とか新幹線間に合うんじゃないのか?]
時計をちらりと見た義父はまだ何とか今日中に東京へ帰れるよと響子さんに促した。
義父の言葉に響子さんは少し戸惑いを見せたが、
[裕作も春香も首を長くして待っているわよ、きっと・・それこそ動物園のキリンみたいにね]
と言う冗談とも本気とも取れる義母の言葉に後押しされ、急いで駅へと向かった。
そんな響子さんの背中を見ながら二人とも””本当に裕作なんかには出来過ぎた嫁さんだな””と思っていた。
[ホントに裕作の奴、よくもあんなに落ち着いていて礼儀作法を弁えた、しっかり者で別嬪さんの女性を嫁さんに捕まえたな。今でも信じられん気分だ]
[どう考えても我が息子ながら勿体無いくらいだよ。アイツはあんなにのほほんとした頼りない男なのにな。変に苦労を掛けていなければいいんだがな]
と五代君の父が正直な感想を漏らす。
[まあ、不釣合いじゃないのって私も最初は思いましたけどね。雛壇のお姫様かお人形さんみたいで、びっくりするくらい綺麗なね、別嬪さんなのに気が利いていて働き者で優しくて。でも世の中、頼りない男にはしっかり者の女性が奥さんとして来てくれるんじゃないですか?]
[正真正銘の美女とダメ男の組み合わせですけれど、響子さんからしたら・・この人はホントに頼りないから私が居ないと駄目だってね。そう、心配だから目が離せないわって・・そうでもないと理由がありませんよ。裕作にとっては凄く幸運なことにね]
[その代わり、尻に完全に敷かれても全然気にならない位に裕作が響子さんに・・とことんベタ惚れでないと長年一緒になんか暮らせませんよ・・お互いにね]
[ま、苦労はともかく響子さんも裕作には呆れて嘆くぐらいはしてるかも知れませんけど、ここまで本気で心底惚れられてたら・・・”やれやれ・・世話の焼ける人なんだから・・・でも、まぁ仕方ないかな”とは何とか思ってくれてるでしょ]
[それに頼りない代わりにお人好しですからね、裕作も。あの子なりに惚れ込んだ響子さんには流石に偉そうに威張ったりなんてしたりしないで、とことん大切にしてあげなくちゃと優しさと温かさをいつも頑張って発揮してるそうですよ]
[春香に聞いたところ、ふらふら遊びになんか行かず常日頃から響子さんと一緒にいようとしているから、頼りない亭主でも裕作は奥さんの響子さん一筋で一途ですから幸い寂しい想いだけはさせていないみたいで・・ま、それは完全に確かでしたけれどね]
[全く定食屋の息子の癖に料理ひとつマトモに出来ないんだから情けない。まあ春香に言わせると”ママがとってもパパを甘やかしているから”らしいですけど、ですから裕作も響子さんには頭なんか上がる訳はないですよね]
[あんなに綺麗過ぎる上品で清楚な女性から毎日朝昼晩と食事を作って貰って、いつも狂喜乱舞して凄く美味しいって平らげてるそうですから、間抜け面でも奥さんの響子さんにね・・他愛ないけど尽くし甲斐を自然に抱かせてるから何とか存在価値だけは有るんじゃないかって]
[まあそれだから20年近く連れ添ってもね、離縁状も三行半も突き付けられていないじゃないんですかね?本当に金の草鞋を用意してでも迎えたい出来過ぎの女房なのが申し訳ないくらいにね、響子さんが母性本能豊かで慈愛に富んだ女性だからこそでしょうけれど・・]
母親も遠慮無く不肖の息子と素晴らしい嫁を比較して返答していた。
[何でも裕作が浪人して受験に四苦八苦している時に知り合ったんだから・・随分と長い付き合いなんだな。本当に響子さんほどの立派で素敵な女性なら他に幾らでも相手が居ただろうに・・・就職浪人までしたんだから情けなくて涙が出て来るくらいのボンクラな息子をなあ]
[響子さんも裕作には多少なりとも好意だけは持ってくれたんだろうが、ひょっとしたら見捨てるのが気の毒で可哀想だから罪悪感でも感じてくれたんじゃないかって邪推もしたくなるよ。こんな事を言ってしまったら裕作もヘソを曲げるかも知れんが・・]
[一人前の男に成りきれなくて足掻いていた裕作をだ、それでも見捨てずに夫として選んでくれたんだからアイツは勿論のこと、わしらも本当に響子さんには感謝しないとなあ・・あんなに無邪気で元気一杯の可愛い孫娘まで産んでくれたんだし・・申し訳ない気分が晴れんよ]
父親もなかなかボヤキが止まらないようだ。
嫁として常に慎み深く接してくれる響子さんとは良い意味で異なり、孫として無邪気に慕って甘えてくれる春香ちゃんのことは祖父母として愛しく大好きでいつも嬉しかった。
今回は祖父が入院している病室なので春香ちゃんも高校生らしく気を遣って静かにしていたのが残念だった。いつもならもっと明るく賑やかにしてくれているのに。
遠距離に住んでいるので滅多に逢えないのに小さい頃から人見知りせずに喋りかけてくれる孫のことが五代君の両親にとっても非常に大事な存在なのであり、そんな彼女を産んで健やかに素直に礼儀正しく躾けて育ててくれている嫁の響子さんには二重の意味で感謝しているのだ。
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[ママ明日には帰って来るよね?]
[そうだな、明日中には帰ってくるさ]
一足先に時計坂のマンションへと帰り着いた五代君と春香ちゃん。
新幹線の指定席を取ってあったのと、早く帰りたいという自分勝手な思いから、響子さんを一人残してきてしまった事を、口には出さないけど後悔していた二人。
自分たち二人は見た目ではほとんど共通点が無くほんの面影しか似ていないが内面では思考回路と行動パターンがほぼ一緒であることを今更ながら思い当たったのである。
五代君にとって響子さんは最愛の妻で最高に大切な理想の女性であり、春香ちゃんにとっては最高に自慢の母親・・綺麗で優しくて料理が上手で同じ女性として憧れる存在で・・二人ともとっても大好きなのは自問自答などする必要も無いくらいだ。
そんな大事な響子さんを一人だけ置いて帰るなんて普段なら全く考えられないことだ。自分たち家族は何があろうと常に三人一緒でなければならない筈なのに・・・。
事実これまでは本当にそうであった。春香ちゃんが誕生してから最初の9年余りは一刻館の管理人室で、それ以降の7年間は新居のマンションで常に三人一緒で必ず同じ空間で過ごしてきた。
例えて言えば太陽系の中心である太陽は響子さんで、五代君や春香ちゃんは地球や金星のような惑星であり、響子さんが明るく照らし続けるからこそ輝ける存在なのだ。
生きていく上で絶対になくてはならない存在なのが言うまでもなく響子さんなのだから離れてしまうようことを今回すべきではなかったのに・・そうしてしまった。
今更ながら自分たちの愚かな行動を後悔している父と娘である。
時計の針は深夜0時を迎えようとしていた。
[そろそろ寝なくていいの?パパ。明日仕事でしょ?]
寝巻きには着替えていたものの、自分の部屋と居間を行ったり来たりする春香ちゃん。
[春香も明日約束があるんだろ?]
同じく寝巻き(響子さんとお揃いで色違いのパジャマ・・ちなみにデパートで選んだのは響子さんだが、支払いをしたのは五代君である・・どうしても自分がお金を出したいと珍しく駄々をこねたのでそうなった・・愛する奥さんとお揃いの服を買いたかったのである)に
着替えているものの、寝室には行かずに居間で新聞とテレビを交互に見ていて落ち着かない様子の五代君。
早く寝るべきなのに何となく寝付けない二人。
それは何となく、
ある“予感”がしていたから。
“ガチャ”
[ただいま]
[あ、ママ!帰って来たんだね]
[おお、お帰り、響子]
響子さんが今夜中に帰って来た。帰って来てくれた!
二人の“予感”は見事に的中した。
[やだ、二人ともまだ起きてたの?もう12時過ぎよ?]
喜び勇んで玄関まで出迎えた五代君と春香ちゃんを見た響子さんは半分呆れて言う。
しかしその表情は、とても嬉しそうであった。
この3人の堅い絆さえあれば、この先どんな困難が待ち受けていたとしても、乗り越えていけるに違いない。
今日一日の出来事を振り返ってしみじみと思う響子さんだった。
荷物を運んでくれている五代君を尻目に響子さんにお茶を入れてくれる春香ちゃん。
[パパったらママさえ居れば上機嫌なのよね、ほんと]
[さっきから娘の私が何言っても上の空の生返事ばかりなんだから、呆れちゃうわ]
小声で響子さんに半分冗談半分本気の言葉を耳打ちで呟く春香ちゃん。
[あら、ホントかしら?]
[いつも春香のことが心配だな心配だなって言ってるじゃない、パパだって]
響子さんも口では否定しながらやはり表情はにこにこと嬉しくなる。
[え~?だってパパの頭の中って十中八九は愛するママのことだよ。あたしのことなんて一割以下よ・・つまはつまでも刺身のツマよ]
[そのことに小4かな・・10歳の時に気付いて悟ったから、まあ今更いいけどね・・ちょっぴり憤慨したけど]
春香ちゃんは手厳しく、とてつもなく愛妻家過ぎる父親を小声でだが続けてチクリと糾弾する。
そこへ響子さんの荷物を運び終わった五代君がやって来る。
[ん?二人とも何の話だい?]
[[何でもないわよ]]響子さんと春香ちゃんは同時に同じ言葉を笑顔で返答する。そして母娘二人で [[ふふふ]]と笑い合う。
春香ちゃんは性格など内面では夫にそっくりなものの、そこは母と娘だ。同じ女性としてぴったり一致する面だって結構ある。
そんな瞬間の場面では二人とも嬉しい気分になれるのだ。
このまま我が家の暖かい雰囲気が保てればそれでいいなと響子さんは改めて実感している。
ここには響子さんにとって自分の居場所がある。それは五代君にとっても春香ちゃんにとっても同じことだ。
三人三様、それぞれ居場所が有りそれは必ずこの家の中なのだ。三人が揃えさえすれば快適で楽しい空間であることは変わらない。
何の遠慮も要らず寛げる場所がある幸福を全員が感じているのである。
高校生の娘がいても五代君夫妻はパパママとは呼び合わない。
娘と話す時は同じ呼称で話すが、夫婦同士では決して言わない。
五代君にとって響子さんは最愛の妻であってママではないから今でも嬉しそうに「響子」と呼ぶ。
(知り合った当初は「管理人さん」→5年が過ぎて恋人になれた時から「響子さん」→遂に結婚した後は「響子」)
響子さんにとって五代君は大好きで大切な旦那様であってパパではないから優しく「あなた」と呼ぶ。
(最初は名前でなく「浪人さん」→大学合格後は「五代さん」→結婚直後は「裕作さん」→春香ちゃん誕生後は「あなた」)
こういう点が娘の春香ちゃんからすれば自分の両親は本当に仲がいいなあと素直に思ってしまう。
友人達の両親と比べて仲が物凄く良過ぎて恥ずかしいなと思う半面、そんな二人が結婚したから自分が生まれたんだと理解していてその点は本当に嬉しいとも春香ちゃんは思っている。
母親の響子さんは夫の五代君を常に愛する男性として見詰めて優しく接しているが、春香ちゃんのことももちろん愛する一人娘として深い愛情を注いでくれている。高校生の自分としては少し過保護かも知れないとは思うが。
物心着いた頃よりずっと周囲から、特に友人たちから”春香のママって綺麗で優しくて羨ましいなあ”と賞賛されていて自慢の母親であり、娘としても同じ女性として憧れている。常に朗らかで優雅な立ち振る舞い、慎み深さと上品さに感嘆しているのは確かなのだ。
父親の五代君は妻の響子さんを唯一の恋愛対象の女性として物凄く大切に考えていて暮らしているので、春香ちゃんからしたら”パパって本気でママのこと大好きなんだな”と感じているし、同様に”ママも本当に本気でパパが大好きなんだなあ”とも感じてしまっている。
だが五代君も春香ちゃんのことを娘として可愛くて可愛くて仕方の無い存在と考えてくれていて、小さい頃から春香ちゃんがどんなに下らないことに精を出してもずっと付き合って遊んでくれた記憶もある。
今だって不器用ながら何とか娘の為にしたいなと考えてくれているのが理解できる。
だから春香ちゃんはパパである五代君が大好きだし、ママである響子さんも大好きであるから家族三人揃って過ごす時間がとっても嬉しいのだ。
ひとつだけ不満があるとすれば、弟か妹がどちらか一人だけでも欲しかったなあと思う点だけだ。もっとも今からでも可能じゃないかな?と、お互い40台を過ぎていても両親の唖然呆然としてしまう仲の良さから勘繰ってちょっとだけ実は期待している。
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沸かしてくれていたお風呂に入りゆっくり汗と疲れを流した響子さんは寝室に入ると、ベッドの上でもう目を瞑っていた夫の五代君を確認すると・・軽く口付けをして
『お休みなさい、あなた』と呟くと・・・もう眠っていると思った五代君が目を開けたことに気付いた。
[あら?ごめんなさい、起こしちゃった?]
[ん・・いや目を閉じてただけで起きてたよ。・・今日はお疲れ様、どうだった親父とお袋は?]と五代君は枕の上から顔を向けて尋ねる。
[・・・うん、昨日の話しはね、やっぱりお義父様も入院して気弱になったから言い出したことで、気にしないでいいですって。・・退院したら少しは手伝えるし、まだまだ老け込まんっですって]
自分のベッドに腰掛けて響子さんは夫と話を続ける。
[そうか・・。いや、もちろんおれもあそこの息子だし・・商売も大変なのは子供の頃から知っているつもりだから親父の言いたいことは・・まあ、分かるんだけども・・]
[もし出来るんなら手伝いたい気持ちもあるけど・・実際、東京と新潟じゃ無理だしな。・・おれも仕事があるし、やっと何とか一人前になれたんだし・・保父の仕事を辞めたくはないよ。自分でも天職だと思ってるしね]
正直な気持ちを五代君は呟く。
[ええ・・ですから、お義父様もお義母様もね・・分かって下さっていて・・・。自分たちも頑張るからお前たちも好きに生きなさいって言って下さったわ]
響子さんは再度お見舞いに行った時に話し合った内容を伝えてくれる。
[・・・そうか。・・ありがとう、響子。変な話、父親と息子の意地の張り合いに巻き込んじゃったなあ・・悪かったよ。でも響子のおかげで解決・・うん、何とか丸く収まって助かった。本当にありがとう]
[今頃親父とお袋、二人して響子のこと言ってるだろうな。裕作なんぞには不釣合いでね、勿体無いくらいに過ぎた嫁さんだなあって・・ホント申し訳なかった・・・・]と五代君は妻に感謝とお詫びの気持ちを伝える。
[あら、ふふふ・・・別にそんなこと・・・ないですよ。・・・とにかく一件落着みたいですから・・もう、今夜は休みましょう?明日あなたも早いんでしょう]
[ああ・・・もう寝るよ。安心できたしね・・・君も疲れただろうから眠ろうよ。・・お休み、響子]
[ええ、お休みなさい・・あなた]
そう返答すると響子さんも、もう一度夫の枕元に近付いて就寝の挨拶であるキスを・・きっちりと唇を密着させて交してからベッドに横になり就寝していった。
以下、次回