“ブロロロロロ~”
郁子ちゃんの住むアパートの前へとタクシーは着き、二人を降ろして走り去った。
アパートはとてもお洒落な造りで、玄関はオートロックとセキュリティもしっかりしている優れものだった。
“お家賃高そうね・・・”
響子さんは思わずそんな計算をしてしまった。
取り敢えず千鳥足の郁子ちゃんを部屋の前まで連れて行く響子さん。
“ガチャ”
玄関の扉を開き、電気を点けると、とても清潔感漂う郁子ちゃんの部屋が見渡せた。
[さあ、郁子ちゃん、帰って来たわよ]
[もう大丈夫よね?そろそろあたし帰るから]
郁子ちゃんを玄関へと上げると、響子さんは時計をちらりと見て玄関を出ようとした。
[おばさま・・・・帰っちゃうの・・・・そうなんだ・・・]
[そうなんだ・・・あたし、やっぱり一人ぼっちなんだ・・・]
そう言うと、郁子ちゃんはその場に泣き崩れてしまった。
そんな脆い郁子ちゃんの姿を目の当たりにしてしまっては、響子さんも流石に帰る訳にはいかなくなってしまう。
時計の針はもう23時を大きく回り、電車で時計坂へと帰り着くことは不可能となっていた。
よしんば電車に乗ったとしても、途中で止まってしまい、どこか知らない土地で降ろされてしまうのが関の山だ。
玄関先で座り込む郁子ちゃんを見て、響子さんは自宅へ電話を掛けた。
“”ああ、あなた。あたし、響子です””
”“ええ、今日は・・・郁子ちゃんの所に泊まることにするわ””
“”明日早くに帰りますから、心配しないで””
響子さんは郁子ちゃんと一晩を過ごす決心をした。
[ほらほら、だらしないわよ、郁子ちゃん]
響子さんは郁子ちゃんの背中を軽く叩いて玄関から部屋の方へと移動させた。
すると郁子ちゃんは・・・。
“ガチャ”
冷蔵庫へと向かい、何かを取り出した。
[へへへ~迎え酒。今夜は呑み明かしましょう、おばさま]
手にしていたのは酒類だった。
[もう、郁子ちゃんたら]
呆れる響子さん。
[ふふふ、だっておばさまと一緒に居られるのが嬉しいんだもん]
子供のように無邪気に笑う郁子ちゃん。
そんな郁子ちゃんを見ると、怒るに怒れない響子さんだった。
[まあまあ、呑んで下さいよ~]
[いっ、くらでもありますからね~~]
ビールやらワインやら焼酎やら、テーブルの上にはこれでもかと多種多様なお酒が並べられた。
[・・・いつもこんなに呑んでるの・・・郁子ちゃん???]
その量と種類に圧倒される響子さん。
[ん~そんなでもないよお~。貰い物とかもあるし]
[おばさまの家ってほとんどお酒飲まないからそう感じるのよ、きっと]
まだお酒を漁りつづける郁子ちゃん。
[あ!おばさま吟醸酒発見!]
[これ貴重品なのよ~!]
[さあさあ、カンパーイ]
グラスになみなみとお酒を注ぐ郁子ちゃん。
“ここまで来たらとことん付き合ってあげるか。”
そう決めた響子さんはにっこりとグラスを手に取った。
[・・・・ごめんなさい、おばさま]
[酔った振りして・・・今日は無理に引き止めちゃって]
今まで明るく振舞っていた郁子ちゃんが突然神妙な面持ちで響子さんに語り掛けた。
[いいのよ、郁子ちゃん]
[こうして逢うの本当に久し振りだったし、郁子ちゃんどうしてるのか・・・あたしいつも気掛かりだったの]
[だから、今夜はもうそんな事気にしないで呑みましょ]
響子さんは郁子ちゃんを咎めたりせず、ニッコリと笑った。
[おばさまが家にお嫁に来たのはいつの事だったかしら?]
郁子ちゃんは響子さんといた日々を思い返していた。
[そうねぇ・・・あたしがあの女子高を卒業して間もなくだったから・・・]
[もう25年位経つのかしらね?]
[まだ郁子ちゃんは小学生だったわね]
懐かしい記憶を呼び起こす響子さん。
[あたし、惣一郎おじさまのお嫁さんがどんな人かとても不安だったのよ]
[意地悪い人だったらどうしようとか、年取ったおばさんだったらとか]
[でもおばさまに初めてお会いした時、お姉さんが出来たみたいに感じたの]
[あたしほら、一人っ子だし]
[嬉しかったな]
グラスのお酒を口に運びながら、郁子ちゃんは響子さんと出逢った頃の事を話し始めた。
[ふふ、あたしも郁子ちゃんと同じように感じてたの]
[可愛い妹が出来たみたいだって]
[だって、あたしも一人っ子だったから]
[兄弟とか姉妹が欲しいな・・・って、いつも思ってた]
郁子ちゃんも響子さんも同じ一人っ子だった。
お互いに兄弟がいないため、余計に親近感を覚えたのかも知れない。
[でも・・・惣一郎おじさますぐに死んじゃったね]
[そうね・・・惣一郎さん・・・本当にあっけなく死んでしまったわ・・・]
[でもね、本当にあたしに掛け替えのない思い出をたくさんくれたわ]
[惣一郎さんは・・・・・・・・]
惣一郎さんの事に話が及ぶととてもしんみりとしたムードになった。
惣一郎さんの死によって、郁子ちゃんと響子さんがひとつ屋根の下で暮らした時間は、あっけなく幕を閉じてしまった。
[でも・・・それでも五代のお兄ちゃんと出逢って・・お人好しで危なっかしいけど、すっごい優しくて温かい男性とこうして今でもご近所で評判の仲良し夫婦になったんだから]
[まあ・・・いいか]
[でもどうして三鷹さんと結婚しなかったの?おばさま?]
いきなりドカンと爆弾発言の郁子ちゃん。
[な、何で郁子ちゃんそんな事知ってるの?]
いきなりの事に驚く響子さん。
[だって昔、四谷さんとか一の瀬さんとか暇さえあれば噂してたわよ]
[あたしが聞いてもいないのに]
[“管理人さんは三鷹さんと結婚秒読みだ”・・・とか]
流石は一刻館の住人。
ゴシップネタは誰彼、構わず流しまくる。
[ねえどうしてかなあ~?]
執拗に追求する郁子ちゃん。
[あれ?黙っちゃった?]
[まあまあ、まだお酒が足りないのね]
と、郁子ちゃんは更にグラスへとお酒を注ぐのであった。
[さあさあ、グイッと、おばさま]
[たまには弾けないとね]
[溜め込んじゃダメよ~おばさまそういう性格してるから]
注がれたお酒を飲み干すと、
いい感じで酔いが回ってきたのか、響子さんは滑らかに話し始めた。
[そりゃあねえ、三鷹さんの方がお金持ちだし、歳上で頼りがいはあるし、ハンサムだし・・・何度もぐらついたわよ、あたし]
[未亡人で若くもないあたしをもらってくれるなんて・・それだけで嬉しいじゃない。女として]
[それに比べて家の亭主は要領が悪いし、仕事はなかなか決まらなかったし。年下で頼りないし]
[単純に比較すると三鷹さんと結婚するのが世間一般では普通よね?]
[ふ~ん、そうなんだ]
[それでも五代のお兄ちゃんに決めたのは何故なの?]
[それは・・・たぶん・・・]
[初めて一刻館であの人と逢った時にはまだ何も感じなかったけれど・・]
[その後しばらくしてから・・ずっと何故か心惹かれるものがあったのね・・・色々ときっとあたしだけの心の琴線に触れる何かに。ドジで頼りないから目が離せないなって思わせるのに・・何故か可愛くて・・要領が悪いのに必死であたしに気持ちを訴えてくれて・・・]
[それだけじゃなくて、ずっと主人はあたしを一途に真剣に見守ってくれてたから・・知り合ってから5年も6年もずっと。未亡人だったあたしの気持ちも否定せずに大事にして守ってくれたまま・・・]
[あたしは主人の気持ちを知っていたわ・・でも主人も・・あたしがヤキモチを妬いたり嫉妬するから・・主人に好意を持っていたことを知っていたのに・・・それでもキスどころか・・手も握らせてあげなかったのに・・ずっと待っていてくれたの。信じられないでしょ?]
[でもそう・・あたしが一人の女として、あの人のことを一人の男性として向き合えるようになるまで・・待ち続けてくれたわ・・・本当に長い間ずっとね]
[あたしが負い目とかじゃなくて・・大好きな、愛している男性が目の前から急に消えてしまう恐怖に勝てなくて・・五代裕作と言う男性の胸に飛び込む勇気がなくて・・あたし自身が優柔不断だったのに・・それでもずっとあたしのことを好きでいてくれて待っていてくれたの]
[だから、三鷹さんに心が傾きかかっても・・・そのまま流される事はなかったんだと思う]
[・・それからね・・あたしの我が侭だけど・・こんな風に大切にしてもらいたいなあって気持ちを・・主人は凄くちゃんと理解してくれて・・・分かってくれないなって思う点があっても、ずっと見守ってくれているから段々と悟ってくれて・・結局最後には分かってくれるの]
[本当にね、あたしが五代の恋人に、奥さんになりたいって本音の・・・最大の理解者で・・・・主人もあたしのことを恋人に・・奥さんにしたいって気持ちが伝わって来てて・・・そう・・だから・・あたしたちは結婚したの・・・ちょっぴり時間が必要だったけれども・・ね]
((今でも時々・・娘から呆れられるくらいに・・殆ど毎日のように・・・ううん、それこそずっと毎日・・朝から晩まで・・・ずっとね、愛し合っているわ・・夫婦として、ね。・・だって、お互いにね・・そうなりたかったから・・・))
((結婚してから・・夫婦喧嘩したことだって実は皆無じゃないわ・・でも結局、痴話喧嘩って犬も食わないって言うのか・・・露骨な比喩だけど、障子や襖と一緒で嵌めれば直るって本当よね。仲直りだって、あっという間にしてるから・・知らない間にキスしてるんですもの))
((そしてね・・喧嘩したことなんて忘れて、でもいつもよりも熱烈に・・セックスして愛し合っているの。そんな時はあの人も・・激しくて逞しくね・・・だから、あたしも結局は思いっ切り甘えて・・・直ぐに元の鞘に収まっているのよね・・何も無かったみたいに))
((だからね・・何かこう、何時でも夫婦として阿吽の呼吸を感じ取れるし・・・本当に幸せで・・あたし・・ずっと嬉しいままよ))
[・・・なるほどねえ・・・・]
響子さんの告白に黙って頷く郁子ちゃん。
[・・・ところで郁子ちゃんの方はどうなのよ?]
[三十過ぎて一人なんでしょ?]
[誰かいい人いないの?]
このまま郁子ちゃんに攻撃されっぱなしではたまらない。
響子さんは郁子ちゃんに逆に問い質した。
すると・・・・・。
[・・・・あのね、あたし・・・]
[おばさまに話さないといけないことがあるんだ]
突然俯き加減になった郁子ちゃんはポツリと一言言った。
郁子ちゃんは何を抱えているのだろうか?
郁子ちゃんはついに意を決し、響子さんにならと、自分が社会に出てからの“閉ざされた過去”について語り始めた。
[響子おばさま、今でもたまにあたしの家に出入りしてるでしょ?]
郁子ちゃんは響子さんが自分の実家に出入りしている事を確認する。
[ええここ数年は数える程度だけど]
その言葉にただ頷く響子さん。
[母は何か言ってた?]
郁子ちゃんが尋ねると、
[詳しい事は聞いてないけど、言う事を聞いてくれなくて困ってるとは・・・]
郁子ちゃんの問い掛けに少し言葉を濁す響子さん。
[そう・・・・]
一言それだけ小さく頷きながら郁子ちゃんは呟くと、しばらく間を置いてから衝撃の事実を告白した。
[あたしね、おばさま・・・]
[不倫してたの]
郁子ちゃんの口から直接告げられるショッキングな事実。
[郁子ちゃん・・・嘘でしょ?]
“郁子ちゃんに限って!”
“そんな馬鹿な話!?”
響子さんはまだ郁子ちゃんの言葉が信じられないようだ。
[うふふ、ホントよ、嘘じゃないわ]
悪戯っぽく微笑む郁子ちゃんは、陽気で明るく人なつこい、いつもの郁子ちゃんから、急に一人の女の顔になった。
[あたし、大学を卒業してから、まあちょっとは名の知れた会社に就職して]
[仕事も何もかも順調だった]
[ああ、社会に出るってこんな感じなんだなあ・・・・って新鮮だったし]
[でもその後がいけなかった]
[それから数年後・・・あたしは同じ部署の上司と恋に落ちたの]
[だけどね、それは・・・許されざる禁断の恋だった]
[ここまで言えばおば様も察しがつくでしょ?]
ちらりと響子さんを見る郁子ちゃん。
言葉が見つからない響子さんは、郁子ちゃんの視線をまともに受けきれず、口をつぐむだけだった。
そして決定的な一言が!
[その人ね、奥さんがいたの]
[あたしが勝手に熱上げて、その人に家庭があるのは承知で迫っていったんだけど]
[最初はその人も家庭があるからまともに相手してくれなかったわ]
[でもね、そのうちにその人も本気になって・・・いつの間にかあたしのアパートで一夜を過ごすことが多くなった]
[幸せだったわ・・・]
当時を振り返り、遠い目をして郁子ちゃんは言った。
郁子ちゃんの話を聞き、ここで響子さんがようやく口を開く。
[でも郁子ちゃん、それで幸せだったの?]
[相手の方にはご家庭があったんでしょ?]
決まりきった言葉ではあるが、響子さんは郁子ちゃんにそれで良かったのか尋ねてみた。
[おばさまならどうする?]
[ねえ?おばさまがもし、好きになった男の人に奥さんや恋人がいたら・・・]
[あっさりとあきらめる事ができる?]
郁子ちゃんは響子さんの言葉に反発した。
奇麗事をただ並べ立てる響子さんは嫌いだと。
そんな郁子ちゃんの態度を見た響子さんは・・・。
[そうね、そうよね]
[郁子ちゃんが正しいのかも知れないわ]
[あたし、自分の感情に素直になれない所があるから]
[昔・・・家の主人に、五代にね・・真剣に好意を寄せている女性が実はね何人か居たわ]
[七尾こずえさんとか、八神いぶきさんとか]
[その人たちと主人の距離が近付くのを見ると・・]
[あたし・・・内心で凄くヤキモチ妬いたりしたけど、何も出来なかった。あたしも本心では主人のことが実は気になっていて好きだった・・大好きだったのにね]
[でも、結果的に主人があたしを恋人に・・奥さんに選んでくれたから良かったんだけど]
[もしも、他の人になびいてしまったら・・・]
[あたしには引き止める事は出来なかったのかも知れない]
[そう・・・あたし・・・臆病なのね]
[恋愛や、男の人に対して]
[だから・・・]
[“一人の女”として”郁子ちゃんが羨ましい]
響子さんは自分の過去と郁子ちゃんを重ねあわせ、あくまで“一人の女として”郁子ちゃんが羨ましいと言った。
だが響子さんはこうも付け加えた。
[でもね、そんな関係・・・長続きはしなかったんじゃないの郁子ちゃん?]
ズバリと核心を突いた。
[流石はおばさまね]
[その通りよ]
[甘い時間が過ぎていくの本当に早かった・・・流れ星のようにあっという間に]
[そこから先はお約束以上の悲惨な転落が始まったわ]
[いつの間にか誰からともなく、社内にも不倫の噂が流れて・・・部内の誰かが二人の関係を会社の人事や上の方に密告して]
[それと平行して彼の奥さんにもあたしの存在がばれて]
[会社やあたしのアパートだけじゃなく、あたしの実家にまで奥さんが押し駆けて来て・・・]
[メチャメチャになった・・・・彼も私も何もかも・・・]
[彼は・・それが原因で地方で僻地の営業部に左遷されてしまった]
[もうこれでたぶん出世の可能性はゼロになったと、社内で情けないくらい酷い笑い者にまでされてしまった・・・出世街道まっしぐらだったのに・・]
[彼は奥さんと家庭裁判所で調停の末に離婚したけど・・・]
[あたしとは一緒になってくれなかった。・・・左遷されて出世できなくても構わなかったのに・・・別れることを一方的に告げられて・・]
[それどころか・・・]
“”お前と出会った事は俺の人生の中で最大の汚点だ!””
“”俺の人生をぶち壊してくれたお前には恨みしかない!””
[って・・・別れ際に吐き捨てられた・・・]
[そして・・・・・・・・あたし・・・ひとりぼっちになっちゃった]
[社内にも居場所はなくなって、自然と辞めざるをえなくなって]
[親にも迷惑を掛けたから今更会わす顔が無いし]
[学生時代からの親しかった友達も・・・みんな、みんな・・・相談すればするほど・・呆れて離れていった・・・・]
[そして苦労して困難の末やっと今の会社に転職が出来たから・・仕事にとにかく没頭して他は一切見ないようにしてるの]
辛そうに一言一言声を震わせ涙ながらに話す郁子ちゃん。
[甘かったのよ、あたし]
[夢見てたの]
[おばさまが言うことが正しいわ。真理よ]
[五代のお兄ちゃん、今でも亭主関白になったりとか人前でも偉そうにしたりとかって全然ないでしょ?結婚する前も後も響子おばさまに一筋で一途なままでしょ、きっと]
[変な話だけど、そういう男の嫌なね・・偉そうに見栄を張る面が全然ないもんね、五代のお兄ちゃんって。そういう人だもん。だからおばさまって、やっぱり人を・・男の人を見る目があるのよ。ほんと羨ましいよ]
[響子おばさまもそうだけど、五代のお兄ちゃんって自分の面子なんかより先に好きな人のこと、愛する奥さんのことを考える人でしょ?例え結婚して何年経ってもね]
[だから響子おばさまが五代のお兄ちゃんを旦那様に選んだのは大正解で正しかったのよ]
[だけどあたしは格好とか仕事振りが颯爽として見えるけど・・・本音では女の人を大事にしない自分勝手な人ばかり・・恋人とか奥さんが居るのに平気で浮気できる男の人ばっかり好きになって・・・]
[あたしは本気だけど相手の人はいつも本気じゃなかった・・ちょとした見栄えの良さでばかり判断するから、そうなるのよね。いつも自業自得。自分に対してが一番甘いから駄目だって流石に悟ったけどホント後の祭りよね]
響子さんをじっと見据えて、涙を零しながらそんな風に自分が馬鹿みたいに甘かったのだと言う郁子ちゃんは、限りなく痛々しかった。
そんな郁子ちゃんを黙って抱き寄せる響子さん。
響子さんの胸の内もとても複雑だった。
郁子ちゃんの元叔母として、郁子ちゃんに正しい道を説かなければならない立場もある。
しかし、同じ一人の女性として共感できる部分も多分にあるからだ。
[女って難しい生き物ねえ・・・]
響子さんはそっと郁子ちゃんの耳元に一言囁いた。
その言葉に響子さんの胸の中で小さく頷く郁子ちゃん。
郁子ちゃんはそのまま眠りに就いてしまった。
仕事の疲れとお酒の酔いが眠気を誘ったのだろう。
でもその寝顔はとても穏やかなもので、胸のつかえが取れたように感じられた。
響子さんは郁子ちゃんをその場に寝かせつけた。
ほどなく窓の外がほんのりと明るくなってきた。
[さあ、あたしも急いで帰らないとね]
響子さんは郁子ちゃんの部屋のドアをそっと閉め、偶然やって来たタクシーに乗り込み遅い家路へと着いた。
以下、次回