[おう、五代じゃねえか!]
五代君は二階堂君とほろ酔い気分で繁華街を歩いていたら、就職浪人時代アルバイトをし、“福利厚生部長”まで務めたキャバレーバニーの強面の先輩、飯岡とばったり遭遇した。
見た目はちょっと怖いが堅気の人で面倒見が良くて、実際に五代も当事は色々とお世話になったし励ましてもらった恩人だ。
3人は挨拶もそこそこに、飯岡に連れられ、近くの居酒屋へと向かった。
“バンバン!”
[いや、オイ、久し振りだなあ~五代!]
五代君の背中を叩きながら、再会を喜ぶ飯岡。
[いやあ、ははは・・・・]
その相変わらずの迫力に押されっぱなしの五代君。
[あんな別嬪で綺麗な奥さんもらいやがってよ、この野郎が!許せなえよなぁ~]
飯岡にいいように冷やかされる五代君。
[飯岡さんだって奥さんとお子さんがいるじゃないですか]
ここぞとばかり、自分にも奥さんや子供がいるじゃないかと返したが。
“し~~ん”
テーブルには何とも言えない気まずい空気が・・・。
“あれ?俺なんか変な事言ったかな?”
焦る五代君。
[いや、実はよ]
[もうだいぶ前に、かかあ愛想つかして子供連れて出て行ってよ]
[そのまま離婚するハメになっちまったんだよ、五代]
何ともうバツイチの飯岡。
思い切り渋い表情になる。
“ドン!”
突然テーブルを叩き、
[かかあに未練はねえんだが、子供がどうなってるのか気がかりでよぉぉぉ!]
[ちきしょぉぉぉううう!]
どうやら別れた子供とは会わせてもらえないらしい。
[まあ、俺の事はいいや]
[で、もう一人のあんちゃんは仕事何してんだい?]
話題を変え、さっきからずっと黙っていた二階堂君に話を振る飯岡。
またしかし、この話題も“ツボ”だった。
[いや、その、彼・・・最近リストラされたみたいで無職なんです]
何となく、答えずらそうな二階堂君に代わり五代君が代弁。
[あ?無職だ?]
五代君の説明を聞き、二階堂君に熱い視線を送る飯岡。
[は、はい]
[無職なんです・・・今]
引きつった表情で二階堂君が答えた。
[仕事見付かったのか?]
[あ、いえ、この不景気ですからなかなかこれが・・・上手くいかなくて]
この不景気なかなか仕事は見つからないと、飯岡の問いかけに二階堂君は寂しそうに背中を丸めて答えた。
[そっか、そりゃ大変だな]
飯岡はうなずいた後、こう切り出した。
[よかったらよお、俺のいる店で働らかねえか?]
[え?二階堂君とやらよぉ?]
何と、飯岡は自分の勤めている店で働かないかと、突然だが二階堂君に持ちかけてきた。
その話を聞いた五代君が二人に割って入った。
[あ、あのでも飯岡さん、そのお店ってもしかして・・・]
[“全国チェーンの企業”で・・・]
[“宣伝部門”・・・・。]
[とかじゃないでしょうねえ?]
そう、五代君は当時坂本に紹介された時、いかにも“広告代理店”のような連想をさせたからだ。
[おう、五代、俺はよお、あの頃の俺じゃねえぞ]
[俺は経営者だ!はええ話が社長って訳よ]
飯岡は五代の言葉など歯牙にもかけず、経営者に登りつめたと自慢げに言う。
[給料も弾むぜ]
飯岡の目がキラリと光った。
[ちょっと話だけでも聞いてみようかな・・・。]
飯岡の、深夜にテレビ番組でやってる通販顔負けのパフォーマンスに、二階堂君は“グラリ”と心が傾いてきた。
[あの、所で“何の”経営者なんですか?]
素朴な疑問の五代君。
[なんだ、五代?]
[オメーも働きてえのか?]
[ん~?]
[おめえさんなら大歓迎だぜ!]
五代君の一言は正に墓穴。
[あ、いや、別に・・・]
五代君が否定しようとしたその時、
“ピリリリリリリ!”
飯岡の携帯がけたたましく鳴った。
[・・・・おう、分かったすぐ戻る]
[わりいな、急いで戻らなくちゃなんなくなってよ。]
[名刺置いてくから明日にでも来てくれや。]
飯岡は急用で帰ると言い出し、名刺を置いて帰っていった。
[“飯岡興産”・・・・]
[微妙に怪しい会社名だなあ・・・]
五代君と二階堂君は飯岡の置いていった名刺をしげしげと眺めて、どんな会社か仕事なのかを想像するしかなかった。
結局その日の夜かなり遅くなってしまったので、二階堂君は五代君の所に泊まる事となった。
[お久し振りです管理人さん!相変わらずお綺麗ですね・・三十路どころか40過ぎても、全然お歳を召しても美人ですね!]
相当に酒が回って上機嫌の二階堂君。だがタガが外れたのか褒め言葉を言うはずが昔同様に微妙に失礼な表現を発言してしまっていた。
[あらまあ、随分と呑んでらっしゃるのね]
少しばかり呆れながらも、久し振りの二階堂君との再会に、まだ彼が学生だった当時を懐かしそうに思い出す響子さんだった。
彼女も二階堂の言動が常識外れなことを熟知しているから今更怒りはしなかった。
・
・
[ふぁぁぁぁ~~・・・]
[眠いなあ・・・・・・]
朝晩は冷え込むものの、日差しがあるせいか、今日は日中ポカポカと暖かい。
昨日遅くまで二階堂君と飲み歩いていた五代君は、少し寝不足のご様子。
[あいつアレからどうしたのかな?]
五代君が気にかけているのは二階堂君の事。
昨日久し振りに再会した飯岡は、二階堂に仕事を斡旋してやろうと自分の名刺を置いて帰った。
が、飯岡はキャバレーバニー時代の先輩。
と言うことは、
二階堂に紹介する仕事もたぶん・・・。
“似たような仕事”の可能性が・・・・。
更にその名刺に書かれていた[飯岡興産]という、何とも言えない香ばしい社名がまたその可能性を高めてくれていた。
そんな事を考えていた矢先。
[園長、お電話が入ってますよ]
五代君に電話が掛かってきた。
“誰からだろ?”
ふと疑問に思った五代君だったが、急いで電話口へと向かった。
[はいもしもし・・・・・・・・・・何だ、二階堂じゃないか!]
[・・・・・え!?]
[どうして俺が?]
[・・・・・・・・・・仕方ないなあ。]
[分かったよ]
電話の主は二階堂君だった。
夜になり、五代君はしいの実保育園を出てまっすぐ自宅へ・・・とは帰らずに、とある場所へと向かっていた。
[この辺だよなあ・・・確か]
[ええと、飯岡興産、飯岡興産・・・・・と]
繁華街の比較的小奇麗なビルの前で五代君の足が止まった。
[ん?結構綺麗なビルだなあ]
[ここの3階か]
“チン!”
五代君はそのままエレベーターに乗りビルの3階へと赴いた。
すると。
[いらっしゃいませ、お約束はございますか?]
すぐになかなか綺麗な女性がエレベーター出た所で応対に現れた。
[あ、あの・・・飯岡さんはいらっしゃいますか?]
[ぼっ僕、五代と言います]
こんな綺麗な人がいるとは思いもしなかった五代君は、
突然の事に面食らってしまった。
少し鼻の下を伸ばして・・・。
[五代様ですね。伺っております]
応対に出た女性はニッコリと微笑むと、奥へと五代を案内した。
そこにはもちろん・・・。
[おう五代、待ってたぜ!]
飯岡の姿と、
[昨日はどうも、五代さん!]
二階堂の姿があった。
[すいません、どうしても飯岡さんに五代さんにも来て欲しいって言われたんで]
五代君は話の経緯をを詳しく二階堂君に聞いてみると、昨日もらった名刺宛に二階堂君が電話すると、飯岡から帰ってきた答えは“五代も一緒に連れて来い”だったそうだ。
五代君は嫌な予感がした。そうとってもとっても悪い予感が・・・何にも得にならなくてしんどいだけのことが起こりそうだった。
しかし、時すでに遅し。
[客引きは、明るい笑顔で歯切れよく!]
[いいか?二階堂!]
はっぴを着て夜の繁華街に五代君と二階堂君の姿があった。
先ほど五代君は飯岡の会社内でこそっと飯岡に耳打ちされていた。
[この二階堂君とかいうのがウチで働けるかどうかは・・・]
[“五代先輩”のご指導にかかってるんだぜえ?よお?]
[今不景気だろ?]
[アイツを助けると思ってひと肌脱いでやれや、なあ、五代よ?]
[客引きは、明るい笑顔で歯切れよく!]
[こんな感じですか?]
[五代先輩!]
二階堂君は一生懸命に大きな声で五代君の言う事を復唱した。
[よ、よし、これから社外実地研修へ行く!]
五代君は二階堂君を連れてついに“実地研修”へ出た。
“うわわ、こんな所誰かに見られたらどーすんだよ!”
“保育園の園長が夜のバイト。しかもキャバレーの客引きなんて”
“これもすべて二階堂のためだ!”
“許してくれ、響子、春香!”
危険と隣り合わせの五代君。
それでも二階堂の再就職のため。
寒い夜空の下、五代君は鬼と化した!
[お兄さ~ん、いい子・・・いますよ・・・]
まだ通行人に声をかけることに抵抗を覚える二階堂君。
[オイ、二階堂!]
[そんなんじゃ正式採用してもらえないぞ!]
[見てろよ!]
[はいはい、キャバクラバニーですよ~!]
[ヨ、そこのお兄さん、若くて綺麗な子たくさんいますよ]
[今なら呑めや歌えやの爆弾料金!]
[はい、一名様ご案内!]
流石は飯岡に死ぬほど鍛えられしごかれたことはある五代君。
あっさりとお客を一人ゲットした。
優越感に浸る五代君。
[ほら、二階堂しっかりとやれ!]
先輩風を吹かせまくる五代君。
そんなこんなで一日目の夜は更けていく。
一日で“先輩役”は終わりだろうと思っていた五代君だったが・・・。
[今のままじゃだめだな]
[おう五代、もう少し様子見てやっからきちんと指導しろよ!]
まだ終わりそうもない・・・。
[ありがとうございました五代さん]
二階堂君にそう言われてしまうと、
[明日はがんばれよ!]
思わず励ましてしまう五代君だった。
[で、今日からしばらくどうすんの?]
[実家には遠くて帰れないだろう?]
[家にしばらく泊まるか?]
二階堂君は着の身着のまま実家から出て来てしまったので、飯岡興産での研修中どこに泊まるか五代君は気にかけていた。
[あ、それなら平気ですよ、五代さん。]
[一刻館にとりあえず住む事にしましたから。]
[え?]
[ホントに?]
二階堂君は何と一刻館に住むと言った。
[今朝ですけど僕が今無職でしばらく職探しのために時計坂にいるって管理人さんに言ったら、2号室に良かったらどうぞって言われまして]
[管理人さんは短期間ならただでもいいって言ってくれたんですけど、きちんと賃貸契約しましたヨ]
[敷金礼金は要らないって言ってくれたんで]
[ただ、流石にあの時代遅れの風呂もない物件に長期は居たくないから、仕事が決まったら出て行く予定ですけど]
今の二階堂君にとって、一刻館は“風呂のない”ビジネスホテル代わりに近いのかもしれない。
過去に住んだことがあるし土地勘もあって格安。条件としては悪くないだろうと納得できる。
[ただいま~!]
ご帰還の五代君。
[あら、随分と遅かったのね?]
響子さんの目が鋭くギラリと光る。また怒りの初期段階だがそれでもなかなかの迫力を誇る。
(結婚する前ならばそれだけで震え上がってしまっていたが現在は何とかこの段階ならば五代君も耐え切れる)
連絡無しでこんなに遅くなると少々不機嫌になってしまうのは承知の上だが、まさか本当のことは言えない。
必死で言い訳を紡ぎ出して・・・。
[あ、いやあ、二階堂の就職の事で・・・。ちょっと知り合いのところを2つ3つ訪ね歩いてね]
口篭もりながらも申し訳無さそうに事情をでっち上げて語る五代君。
[そう]
[なら仕方ないわね]
[二階堂さんの力になってあげてね]
響子さんはそれだけ言うと、
[お風呂、沸いてるわよ]
[外寒いでしょ?]
と、いつもと変わらない優しい妻の顔になった。内心では”ほっ、良かったぁ”と胸を五代君は撫で下ろした。
”早い所二階堂に正式採用になってもらうか、不採用で実家に帰ってもらうかしないと困るなあ”
複雑な心境の五代君の夜は不安なまま更けてゆく。
愛する奥さんの響子さんに変な疑惑を持たれない様に今晩きちんとベッドでは頑張って営まねばなるまい・・・と溜め息と共に今一度発奮し直す五代君。
((昨夜は二階堂を連れて帰って遅くなったから何にも出来なかったしなあ・・たまには最初だけ寝巻きのままで繋がって、それから脱がそうかな?・・・))
玄関で妄想していると外ではないがそれでもまずいので、早速お風呂で湯船に浸かりながら今宵の体位や前戯などを愛する妻の為に傾向と対策を練ろうとするのであった。
以下、次回