果てさて、時の経つのは早いもの。
二階堂君は五代君のサポートもあり、飯岡の会社に無事再就職を決めた。
しかし、
それと同時に一刻館を出て他のアパートへさっさと引っ越してしまった。
さすがにこのご時世、風呂なし、トイレは共同、冷暖房も未整備とあっては止むを得ないだろうが。
それでも酔狂に一刻館に居座る1号室の一の瀬夫妻と、4号室の四谷さん。
そんな師走のある日、管理人室に響子さんと一の瀬さんはいた。
いつものようにコタツを囲み、世間話をしていた二人。
そこへ・・・。
“ガチャ!”
[チャ~ス!]
朱美さんがやって来た。
[今年もウチ(茶々丸)でクリスマスパーティーやるんだけど来るでしょ?]
茶々丸恒例クリスマスパーティーの営業だった。
[ええ、もちろん行かせて頂きますわ]
響子さんは二つ返事で了承。
一の瀬さんは言うまでもなく参加だ。
酒さえあるなら、頼まれなくてもやって来るだろう。
[後の二人も来るんでしょ?]
朱美さんは夫の五代君と娘の春香ちゃんも一緒に来るのかと確認した。
[う~ん、春香は今年お友達と何か集まるみたいだし・・]
[主人は主人で保育園の保母さんたちと何かあるみたいだし・・打ち上げとかで]
クリスマスに近い休日だと、響子さん一人しか出れないと言う。
[ん~、じゃあ今年は一週間早く開催すっか~]
[そんなら三人みんな一緒に来れるでしょ?]
[ど~せ他のメンバーは暇持て余してるだろうから問題なんて無いだろうし]
そんなこんなで、茶々丸のパーティーは例年より一週間前倒しになった。
朱美さんは響子さんたち以外にもあちこち声を掛けて回り、今年は例年よりも多くかなりの参加者が見込まれる運びとなった。
~春香ちゃんの通う女子高~
放課後
[五代さん♪]
[今年は茶々丸なんていうお店でパーティーなんて・・・クリスマスを兼ねてだけど・・]
[あるのかしらね?]
廊下を歩いていた春香ちゃんに声を掛けたのは、“八神先生”であった。
[ええ、今度の土曜日にやるって言ってましたよ]
“何でそんな事聞いてくるんだろ?”
春香ちゃんは首をひねりながら答えた。
[そう・・・・ありがと]
八神先生はそれだけ聞くと、にやりと笑い、職員室へと戻って行った。
~五代君の職場 しいの実保育園~
[園長、この前はすいませんでした]
[奥様にまでご迷惑掛けてしまって]
“あれ”から数日―。
百瀬さんと五代君は何となくギクシャクしていた。
[何か“あの時の”お礼がしたいんですけど・・・]
もごもごと恥ずかしそうに百瀬さんは言った。
[い、いやあ、気にしなくていいよ!]
苦笑いの五代君。
[あ、あの・・・]
[今度の週末お食事でもいかがですか?]
[お代なら例のバイトで日給が入りましたら、ぱーっと使いますんでお気になさらず]
[もちろん、すっごく素敵な“奥様”もご一緒に]
[お酒で失敗しましたから、美味しいお食事がメインで。イタリア料理なんて気軽で良いと思うんですけど如何ですか?]
先日酔っ払って居酒屋で眠り込んでしまい、五代夫妻に結構多大なる迷惑を掛けてしまったお詫びに、食事でもご馳走したいと五代君に申し出た。
[いや、それは、上司が部下に奢ってもらう訳にはね・・やっぱりいかないよ]
[実際に寝床をたった一晩提供しただけなんだし、気になんてホント全然する必要なんてないから」
五代君は園長として部下の申し出を受ける訳にはいかないと丁重に謝絶の意思を表す。
[でもそれでは私の気が済みませんし・・]
[奥様にも・・女として気分が悪いくらい私だって分かりますよ。自分の旦那様が泥酔した女の部下を自宅に連れて帰ったんですから、下手をすると家庭内争議の元でしたよね・・反省してます]
[でも噂どおり本当にお綺麗で魅力的な方ですね、園長への可愛らしくて美味しそうな愛妻弁当だけでも女子力高いなあっと思ってましたけど・・ご本人に会えてもっと分かりました。百聞は一見に如かずですね]
[ある意味私、憧れちゃいます・・あんなにホント美人だし、上品な優しい奥様に。ですからそんな素敵な方にもご迷惑をかなりお掛けしたんで申し訳ないですから、ここは是非!]
百瀬さんも義理堅く食い下がる。
[・・うん、君の気持ちはとても嬉しいんだけど、今週末って、ちょっと“付き合いのパーティー”があるんだよなぁ・・・]
[どんなパーティーなんですか?]と百瀬さん。
[う~む]
[“あんまりどころか・・全くオススメ出来ない人たちとか”来る変なパーティー・・・]と五代君は奇妙な表現で説明した。
[何だか面白そうじゃないですか?]
[私も行っていいですか?]
五代君は全然オススメ出来ないと言ったのだが、百瀬さんは面白がって参加したいなどとのたまった。
並の神経では耐えられない変人の集いなのだが百瀬さんは全く動じていない。
大丈夫なのだろうか?
五代君は要らぬ心配をしてしまっていた。
~同時刻 茶々丸~
[こんにちは~!]
誰かが茶々丸のドアを開けて入って来た。
[あれぇ?]
[こずえちゃんじゃないの?]
何と茶々丸にやって来たのは(旧姓・七尾)こずえちゃんだった。最近になって再婚した彼女は夫の海外赴任先である中国で一緒に暮らしているはずだ。
驚いたのは朱美さん。
[こずえちゃん、離婚でもしたの~?]
朱美さんが冗談まじりに聞いた。
[いやだ、そんな訳ないじゃないですか]
[年末年始は夫と共に中国じゃなくて日本で過ごす事にしたんですよ]
[ただあたしは色々と用事があるんで、夫よりも2週間ほど早く帰国したんですよ]
[それでさっきご挨拶に一刻館へ寄ったら誰も居なくて、こちらに寄らせてもらいました]
にこやかに朱美さんの冗談を笑い飛ばし、年末年始は夫婦揃って日本で過ごすと言うこずえちゃん。
夫婦仲も良さそうで、とても元気そうだ。
[じゃあ当分は一人でこっち(日本)にいるわけ?]
[ええ、主人が帰国するまでは一人ですね]
[そんならウチのパーティーにさ、帰国のお祝いも兼ねて参加しに来ない?]
商売上手の朱美さん。
しっかりとお客を増やす事に成功した。
マスターと朱美さんはホクホク顔だ。
しかし、悲劇を迎える男が一人・・・。
それは言うまでもなく・・誰あろう五代君だ。
女性の参加陣が“”“余りにも豪華過ぎる”“”のは、五代君にとって災難以外の何物でもない。
例年なら一の瀬さんたちが勝手に騒いでお開きの“ただの宴会”だが、今年は“一味違う”。
こずえちゃん、八神さんというその昔・・五代君と“何やら色々とあった”人たちの参加に加えて、ここんとこ大いにお騒がせの百瀬さんも加わるとなると・・・。
どんなことになってしまうのやら?
今度の週末の茶々丸パーティー。
一見したらハーレム気分の五代君を、愛妻の響子さんと愛娘の春香ちゃんはどんな目で見るのだろうか?
五代君一家の平和は保たれるのであろうか?
普段の姿は古風な大和撫子で観音菩薩の如くとっても優しく自然に夫の五代君の世話を焼いて、とことん尽くしてくれる妻の響子さんだが・・・嫉妬心だけは人一倍、否、二倍や三倍は非常に、異常に強いので誰か他の女性が近付くだけで露骨に不機嫌になってしまうのであり・・
そんなメラメラと嫉妬の炎を燃やす響子さんの表情を見るだけで五代君は・・口の中で歯をカタカタと鳴らし冷や汗をびっしょり掻いてしまうのだ。
ヤキモチを妬いた怒りで五代君を威嚇する響子さんは本当に驚異的に恐ろしい。五代君はいつも蛇に睨まれた蛙みたいに凝固してしまい身動きが出来ない。
もっともこれまでほぼ100%が奥さんである響子さんの単なる早とちりと誤解が原因なので実際問題として、深刻な事態にはならないのである。夫の五代君も例え誤解されたとしても嫉妬されるのは大好きで愛されている証拠として逆に妻の響子さんを可愛く愛しく思えるし、
嬉しいことだと後になれば思えるから、その後も全く腹を立てたりもしないので結果として円満に解決するのが常であった。
誤解で嫉妬してしまったことを反省して、流石にしょぼんとして謝罪する響子さんが・・五代君は滅茶苦茶に可愛く思えるから、ぎゅっと抱き締めて自分は怒っていないことを訴えて・・・仲直りのキスをしてハグも持続させて元の鞘にぴったり収まるのが五代君夫婦なのである。
当然ながら仲直りのエッチは濃厚で凄まじく破廉恥で過激だったりする。とっても慎み深い女性の響子さんが愛する旦那様である五代君へ改めて自分の愛情を告白する為に積極的にこれまで夫婦の営みで培った性愛の技術を駆使するのだから物凄い。
だから響子さんからの心の篭ったご奉仕には五代君も非常に感激するし気持ち良過ぎて本当に圧倒されてしまう。だがそれは逆に響子さんが五代君に心の底から実は依存していて甘えている証拠であり、普段は夫の世話を焼いて尽くす分、その反動だ。
愛する夫の五代君が構ってあげないと寂しくて悲しくて・・泣き出す前に不機嫌になって怒り始めてしまう、ちょっぴり気の強い恋する乙女が響子さんという女性であり昔からそれは全然変わらない。
彼ら二人共お互いに心の琴線に触れて惹かれ合う面が凄く多くて一緒に居るだけで嬉しくて仕方がない。だからこそ付き合いも結婚生活が長くても、実際本当に長年に渡り連れ添っているのだが仲の良さは変わらないどころか今現在こそが最も仲が良いのだ。
だが今回は・・・彼ら夫婦の間に紛争の火種は蒔かれないのであろうか?
・
・
・
さてさて、あっという間にパーティー当日となった。
[あ~あ、今年も一の瀬さんや四谷さんたちの為にだけある、悪ふざけな五月蝿いだけの“呑み会”かぁ]
テンションが全然上がらない五代君。
いや、実は無理にテンションを上げていなかったのだ。
それは、パーティーに百瀬さんも参加するため、張り切ってしまっては、響子さんや春香ちゃんに妙な疑惑のタネをばら撒くだけだと、五代君は考えたからなのだ。
[まあ、まあ、適当な所で帰ってくればいいじゃないの、パパ?]
[ママとのことで冷やかされたって、パパも今更でしょ?ママだって平然としてるしね]
一刻館の猛者共に元々どころか生まれながらに免疫が有って全く平気の春香ちゃんは陽気に父を慰める。
パパとママが独身時代に繰り広げた痴話喧嘩の歴史も大体知っているし、あんまり突っ込まれたくないネタも知っている。でも現在は何年経っても甘々なラブラブ夫婦のままなんだから問題ないでしょ?が春香ちゃんの認識だ。
そして、お酒を飲まない(高校生だから当然だ)彼女はおつまみや出前のピザとスイーツをたらふく平らげる気満々で食いしん坊の面目躍如だからこういうパーティーが昔から大好きだ。
酒飲み連中はおつまみすら残すし手もほとんど付けないので、その分取り分や種類が増える。それ故にウキウキとした気分が収まらない春香ちゃんであった。
そして・・あっという間に日も暮れて、茶々丸へボツボツ人が集まり始めていた。
[ガハハ、あら、ヨイサ、コラサ!]
[絶好調~!]
一の瀬さんは言うまでもなく一番乗りで、時計坂商店街の親父たちと早くも盛り上がっていた。
[こんばんは~]
そこへ五代君一家3人がやって来た。
[ああ、待ってたよ、さあ奥へどうぞ]
3人をマスターはにこやかに出迎えてくれた。彼も五代君と響子さんが結婚する前からの共通の知り合いで一刻館の連中とは異なり数少ない常識人だ。
あんまり働いてくれない店員の朱美さんが奥さんだから心も広い。
[今日は何人位来るんですか?]
響子さんがマスターに尋ねた。
[う~ん、ちょっと分かんないなあ]
[でも何やら面白い人も来るらしいけど]とマスターは返答する。
[面白い人?]
マスターの一言に顔を見合わせる五代君一家。
そんなやり取りをしているうちに・・・。
[お邪魔しま~す。皆さんお久し振りです]
扉を開けて入って来たのは・・・。
[こ、こずえちゃん!]
五代君は目を丸くして驚いた。
何と昔のガールフレンドである(もちろん現在は別の男性と一度離婚した上で更に別の男性と再婚している)、こずえちゃんがやって来たのだった。
[ハイハイいらっしゃあ~い、適当に奥!奥に座って]
朱美さんが出て来て、こずえちゃんを五代君近くに座らせていたその時!
[こんばんは~!]
また女性が誰か一人。
[やっ、やっ、八神!]
五代君はホントに失神寸前。
響子さんも勿論びっくり仰天だ。
[八神先生!!!]
春香ちゃんまで大きく目を見開いて驚いた。
[ハイハイ、奥詰めて、奥~]
何気に“ただならぬ空気が漂い始めてきた茶々丸。
だが・・・、
まだこれでは終わらなかった!
[こんばんは!]
元気良く扉を開けて入って来たのは・・・。
[やっ、やあ・・・・]
五代君の顔が更に引き攣る。
しいの実保育園の新人でとっても綺麗で可愛い保母さんである百瀬奈津美さんの登場だった。勿論、律儀な彼女は上司の奥さんである響子さんにはきちんと挨拶と先日お邪魔してしまった非礼を再度お詫びしてくれたが・・・。
園長先生の奥様である響子さんは驚きながらも挨拶を返答していたが・・・ちょっとどころかかなり複雑な気分になってしまった。
こずえちゃんと八神だけでなく今度は職場の部下までが夫の五代君に纏わりだしたのだ。機嫌など良くなる訳は無いし正直あまり面白くはない。
[あたしたち、お邪魔のようだからあっち行きましょう、春香]
内心で大いにむくれた響子さんは微妙に不機嫌な表情を余り隠せずに春香ちゃんを連れてカウンター席へと移動した。
[え~?]
[あっちの方が面白そうなのに・・・]
春香ちゃんは名残惜しそうだが。
[おんやぁ?]
[モテモテですなあ、五代君?]
その光景を冷やかす四谷さん。
[ははは、遂に管理人さんと別れて再婚する決心がついたのかい?]
[お盛んな五代君だから新しい相手も複数かい?昔の彼女に教え子に・・え?・・あの若い娘って部下なのかい。なかなか可愛いじゃないか]
一の瀬さんまで全く遠慮せず攻撃に参加。
五代君の周囲は異様な空気に包まれていた。
五代君の横には百瀬さんと八神さん。
目の前にはこずえちゃん。
周囲には全く逃げ場がない五代君。
[や、八神、ど、どうしてここへ?]
[こ、こずえちゃんまで]
何故この二人がこの場所にいるのか?
キツネにつままれたような五代君。
[[[ご迷惑でした?]]]
こずえちゃんと八神さんが偶然にも声を合わせて言った。
[い、いや、迷惑とかそんな事ないけど、ちょっとびっくりしてさぁ]
相変わらず煮え切らない態度の五代君。
[ふぅ、お代わり下さい]
その様子を不機嫌そうに冷めた目で見詰める響子さん。
今夜はお酒を飲むペースが異様に早い。
逆に興味津々なのは春香ちゃん。
“パパって案外もてるのね”
とっても意外とばかりに驚くのであった。
[わはは!盛り上がってるかい?]
その様子を冷やかしに来る一の瀬さんたち。五代君が学生時代に一刻館で散々繰り広げていた状況に似通っていて懐かしくも面白い住人たちにとっては
茶々を入れるのも楽しくてたまらない。
昔のGFである旧姓・七尾こずえ(5年近い付き合いだった)、元教え子で一方的に五代君に懐いて迫っていた八神いぶき(一刻館に篭城までした)、現在の職場での部下である可愛い保母の百瀬奈津美(若さピチピチ)・・・正しく三竦みの状況に加えて
少し離れたカウンター席には奥さんの地位を獲得した愛妻の響子さんと娘の春香ちゃんが居るのである。
何故か五代君の周囲には自然と魅力的な女性が寄って来てしまうのだ。だからこそ余計なトラブルが色々と起きてしまい過去の歴史では本当に大変であった。
[さっ、園長センセ、お注ぎしますわ♪]
部下である綺麗な百瀬さんが五代君の空いたグラスにお酒を注ごうとした所・・・。
[あ・た・しが、お作りしますわ]
元教え子で現在では娘の担任教師である八神さんがグラスを取り上げ、水割りを作り始めた。
[あら、五代さんて、水割りお好きだったかしら?]
[やっぱりビールよね~五代さん♪]
目の前にいた昔のGF、現在は主婦のこずえちゃんが今度はビールを取り出し始めた。
“バチバチバチ!”
冬の火花が激しく飛び交う三人の女のバトル勃発!
[やっぱこう来なくっちゃ!懐かしいね~!]と大いに面白がる一の瀬さん。日の丸扇子を振り回して大喜びである。
[どこがいいんでしょ?]と四谷さんが冷たく呟いて
[あんなしょぼくれた中年男の?]と疑問の言葉を投げ掛ける。
そしてその異様な光景をじ~っと眺める四谷さん、一の瀬さん。
[み、水割りも好きだし、ビールも好きだよ、僕は]
流石は五代君。
目の前の水割りもビールも全く同時に2つの杯を一滴も零さずに一気に飲み干すという無意味で無謀な裏技を炸裂させた。
キャバレーの呼び込みバイト時代にマスターした世の中で何の役にも立たない宴会芸の一つだ。
その様子を見て、
[ふふふ、五代さんらしい]
こずえちゃんはニッコリと微笑んだ。
[ホント、五代先生は変わんないわ]
八神さんも苦笑い。
[へ~、昔から優しい人だったんですね、園長]
百瀬さんも、その優しさ、裏を返せば筋金入りの優柔不断さに納得した。
それからは一転して和やかなムードになり・・・。
(表向きは)近況などの世間話となった。
[あ、あたし用事あるからそろそろ帰らないと!]
時計の針を見て慌ててこずえちゃんが席を立ち・・・。
[あたしもこれから友達と約束あるんでこれで~!]
百瀬さんもこずえちゃんが消えた十数分後には居なくなり・・・。
[あたしも母が一人で帰りを待ってるんで]
八神さんも二人が帰ったそのわずかな後に帰宅してしまい・・・・。
“ガラ~~~~ン・・・・・”
一気に五代君の周りだけ誰も居なくなってしまった。
[どうでした?]
[殿様にでもなったようなご気分は?]
響子さんがそっとさり気無く五代君の横に戻って来た。
[いや、おれにはやっぱり響子じゃないと・・・他の女の人は・・その・・駄目なんだ]
恥ずかしそうに五代君は下を向きながら言った。
((正直他の女性なんて本気で抱きたいとか付き合いたいとかは・・おれやっぱり思わないんだよな。響子しかいないんだよ・・おれには))
[あら?・・それ本当かしら]
と響子さんは微笑んで呟いて、ちょっぴり嬉しそうだ。
[ほんと仲の良い夫婦だこと]
呆れてその様子を見ている春香ちゃん。まあ、いつものことだ。何かあっても家の外でも中でも結局は寄り添って終わるのが自分の両親だと悟っている。
[は~あ、な~んだ、つまんないの]
朱美さんの溜め息だけが聞こえてきた。
[もっと恐ろしい修羅場が見れると思ったのにねえ]と一の瀬さん。
[ま~ったくですなぁ]とこれまた無責任に言い放つ四谷さん。
[我々はそのためにお金払ったようなもんですから]
一の瀬さんと四谷さんは相変わらず言いたい放題。
[僕は見せ物なんかじゃありません!]
[全く一の瀬さんたちは相変わらずなんだから]
長い事変わる事ない一の瀬さんや四谷さんには、流石に敵わない五代君だった。
[それじゃお休みなさい!]
パーティーもお開きとなり、五代君たちは茶々丸を後にした。
[パパもてもてだったね、今日?]
[ちょっと意外だったけれどさ、流石はママみたいなホントにすっごい美人と結婚しちゃうだけあって、パパってば綺麗な女の人たちに好かれるんだね?]
可愛い愛娘の春香ちゃんが父親の五代君を冗談で冷やかす。
[ははは、パパはこう見えて昔から結構もてるのさ]
ちょっとばかり胸を張る五代君。
昔からプレイボーイや色男の要素は無いのだが人の良さと優しげな様子、少年のような一途さがある雰囲気なので女性には少なくとも安心感だけは与えるのか、時として魅力的な女性から興味を覚えられることが少なくないのだ。
そのせいで余計に周囲が混乱して奥さんである響子さんと結ばれる前に紆余曲折があったのだから大変だった。
[あら?それは良かったですわね]
それを聞いていた響子さんは少しご機嫌ナナメ。
別に飲み会の時に別席なのは構わないのだが、今回は夫の周囲が女性陣だけ。それも全員が元々は夫と色んな係わりのある人物ばかりなので少々面白くなかった響子さんではある。
[まあまあ、響子]
[今度何か好きな物、欲しかった服とか買ってあげるからさあ・・・と言うか買わせてよ]
五代君は愛する奥さんのご機嫌取りに必死だ。響子さんが不機嫌なのは自分の責任と考える愛妻家で超絶的な人の良さだけは相変わらず健在だ。
“ふふふ、別にいいのに。”
心の中では別に気にしている訳ではない響子さん。
ちょっと自分の夫をからかってみたくなったのだろうか?夫の自分への気持ちに疑いは無いと確信しているし今晩も実際にそうだったから機嫌だってとっくに直っている。
[寒いヨ~!]
[ラーメン食べたい!]
無邪気に春香ちゃんはラーメンが食べたいと突然言い出した。
[そうね、少しお腹も空いたしラーメン食べて行こうか?]
[賛成!]
師走の寒い、星の降る夜。
五代君一家は仲良く三人揃って時計坂を降りて、馴染みのラーメン屋へと向かうのだった。
もっとも五代君は内心で秘かに今夜家に帰ったら響子さんのご機嫌取りと言うよりも・・いや、それは多少あるが ”””おれには響子じゃないと駄目なんだ”””を頑張って証明しよう!
その為にラーメンで栄養補給だ!などと考えていたりする・・・。
((たまには寝巻きでも着衣のままか、半脱ぎで最初は挑戦してイッてもらって・・そこから下だけ全部脱がして二回戦に突入する手筈でどうかな?下半身だけお互いに素っ裸って興奮すると思うしなぁ・・・))
((響子のお尻って眩しいくらいに白くてむっちりしてるから、丸出しだと・・おれ、我慢出来ないし・・・よぉし、背後から挑もう!))
((そうしておいて今夜は恥毛を重点的に触って撫で上げて舐める方針でいこう・・・うん・・おれもあの柔らかい手触りを堪能したいし、響子も嫌いじゃないからな・・よおし、今宵は頑張るぞ~!))
・・・もっとも表情で響子さんには実はバレバレであることに本人は気付いていない。
夫唱婦随・・奥さんには夫の五代君の心理状態と行動パターンは結構お見通しなのである。
((ふぅ~ん・・・ちょっとだけ・・期待しちゃおっかな?・・・♪♪))
((お風呂上りで髪の毛を束ねるの・・ヘアピンじゃなくて昼間のリボンで束ねてみて・・・解かなくて今夜はずっとそのままなんて・・・どうかしら?・・うん、簡単にポニーテールとか昔していた三つ編みでもいいけど・・・))
((・・この前みたいにね。結構気分が変わって・・髪形を変えるのって意外に新鮮で良かったから。・・でも『響子はおれの・・おれだけの管理人さんなんだから!』なんて又ね、射精の瞬間に叫ばれたりして・・・))
((・・・もうとっくに妻なんですよ、あたしはあなたの・・・あなただけの・・・・ね))
流石は響子さん、表情には出さずに夫の意図を理解し帰宅後の営みを楽しみにし始めていた。
以下、次回