※この作品はR-18です。

めぞん一刻 二次小説 流れる季節の中で   作:今津晶

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第27話  五代家のお正月

[あけましておめでとうごっざいま~す!]

元旦の朝、元気よく両親に挨拶したのは春香ちゃんだった。

お目当てはもちろん・・・。

 

[ふう、春香はホントに現金な子ねえ]

[いつもそんなに元気におはようなんて言わないのに]

[はい、お年玉・・大事に使いなさいね]

春香ちゃんの元気の良さに呆れる響子さん。

 

[ありがと、ママ♪]

春香ちゃんは満面の笑みでお年玉を受け取ると、そそくさと自分の部屋に消えていった。

 

午後は近所の神社へと親子3人で初詣に出掛けたのであるが晴れ着姿の響子さんはやっぱり注目の的。見事な和服美人振りに夫の五代君も内心ではデレデレ。

春香ちゃんも可愛い和服姿が良く似合っていて、ここでも両手に花で羨ましがれる五代君でした。

その帰り、三人は一刻館の前を通過した。

[そう言えば今年も正月は誰も居ないの?]と五代君が響子さんに尋ねる。

 

[ええ、一の瀬さんも四谷さんも田舎へ帰ったわ。ただ四谷さんの田舎がどこか分からないままだけど・・・]

年末年始は住人の居ない一刻館を、響子さんは淋しそうに眺めていた。

 

[そろそろここも何とかしないと・・・]

[新しい人も誰一人として入ってくれそうにないもんなあ・・・]

[木造だから火事にでもなったら、それこそ縁起でもないけどひとたまりもないよ]

五代君も普段思っている心配事をついついぼやいてしまう。

 

音無の義父から譲り受けた一刻館だが、新しい住人が入る気配もなく、運営は厳しさを増している。

家賃も値上げは不可能だし、現在は6部屋あるうちの2部屋、1号室の一の瀬さん夫婦と4号室の四谷さん1名しか入居が無い状態だ。

以前は5号室の五代君本人、6号室の六本木朱美さん、2号室の二階堂くんと最大で5部屋が埋まっていたのだが・・・。

その時代は恐ろしいくらいに毎晩のようにどこかの部屋で宴会が開かれて賑やかであったが、それももう過去の話。

5号室の五代君は管理人さんである響子さんと結婚し管理人室へ移動し当然ながら退去、二階堂くんは大学を卒業して就職し退去(つい最近職探しの為に一時的にだけ入居し再度退去)、朱美さんはスナック茶々丸のマスターと結婚した為に退去と

櫛の歯が抜けるように住人が減っていった。その後に新しく入居する人材は無く、不動産屋の紹介で見学に来ても余りのボロ屋振りなのと風呂無しでトイレ共同の物件ということで敬遠されて新規入居は結局ゼロであった。

 

五代君は一刻館の先々をかなり深刻に懸念していた。

自分としても愛着や思い入れはあるし妻の響子さんにしても同じかそれ以上の愛着がある。

せめて昔と同じくらいの稼働率に戻って欲しいが、それは時代の変化で不可能に近いのだ。

何とかしたいが自分にはその力が、例えば財力などが無力である以上、本当にどうしようもない。

 

そしてそのまま3人はお呼ばれしていた三鷹さんの家へと年始の挨拶を兼ねて遊びに行った。

 

 

~~三鷹さんの邸宅にて~~

 

[こんにちは、あけましておめでとうございます]

 

[まあまあ、五代さん、いらっしゃい]

玄関にはにこやかにこちらも和服姿の明日菜さんが現れ、

 

[おお、五代君に響子さん、お待ちしてました!]

三鷹さんも姿を見せた。

 

[ほら、お前たちもご挨拶なさい!]

三鷹さんが奥から呼び出して来たのは・・・。

 

[あけましておめでとうございます~!]

三鷹さん所のとっても可愛い三姉妹だった。

 

[や~春香ちゃん全然変わんないね~!]

 

[あたしたちの部屋においでよ!]

春香ちゃんは早速三鷹さんの娘たちの部屋へと連れられていった。

流石に資産家だけあって娘たちだけの食卓を用意できるスペースがあるのだ。

普段はそれでも明日菜さんなどは由緒正しい家柄なので躾も礼儀正しく、娘たちだけでは殆ど使わせないが正月で招待客がある時は別の話で特別だ。

 

[じゃ僕たちは僕たちで]

三鷹夫妻は五代夫妻をとっても豪華なリビングへと通した。

[まあまあ、ゆっくりとして行って下さいよ]

[料理もお酒もたくさんありますからね]

着いて早々料理や酒を五代君たち二人に勧める三鷹さん。

三鷹さん・明日菜さんご夫妻と五代君・響子さんご夫妻・・この2組は今でも親しい友人同士としてのお付き合いをしている。

20年ほど前はこのような組み合わせの未来が待っているとは思わなかったなと、それぞれの面々は感慨深い。

昨年は両方も夫婦共にひと騒動があり、どちらも一時期夫婦が別居するなど実は結構な一大事ではあったが結局は何とか元の鞘に収まり事なきを得た。

その昨年の出来事もあり余計に感慨は深く感じられる。

 

大昔にも色々と事件のような出来事が多く、今では笑って話せる逸話も多く話の種は尽きることは無い。

明日菜さんは大の犬好きであるが実は夫の三鷹さんは自身の幼児体験のせいで本来は犬が大の苦手であったのだ。

この事は五代君だけは知っていたが武士の情けで響子さんには勿論、一刻館の面々にも秘密にしていた。

(三鷹さんが犬が苦手なことは彼も周囲に秘密にしていたのだが五代君にだけは伝えざるを得ない事情が発生したので告げたのだ)

だが苦手なのに犬には何故か好かれてしまっていたので明日菜さんも気付かず、しかも三鷹さんが結婚する前に犬恐怖症を克服した為に結婚後もその真実をしばらくは知らなかったのだ。

何故克服できたかというと、当時五代君と響子さんを賭けて三鷹さんは恋敵状態であったが、肝心要の響子さんも犬が好きで飼っていたので・・その為だけにペットショップで子犬を清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入し自宅で飼育して克服したのだ。

だがその成果が実ることは無く、見合い相手の明日菜さんと結婚することとなった過去。無論今では三鷹さんも明日菜さんが自分の妻であることに感謝し満足していて、そんな少々恥ずかしい話も笑いのネタに出来る。

そんな話ばかりではないが若かりし頃からの知り合いなのだ。懐かしい話は山ほどある。

当然ながら話も弾み、とっても賑やかな宴となった。

 

[そう言えば五代君の所も僕の所も結局・・・男の子に恵まれなかったねえ・・・]

三鷹さんが突然脈絡もなく言い出した。

 

[そうですね、男の子・・・居ないですもんね]

[家は一人娘なんで嫁に出したらもうそれで終わりですけど・・]

[三鷹さん所は3人・・娘さんがいらっしゃるから、これからどうするんですか?]

五代君も応じつつ逆に三鷹さんに質問を投げ掛ける。

 

[そうだよなあ、う~ん・・・]

[三鷹の名前は消したくないから婿でも誰かにとって欲しいんだけど・・・]

[本人たちの意思もあるだろうしねえ・・・恋愛や結婚は自由にしても婿養子に抵抗あるのはあるだろうね]

[若い世代だと特にね・・・難しい問題だね]

[夫婦別姓はまだまだ社会的に認知はされないだろうし、僕的にはあんまりそういう風潮は好きじゃないんだ]

[古い人に思われるかもしれないけど・・・親戚筋も結構そういうことには五月蝿くてね]

三鷹さんが苗字を受け継いでくれる男子が居ないことを大いに嘆いた。

 

そう、三鷹さんの所も五代君の所も女の子しか居ない。だから娘が結婚したら将来はそれぞれ苗字が消えてしまうことになる。

だからこれからの心配の種も多いのだった。

 

[なるようにしかならないんじゃないですか]

二人の話を聞いて響子さんが言った。

 

[あたしも一人娘でしたし、明日菜さんも]

[あたしは千草家の名をあたしで終わらせちゃいましたけど、それはそれで一つの流れじゃないですか]

[そんな対外的な面子よりも、子供たちの幸せを考えた方がいいんじゃないですか?]

響子さんの言葉が三鷹さんと五代君の胸に染みる。

 

[私も・・・五代さんの奥様と同じ風に考えてます]

[あの子たちの好きに生きさせてやりたい。三人とも活発で行動派ですし]

[それでいいじゃありませんか]

明日菜さんも静かな口調で娘たちを思いやる言葉を口にした。

 

母は何よりも強し。

五代君も三鷹さんも、二人の言うことにただただ頷くだけであった。

・

・

[春香はどんな男の人と結婚したいんだ?]

三鷹家を後にした五代君たち。

五代君は脈絡もなく春香ちゃんに聞いた。

 

[あたし?]

[やだパパあたしまだ16だよ。・・まだ彼氏だっていないのに、さ]

[結婚なんてまだまだ先の事じゃない?全然考えたことなんかさ、ないよ]

春香ちゃんはまるで他人事のように言う。

 

(ふ~む、ママは19でお嫁に行ったんだけどねえ・・・まぁそれは、おれじゃなくて音無惣一郎さんという男性とだったけどね・・・)

(まあ、今の世の中そんなものか。本当に響子の言うようになるようにしかならないのかな)

(でも春香も今年で17歳だから・・・あと10年もすれば誰かの奥さんになっているんだろうな。それこそ子供だって・・おれと響子の孫を抱いているかも知れないんだよなあ・・・そんなこと最近まで想像したことすらなかったけど、な)

(おれが花嫁の父親にね・・・春香が誰か好きな男性を家に連れて来て、その男に”お嬢さんを、春香さんを僕に下さい”・・なんて言われてしまうのか。頑固な反対なんかしたくないけど、心配だから色々聞くだろうな)

(それこそ、その時こそ・・響子のお父さんだったあの人の気持ちが分かるのかも。娘の父親なんて損なだけだ・・不愉快な気持ちを将来、絶対に君も同感するんだぞって昔に散々予言みたいに言われたなあ)

(はは・・寂しいのは当たり前で仕方ないよ。一人娘なんだし。・・・それに行き遅れになるとか一生独身宣言なんてされたら、そっちの方が問題だよ。だから出来れば応援してあげたいけど・・結局は相手によるんだろうし)

(春香は響子に良く似ているから、あと数年もすれば男共が放っておかないし相手だって選べる立場なんだろうけど・・・内面がなあ。おれに良く似ているから・・可愛いけれどズッコケな奥さんにならなければいいけど・・・)

五代君は内心で色々考えてしまったが言葉には出さず、それ以上春香ちゃんに聞かなかった。

 

[あたしが少し早過ぎたのよ、あなた]

[春香には自分の好きな道を歩いてくれればそれでいいの]

五代君の内心で考えていたことをズバリ探り当てて、娘には何も無理強いなど言わなかった。

響子さんも別に春香ちゃんの結婚には固執している様子はなく、“好きな人が出来れば、自然にそういう流れになるのだから。”

響子さんは今までの自分の過去を振り返り、そう思ったのだった。

こうして五代君たちの元旦からのお出掛けは幕を閉じた。

・

・

・

・

しかし、深夜・・・。

 

<<<プルルルル、プルルルル>>>

 

元旦の深夜いきなり電話が鳴った。

[う~ん、こんな夜中に誰かしら?]

[・・・はい、もしもし、五代ですが]

[・・・・・・え!?]

[それは本当ですか?]

[一刻館が!]

 

突然の深夜の電話。

一刻館に一体何があったというのだろうか?

響子さんが出た電話の中身とは・・・・。

 

[あなた、大変!]

[一刻館が火事ですって!]

 

慌てて五代君を叩き起こした。

電話の中身は警察からで、一刻館が火事になっているというものであった。

 

とにかく着の身着のままで一刻館へと走る響子さんと五代君。

 

“どうして正月早々こんな事が起きるのよ!”

 

急ぐ足で響子さんは一刻館の無事を願った。

 

“ザワザワザワ”

 

一刻館の周囲にはヤジ馬が騒ぎを聞きつけ集まっていた。

 

[ああ、良かった全焼してなかったわ]

どうやらすでに消火作業も終わっており、少し燃えた程度で済んだようだ。

[すいません、あの、一刻館の管理人なんですが]

近くにいた消防の人にどんな経緯だったのか尋ねる響子さん。

警察も駆けつけて、付近は物々しい雰囲気に包まれていた。

警察と消防の人から話を聞くと、どうやら不審火らしい。

一刻館は無人で火の気はないのだから当然であるが。

最近時計坂周辺では放火らしき火事やボヤが多発しており、響子さんも気にかけていた矢先の出来事であった。

色々と警察に事情を聞かれる響子さん。

警察と響子さんの話を擦り合わせると、一刻館が年末年始誰もいないこと、それと建物が木造で燃えやすい事から今回標的にされてしまったようだ。

用意周到に犯人は一刻館に火を放った物と思われる。

すべてが終わり、響子さんが解放されたのはもう明け方近くになっていた。

音無の義父から譲り受けた大事な一刻館。

その一刻館に大きな傷をつけてしまった。

響子さんは焼け焦げた匂いの残る一刻館の前で、

[ごめんなさい・・・お義父さま・・・]

人目もはばからずに崩れ落ちるように泣き出してしまった。

五代君が必死に慰めるが、響子さんは一向に泣き止む気配はない。

[あら、こりゃ見事にやられたわねぇ]

そんな所へ騒ぎを聞きつけて朱美さんがやって来た。

[でもまあボヤ程度でよかったじゃない、管理人さん]

響子さんに慰めの言葉を珍しくもかける朱美さんだったが、それでも響子さんは一向に泣き止む気配がない。

それを見た朱美さんは・・・。

[あ~、まったくこの女はいくつになっても変わんないわね!]

[いつまでも済んだことをグジグジと]

[修理すりゃいいじゃないの、修理すりゃ]

[死んだ音無のじいさんに申し訳ないと思う気持ちも分かるけどさあ・・・]

[もうかなりガタが来てる建物なんだから、狙われてもしょうがないじゃない]

[はああ、あたしゃ寒いから帰るわ]

捨て台詞を残して帰って行った。

響子さんはそれからしばらくして、五代君に抱えられるようにして帰って行った。

精神的にかなりの動揺をしていて落胆も酷いため、五代君がベッドでもずっと添い寝をしてくれてやっとのことで、うつらうつらと少しだけ眠ることが出来た。

だがそれこそただの仮眠に近いものであった。

 

そして響子さんは仮眠しただけでまともに余り眠れていないのに、その日の午後、また一刻館へとやって来た。

[一階の右側だけじゃなくて全体的に修理しないとダメよねえ・・・]

消化後の一刻館は、玄関部分と、2号室3号室のある右側一階部分が多少なりとも黒く焼けていて、修理をしないと人が住めない状況になっていた。

やはり木造である事が火の回りを早めてしまった事は否定できない。

四谷さんの住む2階部分は無傷であったが、やはり下が焼けている関係もあり、安全に人が住めるかどうかは保証の限りではなかった。

必然的に建物を修繕せざるを得なくなった管理人の響子さん。

響子さんは一刻館を修繕が終わるまで閉鎖することに決めた。

この段階では安全に住人を置いて置けないからだ。

それから近所にお詫びに回る響子さんだったが・・・。

 

[お宅は木造でしょ?前々から何かあったらどうなるのかと思ってましたわ]

 

[燃えたら早いよねえ、改築しないの?]

 

今回のボヤをきっかけに、木造の一刻館はかなり冷ややかな目で見られてしまうのだった。

近所の嫌味にもただひたすら頭を下げる健気な響子さん。

[ああもう、どうしてあたしがこんなに言われないといけないのよ!]

響子さんはその足で実母の律子のいるマンションへと立ち寄り、怒りを爆発させた。

 

[何よ、この子ったら]

[たまにここへ顔を出すかと思ったら、何かある時ばっかりじゃないの]

母の律子もただ呆れるしかなかった。

そんな母の言葉も上の空の響子さんは、普段の気丈な様子が全く見えずに・・ただ背中を丸めて疲れきっている様子だった。

そんな一人娘の姿を見て母律子は・・・。

[もうそろそろいいんじゃないの?音無の家に義理立てするのは。・・・厳しいこと言えば、あんなボロアパートにはね今時の人は誰も住まないわよ]

[これも良い機会だと思って土地ごと売却して楽になんなさいな。裕作さんも春香ちゃんも反対なんかしないわよ。あんたが今じゃほとんどボランティアで趣味に近い形で管理人を続けているんだしね]

[そもそも無報酬に近いんでしょ。だったらもうこの際、専業主婦になったら?裕作さんだって園長さんになって収入も何とか問題無いんでしょ、だったら思い切って管理人を引退したら?四半世紀も続ければ満足でしょうに]

律子はこのボヤ騒ぎをいい機会だと言い、今度こそ一刻館を処分しろと響子さんに迫った。

[そう・・・かもね]

[お母さんの言う通り・・・かも、知れないわね]

いつもなら母の言葉に必ずと言っていいほど反発してみせる響子さんだったが、今回のボヤ騒ぎはかなり堪えたらしく、その言葉にうなだれるしかなかった。

早急に応急修理をする事になった一刻館。

とにかく当面の間、最低限住人が住めるように復旧する運びとなった。

しかしどこも年始で工務店は営業してなかった。

帰省した一の瀬夫妻と四谷さんは、焼け焦げた部分のある一刻館を見てただただ驚くだけであった。

修理が終わるまでどこかに避難してくれと必死に頭を下げる響子さん。

[まあしょうがないねぇ]

[あたしたちは賢太郎の所にでも身を寄せるか]

一の瀬夫妻は一人暮らしをしている賢太郎君の所へ行くと言い、

そのまま荷物だけを取りに部屋へ戻り、消えていった。

[それで・・・私にどうしろとおっしゃるので?]

問題はこの四谷さんだ。

結局・・・。

[ああ、ご飯は自分でよそいますからお構いなく]

[もちろん茶碗やお箸も持参してますのでご心配なく]

四谷さんは五代君の所にしばらく居付く(寄生)する事となった。

[いや~これで家賃も払わなくていいし、正月早々縁起がいいですなあ!]

四谷さんは上機嫌だが、

[はぁ・・・]

 

[ふぅ・・・]

五代夫妻にとっては溜め息しか出ない、踏んだり蹴ったりの正月になってしまった。

 

 

以下、次回

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