[それじゃ、あたしらはこれで]
[はい、ご苦労様でした]
一刻館の修理も無事に終わり、職人たちは帰って行った。
一の瀬さんや四谷さんたちも戻ってきて、また平穏な日々が一刻館に訪れていた。
[ねえねえ、管理人さん、今日の新聞見た?]
帰ってくるなり一の瀬さんは新聞片手に管理人室へやって来た。
[はい、何ですか、一の瀬さん?]
きょとんとして一の瀬さんの方を振り返る響子さん。
[これこれ、捕まったんだよ、放火魔が!]
これでもかといわんばかりに一の瀬さんは新聞を響子さんへと差し出した。
例の放火魔はなんとか警察の御用になったようだ。
[あら、良かったですわ、一の瀬さん]
吉報に素直に喜ぶ響子さん。
[これで安心して眠れますわね]
何はともあれ一安心だ。
“ガタン”
[こんちわ~す]
玄関を開けて誰かがやって来たようだ。
[ねえねえ、見た見た管理人さん、今日の新聞!]
管理人室に乱入して来たのは、朱美さんだった。
[あたしがさっき教えてやったよ、朱美さん]
一の瀬さんが得意げに言う。
[まあ、朱美さん、わざわざありがとうございました]
響子さんは何よりもそんな朱美さんの気持ちが嬉しかった。
[た、たまたま通りかかっただけよ。]
朱美さんは素っ気無く言うが、やはり一刻館と響子さんの事が心配だったのだろう。
[ヨシ、朱美さんも来た事だし・・・]
[四谷さんもいる事だし・・・]
[一刻館も復活したし・・・]
[一刻館復活を祝して宴会だ~!!!]
[アラヨイサ、こらさ!]
[いいぞ~!]
この3人が揃う時・・・それは宴会の始まる時でもあった。
そして景気良く、いつものように玄関先で酒盛りが始まってしまった。
[いやあ~]
[何か少々惜しゅうございますな]
四谷さんが突然なにやら言い出した。
“”[何が?]“”
一の瀬さんと、朱美さんが声を合わせて四谷さんに聞いた。
[あ、いや、一刻館の修理がもう少し長引いてくれたら、管理人さんの所にまだ居れたのに]
[三食昼寝つき、風呂まで付いて、極楽のような生活でございましたのに・・・]
[お肉のたくさん入ったすき焼き、美味しゅうございました]
[寒い日の鍋焼きうどん、美味しゅうございました]
[風呂上りのビール、美味しゅうございました]
涙まで流して悔しがる四谷さん。
[まったくこの人には敵わないね~]
一の瀬さんも朱美さんもただただ、呆れるだけだった。
楽しい宴はそれからもしばらく続き、お開きとなった。
だが、この“ありふれた風景”もやがて、見納めとなってしまう。
~その夜~五代家~~夫婦の寝室にて~
[そうか・・・響子、決心したのか]
[ええ]
五代君と響子さんは、何やら真剣に話し合いをしていた。
[まあ、響子の好きにしたらいいよ]
[一刻館の管理人は響子なんだし]
[僕は響子にアドバイスをする事はあったけど、最終的に決めるのは管理人である“響子自身”なんだからね]
響子さんは、五代君に、一刻館の古くなった今の建物の取り壊しと、それに代わる新しい建物の新築、そして・・・。
今後も管理人を続ける事を告げた。
[それで響子が後悔しないと言うのなら、僕は何も言わないよ]
[ありがとう・・・あなた]
五代君は正真正銘の夫婦になって18年が経った今でも、一刻館の管理人である響子さんの立場をとても尊重していた。
その気持ちをとても大事に、ありがたく思う響子さん。
自分の固い決意を夫に告げた時、夫は頷いて優しくそれを理解してくれた。
“本当にこの人が主人で良かった”
”この人はいつでもあたしが真剣に考えたことを・・・あたしっていう女の考えを応援して励まして・・理解してくれる”
響子さんは改めて、深く長い愛情を五代君に感じ取るのであった。そんな夫がとっても愛しくて頬を摺り寄せて嬉しそうにキスをする響子さん。
そのまま豊満な乳房を五代君の胸に押し付けたまま離れないでいる。お互いの体温と匂いを感じながら心臓の音が段々と高鳴ってくるのが分かる。
五代君も響子さんの髪の毛を優しく撫でながら””風呂上りの響子って石鹸の香りが本当に心地良くて色っぽいな””と思いつつ彼女の頭髪の良い香りを鼻で大いに楽しむ。
彼らにとって性交渉とはとても自然なことで習慣ですらないのかも知れない。誰しも朝起きて食事して夜寝るのと同じくらい自然な行為に近くなっている。
ようやく四谷さんも一刻館に戻っていなくなり家族だけの空間となった我が家で夫婦二人だけの時間を過ごせることに安堵していた。
正月の放火事件から落ち着けない日々が続き、心から愛し合える営みが出来ずにいたが再びそれが戻って来たことに感謝して今宵も大いに求め合おう・・。
お互いに言葉は交さなくても五代君夫婦は同じ想いと考えであった。
今回は既に二人とも風呂上りで寝巻き姿であった・・・。この夜は響子さんが五代君のパジャマや下着を脱がし・・夫が交代で脱がそうとするのを優しく制して自ら夫の目の前で全裸となった。
相変わらず美しい裸体を・・性器も含めて全て晒してくれる妻に感謝し先ずは目で楽しませてもらう五代君。そんな夫に凝視されて、視線だけで愛情を感じてしまう響子さんであった。
そして最初はベッドで寝転がりながら69の体勢で互いの性器を下や唇で愛撫し合って気持ちと性感を昂ぶらせながら正常位や後背位で交互にしっかりと合体して繋がり、響子さんが絶頂を感じたとほぼ同時に
五代君も己の精を思い切り妻の膣内に吐き出していた。そしてその余韻を楽しんで離れることを惜しみ、しばらく繋がったままで夫婦としての会話を楽しむ二人であった。
「ねえ、響子・・考えてみれば、いや、考えなくても・・・もし一刻館が無かったら、おれたち出会えなかったんだよな?」と五代君は仰向けの響子さんの上に正面から覆い被さりながら彼女の頬を撫でながら呟く。
「うん、そうね・・。もし無かったら二人とも人生が変わっていたのよね。今更だけど・・・・」
「全くだよな・・この偶然には感謝しないといけないな。でも・・もしもおれが四谷さんたちに付き合い切れないで君が管理人として赴任する前に一刻館を出て行ってしまっていたら・・・やっぱり出会えなかったんだと思うと・・・」
「ええ・・本当に人の縁って不思議ね。もしそうなら・・春香だって生まれていないし。・・それに・・・」と響子さんはしなやかな両脚を夫の身体に絡めながら呟きを返す。
「それに?・・ああ、おれもそうだよ。おれと響子が夫婦になってこんな風にね・・幸せに暮らすこともなかったんだよ、な?」
五代君は素直に感想を述べる。その想いは響子さんも同じだ。
「ええ、そうよね。・・・ふふふ。こんな風に?」と響子さんは悪戯っぽく微笑んで膣内の随意筋を動かして夫のイチモツをきゅっと締め上げる。
「うぉ・・うん、そうだなあ・・・。憧れの管理人さんと夫婦になれて、いつも一緒に傍にいて・・いつでも好きな時にこうしておれにとって理想の大好きな女性と、こう・・・・」
五代君も復活して屹立状態に近くなったので腰を使って奥に突っ込む動作を再び始める。
「ん・・・ぁぁ・・このまま・・・もう一度?」
響子さんの瞳は期待を訴えている。
「うん、もう一度。たまには同じ体勢で続けてもいいよね」と五代君は妻を抱き締めながら返答する。
「・・ええ。・・もう一度、可愛が・・ってね?」
夫の動作が大きく強くなることを感じて響子さんが同意を伝えて両脚の絡まりにも力が入る。
「ああ、この見事なオッパイと一緒にね・・。本当に弾力があって柔らかくて・・・触って揉んでいるだけで堪らないよ・・・」
五代君は響子さんの素晴らしい張り具合の乳房を鷲掴みで愛でて堪能する。飽きなど全く来ない絶品とも言うべきである愛妻の乳房を賞賛する。
「あん・・もう、あなたったら本当にオッパイを弄るのが好きね?・・・お陰でいつもキスマークだらけよ・・」
響子さんも夫に毎回のように賞賛されるのが・・聞き飽きることなど無い。愛する男性に褒められて胸の内がドキドキしてしまうのは女の性だ。
彼女が自分でも入浴時に気を漬けて乳房や性器は勿論、全身を綺麗に洗うのは夫が歓喜してくれて、たっぷり可愛がって貰えるからなのだ。
焦らずゆっくりと互いに相手の体を感じて愛情に満ち溢れた性交渉を楽しみ夫婦の営みは続けられていく・・・・。
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[そろそろ一の瀬さんと四谷さんにこの事を伝えないと]
響子さんは、この自分の決めた一刻館のプランを、今いる住人たちに知らせなければならなかった。
一の瀬さんや、四谷さんはその決定事項に対して、どんな反応を見せるのだろう?
響子さんは少し不安であったが、近いうちに、二人に告げようと心に決めたのであった。
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一刻館も復旧し、両親も帰っていった賢太郎君は・・・。
ちょっとお洒落なイタリアンレストランのチェーン店で、ホール係兼カウンターや厨房の補助としてアルバイトをしていた。
[いらっしゃいませ!]
[お客様何名様ですか?]
[こちらのお席へどうぞ]
元気よく、今日も仕事に精を出す賢太郎君。
職場でも席の割り振りや常連への対応、繁忙時の調理補助などテキパキしていて、その仕事振りは一目置かれる存在であった。
ラーメン屋への夢は、志の半ばで叶わなかったが、賢太郎はまた別の夢を見て、日々一生懸命に働いていた。
~一方 マンションで一人暮らしをしている響子の母、律子。
[ふう、何かここの所お腹の調子が良くないわ、ホント]
律子は去年の暮れ辺りから、時々下腹部に痛みを感じ、年明けからはほぼ毎日体調不良を訴えていた。
昨年までは一時的で日によっては全く痛みを感じない日もあったが年を越してからしばらくして痛みがずっと朝から晩まで治まらない。
響子さんもそんな母を心配して、連日のように実家へ立ち寄っていたのであった。
それでも我慢強く律子は娘の響子の言う事を聞かず、なかなか病院へ行こうとはしなかったが・・・。
[ちょっと病院行こうかしら?]
流石に我慢の限界らしく、律子は近くの病院へと向かった。
“”千草さ~ん、どうぞ””
診察も終わり、医師の方から診察室へと再び呼ばれる律子。
[あの・・・先生・・・、どうなんでしょうか?]
恐る恐る律子は検査結果を医師に尋ねた。
医師はカルテやレントゲンを見ながら・・・。
[う~ん、千草さん]
[今の所ちょっと、何とも詳しい事は言えないのですが・・・腸の方で少しばかり気になる所がありますんで・・・]
[一度精密検査した方がいいですね]
[時計坂厚生病院への紹介状書きますから、そちらで一度検査を受けて下さい]
かなり渋い表情で精密検査をすすめて来た。
“大きな病院での検査”
この事はすなわち、律子の症状は、思っていた以上に軽くはないという表れである。
[は、・・・・・はい]
医師の言葉に一瞬、目の前が白くなってしまった、律子。
医師からは10日後、時計坂厚生病院で検査を受けるよう紹介状をもらい、律子はそれでも背中を伸ばして溜め息一つ吐かず、家へと帰っていった。
~翌日~
[ええ!?]
[時計坂厚生病院で検査?]
[それ、どういうことよ、お母さん?]
[ど~いうことも、こ~ゆうことも、今言ったとおりよ、響子]
律子の病状を心配して、ここ最近は頻繁に実家へ通って来る娘の響子に、律子は病院で検査があると、“淡々”と告げた。
[やだあ・・・]
[お母さんに何かあったら、あたし、どうしよう]
検査という言葉だけで、心配でたまらない響子さん。
[あんた今年で幾つになったのよ?]
[ホントにそれが高校生を娘に持つ親の言葉かと言いたくなるわよ]
逆に全く動じていない母の律子。
[響子、いつか人は必ず死ぬものなのよ]
[お父さんの時だって、あっという間に死んでしまったし]
[その時期が来たら、それを天寿と思ってあたしは受け入れるだけだわ]
律子はサバサバした表情で、なるようになるさとは言うものの、内心は実は不安でたまらないのが本音であった。
実家からの帰り道、響子さんはぼんやり考え事をしながら歩いていた。
“そうだわ・・・”
“お父さんも心筋梗塞で突然死んでしまった”
“あたしの目の前から突然居なくなってしまった”
“お母さん・・・お母さんは元気でいてね”
父も数年前に亡くなり、母も年老いた。
両親の祖父母はすでにこの世にはなく、一人娘なので兄弟もいない。
響子さんにとって、一人娘である春香ちゃんを除けば唯一血を分けた親兄弟が、母の律子なのだった。
“母にはいつまでも元気でいて欲しい”
祈るような気持ちの響子さんであった。
翌日 響子さんは一刻館の今後の処遇について説明するため、管理人室に一の瀬さんと、四谷さんを呼んでいた。
[・・・・・・・という事で、今の古い一刻館は取り壊して、新しい建物にしたいと思います]
響子さんは二人を前に力説した。
[そうかい]
[いつかはそんな時が来るだろうとは思ってたけどねえ・・・これも良い機会かも知れないね]
[あたしたち夫婦にとって]
[実はさ、父ちゃんの田舎で暮らそうと前から相談してたんだよ]
[父ちゃんの田舎は、父ちゃんからは想像もつかないけど、大きな家でね]
[農家なんだけど・・でもなかなか踏ん切りが付かなくてね]
一の瀬さんの口から驚くべき事が告げられた。
[え?]
[じゃあ・・・・]
[一刻館から出て行く・・・、という事ですか?]
[一の瀬さん?]
突然降って沸いたような一の瀬さんの言葉に戸惑う響子さん。
[ああ、そのつもりだよ]
[老後はのんびりと暮らしたいよ]
[一刻館と時計坂からオサラバするのは淋しいけどさぁ]
一の瀬さんはどうやら冗談で言ってるようではないらしい。
[えーと、四谷さんは?]
今度は四谷さんをちらりと見る響子さん。
[私ですが?]
[まあ、私は・・・]
[なるようになるだろうと]
四谷さんは特に気に留める様子ではないようだ。
そんな訳で、ものの10分も経たずに説明の方は済んでしまった。
これで新しい一刻館建設に対して何も障害はなくなったが・・・。
かつて“不良住民”と呼ばれ、管理人の頭を何度も痛めさせた一の瀬さん、四谷さん。
でも彼らがもし、居なくなったら、居なくなったで、どこか淋しい感じがするのもまたこれ事実である。
彼らと響子さんが出会って、かれこれ20年以上もの月日が流れた。
一の瀬さんや、四谷さんたち一刻館の住人は、響子さんにとって、“家族”のような存在までに大きくなっていたのだった。
たぶん・・・。
一の瀬さんや四谷さんも同じような気持ちでいるのだろう。
だが・・・。
世の中、“出会い”があれば、“別れ”もある。
響子さんは心の中で、彼らとの別れを、“予感”していたのであった。
以下、次回