※この作品はR-18です。

めぞん一刻 二次小説 流れる季節の中で   作:今津晶

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第32話  響子さんの母親

~律子の入院から数日後  昼下がりの一刻館管理人室~

 

[大変だねえ、管理人さん]

[お母さんが入院してしまうなんて]

[それで経過は順調なのかい、管理人さん?]

 

響子さんは、一の瀬さんと四谷さんに、自分の母が入院している事を前日告げていた。

 

一の瀬さんが母の病状を尋ねる問いに響子さんは答えに窮し、

 

[え、ええ・・・まあ、何とか・・・]

言葉を濁すに留まった。

だが顔にはありありと、“良くありません”と書いてあり、それを察した一の瀬さんは、それから先、その話に触れるのを止めた。

 

[それで・・・]

 

[しばらくはこちらの管理人の仕事、空けてしまう事が多くなると思うんですけど]

[何かあったら一の瀬さん、宜しくお願いします]

 

[ああ、心配しなくていいよ、あたしに任せときな!]

 

響子さんは律子の見舞いや看病のため、一刻館に立ち寄れない日もあるかもしれないと、一の瀬さんにしばらくその時は、“管理人代行”をお願いする事になった。

それでも時間の流れは止まってはくれない。

一の瀬さんは田舎へ帰るための下準備に取り掛かりつつあるし、響子さんは一刻館の改築で、業者との打ち合わせも行わなければならなかった。

 

~時計坂厚生病院~

 

律子が入院してから響子さんは暇を見ては、律子の見舞いに来ていた。

 

“ガチャ”

 

[こんにちは、お母さん]

にこやかに病室の扉を開ける響子さん。

律子に会う時は、律子を不安にしてはいけないと、響子さんや五代君は、いつも以上に気を遣っていた。

 

[あら、響子、よく来るわね]

[大丈夫なの?・・・仕事の方は?]

律子はすでに、自分の力で立ち上がるのも一苦労なくらいに体力が落ち、そして、病状が進行していた。

 

[ヨイショッ・・・]

寝ていたのを起き上がろうとする律子。

 

[やだ、お母さん、無理しないで!]

[無茶しないでよ、病人なんだから]

それを制する響子さん。

 

[はいはい、分かりましたよ]

慌てる娘に苦笑いする律子。

 

[お母さん、リンゴ剥いてあげるわね]

 

穏やかな冬の昼下がり。

律子の病室には、暖かな空気が流れていた。

 

五代君が一緒に見舞いに来た時は、いつも『母娘の水入らずを邪魔してしまって申し訳ありません。でもおれも倅ですから、勘弁して下さいね』と

律儀に礼儀正しく挨拶してくれて、言葉だけでなく何かと誠実な態度を示してくれていた。

それが律子にはとてもありがたかった。

一人娘の婿が本当に心根が優しいことに感謝していた。

 

今日のような響子さんが一人の時は体調が良ければ春香ちゃんのこと、五代君のことを色々と律子は聞きたがった。

 

娘の春香ちゃんが実は内面では五代君にとても似ていて、友達想いの優しくて頼もしい一面もあれば、呆れるくらいうっかりしたお調子者の一面があること、口ではあたしもう高校生なんだからと背伸びするが、

実は響子さんだけなく五代君にも甘えるのが大好きな、とても子供っぽい甘えん坊の一面があること。

食いしん坊の癖に料理を作ることには興味を示さなかったのに最近はようやく炊事に協力してくれて料理の仕方も手伝いながら覚え始めていること、など。

それから9歳まで6畳一間の一刻館の管理人室で過ごしたのでマンションに引っ越した時に自分の部屋が有ることに大感激し飛び上がって喜んだこと、けれども今でもあの狭い管理人室が好きでそこで過ごしたがる・・

それは親子3人で仲良く川の字で眠ったりして過ごしていたことが懐かしくて忘れられないから。

パパとママの仲が良過ぎてすっごく恥ずかしいと常々漏らしていること、などなど。

 

夫の五代君が結婚以来、欲しい物があるから買ってもいいかな?と家計を預かり取り仕切る響子さんに恐る恐る相談しに来たことが実は唯の1回だけ、それが今のマンションであること。

職場で園長に昇進しても小遣いを増やしてくれとも言ったことがなくて、逆に心配になって管理職なんだからと響子さんの判断で少し増やしてあげたこと、でも自分の趣味や自分だけの為に何かお金を使った形跡が

殆ど無くて・・多少はお付き合いの酒宴で使うことはあっても実はこっそり銀行口座を開設して貯金していたこと。

自家用車でも欲しくて買うためなのかと思いきや、響子さんと春香ちゃんに何かあった時の為に残したいんだと告白されて驚いてしまったこと。

気付いた時は大金とまでは呼べないが既に100万円の大台を突破していたので、そんなに心配しなくても・・あたしが何とかやり繰りするから趣味に思い切って使ってみたらと言ったら、

五代君から俺の趣味は・・生き甲斐は妻の響子さんと娘の春香ちゃんだから、他に欲しい物なんて何も無いから、響子と春香の二人、その為に使うんだと断言されてしまったこと。

その時は響子さんも口では『馬鹿ね』なんて言ってしまったが内心では感激の余り号泣してしまい、実際に本当に涙ぐんで嬉し泣きしてしまったことなど。

 

そしてそれから五代君が結婚する前からずっと今でも結婚して18年が過ぎても響子さんのことを自分よりも大切に考えて、生き方や考え方を否定どころか大いに応援して理解してくれていること、だから信じられないくらいにありがたくて本当に嬉しいことも。

 

娘の響子さんが夫の五代君と作り上げた家庭がささやかでも・・とても温かくて幸せそのものであること、などなどを時間が許す限り聞いて微笑んでいた律子であった。

 

~そしてその日の夕方~

 

“コンコン”

 

律子の病室をノックする音がした。

 

“カチャ”

 

[どうも、一刻館の住人の一の瀬です]

律子の病室に訪れたのは、意外にも一の瀬さんだった。

辺りはすっかりと暗くなり始めていた。

 

[管理人さんからお母様が入院されたと聞いて・・]

[一度はお見舞いに行かないといけないと思いやって来ました]

一の瀬さんはいつものように豪快な感じではなく、神妙な面持ちで、持って来た花を花瓶に入れ替えながら話し掛けた。

 

[いえいえ、わざわざありがとうございます]

律子は心の底から律子の訪問を喜んだ。

 

響子さんの独身時代。

響子さんの父と共に、一刻館と、一刻館の住人を目の敵にしてきた律子。

そしてその標的となった一の瀬さんが、こうしてわざわざ見舞いに訪れ、ひとつの空間にいるのだから、因果なものである。

しかし、この二人が話をするなんて事は、いつ以来だろうか?

 

[あたしの事・・・恨んでないんですか?]

[一の瀬さん?]

少しばかり沈黙があった後、律子は過去の事を振り返り言った。

 

[どうして恨むんです、お母様?]

不思議そうに聞き返す一の瀬さん。

 

[だって、・・・。]

[一刻館から響子を取り上げようとしてたんですよ、あたしたち夫婦は]

何度となく音無家と縁を切らせるため、実家へ引き上げさせようと画策した律子たち。

 

[それは子供を持つ親として当然の事でしょう、お母様]

だが一の瀬さんは自然体で、それは親として当然の行動だと言った。

 

[あたしにももし、管理人さんのような可愛らしい自慢の娘がいたら・・・]

[やっぱりお母様と同じ行動をしていたでしょう]

[幸か不幸か家には出来の悪い息子が一人だけですがね]

[だから]

[ご自分を責めるのは止めて下さい]

[もう昔の話です、お互い水に流しましょう]

 

一の瀬さんの言葉で、響子さんが管理人になってから長い事続いていた、千草家と、一刻館の住人との冷たい関係にピリオドが打たれた。

 

[一の瀬さん]

[ありがとう]

[本当にその言葉であたしの心はどれだけ楽になったか]

[これで、何もわだかまり無く、死んでいけそうです]

 

[止めて下さい、お母様]

[縁起でもない]

[今度は管理人さんや、他の住人たちとも来ますから、その時には少しでも良くなってて下さいよ]

律子を励ます一の瀬さん。

 

[ありがとう、本当にありがとうございます]

律子は溢れる涙を拭おうともせず、しっかりと固く、一の瀬さんの両手を握り締めた。

 

それからは連日のように、誰か彼かが律子の病室を訪れた。

一の瀬さんや、四谷さん、朱美さんらの一刻館軍団から、三鷹、明日菜夫妻まで。

連日のように病室は賑やかになり、律子の淋しさ、痛み、辛さを紛らわせてくれた。

 

その間も、響子さんと業者の間で、一刻館の改築話は進展していた。

 

[それでは具体的にこんな形で宜しいですね?]

 

[ええ、お任せしますわ]

 

[では、今の建物の取り壊しは3月末辺りで?]

 

[はい、結構です]

響子さんは母の事で頭が一杯。

そんな訳で、業者との打ち合わせもどこか上の空。

気づいたらどんどんと詳細が決まり・・・・。

 

そして。

 

~ 今の一刻館の建物は、長くても3月一杯の命と決まってしまった ~

 

そして暦の上では春を迎えた2月の半ば過ぎ。

響子さんはいつものように律子を見舞っていた。

 

律子の病状の進行は予想していたよりも早く、確実に体を蝕みつつあると医師は響子さんに告げていた。

律子は抗がん剤など薬の副作用等で苦しむ日々が続き、日に日に体力を奪われ、この頃になると面会もわずかな時間でさえ、難しい状況になりつつあった。

 

そんな最中のある日、律子は小康状態に入った状況で、わずかな時間ながら、面会が許可された。

響子さんは病室へと入っていった。

が・・・。

 

そこにいるのは、やつれて変わり果てた母の姿だった。

 

“もうこんな姿は他人には見せたくない”

響子さんは今後、もう家族以外の面会は断ろうと心に決めた。

 

病室内には、季節の変わり目の暖かい日差しが差し込んでいた。

そんな中、律子は小康状態を保ち、安らかに眠りについていた。

母の寝顔をじっと見つめる娘、響子。

 

“母には一日でも長く生きていて欲しい”

 

切ない思いが胸を締め付ける。

しばらくすると、律子が目を覚ました。

 

[きょ・・・、響子・・・]

もう体の自由はほとんど効かなくなり、話をするのでさえ、辛そうに見える律子だった。

 

[しゃべらないで、お母さん]

[無理しちゃダメよ]

[体に障るわ]

そんな律子を心配する響子さん。

 

[平気よ]

[確かにね、しゃべる事、そして体を少し動かすのも一苦労になってしまったけど]

[もう、あたし・・・]

 

[“”“長くはないから”“”]

[話せる事は、・・・話しておきたいの]

律子はすでに自分自身の病気の状態を悟っていた。

だから、少し無理をしてでも、話が出来るうちに、話しておきたいと、声を振り絞るように言った。

 

[やだ、お母さん、何言ってるのよ?]

[お母さんの病気は治るのよ]

[今は、今は辛いかもしれないけど、ちゃんと完治して退院も出来るのよ]

[だから・・・・・・]

[そんな事言わないで]

 

響子さんは辛かった。

苦しかった。

あまりに“わかりきった嘘”でも、その嘘を吐き通さねばならないのだから。

~だが~

 

[響子・・・・]

[もういいのよ・・・もう・・・いいの]

[自分の事だもの・・・自分自身が一番良く分かるわ・・・]

[響子はね・・・・嘘の吐けない子だから・・・・]

[分かるの・・・分かるのよ]

[“親子”だもの]

 

[あたしの・・・・・]

[あ、あたしの・・・]

[たった一人の・・・・]

[娘だもの・・・・・・]

律子は娘の思いやりを痛いほどに感じていたが、最後の最後に“嘘”は吐いて欲しくない、

きちんと本当の事を告げて言って欲しいと願った。

 

[お母さん・・・]

[ごめんなさい]

[でも、でも、あたし信じてるから]

[お母さんの病気、治ると信じてるから!]

響子さんはそれでも、“真実”を告げることが出来なかった。

“ごめんなさい”と謝りながらも、奇跡を信じていたいから・・・。

 

[ありがとう・・・・]

[響子]

[ホントにあなたは・・・]

[優しいのね]

[でもね、響子]

[人は皆、いつか死ぬもの・・・なのよ]

[あたしもそうだし・・・]

[いつかは・・・・]

[響子や、裕作さんも]

 

[けどね、悲しい事、ばかりじゃないのよ、響子]

[死ぬ人がいれば、その代わりに・・・]

[生まれて来る人もいる]

 

[あなたは春香を・・・]

[あたしとお父さんに見せてくれた]

[あんなに可愛い孫娘をね、それだけでね・・・]

[あたしもう、・・・・]

[十分に、幸せなの]

 

[あなたが、惣一郎さんと死別した時に・・・・]

[あたしとお父さん・・・・・・]

[もう、孫は見れないかと、半分・・・・諦めてたのよ]

 

[だから、もう十分]

[ただひとつね・・・]

[思い残す事があるとしたら・・・]

[それは・・・]

[春香の花嫁衣裳が見れない事、かしらね]

[春香の子供まで見る事が出来たら・・・]

 

[フフフ・・・]

[あたし、・・・]

[曾お婆ちゃんだわ]

[ふぅ]

[少し話疲れたら眠くなってきたわ]

 

律子は響子さんに今までの感謝と愛情の思いを伝えた。

そして自分自身、孫の春香ちゃんまで見る事が出来たのだから、これ以上何も望むものは何も無いと。

十分に幸せな生涯だったと。

 

~~話し疲れた律子は、そのまま眠ってしまった~~

 

響子さんはそんな母の寝顔を見ながら、母律子と、亡くなってしまった父との思い出を手繰り寄せていた。

 

少し偏屈だけど、自分には甘く、溺愛してくれた父。

幼稚園、小学校、中学校の事。

家族で旅行に行った事。

高校時代に惣一郎さんと恋に落ち、一度は結婚を反対され、二人の仲が暗礁に乗りかかったとき、母が最終的な理解者になってくれ、結婚までこぎつけた事。

 

しかしその後、惣一郎さんが急死してしまい未亡人となった自分に実家へ帰れと言葉だけでなく色々と画策し一刻館の住民たちまで巻き込んで大騒動となったこと。

時が過ぎてようやく五代裕作という男性と再婚する決意が固まるも当初は父が大反対であった。

高熱で寝込んでいたのに五代に文句を言いに行くと彼のアルバイト先にまで訪れ倒れてしまった・・・だがその父をおんぶして送る五代と響子さんの間で交したプロポーズ。

その言葉を聞いて二人の間の固い絆を理解し結婚を承諾してくれた父。

 

そして五代君と再婚し、両親にとって初孫となる春香ちゃんが産まれた時、物凄い勢いで病院に現れて父と母もとてもとても喜んでくれた事。

実家に春香ちゃんを連れて帰ると、それこそ両親が争って世話をしたがり言い争いにいつもなっていた事。

春香に”おじいちゃんもおばあちゃんも大好き!”と言われると本当に両親は顔を綻ばせて大喜びでいたこと。

思い返せば思い返すほど、懐かしい気持ちが込み上げてくる。

 

そんな自分を育ててくれた母も老いた。

 

~そして~

 

もう間も無く、死の瞬間を迎えようとしている。

響子さんは律子の寝顔に後ろ髪引かれながら、その日は家路に着いたのだった。

まだ幾らかは、母と笑って話す機会もあるだろうと。

 

~ところが現実は響子さんの思うように進まなかった~

 

翌日からまた律子の容態が悪化し、薬の投与と副作用による激痛で、面会する事すらままならず、

 

そして・・・・。

 

[ええ!?]

[今日明日が山?]

[そんな、先生!]

 

律子は体力の衰えから肺炎などの合併症を併発し、すでにICU(集中治療室)へ移され、意識はない状態となっていた。

響子さんと五代君は、ずっとそれから病院に張り付いていたが・・・。

 

[あなた、明日仕事でしょ?]

[もう帰らないと]

 

[う、うん、でも・・・]

 

[あたしなら平気だから・・・・ね?]

 

夜になり、五代君は明日仕事があるために、一旦家へと帰宅しようとした。

 

その時。

 

[どうなの?]

[おばあちゃんの容態?]

 

春香ちゃんも虫の知らせなのか心配になって病院へ駆けつけてきた。

 

[春香・・・]

[気持ちは嬉しいけど、あなたは明日朝早いんだから、パパと一緒に帰んなさい!]

 

だが響子さんは敢えて非情になり、夫と娘を帰宅させた。

このままの状態が仮にもうしばらく続いたら、家族共々疲労で倒れてしまうからだ。

 

時計の針は無情にも秒針を狂う事なく一秒ずつ進めて行く。

そして夜も遅くなり、朝からずっと病院に張り付いていた響子さんも医師に促され、一旦帰路へと着こうとしたその時!

 

律子のいるICUがにわかに慌しくなり、看護婦の出入りが激しくなってきた。

そこへ担当医を見つけた看護婦が走って来た。

 

[先生!]

[クランケ(患者)の様子はどうなんだ?]

[バイタル(脈拍)、ハルン(尿)の量、ともに急激に低下しています!]

担当医は看護婦と共に慌ててICUへと消えた。

 

~そしてしばらくして~

 

響子さんが呼ばれた。

 

[最善を尽くしましたが]

[ご臨終です]

医師から律子の死が告げられた。

 

ICUに移る前、律子は意識が朦朧とし、激痛の走る体で、娘である響子さんへのメッセージを書き残していた。

 

『響子へ』

『今まで本当にありがとう』

『あたしは響子を娘にできた事、心の底から幸せに思います』

 

『あなたが惣一郎さんと結婚した事、そしてすぐに死別し、一刻館の管理人になった事』

『三鷹さんではなく裕作さんを再婚相手に選んだ事』

『その事であなたや、あなたの周囲の人たちに辛く当たってしまった事』

『この場にてお詫び申し上げます』

 

『今こうして思い返してみると、響子の歩んできた道は、間違ってなかったのだと、しみじみと実感できました』

『一刻館の住人の人たちはとてもいい人たちばかりでしたし』

 

『裕作さんも、年上で少し頑固な所のある再婚のあなたを、本当に優しく温かく包んでくれました』

『何故あなたが三鷹さんではなく裕作さんを選んだのかは、あなたの心底嬉しそうな笑顔とあなたたちの楽しくて幸せな夫婦生活を見ていて納得できました』

 

『響子がたまに愚痴りながらも裕作さんのことが心配で目が離せないのと呟いている様子を見て、響子が本当に好きな男性と結婚したことが分かりました』

『そして春香という可愛い孫にも恵まれ、私の人生は、本当に幸せでした』

 

『ありがとう』

 

『もしまた生まれ変わる事があるのなら、お父さんと、響子との3人でまた、暮らせたらいいと思います』

『あと春香と裕作さんも一緒なら賑やかで幸せでしょうね』

 

『元気で』

『さようなら』

 

『あなたの愛する春香と、あなたが愛する裕作さんとずっと幸せに暮らしていって下さい』

 

『千草 律子』

 

[おかあさ~~~ん!!!!!!!]

[ねえ、目を覚ましてよ~!!!!]

 

響子さんの声が、冷たく淋しく病室にこだまする。

 

季節は春を告げているのに、外には小雪がちらつき始めた。

2003年2月の夜。

千草律子はこの世を去った。

 

 

 

 

以下、次回

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