※この作品はR-18です。

めぞん一刻 二次小説 流れる季節の中で   作:今津晶

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第40話  ずっと二人で・・・

カレンダーは3月の暦を数え、春の暖かさが時計坂にも降り注ぎ始め、間も無く桜の季節が訪れようとしていた。

賢太郎君と郁子ちゃんはその後、順調に交際を重ねているようだった。

 

[では本日のミーティングを始めます]

[本日付で、アルバイトの一の瀬君が正社員に昇格し、ホール担当チーフとして、今日から働いてもらいます]

 

“パチパチパチパチ”

 

[ありがとうございます、皆さん、今日から改めて宜しくお願いします!]

ついに賢太郎君は勤めていたレストランで、正社員の切符をゲットした。

 

―これで賢太郎君は郁子ちゃんとの結婚へ一歩前進した―

 

[やったよ、郁子ちゃん]

[ついに正社員になれたよ!]

 

賢太郎君はその日のうちに電話で、郁子ちゃんに連絡した。

お互い仕事を持っているため、なかなかすぐに会えないのがもどかしい。

 

数日後~一刻館 管理人室

 

[その後どうなんだい?ウチの賢太郎とは?]

管理人室には一の瀬さんと、響子さん、そして・・・。

仕事が休みの郁子ちゃんが遊びに来ていた。

 

[どうもこうも、まあ・・・順調というか・・・]

一の瀬さんが郁子ちゃんをからかうと、郁子ちゃんは顔を赤くして下を向いた。

賢太郎君はこの日仕事だった。

 

[郁子ちゃん・・・ウチのバカ息子をよろしく頼むよ]

[本当にいつまで経っても半人前のガキだからさ]

[はぁ・・・出来るなら、亭主の田舎へ行く前に、郁子ちゃんの花嫁衣裳見たかったんだけどねぇ・・・あたしゃ]

[ま、贅沢は言わないさ]

[あんたみたいな綺麗な人が、これといって何の取り得も無い、ウチの賢太郎と将来一緒になってくれるのなら、それだけで十分さ]

一の瀬さんの願いは田舎に行く前に、二人の晴れ姿を見ることだったのだが。

何せ二人はまだ婚約すらしていないのだから、無理な相談ではある。

あくまで二人の関係は、""結婚を前提にしたお付き合い""なのだから。

[そうそう、余計なお世話とは思うけど郁子ちゃん、賢太郎君とはいつ位に結婚するつもりなの?]

[ただずっと待ってるだけだと、""あたしたち""のようになっちゃうわよ?]

一の瀬さんの神妙な面持ちを見て、響子さんも二人の今後が気になった。

そしてグズグズしてると自分と五代君の時みたいに、いつまでも待たされてしまうと冗談混じりに言った。

[そうだね、管理人さんの時は五代君がまあ、亀みたいに遅かったからねえ・・・]

[やっと管理人さんが再婚できたのが27歳の時だっけ?]

[よく我慢したというか、待っててあげたよ、本当に]

しみじみと当時を振り返る一の瀬さん。

 

[はい、27歳になってました]

苦笑いするしかない響子さん。

 

[おばさまは極端すぎるのよ]

[だって家にお嫁に来た時は本当にあっという間で、逆に再婚の時は何年も掛かってしまって・・・]

郁子ちゃんは、響子さんの初婚と再婚の結婚事情を少なくとも知っているので、押して押して、押しまくって高校時代には結婚を決意した初婚時と、

惣一郎さんの影と、五代君ののろのろぶりのお陰で、かなりの時間を要した再婚時と比較して言った。

[それは仕方ないわ、郁子ちゃん]

[だって仮にあたしが・・・惣一郎さんが死んですぐに・・・・他所へお嫁に行ったとしたら・・・]

[郁子ちゃん、どんな気持ちになるかしら?]

[あの人、“薄情な人だ”と思わない?]

[本当は死んだ惣一郎さんのこと・・・]

[愛してなかったんじゃないか・・・なんて。]

 

響子さんは惣一郎さんが死んで間もない当時を思い出し、再婚まで時間が掛かってしまったのは、自然の成り行きだと話した。

[そうね・・・そうよね・・・おばさま]

[ごめんなさい]

郁子ちゃんは響子さんの当時の心中を察した。

[ううん、別にいいのよ、郁子ちゃん]

[確かにあたし、・・・極端すぎるのは間違いないから]

[惣一郎さんの時はね、自分からどんどん積極的にアプローチして行ったけど、今の主人の時は、どこまでも待つ方の身だったから]

[だから、そうなってしまったのかも知れないわね、きっと]

[そうねえ・・・]

[あたしが自分の経験から郁子ちゃんに何かアドバイスするとしたら・・・]

[自分も相手が好きで結婚したいと思うのなら、男の人からのアプローチを待ってるだけじゃなくて・・・]

[女性の方からも積極的に押していかないとダメだという事かしら?]

[そうしないといつまでも“宙ぶらりんな関係”になってしまうわ]

 

響子さんは自分の経験を踏まえ、郁子ちゃんが早く結婚したいのなら、賢太郎君の尻を少し叩く位が丁度いいと言った。

 

~その日の夜郁子ちゃんは仕事帰りの賢太郎君と待ち合わせの約束をしていた~

 

“カタンカタン”

 

移動の電車の車内で見る光景は、小さい子供の手を引く母親の姿や、幸福そうな親子連れの姿。

これといって珍しくもない景色なのだが、いざ自分もなんとなく“そんな時期”が近づいてると思うと、自然に細かく観察してしまう。

 

“ああ、この子かわいいなあ・・・”

“まだ3歳位かしら”

“あたし、もう35になるから・・・もし産むとしたら、高齢出産になるわね”

自然と座席で隣り合った小さい子供に暖かな視線を送る郁子ちゃん。

 

“あのバカ、いつになったらプロポーズしてくれるのかしら?”

 

漠然と郁子ちゃんの心を横切る不安。

 

~二人が待ち合わせたレストラン~

 

[おめでとう、正社員]

[ありがとう・・・郁子・・・ちゃん]

[バカ、もう“ちゃん”なんていらないわ]

賢太郎君を祝う郁子ちゃんに、デレデレの賢太郎君。

もう二人は完全な恋人同士だ。

賢太郎君は賢太郎君で、郁子ちゃんにいつ正式にプロポーズするか悩んでいた。

やはり、親孝行として、両親が田舎へ行ってしまうまでに、何らかの形はつけておきたいと思っていたから。

―しかし、賢太郎君の中で大きく引っかかっている問題があった―

 

それは結婚にかかる費用だった。

披露宴やら、結婚後の新居の費用やらで、百万単位のお金が必要なのは火を見るよりも明らかなのだが、

ラーメン屋の貯金を切り崩してアルバイトをし、やっと定職と定収入を確保したばかりの身に、この出費はあまりにも痛すぎる。

が、それ以上に賢太郎君が気にしている事がひとつ。

“うわあ・・・高いなあ・・・。”

“給料三ヶ月分て誰が決めたんだ?”

そう、エンゲージリングの事である。

賢太郎君は雑誌やら、宝飾店のショーケースを冷やかしたりして、色々と相場を見て、悩んでいた。

“郁子ちゃん、こんな安物贈ったら怒るだろうな・・・”

“だけど贈らないわけにもいかないし・・・”

“披露宴とかはやっぱり豪華にしないとダメかな?”

“新婚旅行は当然海外か・・・・”

“うう・・・考えていたら胃が痛くなってきた”

この日のレストランは、二人の思惑が微妙に交錯していた。

“賢太郎君・・・この先あたしとどうするつもりなのかしら?”

“でも・・・自分から[結婚してください]なんて言うのも照れくさいし”

“んんん・・・郁子ちゃんに余計な心配はかけたくないよなあ。”

“やっぱりある程度お金が溜まるまでプロポーズはやめとこうかな?”

 

[何考えてるの、賢太郎?]

[い、いやあ、郁子こそ]

 

後もう少し・・・どちらかが勇気をもって話を切り出せば、あっという間に解決してしまいそうな問題であるような気がするのだが・・・。

 

帰り際。

[あ、あのさ、郁子・・・]

[俺・・・頑張るからさ、もう少しだけ、もう少しだけ、待っててくれよな]

遠回しに賢太郎君は郁子ちゃんにプロポースは、準備が整うまで待って欲しいと言いたかったのだ。

 

[う、・・・うん、無理しないでね]

郁子ちゃんは賢太郎君を笑って励ますのがのがやっとだった。

頑張ってねと言えば、さらに賢太郎君を追い込む事にもなりかねないから。

 

 

~翌日一刻館 管理人室~

 

[え?]

[賢太郎君が電話を?]

[ああ、賢太郎のやつ、色々とあたしに聞いてきたよ。]

[結婚するのにどれ位費用が掛かるのか]

[だから言ってやったんだよ]

[まず先に“する事があるだろう!”てさ]

[そこから二人で話し合えばいいだろうって]

[一人で勝手に悶々と悩んでも始まんないよ、全く]

 

管理人室でワンカップを呑みながら、自分の息子の不甲斐なさを嘆く一の瀬さんだった。

 

 

~そしてそれからさらに数日~

 

[ごめんなさいね、賢太郎君]

[忙しいのに呼び出したりなんかして]

 

[いやいや、別に気にしなくていいですよ、そんな事]

[それで、話って何ですか、管理人さん?]

 

夜の喫茶店に賢太郎君と、響子さんの姿があった。

一の瀬さんの話を聞いた響子さんが、賢太郎君を呼び出したのだ。

“コト”

[あのね・・・コレ、受け取って欲しいの]

響子さんはテーブルの上に、何か小さい箱を置いた。

 

[何だろ?]

賢太郎君は手に取ってその小さな箱を開いてみた。

 

“!!!!!!”

 

[か、管理人さん、こ、これは・・・・・・]

開いた瞬間賢太郎君が絶句した物。

それは・・・。

[あたしが惣一郎さんに結婚したときにもらった指輪よ]

響子さんが惣一郎さんからもらった婚約指輪だった。

 

[で、でも、何でそんな大事な物を俺に?]

賢太郎君が驚くのも無理はない。

響子さんにとって、本当に大切な、惣一郎さんからの形見の品なのだから。

[一の瀬さんから聞いたわよ、賢太郎君]

[何だか結婚費用の事で悩んでるって]

[それもいいんだけど、賢太郎君]

[一番大事なこと、忘れてないかしら?]

[一番・・・大事な・・・こと?]

[分からない?]

[郁子ちゃんの気持ちよ、賢太郎君]

響子さんは、一人相撲をしている賢太郎君を見て言った。

何よりも大事なのは、そんな上っ面の事じゃなくて、結婚してくれる相手の気持ちなのだと。

 

[賢太郎君が理想としている所までお金が溜まるのを待っていたら、郁子ちゃん、どんどんと歳を取ってしまうわよ?]

[それまでずっと彼女が待っててくれる保証でもあるのかしら?]

[郁子ちゃんはそんな物とか、形式とかにこだわる子じゃない事くらい、賢太郎君、お付き合いしてみて分かってるんでしょ?]

響子さんはさり気なく郁子ちゃんの気持ちを代弁した。

[・・・・・・・・・]

響子さんの言葉に黙って下を向いてしまった賢太郎君。

そんな賢太郎君を見て響子さんは・・・。

[でも男性として、やっぱりね]

[見栄というか、甲斐性を見せたいのは、あたし、一人の女として良く分かるの]

[家の主人も・・五代も例外に漏れずそうだったから]

[貧乏なのに、そういった部分が強くて]

[もっと愛だけに生きられる人だったら、5年も6年も待たずに済んだかもね]

[でもでも・・・そんな大事な物、やっぱり受け取れないよ]

惣一郎さんと、響子さんの大事な思い出の品を、そう簡単に受け取るわけにはいかないと賢太郎君は言う。

[この指輪・・・]

[あたしが惣一郎さんから頂いて、一年も嵌める事は無かった・・・]

[そして、今の主人と結婚する時に、惣一郎さんの遺品とともに音無家にお返ししたんだけど・・・]

[音無のお義父さまがね、“これだけは響子さん、あんたに持っててもらいたいんだ”]

[と、おっしゃられたから・・・]

[そのお気持ちを大事にして、ずっとしまっておいた物なの]

[あたしも再婚する時、五代の・・主人の祖母の、ゆかりお婆ちゃんから指輪を頂戴したから]

[今度はあたしから・・・想いを引き継いで行って欲しいの]

[あなたたちに]

[それにね、郁子ちゃんのおじさんにあたる惣一郎さんの遺品だからこそ・・・]

[郁子ちゃんと、郁子ちゃんの旦那さんになる賢太郎君に受け取ってもらいたいの]

[惣一郎さんもきっと・・・]

[喜んでくれると思うから・・・]

響子さんは、五代君との再婚の際に、ゆかり婆ちゃんから大事な形見の指輪を受け取った事を思い出し、自分も想いを次の世代に紡いでいきたいと切に願ったのだった。

それが郁子たちならきっと、惣一郎さんも喜んでくれるだろうと。

[あたしが郁子ちゃんの叔母で実際にいられた時間はとても短かったけど・・]

[今でも彼女の叔母でいる気持ちは変わらないのよ]

響子さんの優しい気持ちに最初は頑なに拒んでいた賢太郎君も、

[うん、分かったよ]

[ありがとう、管理人さん]

[この指輪、大切にするよ]

響子さんの想いを汲み取り、指輪を大事にすると誓った。

 

週が明け、天気は生憎の雨模様。

賢太郎君は仕事が休みだったが、郁子ちゃんは仕事だったので、その帰りに郁子ちゃんは賢太郎君のアパートに立ち寄っていた。

“サー・・・”

 

[よく降る雨ねえ]

[今お茶入れるわ、賢太郎]

 

[あ、ああ、悪いね、仕事帰りなのにそんな事までさせちゃって]

賢太郎君は今日一日そわそわとしていた。

もちろん、“プロポーズを切り出す”ために。

[あ、あのさ、ちょっと話があるんだけど]

賢太郎君は意を決し、郁子ちゃんを呼んだ。

 

[何よ、変にかしこまって?]

少し不思議そうな顔をしながら、郁子ちゃんは賢太郎君の真横に座った。

[いや、あの、こんな場所でとても申し訳ないんだけど・・・]

[これ]

賢太郎君はついに指輪を取り出した。

 

[ちょっ、ちょっとこれ、どうしたの?]

[いつ買ったの?]

突然取り出された指輪に目を丸くして驚く郁子ちゃん。

 

[いや、これは買ったんじゃないよ]

[管理人さんから預かって来たんだ]

[え?おばさまから?]

[これはね、管理人さんが惣一郎さんと結婚した時にもらった指輪なんだよ]

[管理人さん、どうしてもこの指輪を郁子にして欲しいって、俺に預けてくれたんだ]

賢太郎君はこの指輪が、響子さんと、惣一郎さんの思いがたくさん詰まった指輪だと打ち明けた。

 

[ええ!?そうなの?]

[そんな大事な物、あたしなんかが譲ってもらっていいの?]

そんな大切な指輪、とても自分には勿体無い。

郁子ちゃんはためらっていた。

[俺もな、正直郁子への指輪、どうしようか悩んでたんだよ]

[大して貯金も無いから、安物しか買ってあげられないのは分かっていたし・・]

[そんな時、管理人さんがこの指輪を俺に預けてくれたんだ]

[指輪も大切だけど、もっと大切な事があるだろうって]

 

[そうなんだよ]

[俺、やっと分かったんだ]

[何よりも大事なのは、郁子、キミの存在なんだって]

 

[俺は披露宴どころか、新婚旅行も満足に行かせてあげられないかも知れない]

[それに、結婚後も厳しい生活をさせてしまうかも知れない]

[その代わり、俺は浮気とかしないし、君に淋しい思いをさせたりは絶対にしない]

[だから、だから、俺は、キミと・・・、死ぬまでずっと二人でいたいんだ!]

[結婚して下さい]

 

賢太郎君は決死の思いで郁子ちゃんにプロポーズした。

プロポーズを受けた郁子ちゃんは。

 

“スッ”

 

[どう、似合うかしら?]

 

郁子ちゃんは無言で指輪をはめ、にこりと笑い、

似合うだろうかと恥ずかしそうに言った。

 

[じゃ、じゃあ、郁子・・・・]

[い、・・・いいの・・・かな?]

 

[ええ]

 

雨の降る三月の夜。

二人は永遠の愛を誓った。

 

 

 

以下、次回

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