☆あの時のことを先程もだが今も考えているのだろうか?五代君の家族、ゆかり婆ちゃん、父母、姉、義兄、みんなに丁寧に礼儀正しく、とっても上品に挨拶してくれた。みんな大歓迎であった。
☆そしてその夜、五代君の懐かしい自室で二人布団を並べて過ごした。とても懐かしくて嬉しい時間。自分はともかく、響子さんは緊張も疲労もあったはず。なにせ実家の定食屋にて新しい店員のように張り切って仕事を手伝ってくれたのだから。
☆”十分に労わってあげないと”・・そう自分でも思っていたが布団の上で色々と話をして抱き締め合っていたら・・・自慢などする必要も無い素晴らしく魅力的で素敵な女性が恋人で婚約者である事実に・・・若く健康で疲労の色など見せない響子さんが欲しくなり・・・
☆確かに結婚を約束していた深い関係なのだから言葉など必要なかった。実家の自室で愛情を確かめ合う行為がしたくて・・五代君は響子さんを求めて・・彼女からは何も拒否されず、そのまま愛し合った。(大きな声だけは出さないようにお互い気を付けたが)
☆甘美な刻を過ごし裸のまま抱き合っていた二人。寒い冬の夜。雪も降り出していたから気温も低かった。都会育ちの響子さんを心配して暖房器具を2つ用意して温かく快適な空間にしていた。
☆男の殺風景な狭い部屋。調度品などと呼べるような者は何も無い。広さは一刻館の管理人室の方が広いが、そこは響子さんの部屋なのだ。家具も多くはないが女性らしい鏡台など、その他はやはり若い女性の部屋だけあって良い匂いがして清潔で本当に快適な部屋だ。
☆いつも管理人室で夜を二人だけで過ごす時間は本当に幸せで、愛し合う空間として既に互いに認識している。そことは全く別の空気を持つ灰色のイメージしかない実家での五代君の自室。だがその夜は響子さんが居るだけで華やいだ雰囲気となったのは気のせいではない。
☆恋人としての濃密な情事の後、甘いキスを・・ずっと唇を密着させたままの状態で長い時間が過ぎて響子さんは嬉しいことを言ってくれた。
☆『五代さん・・あなたの育った・・暮らしていた部屋で・・・愛し合えて・・あたし・・・・嬉しいの・・本当にね・・・・物凄く・・幸せ』
☆彼女の眼差しは・・瞳は・・・愛情と信頼を込めた・・・いつも五代君だけを見詰める優しい笑顔。こんなに自分を深く信頼して大きな愛情を捧げてくれる愛しい女性。大切にしてあげたいと常に思う・・思うが自分にはまだ常に傍に居ますとしか言えない無力な男だ。
☆プロポーズだって、よくぞ受けてくれたものだと我ながら感じているのは確かだ。彼女の父親が心配するのは当たり前だった。自分が同じ立場でも同じ行動をするかどうかは別にして心配で堪らないのは一緒だろう。
☆響子さんのことが心配で高熱を発しているのに無理矢理に五代君の職場であったキャバレーバニーに押し掛け倒れてしまった彼女の父親。丁度その夜は自分が保父試験に合格し、保育園に就職も決まりバイト先であるキャバレーでささやかな送別会が開かれた日でもあった。
☆心ならずも参加した響子さんの父親が叫んだ言葉・・・”俺はもう響子が泣く姿を見るのが嫌なんだ・・響子~・・・”・・・あれは血の叫びだったと思う。
☆その父親を背負い帰る途中、路上で行ったプロポーズ。決死の覚悟で行った。・・・そして彼女は・・響子さんは承諾してくれた。たったひとつだけの条件を付けて・・・。
☆『お願い、1日・・1日でいいから・・あたしより長生きして・・・。もうこれから先・・・一人じゃ・・生きていけそうにないから』
☆おれは響子さんに誓った。
☆『約束します・・決して一人にはしません』
☆『約束よ』
☆響子さんはおれの誓約を・・誓いを・・・約束を・・心に刻んで受け入れてくれた。
おれみたいな・・・そんな謙遜は不要だ。おれは約束をしたのだ。絶対に破らない約束を。おれの愛するただ一人の女性である響子さんと。だから絶対にそれは守る。石に噛り付いてでも何をしても。おれは何歳まで生きることが出来るのか?それはおれも分からない。
だが響子さんが生きている限り、おれも必ず生きる。彼女を絶対に一人にはしない。おれに存在価値があるとすれば、響子さんと一緒に過ごし彼女が例え80、90、100の長寿を得たとしても必ずおれも生きて傍に居る。ただそれを果たす。響子さんの為に。
彼女に嘘吐き呼ばわりされないように例えたった1日でもいいから長生きする。その気概は捨てない。死ぬものか。それを響子さんはおれに求めているのだから。
響子さんはとっても綺麗な女性だ。初めて出会った時は21歳であったが現在は27歳。でも何も変わらない。美しくて歳など何も取らないままだ。”響子さん、あなたは歳を取りません”これはおれの本心である。絶対に神聖で不可侵な考えだ。
でも彼女が何故そんなに魅力的で麗しいのかは外見だけではないのが理由だ。とても朗らかで優しくて温かくて・・慎み深いのに堅苦しくなくて・・面倒見が良くて・・世話焼きで・・・愛情の深さなどは計測が不可能だ。おれの気持ちを知って・・おれを男として認めてくれて
そして彼女はおれが愛するに足る男かどうかまで見極めてくれて・・・そしておれの恋人になって・・・結婚の約束までしてくれた。最初は余りにも眩しくて・・憧れるだけの理想の女性で終わってしまうのかと心がポッキリ折れそうになったけれど・・・でも諦め切れなくて。
そう、おれが口で言った”響子さん、好きじゃぁ~!ご町内の皆様、私こと五代裕作は音無響子さんが好きでありま~す!!”・・・その言葉を実現できる男なのか?彼女に決して寂しい気持ちを抱かせない自信があるのか?自信ではなく実行できるのか?
そして彼女の・・響子さんの深い哀しみを理解できるのか?それをずっと見続けて判断してくれた。おれが浪人、学生、就職浪人、そんな肩書きは関係が無かった。おれが男として、どんな人間として響子さんを愛するのか、それを見極めてくれた。
だから・・・だから・・・おれは響子さんとの約束を絶対に必ず守る。例え死神や悪魔が来ようと受け入れない。
彼女の哀しみ・・それは響子さんが未亡人であったこと。彼女は惣一郎さんという男性と恋愛し結婚したことに何も後悔などないと言う。結婚して僅か半年足らずで夫に先立たれても、亡き夫の記憶を大切な思い出として大事に守っていた。おれは正直、嫉妬した。
けれども同時に何て凄い女性なんだとも思った。どうして亡くなってしまった男性のことをそこまで大事に出来るんだろう?どうして?・・・不思議な気がしたのは確かだ。だが時間が経つに連れて、こう思った。
”おれも惣一郎さんのように響子さんに愛されたらどんなに素敵で素晴らしく・・幸せで嬉しいとか言葉では言い表せないほど感激出来るんだろうな”と。
でもおれは惣一郎さんじゃない。全くの別人だ。だから・・”おれは惣一郎さんと同じ幸せはあげられない。おれにしか出来ない幸せを・・響子さんにあげたい。・・おれにはそれしか出来ない”・・そう本心を包み隠さず語って彼女と結ばれた。
響子さんと恋人同士に・・・大人の男女の関係になれて・・・おれは生涯で最高に有頂天だった。そして目指していた目標の国家試験、保父の試験にも何とか合格して正社員として就職先も決まった。これまでの運勢が悪いとしか思えない人生が一気に好転していった。
そして恋焦がれていた彼女に遂に・・プロポーズまで承諾してもらえた。社会人一年生でしかない新米の五代裕作という男と結婚をして一緒に暮らすことに同意をしてくれたのだ!本当に心から望む全ての幸福を手に入れたと実感していた。
響子さんという女性は・・大好きで心の底から愛する、好きで好きで仕方がない位に熱愛する男性とでなければ肌が触れることを拒絶する女の人だ。そう、だから愛し合う行為は彼女自身が心から愛する男性とでなければならない、身持ちがとてもとても物凄く固い女性なのだ。
そして現在おれと愛し合う、おれが彼女の肌に・・身体に触れることを許されるのは・・響子さんがおれをそのような男性と認めてくれているからだ。こんな幸運な幸福なことなど他には無いと断言できる!
挨拶だってこれまでは言葉だけだったのに今では毎日朝も昼も夜も濃厚なキスを交わしているんだ。
普段でも管理人室にお邪魔して二人だけの空間と時間が確保できれば・・おれが響子さんを求めて柔らかく芳しい匂いの麗しい女体を抱き締めると彼女も腕を回して愛し合うことに応じてくれる。
彼女の物凄く綺麗で艶やかな裸体を眺めて、瑞々しい弾力の乳房を揉んだり顔を埋めても・・響子さんの大切な性器にだって、柔らかな恥毛に縁取られた薔薇のように可憐で美しい花弁に触れても舌で舐めて愛撫しても・・セックスをして気持ち良くなって最後に射精をしても
恥らいつつも嬉しそうに微笑んで受け入れてくれるんだ!・・そう毎日でも!・・・響子さんも心地良い美声で愛の告白を囁いたり呟いたりしてくれる『ふふふ・・五代さん♪・・あたしはあなたの”女”で、あなたもあたしの”男”なんですから・・・大切に可愛がって下さいね?』
甘美な情事の余韻に浸っている時に、布団の中で互いに全裸のままで抱き合っていると・・そんな天にも登るような甘い囁きや嬉しい呟きを口にしてくれる響子さんが本当に心から物凄く愛しくて堪らない気分になるから再び挑んで彼女を何度も求めてしまうんだ。
そして新潟で・・そこにはおれの実家がある。家族がいる。だから奥さんになってくれる女性、響子さんを披露する為に、彼女はおれの家族に挨拶をする為に二人で訪れた。おれにとっては何度目か分からない位の帰省。でも彼女にとっては初めての新潟。
初めての?・・初?・・生涯で初めての?・・・初対面?・・初めてという言葉と初という漢字に何故かこだわる。いや、こだわったのは自分ではない。彼女だ。
”新潟に来て下さい、おれの両親と姉貴に紹介します”とその1週間前におれは言い、新幹線の切符も手配した。
『ちょっとだけ・・緊張しますね』と呟いた彼女が可愛くて仕方がなかった。でも・・・当日が近付くに連れて少しずつ少しずつ響子さんが気落ちしているように見えたのは気のせいではなかった。そう、憂鬱そうな表情が見え隠れしていたのだ。
何故?
ひょっとして・・おれにとっては初めての婚姻だが響子さんにとっては再婚となるからか?しかしそれは本当に今更、今更な事柄だ。おれは全て、いや、勿論全てではないが彼女が未亡人であった時点で知り合って恋愛して結婚を決意し承諾してもらったのだから、
響子さんの過去については知っているし理解している。そう、だから何も負い目に感じたり考えたりする必要すら無い。
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#おれの狭い自室で初めて愛し合った後に・・・響子さんは布団から身を起こすと、正座してその美麗な裸体を全て・・素晴らしい張りの乳房や漆黒に輝く恥毛などを隠さずに晒したまま、自分の内心をも曝け出してくれた。本当に包み隠さず、全てを・・・。
#『ねえ、五代さん・・・あたし、いつもあなたにこんな風に大切に愛されて・・・逞しく可愛がってくれて・・・愛情を貰えるから・・凄く・・・嬉しいの。だから・・・結婚したいなって思ってたし、プロポーズもお受けしたんです』
#『あたし、五代さんのことが好き。・・大好き・・・本当に心の底から大好き。・・時々、五代さんとどっちがお互いに好きなのか比べっこまでしたわね?・・・いつもあたしに軍配を上げてくれたけど・・・譲ってくれたとは・・実は思ってないの』
#『だって絶対に・・・あたしが五代さんを好きな気持ちの方が強いから。・・自信があるの。本当よ・・・・・・・だって・・・・・・・・その理由・・・・・・・・・ずっと・・・・言えないから、ね?』
#おれが愛して止まない彼女の美しい瞳は少し悲しげな色をして表情も僅かに暗かった。今までどちらの方が好きな気持ちが強いか競争するような会話の時、いつもなら悪戯っぽい少女のように、そしてとっても上機嫌に微笑んでいたのに今夜は何か違う。そう直感した。
#そしておれも布団の上に座り、胡坐を掻こうかとも思ったが全裸なので正座に近い姿勢にした。
#『いや、その・・どっちが気持ちが・・好きなのかって競争?論争?・・うん、日によってはどちらかが勝り、また追い抜いてって感じで・・・だからおれのほうが好きな気持ちが強い日も有ったと思うんで・・・それがたまたまそんな日はその話題にならなくて・・・』
#『理由もそうですよ。口で説明できることもあれば出来ないことも有ると思うんで・・・感覚的なことは。おれもそういう表現方法、苦手だし・・・でも、昔より絶対に今の方がもっとおれ、響子さんのこと好きですよ。それ間違いないです』
#『響子さんのことで知らなかったこと、知ってたつもりでも実は知らなくてって所なのか点なのか、ホント有るんだなぁって、いっつも感じてますよ。だから新鮮な毎日だなってね・・それ口で上手く説明できませんけど事実なんです』
#まだ彼女の真意が分からなくて・・でも彼女の話・・質問や疑問ではないが自分としても意見を言いたくなってそう話していた。珍しいことだが。
#『ええ、本当に五代さんって優しいんですね・・・・・・・・そこまでの優しさ・・・あたし・・足りないかも?・・ううん、足りない・・・わ』
#『・・・・・・・・・・・・・』響子さんは口を噤んでいる。何か言いたいこと、言おうとしたこと、それがあるはずだが?・・・敢えて口にしたくないのか言わない。言いたくなくて、もしくは言えないのならば無理矢理に話してもらうものではないから聞かない。
#言えると判断するのか言えないと結論付けるのかは彼女が決めることだ。おれが教えて下さいと言うものではないだろう。
#『・・・五代さん。・・・あたしたちが初めて外で待ち合わせて出掛けた・・・初めてのデートって覚えていますか?』
#『え・・ええ、それっておれが食事に誘って・・待ち合わせ場所に喫茶店の〈ま・めぞん〉と言ったつもりが響子さんには居酒屋の〈豆蔵〉に聞こえてしまって、4時間近く出会えなかった時のことですよね?勿論覚えてますよ』
#『はい、そうです・・・五代さん、喫茶店で4時間もたった一人でずっと来ないあたしを待ち続けてくれて・・・・でも、全然怒らなくて・・・5時間でも6時間でも待つつもりだったって言ってくれましたよね?』
#『そうですよ。何か来れないのは事情があるはずだから・・・おれは待ちたいからずっと待つんだって決めてました』
#『初めて五代さんがあたしの裸を見たのは・・・覚えていますか?』
#『うん、ああ・・それも、はっきり覚えていますよ。響子さんがテニスで捻挫して動けない時におれがラーメン作って差し入れをして食べて下さいって持って行って完食してもらったけど、実は色んな人に食事や差し入れをしてもらった後だって分かりましたから、胃薬を
#おれが管理人室へ届けに行ってドアを開けたら・・・響子さんが銭湯に通えないからお湯で身体を自分で拭いている時でしたよね。・・・すみません、考え無しで行動して』
#『ふふ・・・凄く具体的に・・鮮明に覚えているんですね。謝る必要なんかないですよ。あれは五代さんが誠実な人だから起こった偶発事故ですから・・・でも、どこまで見たんですか?』
#上目遣いで、ちょっぴり意地の悪い質問をして彼氏を困らせようとする恋人として様子を探るような眼差しをされると逆らえない。
#そう追求されると・・・いささかバツが悪いような気もするが・・でも完全に覚えているから五代君も正直に話す。
#『いやあそれは・・上は全部、だから乳房とか乳首もきっちり見てしまいました。下は・・ほんの少しだけ・・・その、黒々としたアンダーへアーとかも一瞬ですけど目に入ったので。・・・ちょっと記憶し過ぎですかね?』
#頭を掻きながら五代君が語ると、くすりと響子さんは笑い・・・。
#『抜群の記憶力・・なんですね。でも別に・・いいんですよ。だって・・・未来の恋人に・・旦那様になる男の人にだから見られてしまっても・・・何も問題ないでしょう?』
#『初めてのキスも・・・ふふ、この調子だと全部・・五代さんは覚えていますよね?』
#『それは・・当然ですよ。だって・・響子さんとのことですから忘れたりなんかしませんよ、おれ』
#そう、初めてのキスはそれこそ偶発・・嬉しい事故だった。玄関の照明を交換する為に脚立に登っていた響子さんがバランスを崩して・・俺が慌てて支えようとして・・・お互いの唇が触れて・・結構ぎゅっとしっかりキスをしてしまった。
#そんな嬉しい出来事を俺が忘れる訳は無い。2回目は・・いや実質にどちらかがキスをしようとしてした本当の・・初めてのキスだって忘れない。おれがこずえちゃんの悪戯に引っ掛かってキスされてしまい、それを響子さんに必死で弁明したら・・・
#おれは彼女にも騙されて響子さんからキスをされてしまった。そんな嬉しい思い出を忘れるどころか思い出して堪らないくらいだ。
#初めて一緒に入浴も偶発事故に近い。北陸に一人旅に出掛けた響子さんを追い駆けてようやく再会できたのが確か・・金箔館という温泉旅館で、その大浴場でばったりと出会えたのだ。
#日付や時刻など覚えていないが時期や状況、その場面を克明にきっちりと覚えている。響子さんとの掛け替えの無い大事な思い出だから当然だ。
#そして初めて結ばれた夜も・・・最初はラブホテルで、でもそこでは出来なくて失敗して・・・同じ夜に管理人室で初めて・・・出会って5年の歳月が過ぎて遂にやっと・・・おれは最愛の響子さんと結ばれて身も心も繋がったのだ。
#そんな大切な記憶を絶対に忘れたりしない。
#『五代さん、あたしの実家で・・初めてあたしの部屋に来てくれた日のことも覚えていますか?』
#『いや、それは当然ですよ。・・お宅にお邪魔したことは何度かありましたけど、響子さんの部屋に入ったのはあの日が初めてでしたし・・それに恋人としてお邪魔できましたから』
#『ええ・・・五代さんがあたしの部屋に来てくれて・・一緒の時間を過ごして・・愛し合って・・・一緒のベッドで眠って・・・とっても素敵でした』
#響子さんの部屋・・・若い女性の良い香りがして・・・ああ、女の人の部屋って何て心地良いんだろうって素直に感じて・・・そこで愛する営みを行って一緒に眠って・・・まるで夢みたいな夜だった。
#そこで子供の頃の話とか色々と語ってくれて・・・響子さんに関する昔の話って初耳なことが多くて、とっても楽しかった。自分の好きな女性の実家にある私室にお邪魔する・・とても心が弾む機会だ。何度だって行きたいのは間違いない。
#『管理人室じゃなくて5号室で・・五代さんの部屋で初めて愛し合ったことも・・・・・ううん』そこまで言うと彼女は大きく首を振った。
#『今までの話・・・あたしも全部・・・覚えています。詳しさと具体的な記憶に差があるかも知れませんが・・・全て忘れていません・・・・あたしも』
#布団の上に正座したままの響子さんは首を垂れて俯き加減になっていた。彼女の表情は五代君からだと位置的に窺い知ることは出来無い。
#彼女の太腿に・・・ぽつんぽつんと涙が落ち始めた。最初はほんの1、2滴。そのうちぽたりぽたりと頻繁になり響子さんが泣いてしまっていることに気付いた五代君は驚き、慌てた。
#『え・・響子さん・・・何を・・・泣いているんですか?・・・何かおれとのことで悲しい記憶でも?』
#響子さんは又もや首を振り、五代とのことで悲しいことがあるのではないと否定する。
#『ううん・・・違う・・の。・・五代さんじゃなくて・・・あたしが・・・・あたしが・・・・・言いたいのに・・・・・言えない・・・・言えないの・・・・ごめんなさい』
#((だってそれは・・・大いなる矛盾だから。・・そう本当に矛盾。どう考えても・・・辻褄が合わないの。・・・・だから・・あたし・・・言えない・・・言いたくなるけど・・決して言えない・・の))
#一体何が悲しくて・・・それに言いたいけれど言えないことって何なのだ?響子さんの過去でおれが知らない・・・何か重大なことがあったのだろうか??
#彼女は生真面目で誠実な女性だ。それは本当にそうだ。だから信頼などという簡単な言葉で表現したくないほどおれだって、彼女のことを信じている。
#別に言えないのならば無理になど言う必要などない。おれが響子さんを愛していることに、その気持ちに一片の曇りも無い。彼女に泣いてしまうほど苦しい過去がまだ他にあったとして、それでも俺の気持ちに変化など何も起こらない。
#『響子さん・・・何にも無理なんてする必要、無いですから。響子さんが話したくないのなら、それこそ誰にも・・おれにだって話す必要も全然無いですよ』
#『・・・・・・はい・・・・ありがとうございます・・・・五代さん』
#そこまで話すのを聞いて五代君は響子さんの体を抱き締めた。お互いの体温を・・温もりを感じて何も言わなくても長い時間を過ごすことはこれまでもたくさんあった。だから今夜も同じだ。
#彼女が悲しむ姿など見たくはない。・・・しばらくこのままでいよう、ただそれだけでいい。
・
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少しだけだが、やつれた表情を見せる響子さん。再び口を閉ざしたまま何も喋らない。もう体の震えは止まったが、まだ彼女の頭の中では現実の世界に戻ってはいない。大きな声を掛けて体を揺り動かせば現実に意識が戻るだろうとは思う。だがそれでは・・・。
それでは駄目だ。彼女の・・妻の心の葛藤は解決しない。ここは自力で考え時間を費やして心が落ち着くのを自分はゆっくりと待つ。そうしなければいけないのだ。
幸い体調が悪そうには見えない。今日はとことん付き合うと決めているから五代君自身はまだまだ全然構わない。
だがようやく響子さんは夫の顔を正面から見据えて見詰めている。悲壮な感じがしないでもないが覚悟の気持ちが伝わってくる。そしてやっと彼女は口を開いた。
『あなた・・・あたしね・・・・。ずっと言えなかったことがあるんです。・・・ずっと。もし言っていたとして・・・あなたの返答も予想じゃなくて・・・確信出来ていたけど・・・・それでもどうしても・・・・・言えなかった・・・の』
『あなたと恋人になって・・結婚して・・春香を産んで・・・ずっと幸せなまま・・・・そう、ずっと今でも。・・・・今更だけど・・・・もう遅いのかも知れないけれど・・・結婚する前に言うべきだったとは・・・思っているわ』
『それはね・・・・・・・・何度も言おうと思っていたの・・・何度も・・・・でも・・・昔あなたの実家に挨拶をしに訪れた時なんて、かなりの覚悟があったのに・・・・駄目だった・・の・・・・だってそれは・・・・本当に・・矛盾だから』
響子さんの表情には悲哀が感じられる。彼女の生(き)の気持ち。誰にでも見せる表情ではない。心から信頼を寄せる、深くて厚い情愛のある自分の配偶者である夫の五代という男性にだからこそ・・・本当に心を開いている相手だけにしか見せない顔だ。
結婚して10年以上が過ぎても五代君にとって物凄く幸福な生活であること、疑う余地など何にも存在しない。自分の憧れで理想の女性が妻となってくれて可愛い娘も産んでもらい、二人一緒に育児をして家族水入らずで暮らしていると時間の経過など意識しなかった。
響子さんの望みとは・・夫である自分、五代裕作という男性が常に傍にて一緒に暮らす日常こそがそうであり、最も重要な願望であるからには夫として、否、彼女を愛する男として、それを適えることが大切で大事な役目であると思ってきた。
神聖な義務で任務・・などと殊勝な考えとはまた異なる。妻のその望みとは自分の望みでもある。だから彼女の望みを適えて自分の望みも果たす。単純明快に言えばそういうことだ。そして実行をしてきたのである。
彼女に初対面で本当に一目惚れして以来、大好きになる気持ちが日に日に増して大きくなり・・恋人になるまで至らなかった日々であっても挨拶をするだけで世間話をするだけで、本当に心がときめいた。
その女性が今では自分の愛する妻であり、二人の間に誕生した愛娘の母親であるのだ。彼女とは常に夫婦として会話し娘の親として会話をしている。こんな贅沢な幸福が実現しているのだ。不満など何にもどこにも無い。
だから・・・響子さんからの告白が例えどんな内容であれ、彼女を愛する心が揺らぐことはないと断言できるし、聞く前でも断言する。腹だって据わっている。
『うん、でも・・・・あたしの心が晴れないままだから・・・黙っていてもいいのかも知れないけれど・・・・・・・もしかしたら、あなたも・・聞いてくれたら・・・呆れるかも、ね?』
『・・・・・・・・・・・・あたしね・・・・・あなたに・・・・捧げられる・・・・喜んでもらえる・・・・大切な・・・・・初めてのものが・・初体験と呼べるものが・・・・何も・・・何も・・・そう、何も無いの・・・無かったのよ』
『あたし・・・あなたとね初対面の時から既にそうだったけれど・・・・処女じゃなかった・・・だから当然キスだって・・・・ファーストキス?バージン?・・・そう、そう呼べるものが何にも無かった・・・』
『結婚式だってそう。・・・再婚だから当然だけど・・・・2度の結婚式をそれぞれ別の男性と挙げた女があたし、響子・・・。結婚生活もそう・・・あたしだってあなたと暮らすのは新鮮で楽しくて・・・嬉しくて幸せなままなんだけれど・・・比較なんて全然してないけど』
『でも・・でも、あたし・・・男の人と暮らすのは初めてじゃないの。・・・・・・・それでも妊娠するのだけは生涯で初めてだったし、出産だって初産だったから・・・心の準備って結構ね大変だったけど・・・無事に出産できて、娘も健康だから嬉しくて安堵したけれど・・』
『別に女性だけに処女性を求めるのは不公平だって、あたしも思うし・・・時代も違うとは理解しているの。・・・でも・・・・うん、違うのよ。あたし・・・あなたが・・裕作さん・・あなたのことが本気で大好き。昔も今も変わらず愛しているわ』
『だから、お願い・・・怒らないで聞いてね・・・あたし、惣一郎さんと結ばれた時に・・・本当に初めてのキスだってバージンだって捧げることが出来て・・・嬉しくて・・・あの人にも凄く喜んでもらえて・・・・でも・・・あっという間に亡くなってしまった』
『それから・・・もう誰とも恋愛なんてしないと固く決心をしていたのに・・・・あなたと出会って・・・・確かにあなたが先に好きになってくれたけど・・・あたしだってあなたを好きになって・・・・結ばれる機会もね・・なかなか実現しなかったけれども』
『あたしが26歳・・あなたが24歳の時に・・・知り合って5年が経過してやっと・・・遂によね・・結ばれて・・・・こんな言い方、あたしは正直好まないけど・・・あたしにとって男性体験は・・・あなたが2人目・・・あたしが知っている男性は2人だけ』
『あなただって高校生の時に彼女とキスした経験あるって言ってたし・・その他にもね・・・坂本さんから風俗に付き合わされて童貞じゃないのも知っていたわ。・・・・うん、だからお互いに気にする必要無い・・そう思うんだけれども・・』
『あなたにあたし・・喜んでもらえる・・初めて男性に捧げることが出来るものがね・・・今となっては確かに初めての妊娠と出産、それだけは初めてなんだけれど・・本当にそれだけ、なの』
『でもね・・・あたしが惣一郎さとん結婚して未亡人とならなければ、あなたと再婚する未来は存在しなかった。あたしが惣一郎さんに全ての初めてを捧げる恋愛と結婚という過去が無ければ、あなたと知り合う機会が無かった』
『だからね・・・辻褄が合わないの・・・文字通りの矛盾。こんなことを10年以上も心にね・・・燻らせるなんて本当にあたし・・・面倒臭くて・・頑固で・・意固地なままの駄目な女ね。ホント、自覚してる・・・・ごめんなさい』
心に存在したわだかまり、それを遂に夫に告白が出来て胸のモヤモヤが取れたことに対して、やっと心が晴れた気分ではあったのだろう。先程とは違い悲壮感は無くて表情には安堵感が広がっている響子さん。
『今日はね・・・もうすぐ惣一郎さんの命日だってことを思い出したら・・・その命日の時からのあたしを思い出して・・・・物凄く悲しくて・・・精神的に崩壊・・心が全て砕け散ってもおかしくないくらいの衝撃だったわねって考え出したら情緒不安定になってしまって』
『未亡人になった瞬間からの不幸・・でも何とか・・何とか自分を取り戻せて・・・そうしたらいつの間にか・・・・あたし、あなたに興味が湧いて・・知らない間に気になる人から・・・好きな人になって・・・心から大好きになって・・・恋愛して・・結婚して・・今がある』
『あなたがあたしを好きな気持ち、その大きさ・・・本当に嬉しいわ。あなたからの愛情が無ければ・・・一人ぼっちで寂しい老後が迫るだけの人生だったかも知れない。・・だからね、本当ならあなたと結婚する前の恋愛時代・・恋人になれた時で、プロポーズの時にね』
『あたしだってあなたと結婚したかったから、その場でね、すぐに承諾したけれども・・・・あなたが申し込んでくれたように、女性だけど、あたしからもプロポーズの意味で・・こんな気持ちを正直に素直に言うべきだったって思ってるの。本当にそうよ』
響子さんが包み隠さず内心にずっと残り、消え去ることなく燻っていたわだかまり・・・別に気にしなくても何も問題は起こらなかった。そんなことは響子さんが未亡人であったことを初めて知った衝撃の日に全て分かっていたことだ。五代としては完全に承知の上の事実。
彼女の過去を知った上で自分の好きな気持ちは何も、そう何も揺らがなかった。救う?いや、違う。そんな偉そうな上から目線で考えても、それこそ彼女に失礼だ。そう、違うのだ。五代にとって彼女は・・響子さんは憧れ?理想の女性?それはその通りだが、愛する女性なのだ。
自分の生涯で本当に初めて出会えた、好きで好きで・・大好きで・・・顔を見るだけで、声を聞くだけで、心がときめいて・・嬉しくて幸せな気持ちになれる女の人。だから恋人になりたかった。
女の人ってこんなに素敵なんだ、男なんぞとは違って繊細で、全く異なる優しさで、柔らかさがある喋り方。とっても綺麗で・・眺めているだけで見惚れてしまって、よだれまで流れそうな感じになって。家事をする立ち振る舞いが優雅で、擦れ違っただけで漂う良い香り。
男として彼女を・・響子さんを包み込めたら・・赤の他人じゃなくて、アパートの管理人と住人じゃなくて・・もっと深い関係に、そう彼氏と彼女、カップル、恋人同士になりたかった。どうしてもなりたかった。
何年掛かったとしても・・彼女が自分を恋愛対象の男性として認めてもらうまで諦めない。諦めたくない・・諦める?敗北?失恋?振られる?そんな結果は彼女から言われない限りは起こらない。だからそうではないのなら、おれ・・いつまでも待ちます。そのつもりでいた。
そして・・・5年以上の歳月が過ぎて・・・やっとおれを一人の男性として・・恋愛の対象として考えてくれて・・・痴話喧嘩とまでもいかない言い争いもして・・でも、おれは響子さんが好きで大好きで愛する女性であることに変わりはなかった。何も変わらない。
初めて響子さんと結ばれた・・身も心も繋がることがあの寒い冬の日。おれは男として一人の女性を本気で、本心で、心から愛する気持ちを言葉ではなくて身体で告白する・・性行為をすることが・・・愛情を彼女に伝える行為が出来た。
精神的に未熟か成熟かではなくて、男として女性に恋する愛する好きな心を渡す。受け入れるかどうかは女性の気持ち次第。そして彼女は、響子さんはおれという男を受け入れてくれた。
女の人と恋愛する・・恋人として一人の女性が目の前に存在する事実に狂喜乱舞したい気分とは・・夢心地とはこういうことなのかと身を持って実感が出来た。響子さんとの絆を結んだ・・築いた、あの特別な一夜は永遠の記念日で金字塔だ。
そして響子さん・・愛する妻として彼女からの告白を聞いて・・・・感慨深いとか・・・何と表現すべきなのだろう?・・・感動なのか感激なのか、上手く言えないが・・・。
おれが響子という女性を愛する気持ちや心、それは全身全霊を注ぎ込んで彼女を幸せにする行い・・不器用でも不恰好でも見栄えなんかどうでもいい。おれの覚悟だとも思うが、その大きさは誰にも負けない!そう、彼女自身にも負けないくらいだと自負していたが・・・。
それは・・・甘いな・・思い上がりだなと今日この場で痛感、そう文字通り痛いほど感じた。昔、彼女にお互いが好きな気持ちはどちらが強いのか質問されて・・・いつもおれは負けを認めて彼女に軍配を上げていたが・・・それは、それが正しかったのだ。
響子さんは自分が婚姻を結んだ男性・・最初は音無惣一郎・・そして二度目は五代裕作、どちらが上で下ではなく・・・自分が女として本当に好きで惚れ込んで大好きで愛する男であるということ、それを告げてくれたのだ。
単純に順番の問題なだけで・・彼女が指摘したとおり・・惣一郎さんと結婚して死別して、一刻館の管理人として赴任しなければ巡り会えなかった五代裕作という男性。運命なのかどうかは何とも言えない。ただ自然な流れであったのは確かなのだ。
『響子・・おれ、ずっと自分の方が君を愛する、恋している感情とか気持ちは君よりも大きいぞって思い込んでいたけど・・。日によって君に負けてる日もあるな、じゃなくて・・完敗だなあって・・・脱帽って言えば分かりやすいのかな?』
『ずっとね・・響子のことを幸せにしてあげたい、大切にしなきゃって考えていて・・具体的に何をすべきかを最初から今でも自問自答してるんだ。君が、ではなくておれも君と・・響子とずっと一緒に傍に居たいからそうする』
『響子がいつもおれと春香の幸せを考えて生きているから、おれも君と春香のことを考えて生きる。おれは男だから響子という女性が欲しい・・抱きたい・・・だから君という女の人と愛し合いたい、ずっとずっと。・・・だから響子を求める』
『響子が家庭を守ってくれる・・家事をしたり家計をやり繰りして運営してくれてるから、おれは安心して外で働ける。家の中のこと、手伝える分は協力したいと思っても君は・・響子はおれに余りさせてくれないけど・・・それは響子の領分だもんな。だから任せる』
『おれはおれで自分の仕事・・向いているか向いていないか自分で判断できる範囲で言えば向いているし何とか続けて来れている。それに誇りを持って働くのが俺の領分。響子と春香を養うことがおれの領分で誇りで幸福だと、そう思っている』
『今日ここで響子からおれに伝えてくれたこと・・・凄く嬉しいよ。本当にありがとう。おれ、お世辞とか君に言いたくない。君はそれを好まないし望んでいないから。おれみたいな、とか謙遜するのも違う』
『響子がおれを夫として恋人として、本気で大好きな男性として考えてくれた証拠だから、すっごくね、嬉しい』
『だから君も謙遜する言い方とか、しないで欲しい。駄目な女っておれ、全然思わないよ。とっても大好きな素敵な女性で、大切なおれのお嫁さんだってずっといつでも思ってる。・・それって感じてもらえてるかな?』
五代君は言いたくても言えなかった想いを長い年月を経てようやく正直に告白してくれた響子さんに素直に感謝の言葉を述べた。自分の愛する女性はただ一人、響子さんなのだという紛れも無い本心で真実。その気持ちは痛いほど彼女にも伝わっている。
響子さんは五代君が愛して止まない微笑み、愛する夫を見詰めるいつもの表情に少し頬を赤く染めて見上げている。・・・愛しい男性に向けた無辜の愛情を込めて・・・美しい瞳には徐々に徐々に嬉しさの余りに滲んできた涙が浮かび始めている。
『ええ・・・いつも・・・あなたがあたしを見詰めてくれて・・話し掛けて・・抱き締めてくれる時にね・・いつも感じてる。嬉しいなあって。あたしが好きな男の人は、その人もあたしを好きでいてくれて、本当にいっぱい愛してくれている。いつもいつも』
『遠慮なんて・・・しないわ。だってあたしがあなたを好きなんだもの。だからお弁当だって作るのよ。あなたのことが好きだから。好きな男性の為にお弁当を作るのって本当に楽しいのよ。喜んでくれるかな?面白がって笑ってくれるかな?って思いながら作るの』
『ふふ・・一応ね、頭で考えて、下手な絵にもね、するのよ。チラシの裏なんかに描いて。それからね・・・』
そこまで聞いて五代君は響子さんの顔を両手で優しく覆いながらキスをする。最初は軽く触れるだけ。一瞬、離れたかと思うと再び挑んで今度はきゅっと唇を密着させて長いキスをする。
話の途中ではあったのだが中断させられたことに響子さんは不満を態度でも示さない。それは不満ではないから。
『おれも・・響子・・・遠慮なんてしない。おれは今すぐに響子が欲しい。だから・・・』
『ええ・・・あたしも同じ。・・あなたが欲しいわ』
もうそれからは相思相愛の男女における生殖行為であり言葉など何も必要としない、いつもの二人だけの愛の営み。男として女を抱きたい、女として男に抱かれたい。それだけのこと。時間の経過も何も気にならない。ただひたすらに相手を求める性行為。
性的快感を得たい性愛の儀式。恋人、夫婦、そんな肩書きなど関係ない、ただの男と女。繋がりたいから繋がる。男は自分の性器を女の性器に挿入したいから貫いて嵌め込む。精液を女性の膣や口腔に射精したいから射精をする。
女は男性の性器を自分の体内に挿入されたいから嵌められることを望み、貫かれて受け入れる。男の精液を飲み干し搾り取りたいからそうする。夫は妻の瑞々しい張りの有る乳房を愛して止まないから鷲掴みもするし舐め回すだけでなく接吻を繰り返す。
妻は夫が自分の乳房を弄るのを無常に好むと知り抜いているから思う存分に堪能してもらう。見事な巨乳であるからこそ可能な夫の性器を乳房で挟み込む行為も夫が興奮し喜び更に屹立も強くなるから望まれてもするし自らも進んで行う。
上下正反対に向き合い互いの性器を口や舌で愛する行為も平然と行う。お互いに何も隠さない。視線も遮らない。包み隠さず。夫にとって妻の体は自分のものだ。それは妻にとっても全く同じ。だから遠慮などしない。
これまで何回も何回も・・数え切れないほど繰り返されてきた二人での営み。最初は恋人として、その後は夫婦として互いに望み行って来た生殖の行為。体力と精力と気力の尽きるまで延々と続く。終わりなど有るのかどうか何も分からない。お互いに・・・。
時々は言葉も発する。相手の名前を呼び合うだけ。気持ち良いと己の快楽を得た時に呟き、好きだと愛していると言い合う。何をしても破廉恥だとも卑猥だとも猥褻だとも思わない。
妻が絶頂を迎え夫も絶頂を感じて射精をする。精液は妻の膣内に全て注ぎ込まれる。満足感を得て余韻を楽しんだ後に夫は性器を妻の体内から引き抜く。お互いの身体の性行為におけるリズムとサイクルは既に熟知している。
だから妻は夫の性器を撫でたり触ったり口に含んで愛でる。妻の美しい顔で頬擦りも行い愛しさを伝える。夫も妻の性器を大切に優しく撫でたり膣穴に指を差し込んで己が放出した精液を確認したり性器そのものを鑑賞する為に至近距離で凝視し指や手の平で触り弄る。
そして復活を確認した夫により繋がる行為の再度の実行。妻も喜んで受け入れる。その繰り返し。承諾も拒絶も無い。
何度も飽きることなく繰り返すと流石に疲労も感じる。人間の欲求である性欲を満たせば食欲の他は排泄をしたくもなる。夫から風呂場に行きシャワーを浴びることを提案されれば妻も従う。そこで夫は小水を妻の目の前で排泄する。目を閉じたり逸らさずにと言いながら。
そして妻も同じ行為を促されると羞恥心よりも先に排泄を・・放尿を行うことで愛液が分泌され濡れてしまう感覚を女として悟り、夫の目の前で恥らう羞恥と同時に愛する男の欲求を適える悦楽に酔い痴れて両脚を開帳し最初から最後まで尿道からの小水の排泄を披露してしまう。
ご褒美としてカチカチに逞しく勃起した夫の性器で逞しく貫かれることを熱く期待し、その望みが寸分の狂いも無く適えられて愛されることに妻は驚喜して性愛の快楽に対して心から陶酔をするだけでなく随喜の涙を枯れ果てるまで流し続ける。
夫も妻も発情し理性のタガが外れたかのように相手を求めることが止まらない。夫は妻の見目麗しくも素晴らしい女体を美の化身と褒め称え接吻を全身に撒き散らし、妻は夫の筋肉美と逞しさを愛する。
もう見詰め合うだけで性行為の合図であるかのように場所をベッドから浴室に変えて続行する。狂惜しいまでの愛欲に溢れた夫婦の二人、響子と裕作。もう離れることなど眼中にも頭の中にも全く無いのだ。
余りにも激しい夫婦の営みをようやく終えて・・・精根尽き果てるまで愛を交しつつ破廉恥にも数え切れないほど幾度も絶頂に達したことを思いながら風呂場で性行為の証しを洗い流して・・無言で夫婦の営みを終了させる合図として濃密な舌を絡めたディープキスを交わし、
夫は妻の豊かな美しい乳房にも唇を何箇所にも密着させてキスマークの花を満開にさせようと試み、妻も応じて麗しく見事な胸を突き出し愛情の篭ったキスにより情欲の痕跡を残す行為を受け入れていく・・そうして互いに溜息だけを漏らし言葉を発する気力も切れたかの如く、
よろよろと浴室から脱衣所へと身を移して・・バスタオルで濡れた身体を吹き上げてから無言で寝巻きを身に付ける。
ここには互いに全裸で移動したから夫の着替える下着は有るが妻の下着は置いておらず衣服は共に無い。常備してあった寝巻きのパジャマを二人とも肌に直接着てから髪を乾かして脱衣所を出る。
そして腰を降ろして休める場所を居間に探しソファーに寄り添って腰掛ける二人。
果たして時間にしてどれ位であったのかは不明だ。夫が妻の肩を抱き、妻も身を預ける。そのまま何も話さない。感じるのは互いの体温、それと匂いだけ。生きている実感だけでいいから。例え何か音がしたとしても聞こえるが反応しない。
反応など出来ず時間だけが・・小半時も経過しただろうか。静寂を破る微かな電子音が部屋に鳴り響き始めている。
だが・・・・最初の数秒は二人とも意識が目覚めない。
???・・・電話が鳴っているようだ。段々と意識が目覚めていく。
よろよろと響子さんが立ち上がり電話機の番号表示で母親からの携帯と分かり受話器を取る。相当に疲れているはずだが彼女の声は明瞭だ。
《はい、もしもし・・五代ですけれど・・・・うん、お母さん?・・どうしたの》
《ああ、良かった。響子、出掛けてなかったのね。あのさぁ・・動物園を出るとこなんだけど、今日ね、このままアンタんとこに春香ちゃん連れて行ってね、お父さんと家に帰るつもりだったけど・・春休みでしょ?だから今日はウチで春香ちゃんと一泊させてよ》
《え?何それ?お父さんだって明日は仕事でしょ。いいの?あんまり春香と遊んでいると体力持たないわよ。ああ見えてあの子、体力だけは人一倍で限界まで遊んだらバタンと倒れてそのまま寝ちゃうんだから・・・付き合ってたら疲労困憊でグッタリ間違いないわよ?》
《あ~いいのいいの。そんな心配しなくても。孫と遊び疲れて寝るなんて楽しみ、幾らでも味わいたいわよ。アタシだってお父さんだって同じよ、同じ。だから、いいじゃない。ね?アンタだって裕作さんだって1日くらい構わないでしょ?》
《え~それはまあ・・そうだけど。・・ちょっと待ってね、一応は聞いてみないと・・・》
響子さんは振り向いて居間のソファーに座る夫の五代君に尋ねる。
『ねえ、あなた。春香なんだけど、お母さんたちが実家でね、一緒に今日だけ一泊したいって言ってるけど・・・大丈夫かしら?』
響子さんも母親として溺愛する春香ちゃんだが、夫もそれこそ目に入れても痛くないほどに可愛がって溺愛している娘のことだ。夫も心配だろうし・・”ちょっとだけど子離れ出来ていない人だからなぁ”・・と不安になる。
『え?え?予定外だけど・・それ・・・・逆に春香が我が侭言い出したんじゃないだろうな?まだ遊びたいとか・・だとしたら注意しなきゃ』と、一応は巷の父親らしい台詞を吐いてみる五代君。珍しく電話を代わるよとまで言い出す始末。
《はい、代わりました。裕作です、お義母さん・・・え?・・はあ、まあ・・・ええ・・・はい・・・・・はあ・・・・・分かりました。・・・春香からの我が侭でなければ・・・・はい、・・・ええ、・・・こちらこそ、ご迷惑ですが・・・宜しくお願いします、はい・・》
横で電話を聞きながら響子さんは、考えてみればあの強気な母に夫が丸め込まれるのは当然で勝てる訳は無いのだから”所詮は無駄な足掻きよね”と思ってしまう。
それにたかだか一泊、それも自分の実親の所だ。そんなに大した心配などは湧かない。父親だけならともかく子育ての経験がある母親も一緒なのだし多少のことは大丈夫だろう。
ここは両親の我が侭とも言えない可愛い要求だし、それくらい呑むのも親孝行のうちだと思い・・娘の外泊の面倒を両親にお願いすることにする。
『はぁ・・まさかこうなるとは・・・。でも、いいのかなあ?』
五代君は電話を切るとぼやきながら呟いた。常日頃から響子さんを妻として溺愛している五代君だが、娘だって溺愛している。子供好きなのは性根からだし、職業だって保父なのだ。当然ながら寂しい気持ちが隠せない。
『まあ、たまにはいいじゃない。お母さんもお父さんも春香と遊ぶのが最優先事項なんだし、ね』
『うん・・・それはまあ。元気な孫を見せるのが・・最高の親孝行だって言うしね。・・・でも今夜は春香と遊べないのか・・・・』
分け隔てなく妻と娘をそれぞれ別の形で溺愛する五代君。妻の響子さんと愛し合うことについては最優先だし、それ以外の時間では娘と遊ぶことを優先する。それこそどちらが優先ではない。愛するという意味が異なるのだから。
娘と遊ぶという行為は単純に他愛も無い会話をするだけでも同じことだ。だから天真爛漫で無邪気な娘が寝付くまで大切に話に付き合うのは大事なことだと思って実行している子煩悩な父親である五代君からすれば・・・やっぱり寂しい。
春香ちゃんが熟睡するまで夫婦の営みは普段行えないのだが、だからと言って”早く寝なさい”とは言わないのだ。無論、意味の無い夜更かしは駄目だとは言うのだが。
響子さんだって夫と愛し合う時間を一刻も早く掴む為に娘に無理に早く寝なさいとは言わない女性だ。彼女だって娘が可愛いから。
『ね、あなた?たまには二人で外食しない?』
妻からの突然の申し出に・・・勿論、五代君は逆らわない。と言うよりも、考えてみれば今日はずっとこの家に篭りっきりだ。別に大雨が降っているのではないから外出も億劫ではない。何しろ妻の響子さんと二人だけで出掛けるのだからとっても嬉しい話だ。
『そうだね。お腹も空いたし』
五代君も妻の手料理には最高評価を与えているが、今日は本当に色々と有った。先程までの熱い夫婦の交わりもそうだが、その前の情緒不安定に陥った彼女の精神的な疲れ。たまには家事から解放してあげようと思う。
別に妻と一緒に外で食事できるのなら場所はどこでも構わない。
『響子、どこに行こうか?行きたい店ある?』
『え、そうね。あたし、あそこがいいと思うの・・・』
妻の提案で決めたレストランに予約の電話をしてテーブル席を確保をする。それまでの空き時間を逆算すると1時間半弱だ。徒歩で15分近く掛かるからまだ60分以上は時間が余る。少し休憩を続行しながら、のんびりと外出着に着替えることにする。
二人ともお揃いのパジャマだが下着は身に付けていない。寝室に入り着替えようとする夫婦。夫の五代君は手早く裸になると妻に『響子・・おれ、どんな下着がいいかな?』と素っ裸で下半身も何も隠さず真正面から尋ねる。流石にイチモツは回復しておらず萎んだままである。
『・・・もう、あなたったら・・・女にトランクスを選ばせるの?上着だってまだ決めてないのに・・・』響子さんは少々呆れながらも夫との戯れ事に付き合う。『じゃあ、これ。新品じゃないけど洗い立てだから』選んだ夫の下着を優しく手渡してくれる。
だが妻から手渡されたトランクスを手にしても何故か履こうとはしない五代君。不思議そうな顔をする妻に更に『うん、これでいいけど・・響子・・・履かせてくれないか?』とどんどん調子に乗って戯れ事をエスカレートしていく。
(な・・何を言い出すのかしら?)と目を大きく見開き本当に夫のお願いに唖然とする妻の響子さん。だが夫の表情を見詰めると・・拒否されるとは思っていない様子だ。威張るのでは全く無くて頼み事をする表情で(駄目かな?駄目ならいいけど)という気持ちが把握できる。
『はあ・・・あなたって・・・お姉さんに何をさせる気なの?・・・もう、仕方ないわね』首を少々振りながら、しぶしぶ望みを適えてあげる響子さん。夫が片足を交互に上げて履かせ易いような努力だけはする。
『うん、ありがとう。響子・・今度はおれが君の下着を上も下も選んであげるから、パジャマ脱いでよ』・・・夫の魂胆が判明し、溜め息が止まらない妻。もっとも雰囲気でこのまま性行為には至らないのは理解している。お互いに肉体的には回復しているが精力は未だだ。
別に夫の目の前でパジャマを脱いで全裸になるのに抵抗など無い健気で可愛い妻の響子さん。手早くパジャマを脱いで美麗なヌードを披露する。滑らかな肌は相変わらずだが先程の艶めかしい情交の痕跡は隠せない。乳房やアンダーヘアーの周囲にはキスマークが満開だ。
じっくりと美しい素肌を晒す妻の女体を乳房から性器までを至近距離で堪能したかと思うと・・『ブラジャーはこの間に買ってあげた水色のヤツが今日は似合うと思うんだ・・・パンティはお揃いでも良いけど・・響子がお気に入りの黄色のアレがいいと思うよ?』
何気に妻の下着をあれこれ考察してコーディネイトする五代君。妻からの返事は『うん・・それでいいけれど』と同意であったので、そもそもの最大の目的をやっと夫は語る。
『うん、じゃあ・・もちろん、おれが履かせて着せてあげるね。脱がせるのも着せるのも得意で自信あるから』・・喜色満面の笑みを浮かべて自分が選んだ下着を用意し始める。意外でもないが妻の下着類に関して配置は大体正確に覚えている。
『もう・・・あなた?・・・・裕作さんは響子の着せ替えをするのが本当に好きなのね?・・・・えっち・・なんだから』そう言いつつも夫からの駄々っ子な弟のように子供っぽい要求が・・実は嫌いではない響子さんは呆れつつも頬をピンクに染めて承諾をしてくれる。
『うん、響子はおれの奥さんだから・・おれだけの管理人さんで、彼女だからね。・・・大好きなお姉さんの、さ・・・優しくて綺麗なお嫁さんの着替えも全て手伝いたいんだ・・・おれだけの特権だから・・ね?』
大張り切りで自分の選択したブラジャーとパンティーを用意し溺愛する妻の響子さんが着替えるのを手伝うどころではなくて自分で行う五代君。
新婚の時代や恋人になったばかりの頃と愛情は何も変わらないどころか、どんどんと深まっている二人だから些細なことでも愛し合う行為と一緒なのである。日常でも挨拶代わりではなくてキスやハグ、ぴったりと抱き締め合うことそのものが挨拶で呼吸するように自然だ。
響子さんと五代君。
今年で結婚11年目を迎える二人。
周囲からは仲が良過ぎて新婚時代と変わらないねと冷やかされる夫婦だ。今宵もその評判に違わぬ微笑ましくも仲睦まじい姿を皆に披露するだろう。
明日も明後日も・・・・何年後でも。
完