※この作品はR-18です。

めぞん一刻 二次小説 流れる季節の中で   作:今津晶

52 / 55
番外編10 桜舞い散る中で(前編)

音無惣一郎・・・彼は響子さんの夫であった。結婚して僅か半年も経たないうちに何の前触れも無く本当に突然のことだが急死してしまい、幸せな甘い新婚生活を満喫していたはずの響子さんは20歳の若さで不幸にも未亡人となってしまった。

彼女はその後に実家である千草家には戻らず音無家に残り、絶望からようやく精神的に落ち着きを取り戻した頃に亡き夫の実家が所有する一刻館という古いアパートの管理人として赴任し新しい人生を歩み出したのである。

今日はその彼の命日・・亡くなって既に24年の歳月が流れていた。毎年桜の花が七分咲き八分咲きの季節である。今年も桜はほぼ満開に近い状態であった。

もう誰とも恋愛も再婚もしないと固く誓っていた響子さんであったが・・・赴任した一刻館で住人であった当時は浪人生の五代裕作という男性と知り合い、少しずつ少しずつ距離が縮まり・・知り合って5年という長い月日を費やした後に恋人となって翌年に結婚をした。

やがて子宝として娘にも恵まれて現在では幸福な生活を過ごしている響子さん。

それから今年でもう18年目を迎える。もう籍も抜いているので音無家とは無関係の人間ではあるが律儀な彼女は法事にも必ず顔を出し、そこには今の夫である五代君も常に一緒に参列してくれていた。

今年はこれまでと異なり響子さんと五代君にとっても色々とプライベートな事件が起きた。何と言っても筆頭は響子さんの母親、律子さんの死去。

それに一刻館が放火されて、修繕は可能であったが老朽化している現状を改善する為に思い切って全面的な改築を決意し一旦取り壊して改めて建設作業を実行中であること。

更には惣一郎の姪に当たる郁子ちゃんも独身生活に終止符を打って一刻館の住人であった一の瀬賢太郎くんと結婚する吉事もあった。

その結婚式は取り壊し直前の一刻館で簡素ではあるが周囲から祝福されて執り行ったのである。そんな事柄を音無家の親類縁者に報告も兼ねて参列した法事。

そうして法事も滞りなく終了し墓場から離れる時刻・・・響子さんは亡くなった夫の惣一郎の墓前にて佇み、内心で独り言を呟いて・・惣一郎さんに静かに語り掛けていた。

・

・・

・・・

惣一郎さん・・月日の流れるのは本当に早いものですね。もう、あなたが亡くなってから24年もの歳月が過ぎました。

・・・惣一郎さん・・あなたは・・・あたしがかつて・・過去に愛した唯一人の男性・・・・あたしが初めて好きになった男性で・・・初めて愛して・・愛してもらった・・・あたしのとっての初めての男性でした。

そして今あたしが愛している唯一人の男性が五代・・・あたしが生涯で2番目に好きになった男性で・・・・・・今も愛して愛されている・・・・あたしにとっての知っている2番目の男性・・・それが今の夫・・・五代裕作です。

 

そう完全にきちんと割り切れるようになるまで・・・本当に長い・・長い年月が必要でした・・・。

あたしは五代と知り合って5年以上の歳月が過ぎて・・やっと大人の男と女として結ばれて・・・恋人同士になれました。ずっと前からお互いに好きだったのに・・気持ちも知っていたのに、あと一歩だけがどうしても踏み込めなくて・・・それでもようやく恋人になれたんです。

五代と結ばれてから、ここに・・惣一郎さんの墓前に来た最初の時・・・・不思議な気分でした。惣一郎さん・・あなたが亡くなる直前にあなたと最後に愛し合ってから6年以上・・誰とも、どの男の人にも体を許さなかったのに・・誰とも性的な交渉をしなかったのに・・・

あたしが26歳の時に五代と愛し合うことが初めて出来て・・・惣一郎さん以外の男性と初めて性交渉をした響子という女がここに参りましたから・・複雑な感情が湧き起こるかと想像していましたけれど・・あたしの心は平然としていて、本当に不思議な気持ちでした。

貞操・・・未亡人になったばかりの頃は、そんな発想とか考えも持っていましたから・・あたしはもう誰とも恋愛しないし愛し合わないと固く心に誓っていましたから貞操を守る気でいました。

でも、五代と知り合って・・あの人のあたしのへの真剣な気持ち、愛情、あたしの心を守りたいという真摯な情熱・・・それら全てがあたしの決意をゆっくりと溶かして・・・・あたしも五代を好きになって・・・でも恋人となっても、また惣一郎さん、あなたと同じように

急に何の前触れも無く、あたしの目の前から消えてしまうんじゃないかって臆病風に吹かれたまま・・・大人として愛し合う勇気が湧かなくて・・・五代を待たせるだけ待たせて苦しめてしまいましたけれど・・・それでも五代はあたしを好きでいて愛してくれていましたから・・・

五代はあたしを愛したい心のままで、あたしを見守ってくれていて・・ようやく、本当にようやく初対面から5年過ぎたあの冬の日に・・あたしは五代と結ばれました。・・・・身も心も・・恋人として。

 

そうしてです。惣一郎さん以外の男性と初めて体で愛し合った数日後にここに来て・・・『惣一郎さん・・あたし、ようやく・・あなた以外の男性と真剣に愛し合うことが出来ました。貞操とか貞淑とか、そんな考えは惣一郎さんがあたしに求めていないのは知っていました。

あなたは先立ってしまってから・・・あたしに何も求めていない、求めない殿方だと知っていましたから・・逆に心配を掛けていたと思います。ずっと独り身で寂しく老後を迎えて亡くなっても、あたしが幸福を求めて頑張らなかったことになる。だから誰か好きな男性を

見付けて、恋人になって再婚するのを見守って下さる殿方・・・そんな優しくてお人好しで温かい人柄が惣一郎さんでしたものね。ですから、今日あたしは報告に参りました。まだ1組の恋人同士になれただけですけれど・・響子は愛する男性を見付けて恋をしていて、

その男性と・・五代裕作という素敵な殿方と恋愛をしています。彼はあたしの恋人なんです。五代という男の人とこれから幸せになれるように頑張ります。ですので、どうか天国でそっと見守っていて下さいね・・・惣一郎さん・・・・・』・・そうお伝えしましたね。

 

その後で・・・五代と恋人として恋愛を続けて愛し合って・・・・彼は一刻館での同じアパートの住人でしたので、そう恋人になれて始めの頃は週に1度、そのうち2度、3度と頻繁に夜を一緒に過ごせるようになって・・・5年以上も前からの知り合いでしたから、

お互い気持ちを確かめる必要すらなく、結ばれて2ヶ月くらいでプロポーズしてくれました。あたしも五代と結婚したい気持ちでしたので、直ぐに了承して受け入れて婚約者になれて・・・両方の両親に挨拶もして、式の段取りも決めて手配して、後は式を待つだけの日々・・・。

その頃のあたしは、もちろん幸せな気持ちで心は満たされていました。心から愛する男性と結婚できる、その喜びに浸っていた筈だったんです・・・。

 

でも五代との結婚式まで1週間を切っていた頃でも・・・まだ完全には・・・ちゃんと割り切っていたつもりでも・・・ほんの僅かだけ、惣一郎さん・・あなたへの愛情が・・・あなたを愛している気持ちがあたしの心の中に残っていました。

 

再婚する直前・・5日ほど前の日に・・・惣一郎さんの遺品を音無の実家にお返しする報告をしにあたしがここまで来たその日に・・・五代が・・あの人が惣一郎さんに誓ってくれた、あの言葉・・・。

『初めて会った時から響子さんの中にあなたが居て・・そんな響子さんを俺は好きになった。・・・だから、あなたをひっくるめて響子さんをもらいます』

あの言葉を陰で聞いていた、あたしは・・・感激して嬉しくて・・五代のあたしに対する愛情の大きさ、深さ・・・真摯な・・真剣さに感動して本当に涙が止まりませんでした。目蓋からと心からの涙が・・溢れて止まらなかった。

ですから、あたしも・・・『惣一郎さん・・あたしがこの人に出会えたこと・・・喜んでくれるわね?』・・・そう呟きましたね。

そして・・・・・『さようなら、惣一郎さん』・・・って、惣一郎さん・・・あなたへの別離の・・本当に・・・・お別れの言葉を・・・ですから・・『さようなら』という言葉を口に出して言うことが出来たんです。

でも・・・・・・・。

でもまだ・・・・・・・本当の意味でのお別れが・・・決別が・・・・完全には・・・・100%・・・・出来ていなかった・・・・・・。

五代と再婚してからのあたし・・・身も心も九分九厘、五代への愛情で溢れていたんですけれども・・・・実は・・ほんの少しだけ・・・あたしはあなたへ振り向いていました・・・・あなたへ注いでいた愛情が・・・・まだほんの僅かだけ・・・心のどこか片隅にあったんです。

そんなね・・どうしようもないあたしの心を・・・一緒に・・夫婦として暮らしていましたから・・五代は恐らく気付いていたと思います。

・・・けれども、彼は・・・一度も・・・ただの一度もあたしを責めたりすることはありませんでした。

あの人は・・五代は自分の出来る限りの精一杯の愛情と幸せをあたしに捧げてくれていたのに・・それこそ全身全霊を懸けて・・です。

それはあたしだってそうよ!って思えたから、結婚してから本当に熱烈に愛し合っていたのは事実なんです。でもほんの一瞬、一瞬だけふと・・我に返ると・・・どんなに五代と激しく求め合って愛し合っても・・・あたし・・・全身全霊を掛けているのかしら?って・・・。

夜の営み以外でも普段でも、ぴったりと寄り添って・・周囲が冷やかすのも馬鹿馬鹿しいって言われるくらい常に寄り添って一緒に居て・・・でも昼間に一人だけの時間のうち、ほんの一瞬だけ・・・予期せぬ疑問が湧いては消えて・・沸いては消えて・・・・。

だから自分自身に問い掛けて『響子という女は夫の五代を全身全霊を掛けて愛しているの?』って。それに対する返答は・・・そうよ!と断言する響子と・・・まだ不足してるわよ!って主張する響子が・・・二人の響子という女が存在してました。

五代と夫婦になれたのが嬉しくて、本当に涙が出るほど嬉しくて・・ずっと時間が止まってしまえばいいのに!って思えるくらいに夜には布団の上で身も心も繋ぎ合わせて・・夫婦として惚れ合った男女として相思相愛で愛を育んでいたはずなのに・・・

あたし・・完全じゃない・・100%じゃない・・・計測できないけど・・・五代と同じだけの愛を持って、心からの全ての愛情を注いで・・あの人に接していない・・・まだ不完全なんだって・・・・思えていました。

 

そうして過ごすうちに・・愛し合った五代の子供を身篭ることが出来て・・無事に健康で可愛い娘を出産して・・愛しい子供を夫婦で一緒に育てて・・幸せで夢心地になっていてもまだ・・心のどこかが燻っていました。

その頃一人になると自問自答していました。・・どうして?あたしは五代を心の底から愛しているはずのに・・・・・。五代の子供だって・・・五代があたしを可愛がって愛してくれたからこそ孕むことが出来たのに・・・そして出産だってしたのに何故って?

あたしが不完全な想いのまま・・ふと我に帰り自分を責めていました。夫の優しさに甘えて・・・依存し過ぎて・・・どうしてあたしってこう・・駄目なんだろうって。

五代はあたしを妻として精一杯、背伸びまでして心配して愛して・・四六時中ずっと可愛がってくれていたのに・・・・・。

だって、あたしが何を言っても何をしても・・『へええ、響子って素敵だね・・女性の考え方ってさ、男なんかとは違うんだ』『響子の手料理はいつも凄く美味しいね・・おれ、毎日食べられるのが夢みたいだな』『響子は優しいなあ・・がさつなおれみたいな男とは大違いだよ』

そんな風に言って・・とっても嬉しそうに幸せそうに微笑んで、あたしを優しく見詰めてくれていました。そんな時って・・あたし・・・もうホントに蕩けて溶けてしまいそうな気持ちでした。

それから滅多に無かったんですけど、あたしがヘソを曲げたりして『もう知らない!裕作さんたら、知りませんからね!』なんて膨れっ面しても・・あたしの気持ちが落ち着くまで『ごめんよ、響子』って言いながらずっと傍に居て・・肩を抱いたり体を抱き締めてくれたりとか。

だから顔では怒っていても内心では逆に思いました。『女のあたしみたいに感情で動かないのが男の裕作さんなのね』・・ですから最後にはあたしも嬉しくて・・『普段は子供っぽいのに・・ああ、何てこの人は本当に大らかで温かいんだろう』って素直に思えたんです。

それに・・寂しがり屋のあたしの性格も把握してくれていましたから常に・・ずっと寄り添ってくれてた日々が・・・あたしの方こそ夢みたいで感激していた筈なのに・・・そんな愛しい大切な夫への愛が・・・まだ不充分なままでした。

 

・・・でも再婚して、そう3年ほど過ぎた頃でしょうか。春香がお乳も離乳食も卒業して話せるようになった頃ですね。ある日突然ふっと気付いて、自覚できたんです。

五代を呼ぶ時に、もう春香の誕生した後は『あなた』と呼んでいたんですが・・・その日に本当に突然悟ったんです。

『ねえ、あなた♪春香の七五三の事なんだけれど・・・』と、五代に話し掛けた時に・・・・・。

『!!』『あたし・・五代のことを・・・この人のことだけを愛している・・愛する男性・・あたしにとって唯一人の殿方として見ている!話している!』

そんな心を・・・やっと・・ようやく・・・自分の中に発見したんです。

惣一郎さん・・あなたと死に別れてから、五代と再婚するまでに7年近く掛かりました。

・・そして再婚して3年を費やしてようやく・・・あなたのことを・・惣一郎さんを過去に愛していた唯一人の男性として冷静に見る事が出来て・・・・・

五代のことを今現在あたしが愛している・・愛して止まない掛け替えの無い存在の・・誰よりも愛しい男性として・・・その人があたしの夫なんだと、あたしの心が全て五代のことで満たされていると・・本当に自覚したんです。

足掛け10年の年月を経て・・愛する心の全てを振り向ける人が本当に意味で現れたの・・・あたしの目の前に!・・・すぐ傍に!・・・・あたしの夫として、旦那様として!

 

それからは・・五代とは取り留めの無い話でも何でも・・言葉を交すだけで『愛している』という感情を向けて伝えることが出来て・・・・・・。

あたし、ようやく五代と同じように自分自身の全てを相手に・・あの人に振り向けて愛情を込めて触れ合うことが出来るようになりました。

やがて五代も・・あたしの気持ちの変化に気付いてくれました。五代は四六時中二十四時間あたしのことを・・あたしという女を大切に見守って見詰めてくれている人ですから、本当に間も無く悟ってくれたんです。

・・・あの人がそれまで以上に優しくあたしを見詰めて・・常に愛しげに話し掛けてくれるのが・・・・あたしも凄く嬉しくて、多分ずっと微笑みが消えないままで日々をずっと過ごせていますから・・今、信じられないくらい幸せなままなんですよ。

 

本当にあの頃の・・惣一郎さんとあたしという夫婦に負けない・・ううん、比較しても意味は無いわね。

惣一郎さんと五代は全くの別人なんだから・・五代裕作と響子という相思相愛だけじゃなくて支え合って、常に愛し合う夫婦に・・身も心もずっと一心同体の男女にね・・本当に成れたんです。

それまでも十二分に幸せでしたけれど・・それから以降は、記憶はあるんですけど・・それこそ一緒に、傍に居て欲しくて暮らしたい男性と・・五代と常に一緒に生活が出来て・・あたしが夢見ていた幸せが舞い降りて来てくれて、ずっと甘い幸福のまま・・・・・。

気が付いたら、あたしももう今年で45歳に・・五代も43歳で結婚生活も18年目を迎えます。

でも今でも・・五代と同じ空間に居て、同じ空気を吸って、同じ食事をするだけで・・あの人に触れているだけで・・甘酸っぱい新婚のような気持ちが消えません・・・・・。

だって・・一緒に買い物して、あの人と腕を組んで・・肩を抱かれたり手を繋いだりして歩くだけで・・ただ会話するだけで・・とっても楽しくて嬉しくて・・大好きな男性と暮らせるのが本当に・・五代とあたしが夫婦であることが二人にとって至福の極みなんだと思います。

五代と恋人同士になるのに5年ほど、結婚するのにそれから半年と合計したら6年以上も掛かりましたけれど・・恋人時代や新婚の頃よりも今の方がずっとあたしたち・・愛し合っていて・・・互いの愛情が深まっていると思います。

だって一緒に過ごせば過ごすほど相手のことが良く分かって・・あたしにとっては五代についての・・・五代にとってはあたしのことを・・新しい発見があって益々詳しくなれることが・・もう嬉し過ぎて・・・・・。

抱き合って体温や匂いを感じているだけで時間が経つのを忘れますから・・言葉で上手く表現できないくらい・・蜂蜜よりも遥かに甘い夫婦生活を過ごしているって言えます。

 

[[[響子さんは墓石の前でしゃがみこんで中腰になりながら、焼香して線香を墓の台に挿す。そうして両手を合わせて目を瞑った後に、右手を握り締めて頬杖を突くようにして内心で語り掛け続ける]]]

[[[音無家の墓を取り囲むように植えられてい桜の樹木からは穏やかな風に吹かれて花びらが散りつつ舞い降りて来ている。惣一郎が亡くなった後も生き続けている桜は毎年花を咲かせて響子さんを見守ってくれいているかのようだ]]]

 

惣一郎さん・・あなたの墓前でこんなことを言うのは勿論、心で考えて思ってしまうだけで不謹慎なのかも知れませんけれど・・・・でも許して下さい。

どうしても敢えて告白したいことがあるんです。あたしが今、夫婦として愛し合っている夫の五代との事なんです。愛する大人の男と女・・・・露骨な表現になりますけれども、それでも許して下さい。

五代と毎晩のように抱き締め合って・・肌を重ね合わせて・・・夫婦としての営みを契るたびに、あの人は『響子、おれ本当に君が好きで愛しているんだ』と頻繁に囁いてくれます。

あたしは『ええ、あたしも・・あなたのことが大好きで凄く愛しているの』と言葉でも身体でも正直な気持ちを返答として告白しています。

あの人は、五代は・・あたしの髪の毛を撫でたり挨拶のキスをすると今も時々言ってくれるんです。

『響子・・君は歳なんか取らないね。初めて出会った頃と同じく綺麗で可愛くて・・上品で清楚だし可憐で素敵な女性のままだよ。大好きで愛している』なんて真剣に真顔で・・・・・お世辞じゃなくて本気で言ってくれているのが凄いですよね。

流石にそう言われると、その・・今でも赤面してしまいます。好きな男の人、愛する男性から囁かれるのが嬉しいんですけれど・・・何かこう・・気恥ずかしくて・・・俯いて黙ってしまうのも・・・良くないから・・・一応はね、あたしも言葉を返してるんです。

だからあたしも・・お返しのキスをしながら告白をしています。『あなた♪・・あたし、あなたのことが生き甲斐なの・・大好き・・あなただけを見て、あなたのことだけを考えて生きているのよ。・・大好き・・・愛しているわ』って言うのが嬉しくて・・仕方がないんです。

五代は『長年連れ添っているから奥さんの手伝いもしなくちゃね』って言いながら普段でも食事や後片付けを、その他の家事も手伝いたがるんですけど・・『これはあたしの領分だから駄目』って言って断るんです。

そう言われると残念そうな表情を浮かべる五代に・・・あたし必ず言うんです。『あたしね、あなたの妻だから・・妻らしいことさせてね?』・・・ふふふ、そう言われると『う・・ん・・・』と口篭ってしまうんですから、可愛いですよね?

・・そしてそれから『あなたにはぴったりの仕事、保父さんの仕事を頑張って・・あたしと春香を養ってね?それがあなたの領分なんだから・・』って、あたし・・お姉さん振って・・実際2つ年上の姉さん女房ですからね・・・つい言ってしまうんです。

・・ですからちょっと世間とは違った意味で主人の五代を・・お尻に敷いてしまっていますね?

 

あたしは・・響子という女はあの人に、五代に対して・・信じられないことに、実は何も気を遣う必要がないんですよ。

だって今でも・・あたしの我が侭な気持ちをそのまま受け入れてくれていますから。本当に本当なんです

あたしの本音は『あたしだけを見て!』『ずっと一緒に居て!』『あたしを一人にしないで!』っていう五代への独占欲が抑えられなくて・・表情にも態度にも出しています。

ですから嫉妬から膨れっ面になってしまって拗ねたりしても、あの人は、五代は全然怒らないんです。本当なんですよ。

こんなにヤキモチ妬きで自分勝手な・・我が侭な女なのに、そのままの何も変えられない・・変わらない響子という女が、その全てが好きで、大好きで、だからこそ可愛くて物凄く愛しているんだって五代は・・あたしの瞳を見据えて、いつも嘘偽りなく告白してくれるんです。

ですから、あたし・・あの人のことを・・・五代のことだけを全身全霊を懸けて・・心から愛して・・四六時中ずっと考えて生きているんです。

あたしの生き甲斐である男性はあの人、愛する五代だけですから。時々、好き過ぎて眩暈がするくらいに・・五代を愛しています。

 

事実この間、娘が外出していて夫婦水入らずになれた休日の昼間に自宅で本当に立ち眩みがして・・倒れてしまいました。あの人はもう大騒ぎで直ぐにあたしをお姫様抱っこしてベッドまで運んでくれて、心底心配してくれました。

その時はあたし、小さな子供みたいに夫に凄く甘えてしまいました・・恥ずかしいくらいに・・・・その、ちょっと思い出すだけで・・・顔中が真っ赤になるくらいに・・・。

『ねえ、あなた・・ホントに病気とか疲労と全然違うから心配しないで。あたし・・あなたが好き過ぎて今の生活が物凄く幸せだから・・・そのことに酔ってしまった、幸せ酔いなのよ』

『その眩暈で立ち眩みした・・だけなの。ねえ、あなた♪♪・・お願いだから一緒の布団でお昼寝に付き合って?そうしたらすぐに直るわ、きっと。・・・だから、ね?抱き締めて・・』

・・・・なんて、もうこれじゃ小さな幼児と同じですね。

もちろん、五代はあたしのお願いを聞き入れて一緒にお昼寝をしてくれました。

・・体調が悪い訳ではないことを知って安心した五代は・・昼寝をする前に愛してくれました。とっても優しく服も下着も脱がせてくれて・・あたし、あの人に・・あの人の手で生まれたままの姿に・・裸にされるのが嬉しくて・・ね、・・大好きなんです。

だって脱がされた後は常に、とっても愛惜しく濃密に・・あたしを抱いて、貫いて・・あたしだけでなくて、あの人も一緒に気持ち良くなって・・愛する心も交すことが出来るから・・素敵な男女の営みで愛し合って・・嬉しくて幸せな気持ちにして貰えるから・・本当に大好き。

その昼寝前の愛し合う間・・あたしの身も心も愛情を込めて・・・凄く逞しいのに優しく大切にあたしを・・宝物を愛でるみたいに全身を・・心を撫でてくれて、いつも以上に濃厚に・・・深く深く体の奥底まで何度も・・貫いてくれて・・・ひとつになれました。

まるで互いに元々が本当にひとつの物みたいに繋がって交わって・・物凄く丁寧に可愛がってくれて愛しながらの性交渉に、あたし・・・内心で・・素敵過ぎて・・気持ち良さと感動と感激で・・・嬉し涙を滲ませて零しながら・・・心の中で・・狂喜乱舞してました。

あたしがあの人を好き過ぎて、愛し過ぎて溢れ出た気持ちを全部掬い取って・・精神的に寂しくならないように、あの人がベッドであたしを凄く可愛がって愛してくれたお陰で・・その愛情に満腹で満足していたのに・・・直後にまた・・我が侭を言ってしまいました。

そんなに物凄く情熱的に愛された後にあたし・・あの人に凄いことをお願いしてしまったんです。

『あん、あなた・・お願いだから抜かないで・・ね、繋がったままで眠りたいの・・・駄目?・・』って凄く赤裸々なお願いをしたら・・・適えてくれて・・本当に嵌められて繋がったまま眠らせて貰えたので・・あの人からの溢れる愛情で眩暈から全快できました。

 

その、自分でも・・少しあの人に、五代という男性に依存し過ぎなのは自覚してます。

先に目が覚めたのはあの人なのに・・その・・引き抜いたりせずに繋がったままで・・あたしが目を覚ますのを待っていてくれましたから・・嬉しくて目覚めでも・・・もう一度愛し合ってしまいました。

もう絶対に・・巷の新婚ほやほやのお熱いカップルにも負けないくらいだと変な自信がありますよ・・・溺愛なんて表現では不十分です。

だって、あたしの全ては五代のもの・・五代の全てはあたしのものだって誓い合っていますから、他に何も要りません。

 

[[[響子さんは中腰の姿勢から立ち上がると墓石の真正面を向いて立ち尽くす。その視線は墓石を貫いたまま、どこにも動かない。彼女の瞳には墓石しか映っていないが心眼では亡くなった夫の姿を愛しくではなく、ただ懐かしく思えて見詰めているのかも知れない]]]

[[[更なる風に吹かれた桜の花びらが周囲を舞っているだけで静寂が周囲を包んでいる。人の喧騒が無いおかげで響子さんの思考が邪魔されること無く・・ただゆっくりと時間が流れて過ぎて行く]]]

 

先日も、先程もここで申し上げたとおり・・・あたし、響子が再婚できるまで本当に惣一郎さんは心配だったと思います。もしかしたら一人ぼっちの寂しいままで残りの人生を・・一生を過ごすのではないか?・・・そう思われていたかも知れません。

でも・・・幾つかの偶然が重なり、あたしは五代と知り合うことが出来ました。本当に心の底からお互いに・・・愛し合える男の人に出会えた幸運と最高に素敵な幸福を・・・今それをあたし噛み締めています。

考えてみれば・・あたし、響子という一人の女が惣一郎さんという男性と知り合えたのも・・偶然、あなたが・・惣一郎さんが教育実習生としてあたしの母校に赴任しなければ・・・出会うことは無かった。

そんな運命の不思議さ・・・幸せにもなれて・・・でも、悲しい思いもして・・・・そして今、再び幸せになれたままで暮らしていけるのですから・・・・・惣一郎さん、あたし・・あなたとも出会えて良かった・・・心の底からそう思います。

あなたと結婚して・・でもすぐに未亡人になってしまったけれど・・・・その過去があったからこそ・・・五代と知り合えて・・・・五代はあたしという女の過去も、気持ちも、心も全て受け入れて・・・・一人の女として愛情を注いで・・愛してくれているんですから。

 

あの人は、五代はこれまでに何度も・・結婚して夫婦になってからでも言ってくれています。『おれみたいな男が君みたいに素敵な女性にね・・・響子によくもまあ見捨てられなかったよなあって思っているよ』

でもそれは・・・あたしも同じ気持ちなんです。

五代があたしを好きになってくれて・・そしてあたしも五代を知らないうちに好きになって・・でも、あたしの弱気な心・・・五代と恋愛をしても、結婚できても・・また急に先立たれてしまうかも知れないと思い込んで・・・五代の気持ちに応じることが何年も出来なかった。

しかも気持ちに応じるどころか・・手も碌に握らせなかったんですから・・・ママゴトみたいな擬似恋愛・・・ぎこちなくて、もどかしいだけ・・・好きなの?嫌いなの?どっちなの?・・・なんて知り合いにはみんな酷評されました。

そんな女・・勿体振るだけで何もさせない・・ずるくて酷い・・駄目な女なんて・・・・男の人から見捨てられる可能性が高い筈ですよね?

それなのにずっとあたしを・・・見守って大好きなままでいてくれて・・・ようやくあたしが五代の胸に飛び込んでいける勇気が湧くまで・・5年以上も待っていてくれていて・・・見捨てず・・・本当に本当に嬉しかった・・嬉し過ぎて涙が枯れずに止まりませんでした。

五代が大学受験の浪人生のまま新潟から上京して・・安い家賃のアパートを探して入居して・・・そこにあたしが新しい管理人として赴任して・・・・知り合えた。

偶然が幾つ重なったのかしら?とも思いますが、そんな運命とも思えないくらい自然に・・・本当に自然にあたしと・・あの人の距離が・・・心が近く近くなって・・・寄り添えて生きることが出来て・・・その幸運のおかげで今の五代とあたしの生活が存在しています。

 

もし・・もし、惣一郎さん。あなたが生きていれば、今年が結婚して25周年の銀婚式でした。でもそれは適わない夢で終わりましたけれど・・・五代とは、その夢に向けて今・・実際に二人で夫婦として生きて暮らしています。

このままずっと、これから先もずっと二人で・・・あたしは五代と生きていきます。ですから、あの世から・・天国から、惣一郎さん・・・ただ見守っていて下さい。精一杯あたしは五代とお互いを愛して生きていくので心配などは不要です。

 

惣一郎さん、あたしを愛して妻にしてくれてありがとうございます。あなたと愛し合って夫婦になれたからこそ・・・あなたには結婚して半年で先立たれて未亡人となってしまったけれど・・・でも・・未亡人となった運命の先に・・・五代があたしを待っていてくれました。

あたし、響子という女は五代という男性を今、心の底から愛して・・・あの人もあたしを心から愛してくれて・・・自然に普段の日常から何から何まで全て・・・愛し合って生きていける夫婦になれたんですから・・・あたし、何の後悔もありません。

 

[[[響子さんの両方の瞳から涙が一筋だけ伝う・・哀しさもあれば嬉しさもある、そんな感情が入り混じって流れた涙は・・・一筋だけで終わった。彼女の表情はずっと微笑んだままだ]]]

[[[風に待った桜の花びらが1枚、響子さんの頬を撫でて涙の水分で貼り付くがハンカチでそれを涙と共に彼女は拭い去る]]]

 

ねえ、惣一郎さん・・・あたしの愛する五代って、どんな男の人だと思いますか?

2つ年下でお人好しで優しくて・・・頼りなくて見るからに危なっかしくて、心配で目が離せない・・なんて最初はね、あたし勝手に考えていました。

でも温かくて優し過ぎて・・自分が惚れた女性をどうすれば大切に出来るのか、自分の好きな女性は何が悲しいのか何が嬉しいのかを真剣に考える男の人で・・そしてそんな本音をね、全然隠せない人なんです。

口が上手い訳じゃない・・行動や態度も不器用・・・でも見詰めていれば・・・・あたしへの真摯な愛情が溢れていて・・あたし、響子という女を愛していなければ出来ないことを話し掛けてくれたり態度で示してくれるんです。

そして五代という男性はあたしの過去について・・『関係が無い』とか『気にしない』とか思っているのではなくて・・・知り合った時に未亡人であった音無響子という女そのものを好きになってくれたんです。

惣一郎さんという五代にとって見知らぬ男性と結婚して半年足らずで先立たれた未亡人の音無響子、そのあたしという女をただただ純粋に一人の女性として好きになってくれて愛してくれているんです。

 

ふふふ・・・どうですか、とっても素敵な男性でしょう?・・・五代が傍に居てくれる限り、あたしという女は心穏やかに安らかに・・五代の愛に包まれて・・・あたしからも五代への愛で包んで・・お互いに愛する気持ちで覆われて・・とっても嬉しくて幸せなままです。

 

そうして五代との間に娘にも恵まれて・・春香と言う名前の娘が、あたしと五代との愛の結晶です。

無邪気で元気一杯で健康優良児で・・顔立ちはあたしに良く似ていますけど、五代の面影も多少あって・・性格は甘えん坊で少々うっかりしててお調子者ですけれど・・周囲を楽しませたり和ませたりするのが大好きな優しい娘です。それって五代の影響なのか遺伝子ですね。

夫の五代と娘の春香・・あたしの大切な愛する家族です。今のあたしの全てです。家族3人水入らずの毎日が楽しくて楽しくて・・・時間の経過が気にならないのが幸せな証拠ですね・・・・。

そうなんです・・・五代が・・あの人があたしの夢見た生活を、幸福を全て適えてくれたんです。

 

このお墓の前で・・五代との幸せな生活の歴史を報告出来るのが、あたし嬉しいんです。・・・ですので、また参ります。

さようなら、ではなくて・・また再会を致しましょう・・ですね・・・。

 

こんなに好きに・・心の奥底から愛していると言える男性と巡り合える機会を尽力して下さったお義父さまには感謝の言葉をどう申し上げていいのか分かりません。

あたしが一刻館の管理人として赴任しなければ、五代と夫婦になる運命にはならなかったでしょうから・・。

一刻館・・そこであたしは五代と初めて出会い・・そこで愛を育んで・・初めてキスを交したのも・・契りを交して初めて結ばれたのも一刻館の管理人室でした。

そして結婚して甘い新婚生活を過ごして・・娘の春香が誕生して一緒に暮らしていたのもそこですし・・。

だから・・あたしたちが夫婦になれた掛け替えの無い、大切な場所である一刻館を地上から消すことだけはしたくなかったんです。

ですから新しく建て直しはしますけれど、一刻館はあたしが管理できるうちはずっとそのままですから安心して下さい。お義父さま・・・そして惣一郎さん・・・・。

 

響子さんは心の中で惣一郎さんへ打ち明けたい話を・・感謝の気持ちを込めて囁いて伝えていく。そして音無の義父へも異なる感謝の意味を込めて・・・・。

・

・

そうして気が晴れたのであろう、とてもすっきりとした表情で墓石から離れて彼女が歩き出すと参道への途中で夫の五代君はずっと響子さんを待っていてくれた。

『どうしても今日は一人で惣一郎さんに伝えたい言葉があるの』・・その彼女の気持ちを思いやり、五代君は静かに離れた場所で佇んで・・愛する妻である響子さんを待っていてくれた。

響子さんの大切な心を・・繊細で壊れてしまうくらいに脆くて弱い一面もある彼女の心を五代君はずっと大きな大らかな優しい心で包み込んで覆って守ってくれている。

『お待たせしました、あなた。さあ、帰りましょう』

響子さんは心から信頼し愛して止まない大切な男性・・夫の五代君に対して、にっこりと微笑んで話し掛けて・・・自然に寄り添い腕を組んでその場を立ち去り家路に着いた。

 

帰宅するまでの間、路上や電車の中でも五代君は自分からは敢えて響子さんに声を掛けなかった。何も言わずにずっと寄り添ったままでいてくれた。響子さんの一人で考えたい思考を邪魔しなかった。

((響子にだって一人だけで内心で色々考えたいことだってあるさ。例えおれが横に居てもね。だからこのまま黙ったままでいいよ。おれは傍に居るけれども響子は何も気にしないでもいいんだ))

五代君は愛する妻がどういう女性であるかを彼なりに可能な限り理解している。だから無理強いして話しに付き合わせても何にもならないと思うから、『今日は何もおれからは言わないよ』・・そう考えていた。

 

響子さんも五代君が何故に何も言わないのかを理解していた。だから敢えてここは夫の配慮に感謝して考え事をさせてもらおう・・そう思っていた。

 

ありがとう、あなた・・あたしに付き合って、参道でずっと待っててもくれて。

再婚して今年で18年になるわね・・だから、夫として妻のあたしに「君の亡くなった夫の法事に、墓になどもう行かなくてもいいだろう?だから今更行かないでくれ」って言う資格も権利もあるわ。

でも、あなたはそう言わない。資格とか権利じゃなくて、男の人なら誰でも自然にそう思うし言うのが普通よね。そう思っても気を遣って言わない男性も居るかも知れない。

でも、あなたはどちらでもない。そう言わないだけでなく、そうも思わないでいてくれるわね。

ただ、あたしが考えて行動したい、それら、そう色々あるわね。法事も墓石に一人で挨拶して話し掛けること。そんなことに対して何も言わないでいて、疑問にも思わないでいてくれる。

あたしがそうしたいのは、あたしという女の意思。それを行動も考えも決して否定しないのが・・あなた。

あたしがしたい、だからそうする。そのことを夫のあなたは妨げない。それがあたし、響子っていう女だから。それが自分の妻だから。あなたはあたしと結婚する時も言ってくれたわよね。

 

『おれが好きなのは響子という女の人なんだ。だから何も変わらなくていい。君が考えたい、そして行動したい、それならね、そうすべきだよ。それはおれ、裕作という人間じゃあないんだ。響子という女だから』ってね。

『おれ、響子のことが凄く好きだよ。物凄く本気でね・・・愛している。こんなに好きになれて大好きでいつも一緒に居たいって考える女の人って君だけなんだ。だから夫婦としてずっとね、一生を過ごそうよ』

 

いつもそう優しくあたしに言ってくれる、あたしの愛する夫で大切な旦那様。

ふふふ・・・あなたの望みってね・・あたしと全く同じなの。あたしもあなたのこと、物凄く好きなの。本当に大好き。愛している男性ってあなただけなの。だからずっと一緒に、傍に居て欲しいの。

響子って女は・・何にも割り切れなくて頑固で意固地で気が強くて・・・考え方が不器用で工夫も出来ない。でも不器用なりに、あたしはあなたを独り占めして生きたいの。だからあなたもあたしを独占してね。だってあたし・・もう一人じゃ生きていけないから。

朝のお目覚め、いってらっしゃい、お帰りなさい、お休みなさいの挨拶って言葉とキスで完成。食後のご馳走様とお粗末さまでしたのキスも同じ。あたし、女として好きな男の人にキスしたいしキスもされたいの。

その意思も理解してくれているから・・あたしの望みもお願いする必要なくて、すぐに適えてくれる。あなたもそうしたいって考えているから・・・男として好きな女にキスしたいしキスもされたいって。

ねえ、あたしたちって完璧な似た者夫婦よね?考え方も行動も波長が合うとか、他にも要因があるんだろうけど・・・男として女を求めて、女として男を求める。あなた、五代裕作という男性は女としてあたし、響子を求める。あたしもそう。

あたし、響子という女は男としてあなた、裕作を求める。あたしはあなたの女。あなたはあたしの男。だから一緒に暮らすの。あたしが一番欲しいのはあなた。あなたが一番欲しいのはあたし。それ以外に欲しいものなんて、お互い有るのかしら?何も無いわね。

ふふ、娘だけは例外事項かも知れないけど・・・もうずっと同じ気持ちで変わらないし変えたくないから変わらない。あたしがあなたの妻で、あなたがあたしの夫。本当に不思議なようで不思議じゃないわ。出会ったのは偶然だけれど、今は夫婦なのは必然なんだから。

 

でもね、時々思うの。あたし・・あなたに今でもずっと恋焦がれていて・・・あなたと恋愛しているわって。

出会ってから恋人になれるまでだって5年以上も費やしたけど・・その間の時の記憶とか、思い出が頭に浮かぶとね・・・きゅんって胸の奥がとっても切なくて、恥ずかしくなったりして頬が染まって熱くなったりね・・してしまうの。それはね、今でもそうなの。

そんなにね、好きな男の人と・・一緒に暮らしているから・・・恋人としてじゃなくて、同棲でもなくて、夫婦として。楽しさ・嬉しさ・幸せ・・色んな感情が入り混じって・・・自分が五代響子という女で五代裕作という男の人、あなたの妻でいることが嬉しくて堪らないの。

だからずっと一緒に暮らしましょう!そうよね?あたしたちって正真正銘の夫婦なんだから、ね?

 

 

『ねえ、あなた?』

響子さんは長い長い沈黙の後、自宅が近付いた時点でようやく自分から夫に話し掛ける。

『うん、何だい・・響子?』

五代君は微笑んで奥さんに返事をする。

『あのね・・今晩の食事・・・作るのをあなたにも手伝って欲しいの。ちょっと男手が有った方が助かるメニューだから・・・。いいかしら?』

『ああ、勿論いいよ。・・でも珍しいね?いつもはおれにあんまし手伝わせてくれないから。我が家では男子厨房に入るべからずじゃないけど・・・響子の許可が無いと包丁にも碌に触らせてくれないからなあ』

笑顔で妻からの依頼を承諾し・・夫としてと言うよりも恋人である彼女が料理好きなので、彼氏の腕前への評価が低いのか手伝わせてはもらえない男の愚痴かボヤキみたいな冗談を言う。

『ふふ・・信頼していないんじゃないのよ?あなたって元々手先がとっても器用だから、本気でやればそこそこ上手くなれるわよ。でもね、家庭での料理はあたしの領分だからあたしがやりたいの。それだけよ。今晩のメニューがちょっと力仕事だから手伝って欲しいの』

『ああ、了解だよ。響子と一緒に料理を作るのなんて久し振りだなあ・・・何かね、食べるより、そっちが楽しみになってきたよ』

五代君は本当に嬉しそうだ。そして勿論、響子さんもとっても嬉しそうにしている。夫婦二人で一緒に日常生活における家事などの普通の何かをするだけで、くすぐったくて嬉しい愛情表現となる幸せを二人は今日もこの瞬間も噛み締めていた。

 

 

 

(次回へ続く))

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。