※この作品はR-18です。

めぞん一刻 二次小説 流れる季節の中で   作:今津晶

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第07話  1枚の写真

~響子さんと、明日菜が会った日から数日後の夜~

 

[あ~あ。どうしてこんな事になってしまったかなぁ・・・]

自宅でひとり、三鷹さんはやりきれない思いを漏らしていた。

豪華で広い邸宅に男一人やもめ暮らしなど楽しい訳は無い。

何だかんだ言っても優しく控えめに夫を終始外でも内でも立てながら尽くしてくれる妻の明日菜さん。

可愛い三人の娘さんは三人とも自分に似て活発な性格なので賑やかさが絶えない。そんな大切な家族が居ない日々はつまらなさの極致だ。

静けさが恋しくなることも過去にはあったが、そんなものは1日や2日も過ごせば退屈なだけである。

 

“ピンポーン♪”

 

チャイムが鳴った。

[ん~?誰だこんな時間に?]

三鷹さんはのそのそとインターホンに向かった。

 

[はい、どちら様ですか?]

[・・・・・え!?]

インターホン越しに聞こえる声に驚く三鷹さん。

 

“ダダダダダダダダ!”

急いでその足で玄関へと向かう。

 

[あ・・・・・]

声にならなかった。

玄関先には明日菜さんと、3人の娘さんの姿があった。

 

[ただいま]

笑顔で夫に一言微笑みかける明日菜さん。

 

[お、おかえり]

ぎこちなく答える三鷹さん。

またいつもの家族の情景が戻りつつあった。

 

 

同じ日の夜、五代君のマンションを訪れようとする人物がいた。

 

“ピンポーン♪”

 

[ん?帰ってきたのかなぁ。まさかな・・・]

独り言を呟きながら五代君は玄関へ向かった。

[こんばんは~♪]

 

[んああ、や、八神!]

ドアを開けたらそこには娘の担任教師である八神いぶき教諭の姿があった。

びっくりしてしりもちを付いてしまう相変わらず情けない五代君。

[どうしたんですか?そんなに驚かれて?]

にこやかに八神は言った。昔と同じく平然とした態度と表情で。

 

[な、な、何しに来た!]

 

[あら?ずいぶん冷たいんですのね。昔は愛し合った仲なのに]

 

[あ、愛し合ってなんているもんか!]

一刻館にいた頃のような押し問答が続く。押しかけ女房の如く五代君の5号室に篭城までした彼女だ。

女子高生のヤングパワーに圧倒された周囲では・・奇人変人の集まりである一刻館の住人たちですら最初は面白がっていたが・・途中からは呆れて大迷惑であった。

[今日はお嬢さんの事でこちらにお伺いしたんですけども?]

急に真面目に態度を切り替えて、真面目な表情で八神・先生は言った。

 

[え?春香の事で?]

表情が強張る五代君。

 

[奥様とお嬢さん・・・・いらっしゃらないんでしょ?]

八神の言葉が五代君に痛い。

そして五代君の家へ上がった八神いぶき。

[あ、今お茶入れるからその辺座っててよ]

と、五代君が台所へ向かおうとするのを制し・・・。

 

[あたしがやります、あたしが]

自分からお茶を淹れに行く八神。

傍から見たら、奥さんと子供が留守の隙に、愛人を自分の家へ招いているかのような光景だ。

しかも相手は娘の担任教師と三文芝居のメロドラマみたいな状況設定だ。そんな舞台に出演などしたくない。正直なところ真っ平御免なのが五代君であった。

 

[いいお家ですね~]

お茶を入れながら、しげしげと家の中を見回す八神。

その昔に五代君が下宿していた一刻館は6畳一間でトイレは共同、風呂は無し。台所だけは各部屋にあったが古いだけの格安アパートでしかなかった。

20年前ならいざ知らず現代では完全に敬遠され新規の住人などここ数年、全く無しなのも当たり前だ。

そんな状況と遂に7年前に決別できて、このマンションを購入し移り住むことが出来た時は本当に五代君は感慨深くて嬉しかったものだ。

自分だけでなく苦労ばかり掛けた愛する妻の響子さんにようやく、ようやく人並みの居住空間を提供できたのだから。

結婚しても管理人室に間借りを余儀なくされ慣れていたとは言っても、本当に申し訳なかった気持ちが大きいのだ。

もちろん少しだけ無理をすれば風呂もトイレも部屋にある別の賃貸アパートに転居は十分可能であったのだが・・そこまでしなくても多少不便でも想い入れが強く残る一刻館の管理人室から

転居しようとは響子さんも強くは思わず、”ねえあなた・・あたしたち十分に幸せだから、このままでいいじゃないの”と夫に優しく語ってくれていたのだ。

でもここを購入して転居した時には家族水入らずの誰にも邪魔されない住宅に対して五代君が長年仕事を真面目に頑張ってくれた成果であるので響子さんもとっても嬉しそうに”ありがとう、あなた。あたしも本当に嬉しいわ”と夫に感謝してくれた。

夫婦二人だけの寝室にも五代君は当然ながら異常に喜んだが、響子さんだって夫と一緒に休めてじっくりと愛し合える部屋が出来たことに凄く喜んで夫婦の営みである夜の生活も物凄く充実した形となり幸せが一杯であった。

実際に気分転換ではないが新鮮な気持ちが絶えず、1年くらいは新婚時代と同じように夫婦でとっても艶めかしく毎晩に近く性生活に励んだもので第二子の懐妊を期待もしていた。それだけが実現しなかったのは唯一残念なことだったが幸せな気持ちには変化は無かった。

今でも頻度は2日に1回だから倦怠期など何も迎えていない仲睦まじい夫婦のままだった。あの日・・響子さんが涙して実家に帰ってしまうまでは・・・・。

娘の春香ちゃんも生まれてからずっと一刻館だから他を比較対象として知らなかったので、ましてや移転できたのが9歳だったし、それまでは狭いからどうのとは何も疑問として考えなかったし言わなかった。

もっともこのマンションに入居して一人部屋を確保できた春香ちゃんは実際に部屋中を飛び跳ねて、更には床や畳を転げ回り嬉しさを表現していたものだ。

”パパ、嬉しい!ありがとう!”と可愛い娘に眩しいくらいの笑顔で言われて五代君も父親として最高に嬉しかった。

 

 

[そんなことないさ。君の家だって立派で大きな家じゃない]

昔、強引に家庭教師にさせられて八神の家に上がり込んだ記憶を五代君は思い出した。

もっとも家庭教師をするどころではなく二人の間に既成事実を作ろうとした八神の策略を拒否して靴も履かずに置いたまま逃亡する破目に陥り難儀したものだ。

購入したばかりのスニーカーを失ったが(取り替えそうにも二度と八神の実家を訪問したくなかったから)、それは変な例えだが手切れ金?と思えば安い物だと考えていた。

もっとも後日それは響子さんを介して無事に返却されたのだが。本当に八神が絡むとマトモな出来事は起きなかった。恐ろしい悪夢に近いことばかりだった。

[そう言えば、お父さんは元気かな?]

三友商事・・・・思えば五代君が学生時代に振り回された会社だ。

奇遇にもその時の人事部長が目の前にいる八神いぶきのお父さんだった。

[父は・・・・死にました・・・・・]

お茶を入れる手が止まった。

[え!]

意外な八神の言葉に戸惑う五代君。

[そ、そうだったんだ・・。ごめん、変なこと聞いて]

 

[いえ、いいんです。もし・・・機会があったら、お話しようと思ってましたから・・・]

それから八神は静かに話し始めた。

[父が三友商事の人事部長だったのは五代先生、ご存知ですよね?]

 

[ああ、よく覚えてるよ。就職活動したもんなぁ]

 

“五代先生”やはり口癖なのか八神さんから出てしまう言葉。

それに気付かないくらい、二人には女子高校の生徒と教育実習の先生の関係だった頃のような空気が流れていた。

[あれから父にも色々とありまして・・・・]

[それは・・・あたしたち家族にも影を落とし始めて・・・]

今までに見たこともない八神の悲しげな表情。

黙ってその話に耳を傾ける五代君。

八神のお父さんに一体何があったのだろうか?

それに巻き込まれた八神は?

家の事に話が及ぶと急に表情が曇った八神。

大事な一人娘ということで、かなり厳しそうなお父さんだったが、一体何があったというのだろうか?

 

[人事部長という仕事は大変だったみたいです]

[バブルが弾けて、会社もその時代に雇い入れた人員の見直しや、経営の建て直しのためにリストラをする事になりまして]

[当然のように、経営陣からリストラの指示が人事部に]

[父は猛反発しましたが・・・・一部長の意見など聞き流されてしまったようです]

 

バブルの時代。

今では信じられないかもしれないが、買い手(学生)が圧倒的に有利な時代だった。

企業はいい人材を確保するために、見込みのある学生を高級なレストランで接待したり、合宿と称して旅館やホテルに缶詰にして

ライバル他社に接触させないようにしたりと、尋常ではないような光景が繰り広げられていた。

 

もちろん三友商事もその波に乗り、大量の新卒者を採用した。

が・・・バブルが弾け、景気が急速に冷え込み始めると、その大量に取った人材も含めて会社は大量の余剰人員を背負うことになった。

 

リストラだ・・・・。

 

[それからの父は孤独でした]

[部下や同僚、まだこれからもある若い社員のクビを切る仕事の責任者となったのですから]

その当時を回顧し、八神は言った。

[そうだよな・・・。僕は保父になって良かったのかも知れないな]

[とてもそんな風な競争に勝ち残れそうにはないからね]

[お茶、冷めちゃうよ、八神さん]

少し落ち込み加減の八神を励ますようににこりと微笑む優しい五代君。

[それからが本当に大変でした]

しばらく間を置いてから話を続ける八神。

[父はそれから毎晩お酒に逃げるようになって・・生真面目な性格が災いしてストレスも溜め込んで・・・]

[体調を崩して入院してしまいました]

 

八神部長・・・正に厳格な人。

それが災いしてしまい入院してしまうことになろうとは・・・。

 

“”とてもわしにはやっとられん“”

 

[そう言って父は退院後に会社に辞表を叩きつけました]

[会社を辞めてしまってこれからどうするのか母も私もとても不安でしたが、父に笑顔が戻ったのでそれでいいと思いました]

[だけど・・・それからが・・・・本当に地獄でした・・・]

そう言うと、更に表情を強張らせる八神。

[父は・・・退職金を元手に知り合いの人たちと新しく会社を設立しました・・健康食品の委託販売の会社でした]

[でも、父は人事畑の人で、会社の経営も、営業の仕方もろくに知りませんでした]

[結局、父の生真面目さにつけこんだ周囲の人たちに持ち上げられて会社を興したようなもので]

[当然経営は軌道に乗ることもなく、矢面に立たされた父は・・・・・会社を畳まざるを得なくなりました]

[それでけじゃありません・・・・・失うものも大きかったです]

[あの家も、私たちのあの家も、・・・・・・・・・・手放さなくてはならなくなってしまったのです・・・・・・]

衝撃の告白!

八神さん御一家はあの家をすでに手放していたとは。

運命の悪戯。

順風満帆に生きているだろうと勝手にタカをくくっていた五代君に、八神の言葉が胸に染みる。

涙が溢れる八神さん。

[それから先、わ、私たちは・・・・]

それでも気丈に涙を拭い話を続けようとする八神。

[もう、いいよ。もう・・・・。ね?]

八神さんの話を制し、一言五代君は言った。

[つらかったんだね、八神さん]

五代君は立ち上がり、八神の後ろに回りこむと、そっと彼女の肩に手を置いた。

[五代先生!]

懐かしく、そして優しい五代君のその温もりに八神は心を落ち着かせるのだった。

“こんな脆い八神を見たのは初めてだ”

突然の事に戸惑いを隠せない五代君。

[つらかったんだね、八神]

そう優しく声を掛けるのが精一杯だった。

 

しばらくして落ち着いたのか、八神は話を続けた。

 

八神の親父さんの事業の失敗から、五代君も何度か訪れた“あの家”を手放した八神一家。

それからあの力強く一本気だった八神の親父さんは、気落ちしたのか、精神的に参ってしまったのか、

体調を崩しがちになり、生きる気力まで失い八神さんが就職するのを待たずに突然逝ってしまった。

大黒柱を失った八神家は色々と苦労を重ねた。

それでも持ち前の気丈さで悲しみを乗り越え、母校の教師として社会人の道を歩き始めたのだった。

 

八神さんは一通り話し終えるとにっこり微笑んで五代君に言った。

[それでも、頑張ってこれたのは・・・大事で大切なお守りがあったからです]

 

[お守り?]

 

八神は大事なお守りがあると言う。

五代君は何だろうと首をかしげた。

[それは・・・・]

八神は自分のバックからパスケースのような物を取り出し、そこから色褪せた1枚の写真を取り出した。

 

[あ・・・・・・・]

五代君は言葉を失った。

その写真は、五代君が八神の女子高生時代に教育実習で行った高校(響子さんの母校)での、・・・・体育祭での写真だった。

[ふふ、隠し撮りしたんですよ。五代先生に見付かんないように]

八神が屈託無く笑った。

[若かったんですね~。私も]

セピア色に変わってしまった写真を眺めて“あの頃”を懐かしむ八神。

[教育実習の時か~。もうずいぶんと昔の事だよな・・・]

“時間が流れるとこんなにも状況は変わってしまうのか・・・”

時の流れを嫌でも感じてしまった五代君だった。

 

[この写真、本当にご利益があるんですよ・・・だって今でも幸せな気持ちになれるんです]

[初恋は成就しませんでしたが・・五代先生はあたしの気持ちに応じてくれませんでしたけど・・・でもあんなに純粋に男の人を好きになってみて自分で自分の行動力に驚きました」

[だけど、その事を全然恥じてなんかいません]

 

[五代先生のこと嫌いになんかなりません。だって嫌いになったら当事の自分を否定することになります]

[どんなに頑張っても望みは叶いませんでしたが・・あの時の自分の気持ちや行動に嘘はありません]

[どんなに上手くいかなくても、あの時へこたれなかった。結局は失恋でしたが、でも挑戦したんです。挑まなければ何も結果は出ません]

[だから・・結果は考えないでとにかく頑張ってみること、そう思って生きてきました]

 

[父が亡くなり自宅も手放し、一時期学費も払えなくなりましたが・・別にあたしが、自分が亡くなる訳じゃない]

[・・だからあたしなりに歯を食い縛って勉強していたら単位が全て特優で成績優秀により学費免除で卒業も出来て教師になれました]

[だから五代先生はあたしの本当の恩師なんです。先生にはご迷惑かも知れないけれど、あたしの今があるのは絶対に五代先生のおかげなんです。ですから、ありがとうございます]

 

八神は凛々しくも誇らしげに自分の生き様を語った。不幸があっても不運があっても負けない強さを示してくれた。たった2週間だけの恩師だった五代君に。

五代君は昔と同じく彼女に圧倒されることとなった。こんなに挫折に強い女性ならば教師としても頼もしいであろう。その彼女が今では自分の娘の担任教師なのだ。

本当に娘の指導を宜しくお願いしますと言いたくなってしまった。

 

[すいません、今日は取り乱してしまって]

殊勝な表情で詫びの言葉を述べる八神。

 

[いやいや、いいんだよ、気にしないで]

しばらくして、帰り支度の八神を玄関まで送る五代君。

[あの、奥さんと、春香ちゃん、大事にしてあげてください・・・・ね]

[嘘じゃないし社交辞令でもないですから。だって春香ちゃんは可愛い大事な生徒だし・・優しくて友達思いの明るい女の子ですから・・クラスのまとめ役なんですよ]

[奥さんだって・・管理人さん、いえ、響子さんには凄いご迷惑をお掛けしてしまったこと流石に申し訳なかったと反省だってしてますから・・同じ女性として昔から憧れていますし。ホントですよ]

[ですから、二人を五代先生は・・大事に大事にしてあげなきゃ。だからそうして下さい・・・お願いします、ね]

“バンッ!”

五代君と視線を合わせようとせずそれだけ言うと、八神は玄関の扉を開いて出て行ってしまった。

[や、八神!]

五代君の声は誰も居なくなった玄関に淋しくこだました。

自分の気持ちとは裏腹の言葉を残して行った八神いぶきという五代君の元教え子。

“ホントは今でも大好きなんです”

(だって今でも・・お人好しで優しくて・・あの頃と同じで少年のように純粋な温かさが消えないから・・・)

(不器用でも不恰好でも一途に好きな気持ちをぶつけてくれるなら・・嘘なんか無い愛情を与えて貰えるなら・・五代先生みたいな・・そんな男性には巡り逢えなかった)

(管理人さん・・響子さんが五代先生をずっと好きだった、好きになった気持ち・・分かります。だって・・五代先生は奥さんになってくれた響子さん以外、ただそれだけを求めて他に何にも求めてないから・・本当に何にも)

(そんな危なっかしくて頼りなくて不器用な男性・・心配で目が離せなくて・・あたしが居なきゃ駄目だって思うし実際に行動したいですよね・・そうしたら子供みたいに・・はしゃいで喜んでくれるから・・・尽くし甲斐だって感じますよね・・本当に本当に羨ましい)

(あたしと五代先生が・・もっと早く二人だけで知り合っていたら・・・管理人さん・・響子さんとは知り合わなかったら・・・・運命だってきっと変わっていたかも知れませんね・・だって今でも本当は・・五代先生のこと好きですから)

もしかしたら・・そう言いたかったのかも知れないだろうが・・・。

五代君も今すぐにでも最愛の響子さんと、同じく愛する春香ちゃんを迎えに行きたい。

しかし、それを阻もうとする過去の苦い思いがある。

・

・

・

~翌日 しいの実保育園~

[ほ~ら高い高い~!]

いつものように子供をあやす五代君。

本音では妻と娘を迎えに行かなきゃならない。

だが・・・・・・。

[あ、またあの女(ひと)よ]

[よく来るわね~]

 

[園長先生の家庭平気なのかしらね~?]

[あ~んなに綺麗な奥様と可愛いお嬢さんがちゃんといらっしゃるのにね~?]

 

[ホントホント。まるでモデルさんか女優さんみたいに美人でさ、スタイルも抜群で気立ての良い素敵な女性が奥さんなのに信じられない]

[あ~でも遂にバレたんじゃない?だって自慢の愛妻弁当、最近は持参してないもの。流石に作ってくれないわよね、浮気した旦那になんて]

 

[何度かここで目にしたけど、あたしたちにも丁寧で優しく挨拶してくれて感じの良い大人の女性が奥様なのに何が不満なのか不倫なんてねえ?全然ツンツンしてない気さくな美人に文句なんてあるのかな]

[園長先生もベタ惚れにしか見えなかったんだけどなあ・・男と女っていうか夫婦って複雑なのね・・・例の女の人って普通の見栄えだし、若くもないしどこにでも居そうでしょ]

 

[前に商店街で夫婦二人で仲良く買い物しているのを見掛けたばかりなのにね。すっごく自然に腕組んでて他人の入り込む余地なんて無さそうだったのに・・奥様が可哀想よ]

[そうそう、お気の毒よね~。姉さん女房らしいけど、若々しいから見た目からして30台前半の女性にしか見えないから園長先生と年齢が逆な感じがするしさ・・・あんな美貌の慎み深い女性を悲しませるどころか、泣かせるなんて罪作りにも程があるわよね。意外だなあ]

 

元来の子供好きと、一生懸命さが認められて、しいの実保育園の園長となっていた五代君。

しかし、この所の“よく来る女(ひと)”の出現で、部下である保母さん達には言いように噂話や陰口を叩かれる始末。

それでも黙って耐えている五代君。

[あ、ちょっと悪い、少しばかり出てくるよ]

保母達にそう言うと、五代君は“よく来る女(ひと)”の元へと歩いて行った。

[ごめんなさい、五代さん、いつも押しかけてしまって・・・]

“よく来る女(ひと)”は申し訳なさそうに言った。

 

[いやあ、いいんだよ、こずえちゃん]

“よく来る女(ひと)”と保母達に言われていたのは、

やはり七尾こずえちゃんだった。

 

 

以下、次回

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