輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
《つきの光は、ニンゲンたちにたいようがあることをしょうめいしてくれていたのかな?》
その日、いっぴきのちえあるケモノはそれをみておもいました。
ちえあるケモノをしずかに…そして、やさしくてらしてくれている光。
その光がケモノに「たいようがそんざいしていること」をしょうめいしてくれるのです。
つきはたいようの光を受けることで、はじめてその存在をニンゲンたちに知ってもらえました。月は太陽がなければ、ニンゲンたちに「ないもの」として扱われていたでしょう。
もっとも、太陽がない世界でニンゲンたちは生きていけかっただろうし、仮に生きていたとしても、それは太陽に代わる何かがニンゲンたちを照らしつづけていたからに違いありません。
《月の輝きが在る事が、太陽の輝きが在る事への証明なら───いったい、かみさまがいたという証明は、なにがしてくれていんだろう》
それが、じぶんをおとすはずだった、いっぴきのちえあるケモノが息をすって考えた、さいごのかがやきでした。
━━━To prove that red━━
☆
───やっと、この日が来た。
高い、高い場所。
ビルの屋上から、この町を無感情に眺める。
無感情、無関心。自分にとって、この普段馴染みの無い場所から一望する素晴らしい町並みも、その上にただ輝く太陽も、広い青空すら今の自分には価値を感じることができない。
だから、その平穏な日常の中に在るはずの景色に「真っ黒い煙」が上がっていても、それを異常とすら思えず、ただずっと待っていた「刻」が来たという事にしか価値を見出せないでいた。
そうだ。今の自分に……この日常の中に在る景色が、引き裂かれていく事は重要じゃない。
重要なのは、今の自分にとって…今までの自分にとって重要なのは、「条件が満たされたという事実」だけ。
だけど、──あの黒い煙は、日常が壊れていく姿は───
「……いく、か」
全てを振り払うように。
心の中に在る日常を、取り戻す為だけに。
屋上の端へ足を乗せた。
…と、同時に気づいた。
───風が、吹いている。
目の端に入った、非常に小さな米粒よりも小さな何か。
かつての自分では絶対に見つけることはできなかったであろうそれを、しかし今の自分は明瞭に認識出来る、…出来て、しまう。
その小さな「桃色の影」に小さく沸きかけた感情の一切を切断し、「景色の一部」として、その心を再び切り捨てる。
「──いくか」
そして、俺は───ビルの屋上から"踏み外した"。
当然、自分の身体は虚空へと落ちて行く。…だから、そう。こんなの「自殺」と何一つ変わらない。
俺は、自殺しなきゃならない。その為に。たった一度のこの時の為だけに。
…この6年間(小学三年生になったあの日から)、ずっと「彼女達」を見捨て続けたのだから。
───彼女達によって引き起こされる襲撃の最中、街の何処かで───天が地へ落ちるような、そんな音がした。
━━━Fiat justitia ruat caelum━━
※この話は1話ではなく、「1話に対してのプロローグ」的なものだと思ってください。