輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
感想・評価ありがとうございます……!
※追記:ちょい加筆修正しました。
「ましろ、かわいいのほしかったんでしょ? ここにいっぱいあるよ」
「………………」
目の前には忌まわしき怨敵の大群………もとい、女児用の下着がこれでもかと積まれたワゴンと、その中から水色や白の布を渡そうとしてくるツインテ幼女さんを俺の正常な脳は至って普通に認識を拒絶する。………え、これ現実???
いや………俺だって、俺がしようしていること─────則ち、客観的に観て『男児用の下着を履く幼女』の図が如何に、一般的な常識から考えて、違和感のある光景かはなんとなく察している。
……が、考えてもみてほしい。
この前までずっと男として生きて来て、女性用の下着を『自分以外の誰かが着るモノ』として認識してきたのに、今更そうそう簡単に自分の足に通して身に付けるなんて正気でできるワケがない。
確かにこの1週間、その、自分の今の身体に合う下着に仕方なく、本当に仕方がなく足を通して羞恥プレイをする羽目になったりもしたが、アレは完全に黒歴史だ。なぜ出し物のネタとしてすら成り立たない類の変態行為を、誰が好き好んで自分の日常に組み込まなければならないのか。
しかし、今は違う。
今までは慣れない環境に適応することを最優先事項にするため、後回しにするしかなかった精神衛生の環境改善への努力も存分に行うことが出来る。これは当然の権利だ。
……そう、俺は今、自由を手にしているのだ。
自分の家に、なぜか完全に女児用の見慣れないパンツしか存在せず、幾ら探しても男の下着という名の救いが完全に消し去られているとかいうクソみたいな環境下を自分一人で必死に耐え抜いた俺に、神は救いを与えたのである。
「ましろ、こっちはどう? ピンクでかわいいよ」
……救いを、与えた……はずだったのである。
「…………」
「ましろ、どうしたの?」
「いや………あのさ」
どうしたの? じゃねぇよ。
というか、なんでこの子は俺の下着を選ぼうとしてるんだ……いや、俺も確かに自分でも「選んでほしい」とは言ったけど……! 半分くらい、自業自得ではあるけどぉ……!!!
………あと、何故この子は俺の身体の下着のサイズを把握しているんだ………???
渡された、ファンシーなキャラがプリントされた女児用の布のタグが目に入ってしまい、困惑してしまう。
なぜか、その場にあったものをサイズを適当に渡されたのではなく、この子が選んで見せて来るものは家で『林祢 真銀』用に用意されていた下着のサイズと全く同じだったのだ。
「ネネちゃん、なんで………その、私の下着の大きさ分かるの………?」
「え? だって、ましろのぱんつ、はやてと大きさいっしょだったでしょ?」
「……………。…………そうだったね」
HAHAHA!
………なんというか、記憶力、いいんですねお嬢さん………ところで、出逢って数日の、年下の近所に住む幼女に自分の下着のサイズを把握されている俺はなんなんでしょうか………俺、一応大人の男なんですけど………あの、羞恥心で、死にそうなんですが………えっと、これ泣いていい? 泣いていいよね?? あと、普通に死んでいい??
出逢って数日、幾度目かの男の尊厳が擦り減っていくイベントに、突入する。
いや、傍から見ればこの子の家に泊まった時の方がダメージ大きいと思うかもしれないが、あの時は何というか余りにも急展開過ぎて若干現実の出来事として脳が受け止め切れてなかったというか………! ふつうに生きてたら経験しないであろう、非現実的すぎるイベントが連続でわが身に降ってこられると、半分もう他人事として現実逃避してメンタルを保とうという精神の防衛機能が立派に働いてたというか………っ!
つまり何が言いたいのかというと─────
(─────あの時より余裕をもって『現実の出来事』として受け止めてしまっている分、羞恥心がダイレクトに沸いてくるんだけど!?!?)
まずい。
これ、俺の尊厳がまずいことになっている。確実に。
というか、この分だともし万が一あの日と同じ出来事というか、具体的にはお風呂とかあれこれを二度目にやられたら確実にまずい………っ! というか、むしろたぶん、二度目の方が『現実』になってる分、色々と駄目になる気がする………絶対に二度目のお泊りは回避せねば………!
俺が未来でやってくるであろう(恐らく家に引き摺り込もうとしてくる幼女との)聖戦に対して闘志と使命感を厚く燃やしていると、
「いらっしゃいませ。……えーっと、お姉ちゃんと一緒にお買い物かな?」
「……………………?????」
「ましろ、どうしたの?」
「???????」
………店内にいた女性の店員さんに予想外の言葉のハンマーに現在進行形で頭を横殴りにされてしまっていた。衝撃の即死コンボである。
………いや、えっと。
あの……なんで??
見知らぬ店員さんの微笑まし気に出てきた最初の言葉が、意味不明すぎて自分には流石に理解しかねる。なにこれ??
だって、発言の内容的に初対面の店員さんにこの元気っ子となぜか実の姉妹だと勘違いされてる……されてる??? なんで??
だって、あの、俺の容姿がめちゃくちゃ似てるのはこの子の方じゃなくて、この子の妹の方で………。
………。
………あ、だからかぁ……。
店員さんに、ナチュラルに隣の幼女とセットで姉妹だと勘違いされるという異常事態。
俺が宇宙を背に脳を停止させている猫のような顔をしている横で、『お姉ちゃん(誤解)』は店員さんと楽しく会話を続けている。
「今日はましろのお洋服えらびにきたの!」
「ふふ、そうなんですね」
君はまず最初に、勘違いされたんだからそのことについてちゃんと否定しよっか???
何? この子は何で、知らない人からの俺との姉妹扱いをそのままスルーしてるの??? それとも、まさかとは思うけどこの異常事態をスルーできない俺の方が異常だなんて言わないよな……???
「ましろ?」
「もう、かえっていい? おねえちゃん………」
「え!? ましろ、あたしのこと、おねえちゃんって!」
………。
だれか、たすけてぇ………。
☆
結局、場の雰囲気には逆らえず、『お姉ちゃん』が選んでくださった下着を幾つか購入し、本来のお目当て品はスルーする羽目に………。
え、結局俺、今日も女児用の下着履かないといけないの………??
自由は………? 選択の余地は??
「ましろ、かわいいの買えてよかったね」
「う、ぅう………ぐす、けがされたぁ………」
「けが!? ましろ、どこけがしたの!?」
「ちがう、ばかあ………」
見当違いの言葉を言う少女と手をつなぎながら、帰路に着く。
………うん。次に買い物に来るときは絶対に、この子に見つからないようにしよう。