輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
『ハヤテの目元はね、………パパと似ているかな』
『パパ?』
それは今よりも更に幼かった頃の……4歳の牙咬 颯がお布団に入って、珍しく母と一緒にお昼寝が出来たときの話だった。
『めもとって、なに?』
『目の近くね。ほら、パパと似てる』
ママが手に持っているのは、お昼寝の時によく手元に持ってくる写真だった。どうやら、颯に見せてあげたいらしい。
聞いたことがない言葉だったが、その意味は目の近く。つまり、顔だ。
ママが言うには、この枕元の写真の中にいる男の人はパパという人で、ママのような人らしい。
それがどういうことなのかは最初はよくは解らなかったが、写真の中で今よりも小さい姉を挟むように三人で手を繋いでいる姿は、幼稚園の子を買い物のときに見かけた時のシルエットと同じような気もする。
外で見かけたあの子は隣に男の人と女の人がいて、写真の中の姉と同じように三人で手をつないでいた。
─────だけど、そこに、自分は居なかった。
少女は少し、寂しくなった。
後で、姉と手を繋ごう、とも思った。
にぎにぎを、するのだ。
そうすれば、パパという人のことがわかるかもしれない。
名案だと思った。すぐにやろう。
『おかおが、にてると、かぞく?』
『う、うーん? えっと、そういうわけでもないんだけど』
『??』
確かに、この写真の中の人と自分の顔は少し似ているかもしれない。
自分はママやおねえちゃんともよくよく思い出せば確かに似ているので、顔が似ていると家族なのかもしれない。
大発見だ。
人は、顔が似ていると家族なのだ。
きらきらと目を輝かせながらママに確かめるために訊くと、少し困ったような顔になってしまった。
違うとも言い切れない。でもそれが絶対だとも言えない。
何かわからないことを聞いた時に、時々ママがする顔だった。
『………でもね、ハヤテとパパが顔が似ているのは家族だからなの。それだけは………間違っていないから』
☆
「ましろ。おかえり」
「はい???」
はやては二階にある自分の部屋の窓から帰ってきた『二人』の姿を見つけ、すぐに玄関を飛び出して外門の前にいた少女をつかまえた。
この女の子は『ましろ』といい、はやての家族だ。最近妹になった。
しかし、家族になったというのに一週間近くも家から居なくなってしまっていた。おかげで姉やママもすごく心配していた。すこし悪い子だ。いいこにしてあげなければならない。幼き牙咬 颯は燃えていた。
「あと、ずっとお外にいたらだめ」
「はい???」
「ましろはね、はやてのいもうと。だから………ちゃんとおうちに帰ってこなきゃだめ」
「はい??!?!?!???!」
☆
林祢 真銀は混乱していた。
『おかえり』とは、確か他者が戻ってくる場所に戻ってきたときに親しみを込めて言われるような言葉のはず。
だが、それは変な話だ。この少女とは別に親しいという間柄ではない。というか、ほぼ一日しかかかわった時間はなかったはず。どういうことだこれは。何が起きている???
………いや、まて。落ち着け。
別にその単語自体はありふれているものだ。休憩時間や会議などの理由で一時的に持ち場から離れ、職場に戻った時、仕事仲間たちにそう言った言葉を掛けるのはごく自然な人間のコミュニケーションの一部であり、文化的にも違和感のないごく普通の声掛けだと言えよう。
だが、それは飽くまでもそういった日常的に親しくならざるを得ない環境下で他人を親しき隣人と表面上、社交的な意味を含めて交わすような言葉だ。断じて一日しか交流がないような、しかも別に特に仕事仲間だとかあるいは教育機関におけるクラスメイトなどの長期的に否が応でも仲よくせねばならない間柄という訳でもない。
いや………そういえば、アニメだとかで見たことがあったが、この単語は一般人が家族が帰ってきたときにも言っていたはず。よくよく思い出せばこの子はあの日ツインテ幼女が帰ってきたときや、母親………カエデさんが帰ってた時にも言っていた。
………まさかとは思うが、追撃と言わんばかりに放たれた意味不明かつ理解不能な単語─────俺がこの子の妹などという非常に奇々怪々かつ摩訶不思議なファンタジー発言と相まって、『突然自分の家に現れた俺を自分の家族だと本気で思い込んでいる』という異常極まりない単語に成り果てているような。………いやいやいや。
「あの、えっと、え? いや………はやてちゃん、だったよね」
「うん」
「私がはやてちゃんの妹ってどういうことなのかなーって……」
「この前も言ったとおり。ましろははやてと同じ」
「あ、ああ。なんか言ってたね。同じだって」
「うん。だからましろははやてのかぞく」
「なんで?!?!???」
だ、だれか………分かるように判り易く俺のこの状況を説明してくれ……!
意味が解らない。むふーっと嬉しそうに自身の意味不明は推理を披露しているそっくり幼女と、混乱する俺。こてんと首をかしげてよくわからなくなった状況を眺めている
「あの……三人とも。ここは道の真ん中ですし、とりあえず家の中に入りませんか………?」
事態を掴めずとも、車の通りが稀とはいえ一応、道の中心に立ったままになっている幼女たちを安全な場所に移動させてから話せるべきだと判断した制服少女ことユキカちゃんに諭される形で、再び(なぜか)俺はこの子たちの家に入ることになった。
………あれ、俺この家に入る必要あった???