輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
「ていうか、ましろ」
「………なに?」
腕を拘束されてた状態で、ジト目で聞き返す。
しょうがない、逃走経路上の障害物を利用するって言ったって相手はなんか意味不明な身体能力を持っているスーパー幼女だ。それに対して俺のスペックはノーマル幼女。………おかしいなあ、俺だって大人の男なんだけど。
理不尽な現実に耐えつつ、筋トレでいつかこのツインテハンターから逃げきることを心に雄々しく誓っていると、そのツインテハンターが不思議そうな顔で指摘してきた。
「──────ましろのおうち、すぐそこだからお着替え取ってくればいいんじゃないの?」
「ちょっ」
それは頭の中の候補にはあった選択肢。
だが、それは飽くまでも彼女たちにセーフハウスの場所が直ぐそこにあるとバレてしまう諸刃の剣であり、出来れば避けたかったが──────。
「ましろちゃん、近くに住んでたんですか?」
「あー………うん。ネネちゃんたちが家に来そうだったから、出来れば隠しておきたかったんだけど、今日の朝についにバレちゃって………」
「ましろのおうち、目の前にあるんだよ!」
「おいこら」
この子、さっきから口が軽いんですが???
「目の前に? お隣さんだったってことですか?」
「そう! ましろ、これからは毎日遊びに行けるからね」
「こなくていいから」
訊いてきたユキカちゃんには観念して素直に答える。隠せるのなら隠しておきたかったが、ネネちゃんにバレた時点で家の位置が身内の人たちにバレるのは時間の問題だったし、そうでなくとも真ん前にあるのだから、いつかは家を出入りするのを見られることになっていただろう。………現にこうなっているわけだし。
(そしてバレてしまったということは、転じてこのピンチを乗り越える手段として使えるという事………!)
くっくっく……! 家に逃げ込んでしまえば、こっちのもの。流石に鍵をかけてしまえば追っては来れまいよ………!
帰宅していたカエデさんたちに「お邪魔しました」と頭を軽く下げて家を出る。ダッシュだ。
家の鍵を開け、扉を開けたところで後ろの追跡者を振り返る。
「いや、なんで付いてくるんだよ!?」
「? だって、お外くらいでしょ」
「………………そうだな」
純粋に親切で付いてきてくれたらしいので、喉まで出かかった文句を飲み込み、仕方なく家の前の待機を許すことにする。
「おいちょっとまてい」
「?」
ナチュラルに家の中の境界線まで入ろうとしてきやがった幼女にストップをかける。
「なんで入ろうとしてるんだ」
「だってましろのおうちでしょ?」
「…………。私のお家なら入ってよろしいと?」
「? うん」
「……………………もういいや。そのまま入っていいよ」
諦めてそのまま靴を脱ぎ、着替えを取りに家の中に入る。同行者が一名なぜか居るが、極力考えないようにする。
え? 籠城するのではなかったのかって?
いや、もう玄関の前まで来られてたら詰んでるだろ。勢いよく扉を閉めてこの子の手を挟む訳にもいかないし。
ため息を
……下着を置く場所として色々と間違っているのは分かっているが、一人暮らしだし、ベッドのある2階の自室は現状、タンスなどが無い状態だ。
仕方ないので、元々衣類の入っていたダンボールセットを仮の衣装入れとしてそのまま利用している。……一度まとめて持って上がろうとしたら、フィジカル的に無理だったので、後回しにしている訳では無いのだ。くそう。
「ここがましろのおうちかぁ〜」
「そうだな」
「……ダンボールいっぱいだね?」
「……そうだな」
指摘された通りの状態である、ダンボールの山の横に置かれた衣類セットを漁り、お目当ての……この身体用の着替え一式と、紙袋を持つ。
「っていうか、今日も泊まっていいの? ひょっとすると駄目だったりするんじゃない?」
「え? ママがいいって言ってたからいいよ?」
「……ああ、そう……」
ワンチャン、家主が駄目宣言をしてくれることに期待してみたものの、既に了承済みだったらしい。いつの間に。
「そうだ、重なってるダンボール降ろすの手伝ってくれないかな」
「えー」
「………。大人しく、いっしょにお泊まりしてあげるから」
「わかった! てつだってあげるね」
不満たらたらから反転、急に元気になった様子に思わずげっそりしたものの、時間稼ぎを兼ねた抵抗には成功したので良しとする。
……客観的に見て、結果的に女子のような力弱いアピールになっている事実からは全力で目を逸らす。いいんだ、俺は使えるものは使う主義なんだ……!
「上に乗ってるやつだけ退かしてくれればいいから」
「これ?」
「うん、お願い」
置き場は……できれば空いてる部屋が複数ある、2階がいいか。
試しに持ってもらって、それからどうするか決めよう。
そんな旨を伝えてやってもらう。
……そういえばネネちゃんが指刺したアレ、かなり重かったんだよな。いや、この身体がパワー無さ過ぎるだけな気はしなくもないが、もし動かないようだったら……仕方ないので、素直に連行されるか……。
そんなことを考えながら見守っていると、ネネちゃんがダンボールに手を掛けた。
「あ、なんだ。軽いじゃん」
「へ?」
ひょい、とネネちゃんが片手で邪魔になっていたダンボールを持ち上げる。……あの、それ俺がこの1週間、何度も持ち上げようとしてビクともしなかったやつなんですが。
「これを2階に置いていけばいいの?」
「あ、うん……ありがとう、ネネちゃん」
俺が微妙な顔で敗北感に打ちひしがれること数分。
綺麗に一番下の段のみが残った元ダンボール山が出来上がった。
……のはいいけど、なんか最後の箱を置きに行ったっきり降りてこないな。
「これましろの写真じゃない!?」
「え?」
2階に上がって確認しようとして。
─────ネネちゃんが、一枚の写真を収めたフォトフレームを持ってきた。
そこには、微笑む両親に手を繋がれて照れくさそうにしている………