輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
これは、それからの話になる。
ネネちゃんに場の雰囲気に流された呼び名をしてしまったことをニヤニヤされながら指摘されたり(うるさい)、紙袋に入れてたはやてちゃんから借りた服を返したり(なんか返したら残念そうな顔をされた。俺に着ていてほしかったらしい。なぜ???)、カエデさんに家が隣であることがバレて、先月まで───────つまり、俺が意識を取り戻す直前まで、あの家には誰も住んでいなかったことが判って、薄っすらと疑っていた引っ越しの疑惑が確定し、祖父に問い詰める要件が増えたり(ちなみにカエデさんたちも顔が引きつっていた。真っ当な反応だった)。
そうして話は、4か月後から始まる。
☆
「ましろ、今日の晩ごはんなにー?」
「ん? ああ、今日はハンバーグだよ。昨日、雪果ちゃんと一緒にタネを作っておいたから、美味しく
「手抜き?」
「手抜きじゃねぇよ。生活の知恵だよ」
「あはは、そうだよね。ごめんごめん」
失礼なことを宣ってくる少女に配膳を頼みつつ─────今まであったことを、少しづつ思い出していく。
☆
俺は、新しい生活が始まって………ネネちゃんたちの家に泊まることが多くなったというか、いつの間にか居候になっていたというか。いや、最初はやっぱり遠慮すべきだと思って連続お泊り3日目辺りで断ったんだけど、ネネちゃんたちに泣き落されたことに加え、カエデさんから受け入れられていたのが大きいのだろう。………いや、最初の頃は常識的な観点から家主であるカエデさんも渋っていたはずだったのだが、いつの間にか気にせず受け入れてて普通に困惑した。いや、可笑しい。可笑しいので、とりあえず理由を聞いたら、
「え? ああ、そうねぇ。よく考えたら、西山さんが最初に来るようになったときもそんな感じだったからかしら………?」
とのこと。
………詳しい話を聞くと、雪果ちゃん、どうやら小学生の頃からこの家に通っているらしい。なんてことだ、この家には他人の家の子どもを泊まらせる抵抗感がまるで存在しないとでも言うのだろうか???
ちなみに地味に困っていた現代社会の必需品である個人電話に関しては、ネネちゃんと行ったデパートの近場にある、公衆電話で最初に病院でもらった祖父の電話番号に掛けて要望を話してみると即行解決した。ついでに次に会えるのはいつかと訊いたらガチャ切りされた。あくまでも聞いてくれるのは生活に必要な要望だけらしい。………金銭問題も(なんか札束がありったけ詰め込まれた反社の財布みたいなかわいくないお財布が翌日ポストに突っ込まれてた。頭がおかしいんだろうか。いや、祖父には電話越しにありがとうって言っておいたけどガチャ切りされた。頭がおかしいんだろうか)なんとかはなったので、ヨシとしよう。
そうして────────今日もまた、『いつも通り』になってきた一日が終わり、明日が始まる。
「じゃあ、ハヤテも、マシロも用意できた?」
「はーい」
「……えっと、はい」
「ましろ、おへんじはしっかり」
「ぐ、………は、はーい」
「うん、よろしい」
隣にいたハヤテちゃんといっしょに呼ばれて、少し照れくさくて、声が小さくなる。今日は全員で遊びに行く日だ。寒い季節になってきたので、ちゃんと服装は暖かくしていく必要がある。カエデさんはぬくぬく状態の俺たちを見て満足したように頷いた。ちなみにネネちゃんは先に外に出ている。外から催促の声が聞こえてくるのがいい証拠だ。
それと、ご覧の通りカエデさんからの呼び方もいつの間にかネネちゃんたちと同じ感じになっていた。なんでも、元々なぜか俺にちゃん付けするのは違和感があったらしい。どうやら、気付かぬうちに俺の内なる男らしさが溢れていたようだ……。
(単純に隣の子と容姿が似てるからでは? という指摘は無視することとする)
………先ほども述べたとおり、俺がいつの間にか牙咬宅に泊まるのがデフォルトになってきている。というか、自分の方の家に居るとネネちゃんとハヤテちゃんが毎回、俺を回収しに来る。雪果ちゃんとカエデさんもいつの間にか気にしなくなっていたので………いや、これが普通でいいのだろうか、これは。
それと、偶にだがネネちゃんとハヤテちゃんが俺の家に遊びに来る………というか、入り浸るパターンもそこそこ増えて来た。
そして、その姿があまりにも牙咬宅に居るときと変わりないので、この家のことをどういう風に認識しているか確認してみたところ。
「え? ここはましろのお部屋がある方のお家でしょ?」
「うん。ましろのお部屋があるとこ」
……もしかして、この子たち。俺の家を自分たちの家と連結してる場所と思ってらっしゃる???
──────と、まぁ。こんな風に変化を感じながら日常を過ごしている。
☆
「ましろー! そろそろいくよー!」
「ちょっとまってー! 髪留めだけしていくからー!」
「わかったー!」
過去の林祢 真銀を詰め込んだダンボールの山。
その全てを理解することは、もう出来ないのだろうけど。
そこから取り出したひとつを、忘れないように毎日持っている。
「……私は、林祢 真銀として生きていく」
俺は彼女の過去がどういったもので、なぜ鬼に襲われてしまったかさえわからない。
けれど、その上で俺はこの世界を生きていく。
俺は俺で、けれどこの身体で生きるしかなくて、ならそれを受け止めて生きていくしかない。
─────かつての自分が欲しかったもの。この日常が、そうだとはまだわからないけれど──────あの子たちとの時間は、いつも暖かいものだと感じている。
なら、それで十分だ。
もう少し。
もう少しだけ、この世界で頑張ってみよう。
「これで、よし」
姿見の前で、『金色の髪留め』をした少女が、前向きな眼で未来を見つめていた。
「行ってきます!」
─────扉の向こうには、朝日が昇っていた。
序章-reset- 完
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