輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
いつもの朝食と、非日常のはじまり。
───────月には、兎が居る。
いつか聴いた噺だ。
どこで、かは……もう、わからない。
遠い昔の話だ。
それは。
一匹の兎と、一人の旅人の御伽噺。
兎はあるとき、人影を見つけました。
それは、『旅人』でした。
どんな辛い旅をしてきたのでしょうか。
その人は、もう一歩も動けなくなっていたのです。
──────倒れて動けなくなった旅人と、心優しい兎。
兎は猿のように木の実を採ることができません。
兎は狐のように獲物を狩ることができません。
なので。
兎は倒れている旅人を助けるために、火の中へと自身の身体を捧げました。
旅人に、自身の血肉を、『自身の肉体』を与えたのです。
その姿を見た旅人は、兎の優しさを知り、本当の姿を現しました。
旅人は神さまだったのです。
神さまは火の中へと飛び込んだ兎を救い出し、兎の姿を月に刻みました。
やがて兎の命は人々を照らし続けるでしょう。
そして。
捧げられた兎を救い、月に導いた神さまの名前は───────。
☆
12月17日
楓さんを含めた牙咬家は、基本的に和風も洋風も食べる。
……のだが、どちらかというと幼女ズ二人は子ども舌なので、洋風の方が好みらしく、比率は洋風に軍配が上がっていたりする。
反対に雪果ちゃんと楓さんは和風を好む。なんでも楓さんは幼少期は和風の品しか家庭には出て来なかったらしい。なんとも古風な家で育ったそうだ。
雪果ちゃんは……あまり実家周りのことについては話してくれないので分からない。数ヶ月の付き合いではある。あるが、俺としても本人が言いたくないことに無理に踏み込むつもりは無いので、別に良いか、という感じだ。
俺は、だって?
………。
…………。
…………まぁ、なんというか。
この身体は子どもなワケで。
……正直言って、洋風の方がおいしく感じたりは、する。
いや、そんな話はいい。
問題は、朝のトーストにマーガリンを塗りつつ、隣に座っているハヤテちゃん─────最近、俺を真似してか、何処からか発掘してきた紙垂のような髪飾りを付け出した─────の今日したいことリストの中からナチュラルに、俺の連れ回しの刑が予定に組み込まれているのを回らない頭で聴いていたときのことだ。
「あ、ネネ。再来週から冬休みだったよね?」
「え? うん。そうだよ」
「─────ネネ。いよいよ貴女の退魔師の修行を始めます。心して置くように」
そう──────普段は見せない、まるで日常には居ない人間がするような
緩んでいた空気が、この場、この瞬間に於いては固くなる。
……母と娘。
その双方が、真剣な眼差しに変わってきた頃に──────俺の回っていない頭も、漸くその朝には似合わず、しかし二人の間に必要な儀式を認識した。
退魔師の、修行。
退魔師の、修行………─────?
ん?
……んん??
「え。─────楓さんって、退魔師だったんですか?!?!??」
気がつくと。
あまりの衝撃に、声が出てしまっていた。
「……え?」
「んえ?」
「?」
あっ。