輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
気付いた方も多いかもしれませんが、序章7話の挿絵を追加しました。
(とりまる先生、今回もありがとうございます……!)
とりあえず、楓は涙の跡が残る少女の顔を、手を引いて立ち上がらせる。
罪悪感故の行動だと理解はしたが、それは本来この子が行う必要の無いものだ。
というか、今は12月。暖房は効かせてあるとはいえ、冬のフローリングは冷たい。退魔師ならば身体に巡らせた命気の副次効果で温度差への耐性を持つが、まだ退魔師としての修行も行っていないハヤテやこの子は普通に風邪をひいてしまう。
よっぽど罪悪感を感じてしまっていたのか、暖房マットを敷いていない場所に当てていた小さな手は楓が触ってみると、かなり冷えてしまっていた。
「ほら、立って。もう、こんなに手が冷たくなってる」
泣き腫らした顔をみて、微笑んだ。
「さ、マシロ。ご飯、食べてから話しましょう?」
☆
少し冷めてしまった朝食を温め直して食べていると、次第に………というか、再びじわじわと自分のやった行動に頬が赤くなるのを感じてしまう。
「うう、ぐす………」
「おお、いいこいいこ」
食べ終わった後、とりあえずネネちゃんと楓さんの話が纏まるまで若干涙目状態で待機。
はやてちゃんに頭をよしよしされることとなっていた。……抵抗する気力もないので、為すがままだ。
いや、でも………うう、楓さんがまさか退魔師だっただなんて。
というか、これ、ひょっとしなくとも雪果ちゃんの言ってた『修行』の邪魔してたんじゃないのか?? 楓さんの仕事を教えてもらってるってコトはそういうことだろうし、知り合ってから数ヶ月そうだったってコトは……そうなるだろうし。
「雪果ちゃん、ほんと、ごめんなさい……」
「マシロちゃん?」
「たぶん、かなり、ぜったい、楓さんから教えてもらうとき、邪魔になってたよね……?」
「あ、あー……だ、大丈夫ですよ。お師匠様も、さっきマシロちゃんにはもう隠さないようにするって言ってくれてましたから」
改めて、数ヶ月間見えない負担を掛けていたであろう雪果ちゃんに謝りに行くと、そんな言葉が返ってきた。
どうやら、俺が本気で凹んでシャットダウン気味になっている間にそんな話をしていたらしい。無論、退魔師の道を歩むか不明な俺には話せないことも有るのだろうが、過度な情報のシャットアウトはお互いに負担が大きいと判断したとのこと。
……改めて、せめて俺が楓さんが退魔師だと外部から知れていればここまで取り乱さなかっただろうし、配慮も出来たかもしれないが、ネットで検索する手段とか未だに持って無いしなぁ。
え? 個人携帯を買ってもらったのではないのかって?
……いや、買っては貰った。貰ったが、どうやら祖父の認識では "他人と連絡が取れればいい"、という認識だったらしく、最早現代社会で必須アイテムになっているスマートフォンではなく、謂わゆるキッズケータイと呼ばれるお子様向けの最低限の機能しかない不便利品が家に送られてきたのである。いや、連絡は出来るし、防水に優れているらしいので5歳児に渡すには最適なのかもしれないが。
まぁ、そんなこんなで正直言いたいこともあるにはあるが、態々買ってもらったものを使わない訳にもいかないので、祖父と楓さんと雪果ちゃんの連絡先が入ったそれを使用している。……正直、未だに長距離を移動出来ないので問題がないと言えば無いのだが。
「ましろー、ママとのお話終わったよー」
「………」
「ましろー?」
「………」
「まーしろっ」
「へ? ネネちゃ……うひゃ!?」
突然背後から差し込まれるネネちゃんの手。
どうやら落ち込んだ末に、色々と考え込んでいたら楓さんとの話は終わっていたらしい。
……いや、ちょっとまて。
突然の未知の体感で気づかなかったが、今の、"くすぐったい" じゃなかったか???
前世を含めても体験したことのない、服が軽く肌を擦れるだとかそういう次元の代物じゃなくて。
これ、ひょっとして。
こいつ、お腹の横を──────!
「さーて、おしおきだー!」
「は、ちょっ、何を」
確かに結果的に無視はしてしまったかもしれないが、明らかにお仕置きされるようなことはしていなかっただろ、と反論する前に怪しげな手つきが脇腹をか細く駆け巡る。
こちょ。
こちょこちょこちょ。
「ッ、きゃは、きゃはははは!」
??!?!
「ほーらほらほら、ましろー、お姉ちゃんを無視とは……いいどきょうだなー?」
「ちょ、ひゃ、ごめ、ねねちゃ、ごめ……きゃははは!!!」
くそ、このツインテ幼女、普段割と不器用寄りなのに、かなりくすぐり慣れてやがる……!
「まっ、ゆひ、ゆきかちゃんも、かえでさ……みてる! から!!」
くすぐられながら、辛うじて見えた視界の端にぽかーんと眺めている二人の姿が映る。しかしどうしたことだろうか、何かしら納得したのか雪果ちゃんは止まっていた家事の手を再開し、楓さんは楽し気にじゃれ合う子供たちでも見るような優しい眼差しで此方を見て────────あ、これさては助ける気ないですね!?
希望を断ち切られ、しかし諦めない俺に光が見えた。
(はやてちゃん─────そうか、この不器用幼女のくすぐりスキルはこの子との戯れ合いで培われたもの──────!!!)
そう、つまり彼女は俺と同じ被害者!
同じ
「は、はゃてしゃ……」
「?」
「はやてさ、たすけ……!!」
「うん……」
俺の必死の懇願が通じたのか、俺と同じ幼い手をこちらに差し出し、初々しくもそれは実行された。
こちょこちょ。
こちょこちょこちょ。
「?!???」
「おー、はやて。じょうずじょうず」
じょ、じょうずっ! じゃねぇ!!? ばか!!!
「っ、きゃはははは!!! ふざ!!? ひー、あっ、ひゃ、あああ!!?」
ぶちっ。
「~~~ッいいかげんに、しろ───!!!」
「きゃー! ましろが怒ったー! にっげろー!」
「わー」
ドタドタと始まる家の中の逃亡劇。
戦果としては、くすぐり犯二号は捕まえられたが(くすぐり返したら楽しそうにしていた)、くすぐり犯一号には逃げきられてしまった。くそう。
………と思っていたら、後で自分からくすぐられに来た。なんなんだ、ほんとに。
☆
ネネちゃんの退魔師修行が始まるということで、何か変化があるかというと、大したものはなかった。
いや、本格的に始めるのは冬休みに入ってからだが、まずは素質を測ったりしたらしい。
庭で3人が何かしらしているのを(「二人にはまだ危ないから」という理由で)はやてちゃんと一緒に家の中から遠目で見ていると、僅か20分程度で戻ってきた。
というのも、話を聞くと何やらネネちゃんが退魔師としての基礎的な部分を一年ほど前に、無自覚のうちに自力で行なっていたらしい。
なんでもこんなこと前例を聞いたことがないらしく、退魔師としての知識がある雪果ちゃんたちも気づいてなかったのだそうだ。………いや、指導していた楓さんによると、片鱗自体はあったようなのだが、此処までハイレベルに出来るとは思っていなかったらしい。修行内容を大幅に変更することになり、頭を抱えていたそうな。
ちなみに、肝心のネネちゃんはものすごく楽しそうにしていた。
なんでも、いままで無自覚にやっていたことが意識すれば好きなタイミングで出来ることに気が付いたらしい。
元々身体能力が高いことも手伝って、軽くバスケットゴールくらいぴょんぴょん飛び跳ねていた。
…………なんというか、一緒に暮らしてた小学生低学年の子があんなことをしていると、まるで創作の異世界にでも来た気分になる。いや、実際異世界ではあるんだけどさ?
「ましろー! 抱っこしてあげるからいっしょにとぼー!」
「しんじゃうのでかんべんしてください」
「えー?」
しばらく、家に引きこもっていた方がいいかもしれない……