輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
……はい。遅くなりました。
(区切った分だけ投稿すればいいのに、なんで何回も書き直すかなぁ……)
Q.貴方が今いる場所は何処ですか?
A.異世界です。
「…………」
思わず頭を抱える。というか頭痛がする。
……それを認めるわけじゃないが、てっきり元の世界で別人に転生していただけだと思ったらこれだ。なんだよ異世界って。サブカルハッピーセットかよ。
…いや、観た感じは「ネットとかでよく目にする異世界」ってよりは、現実世界にかなり近い世界みたいだが…俺からしたら「異なる世界」である事に一切変わりはない。
元の世界であれば、元の自分がどうなったのかを確認して、それから自分がどうするべきかを決める事ができたのだが……心の逃げ道が無くなった。
クラクラする頭を、吐き気を抑えながら…それでも、考える事は止めない。というか、今は何か考えてないと精神が死ぬ。
しばらくベッドの上で必死に悩んで、自分がどうするべきかを考える。
…そうだ、前向きに。とりあえずポジティブに考えてみるんだ。
元の世界への希望が絶たれたということは、逆を言えば「元の自分の生活に戻れない」のだから、この世界での生き方を見つけていくしかない、という未練への決別をつけることができる。
……もっとも、それがわかっていたとして、いきなり割り切ることなんてできやしない。
だって、どうやって生きていけばいいんだよ。
俺は、「元の世界の生き方しか知らない」んだぞ……
目の前が真っ暗なのに、どうやって道を進めばいいのか。予め、目の前が暗くなる前に進む道を確認しておけば、予めその道の進み方を知っておけば、暗くなっても進めなくはないだろう。
だが、それが初めて進む道であれば?
その道の進み方を、歩き方を一切何も知らずに暗闇の中に放り投げられたら?
人は、その道を「歩ける」だろうか。
道を「歩ける」と断言するには、その前提として「歩ける」という事を知っておかねばならない。
……端的に言って、今の俺は「歩けない」。
前世で漁っていたネット小説…二次創作や一次創作には今の俺と大体同じような現象が起こっていたりするが、アレらはその大半が「予めその異世界で自分が歩ける事を知っている」事が前提として進行している。
具体的に言うと、物語の主人公が「この世界…思い出した。前世で見た作品だ!」とか、「何かの衝撃で、前世の記憶を思い出したぜ! でも、この世界で生きてた記憶もあるぜ!」とか言っているパターンの奴だ。
……うん、一気に俗っぽくなったな!
……俺がもし仮に、このパターンに当て嵌まるのであれば「物語の舞台の歩き方」も解るし、「何故、自分が物語の舞台を歩けると言えるのか」も説明できる。
だが、俺には「舞台の歩き方」なんてわからないし、「説明」もできない。
…何故なら、俺はこの世界の歩き方を「知らない」から。
「物語の知識」? 有ったら多分、こんな事考えてない。
「この世界で生きてた記憶」? 有ったらもっと希望が持ててる。
「………はぁ」
──だから、とりあえず。この世界のことをもっと知らなきゃいけない。
「この世界は」歩けないのに、歩かなければいけないから。
……ほんとうは、嫌だ。なんで俺が……身体も名前も替えられた状態で生きなければいけないんだ。
それだけでも、その事実だけ抜き取っても吐き気が止まらないってのに、元の世界で生物に在って当然の「居場所を得る権利」すら剥奪された。つまり、「元の俺」には生きる意味が本当に何もない。……そんなの、「お前は死んだ」と宣言されるも同義だ。
元の世界で、自分が望んでいた居場所を得ることなんて疾うに諦めていたが、それでも『自分の家に自分が住んでいる』という現状でなんとか生きるのをやめないでいたのに、その総てを奪われた上で生きる? ……冗談じゃない。
だから。……本当に、気持ちが悪い。
………この世界で、生ける屍みたいに生きなきゃならなきゃいけない『今の俺』が。
受け入れたくないのに、「受け入れるしかない」この現実が。
………だって、そうだろう? この現状は、この現実は『自殺という選択肢』すら無意味であるのだから。
それが自分で解ってしまったのであれば、判らざるを得ない現状であるのであれば、否が応でも生きるしかない。
ああ──ほんとうに、反吐が出る。
──何処までも暗い表情で、蛮勇を強要される現状に立たされながら、俺はこの光あふれる、光のない暗い世界で、歩く道を探し始めた────
……この、子供の……しかも、性別に違和感しか感じない身体で。
☆
あれから数日後。
自分がなぜか幼女で、しかもよりにもよって元の世界とは異なる世界に流れ着いていたことにショックを受けた後。
しばらくは落ち込んだものの、このまま病室で一切何もしないでいるのも落ち着かないので、とりあえず今まで通りテレビのニュース番組などで少しずつ、この世界の情報が流れてくるのをベッドの上で眺めているのだが、それも段々と耳に入らなくなってくる。
正直言って、どうすればいいかわからない。
このままこの非現実的な現実を受け入れるのは、嫌だ。 ……だけど、生涯を賭して元の世界に戻るなんて熱量も多分、今の俺には無い。
……どうしようか。
数日経って、ある程度前向きに考えれるようになった頭で現状のことを考える。
第一、戻れる手段があったとして。 亀の背中に乗った青年が海の中の世界に行ってしまう御伽噺の様に、この世界から無事に帰れた所で、元いた世界が『そのままの状態』とは限らないし、最悪何百年も過ぎている可能性もある。
……というか、この身体で仮に戻っても、元の世界では戸籍が恐らく存在しないので、どっちかといえばこのままこの世界で生きていく方針の方がまだ現実的な気がするのが酷い。
非現実的な世界で生きて行く方が、現実的ってなんなんですかね???
それに、この世界で生きて行くにしても恐らく『問題』は確実にある。 というか、こんな身体で問題が無いはずがない。
意図せず気落ちするしかない現状に打ちのめされていると、病室の扉がノックされる。
どうぞ、と声を返すと入って来たのは先日情報収集中の最中に、顔を見たばかりの担当医だった。
「マシロちゃん、少し━━先生のお話しを一緒に聞いてもらってもいいかな?」
病室を出て先生について行くと、診察室につく。話をする前に一応簡単な診察だけするらしい。
診察が終わって病衣をととのえると、話が始まる。
「記憶喪失?」
「うん。まぁ、そうだね。要するに記憶が思い出せなくなってしまった状態のことだよ」
「…あの、でも俺、言葉とか話せますけど、これって記憶喪失に入るんですか?」
「…俺?」と首を傾げられる。 あ、しまった。 一人称変えた方がいいのか。
「じゃあ、君はご両親のことは思い出せたかい?」
「それは……」
どうやらこの数日間、病室に訪れた看護師さんに少しずつこの世界のことを質問していた時に、看護師さんから聞かれたことが伝わっていたらしい。
「……思いだせないですけど、でも」
「はは、別に君を攻めているわけじゃないさ。
……ただ、これから普通に暮らして行くときに、誰かにお母さんとお父さんのことを聞かれたりするかもしれない。 その時にそう答えるのも、選択肢の一つということを教えておきたかったんだ」
っていうか、記憶喪失ってほんとに記憶喪失って診断されるのか。
いやまあ、知らない専門用語的な病名とか出されても全然わかんないんだろうけどさ。
その後も、『記憶喪失』とはどういった病状なのか、もう少し幼児向けに大分噛み砕いた内容で話されていく。
「……心配しなくても、君のような子は実は結構いてね。 君と似たようなケースで記憶を思い出せなくなってしまうことはそれなりにあるんだ」
……似たようなケース?
目の前の医師の言葉に首をかしげていると、話が難しかったと思われたのか微笑ましそうな顔で見られる。 ……激しく抗議したいが、なんだか背伸びしているみたいに観られそうでやめた。
そのまま仕方なく、診察してくれた先生が口に出す話を、ちょこんと椅子に乗せられた状態で聞いていると先生は言葉を唐突に止めた。
少し間をおいて、何処か覚悟を決めたような顔つきで真剣にこちらに向き合う。
「君の、ご両親について何だが」
あぁ、そういえばこの入院期間中、一度も見たことが無かったなぁ。 まあ、この病院の中どころか本当に一度も見たことが無いんだが。
そんなことを考えていたのだが、何か言いにくい事なのか、かなり言葉に詰まっている。
そうして待つこと数十秒、ようやくその言葉は出てきた。
「……実は、その……君のお母さんと、お父さんはね、もう……いないんだ」
「……え?」
……耳から入ってくるよくわからない情報を聞いていくと、どうやらこの身体の母親と父親は、家族三人の旅行中にこの世界に現れる怪物──鬼に殺されていて、その時に奇跡的に助かった俺だけが入院していたらしい。
つまり、だ。
どうやら入院中に心配していた見も知らぬこの身体のご両親は今現在、この世界に居ないらしい。
一応、診断上は記憶喪失ということになっているらしい状況でいきなり生えてきた母親と父親に対する対応とかどうしたらいいのか、めちゃくちゃ考えてたのに……なんだか、複雑な気持ちだ。
……でも、『複雑な気持ち』だけで済んでしまうのが……なんだか少しだけ、嫌だった。
そのあと、診察室を出て、病室に戻る。 ……もうすぐ退院らしいから、その辺のことも考えないといけない。
ところで。
俺は退院後に会うつもりだった見知らぬ両親とは会えなかったわけだが。
……食料とか、住む場所とかどうしよう。
☆
数日後の現在。
……結論から言ってしまえば、目先の問題である衣食住はなんとかなった。
どうやったかというと、拍子抜けする話だが、あの病院で出会ったこの身体の祖父が色々と根回ししてくれていたのだ。
……いやまあ、考えてみれば確かに退院する際に諸々の手続きをしてもらっていたようだし、何より『普通に』考えれば親の居なくなった孫をそのままほっぽり出したりしないだろう。
もしかすると、己の現状に少し警戒……というよりも悲観しすぎていたのかもしれない。
病院を出発する直前、有り合わせの服を祖父が持ってきてくれたので、もはや普段着と化していた病衣を脱いで、だぼっとした……夏服を着る。……色はピンクと白だが、短パンと合わせるとギリギリ着れなくもないラインのデザインなのでよしとしよう。
病院から初めて外に出た後、直ぐにタクシーでまだ見ぬこの身体の住居へ。
……移動する間、怪物が襲ってこないかと怖が……身構えていたが、どうもそんなにポンポン道端で出現するものでもないらしい。 いやまあ、入院中にしていた情報収集で、ある程度予測はしてはいたのだが、自分が一切知らない海外に突然拉致されてそこらへんに捨てられたようなものなのだ。 実際に自分の目で確認していかないと、異世界での常識なんてまるで分からない。
色々と考えながら、窓の外の流れていく世界をなんとなく眺める。……ほとんどギリギリにしか視認できていないが、ギリギリでも少しは見えるのでよしとする。
そうして、意外と現代の日本とそう変わらない(と思う)街並みを断片的に読み取っていると、いつの間にか車両は止まっていた。 ぼうっとしているうちに自分では外せないとでも思われたのか、流れるようにシートベルトを外されてしまった。
微妙な気持ちになりながらも、運転手さんの手を借りて、段差の大きすぎるタクシーをゆっくり降りると、白と黒の簡素な、所謂シンプルモダンな一軒家がいつの間にか聳え立っていた。
それを眺めていると、隣で同伴していた祖父がおもむろに手を握り、俺の掌に硬い何かを載せてきた。
「ええと……?」
俺に手渡せたことを確認してうなずくと、そのままタクシーにどこまでも自然な動作で乗り込み、先ほどまで自分が乗せられてきた車両が引き留めるまでもなく去っていく光景をぽかーんと眺めてしまっていると、ようやくフリーズから解放された頭で、なんとなく掌に目を向ける。
───どう見ても鍵だった。
後ろを見てみる。
───どう見ても家だった。
見知らぬ住宅の前でぽつんと立つのはどこからどう見てもせいぜいが幼稚園の年長さんていどの幼児ボディの持ち主がひとり。
「ええと……?」
……うん?
……あれ、もしかしてこれ、俺一人で何とかしないといけないやつ?
とりあえず、もう少し出せたら挿絵とか挟みたい…