輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
それはそれとして、今回はちょっと短いです。
本当は倍くらいあったんですが、時系列の見直しのため、泣く泣く後半丸ごと削ってたりします(とりまる先生ーーー! この先辺り難しすぎです。たすけてーーーーー!!!)
それからの雪果の生活は変わっていった。
1か月、毎日あの日見つけた『特別』を探し回り、気のいい旦那さんの仲介もあって(楓が折れる形で)弟子入りを許してもらい、その代わりに旦那さんの手伝いをすることになった。
端的に言えば、今のマシロのように家事を手伝う代わりに面倒を見てもらっていたらしい。
楓さんが家にいない間にネネちゃんの相手を一緒にしたりとか、裕福な実家ではしたことがなかった洗濯や料理を旦那さんから教えてもらっていったそうだ。
「ましろちゃんと一緒に料理をしていると、あの頃の自分が健さん……お師匠様の旦那様もこういう風に見ていたのかと思ったりするんです」
「じゃあ、そういうところも雪果ちゃんといっしょだったんだ、私」
「そうですね………そうかもしれません」
ふふ、といつもの様に柔らかく笑うのを見ると、大分調子は戻ってきたようだ。
夕飯の鍋物の支度を一緒にしながら昔話を聞いていると、昔の雪果ちゃんと今の俺の状況が割と似たようなことになっていたことに今更ながらに気づいた。
「でも、それからしばらくして────」
一年が過ぎて、楓のお腹がすっかり大きくなった頃のことだった。
彼女の夫は買い物帰りに鬼による災害に遭い、瓦礫の下敷きになってしまったという。
同じくかつて鬼に襲われたことのある雪果と違ったのは、彼の近くに退魔師であった彼女が居なかったことだ。
妊婦だった。近くには居なかった。そもそも彼が助けを呼ぶ時間すらなかった。
それでも、そんな現実的な理屈ではどうしようもないくらいに楓の心は荒れて、しかしどうしようもなく夫の分も家族を守ろうと一層強く在るようになった師を、雪果もまた今まで以上に支えていった。
はやてちゃんが生まれ、数年経ち、生活が安定した頃に漸く本格的に指南をしてもらえるようになった。
小学校を卒業し、楓が産後の調子を完全に取り戻したこと、更に雪果自身の身体も出来上がってきたことから、修行も体術を交えて厳しいものへと変わっていった。
故に、自分が『特別』になれないことに気づくのも、そう遅くはなかった。
中学生の同期だった幾人かは才能や退魔師の血筋であるが故の美形を活かして壁を飛び越えていった。
残ったのは『特別』になれないまま、雑用を任される仲間たちとの傷の舐め合い。
端的に言えば、一般人の家系の出である西山雪果には『命気を扱う』という項目に関するセンスや才能が余りにもなさ過ぎた。ネネが軽々と飛び越えていった初歩の初歩も数年かかって漸くという体たらく。
あの人に教えてもらっているのに、こうなのか?
なぜ自分は結果を出せない?
餓鬼を一対一なら倒せるようになった? そんなのは『退魔師』なら誰にでもできる最低限のことじゃないか。
自らへの罵倒。
他人からの評価よりも激しく、西山雪果は自身の才能の無さを呪い、努力だけを続けていった。
誇れるのは体術だけだ。
これだけは他の青紙組どころか、命気を抜きで戦うならそこいらの退魔師にだって負けるつもりはない。
命気が他よりも弱い、操るためのセンスがない、【強化】だって未だに半人前以下だ。
それでも、あの人から教わった体術だけは!! 絶対に誰にも負けはしない!!!
そう、思っていた。
そう思い込もうと、していた。
楓の娘───────ネネが冬休みに入り、生来の適性の高さから成し遂げた『牙咬の悲願の達成』。
更にその後、慣らし運転を十分に詰んだ後の簡易的な試合。
退魔師を目指した意地。
それまで培った体術の全てが。
ただの『絶対的な才能の差』だけで敗北した。