輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
猫が喋った。
……うーん、夢?
あっ、でもこの子ってたぶん、霊獣? なんだよね。
霊獣って喋るってママが言ってたし、なら現実……なのかな? でも、あたし寝ちゃったし……どっちなんだろ。
ネネはいつの間にかいた三畳間の和室に、金色猫がちゃぶ台に立っているという摩訶不思議な状況に巻き込まれていた。
というか、今頭の中で声が響いてた??? ネネは驚きの連続で、目を回しそうだった。
『一つ言っておくけど』
「?」
『おいらは一応、虎だよ』
「え、そうなんだ」
『猫でもあるけどね』
「そうなんだ???」
虎でもあり、猫でもあるらしい。
母からは縁結びで出逢うのは『不思議なモノ』だと聞いてはいたが、本当だったようだ。
リボンを付けたしっぽをゆらゆらと揺らしながら、金色猫はネネを楽しげに見ている。
「それで、えっと」
『うん』
「………どうすればいいの?」
『まず、周りを見てごらん』
「周り?」
金色猫はちゃぶ台の上で、ぐるりと和室を見回す。
ネネもつられて、周りを見回した。
そこには様々な動物が描かれていた。
白いネズミ、青い牛、桃色の兎、赤と青の馬、黒いイノシシなど。
(あれ………?)
牛と兎の間もそうだが、ネネの向けた視線の先には何かが抜けているような間があった。
こてん、と首を傾げ、もう少し近づこうとしたとき。
『ここはおいらたちの神座。そしてそこに居たのは十二の中心』
「かむくら………?」
『すこし事情があってね、今は眠っているんだ』
「そうなんだ………?」
どこか寂し気な目を向ける金色猫は、頭の上に疑問符を浮かべている少女に切り替えるように問いかける。
『それで、おいらと縁を結ぶのかい?』
縁を結ぶ。
その言葉で、ネネは自身がなぜ此処に来たのかを思い出した。
「あっ、そうだった! あたし、獣降ろしをするんだった」
獣降ろし、そのための縁結び。
そしてついでに母にこの数日間注意されたことも思い出す。
たしか………そうだ、蛇さんは駄目で、それ以外の相性のいい獣なら大丈夫なんだっけ。
牙咬式の獣降ろしで出逢うのは最初からネネの器に見合った獣のみ。
事前にいくつかの候補を聞いていた少女は、とりあえず目の前の獣の正体を訊いてみることにした。
「えっと、それであなたは誰なの?」
『ふむ? ああ、そうだね。まずはそこからだった』
緩んでいた空気が締る。
『───────我が名は、
為すべきを成す力を与えるものにして、
「しんだら………」
そういえば、ママが言ってた獣の中にそんなのがあったっけ? じゃあ、この子とこのまま縁を結べばいいのかな………?
『他でもない君なら、おいらの力を扱える。あとは君がどうするかだ』
「なら、力をかしてほしい……あたしも、ママみたいに───────ママといっしょに戦えるようになりたいっ!」
『わかった、これで君とおいらの縁は結ばれた。あとはこれを開くだけだね』
金色猫はそう言うと、自身の尻尾に括りつけてあった白いリボンをネネに渡す。
『はいこれ、おいらの門』
「あっ、ありがとう。えっと、しんだら?」
光とともに、手のひらに吸い込まれていったリボン。
どうやらこれで縁結びは完了したらしい。
『どういたしまして。ここからが大変だろうけど、がんばってね』
「うん、わかった! がんばる!」
金色猫の激励に元気よく返事をするネネ。
兎にも角にも縁は結ばれた、あとは母のもとに戻り、自身の獣降ろしを確認するだけ。
そこで、ふと思い出したように金色猫は少女に忠告をした。
『ああ、それと。最後にひとつだけ言っておくけど───────』
☆
酷い目に遭った……。
楓さんとネネちゃんが修行のために泊まり込みになっている中、俺は同じく冬休みに入った雪果ちゃんに協力してもらいながら家事をこなしていた。
その後は料理本とかこの世界の辞書を読んだりしていたのだが、はやてちゃんの探検ごっこに付き合うことになり、発見した屋根裏にて埃まみれになる羽目に。
その後、はやてちゃんと一緒にとりあえずお風呂で身体を綺麗にしてからオセロだったりカードゲームをしたりしてたら一日が終わっていた感じだ。
残りの2日は屋根裏で見つけた古い本を自分の部屋に持ち帰ったらしいはやてちゃんと適当に過ごしながら、屋根裏を軽く掃除したり、二人だけの秘密基地だからママには内緒だからねと、返答に困る約束をしたり……なんてしていたらあっという間に4日目になり、留守にしていた二人が帰ってきた。
楓さんにお互いの三日間の過ごし方を軽く一部ぼかしながら話したり、三日振りに会ったからかいつもより楽しげなネネちゃんに締め殺されかけたりと、無事に日常が戻ってきたのを実感していた。
さて、二人の修行用の荷物を楓さんと一緒に片付けてひと段落が付き、今日は雪果ちゃんが用事なので一人で庭に干していた洗濯物を回収していたとき、それは襲来した。
「ましろー! みてー!!!」
どたどたどた。
外からでも聞こえるほど、階段を勢いよく駆け降りて現れたのはネネちゃん─────???
「……?」
「どう!? これ、すごい!?」
そこに居たのは、2階に上がる前と比べてかなりの変身をしていた少女の姿があった。
黒髪と黒目は─────輝くばかりの金の髪と、金の瞳に。
そして頭部にはピコピコと動く、これまた金色のネコミミが。
ふにょん、と柔らかく揺れる金色の尻尾もおまけに付いてきている──────???
………えっと、コスプレ?
「………ネネちゃんそれ、どうしたの?」
「はえた!」
「髪は?」
「きんいろになってた!」
「目も?」
「きんいろになってた!」
「ふむ………なるほど、わからん」
なんか、見ないうちに猫耳と尻尾が生えて、髪と瞳の色が変わったらしい。なんで???
「今日ハロウィンとかの仮装イベントじゃないよね?」
「ちがうよー?」
「じゃあ、なんで??」
「獣降ろしっていうのしたから?」
「けものおろしっていうのしたから???」
俺の居る庭の方へ、サンダルを履いて歩いてきた小学生児にひたすらに困惑する。
何?? この世界特有の有名な何かだったりする? いや、だとしても、もうちょっと説明が欲しいんだけど???
………いや、待てよ?
「そういえば、楓さんも退魔師さんのお仕事してるときとか、そんな感じになってたっけ」
「そう! ママといっしょなの!」
そうなのだ。
なんと、楓さんは退魔師のお仕事をしているときは髪と目が青く、更には白い犬耳と尻尾が生える、俗にいうところの『変身ヒロイン』という奴なのだ。まるでニチアサ寄りの異世界のような話で驚いたのは記憶に新しい。いや、異世界なのだけども。
とはいえ、流石に楓さんがそんな姿に変わるのは、その、流石に初見だとかなり衝撃だったが。
暫くすれば、まあ、そもそも鬼とかいう異形の怪物が居るようなファンタジー世界だ。そういうこともあるのだろう、という着地点に落ち着いていた。
「えっとね、シンダラは虎なんだって」
「とら………虎?」
文脈から察するに、"シンダラ" とやらは降ろした獣のことだろう。そして、連ねて告げられた単語に引っかかりを覚えて、ネネちゃんの頭の上を見る。そこにはぴこぴこと可愛らしく動くネコミミが。
確かにネコ科の耳っぽいが………虎って、確か耳が丸いんじゃなかったっけ?
尻尾にも特に虎っぽい縞々があるわけでもなく、金色一色の綺麗な毛並みだけ。
「ふむ………」
………まあ、問題があれば楓さんが気付くだろうし、何も言ってないのなら問題は無いのだろう。うん。
「それで、しっぽとネコミミが生えただけ?」
「ううん、めっちゃパワーアップしたよ!」
「めっちゃパワーアップしたかぁ」
まずいなあ、いよいよ死亡フラグが立ってきたかもしれないなあ。
「どんな感じに?」
「こんな感じに!」
ずどーん! と目の前で抉られる大きめの石。
振り抜かれた右ストレート、一部を抉られてマシンガンの如く飛散する破片の大群。
おおー。なるほど。………って。
「目の前でやるな、ばか!!!!」
「うえ!?」
「こっちに跳んできた破片で髪ちょっと切れてる! というか、当たり所悪かったらしぬ!!」
「またまたー。………あ、ほんとだ」
「ネネちゃん?」
「ごめんなさい」
まったく………
まあ、この子もパワーアップしたてであまり自身の火力を把握しきれてないっぽいので、しょうがないといえばしょうがないか。
「ところでこの大きい石って壊してもよかったの?」
「あっ」
「おい」
このあと、庭に響いた音の正体を確認しに来た楓さんにふたりいっしょに仲良くしこたま怒られた。解せぬ。
☆
「そういえばねー、シンダラがお別れするときに変なこと言ってた」
「変なこと?」
「うん、
銀色のお皿……? 何かの隠喩だろうか?
「……鬼ってお皿をとったりするの?」
「うーーん、わかんない」
「カエデさんはなんて言ってたの?」
「ママもわかんないって」
「カエデさんもわかんないのかぁ」
専門家であり、現場の人が分からないんじゃ完全にお手上げだろう。
そんな雑談を挟みつつ、話は冬休みをどう過ごすかに移る。
ハヤテちゃんを放置する訳にもいかないので、修行の拠点となるのは牙咬宅になるが、日中の修行場所は家以外にも行ったりするらしい。しかし、日中に帰宅できる範疇かつ、サポートをしてくれる雪果ちゃんの予定も兼ね合いで決めるとのことで、最初のお泊りは飽くまでも例外なのだそうだ。
「お出かけしてるあいだ、ごはんとかはどうするの?」
「そういえば、どうするんだろ?」
「お弁当ほしかったら言ってね、用意するから」
「ほんと!? やった、楽しみにしてるね」
「うん、楽しみにしてて」
回収した洗濯物を畳みつつ、そんな何気ない会話が流れていく。
冬休みはまだ始まったばかり、俺たちはゆったりと雪の降る季節を過ごしていた。