輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
それと、原作では明言されていなかったネネの戦斧の名前ですが、原作者さんに決めて頂きました(実は今まで設定していなかったとのこと)。
ネネちゃんたちの冬休みも終わり、暫く経った。
ちなみにネネちゃんの男口調は、見かねた楓さんによって比較的マシな範疇に矯正された。………特撮のヒーローごっこが行われるのは相変わらずだが。
そうして、雪の季節は終わり──────春の訪れが来た。
ハヤテちゃんも6歳の誕生日を迎え、逆に俺がまだ5歳であることに気づいたせいか、妹扱いが若干増してきたりといった対応に困る出来事に苛まれていたころの話だ。
唐突に雪果ちゃんが「もうすぐ2年生になるから」と言って、やんわりとだがネネちゃんたちに「苗字呼び」を求めるようになっていった。どうにも、獣降ろしの扱いにも慣れてきたらしいネネちゃんと簡単な試合を行って負けてしまったらしく、あまり表には出さないが………物理的に距離を取れない関係の中で、ほんの少しだけ、ネネちゃんたち『特別』と距離を取りたくなってしまったのかもしれない。
楓さんもネネちゃんも思うところがあったのか、それとも退魔師として師匠と姉弟子と妹弟子という関係になったからか、楓さんは以前と同じく「西山さん」と呼び続け、ネネちゃんもソレに倣うように「ユキカ」という呼び捨てをしなくなっていった。
はやてちゃんは………あんまりよくわかってなさそうだが、とりあえず二人がそう呼んでいるので合わせるように苗字呼びをするようになっていった。
俺は………いや、俺もそれに合わせるべきなのだろう。
呼び方だけだ、変えるのは簡単なのかもしれないし、変えたとしてもこの生活が変わるわけではないのかもしれない。
だけど………俺は………
「雪……西山さん」
呼び慣れない、他人のような呼び方に声が小さくなる。
「マシロちゃん、なんですか?」
どこか遠い、近いはずなのに手を伸ばせない。
「えっと、その………二人の時は、その………雪果ちゃんって呼んじゃ、だめ、かな………?」
気づけば声が出ていた。
変わる日常の変化を防ぎたかった───────それ以上に、どこか一人ぼっちになってしまうような彼女を前に、どうしようもなく一人じゃないって叫びたかった。
「………マシロちゃん、ごめんなさい」
「ッ………」
それでも届かなかった。拒絶された。
『特別に届かない』と打ちのめされた今のこの子の心は、あまりにもネネちゃんと楓さんに向きすぎていた。
此処で俺という例外を作れば、再びネネちゃんたちと近づきすぎて距離を取れなくなってしまいそうになるから。
「………雪果ちゃん」
いつか、時間が解決してくれるのだろうか?
洗濯物を干しに庭の外へ出ていく雪果ちゃんの背中を、俺はただ見つめるしかなかった。
☆
それから更に暫くして、春休みを挟みつつ5月の終わりになった。
ネネちゃんは9歳になり、2回目の長期休暇で退魔師の修行も基礎的な部分はすべて終わったらしく、いよいよ退魔師の試験に挑むそうだ。
雪果ちゃんは………どんどん妹弟子に後から追い越されていく現実に、悩んでいるようだった。
楓さんによると、来月の中旬に試験があるそうだが、ほぼ確実に受かるらしい。そうなれば史上最年少で退魔師試験に合格したことになるらしいが、それを聞いた雪果ちゃんは何処か更なる焦りが生まれているようだった。
俺としても出来る限り生活面でのフォローは入れているつもりではあるが………こればかりはどうしようもないだろう。
どうにか………雪果ちゃんも獣降ろしが出来るようになればいいのだが、その方法や、なぜ雪果ちゃんがまだ出来るようにならないのかを楓さんと雪果ちゃん本人から教えてもらっていないので、これも俺にはどうにもならない話だった。
そんな喜ばしい出来事と悩ましい出来事に挟まれながら幾日。
俺も無事に6歳になり、ハヤテちゃんが若干残念そうな顔をしつつ、”別にお姉ちゃんなのは変わらないか” と考えを改めたのか、妹扱い強化期間が若干続行されつつも、ネネちゃんがついに退魔師の試験に受かったと、お祝いをすることになった。
☆
2017年 7月8日
悪鬼が一体と餓鬼が数十匹。
退魔本局としてはタイミングが悪かった、餓鬼だけならば兎も角、悪鬼を任せられる都内の退魔師は限られる。牙咬楓といった上位陣は先月の末に東都の外で見つかった大型の『巣』に遠征しており、男退魔師たちも一部が入り口の処理に宛てられている。
こういうパターンを想定して戦力は残しておくものだが、生憎と出現場所も悪かった。
地区担当の実力者が亡くなって引継ぎを行っている最中だったらしく、他の地区の実力者が到着するにはもう少しかかる。
誰もが牙咬楓の様に街から街を素早く自力で移動できるわけではないのだ。………最近代替わりを行い、今現在牙咬楓と同行している新しい暴雷姫は出来るようになってきたらしいが。
”悪鬼を単独でも倒せる” のは飽くまでも上澄み中の上澄みだけ。
実際には、中堅の中にも対応できる者は居るにはいるが……… ”悪鬼を倒せはするが使うのに条件の厳しい切り札を使う” 必要があったり、"移動に難ありのチーム前提の装備" を持ち出す必要があったり。………海外には都市を丸ごと守護するガラスの靴なんていう超兵器があったりするらしいが、日本ではちょっとしたパワードスーツを見かける位なものだ。
その他は男退魔師が集団で対処するパターンも多いが、今回は到着がかなり遅れていた。
餓鬼程度なら倒せるし、防衛隊を守るくらいはできる。だが、悪鬼相手に守りながら戦うには戦力が少しばかり足りない。
そもそもの話、『悪鬼は
更に言えば、出現しやすい餓鬼よりも最初から身体が大きく力も強い悪鬼は、単純に出現するまでに時間がかかるのだ。
その結果、悪鬼の『街での出現は』珍しい。
だが無くはないのだ。
日本の台風や地震のようなもの、と言えば感覚が分かり易いだろうか。
故に────────避難中の人々が一番驚いたのは、見慣れない『金色の猫耳少女』が街をものすごいスピードで駆け抜けていく姿を見かけたときだった。
『ネネちゃん、いける?』
「もっちろん! まかせて!」
紅白の退魔装束に身を包み、猫耳を生やした少女は、見習いとして修行期間中に配給されたPDAから聞こえてきた "チーム牙咬" と何度か交流のある女性オペレーターの声に自信満々に答える。『外に出現した悪鬼』を相手にするのは初めてだが、『外に出る前の悪鬼』や半透明の悪鬼自体は既に何度か倒している。今さら怯える相手ではない。
それだけではない、先に到着した男退魔師の人が既に悪鬼の脚を拘束しているとのことだ。
長くは持たないらしいが、解かれたら再拘束をしながら他の男退魔師と協力しながら戦っているとのこと。
だが、単純に火力が足りない。
妖鬼程度とは耐久性が違いすぎるし、今回の個体はかなり大きいらしい。
走りながらちらり、と眼下に見えた破壊された街並みに帯のようなもので移動できなくなった悪鬼が見えた。
おかげで、悪鬼自体は倒せてはいないが一般人の避難は防衛隊の人たちが動くことで無事に完了したらしい。
よし、これで余計なことをいちいち考えずに武器を振るえる………!
白と金を輝やかせる専用武器───────
「響け、
ネネが掌から生み出した
悪鬼の頭上へと、天から降ってきた金色猫の少女が戦斧をそのまま叩きつけた。
金の刃が悪鬼の腕に食い込む。
頭部を狙ったが、間に腕を入れられた───────関係ない、このまま叩き斬るだけだ!!
「おらァ!!!」
一閃。
まだ出現したばかりで
「よっしゃーー! 勝った!」
瞬殺。
ネネの心に刻まれたりりるんの決めポーズ、Vサインを空に掲げて
──────
牙咬一族の後継者にして、期待の超新星として名も売れ出していた。