輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
これは、それからの話だ。
オレとマシロは屋根裏部屋で起きたことはとりあえず当面は秘密にすることにした。前世を追体験した上での母と姉とのあれこれに不安があることをマシロは察してくれていた。……オレがいつか、母と姉に自分から打ち明けられる日が来るまで付き合ってくれるとまで言ってくれた。
正直、最初にバレたのがこの子で助かった。
それと、多分だが……オレが前世で男だったことを察しているのではないかと恐る恐る聞いてみると。
「あー、うん。そうだよね。そういうことも……あるんじゃないかな?」
と、少し困ったような、けどそこまで大きな問題ではないような受け入れ方をしていた。
まるで前例があるかのようだ、いや、そういえばこの前テレビで前世の記憶を持っている少年が〜とかいうバラエティー番組をいっしょに見ていたっけか。恐らく、それを思い出していたのだろう。
「でも、大丈夫。─────はやてちゃんは、はやてちゃんのままだよ」
オレの不安を見抜いたのか、此方を安心させるように、微笑んでくれた。
何を根拠にか、いや、この子と一年の過ごした時間が、オレを受け入れてくれていた。
「……そう、だよね?」
「───────。……うん。だから、これからも、よろしく」
でも、やっぱりすこしだけ不安そうなマシロを、ぎゅっと抱きしめて、大丈夫だって全身で伝えたんだ。
☆
あれから4ヶ月経った。
相変わらずネネちゃんは退魔師として活躍しているらしい。
それと、ハヤテちゃんは一人称を「わたし」に変えれるように頑張っている。たまにボロが出そうになるけど、楓さんたちにも以前が割と不思議……いや、すこし変わった子だと認識されていたからか、そのまま日常を過ごせている。
それと、俺が普段購読している退魔師専門雑誌『HERO'S』の取材がなんとネネちゃんに来たのだ。
聞けば、最年少退魔師であり、偶に出現する悪鬼を楓さんのサポートがあるとはいえ、かなりの速さで倒しているのも注目を浴びているのが理由らしい。それに、妖鬼もかなりの数を倒して広く認知されてきているというのもあるのだろう。
平日の日中は小学校があるのでそこまでハイペースではないし、余程のことが無ければまだまだ楓さんとチームで活動するのが前提なので、ネネちゃんへの取材の依頼などがあっても保護者の楓さんがあまり受けないようにしているのだ。土日で退魔師として活動したりすることもそこそこあるし、日常生活もあるので、HERO'Sとしては今注目の退魔師に漸く取材が出来る、といった感じだろう。
取材の日は明日の土曜日。
その後はネネちゃんといっしょに映画に行く約束をしている。ぷらキュアシリーズのオールスターズ映画を見に行くのだ。
俺は取材へは一緒には行けないので、取材が終わるまで待ってから合流する感じだ。
本局に関係無く退魔師の情報を扱う取材の方法に少し興味があったものの、流石に同行は出来なかった。まあ、それは仕方がない。大人しく待つとしよう。
取材場所は都内の出版社ビルで、オレたちでも行ける距離。
というわけで、ネネちゃんの取材が終わるまで近くにあるカフェで時間を潰しつつ、ネネちゃんからの連絡を待つ。
白と黒が混ざったミニサイズの甘めのコーヒーゼリーパフェを食べていると、取材が終わったとメッセージが来た。
「よし、じゃあ行くか」
取材が終わったあと、HERO'Sの出版社のビルから出てくる楓さんとネネちゃんを迎えに行って────────ふと、ビルの中に居た人に窓越しに目を向けられていることに気付いた。
「ッ、ぁ」
一瞬、目が合った瞬間に頭痛がした。
そこそこ離れた場所に居る、グレーのスーツの、黒髪の美人。
恐らく、HERO'Sの社員なのだろう。
頭を、すこし抑える。
……なんだ、これ。
「ましろー、いくよー?」
「ぁ……う、うん」
ネネちゃんの声になんとか返事を返す。
顔を逸らしたのは一瞬だった。
再び、先ほど女性が居た場所に目を向けると……いつの間にか居なくなっていた。
「あれ………?」
「どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない」
首を傾げつつも、単に見失っただけだと得心し、ネネちゃんと手を繋ぐ。取材中に聞かれたことを楽しそうに話してくれるので、相槌をしながら、一度楓さんと別れて二人で映画館へと向かった。
そのまま俺たちは何事もなく帰宅したが、それ以降に頭痛は起きなかった。
☆
「あれが
コツコツ、と靴音がHERO'Sの廊下を歩く。
すれ違う社員たちは、女の独り言が聞こえていないかのように何も気にせずに通り去っていく。
「ここで手に入れた情報だと、退魔師になった娘が居るとあったけど、二匹居たのね」
グレーのスーツを着た女は自身の赤いスマートフォンの画面に映された、『帰路につくカエデと似た容姿をしている、仲良く手を繋ぐ二人の少女の後ろ姿』の写真を見てくすり、と笑った。