輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
「もう少し待って。あと、ネネちゃん、私もいっしょに行くからだっこして」
「うん……うん!?!?!?」
俺のだっこ発言に、ネネちゃんは意表を突かれたような驚き方をしている。
「おんぶの方が運びやすい? ならそうしよっか」
「う、うん、どっちかというとその方がたすかる………って、ちがーう!」
「とりあえず、出発するのは退魔師さんが到着してからね」
「わかったけど!! そうじゃなくて!!」
ネネちゃんと会話をしながら退魔本局が送ってくれるという退魔師さんを待つ。
「マシロ、ちょ、ちょっと! なんで」
「そう! マシロはここにいて!」
二人して慌てたように俺を止める。うん、明らかにハヤテちゃんより非戦闘員だもんね。
まあ、それは今は重要じゃない。楓さんを見つけるための情報……いや、確信がほしい。
「───────ううん。今回は私が一緒に行く」
「マシロ……どうして」
「ハヤテちゃん、すこし耳元かして」
少し考えてから、『俺たちの他には、誰もいないはずの家の中で』周りに聞こえないように、ハヤテちゃんに小声で話す。
「……昔、ハヤテちゃんが迷子になったりしたとき、ネネちゃんが妙に勘が鋭くなること知ってるでしょ? たぶん、身内の危険とかには勘が鋭くなるんじゃないかな」
「!」
「つまり、他のこれから楓さんを捜索してくれる退魔師さんたちで分からないことも、ネネちゃんを『楓さん発見レーダー』として使えば何か分かるかもしれない。
けど、ネネちゃんだけだと判断がつきにくそうだから、今回だけ楓さんの代わりに指示役として私が着いて行く。ハヤテちゃんはとりあえずここで待機して、何かあれば退魔本局か、もしくは私かネネちゃんのスマホにかけて」
ネネちゃんは今、楓さんが居なくなってかなり動揺している。一人で行かせたら、間違いなく闇雲に探すだけになってしまう。
それに……敵は多分だけど、本局が動くのを嫌がっている。
恐らく、ハヤテちゃんの本局への連絡を妨害したのも本局が動くことで何かを出来なくなることを遅らせるためだ。
だから、あくまでも楓さんの捜索の主軸は本局側。
俺がネネちゃんにしてもらいたいのは『確認』だ。
それに、楓さんがネネちゃんの勘で見つかるなら見つかるでもいい。
ただ、そのパターンでも
相手は楓さんが余裕を削られるようなやつ。
それがどういう方法にせよ、場所を見つけてもらったら熟練の退魔師さん達に集団で対応してもらう。
加えて、直ぐにでも出発したいが、ハヤテちゃんを守れる戦力が現状ネネちゃんしかいない以上、タイミングとしては退魔本局が送ってくれるという退魔師さんが到着するのが『見えてから』だろう。
ここまで説明すると、不安がりながらもなんとかハヤテちゃんは納得してくれた。
必要な準備をしたあと、ハヤテちゃんとネネちゃんに頼んで、外門の手前から出ずに待機してもらう。
その間に、ハヤテちゃんと同じようにネネちゃんに小声でここから先、してもらいたいことを説明しておく。
「スマホとPDAよし」
出発前の確認もOK。
ハヤテちゃんにも小さい鞄に入れて念のために持たせたし、ネネちゃんも急いで退魔装束に着替えてもらった。
戦闘目的ではない。万が一の時には俺を放り出して全速力で逃げてもらうためだ。
無論、ストレートに納得はしないだろうからその時は方便を使えばいい。
そうして待っていると、ようやく退魔師さんが外門まで来てくれた。
外門から出るのはハヤテちゃんだけ。とりあえず、獣を降ろしたネネちゃんにおんぶしてもらい、しっかりと背負ってもらう。
「護衛の退魔師です、待たせてごめんね」
「いえ、それではハヤテちゃんをお願いします」
「ええ。………?」
「じゃ、ネネちゃん。
「よっっしゃーーー! 待ってました!」
「!?!?!??? ちょっ」
驚く退魔師さんを横目に出発。
説明はハヤテちゃんに任せてあるから問題ない。
さあ、楓さんを探しに行こう。
☆
最初からおんぶしてもらうのはネネちゃんに慣れてもらうためだ。
ネネちゃんが退魔師になってからの数年───────前に何回かしてもらったことはあるが、かなりひどいものだった。
ただ、初めてではない分、以前よりはかなり上手になっている。というよりも、退魔師としての活動で、【獣降ろし】ありきの身体の動かし方もかなり慣れたのが大きいのだろう。
「まずは楓さんが最後にいた本局に向かって。そこから周辺を探す感じで行こう」
「わかった!」
牙咬宅から普段、ネネちゃんと楓さんが急ぎの時などに本局に向かうルートを進んでいってもらう。
跳んだり跳ねたりもしているが、以前よりは酷くないので問題はない。以前は死が見えた。
そのまま本局までおよそ1時間。
足場を一切気にせず、獣の加護で空中を踏んで移動できる楓さんの移動速度には及ばないが、幼児一人背負ったままでこれだけ早く移動できるのはさすがだ。あまりしないような移動方法を長時間したせいで、俺の体力は削られまくっているが、まあ普段からいっしょに外で遊ぶときはネネちゃんに振り回されているので。このくらいなら大丈夫だ。
(本局を出たあと、楓さんの手荷物は任務中に必要だったものを持っていた。とすると、本局ならPDAから楓さんの位置が分かるはず)
本局の貸し出しているPDAには任務中に退魔師を鬼のいる場所へ案内するためのGPS機能が搭載されている。
これは楓さんに聞いたことだ。まず間違いはない。ハヤテちゃんにも持たせたのはそのためだ。
「ネネちゃん、どう?」
「んー………何も感じない」
「わかった、何か感じたらでいいから教えて」
「うん」
だが、実際には本局も楓さんを見つけられていない。
なら、PDAのGPS機能が機能しない状態か、もしくは─────。
(PDAが機能していても、GPSが機能しない場所に居るか、か)
加えて、身内の居場所に鋭い勘を持つネネちゃんが本局の周辺まで探しているのに、見つからないという。
(─────ネネちゃんの勘に引っ掛からない場所……いや、『そもそも無い』?)
この世界……いや、単純な現実の空間には存在しないような場所。
つまり、こことは空間自体が違うとしたら?
……いや、そんなことが可能なのか? ……と思ったが、一般人が得られる退魔師の情報が少なすぎてどっちにしろ判らないな。
退魔師になれない俺では結局、『退魔師の術がどれほど自由なのか』を知ることは出来なかった。
だから、空間の性質や構造を変える術……もしくは空間をずらす、歪ませる、といった系統の術があるのかすら不明だ。
ハヤテちゃんがちらっと言っていた退魔本局の蔵書とやらを漁ることができれば多少は分かるかもしれないが、当然ながら一般には解放されていないので読むことは不可能だ。
とりあえず、楓さんは『ネネちゃんの勘に引っ掛かるような事態になっていない』、もしくは『ネネちゃんの勘に引っ掛からない場所にいる』のどちらかだとするとして、前者ならそれならそれでいいから、後者だとして考えるか。本局が見つけられていないのも説明がつくし。
「ましろー、次はどこに行けばいいの?」
「………、楓さんが本局からうちに帰るときのルートを辿りたいかな」
「うーん……どこだろう」
「大雑把でいいから、楓さんが帰るまでに通りそうな道を通って」
「わかった!」
☆
結局、何も見つからずに家の近くまで帰ってきてしまった。
とすると………まさか、ルート上に楓さんが居なかった?
(いや、昔ハヤテちゃんが外で迷子になった時はかなり広い距離からでもネネちゃんは真っ先に見つけていた。多少の距離があってもネネちゃんは気付ける。それに、楓さんなら俺たちを家に残しているのを気にして、家まで出来るだけストレートなルートを通るはずだし、やはり多少の距離的な誤差があったとしても、ここまで見つからないのは変だ)
悩んでいると、ネネちゃんが立ち止まった。
「もしかして、ママ、逢魔界にいるのかも……」
「ネスト……?」
「あっ、ううん、なんでもない」
ネスト、とは何だ? ネネちゃんは何を知っている?
「教えて。ネストって何?」
「あ、えっと……マシロには言っちゃダメってママが」
「───────。また、一般人には言っちゃいけない内容か」
「……ごめん。ましろだけ、仲間外れにするみたいで」
「ううん。ネネちゃんが悪いわけじゃないから、大丈夫」
やはり、退魔師にならなければ碌に情報も手に入れられない。しかし、俺には素質があるかどうかすら未だ不明の状態。
………ないものねだりしていても仕方がない、ネネちゃんと一緒にハヤテちゃんのもとに一度帰ろう。
(それにしても、『楓さんがネストにいるかもしれない』、か)
☆
家に帰ってきたのは20時半。
あとの楓さんの捜索はとりあえず退魔師さんたちに任せる。
護衛をしてくれていた退魔師さんと別れ、無事にハヤテちゃんと合流した。
俺たちはもう一度身体を清めてから、楓さんが帰ってこないかもしれないという不安を誤魔化すために、三人で寝た。
☆
夢を見ていた。
ずっと昔の夢だ。
オレがまだただの牙咬颯だったころ。
牙咬颯は、林祢真銀の夢を見ていた。
夢の中で夢を見ているなんて、おかしな話だが、もっとおかしいのはその時見た夢の内容だった。
真っ暗な夜の世界。
小さくて黒い怪物たちが誰かを襲っていた。
数体、いや十数体。
怖い匂いと、紅が誰がを穢していく。
大切な思い、大切な日常。
彼女がずっとっずっと追い求め、ようやく手に入れた輝くものが消えていく。
それはずっとずっと昔に決まってしまっていたこと。
だから、それもまた必然だった。
夜の世界に、太陽の代わりとなるモノが届く。
月の光。
輪廻を成そうとする紅き獣を封じるために、光は彼女に希望を授ける。
それは暗き■を生み出したもの。
それは輝く■を体現するもの。
少女は暗き世界を照らし、紅を封じた。
故に深い深い眠りにつく。
少女が再び、光との繋がりを思い出すまで。
それで、おしまい。
………抽象的で、おとぎ話の物語のようで、なぜそんな曖昧な表現しか見えないのかさえ分からない。
目を覚ましたとき─────────となりで寝ていたあの子の髪色が、自分の色とおんなじで、すごく安心した。
『─────────ましろは………ましろのままでいてね』
だって、そうだ。
あれは、歌や笛を奏でるモノではない。
あれは、この子を──────────。
☆
「あれ………」
涙?
………なんで、泣いてたんだろう。
とても、とても怖い夢を見ていた。
悲しくて、苦しくて、でも優しい誰かの夢を。
それだけは覚えている。
それだけしか、覚えていなかった。
顔を隣に向けると、マシロが横で寝ていた。
昨日、姉といっしょに母を探すなんていう無茶をしていたからなんだかんだで疲れていたのだろう。
すこし、不安になって、この子が消えないように、そっと抱きしめた。