輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
追記:挿絵を追加しました[25/12/29]
「あ、やっぱりはやてじゃん!」
公園の入り口から聞こえた声の方へ顔を向けると、ランドセルを背負った、青みがかった黒髪をツインテールにした少女がこちらを見ていた。
「……?」
周りを見ても、他に人はいないようだが……。
「はやて、なんでひとりで公園にいるの?」
そのまま誰かに声をかけていると思われる少女の様子を眺めていると、此方に歩いてきて目の前で不思議そうな顔を向けられる。……もしかして誰かと間違えて話しかけている?
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「ええと……休憩してたから、かな……?」
困惑しながら、恐らく人違いをしていると思われるツインテ少女にそう答えると、少女は少し何かしら考えたあと、「まあ、いっか」と何かに納得した様子だった。
「はやてはさっきまで、なにしてたの?」
「……コンビニでちょっと、買い物を少々?」
「ひとりで!? ……もしかしておつかい?」
おつかい……いやまあ、5歳くらいの子は普通、一人で買い物しないか。
「まあ、そんなところかな」
「ふーん。じゃ、帰りはおねえちゃんとふたりで帰ろっか!」
たしかにそろそろ帰ってもいい頃かもしれない。手に持っていた携帯バーの残りを口に放り込み、ゴミを丸めてコンビニ袋の中にしまって立ってから気付く。……二人で?
「いや、そもそもお……」
「?」
「……わたしは君の妹じゃないんだけど……」
「────んぇ……?」
あぶない、また相手に違和感を与えるところだった。
……それにしても、一人称の違和感が激しい。この身体で生活する以上は慣れなければいけないのだろうが、慣れるのにもそれなりに時間が掛かりそうだ。
「どうして……?」
「へ?」
「どうしてそんなこというの……?」
顔を上げて見れば、ぽろぽろと大粒の涙が……って泣いてる!?
流石に大人が公園で小学生を泣かせるのはまずい。
慌ててこの危機的状況の打開策を考える。────いや、ちょっと待て。
……そもそもの話ではあるが、子供だからと言って、ここまで間近で顔を確認した相手を間違えるだろうか?
改めて目の前に居る少女の姿を確認する。背負っている赤いランドセル、小学生か……名札は────無いな。そういえば、最近の小学生は防犯の観点から登下校では名札を外すパターンもあるとか小耳に挟んだ気が……いや、そもそもこの世界に名札を付ける文化があるのか?
……病院で会話した医師や看護師は名札をつけていたな。どちらにせよ、現状はこの方向性では推察は不可能。
なら、容姿以外の視点で……そういえば、この子は『二人で帰ろう』と言っていた。これは、帰る方向がある程度一致していることを知っていなければ中々出てこない言葉ではないだろうか? ……だとすると、この子は下校前……いや、『登校前から』俺の家の帰り道……いや、『林祢 真銀』の家の帰り道をそれなりに把握していたのではないだろうか?
……もしかして、そもそも『人違いをしていない』?
だとすると、この子が呼んでいた『はやて』という名前の意味も違ってくるのではないだろうか。
俺はてっきり、この少女が『はやて』という名前の少女と俺を間違えていると思っていたが、そもそも『人違い』ではないのなら、これも変わってくる。
……そう、『あだ名』だ。
もし、この子が記憶を失う前の俺────『林祢 真銀』とそれなりに交流があり、ニックネームで呼ばれるような仲だったとするのならば、納得がいく。いやまあ、一体全体、どんな理由で『林祢 真銀』なんていう名前から『はやて』なんていうニックネームが飛び出してきたのか、俺には見当もつかないが……
この子が、姉妹のような関係であることに拘りを見せたのも、俺が知らない『過去の交流』に起因しているモノであるのならば、そう可笑しい話では……ないのかもしれない。
「あー……えっと、ごめん。君を傷つけるつもりはなかったんだ」
「ひっく……ほんとう?」
「うん、本当。実は、お……いや、私には今、病院に行く前までの記憶が無くなってるらしくて。
そのせいで君のことまで忘れてしまっていたらしいんだ。すまない」
「……? はやてが……あたしのこと、覚えてないってこと……?」
「あー、えっと……そう、なるの……かな?」
「……う」
「……う?」
「うわあああああああん!!」
「。」
みっ……耳がいてえ……超至近距離攻撃……
☆
十数分後。
必死の慰めが通用したのか、時折公園の外から向けられていた通行人の視線は無くなり、代わりに困ったことになってしまった。
「あの、おねえちゃん……私は家に帰りたいんだけど……」
「……や」
全身で
あと、着ていた服は既にこの子の涙と鼻水でぐちょぐちょである。帰りたい。
ちなみに、この『おねえちゃん呼び』は好き好んでのモノではなく、先刻の激闘の末に負った武士の勲章である。……決して、「なんでおねえちゃんって呼んでくれないの……?」「おねえちゃんって言って……?」という一連の、涙声交じりのツインテ幼女の圧力に屈したわけではないのである。
というか、明らかに小学校低学年相当の子相手におねえちゃん呼びを慣行しなければならないのはちょっとキツい。
諸悪の根源であろう記憶を失う前の『林祢 真銀』を少し恨むも、それでどうにかなるわけでもないので、とにかくこの十数分で大幅に消費した精神的疲労を少しでも回復する為にも拠点へ戻りたいのだが……。
「……えーっと、じゃあ、どうすればいいの?」
「はやては、ずっと一緒にいて」
「一緒にいてって」
「パパみたいに……いなくならないで」
……おっっっも。
え、何?? 俺これを受け止めなきゃいけないの?? 過去からの因果重くない??
「えっと、正直、よくわかんないんだけど……帰るまでなら、いなくならないから」
「……帰ってからも、いっしょ」
「ええ……?」
流石にそれは困るんだけど……
「……とりあえず、私は帰るから」
「……うん」
……あの。
なんか、手を握られてるんですけど。
「あの、おねえちゃん、なにこの手……」
「はやてがまいごにならないように、おねえちゃんがしっかり、にぎっててあげるね!」
……いや、まあ……帰り道一緒なら、いいか。
────この時点で俺は気付くべきだったのだろう。いくらなんでも、何かがおかしい事に。
……そう、せめて気付くべきだったのだ。
この、見知らぬ玄関の前に引きずられてくる前に。
「だーかーら! ここはお……私の家じゃないって!?」
「だーかーら! ここははやてのおうちだよ!?」
「ちげえって!?」
「ちがわないって!!」
……この絶妙なまでのすれ違い、その違和感に気付けたのは1分ほど前。
そしてこのツインテ幼女の、なかよしハンド(※と書いて手錠と読む)になんとか抵抗しようと必死に妨害しているのが現在。ていうか、さっきから引きはがそうとしてるのにっ、ぜんぜんっ、はなれなっ、いっ!!
最初は肉体年齢の差によるものかと思ったのだが……よく見たらこの幼女、全然筋肉を使っている様子がない。というか、完全にただ手を握っているだけみたいな気が。
「このっ、はーなーせっ!」
「もうっ、どこいこうとしてるの!」
「わたしの! いえ!」
「おうちは! ここ!」
いや、此処なわけないだろ!?
────そこに、更に開かれた
「あら、ネネちゃんとハヤテちゃんだったんですね。お帰りなさい」
いくらなんでも、扉一つを前にして騒ぎ過ぎたのか、家の中から高校生くらいの少女が制服姿でエンカウント。
「……あら? でも、たしかハヤテちゃんはさっきそこに……」
「おねえちゃん、おかえなーさい……」
そして家の中から、トドメと言わんばかりにひょっこりと最近慣れ親しんできた声とよく似た声がエントリー。
「ん?」
「あら?」
「んえ?」
「はい?」
「…………はやてがふたりいる!?」
……なにこれ。