輪廻の蛇 〜退魔兎姫ハヤテの世界で、TS転生者は日常を守りたい〜 作:黒庵
……懐のダメージがあ。
あと、中編です(小声)
追記:挿絵を追加しました[26/2/26]
晩ごはんと朝ごはん。
食事とは人間に限らず、生物であれば誰もが肉体を維持する為に必要なエネルギー摂取行為であり、これを怠り続ければ餓死。則ちバッドエンド直行便である。
……これが元の身体であれば、別にエネルギー補給はある程度我慢してもよかったのだが、この身体がどこまでエネルギーを絶っても活動に支障が無いか把握していないし、流石にそんな状態で考えなしに動くほど身の程知らずじゃない。……のだが。
だからこそ、時間が経って、本当に動けなくなったら終わりだ。これは、動けるうちに動いて食料を確保しに行った方がいいのかもしれない。
(ああ、くそ。こんなことなら病院に居る時にある程度確認しておけばよかった)
そんなことを考えながら、ママさんにやはり、ここに泊まる訳にはいかないと告げに行こうとして────捕まった。
閉まる扉。
迫り来る闇の魔の手。
────約三十分にも満たない時間で、俺は未だ、子供の無邪気さを侮っていたのだと理解させられることになる。
☆
いやいやいや。
「一緒にはまずいって……!」
「「?」」
くそ! 何可愛く小首を傾げてやがるんだ……! この手をさっさと離せコラ!?
というか、この幼女ズ、今日会ったばかりの人間と風呂に入ることに何の疑問も覚えてないのは何なんだ!? ひょっとして、銭湯だとかで初対面の他人と『裸で入る』ことに慣れてるのか!?
────下手人に強制的に連行された場所は脱衣所。……つまりは、風呂場の前である。
どうやら、時間が遅いのもそうだが、俺がカピカピの服を着たままなのが気になったママさんが「三人で入っておいで」などと言ってしまったらしく、元凶であるツインテ幼女に最初と同じくなかよしハンドで此処まで連れてこられたわけである。
ツインテ幼女と、そっくり幼女が俺の発言に心底不思議そうに見つめてくるが、此処は譲れない。意地でも逃げねば、『幼女二人が居る女湯(風呂)に入る成人男性』とかいう、どこからどう見ても立派な変態が爆誕してしまうじゃないか……!
どうにかしてっ! この腕をっ! ほどけっ……ほどけないんだがっ!?!?!?
相変わらず、見た目はこの身体と余り変わらないというのに、子どもの手だけで此方の身体を、物理的に厳重にロックしている。
……これには思わず元凶である、二人の娘っ子にGOサインを繰り出してきたママさんに内心、怨み混じりの困惑を抱かずにはいられない。
(というか、あの人……最初は俺を警戒してたんじゃないのか!? 幾ら見た目が同性の子供だからって、自分の子供と一緒に裸で入れていいのか……!?)
いや、『初対面とはいえ、5歳の幼女に警戒し過ぎる必要もない』というのは一応、理屈では解らなくもないが、どうにも『男の意識』が邪魔をする。
当然、俺は彼女達を傷つけることはしないし、するつもりもない。というか、仮にやろうとしても多分物理的に不可能だ。この身体の非力さは、今日一日で改めてよく実感させられた。
むしろ、抵抗すれば手傷を負うのは間違いなく此方の方であろう。
……今だって身体が少し年上なだけの幼女に此処まで簡単に連行されてしまっているわけだし。あれ、目からまた汁が。
そんなことを現実逃避するために考えていると、耳に小さな声が響く。
「……ましろ、おねえちゃんといっしょに入りたくないの……?」
と、少し不安そうに、そうであってほしく無いと願うように、今日知り合ったばかりの自分に訊ねるツインテ幼女。
……いや、正確には今はツインテールを解いて、その青みがかった黒髪を背中に揺らしながら此方を見ているのだけれども。
……というか、
っていうかですね??
「いや、じゅんすいに……なにゆえお二人さんがいっしょにいるんですかね???」
「? 三人でいっしょに入るからでしょ?」
「うん、ましろもいっしょ」
いや、その理屈はおかしい。
例えるならば、Q.この夏野菜が美味しいのは何故ですか? と聞かれて、A.それは夏野菜だからです! と自信満々に堂々と答えているようなものである。……うん、そういうことじゃないし、動揺して例えが自分でもよくわからないモノになってしまってるな!
……要は幾らママさんが「三人で入って来ればいい」などというたいへん摩訶不思議な妄言を発言していようが、別にこの子たちが俺と一緒に風呂に入る必要性はないし、なんなら風呂ぐらい俺が我慢すればいいのでここから出して来れませんかね?? 寝床は床でいいので。
……あ、駄目ですかそうですかー。ふぁっきゅー。
そうこうしているうちに、幼女たちの肌面積が増え始める。
────すると当然ながら、自身では未だに他人に見せるには抵抗感の残る部位を何の抵抗も無しにさらけ出してしまうことは至極当然の極みであり。
────そしてそれは当然ながら、自身と酷似した容姿を持つそっくり少女の素肌が現れるということであり……。
────……そしてそれは同時に、否応なしにも『自分がそうなる』ことを客観視させられる。
……いや、なんだこれ?? いや、なんだこれ!? 俺、まだ脱いでないのにめちゃくちゃ恥ずかしいぞコレ、いやどんな感情?!?!?!
突発的に沸いたよく分からない羞恥心に思わず頬が赤く染まる。そして、いつの間にか自身の腕が、そっくり少女と同じような……か細い身体を掻き抱いていることに気付く。
……なんで! 男の俺が顔と裸を隠す側になるんだよっ!?
いや、正しいのか?? いや、そもそも大の男が初対面の幼女二人に無理矢理風呂場の前に連れ込まれている時点で正しいもクソもあるか!!!
もういい! こんなところにいられるか! 俺はさっさと帰らせてもらう!
────
狩人が獲物を手に入ったと認識し、
……と、外へと続く扉へ手を伸ばす俺の手がなぜか空を切り、自身の意思とは全く関係なく急停止してしまう。
「もー! ましろ、はやくお風呂入らないとおふとんに入れないよ?」
脱兎の如く外への扉へ向かう俺を見て、恐らく止めようとしたのだろう。
少女が俺を止めようとしてつかんだのは例のごとくカピカピになっていた俺の服。
ビリッ
「「あ」」
その軽快な布が千切れる音と共に、身体は空気に大きく触れることになった。
☆
……人間とは適応する生き物である。
病院で目覚めた俺は、『意識的には』この身体の動かし方を知らなかった。それは俺が男であるが故に当然のことであり、則ち何の異常もないかのように動けることこそが異常だったのだ。
それは昔何かで聞いた話だったか。『精神は肉体に宿る』モノであり、故に『肉体と精神はお互いに影響し合う』モノなのだとか。
要は、だ。
骨格の違った身体での歩き方を意識するまでも無く、この身体は最初から『この身体の動き方』を知っていた。
……つまり、俺が目覚める前にこの身体に刻まれてきた情報(モノ)があるということ。
それは考えてみれば当たり前の話であり、俺が知らないだけで産まれててから5年間も、この身体は『何も知らない幼女としての生活』をしていたのだろう。
それはつまり、この身体には『この身体で動いてきた経験』が刻まれているということであり、俺が元の身体と比べて『半分にも満たない背丈』に成っているにも関わらず、直ぐに『この身長での視界』に違和感なく慣れることが出来たのは、恐らく
……しかし、それは……逆を言ってしまえば、『人間が適応する為には、身体に刻まれる情報を十分に確保しなければならない』ということでもある。
つまり、何が言いたいかと言うと……
「ましろ、パンツもぬがないとお風呂はいれないよ?」
「うぅ……」
人間そんなに早くは適応出来ないということ。
……展開が、展開が余りにも早過ぎる……!
脱衣所にて、ツインテ幼女の謝罪を受け取った後、仕方なく風呂に入ることは受け入れたものの、誰かに見られながら、しかも、未だに受け入れ切れていないこの身体の恥部を晒すことに抵抗感がないわけがなく。下着に手をかけたはいいものの、下せずに固まってしまっていたのだ。
────だがしかし、流石に圧倒的年下の子供にここまで言われて、何も行動しないわけにはいかない。
……どうせ逃がしてももらえないだろうし、どの道さっさと済ませた方が楽なのは明白なのだから。
……例の如くツインテ幼女につかまれている腕を見てしまって、半分もういろいろとめんどくさくなって思考を放棄したわけではないのである。
急かされるままに、それでも目を逡巡させながらも、ようやくといった感じで、いそいそと手を動かして股間を保護していた女児用の布切れを外す。
……遮るモノが無くなって久しい其処を悲し気に流し見たものの、それでどうなるというわけでもないので、満足げに此方を眺めるツインテ幼女に手を引かれながら、ようやく風呂場に足を踏み入れる。
「さいしょはあたしが洗ってあげるからねっ!」
「いえ、けっこうです」
「……はやても、したい」
「いえ、けっこうです……!」
「あのね、ましろ、こっちのかえるさんのボトルがね、身体をあらうほうなんだよ?」
「こっちの、ひつじさんが……かみのけよう」
は な し を き け !
(うおおおおおお! こんなベタな展開に流されてたまるか……!)
俺はこんな奴らなんかに、絶対に負けない……!
☆
ごしごしと背中越しに伝わる、もこもこの泡を生み出すボディタオル。
そしてツインテ幼女が洗っていった長い髪の毛をよけて、真剣な顔をしながら小さな手で俺の背中を洗っているそっくり幼女の姿がそこにはあった。
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「かずのぼうりょくにはかてなかったよ……」
「「?」」
ええい、そこのリンスで髪の毛のケアをしているツインテ幼女! 貴様までかわいく小首をかしげるな!
……こうなったらさっさと風呂を出て寝てやる。せっかく強制シャットダウンで身体がある程度回復していたというのに、これ以上余計な疲労は負いたくない。
────幼女ズに身体を洗われること、それ自体は最早諦めた。
力の差は歴然であり、賢者とは賢く生きる者を云う。
つまり、俺のこの選択は俺が賢者であることの証明でもあるのだろう。
……側から見たら、洗いっこしている幼女たちにしか見えないという真実から全力で目を逸らす。
うん、何やってんだろう俺。
そして、俺が死んだような目をしながら、気持ちよさそうに目を細めるそっくり幼女の身体を洗い返していると(他人の、しかも子どもの背中なんて洗ったことなかったから少し不安だったが、どうやらこんな感じでいいらしい)、先ほどまでは気にしている余裕がなかったため気づくことがなかった真実に気付く。
「────…………」
以前、遠出した際に借りた安宿のような……成人男性一人が限りなく足を折り曲げて、お手本のような体育座りでやっと入れるか入れないかくらいのサイズの風呂ではなく────子供が二人もいる関係か、しっかりと大きい、大人でも三人ほどなら入れるくらいの風呂がそこには存在した。
────しかし、そこで俺は気付いた。気づいてしまった。
このようにちゃんと子供三人なんて余裕で入れるような広い風呂に入るということは、逆に言えば『一人一人が交代で入る』未来は限りなく薄く、無邪気に此方の腕を地獄の門に誘う亡者のように元気に引っ張る娘っ子の様子を見てしまえば、このまま進んだ末路は容易く想像できる。
ふむ。なるほどな。
「ねねちゃんたちのおうち、おふろ、ひろいんだねー」
「でしょ! ましろもはいれるよ?」
「わたしはあとでいいからねー」
「ましろもはいれるよ!」
「わたしはあとで」
「ましろもはいれるよ!!」
……ええい! 古のRPGモブか貴様は!?
仕方ない……気恥ずかしさは間違いなくあるし、女湯に入るような、事実その通りの抵抗感に今すぐこの場を逃げ出したくなる衝動に駆られるものの、逃げ出そうとした結果が容易に想像できてしまうし、このまま拒んでいても風呂場から物理的に出してくれなさそうなので渋々先客が沈む湯船へ恐る恐る、足先をつける。
……いや。なんか、だんだん心理的なハードルが下がっている気がするな……。
しかし、そんな気苦労は湯船に浸かったことで吹き飛んだ。
「ん……ふぅ」
ここ最近、ずっと幼女の身体で入院していたこと、更には子どもの身体であることも手伝って、最低限のシャワーしか浴びてなかったから久々の湯舟がたいへん身に沁みる。……特に、肩まで余裕でつかれるのがいい。
「えへへ、ましろ、きもちいいー?」
「……ん」
……そういえば、ちゃんとした風呂はこの身体になってから初めてだったか。
やはり日本人はみな、あたたかい風呂に沈むべきだな、と実感していると。
ガチャ。
(……ガチャ?)
湯気の白けさに包まれる空間に響いたのは、そんな扉の音。
……しかし、それは有り得ない。
扉の音がすればただ一つ、風呂場の出入り口だけであり、そこが開くということは来訪者がいるという音。
この場に現れる存在など、居るはずが────────
「あ、やっぱり4人は少し狭いかしら」
「ママ! いらっしゃい」
……いらっしゃい、じゃねぇ!?