再び五人は一部屋に集まり、作戦の最終調整をする。
結果的に昨日が不出来だった分、万全の態勢で臨みたいところだったが、結局陽はこのまま『現実世界』で待機となった。
重篤な異常はないものの背中の痛みがひかず、彼お得意の機敏さが発揮できないばかりか、咄嗟の回避行動もとれなくなる危険があるためだった。
無慈悲な戦力外通告を受けた陽は、直前までゴネ続けていた。
「納得いかないっ! まだ何も活躍してねぇのにぃぃ!! …やっぱり俺も行く!!」
「駄目だ。今度は失敗できねぇんだから、怪我人は大人しく待ってろ」
「そうそう。安心しな、葉月inお前outならメリットはあっても逆は無ぇから」
「~っ…蒼兄っ!!」
烈と影斗に畳みかけられた陽は、彼らの様子を黙って見守っていた蒼矢へ振り返る。涙目で訴えかける陽へ、彼も困ったような表情を返した。
「……ごめん。これ以上お前に何かあったら親御さんに顔向けできないから。"活躍"はまた今度な」
「……」
そのごもっともな台詞に何も言い返せず、陽はうつ伏せのまま枕に顔を突っ伏した。
悲愴感漂わせるその肩を軽く叩いてなだめつつ、葉月が話を進める。
「――で、その[異形]には電撃が有効なんだよね?」
「はい。…[異形]本体に機動性は無いみたいなので、防衛線を張ることは必須ではないと思います。各個出過ぎずある程度自衛していれば、葉月さんが攻撃に集中できるのではないかと」
「とりあえず雷落としてやって、昨日と状況が変わればいい」
「…防御形態に入らせたくはねぇな。刃物が全然効かなくなる」
烈の言に影斗も同意すると、葉月も呼応して頷いた。
「わかった、全力でいってみるよ。急所の調べは進んでるの?」
「…『空間』に入ってから再索敵しますが、[異形]の急所はたぶん[侵略者]が生え出る根元です。[奴]を出さないことには目視できません」
「[侵略者]を引きずり出してからが本番だな。あとは[
「そっか、[
「昨日の戦闘ではつきとめられなかった。…なるべく急ぐ」
そして、準備でき次第ホテルをチェックアウトすることになり、各々帰り支度をし始めた。
「――よう。案外元気だな」
「…!」
部屋に戻りかける蒼矢へ、影斗が後ろから声をかける。振り返って一旦目を合わせるものの、すぐ気まずそうに視線をそらしてしまう彼へ、意に介さず影斗は話しかけ続ける。
「風呂入ったんか?」
「…いえ…部屋のシャワールームで、さっき軽く洗いました」
「そっか、このまま帰ることになっちまって残念だな。…お前髪まだ濡れてるぞ?」
そう言い、影斗は蒼矢の半乾きの頭に手を置き、くしゃくしゃと掻きながら手ぐしを入れてやる。
「…ほんとこういうとこ気にしねぇのな、お前は…」
苦笑する影斗を上目遣いに見上げていた蒼矢は、まぶたを落としてうつむいた。
「…先輩…、昨日、俺――」
「謝るつもりなら、何も言わなくていいぜ」
影斗は言いかけた蒼矢の言葉をさえぎった。
「俺は、はなからお前に殴られるつもりであの時部屋に行ったんだよ。…3分の1くらい目標達成できたな。俺としちゃあ、もっとボコボコ来て欲しかったけど」
「殴りませんよ。…いえ、やりそうになりましたけど…」
「まじで? そっかぁ、もう一息だったか~…」
少しおどけ始めた影斗だったが、蒼矢が再び黙ってうつむいてしまったため言い止め、息をついて彼の顔をうかがう。
「…先輩は、何でそんなに俺に優しいんですか?」
「!」
ぽつりと漏れた蒼矢の言葉に、影斗の目が少し見開かれる。前髪で表情を隠し、蒼矢は消え入りそうな声で続けた。
「昨日だって、あんなこと言って…、…俺、先輩にあたってしまっただけなのに…」
蒼矢は下を向いたまま言葉をしぼり出していたが、影斗からの返事が返ってこなくなり、ふと顔をあげる。影斗は少し戸惑うような表情を浮かべる彼の視線と合うと、ニッと悪戯気に笑った。
「…俺は誰にだって優しいだろぉ? 博愛主義者ですから」
「…! そうですね、すみません…」
影斗の言に、蒼矢ははっとしたように少し頬を染め、下向き加減に頷いた。
「…もう大丈夫なんだよな?」
「! はい」
「了解。サポートすっから、宜しく頼むな。…早く準備しちまえよ」
「はい」
自分の部屋へと歩きだす蒼矢を見送りながら、影斗はその背中へずっと視線を送り続けていた。
「…
そう言葉をこぼすと、ため息をつきながらきびすを返した。
――先輩は、何でそんなに俺に優しいんですか?――
「……その答えは、
ホテルを離れ、停められるところで一番便の良い駐車場を選んで車両と陽を置き、セイバーズは昨日の海岸へ歩を進める。
昨日の騒動を受けて海岸は全面立入禁止になっていたが、四人は非常線テープをくぐり抜け、人目につかないよう注意しつつ海へ近付いていく。
「昨日[異形]が出現したのは、海岸右端のマリンスポーツエリアだった」
「同じ地点からだとしたら苦しいな~…多分現場検証とかしてるだろ」
「…これ以上は遮るものが無くて近寄れないねぇ」
無人の海の家脇で足止めを喰らう中、ふと蒼矢が身体に震えを感じ、海の方を見据えた。
「どうした?」
「…います」
「まじかよ。すげぇなお前のその
「…いえ」
影斗は少し茶化すように返したが、その強ばった横顔に表情が止まる。
「隠していません。…どんどん強くなってる」
「……!」
[異界の者]の放つ気配にあてられ、蒼矢の顔は血の気を失っていた。その胸元は既に、パーカーの中で青い光を放っている。
「あの野郎。…煽ってんのか?」
「ふざけやがって…!!」
落ち着いた調子ながらも語気を強める影斗の横でそう吐き捨て、烈は起動装置を強く握った。