※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ2 -海の妖-   作:独楽 悠

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第11話_奪われた半身

オニキスから噴出される闇色の霧は、ターゲットである[侵略者]の全身を包み込んでいた。そして当然ながら、双方の間に入っているロードナイトの周囲にも満たされている。呼吸をする度に体内に吸い込まれ、ロードナイトの顔面から徐々に血の気が失われていき、[海華]の触手に切り込む『紅蓮』の切っ先が震え始める。

[海華]に腕をとられて身動きの取れないオニキスは、それでも攻撃をやめないその横顔を睨み、小さく悪態をついた。

「阿呆が…あとでぜってーぶっ飛ばす…!!」

闇属性を使うオニキスの能力のひとつである"毒"は、威力こそ薄いものの稀なケースを除いておおよそ[異界の者]たちの属性を選ばず有効で、与える効果も痺れや動きの鈍化など足止めに大いに役立つ能力である。が、基本的にセイバーの能力が対セイバーである場合無効であるのに対し"毒"だけは影響を及ぼすものであり、オニキスは場所を選んで使うよう注意を払っている。そしてそれを理解している他セイバー達も、彼から合図があるまでは近寄らないことをセオリーとしている。

つまり、[侵略者]に向けて毒をまき散らしている最中に飛び込んできたロードナイトの挙動は、ほぼ自殺行為と言えた。

「…っ……!!」

ロードナイトの決死の押し込みにより、オニキスの右腕に伸びていた[海華]の触手が潰れ、機を逃さずオニキスは腕を引いて繊維を引きちぎった。

限界を迎えたロードナイトが後退し、アズライトはすぐさま彼の前に入って『水面』を構える。

右腕が自由になったオニキスは、間髪入れずに『暗虚』を[海華]の顔面に全力で振り被る。

[海華]は千切られた触手の束でそれを辛くも受けとめた。

「…まぁ待て。取引しようじゃないか」

「…!?」

突然の[侵略者]の物言いに、一瞬セイバー達の動きが止まる。

それぞれに不可解な表情を見せる敵陣へ向け、[海華]は至って平静に言葉を投げかけた。

「今の状況をよく見てみろ。一人は達磨で一人は自陣の毒を喰らってまともに動けず、その毒で潰した者は私に絡まったまま。毒の霧も段々薄くなってきている…おそらくもうそろそろエネルギー切れだろうね。残った動ける者は後衛で、そも私の敵ではない」

「……」

「だが私も私でもうあまり余力が無い。[異形(我が子)]も使い物にならなくされてしまったしね。お前たちが大人しく『現実世界(あちら)』へ引き下がるなら、私も[異界]へ還るとしよう。…あくまでこの場(・・・)の話だ。また改めてまみえるやもしれない」

[海華]の抑揚のない口上を聞きながら、セイバー達は脳内で会話していた。

「…ご破算にするかってことか…?」

「いやありえねぇよ、適当言って油断誘ってるだけだ」 

「その可能性もある。でも…主力二人が疲弊してしまっていては、このまま戦闘を続けていても押し切られてしまうかもしれない」

「「[侵略者]の言うことに乗るつもりっすか…!? 危険過ぎる!」

「――どうなんだ、考えはまとまったか?」

[海華]は、唯一自由の利くアズライトへ向けて返答を促す。アズライトは黙って睨み返したまま、脳内会話を続ける。

「…オニキス、『放逐』はまだ出来ますか」

「! …おぅ、やれる」

「[奴]があなたを解放すると同時に撃って下さい。…動く隙を与えなければ[異界]へ送還できる」

「……了解」

「――呑む気になったかな?」

[海華]の問いかけに無言で頷くと、ロードナイトをエピドートの傍に付かせ、アズライトは一歩ずつ[海華]に近付いていく。

「オニキスを解放しろ」

「…もの解りがいいね」

真顔だった[海華]は薄く口角を上げると、オニキスに絡めた自らの触手(腕)をゆっくりほどいていく。

徐々に緩む間、アズライトは[海華]と視線を合わせたまま牽制し、オニキスは気取られないよう『放逐』の構えに入る。

「! アズライト…、前!!」

と、後方から彼らの様子をうかがっていたエピドートが叫ぶ。同時に、沈黙したと思っていた[異形]からおびただしい数の触手が放たれた。

「…っ…!!」

触手は八方から、アズライトだけに的を絞って襲う。[海華]に気を取られていたアズライトはかわす間もなく巻き取られてしまう。

「あぁっ、くぅっ…!」

「! くそっ」

オニキスは咄嗟に『放逐』の構えをとろうとするが、緩みかけていた[海華]の触手は急激に力を強め、両腕を背中に縛られてしまった。

[海華]は捕えたアズライトを上空に掲げ、満足気に見上げると一気に顔面を歪め、高笑いした。

「ようやく再び手に入れた…待ちわびたぞ!」

全身を触手に縛られもがくアズライトへ嫌らしい視線を送り、ついで不意の事態に硬直する周りのセイバー達を一瞥する。

「愚か者共が。私の目的は最初からこやつだけだよ。いや、こやつが呼び出す『氷の剣』と言った方がより正しい…先だっての邂逅でひと目した時から、魅惑的なあの剣の姿が頭から離れなくなってしまってね。是が非でも手に入れたいと思っていた」

余裕の表情でそう語る[海華]は拘束したオニキスをその場に捨て置き、ふわりと宙に浮くとアズライトへ近付いていく。

「アズライト!! っ…」

ロードナイトが止めようと動くが、足もとがふらつき、膝から崩れ落ちてしまう。毒が身体に回って冷や汗が止まらず、浅黒く血色良いいつもの顔面が蒼白になってしまっている。

「ロード…! 無理をしてはだめだ…っ…」

同じく拘束されたまま動けないエピドートがロードナイトを制する声を聞き、[海華]は鼻で笑いながら彼らを見やる。

「お前の身体にはまだ『毒』が回っているようだが、私には既に残っていないよ。剣を手に入れたらまた相手をしてやるからそこで大人しく見ていろ。…後ですぐに葬ってやる」

そう言いながら、[海華]はアズライトのもとへ到達する。身体中に絡んだ触手の締めつけに体力を奪われ、アズライトは苦しげに息を荒げていたが、視界に[海華]を捉えると怒りに満ちた両眼で睨む。

「…その目は私に対してか、それともみずからに対してか? どちらにせよ、落ち度はお前たちにある。手駒は多くとも、所詮は下等な『人間』よ。…さて、まずはその身体、再び愉しませてもらおうか…」

涼しい表情で見返しながら、はやる欲情の視線をアズライトへあびせ始めるが、ふと思考を巡らせる。

「…いや、早々に奪ってしまうか。また『氷』の力を使われたら計画が狂いかねない」

[海華]は再びにやりと嗤いながらそう言うと、彼の胸部に手をかざす。[海華]の掌にぼんやりと光が満ち、身体へ吸い込まれていく。

「…っ、あ、あ゛あぁぁっ!!」

途端、アズライトの身体が大きくビクンと跳ね、絶叫をあげ始めた。

光は胸部全体に拡がると徐々に縮小し、刻印のある左胸に集中していく。

「…っか、はっ…ああぁ!!」

「…なるほど、そこがお前の"核"か…!」

刻印への干渉に、硬直していた身体ががくがくと痙攣し始める。

[海華]は目を見開き、かざす掌に力を込める。強さを増す光が、絶えず刻印を嬲り続ける。

次第に、アズライトの全身から白いもやが漂い始める。すぐにそれが"氷気"だと判ったエピドートは目を剥いた。

「…!? 強制的に『凍氷』を発現させられてるのか…!?」

やがて[海華]の掌に吸い出されるように、アズライトの身体から『氷柱』が姿を現した。全身から発せられる氷気が剥き出しになった装具に流れ込んでいき、氷の粒子を纏って空気中に青白い光を放っていた。

「ついに…この手に…!!」

[海華]は興奮を抑えきれず、徐々に顕現していくその柄を掴み、身体から一気に引きずり出した。抜き取ったその透明な大剣に、心奪われたようなだらしのない面貌を映す。

「――…」

半身である『氷柱』を無理やり奪われたアズライトは、硬直したまま瞳の光を失い、頭ががくりと前傾した。

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