※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ2 -海の妖-   作:独楽 悠

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第13話_灼熱の拳

オニキスとエピドートは、怒りと悔しさをにじませた表情でその凄惨な光景を見続けていた。ロードナイトも同じく歯を食いしばりながら見ていたが、やがて視線は地に落ち、拳を握り込んだ。

「……くそ…」

昨日の前戦も含め、自分の行動を思い返していた。

アズライトを捕えられ、チャンスはあったのに逃して救出できず、属性相性も最悪で刃の装具なのに敵の触手一本も断つことができない。任されたのに[異形]を倒しきれずアズライトを再び奪われ、挙句考えなしに味方の邪魔に入って毒を喰らい、動けなくなってしまう。

…俺、今まで何やってた…? 何が出来てた…!?

攻撃役なのにろくにダメージも与えられねぇで、みんなの足引っ張ってただけじゃねぇか…!!

固く握り込んだ拳が震え、グローブの間から血が滲んでいく。

「くそ…っ…!!」

このまま役立たずで終わりたくない。

強くなりたい。

みんなを守れる、力が欲しい。

涙のにじむ目を瞑り、震える拳に額を寄せた。

「…っ!」

 

蒼矢を…助けたい。

 

不意に、ロードナイトの拳に何かが触れる。

人肌くらいの温かみを帯びるそれは、痛々しく傷ついた手のひらをいたわるように、じんわりと包み込んでいく。

「……?」

ロードナイトは虚を突かれたような表情で、自分の手を見つめる。握りしめていた拳を解くと、しわの寄ったグローブからは既に、滲んだ血の痕が消えていた。わずかにしか感じられなかった手の温かさは次第に強さを増し、全身へと伝い広がっていく。

「……」

ロードナイトは一人、静かに立ち上がる。

「…ロード?」

傍らのエピドートが声をかける中、ロードナイトは一歩ずつ[海華]へと近付いていった。

「…!? ロード! 危険だ!!」

「!」

その喧騒に、再びアズライトの唇へ喰いつこうとしていた[海華]が振り返る。

「なんだ、今ごろ毒が消えたのか? …軟弱な奴よ」

[侵略者]に虫けらを見るような目で蔑まれるが、ロードナイトは意に介さないように歩を進めていく。

その様子に[海華]は一時真顔になるが、すぐに小馬鹿にするように嘲笑った。

「無駄だよ。お前の能力は私と相性が悪い。それに私の好みでもない…搾取してやってもいいが、筋肉にまみれたその身体…くどくて嘔吐(えづ)きそうになる」

そんな辛辣な言葉を浴びせかけられても、ロードナイトの足は止まらない。変わらず無反応な彼に、[海華]の顔貌が歪んだ。

「…耳が聞こえないのか? …近寄るなと言ってるんだ!」

苛立つ[海華]は脇腹からロードナイトへ向けて、高速で触手を射出する。が、獲物を巻き取るはずのその先端は彼の片手に掴まれた。

「っ…!!」

刹那、[海華]は異変を感じ、伸ばした触手を自切する。そして断面部を一瞥してから、ロードナイトの手元を睨みつけた。その視線の先では自身の切れ端が、彼の拳の中でびくびくと痙攣しながら白煙をあげていた。弾力ある組織は無抵抗に握り潰され、ぼたぼたと溶けながら落下していく。

「こ…の…っ!!」

憤激した[海華]は、両脇腹からおびただしい数の触手を浴びせかける。ロードナイトは襲い掛かるそれらを目の前にし、手のひらをかざす。触手は彼の身体に到達する直前に何かにぶつかったようにさえぎられ、自らの勢いで潰れた後、泡をふきながら融解していった。

焦げつくような異臭を放ちながら形崩れていくその様に、[海華]は動揺と本能的(・・・)な恐れで震え、引っ込めた触手をざわつかせ始める。

「…!? …っ貴様…、その力は…!!」

[侵略者]に代わるように[異形]が唸り、先端だけ硬化させた触手でロードナイトを襲う。しかしロードナイトはすぐさま『紅蓮』を呼び出して一閃する。一薙ぎで触手の刃は細切れになり、彼の周囲にばら撒かれて蒸発した。

明らかに『ロードナイト』が使う『炎』の属性とは違う挙動に、後方から見守るエピドートとオニキスは目を見開いていた。

「…『後発属性』だ…!」

「あいつ…、どのタイミングだ? さっきか!?」

「…思い出した。"てめぇが生え出る"ところだったな」

周りの動揺には構わずロードナイトはふいに跳躍し、悲鳴をあげながらうごめく[異形]のそばへ降り立つ。[異形]から[海華]へ細く伸びる一本の触手を難なく捉えると両手で『紅蓮』を構え、その根元を思いっきり突き刺した。

ひときわ大きな絶叫が轟き、[異形]は触手をぐたりと地に落とし、しわ枯れて沈黙する。

[異形]を倒し、長く息を吐き出すと、ロードナイトは残った[侵略者]へ振り返った。

「退けろ!」

その怒声と眼光に、ひるんだ[海華]は口元を震わせながらアズライトから遠ざかっていく。

入れ替わるようにロードナイトがアズライトの元へ跳び、彼を縛る触手を焼き切って解放する。ぐたりと腕に落ちる身体を慎重に抱え、地に降り立つと静かに寝かせてやる。そして彼を護るように前に立ち、[海華]へ近付いていく。

「…っ来るな、痴れ者!!」

[海華]は生み出せる限りの触手を繰り出すが、ロードナイトの造る透明な『熱の壁』にその全てが焼き焦がされていく。

「……」

壁を張ったまま、ロードナイトは[海華]の鼻先にまで近寄った。憤怒の面様をたたえる彼の前に、出せる触手が尽き丸裸になった[海華]はなおも吠えた。

「許しなど請わんぞっ…下等生物ごときに…!」

「…アズライトを汚したてめぇは余程高等らしいな。これから消える奴から詫びなんか要らねぇよ。てめぇは還してやらねぇ。…この場で蒸発させてやる」

ロードナイトは眼を見開き、[海華]の顔面を掴んで握り潰す。もがく[海華]はロードナイトの腕に前肢をかけるが、彼の放つ高熱にあてられ、触れた部位から見る間に溶けていく。

「あ゛……ア゛、ァ゛…、……」

[海華]だったもの(・・・・・)はぐずぐずと地に溶け崩れていき、泡立ちながら蒸発し、消えて無くなった。

「……」

 

『転異空間』の[脅威]は消え去った。

 

ロードナイトはきびすを返すと、急ぎアズライトの元へかけ寄る。

「アズライト…っ、蒼矢、蒼矢!!」

しかし声をかけても身体を揺り動かしても反応を見せず、薄く開いていた目も閉じられ、完全に意識が飛んでいるようだった。

アズライトの容態に狼狽え始めるロードナイトへ、エピドートが後方から声をかける。

「ロード! 装具を!!」

「! あぁ、あっ」

「こっちはいいから、早くアズライトを!! 『空間』が閉まってしまう」

エピドートに促されたロードナイトは、少し離れたところに突き刺さる『氷柱』へ振り返った。

『氷柱』はいつの間にか自らが噴出しただろう氷塊で覆われ、触れることすらできなくなっていた。実際のところ既に相当な体力を消耗していたが、ロードナイトは再び力を振り絞って『熱の力』を使い、周りの氷塊を溶かしていく。

やがて顔を出した大剣の柄を掴み、思い切り引っ張った。

「…ぬ゛うぅぅ~…!!」

しかし、その巨大な刀身の全てが埋まってしまっている『氷柱』はびくともしない。

弾む息を一度落ち着かせ、再び渾身の力を込めて引っ張る。しかしやはり動きがなく、大剣は涼しい顔で地面に埋まっている。

「やっぱり…アズライト以外は受け入れねぇってことか…?」

「……!」

他二人が見守る中、ロードナイトは汗をふき出し、顔を真っ赤にしながら踏ん張り続けた。

「っ…このぉぉぉ!!!」

「…ロード、一旦落ち着いて!」

「でもっ…蒼矢が!!」

「本来、熱は氷と相性が良いはずなんだ。水が炎と相性が良いように。…冷静に『熱』を『氷柱』に送ってみて欲しい」

振り向き、思わず泣きそうになる彼へ、エピドートはつとめて冷静に、ゆっくり頷いてみせる。

アドバイスを受け、ロードナイトは深く息を吐き出した後表情を戻し、柄を掴む手へ意識を集中させ始めた。

…頼む、蒼矢に戻ってくれ……!!

すると、彼の意思に呼応するかのように手のひらから『熱』の力が溢れ出し、徐々に刀身へと伝わっていく。やがてゆっくりと地表が崩れ、ロードナイトの手により大剣が引きずり出されていった。

依然としておよそ人の手に扱えない重量の『氷柱』をなんとか抱え、ロードナイトはアズライトの元まで戻る。

横たわるアズライトの傍に、彼に並べるように剣を地に置いてやる。

すると、祈る彼の眼前でアズライトの左胸に浮かぶ刻印が淡く光を帯び、それに呼応するように再び刀身が青白く光り始めた。そして徐々にその実体は薄れ、氷の粒子となって刻印に吸い込まれていった。

「……!!」

ロードナイトが見守る中、長い睫毛が一瞬震え、閉じられていた目が薄く開く。ぼんやりと力無さげだったが、その双眸には確かに光が戻っていた。

「っ…、蒼矢……!!」

感極まったロードナイトは、思わず抱き起こして胸に寄せた。起き抜けに羽交い締めにされたアズライトは、状況についていけずわずかに戸惑うような表情をにじませる。

そんな二人の様子に、エピドートとオニキスも息をついて安堵した。

「…無事帰還出来そうだな」

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