あまりありふれていない役者で世界逆行 R18シーン集 作:田吾作Bが現れた
「じゃあ先に上がったらそこの休憩スペースで」
「わかりました。ではまた後で。皆さん」
あてがわれた部屋に一度戻り、温泉街やここ最近のことなどで両親と恵里は話をしていた。しかし、そろそろ日が暮れたことからお風呂に入らないかと言われ、皆を誘って大浴場へと来たのである。
そして一同は男湯と女湯で別れ、温泉トークで盛り上がる親達と一緒に恵里も更衣室へと入っていく。
「ねぇ恵里、恵里も温泉ってはじめてだよね?」
「何、いきなり……? そりゃ、初めてだけど」
そわそわして落ち着かない様子の鈴にそんなことを質問され、恵里は心の中で苦い顔をした。こういう質問の時の鈴は適当にはぐらかしても大体不機嫌になるか、やっぱりかといった表情になる。前々から思ってはいたのだが、何か見透かされているようで恵里としてもなんとも言えない気分になる。出来れば鈴にやらないでほしいことの一つとなっていた。
しかし、本当のことを言う訳にもいかず恵里は嘘をついた。すると一瞬真顔になった後、むくれた様子で歩いていく。
「ねぇ鈴、どうしたの? いつもこういう質問するとそういう顔したり、すまし顔になる癖に何も言わないじゃんか」
「……べつに。恵里がかくし事してるのと同じだもん」
それを言われると恵里としても苦しく、もやもやしたものを抱えながら歩いていく。その際親達からどうしたのかと尋ねられるも鈴と一緒にごまかし、空のロッカーを探す。中々自分が使うのにちょうどいい位置のロッカーが空いておらず手間取ったが、ようやく見つけたそれの前に立つと来ていた服を脱いでいく。
「え、恵里。ちょ、ちょっとぬぐの早いよ!?」
「いや、だって鈴。脱がなきゃお風呂入れないでしょ」
「だ、だって……こういうところはじめてだもん。他の人に見られると思うと、なんかはずかしくて」
まだ十歳にも満たない体であるためブラジャーもなく、ただ自分の服と下着を脱いでいくだけであったためすぐに自身は裸になったのだが、いきなり声をかけてきた鈴はまだ服を脱ごうとしていなかった。
「大丈夫。ほら、春日さんも私のお母さんだって脱ぎながら話してるんだから。みんなやってるから平気だよ。いつものお風呂と同じだよ」
「え、そ、そうだけど……」
とはいえ鈴の言い分を聞いて恵里は納得していた。確かに経験がなければこういうのは恥ずかしいかもしれない。だから上手いこと言いくるめ、鈴の脱衣を恵里は促していく。
「あ、鈴ちゃん? 大丈夫だよ。みんな裸だから、鈴ちゃんが裸になっても恥ずかしい事じゃないからね」
「ほら、春日さんも言ってるよ。もう私は全部脱いだから」
「う、うぅ……わ、わかったってば……」
自分たちのやり取りに気づいた春日からも声をかけられ、遂に観念した鈴は自分も服を脱いでいく。自分の知っているあの鈴だったらすぐにすっぽんぽんになって自分たちにセクハラをしてくるであろうことを考え、やっぱり違う世界なんだなと思いながら恵里はロッカーの扉を閉めて鍵をかける。
そして扉を閉めたっきりの鈴にも鍵をかけるよう促し、まだ少し恥じらいのある鈴の手を引いて大浴場へと向かうのであった。
(何度見ても信じられないな。これがボクの体なんて)
お風呂に入る前に体を洗うため全員で近間の洗い場に向かった時、鏡に自身の姿が映った恵里はそんなことを思った。
鈴やここに来ている他の子と大差ない、まだくびれのないイカみたいな体型をしている少女が自分であるということに恵里は未だ慣れていない。頭の中に浮かぶのはあばら骨が浮かぶ貧相な体をした自分の姿である。
親の虐待のせいで満足に食事もとれず、あの女がいなくなってもちゃんとした食事をとらなかったせいでガリガリであった自分がこんな体つきになったのかと思いながら恵里は髪の毛を洗う。
食事は腹を満たせればいいとコンビニ弁当などを食べていたが、髪ばかりは昔から手を抜いていない。光輝に群がる他の女に見比べられないためにこれだけはしっかりと手入れをしているのである。
(ん、これでいいかな。後はリンスを……)
シャンプーを丁寧に洗い流し、リンスを髪につける。いつも家で使っているものと違うから合うかどうか少し不安にはなるものの、かといってやらなければ髪が痛む。まだ七歳だからそこまで気に掛ける必要はないのだろうが、幸に普段から髪を大切にするよう普段から言われている。それにこの頃からやっておけば中学、高校となった頃に蓄積しているダメージも少ない。
(髪は痛んでいるより、ツヤがある方がいいしね。それにハジメくん、も……いや、なんで!? ど、どうしてハジメくんが出て……?)
髪に染みこませたリンスを流している途中、手元が狂う。ハジメの顔が不意に浮かぶと手の動きが止まったり、ふと思いをはせてしまうのがここ最近の悩みの種であったが、ここでもそれは起きるらしい。シャワーから出た水が床を打つ音が耳を素通りしていく中、恵里は荒れた呼吸を整えようと深呼吸を繰り返す。
「? どうしたの恵里? 何かあった?」
「……なんでも、ないから」
隣で頭を洗っていた鈴から話しかけられるも、恵里は首を横に振るしか今は出来ない。何度か荒い息を吐いてからまたリンスを流す作業に黙って戻った恵里は、どうしてか緩みそうな口元を必死になって固く結ぶのであった。
「ねぇ、鈴。そんなに髪伸ばして手入れ面倒じゃないの?」
「ん~、なれるとそこまでじゃないよ。それより恵里はもっとのばさないの? きっと似合うよ」
髪の毛をお互い洗い終え、体を洗う段になってから始まった恵里と鈴のトークの話題はお互いの髪のことに移っていた。恵里は二の腕から指先、鈴は膝からくるぶしまでを石けんをつけたタオルで撫でるように体を洗っている。
「いや、別にいいよ。伸ばしてはいるけど、今でもちょっと手入れが面倒だし」
まだ毛の生えていないつるつるの腋のくぼみを丁寧に洗いながら恵里が答えると、鈴は足先を洗いながらつぶやいた。
「ふーん、そっか……ハジメくんがさ、かみの毛がどれくらい長い子がすきなのか気になったから」
その一言に恵里の手が止まった。確かにこの事は聞いた覚えがなかったため、恵里としても気になってしまったのだ。
「……そ、そう。じゃあ鈴はさ、その事でハジメくんに何か言われたことある?」
生唾を飲み込み、鈴に尋ねてみるも首を横に振るだけであった。
「鈴もそういうの言われなかったよ。恵里だったら聞いてるんじゃないかなって思ったんだけど」
未だハジメを狙っている節が見られるのは苛立たしさを感じるが、それはひとまず横に置いておく。とりあえず鈴もハジメの好みはわからないようであった。なら後で鈴にはわからないようこっそりと、口止めを頼んだ上でハジメに尋ねてみようと恵里は考える。
蛇口を捻ってシャワーで体の泡を流し、痛めず、かつ入っている途中で解けてしまわぬように髪を程よい加減で結ぶ。最後に鏡を見て正面、横と確認してから洗面器と桶を元あった場所に戻して席を立った。
「あ、もう終わったの? ちょっとまってて」
「うん。あ、良かったら髪結ぼっか?」
「できる? ならお願いしていい?」
いいよ、と短く返して鈴の髪も結ぶと、洗い場で話をしていた親たちに先に入る旨を伝え、手を繋いで一緒に空いている温泉へと向かった。
「あ~、きもちいいね~えり~」
「ふふ、そうだねぇ~すずぅ~」
仲良く隣り同士でお湯につかり、大きく息を吐く恵里と鈴。湯加減は絶妙で、昼間の疲れが全て溶けて出ていくかのような心地であった。
「もう、恵里ったら。よっぽど気に入ったのかしら」
「ふふ、かもしれませんね。鈴ちゃんも気持ちよさそうにしてるし、私も……うん。菫さんも幸さんもここに入りませんか。いいお湯ですよ」
「あら、春日さんってこういうの好きなの? それじゃあご相伴させてもらうわよ~」
浴槽の
「あ、お母さん」
「いいお湯だね鈴ちゃん。もしかして気に入った?」
「うん。テレビとかできもちいいって聞いてたけど、ホントにいいよぉ~」
鈴もまた縁にもたれながら答えると、春日も笑みをこぼす。
「恵里も気持ちよさそうにして……温泉が好きになったみたいね」
「うん、好き……きもちいいね」
隣に腰かけてきた母からの問いかけにも恵里は表情を緩めて答える。前の世界であれば風呂につかっていてもこんな風に心が休まることなどなかっただろう。だがここは違う。光輝のことであれこれ頭を悩ませることもなく、ただ純粋に楽しめる。
親達の世間話をBGMに何も考えず、ただ全身がじんわりと温まっていく感覚に身をゆだねていると、菫が不意に妙なことを口走った。
「恵里ちゃんも鈴ちゃんも幸せそうねぇ~……ハジメがいたらもっと嬉しかったりしてね」
その一言を聞いた途端、恵里の頭の中は真っ白になった。どうしてここでハジメくんの名前が出てくるのかと考えるも、ぐちゃぐちゃになった頭ではマトモな考えは何一つ浮かんできてくれやしない。
「もう、菫さん。流石にハジメ君だって恥ずかしがりますよ。足湯のことを忘れたんですか?」
「そうですよ。あんないい子を母親であるあなたがからかっちゃいけませんって」
「いいじゃない。ちょっとした冗談よ、冗談」
口の乾き、早鐘を打つ心臓に意識をとられ、話なんて何一つ恵里の頭には残りやしない。浮かぶのは全身を赤く染めて自分の隣に座る彼の姿だけ。露わになった自分の胸元や顔をチラチラと見てくるハジメの姿を幻視してしまい、もう恵里の意識は真っ白に染まりかけていた。
「ぶくぶくぶく……」
「あ、あぁっ!? す、鈴ちゃん!? お、溺れる! 溺れちゃう!!」
「あ、あら? ちょ、ちょーっと、やり過ぎたかしら?」
「どう考えてもやり過ぎです! あぁ、もう。恵里! 恵里もしっかりしなさい!」
薄れゆく意識の中、恵里は思う。前言撤回。この