メイド長は見てしまった アズールレーン、母校のある日 作:ざぎねぅ
この資料は少し苦い話よ。
セイレーンに対抗すべく作られた兵器、KAN-SEN。その中でもロイヤルで製造されたものが兵役する母校では、毎日兵器には似つかわしくないような優雅な生活を送っていた。そのトップである指揮官は日頃の激務をこなし、なんとかロイヤルの人々、そしてKAN-SEN達を導いていた。
そんな彼でも少しくらい休む暇はある。これは、そんなある日の話である。
母校の中央には、KAN-SENが寝泊まりする寮的なものがある。もちろんその一角には指揮官用の部屋がある。彼の部屋は1階の端、そして窓からは美しく花が咲く広い庭が見える。彼が母校での仕事をこなせる理由の一つとして、この庭の景色があるからと言っても過言ではないだろう。
そして今日も、そんな美しい景色を作ってくれているヒトがいた。指揮官がその人物に会ったのは、昼下がり。今日の仕事も一旦段落がついた頃、散歩がてら庭をゆっくりと歩いていた時だった。
花壇に向かって作業している姿に近づく。彼女はベルファスト。指揮官が着任した時から彼のお世話も行なっていて、接した機会の多さなら、この母校で1番多いのではないだろうか。彼女は近づく指揮官に気付いたようで、振り返ると彼の姿を確認し、すぐさま敬礼をした。流石メイドか、その姿は美しいと思えるほど完璧だ。
ーお疲れ様です。ご主人様!
ーはは、そこまで固くならなくていいよ
指揮官はパッと敬礼を返しつつそう言う。
ー今日は庭のお手入れかい?
ーはい。この景色はいかがでしょうか
ーああ、とても良いよ。いつもこの庭の景色で癒されていてね。このおかげで仕事も捗る。ありがとう、ベルファスト
指揮官のそんな言葉で、ベルファストの心は暖かくなる。セイレーンとの過酷な戦闘もある中、このように労いの言葉を掛けてもらえるのは、1人のメイドとしても嬉しい事だった。
ベルファストは最近思い至り、指揮官に何かプレゼントでも渡そうと考えていた。
母校に彼が来てどのくらい立ったか、彼と接していく中で、ベルファストの中で指揮官の存在はだんだんと大きくなっていた。そんな中で彼に渡そうと思っているのは、いつもエリザベスに作っているクッキーだ。お茶会の時は彼女に必ずそのクッキーを作ってくるように言われている。エリザベスが言うには、ベルファストの作るクッキーは世界一美味しいのだそうだ。
そんな王女のお墨付きも貰えているものを彼にも食べて貰いたい。そして、美味しいと言って貰いたかった。
そんな彼女に指揮官は言う。
ーさて、俺もそろそろ仕事に戻らなくては。ベルファスト、引き続きよろしく頼むよ
ーはい
ベルファストはカーテシーをして、指揮官を見送った。
3時頃。そろそろエリザベスのお茶会の時間だ。ベルファストはいつも通り紅茶やクッキーを作り、エリザベスやイラストリアスなどが待つ庭へ運んでいく。指揮官にプレゼントするためのクッキーは同時に作って、袋に入れておいた。なんだか彼に余り物を渡すような感じがしたが、気にしないようにした。
ーそれじゃ、今日のお茶会を始めましょ
エリザベスの声と共に始まったお茶会は、いつも通り静かに、優雅に進んでいった。ベルファストは指揮官へのプレゼントで気持ちが高まって、いつもよりお茶会の時間が短く感じた。
夕日が沈み、母校は月と星の輝きに照らされていた。ベルファストは昼過ぎに作った、クッキーが入った袋を大切に持ち、指揮官のいる部屋に向かっていた。彼女の心は、彼の部屋に近づくほど高まっていった。
彼の部屋の扉が目の前に来た。取手に手を掛けようとすると、聞こえてきた。
ーし、指揮官さま、これは…?
イラストリアスの声だった。
ー俺の気持ちだ。受け取って欲しい
気持ち。受け取る。
何が起こっているんだ。そう思った時には、足が庭の方に向かっていた。庭からなら、彼の部屋が覗けるから。
彼の部屋の中は、カーテンが閉じられていて見えなかった。しかし、彼の姿は見えた。部屋の明かりで、カーテンの右側にその影があったから。イラストリアスの姿も見えた。部屋の明かりで、カーテンの左側にその影があったから。
その影は重なった。
あそこにいるのがなぜ自分では無かったのだろうか。自分がメイドだからか。イラストリアスはロイヤルの貴族だから、彼に選ばれたのか。考えても分からなかった。
ーご主人様……やはりただのメイドでは…いけないのでしょうか…
ただのメイドは壁の影に身を隠し、愛し合う2人から見えない所で、頬を濡らすしかなかった。両手に持っている袋を握りしめても、どうにもならなかった。
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