新世界の第3村で、愛を育む二人(LRS) 作:ハル(LRS活動推進中)
前半は、マリがどうしてシンジを助けたのかということを自分なりの解釈で書いています。
貞エヴァからも設定を取り入れています。
後半は鈴原家。
自分の身体の変化に戸惑うレイ。
次回、再会です!
「ふ〜。歩いてたら結構乾いたね。
今日はここで一休みしよっか」
海辺を発ち、GPSを頼りに半日歩き続けて、辺りが暗くなる前に今夜の宿を探した。
街灯も全くなく、真っ暗になると歩くことができなくなってしまうためだ。
崩れた道路の脇に建てられていた屋根のあるバス停が目に止まり、今夜はここで過ごすことにした。
とりあえず服は乾いたので、裸にならなくて済みそうだ。
先程マリさんが言っていたのは冗談かもしれないが、この人は本当にやりそうだなという警戒心もあった。
バス停のベンチに腰掛け、赤紫色に染まっていく空を見つめる。
「生きててよかったにゃあ」
同じく空を眺めていたマリさんが、しみじみと噛み締めるように言った。
「生きていこうと思えばどこだって天国になるからね。だって生きてるんだから。幸せになるチャンスはどこにだってある」
どこか懐かしい言葉。僕ははどこかで誰かからこの言葉を聞いたことがあるのかもしれない。
「シンジ君」
一つ離れたベンチに座っていたマリさんが、ずい、と近付いてきた。
そして、手を広げて僕を抱きしめた。
「マ、マリさん!?」
胸を押し付けられる感触に戸惑いながら、体を硬直させる。
「ありがとう、シンジ君。」
マリさんは僕の胸に顔を埋めながら、言葉を続けた。
「君は頑張ったよ」
感謝の言葉。労いの言葉。
誰かに認めて欲しかった。
自分のしたことは間違ってなかったと言ってほしかった。
その言葉に込み上げてくる想いが溢れそうになったが、ぐっと堪えた。
「あれ、泣かないんだ」
マリさんは顔を上げると、僕の顔を覗き込みながら不思議そうに言った。
……この人は僕を泣かせるためにわざとさっきの言葉を言ったんだろうか。
「……泣かないって決めたから」
「ほ〜、そうかそうか。強くなったねえ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、マリさんは離れていった。
マリさんは非常用ポーチから水とレーションを取り出し、半分に分けて僕に渡した。
「ありがとう。僕は少しでいいよ」
一欠片を貰い、残りをマリさんに返す。
「そう?じゃあ私が貰っちゃうよ〜」
乾燥した固形物を少しずつかじりながら、僕は先程から抱いていた疑問をマリさんにぶつけてみることにした。
「……さっき言ってた"約束"って何?」
マリさんが浜辺で僕を迎えに来た時に言っていた言葉。
僕との約束ではなく、誰かとの約束という言い方だった。
その約束の相手のことが何故か気になっていた。
「ん〜、ちょっとねぇ。君のお母さんとね」
「母さんと?」
まさかの言葉に驚きを隠せなかった。
「まあ約束っていうか、私がそうしたかったからそうしてるだけって感じだけど」
マリさんは、母さんと繋がりがある?
裏宇宙で父さんの心の中を見ることができた。
一瞬だけど、母さんと会うこともできた。
でも僕には、母さんのことがほんとんどわからず仕舞いだった。
「……母さんは何をしようとしてたの?」
「ユイさんはねえ、人類を幸せにしようとしてたんだよ」
慈しむような顔で、遠くを見つめながらマリさんは言った。
「最初はみんな同じ目的だった。
研究をしていたのも、エヴァを作ったのも、全部人類のため。
でも、色々変わって来ちゃったからね」
「私はユイさんの想いを継ぐことにしたの。
大事な息子である君を守りたいという想いも一緒にね。」
「だから、私はゲンドウ君と冬月先生を裏切った。
ユイさんの願いを叶えるために。」
マリさんのこれまでの不可解な言動も、僕を大切にしてくれている理由も、全てが繋がった気がした。
きっとマリさんは母さんを慕っていたんだ。
だから、母さんのために、僕のために、自分自身の願いのために行動していたんだ。
そして生まれたもう一つの大き過ぎる疑問。
「……マリさんっていくつなの?」
「女に年齢を問うのは禁句だぞ☆」
ペロッと舌を出してウインクを送られる。
いつものマリさんのテンションに戻っていた。
「ありがとう、マリさん」
こちらも笑顔で返し、夜空を見上げた。
明かりひとつない暗闇の中、満点の星が空を埋め尽くしていた。
真っ暗になることを覚悟していたが、星と月の明かりで辺りは青白く輝いていた。
この星空を綾波と一緒に見たい。
綾波は今、どうしているだろうか———
***
洞木さんに借りた部屋着に袖を通し、夕食の支度の合間にツバメと戯れる。
しばらくすると、この家の主が帰宅した。
「ただいま帰ったで〜!
ん?そちらはそっくりさん?じゃなくて……どちらさん?」
「おかえりあなた。こちらは綾波さんよ」
「……鈴原君」
「え!あの綾波か!!
えらい髪伸びはったな〜!」
鈴原家の皆は、私を不思議なくらいすんなりと受け入れてくれた。
多くを問わず、ただありのままの私を受け入れてくれた。
暖かい食事。誰かと一緒にとるあたたかな食事。
ひとつひとつ口に運びながら、この小さな喜びを噛みしめた。
食後の食器洗いを手伝おうとすると、ツバメの寝かしつけをお願いされた。
寝室の布団に寝かせ、ぽんぽんと背中を叩く。
14年の歳月を経た髪は、座ると床に広がる程に伸びていた。
ツバメはこの長い髪が気に入ったらしく、うとうとしながらもずっと毛先を握っていた。
しばらくして寝息が聞こえると……
ふにふにふに。
ツバメのふっくらとした弾力のある頬をつつく、至福の時間の始まりである。
『ツバメ、もっと抱っこしたかった。』
「私」の願いのひとつは叶えられた。
この数時間でさえ、何度もツバメを手に抱くことができた。
そして過去の記憶が蘇る。
以前この部屋で感じた、身体の異変。
自分の命が残り少ないことを知り、「私」はこの家を後にした。
身体の組織を維持するためにはメンテナンスが必要だった。
定期的に調整用のLCLに浸かり、注射をし、薬を飲み、ヒトの形を保つ必要があった。
常に身体にはだるさが残り、薬が切れると身体への負担は痛みに変化した。
そんな身体の不調を隠し、平静を装いながら日々を過ごすことには慣れていた。
なのに今は、そのだるさも痛みも全くない。
身体のひとつひとつの組織がちゃんと繋がっているような、この身体は自分のものだと明確に実感できるような、不思議な感覚。
——私は、"ヒト"になれたのだろうか?
つづく