新世界の第3村で、愛を育む二人(LRS) 作:ハル(LRS活動推進中)
そして二人の再会。
ある童話、或いは神話の記録———
むかしむかしある塔の中に、白銀の髪と緋色の瞳を持ったお姫様が住んでいました。
そのお姫様は魔女達の手によって生み出され、魔女達の目的のために生かされていました。
狭い塔の中で過ごしていたお姫様は、外の世界には興味を示さず、ずっと本を読んでいました。
ある日突然、塔の中へ王子様がやってきました。
王子様は魔女達に連れてこられたようで、何もわからず戸惑っていましたが、お姫様を見て優しく微笑みました。
王子様はお姫様に問いました。
「君はどうしてここにいるの?」
お姫様は答えました。
「ここでしか生きられないから。」
その後も、王子様は度々お姫様の元へやってきました。
王子様との触れ合いの中で、お姫様は少しずつ変わっていきました。
自分の中に生まれたあたたかな気持ちを知り、王子様にも自分と同じあたたかい気持ちになってほしいと思うようになりました。
ところがある日お姫様は、魔女達が目的のために王子様を利用しようとしていることを知りました。
そしてそれは王子様を傷付けてしまうことだと気付いたのです。
お姫様は王子様がもうここに来なくていいように、塔に入る唯一の窓を塞ぎました。
その後お姫様は、塔の地下にある更に深い穴の中へと閉じ込められてしまいました。
お姫様が暗い闇の底に落ちたことを知り、王子様はお姫様を助けに行きました。
閉ざされた窓をこじ開け、王子様を阻む魔女の力に傷付きながらも、王子様はお姫様に手を伸ばしました。
お姫様は、差し出された王子様の手を取りました。
そして力いっぱい引っ張り上げると、お姫様を助け出したのです。
王子様と一緒にいたい。そう願ったのも束の間、王子様は魔女の呪いにより跡形もなく消えてしまいました。
お姫様は塔の中で王子様を待ち続けました。
短かった髪は長く伸び、その年月を表すかのようにお姫様の体を覆いました。
お姫様は王子様の無事を祈りながら、いつまでもいつまでも、王子様を待ち続けました。
いつか名前を呼んでくれる、その時まで———
***
第3村で目覚めた、翌日の朝。
「おはよう、綾波さん。よく眠れた?」
洞木さんが寝室の雨戸を開けると、眩しい朝日が差し込んだ。
ツバメを背負いながらも、洞木さんはテキパキと布団を畳んでいく。
「昨日綾波さんのことを小母さんに連絡したらすごく喜んでてね、作業の時間になったら家まで迎えに来てくれるって」
昨晩、今日から早速農作業を手伝いたいという意志を伝えていたからだろう。
けれど、わざわざ迎えに来てくれるとは思ってもいなかった。
洞木さんは部屋の端に畳んである白いプラグスーツに目をやり、私に訪ねた。
「今日もそのぴったりした服を着ていくの?」
「ううん、もう着ないわ。
……もう必要ないから」
もう二度と、私がプラグスーツを纒うことはないのだろう。
碇君がエヴァのない世界を作ったのだから。
洞木さんから農作業用の作業服を借り、着替えをした。
「髪の毛、作業で汚れちゃいそうだから結ってあげようか」
洞木さんは私を椅子に腰かけさせると、櫛を手に取り背後に立った。
髪に櫛を通される、くすぐったいような感覚。
「すごいわね〜、よく妹の髪を括ってあげてたけど、こんなに長い髪に触るのは初めて」
楽しそうな様子で、洞木さんが続ける。
「編み込みにしてあげるわね」
器用に髪を分け、束を作り、引っ張りながら編んでいく。
「ふふっ、なんかラプンツェルみたいで素敵ね」
ラプンツェル。
幼少の頃に読んだ記憶がある。グリム童話の一節。
塔の中で王子様を待つ、長い髪のお姫様のお話。
「昔は憧れたなあ。いつか王子様が現れて迎えに来てくれるんじゃないかって」
物語の詳細の記憶は朧気だ。
確か、塔の中でお姫様と王子様が逢瀬をしていることを魔女に知られ、二人とも離れ離れにされるけれど、最終的に結ばれて終わる話だったような気がする。
王子様を待ち続けるお姫様。
そのお姫様の気持ちが、今は少しわかるような気がした。
髪を編み込み、ひとつにまとまったおさげにすると、更に帽子を被っても邪魔にならない位置で括ってくれた。
「うん、可愛い!」
「……ありがとう」
髪を結ってくれたことと、かわいいと褒めてくれたこと。
両方に対する感謝の気持ちを言葉にした。
朝ごはんの片付けをしていると、呼び鈴が鳴った。
洞木さんからお弁当を受け取り、玄関へと向かう。
ドアを開けると、小母さん達が揃っていた。
「そっくりさん!急に居なくなったって聞いたから心配してたのよ〜!」
「どうしたのその髪!急に伸びたの!?」
「でも長いのも可愛いわね〜!」
畳み掛けるように話しかけられ、勢いに圧倒される。
少し怯んでしまったが、ちゃんと御礼を伝えた。
「ありがとうございます」
この村に来るまで、容姿を褒められたことなどほとんどなかった。
いや、もしかしたらそのような言葉をかけられたことはあったかもしれないが、全く気にかけず無視をしていたような気もする。
そして小母さん達に会ったら伝えようとしていたことがあった。
「あの……私の名前。
私は、綾波レイ。」
小母さん達はずっと「私」のことを気にかけてくれていた。
"そっくりさん"ではない、本当の私の名前を知って欲しいと思っていた。
「あら!名前決まったのね!いい名前ね!」
「じゃあこれからはレイちゃんって呼んだらいいのね〜!」
手を引かれて小母さん達の輪の中に入り、皆で畑へと向かった。
***
一日の作業を終え、皆で共同風呂へと向かった。
脱衣所で髪の扱いに苦戦していると、小母さんの孫の小さな少女が「私にやらせて!」と声をかけてくれた。
しゃがんで膝をつき目線を合わせると、結われた髪をするすると解いてくれた。
湯船に浸かり、一日の疲れを落とす。
——気持ちいい。
昔一人で住んでいたときはシャワーばかりで、湯船に浸かることはほとんどなかった。
生温いLCLに浸かるのとも違う。
お風呂の気持ち良さは、ここでの「私」が初めて体験したことだった。
「あ、湯船には髪を浸けちゃいけないのよ〜」
「髪洗うの大変そうねぇ。手伝ってあげる」
小母さん達の手を借りながら、新しい体験を重ねていく。
みんな、優しい。
ここに戻って来れてよかったと、心から思った。
でも。
私は、碇君を探さなきゃいけない。
式波さんも、相田君のところに帰ったと聞いた。
碇君は今どこにいるのだろう……。
***
お風呂から上がり、タオルを肩に掛け、髪はそのままにしておいた。
今日収穫した野菜が入った籠を手に、鈴原家への家路につく。
空は赤く染まり、太陽は山間へと隠れようとしていた。
鈴原家に到着し、玄関の呼び鈴を押すと、洞木さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
ただいま、と言おうとしたそのとき——後ろから聞き慣れた声がした。
「綾波!!」
声の方へ振り向いた瞬間、誰かに抱きしめられた。
籠が手から離れ、野菜がこぼれ落ちる。
……碇君の匂いがする。
「綾波っ!」
「碇……くん?」
「綾波、綾波……っ!!」
碇君。
碇君が帰ってきてくれた。
私を抱きしめる力は、とても強く。
その肩は小刻みに震えていた。
もしかして、泣いているの?
「碇、君……」
籠を失い空いていた両手を、碇君の背にまわした。
温かな感覚が、頬をつたう。
私、泣いているの?
これは寂しいときの涙とは違う。
嬉しい。
いつか碇君が教えてくれた、嬉しい時に出る涙。
「あらあら、泣かないって言ってたのに都合のいいやつ。ま、嬉し涙は特別かにゃ」
少し離れたところから女の人の声が聞こえた。
「綾波、よかった……会いたかった……」
「私も……碇君……」
そのまま暫く、互いの体温を感じながら抱きしめ合った。
「なんやなんやみんな揃ってどうしたんや?お、シンジやないか!」
「トウジ!」
碇君はバッと顔を上げ、帰ってきた鈴原君の方を向いた。
私に触れていた身体を離し、照れた様子ではにかむ。
「ってかめっちゃイイ感じなとこ邪魔してゴメンな!ホンマ申し訳ない!」
両手を合わせ、大袈裟にお詫びのポーズをしている。
「とりあえず入った入った!みんな揃ったし今日は宴やな!」
二人まとめて鈴原君に肩を掴まれ、家の中へと押し込まれた。
つづく
お気に入り、感想、評価ありがとうございます。
シンエヴァを見て「二人には絶対に幸せになってもらわなきゃいけない!」と思い、執筆を始めました。
全12話ですので、しばらくお付き合いお願いいたします。