新世界の第3村で、愛を育む二人(LRS) 作:ハル(LRS活動推進中)
今回は糖度高めです。
トウジの家に住まわせてもらって、ひと月が経過した。
今は家の仕事もしっかりと分担ができている。
朝の時間は僕が朝食作りと洗濯物をやり、ツバメの世話は綾波が担当し、委員長には自分の時間をゆっくりと過ごしてもらうことにした。
朝食の献立は前々日から考え、必要なものを確認する。
第3村は家畜の数が少なく肉類は貴重なので、タンパク源は主に庭飼いの鶏の卵とKREDITから配給される缶詰の合成肉だ。
その辺りのアレンジには慣れていたから、苦労はしなかった。
ミサトさんやアスカと一緒に住んでいた頃は濃い目の味付けにしていたけれど、ご高齢のお父さんや赤ちゃんのツバメもいるので、今は健康志向の味付けにしている。
毎朝一口一口味わうように味噌汁を飲む綾波が印象的だった。
朝ごはんのついでに綾波と自分用のお弁当も作る。
トウジは「ワイは嫁さんの愛妻弁当や!」と言って、委員長のお弁当を毎日持って行っている。
綾波は相変わらず肉が苦手だが、コロッケや挽肉のカレーなど、肉感がわかりにくいものなら食べられるらしい。
栄養バランスも考えて、豆や卵で必要な栄養素を補った。
たまに小母さん達とおかずの交換などもしているようだ。
先日お弁当を持たせるのを忘れて畑まで渡しに行ったら、小母さん達に「あら!レイちゃんの旦那さんが来たわよ!」「愛妻弁当いつもご苦労様」とからかわれた。
また、綾波は稲刈りをとても楽しみにしていて、畑仕事の後に村の子供達と一緒に毎日田んぼの様子を見に行っているらしい。
今はやっと暑くなり始めた季節だから、収穫までにはまだ時間がかかりそうではあるけれど。
自分も働く場所を見つけるため、村の色々な仕事を手伝った。
復興支援では村の外の開拓をしていた。
以前L結界密度が高く踏み込めなかった領域で使えそうな物資を回収したり、重機で廃墟を整備して居住地域を広げたり。
リョウジ君に機材の使い方を教えてもらいながら作業に取り組んだ。
そして、ミサトさんとの再会。
「シンジ君!」
「ミサトさん!」
僕の方へ駆け寄ってくるや否や、ぎゅうっと力強く抱きしめられる。
後ろには笑顔のリョウジ君の姿。
リョウジ君は今までのことも全て聞き、ミサトさんと一緒に住むことを決めたらしい。
ミサトさんと一緒にKREDITの地球生物生態保存課で働くそうで、本部の方へ居住を移す予定だという。
ミサトさんにDSSチョーカーを外してもらうこともできた。
そしてマリさん。彼女は一時期研究者だったこともあるらしく、ミサトさん達の下で働くと言っていた。
最後に、トウジの病院。
患者は村の人たちだけなので、いつもはそう忙しくはないが、急に患者が増える時期がありそのときだけ手が足りなくなるらしい。
結局僕はというと、緊急時にトウジを手伝えるように医学の勉強をしつつ、復興支援の機材整備の仕事をメインとすることにした。
リョウジ君が抜ける予定の穴を埋める形だ。
ちなみに、綾波に「僕は何が向いてると思う?」と尋ねたら、少し考えた後「……お弁当屋さんがいいと思う」と回答をくれた。
お弁当屋さん……うーむ。
もう少し色々な食材が手に入るようになったら、考えてみてもいいかもしれない。
そんな楽しく充実した毎日は、あっという間に過ぎて行った。
***
綾波と僕との関係はというと、着実に距離を縮めていた。
家ではなかなか二人きりになれないので、たまに夜に抜け出しては心通わすひと時を過ごした。
出かける先は主に旧ネルフ跡地。
一緒に星を見たり、
手を繋いだり、
キスをしたり。
横に並んで座っていると、綾波が僕の肩に頭を乗せてくることもあった。
そんなときは綾波の髪を撫でたり、手を繋ぎながら湖に映る月を二人で眺めた。
僕達は、逢瀬の度に唇を重ねた。
——二度目のキスの記憶。
夜の散歩に出掛けた帰り際、勇気を出して立ち止まり声をかけた。
「あの……キス、してもいいかな」
まともに綾波の顔を見ることもできず、そんな提案をする僕はさながら男女交際を意識し過ぎている男子中学生そのものだった。
けれどその通りなのだから否定はしない。
「うん」
綾波は一言返事をすると目を瞑り、僕からのキスを待った。
肩に手を置き、ちゅっ、と触れるだけのキスをして、照れながら二人で笑い合った。
——三度目のキスの記憶。
「キスしてもいい?」
前回のように帰り際ではなく、会話をしている最中にふと沈黙があり、視線が合ったタイミングで提案をしてみた。
「うん」
湖に向けて足を揃えて座っていた綾波が、身体をこちらへ向き直した。
目を瞑り、口付けを待つ綾波。
その姿がとても愛おしくて、暫く眺めてしまった。
「……碇くん?」
なかなか行動を起こさない僕を不思議に思ったのか、綾波が目を開ける。
その瞬間に、唇を塞いだ。
「んっ」
一瞬、紅い瞳をほぼゼロ距離で見ることができたが、綾波はすぐに目を瞑り、僕に身体を委ねた。
その間は数秒だったようにも、もっと長かったようにも感じた。
唇を離すとき、なんだかとても名残惜しい気がして、綾波の薄く膨らみのある唇にもう一度ちゅ、と軽く触れた。
戸惑い、照れている綾波が可愛い。
少し余裕が出てきている自分もいた。
——四度目のキスの記憶。
今まではキスをするのに承諾を得ていたが、もうその言葉は不要になっていた。
会話がひと段落して、じっとこちらを見つめてくる綾波。
お互いにどちらからともなく顔を近付け、自然と唇が重なった。
暫くして顔を離すが、そのまま距離が開く前にもう一度唇を触れさせた。
触れ合い、離れ、引き止める。
そんな行為を何度か繰り返した。
鼻先を触れさせたまま、目を開けて至近距離で見つめ合う。
愛しい。
もっと触れたい。
もっとキスがしたい。
紅い瞳の中に僕と同じ気持ちを感じ取り、その行為を続けた。
互いの唇をはむように、何度も、何度も。
その日、僕たちは沢山のキスをした。
——五度目のキスの記憶。
……五度目といってももう、回数では数えられないくらいのキスをしたけれど。
ちゅっ、ちゅ、と唇ををついばむような浅いキスを繰り返していたとき、綾波の閉ざされていた唇が薄く開いていいるのに気が付いた。
その隙間になんとなく舌を滑り込ませてみる。
「!!」
綾波は驚いたのか、一瞬ビクッとして身を引いてしまった。
ぱちくりと瞬きをして、こちらを見ている。
「ごめんない、ちょっとびっくりして……」
「あ、変なことしてごめん……」
たしかに今までのは唇を触れ合わせるだけの「キス」という感じのものだったけれど、舌を入れるのは全く違う段階の行為のようにも感じていた。
ちょっと早まってしまったかなと反省していると、綾波が僕の袖を引き、俯き気味に答えた。
「……大丈夫。
続き……してほしい」
期待と不安が入り混じったような、恥じらうような表情の綾波。
そんな風に言われたら、男として後に引くわけにはいかない。
ごくりと唾を飲み、覚悟を決めて向き直った。
綾波の顎に触れ、少しだけ口を開かせる。
そのまま唇の形を合わせ、もう一度舌を入れてみた。
「んっ……」
可愛らしい小さな声と吐息が漏れる。
身体を強張らせたまま、一生懸命に僕を受け入れようとしているのを感じた。
僕の舌に綾波の歯が当たり、その奥にある柔らかなものを探り当てる。
何度か舌先でつついてみた。
はじめは動きのなかったそれも、少しずつ反応があり、意思を伴って絡め返してくれるようになった。
粘膜同士が触れ合うその生々しい感触に、身体が熱くなる。
これは、危険だ。
作法が合っているのかすらわからない。
洋画とかだともっと全身を使って激しく貪り合っていたような気がするが、そんな大層なものではなく、身体を固定したまま舌を動かすので精一杯だった。
それでも、脳髄を痺れさせるには十分な刺激だった。
「んっ、ん……」
吐息が漏れる。
お互いに息が荒くなっているのを感じた。
これは息が続かないことによる酸素不足か、それとも興奮によるものなのか。
逃げる舌を追い、捕らえ、絡め合った。
ちゅくちゅくと漏れ聞こえる唾液の音すらも、耳からの刺激となって理性を揺さぶる。
暫く続けていると綾波の身体がふるふると震え出したので、顔を離した。
「はあっ、はぁ、はぁ……」
酸素を求め荒く呼吸をし、息を整える。
綾波が瞳を潤ませながら、驚いたような顔でこちらを見ていた。
「いまの、なに?」
「え?」
「今までのと全然違う……」
「えと、大人のキス、みたいなやつかな……多分……」
ディープキスと言ってしまうのもデリカシーがないように感じたので、控えめに答えてみる。
とはいえ、お世辞にも上手くできたとはいえない出来だったと思う。
「なんだか、身体が熱くて……変な感じになった」
綾波は顔を赤らめながら、自分の身体をきゅっと抱いた。
それは綾波も興奮してくれていたということだろうか。
その仕草を見て、自分の中の欲望が理性に勝ってしまいそうな危険を感じた。
けれど、綾波との関係は大切にしたい。
湧き上がる欲を制し、無理矢理押し留めた。
「あの……今日はもう帰ろうか」
「?……わかった」
突然の提案に綾波の少し残念そうな顔を見た気がするが、はたしてそれは彼女の意思か、自分の願望がそう見せただけなのか。
でももうこれ以上は無理だ。
実際に身体の一部が反応し始めていた。
これ以上進んだら収拾がつかなくなる。
いつも他愛のない会話をしながらの帰り道も、この日は無言で手を繋いだまま歩き続けた。
——そして翌日、僕達の生活を大きく変える出来事が起こることとなる。
つづく