新世界の第3村で、愛を育む二人(LRS) 作:ハル(LRS活動推進中)
キスしてるだけ!その2。
第6話と全く同じ話を、今回はレイ視点で書いています。
同じ行為をしていても、同じことを思ってたり、違うことを考えてたり。
私たちが鈴原家に住まわせてもらうようになって、ひと月が経過した。
朝は洞木さんにゆっくりしてもらうため、私がツバメのお世話を担当させてもらうことになった。
おしめの替え方を教えてもらったり、童謡を教えてもらったりして、遊び方を増やしていった。
朝ごはんは碇君の担当。
碇君のお味噌汁を毎朝飲む度に、生きている幸せを感じる。
お昼も碇君の手作りのお弁当を食べる。
材料の種類は少ない筈なのに、いつも色とりどりの違うおかずが詰められている。
お味噌汁を作るのにも苦労していた私には、どうしたらこんな風にできるのかが不思議でならなかった。
私が忘れたお弁当を、碇君が畑まで持ってきてくれたこともあった。
小母さん達の碇君の印象も、以前塞いでいた頃の彼からは変わってきたようで、彼の人当たりの良さや料理の腕を褒めてくれる度に、何故か私が嬉しく感じていた。
「レイちゃん、もうシンジ君と縁組しちゃったら?」
「縁組?」
縁組とは婚約をするということだろうかと一瞬思ったけれど、それだけではないらしい。
縁組して家族扱いになると支援物資も増え、色々なサポートが受けられると教えてもらった。
この村では他人でも縁組をしている人もいて、大して珍しいことではないそうだ。
一応そういうものがあるということだけ、心に留めておいた。
そういえば、職探しをしている碇君に「僕は何が向いてると思う?」と聞かれたので、しばらく考えてから「お弁当屋さんがいいと思う」と答えた。
すると「それもいいかもね」と笑って流されてしまった。
私はかなり真剣に答えたのだけれど。
みんなが碇君のお弁当を食べたら、みんなポカポカできるのに。
季節も変わり、田んぼの苗も段々と青く茂ってきた。
最近畑仕事を終える時間になると、いつのまにか子供達が集まってきている。
その子達と手を繋いで歩きながら、田んぼの様子を見に行くのも楽しかった。
そんな幸せで充実した日々は、瞬く間に過ぎて行った。
***
碇君と私は着実に距離を縮めていた。
家ではなかなか二人きりになれないので、たまに夜に抜け出しては旧ネルフ跡地で二人の時を過ごした。
星を見て宇宙に想いを馳せたり、
手を触れ合ったり、
唇を重ねたり。
並んで座っていると、ふと碇君の温もりを感じたくなり、彼の肩に頭を乗せることもあった。
すると碇君が私の頭を撫で、手を取り、指を絡めてくれた。
彼の体温を直に感じられることが幸せだった。
私達は逢瀬の度に唇を重ねた。
——二度目のキスの記憶。
夜の散歩に出掛けた帰り際、碇君から声をかけられた。
「あの……キス、してもいいかな」
彼は視線を合わせず、照れ臭そうに言った。
「うん」
二人が再会した日の夜、ここで初めてのキスをした。
もういちどあの温もりを感じたい。
そう思っていたから、碇君から提案してくれたことが嬉しかった。
私は目を瞑り、彼からのキスを待った。
肩に手が触れ、ちゅ、と軽く唇が触れ合う。
一瞬のことなのに、身体がポカポカする。
キスの後に照れる碇君が可愛らしく見えて、二人で笑い合った。
——三度目のキスの記憶。
湖の方を向いて並んで座り、碇君とお話をしていた。
ふと沈黙があり視線が合ったとき、彼から提案があった。
「キスしてもいい?」
もしかして、切り出すタイミングを考えていたのだろうか。
「うん」
身体を碇君の方へ向き直し、目を瞑った。
……なかなか来てくれない。
「……碇くん?」
何かあったのかと思い目を開けると、突然唇を塞がれた。
「んっ」
驚き、目を瞑ってしまう。
でも一瞬見えた碇君の深い蒼い瞳を、もっと見ていても良かったかもしれない。
ずっと触れていたかったから、手を彼の背にまわした。
その間は十数秒で、私にはもの足りなかった。
離れていく唇にとても名残惜しい気持ちになり、もっとしたいと思ったそのとき、もう一度彼から、ちゅ、と軽く触れてくれた。
私の気持ちを見透かされたようで、少し恥ずかしかった。
碇君はそんな私を見てニコニコと微笑んでいた。
——四度目のキスの記憶。
昨日の続きがしたい。
もっと何度もしてくれてもいいのにと、そんなことを思っている自分がいた。
14年間初号機の中で、私は自分が求めるものは何かずっと考えていた。
私は碇君と一緒にいたかったけれど、私の願いよりも彼の願いを叶えることを優先した。
私の願いはその次でいいと思っていた。
けれどこの村に来て、碇君と再開して、想いを伝えあって……私は自分の欲望が溢れ出てくるのを感じた。
碇君の側にいたい。
碇君に触れたい。
……碇君と、ひとつになりたい。
それはまるで、長い間堰き止められていた川が溢れ出すかのように。
私は自分が思っていた以上に欲張りだった。
そんな気持ちで碇君を見つめていたからだろうか。
彼と目が合い、そのまま時が止まる。
彼の瞳に私が映っている。
お互いにどちらからともなく顔を近付け、自然と唇が重なった。
暫く口付けを交わし、唇が離れる。
もう終わってしまう……と思ったとき、彼が私を引き寄せ、再び唇が触れ合った。
また離れて、触れて、もう一度触れて……
そんな行為を何度か繰り返した。
鼻先を触れさせたまま、目を開けて至近距離で見つめ合う。
好き。
もっと触れて欲しい。
もっとキスがしたい。
蒼い瞳の中に、碇君の願望を見た。
私と同じ気持ち。
二人の秘め事を互いに承諾するかのような目配せをして。
何度も、何度も。
その日、私たちは沢山のキスをした。
——5度目のキスの記憶。
……5度目といってももう、回数では数えられないくらいのキスをしたけれど。
軽く指を絡め、前回のように唇を何度も触れ合わせるキスをしていると、突然、碇君が舌を滑り込ませてきた。
「!!」
つい行為に集中していたため、慣れない感触に驚いて身を引いてしまう。
「ごめんない、ちょっとびっくりして……」
「あ、変なことしてごめん……」
失敗した。
一瞬身構えて引いてしまった私が悪いのだけれど、碇君のことだから、ここで止めてしまってはもう同じことを二度としてくれないのではという不安すら覚えた。
ここで終わらせたくない。
ばつが悪そうに俯いている碇君の袖を引き、私の方から要求の言葉を伝える。
「……大丈夫。
続き……してほしい」
正直なところ、不安もあった。
初めてキスをした時から、私は明確に表れた自身の欲の形に気付いていた。
これ以上のことをしてしまうと、私は私を止められないのではないか?
碇君は覚悟を決めたように頷くと、私の顎に手を添えた。
優しく口を開かれ、その形に合わせるように彼の唇が重なる。
熱く、柔らかなものが私の口内へと入ってきた。
「んっ……」
図らずも声が漏れる。
身体が強張る。
どのように受け入れたらいいのかわからず、ぎこちなく口を開けた。
碇君の舌が、私の舌に絡みつく。
最初は動きが読めず、されるがままになっていたけれど、私の方からもその動きに合わせて舌を絡め返せるようになった。
粘膜同士を押し付け合う、生々しい感覚。
唾液が溢れそうになり、こくんと飲み込んだ。
……碇君の味がする。
「んっ、ん……」
互いの舌と唾液が絡み合い、粘度の高い音が月夜の静寂の中に響いていた。
吐息が漏れ、お互いに荒くなっていく呼吸を感じる。
心臓が早鐘を打つ。
戦いの中でもこんなバイタルになった経験はなかった。
息継ぎをしても間に合わず、彼のペースで口を塞がれる。
碇君の温もり、碇君の匂い、碇君の味。
今、碇君と繋がっている。
ふとその事実を認識したとき、後頭部から脊髄へ痺れるような刺激が走った。
身体がぞくぞくと疼くのを感じ、思考が朦朧としてくる。
すると、繋がっていたところが離れてしまった。
「はあっ、はぁ、はぁ……」
身体が酸素を求め、荒く呼吸をする。
私の知らない感覚。
初めての刺激。
「いまの、なに?」
「え?」
「今までのと全然違う……」
「えと、大人のキス、みたいなやつかな……多分……」
それは知ってる。ディープキス。
文学の世界では、男女の関係では珍しくもなく出てくる行為。
私が聞いたのは行為の名称ではなくて、この感覚について。
頭が痺れるような、触られていないのに身体が疼くような、不思議な感覚。
「なんだか、身体が熱くて……変な感じになった」
本を読んでいると性の描写に出会うことも少なからずある。
けれど性欲というもの自体を感じたことがなかったから、「そういうものがある」程度にしか思っていなかった。
だけど、多分きっと、これがその感覚なのだろう。
自身の腕を掴み、まだ余韻の残る感覚を思い出す。
碇君は私の様子を見て何かを感じたようで、目を伏せて声を絞り出した。
「あの……今日はもう帰ろうか」
「?……わかった」
突然の言葉に少し戸惑いを覚えたが、その提案に承諾した。
碇君に手を引かれ、無言のまま帰路につく。
夜風に当たっても先程の身体の感覚がまだ抜けない。
『碇君と一つになりたい』。
私が抱いていたその願望はまだ漠然としたものだったけれど、もしかしたらそれは、とても気持ちのいいことなのかもしれない。
だって、まだキスしかしていないのに。
この先まで行ったらどうなってしまうのか……。
私は、それを早く知りたいと思った。
帰り道、碇君は真剣な顔をして、何かを考えているようだった。
彼は今何を思っているのだろう。
次はちゃんと、今日の続きをしてくれる?
——いつか、碇君と私が身体を重ねる日は来るのだろうか。
なんとなく、そんな日も遠くないような気がしていた。
つづく
実は、6話と7話は全く同じ文字数で揃えていたりします。