新世界の第3村で、愛を育む二人(LRS) 作:ハル(LRS活動推進中)
新たな生活と初めての夜。
レイの望みと、望めないこと。
「シンジ、ちょっとええか?」
皆で夕食をとった後トウジに呼ばれ、廊下に出て話を聞いた。
「センセ、綾波と二人暮らしする気あらへん?」
「え?」
「うちの患者さんの一人が今度引っ越すことになってな、ちょうど村外れの家に空きができてん。ちっちゃい小屋やけど、他の家と違って共同の長屋やないし、二人で住むにはぴったしやと思てな」
トウジはニヤッと笑い、続けた。
「明日になったら村の掲示板に募集かけてまうから、決めるなら今日のうちや。
ま、顔が広いワイの特権ってやつやな」
「今日中!?」
突然の提案に、理解が追いつかない。
綾波と二人暮らし?
今日中に返事??
確かに子供のいる若い夫婦の家にずっと居候し続けるのも申し訳ないと思っていたし、いつかは出て行くつもりではあったけれど、あまりにも突然だ。
「僕はいいけど……、綾波にも聞いてみるよ」
「おう、ヨロシクな!サポートはしっかりするから任せとき!」
バン!と背中を強く叩かれる。
そして僕の耳元で小声で囁いた。
「それに、二人っきりの方がええやろ?色々と」
「……っ!!」
最初の日以外にも夜に度々抜け出していたことがバレていたのか、なんと気を遣われていたのは僕らの方だった。
綾波は茶の間の隣の寝室で、ツバメの寝かしつけをしていた。
静かに戸を開けると部屋は暗く、ツバメをゆらゆらと揺らしている綾波がいた。
「あの、綾波……。ちょっと話が……」
「なに?」
ツバメはうとうとして、今にも眠りに落ちそうな瞬間だった。
「あ、ツバメが寝たらでいいから。後で」
「うん」
背面の戸を閉め、僕も綾波の前に座る。
綾波はツバメを抱えたまま背中をぽんぽんと叩く。
眠るまいと対抗する瞼の動きが段々とゆっくりになり、ついに開かなくなった。
それからもしばらく背中を叩き続け、寝息が落ち着いたのを確認して、布団の上にそっと寝かせた。
布団に置いた瞬間、ふにゃあと泣きかけたが、すかさず綾波がお腹を優しく叩くと、ツバメは口をもむもむしながら眠りの世界へと落ちて行った。
一連の動作をしているときの綾波の表情はとても穏やかで、赤子に対する慈しみの気持ちが溢れ出ていた。
綾波はきっといいお母さんになるだろう。
布団をかけたツバメを残し、僕たちは音を立てないようにして、そっと寝室を出た。
「どうしたの?」
本題に入らなければいけない。
「あ、あのさ……綾波、……僕と二人で暮らすのとか……どうかな」
「?」
「あっ、えっと、トウジから聞いたんだけど小さい家がひとつ空いたらしくて!
それで、ここにずっとお世話になってるのも申し訳ないし、綾波とそこで一緒に暮らせたらなって……」
「碇君と……二人?」
綾波の言葉が詰まる。
長い沈黙。
「えと……嫌、かな」
多分断られないだろうという期待はあったのに、沈黙に耐えきれず情けないことを言ってしまった。
綾波は僕の言葉を肯定も否定もせず沈黙を続けたが、暫くしてやっと口を開いてくれた。
「……嬉しい。
私、碇君と一緒に暮らしたい」
「!!よかった……!」
肯定の言葉を貰えて安堵した。
トウジにそのことを伝え、後日家を見に行く約束を取り付けた。
***
数日後。
トウジの仕事が休みの日に合わせ、3人で家を見に行った。
「ここがお二人さんの新居や!」
トウジの家から十数分歩いたところに、その建物はあった。
小さな木造の小屋だ。
昨晩既に鍵は貰っており、トウジが早よ早よと急かす。
ポケットから鍵を取り出し、ドアノブに鍵を刺して回した。
玄関のドアを開けて中に入ると、入り口側に台所があり、小さな板の間、そして9畳程の畳の部屋となっていた。
ちょうど綾波が一人暮らしをしていた部屋くらいの大きさだろうか。
風呂はないが、シャワー室とトイレに洗面所も付いていて、部屋の奥には収納もあった。
フライパンや包丁などの調理器具、掃除用具など、前の住人が置いて行ってくれた生活用品もある。
こじんまりした感じがとてもいい。
このままずっと二人で暮らして、いずれは結婚……なんてことも夢見てしまう。
子供もできて、幸せに暮らす日々を想像してみた。
「ここが、碇君と私の家……」
綾波も気に入ってくれたみたいだ。
家は問題なさそうだったのと、今日は仕事も休みということで、すぐにでも引っ越しをすることに決めた。
突然、トウジがパン!と手を叩いて言った。
「あと大事な話忘れとったわ。縁組や!」
そういえば綾波から以前聞いていた。
この村ではさして珍しいことではないらしいが、綾波と縁組なんてなんだか気恥ずかしい。
「今からでも集会所で申請してくるといいで。色々貰えるから台車持って行きや」
トウジの家に戻り、荷物を集める。
と言っても綾波と僕の荷物はカバン一つでも余裕があるくらいの量だった。
布団や備蓄の食料も分けてもらい、台車に乗せてもらった。
「この布団も元々集会所からの貰いもんやから気にせんとき。
服や生活用品が足らんかったらまず集会所に相談や。大抵のものは貰えるからな」
「寂しくなるけど、近くだしね。
ツバメのことありがとう、綾波さん。
ご飯いつもありがとう、碇君。
またいつでも来てね」
「うん。ありがとう」
委員長と握手をし、トウジと抱擁をして、別れを告げて鈴原家を発った。
綾波は最後まで名残惜しそうにツバメの手を握っていた。
***
一度家に布団などの荷物を置き、その足で集会所に向かった。
集会所は村役場のような機能も果たしており、住人の管理もここで行っているようだ。
「あの……縁組?したいんですけど……」
「ああ、縁組ですね!こちらの書類にお名前を書いてください」
書類は簡素なものだったが、世帯主の名前と縁組する人の名前欄が設けてあった。
「僕が世帯主でいいかな」
「うん」
世帯主欄に「碇シンジ」
縁組する人の欄に「綾波レイ」
と記入した。
そのまま書類を提出し、手続きはつつがなく終了した。
「こちら、縁組されている方にお渡しする生活用品一式になります。毎月お渡ししますので月初めに取りにしてくださいね!」
両手でやっと抱えられるサイズの段ボールを渡された。
箱にはKREDITと表記してある。
箱を台車に乗せ、支援物資である衣服などの必要なものを貰ってから家路に着いた。
***
……さて、今から綾波とこの家で二人きりだ。
何か動かなければと思い、先程貰った配給箱を開けて整理することにした。
綾波は部屋の隅々をじっくりと眺めている。
箱の中にはトイレットペーパーなどの生活消耗品、缶詰などの備蓄食料が入っていた。
ふと箱の隅の方にあった小さな白い箱が目に止まり、手に取ってみる。
「SKYN」と表記されたそれは……
(コンドーム!?)
(これ、縁組した人みんな同じ中身なの!?それとも向こうで勝手に判断して渡す箱を分けてる??)
ハッと綾波の方を見たが、こちらの様子には気付いていないようだった。
なんとなく綾波から見えないように箱を足元に隠してしまった。
(とりあえず洗面所の棚にでもしまっておこう……)
他にも生理用品などがパッケージ剥き出しのまま入っていた。
(色々くれるのはありがたいけど、もうちょっとこう……袋に入れるとかないんだろうか)
生理用品は箱に一緒に入っていた緩衝材に包み、「仕舞っておいて」と綾波に手渡した。
綾波は中身を見て少し驚いていたが、「わかった」と言ってトイレの方に向かっていった。
***
暗くなる前に二人で共同風呂に行き、帰宅後に夕食を作った。
調理の様子を綾波が横からじっと見ていたので、「やってみる?」と言って包丁を渡してみた。
……かなり危なっかしい。
これは包丁の持ち方から教えなければ……。
じゃがいもの皮むきの仕方を教えたが、早速指を切ってしまい、配給箱に入っていた絆創膏のお世話になってしまった。
「これから毎日練習したら上手くなるよ」
慰めの言葉にしょんぼりしている綾波は可哀想だったが、そんな姿も可愛いなと思ってしまった。
***
——そして、夜が来てしまった。
部屋の中央に置いていた机を片付け、2枚の布団を敷いた。
今は二人きり。室内。床には布団。
数日前の夜のことが思い出される。
あのときは外ということもあり踏みとどまった。
もし今日同じ状態になってしまったら、多分もう止められない。
止める理由があるとしたら、綾波が嫌ではないかということだけだ。
大きく深呼吸をする。
「あ、明日も早いしそろそろ寝よっか」
「うん」
電気を消して、布団に入った。
…………眠れるわけがない。
綾波もまだ起きているようだ。
何か切り出した方がいいのか悩みに悩み、やっと声をかける覚悟を決める。
「綾波」
「碇君」
ほぼ同時に声を発した。
「あ、綾波からどうぞ……」
「碇君こそ……」
二人とも布団から身を起こし、布団の上でお互いに向き直る。
譲り合いの結果、綾波の方から口を開いた。
「……この前の続き、して欲しいの」
(あ、綾波——!!)
彼女の口から言わせてしまった。
いやむしろ僕の方は「少し話さない?」などど回りくどいことを言おうとしていたのに、彼女の方がずっとストレートで素直な要求だった。
思っていることをそのまま言うか言わないか、多少の性格の差はあれど、それを女の子の方から言わせてしまうなんて、僕は男として失格だ……。
「碇君は何を言おうとしたの?」
うっ、と言葉が詰まる。
「綾波と同じことを……思ってた……」
"思っていた"というのは嘘ではないが。
こちらから言い出せなかったことが申し訳なく、少し胸が痛んだ。
綾波が、期待するような眼差しでこちらを見る。
「……続きが知りたいの」
最近は特に好奇心旺盛な彼女のことだ。
この前感じた「知らない感覚」の正体を知りたいのだろう。
でも今までの会話から、綾波は知識自体はかなりあることはわかっている。
あのキスの先にどんな行為が待っているのかは、多分理解して言っているのだと思う。
この後に及んで「本当にいいの?」などと聞くのは野暮でしかない。
男、碇シンジ。覚悟を決める時だ。
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
「……綾波のことが、好きだから。
その……よろしくお願いします」
なかなかに決まりの悪い言葉だとは思ったが、せめて今からはリードできるように頑張ろうと思った。
ふと、後で行為の勢いを止めるより、必要なものは今準備しておいた方がいいのではと思い立った。
「ちょっと準備してくるね」
先程洗面所の棚に仕舞った避妊具を取りに行こうとしたら、綾波に裾を掴まれた。
「……大丈夫。なくても平気」
「え?でも……」
平気、と軽く言うけど……縁組をして、周囲の公認とはいえまだ14歳だ。
流石に避妊はしないとマズい気がしていた。
「私、碇君の赤ちゃんが欲しい。
けど……駄目なの」
「え?」
避妊をしなくていい、赤ちゃんが欲しい、けどダメ?
話が繋がらなかった。
「なにが駄目なの?」
僕との子供が欲しいと言われたことにも驚いたが、綾波の言葉の真意が知りたかった。
「……私、子供が産めない身体なの。
……そう、できているの。」
「そう、なの……?」
その言葉は単純に「まだ生理が来ていない」という意味ではなさそうだった。
元々「子供が産めない」身体にされていたというのが正しいのだろうか。
"ヒト"として生まれ変わっても、そこは変えられなかったのだろうか。
僕と綾波に子供ができないという事実もショックではあったが、その言葉を発するときに見せた綾波の辛そうな瞳が、僕の胸を抉った。
綾波は子供が好きだ。
それは日々の様子からも伺える。
寝かしつけをしながら、愛おしそうな眼差しでツバメを見つめる綾波。
村の子供達に囲まれて、嬉しそうに手を繋ぐ綾波。
その姿が脳裏を駆けた。
——いつか、その願いを叶えてあげたかった。
「綾波……」
気付くと涙が溢れていた。
「碇君?」
僕が泣くことではないのかもしれない。
むしろ余計なお世話だろう。
それ以上踏み込むのもお互いに辛くなる気がして、綾波を力強く抱きしめた。
——綾波。
二人で幸せになろう。
子供ができなくても、二人でずっと一緒に暮らそう。
綾波が辛い時は僕が支える。
だから——
沢山の言葉が溢れそうになったが、上手く口にすることができず、名前を呼んで抱きしめることしかできなかった。
「綾波……」
「…………うん。ありがとう、碇君。」
綾波の手が僕の背にまわり、きゅっと抱きしめ返されるのがわかった。
暫く抱き合った後、顔を近くに寄せたまま視線を交わす。
両手の指を絡め、唇を重ねた。
二人になった初めての夜。
僕達はひとつになった。
つづく
次回 、R18になります。