これはアイズが子供から大人になった話。
同い年の少女を女にした一幕だ。
春姫編、スタート。
※性別反転有
バシャバシャバシャ。
文字にすれば可愛げもありそうな水面を叩く音が響く。
実際に耳にすればその爆発したかのような強すぎる音は可愛げというよりは危機感を覚えさせる。
「アイズ―――! もう少し! ここですよっ」
そんな爆音にももうすっかり慣れたエルフのアリシアがその胸元を水面に浮かせて手を広げている。
下着は水練には不要と脱いでしまっているため胸元に捲いた衣類が実に煽情的に透けているのだが、それに気がつく余裕はない。
アリシアの前では今、随分と手を焼かされた生徒がようやく目標を達成しようと懸命に手足を動かしていた。
「がぼ、ぐぼぉ! がぼぉっ」
「お、溺れてませんか!? アイズ、頑張りなさいっ」
アリシアは何度も助けにいこうかと動きかけた身体を留め、自らに課したゴール役から外れないように努めていた。
もうあとほんの少しの距離でもたついているアイズ本人から「絶対に助けないで……沈むまでは」と何度も念を押されている。先生としては生徒のその決意を後押しするしかなかった。
「ごぼぅっ、ごぶぶぐごぼぅっ」
「あ、アイズ……溺れて、ますよね……?」
「ごぶぅうううっ、ゴボッ!? ごぶぅうっ!!」
明らかに救助が必要な様で手足を動かしているがアリシアにはそれがアイズにとっては泳いでいるということも分かっている。
水練を始めた際には手足を動かすこともできなかったアイズは沈む時は一瞬で水底へ向かう。
それはとても静かなもので、潔さすら感じさせる。こんな爆音と明らかな水難者な様を見せるものではない。
だから、このまったく前に進まなくなった爆音を巻き起こす手足のバタつきは最後の力を振り絞って泳いでいるのだ。力が入り過ぎてまったく進まなくなっているが。
「っ~~~! アイズ! こっちです! ほら、ここにきなさい! 男でしょう!」
今すぐにでも助けたい、甘やかしたい気持ちを抑え込んでアリシアは手を広げ声を張り上げる。
見た目のせいで女の子扱いを受けることがあるアイズへの一番の発破は男扱いである。
女扱いには不満しかないアイズは「男だろう」と言われると応えようとぐっと力を込める。
アリシアの声が届いたのか爆音がさらに増し、まったくの無茶な泳ぎ方でアイズの身体を前へ前へと押しやる。
(ああ、もうっ。教えた泳ぎ方は何処にいったのですか!)
アリシアはアイズの犬かきよりも酷い、もがきぷりを晒す泳ぎ方に対して言いたいことばかりであった。何度も教えて泳ぎ始めた時はできていた泳ぎ方を何処に置き忘れたのか聞きたかった。
「ぷはぁ!! はぁ、はぁはぁ、げほぉ、げほっ!」
「ゴールっ。アイズ! よく頑張りましたね」
「はぁはぁはぁ、お、泳げた……!」
「はい! 泳げましたよ」
だが初めて泳いでみせたアイズが自分にしがみついているとそんな苦言は何処かに吹き飛んでしまう。
何度も何度も溺れて、怖がり、でも諦めずに手足を動かしたアイズが初めて自分ひとりで泳いで見せたのだ。
「アイズ……立派でしたよ」
ぎゅぅっと胸に抱いて抱きしめる。
少し余裕を取りもどしたアイズがその柔らかい餅肌の感触に顔を赤らめるだけでは済まなくなるまで、アリシアは大事な教え子であり、想いを寄せる男の子の頑張りを誇らしく思った。
◇◆◇
ダンジョンに潜ったあと予定通り協力者から装備を受け取るとアイズは一人夜の街へと歩みを進めていた。
その身なりはおおよそ【ロキ・ファミリア】の【剣騎】に似ても似つかなかった。
髪の色は鈍色で艶がなく、瞳の色は紅色でよく目立ち、なぜか口髭が生えている。
そんな何処からどう見ても変装している様はアイズが変装しているという前知識があれば見当がつく程度のものだが、その前提がなければ悪目立ちする口髭が似合わない男でしかない。
アイズは今日からお忍びで……リヴェリアやアリシアに内緒で娼館に行こうとしていた。
事の発端と呼べるものが二つある。
その一つが水練の際にアリシアと交わした約束事である。
───だめ、ですよ。アイズ……旦那様。まだ、だめ……です。
湖からあがりタオルで自分を包みながら微笑んでくれるアリシアと見つめ合っていた時だった。
「ン……」
「ん……ちゅ」
どちらが望んだというわけでもなく、どちらが求めたというわけでもなく。
自然と二人の唇が重なった。
二人とも初めてのキスだった。
お互いに自然とそうなってしまうほどに、両想いだった二人はそれに相応しい続きに進もうとしていた。だがアイズが覆いかぶさり、アリシアの胸に手を乗せた時に待ったがかかった。
───今はまだ、だめです。……旦那様が十五歳になったら。はい。約束です。
一般的に成人と扱われるもっとも平均的な年齢を迎えたら、旦那様との本番を。
アリシアと約束したアイズは自分の中にある二つの恋心を自覚していた。
それは初恋であり最愛の人への物と、自分と二人三脚で歩んでくれる恋人への物だった。
どちらが好きかと問われれば間違いなくアイズはリヴェリアが好きだと答えられた。だが、アリシアのことを恋人以外の言葉で表したくない気持ちもあった。
初めてできた恋人は間違いなくアリシアであり、大切にしたかった。
だからこそ、夜伽役として自分と初夜を約束してくれたアリシアに酷い思いをさせたくなかったのである。
十五歳までもう一年もない。
本番で痛がらせないためにも、アイズは夜伽役のための夜伽役を求めて合法的にソレが行える場所、つまりは歓楽街にやってきたのだ。
「坊や、細可愛いわね。遊んでいか……」
「はぁい。おぼっちゃん、私と遊ん……」
てちてちと色街のどこか艶やかな景色を珍しそうに見ながら歩いているアイズに客引きの声がかかる。だが、アリシアとは比較にならないほど女の手管に精通しているはずの娼婦たちが一声かけただけで去っていく。
「ふむ……」
アイズはドキドキした心臓の鼓動を隠していた。何処を見たらいいのかと目を彷徨わせてしまいそうなきわどい服をきた客引きの娼婦が立ち去り、ほっと一息をつく。
(ラウルから教わった通り……この変装はイケてるらしい)
男仲間のラウルに教わった通り、口髭を指先でツルンと触る。
この動作をして「ふむ……」と呟いていれば強引な客引きにはあわないだろう。
アイズは変装道具一式を渡してくれた男仲間の助言の手ごたえを感じていた。
最近隠れて娼婦に入れ込んでいるラウルという仲間がいたことがアイズが歓楽街に行こうと決心した二つ目の理由である。
偶然ラウルの秘密を知っていたアイズはそれをネタにして情報を引き出し、協力を得ていた。
「む、無理っす! アイズさんを連れていったなんて知られたら自分生きていけないっす!!」
「………協力しないと、フィンとアキにばらす」
「!? ど、どうして二人に!」
「ラウルが一番知られたくない相手だから」
そうしてラウルの協力を得て、アイズは身元を隠しながら無事に歓楽街へ来ることができた。
ダンジョンと同じで危険が予想されるのであれば下調べが大事である。
ここはぼったくりだ。
あそこはハズレだ。
「ここらへんの子は馴染みの客がついってるっすから……新顔は面倒なことになりかねないっす。初めて客をとる子とか競りが行われていたりするっすから、そこで即金で支払うのが一番面倒がないと思うっす」
「………」
「どうしたっすか?」
「思った以上に詳しい」
「ははは、いやぁ、失敗して学んだっす。……団長やアキには内緒でお願いしますっ」
「……それは、いいけど。ラウル、敬語はやめてっていつも言ってるのに」
「あ、あはは……ごめん。なかなか治らないっす。アイズ」
そうしてラウルの教えを忠実に守ったアイズは時折客引きを「ふむ……」で撃退しつつ競りというものを探して歩いた。
(お祭りみたい……ジャガ丸くんは、売ってなさそう)
視界の中では華やかで艶やかな光景が何処までも広がっている。
どこぞの神様が袖にされたり、アイズと同じようにダンジョン帰りだろう女性冒険者が男娼の客引きにあってるのも見える。
好物のジャガ丸くんはないかとすこし鼻をきかせてみれば歓楽街らしい匂いが身体の中に入りこみ、その濃密な色香にむせかえりそうになった。
(……あ。あれかな?)
どこも人で賑わってはいるがある一角にラウルが教えてくれた特徴が見えた。
物色するように通りを歩いていた男が店の者に金額を伝えて皮袋を渡している。
あれはラウル曰く競りの額とその前金だ。
張見世で並んだ初顔の娼婦に値段をつけ競り合っているのである。
つまり、先程の男が物色していたあたりの女性が競りにかけられているのだろう。
(女の人に、値段をつける……か)
アイズは娼婦という仕事を下に見ることはなかった。
必要な仕事だろうと感じていたし、性欲が満たされないままだと不健全だとも思う。
だからそういう仕事があり、それに見合った報酬を払うのは筋が通っている。
しかし、自分で女性に値をつけるというのは………何とも言えない複雑な心境だった。
(よしっ)
だからこその即金払いである。
競りには店側が決めた金額が設定されている。
その金額を支払えば競りの結果を待たずに娼婦を買えるという金額だ。
だがその値段設定は高額。ラウル曰く「自分はとてもできないっす。その金があれば長く他で遊べるっす」というほどのものだ。
仮にもラウルは【ロキ・ファミリア】の団員で間違いなく高収入である。そんな都市を代表するファミリアの団員ですら支払いを躊躇する額を求められるのが即金払いである。
だが、アイズはそんな高額払いこそ希望通りだった。
(女性をお金で買うんだ………しっかりした報酬を用意するのは当然)
この日のためにダンジョンに潜る目的をお金稼ぎにシフトして溜めに溜めた革袋はぎっしりと詰まっている。硬貨以外には宝石類も別の袋にいれてもってきている。ラウル曰く気に入った子にはプレゼントを贈るのが定番らしいが、アイズは事が済めばとにかくプレゼントを渡すつもりだった。そのための宝石である。指輪やネックレス、大粒の原石でもう一つの革袋もパンパンであった。
準備万端だと、二つの頼もしい革袋をマントの内で撫でてからアイズは競りにかけられている女性たちをじっと眺めながらその前をゆっくりと歩いた。
(わ、綺麗……)
表を歩いている女性よりも綺麗だと感じるのは特別着飾っているからなのか。
張見世にいる子はみなとても綺麗だった。
種族も多種多様でヒューマンをはじめとしたいろんな子がいる。
一様に皆、伏しがちな瞳であったが時折目があうとそれは魅力的な頬笑みを浮かべてくる。
初めてでも娼婦としての教育をしっかり受けている様を見せられアイズはドキドキと心臓で早鐘をうっていた。思わず「ふむ……」とつけ髭を撫でてしまい、女の子があっけにとられたような顔をしたのにも気がつかない。
(他の人たちがジロジロ物色してたのが……わかる)
はたから見ていると少々趣味が悪い様だった物色している図。
だが自分が選ぶ側にまわれば否応にもそうなってしまう。ジロジロというよりチラチラが正しいようなアイズの吟味ぷりだったがそれでも同じように物色していた。
そうして歩いているとアイズの目についに、その人が映った。
「同じ……色……」
「……ぁ」
自分と同じ黄金色の髪の上に、自分にはない直立した二つの耳を乗せた狐人がアイズの声を聞いて顔をあげた。
年頃も自分と似たりよったりだと見てわかるほどに周囲の子より幼かった。
沈んだ顔色ながらも小さく微笑んで会釈する。そしてまた顔を伏せる。
明らかに望んで春を売るわけではない女の子だった。
(ぁ……あれって)
そんな狐人の横には御手玉が置かれている。
これはどれだけの入札があるか示しているのだとラウルが教えてくれていた。数が多ければ多いほど人気なのだと。
そんな御手玉は既に両の指で数えられないほどおかれていた。
もう客がつかないなんてことはない。
自分は買われる。
それが決まってしまったから、諦め、力ない様子で俯いているのだ。
「…………」
アイズは一瞬迷った。
だが、すぐにその無礼な考えを消し去って立てられた名札を読んだ。
「春姫、さん」
「………」
返事はない。
だが、少しだけ顔をあげた。
愛する人と似た翡翠の瞳がこちらに向けられる。
名札の通り、春姫というのがこの狐人の名前なのだろう。
つけ髭を外す。
すると春姫が少し驚いたように目をちゃんと開いた。一瞬だけ暗さが取れたその様子はロキが見ればまさに垂涎の美女だろう。
「私が、貴女を買います。……私の初めての相手になってください」
アイズは相手を決めた時のために用意していた言葉を春姫に告げた。
◇◆◇
別館にある指定の部屋に通されて春姫が来るのを待ちながらアイズは茫然としていた。
「これ、しか、のこらなかった………?」
革袋の中には指輪が一つあった。
指輪一つしか残らなかった。
「これであの子を……春姫を買いたい」
そう告げて革袋を二つドシンドシンと見せた時はまさかここまで取られるとは思ってもいなかった。
硬貨のほうは全て支払うことになるかもしれないとは思ってはいた。だが、宝石類はプレゼント様であり非常用だと思って用意していたのに支払いギリギリである。
(ラウルが無理っすっていう理由がわかった。これは……無茶苦茶だ)
確かにこれほどの値段では即金で買うということがいかに無茶かを嫌でも伝えてくる。
もしかしたらラウルがこれほど法外な値段だと教えなかったのはここで諦めさせるためだったのかもしれないとアイズは思った。
(でも、女の子を買うんだ。お金をけちるなんて失礼なことだよ……うん)
革袋に指輪をもどし、アイズは敷かれた布団の上でその時が来るのを静かに待った。
部屋の中は極東風であってるのか分からないがアイズにはそうとしか表現できない様式で靴を脱いで上がるように言われていた。
柔らかい床に敷かれた布団はどことなく愛の巣という言葉をアイズに想起させ顔をどんどん赤くさせた。
(……もうこれは外しておこう)
「───お待たせいたしました。旦那様」
「ッ! ふ、ふむ……」
支払いのために再度つけていたつけ髭を外したところで音も立てずに襖が開き、女性が頭を下げてはいってくる。
張見世で見た通りの綺麗な装いで春姫がやってきた。
一気に高まった緊張に思わずつけ髭をはずしたのに「ふむ……」をしてしまい、それに気がついてアイズは先程までとは違う恥ずかしさで顔を赤くした。
「今宵、……よ、夜伽をさせていただきます。は、は、春姫と、もう、もうしますっ」
「よ、よろしくお願いします。あ、アイズ。アイズ・ヴァレン、しゅ、シュタインですっ」
「……? アイズ……ヴァレンシュタイン様、でございますか? あの……【剣騎】様……?」
「え? あっ」
シマッタ。
お互いに初めて同士、緊張のあまりたどたどしい自己紹介を重ねたところでアイズは自分の失態に気がついた。
(つい、本当に名乗っちゃった───!?)
偽名を使って入店したというのになんということだ。
【ロキ・ファミリア】の【剣騎】アイズ・ヴァレンシュタインの名前をオラリオで知らない者はいない。春姫もすぐに気がついたようで困惑している。
アイズは悩んだ。選択肢は二つに一つ。そうじゃないと苦しく言いはるか、素直にそうだと認めて黙っててもらうか。
「…………うん。【剣騎】です」
自分が都合の悪い嘘をつき続けられるはずがない。
そう諦めてアイズは春姫に自分が【剣騎】だと認めた。
望まずに初めてあった男と初夜を迎えようというのだ。バレバレの嘘をつくような男が相手では申し訳がない。
魔法の髪留めを外して髪の色を元にもどし、本人だとわかるようにする。
「わ、髪の色が……!」
「えっと、マジックアイテムで変えて……目の色も」
「わ、わ……では、本当に【剣騎】様なのですか? 【ロキ・ファミリア】の」
「………………は、い」
驚きと有名人に出会った興奮を感じている様子の春姫とは対照的にアイズは大変なことになってしまったと頭の中がグルグルまわっていた。
わざわざ偽名を使ったのは当然、名を知られている自分が歓楽街に通っているなど少しでも漏れようものならすぐに広まるからだ。
ファミリア全体に迷惑をかけるだけなら、まだ、いいのかもしれない。よくはないが。
だが、もし知られてしまえばリヴェリアとアリシアの耳に入ってしまう。
そうすれば大変なことになる。
アイズは必要性を感じて歓楽街にやってきはしたがこのことが二人の怒りに触れることだとも分かっていたのである。
だからラウルという男仲間の手を借り、偽名を使ってここまできたのだ。
「春姫……って呼んでいい?」
「はい。お好きなようにお呼びくださいませ。ここにおられる間は……春姫はヴァレンシュタイン様の女でございます」
「あ、アイズでいいよ。皆、そう呼ぶから。………えっと春姫、お願いがあるんだけど、いい?」
「は、はいっ。ぁ、アイズ様………どのようなご内容でしょうか?」
「【剣騎】がここにきたってことを……二人だけの秘密に、してもらえないかな?」
身体をこわばらせて身構える春姫に申し訳なく思いつつも、秘密にしてくれとお願いする。
春姫がそれに頷いてそわそわと身体を揺らした。
それは“旦那様のお願い”がそれだけで済むはずがないと思っていたからだが、アイズには自分がこの子の“旦那様”である意識など一切ないので気がつくはずがない。
「お、お店の人にも内緒にしてほしいって……難しい?」
「い、いえ。アイシャさんたち……お店の他の方はアイズ様だとは少しも思っておられない様子でしたので……
「そっか。じゃあお願いします。……ありがとう。春姫」
「は、はぁ……?」
よかった。
どうやらここだけの話で済ませてくれそうだ。
アイズはほっと一息をついて、はっとした。万が一でも他の人に見られるわけにはいかないのだからすぐに変装しなければ。
急いで変装道具を纏い直しているアイズはそんな自分になにやら困惑した様子の春姫にきがついた。
「えっと……」
「あ、も、申し訳ありません。アイズ様。えっと、あの、えっと……」
「お、落ちつこう。お互いに。えっと、深呼吸、しよ?」
「は、はい……」
お互いにすーはーと呼吸を合わせてもう一度しきり直そうとする。
この時点でお互いに不慣れで場違いな様を曝け出し続けていたが、それぞれ相手のそんな様子に気を配れるほどの余裕もなかった。
「すー、はーー………お時間をいただきありがとうございます。だん……アイズ様。今宵、夜伽の相手を務めさせていただく春姫と申します。アイズ様が……
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
指を床につけて頭を下げる春姫に習う形でアイズは同じように頭を下げた。
これからついにはじめてを迎えるのだと思うと緊張し、自分が女性を買うのだと思うと強い罪悪感が胸を貫いた。
(……だめ)
春姫を買おうと決めた際にも感じた罪悪感。それがとても無礼な思いだとアイズは浮き上がってくる罪の意識を噛み殺した。
「春姫。私、こういうことは初めてで……一緒にしてくれる?」
「アイズ様は娼館は初めてでございましたね。はい。かしこまりました。では……どうぞ、布団の上でごゆるりとなさってくださいませ」
アイズは手を引かれるまま布団に横になる。
するとすぐに衣擦れの音がいやに耳に残りながら響いた。
春姫が少し震える手で自らの服を脱ぎ落すその音はようやく部屋の艶やかな気配に似合う音であった。
「「……っ」」
あっという間に下着姿になるとお互いに息をのんだ。
この先への想像がお互いに言葉を呑み込ませた。
「そ、そのまま……そのまま、いてくださいませ。春姫に、全てっ、お委ねください……っ」
「ぅ、ん……っ」
春姫の細く清らな白い指がすっとアイズの服の内側にもぐりこみ、ゆっくりと肌蹴させていく。
その震える指先がアイズの胸板をくすぐるように撫で、服を脱がしたその瞬間だった。
「と、とととと……っ」
「……?」
「殿方の──────!? っ~~~~ぅぁ」
「え? むぎゅぅ!? むぅ?」
突如としてアイズを柔らかい衝撃が襲った。
何事かとその離れがたい感触から顔をだしたアイズが目撃したのは目を回して気絶している春姫であった。
「……は、春姫? 春姫、さん?」
「…………」
返事はない。完全に意識を手放している。
アイズは春姫を抱えてどうすればいいのか分からなくなってしまった。
気を失った女性にどうこうする気など起きはしない。
下着姿の春姫を布団に寝かせ、一応、その隣で横になったアイズはしばらく天井をながめると。
「……おやすみなさい」
明りを消してそのまま眠ることにした。
翌朝、春姫に事情を説明すると極東式の謝罪方法である土下座で平謝りされることになる。
こうして二人の初夜は初めての夜にはならなかった。
剣騎アイズ・ヴァレンシュタインと娼婦 終わり 続く。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
前書きで何を書けばいいのか正直わからなくて困っています。
後書きと被ってしまって大変です。
今回から春姫編ですが、とりあえず出会いのところまでになります。
書いてるとなんだが時間がかかりそうで、おそらく最大四話ほど使いそうな気がしてます。
書き始めたら時間をかければかけるほど投稿する気が失せていく(下手くそ過ぎて)ので品質がいいものになっているかは自信がまったくありません。
下手くそすぎるぅ。
よければ駄目出しでもなんでもいいのでご感想で指摘していただけましたら助かります。