メインヒロイン:リヴェリア
サブヒロイン:アリシア、春姫
になります。
この話は春姫編の未来の話になります。
※性別反転有、R18
長女が嫁いでからというもの屋敷の中にはどこか鈍い空気が漂っていた。
鈍いというのは暗いという意味ではない。毎朝、子供たちは親たちに常と変わらないように挨拶をし、親たちはそれに普段通りにこやかに返して、よりよい一日にしようと気持ちが入る。
問題なのは普段通りに過ごしてしまうが故に目立つ、胸の中にぽっかりと空いたような空白を感じた際に、ぴたりと動きを止めてしまうことだった。
ヴァレンシュタインの家にとって、長女はそれほどまでに影響力のある存在だった。
「おねぇさま……」
「お綺麗でしたわねぇ……」
「姉さん元気かなぁ……」
「おねぇちゃん、泣いてないかなぁ……」
ため息をつきそうでつかない、そんな停滞したような空気が上の子供たちどころか下の子供達にまで及んでいる。
本来なら、リヴェリアやアリシアが立て直すきっかけを上手に与えて導くのがこの手の場合の常なのだが──。
「………そうか。もうあの子はここにいないんだったな」
「そうですね。リヴェリア様」
咄嗟にその姿を探してしまうのはリヴェリアもアリシアも同じだった。
長女はよくできた娘で、母親たちの自慢であり、妹弟たちの憧れだった。
「やれやれ、アイズのことを言ってられないな。私も、今更寂しく感じている」
結婚式の後、酒瓶を振り回して暴れまわった夫に拳骨を落としたのがついこの前だというのに、リヴェリアは長女の姿を探してしまいそうになる自分に苦笑いした。とても夫を叱れる様ではない。
「……嫁ぎ先で何か不自由していないでしょうか?」
「早速気絶したと春姫が手紙を読んで騒いでいたが……それも幸せの渦中のものだ。レフィーヤもいる。心配はいらない。……と、わかってはいるのだがな」
ベル・クラネルのハーレムの中には【ロキ・ファミリア】の女性たちも何人かいる。
神ヘスティアも善良な主神だ。
そもそも同じ都市の中には【ロキ・ファミリア】がいる。そこは幼少期に長女が育った最初の家だ。おじ様と呼んで慕っているフィンやガレスもいる。
ほかにも挙げればきりがないほどに長女が嫁いだ都市の中にはその手助けをしてくれる存在があった。
だから心配はいらないのだ。
いらないのだが……。
「………ぅぅ、困ってないでしょうか。あの子、失敗すると隠れて深く落ち込んでしまう癖が」
「わかっている! わかっているから……もう言うな」
初めて嫁いだ娘のことがどうしても気にかかってしまう。
産みの親ではなくとも、二人にとって長女は初めて抱いたこの家の子供であり、間違いなく我が子だった。
二人はいつものように、自然と窓から中庭を見下ろした。
この時間、普段なら幼い下の子供たちを相手に遊び相手を務めている長女の姿があるはずだった。
どうしてもかつての幻影を追いかけてしまうのをやめられない。
長女がいない中庭では、リヴェリアの下の娘とアリシアの双子がどこか元気なくお茶会をしている。
春姫の末の息子が大好きな姉の不在を寂しがっているのを慰めているのだろう。
「あの子たちが嫁いだら……」
「言うなっ!」
急に浮かび上がった幻のような思い付きをアリシアがぽつりと口にすると、リヴェリアはやめてくれと言わんばかりに強い声を発してそれを遮った。そして、まだ幼さの残る下の娘を見下ろした。
母に似る子が多い中、リヴェリアの下の娘は父親にとても良く似た顔つきであった。故にとても美人だった。
ひいき目で言えば親よりかわいげがあって魅力的だと
そのアリシアの視線を追えばはっきりと双子の姉妹を見つめている。
リヴェリア、アリシア、春姫と産みの母親は違えど皆この家の子供たちだ。
だが自分が産み落とした子たちには違った想い入れも当然ある。
あの子たちが嫁いでいく。
その想像は今だけは受け入れられなかった。
声が聞こえたのか、子供たちがこちらを見上げてお茶会に誘ってくる。
子供たちに頷いて、二人はお互いに思い浮かんでしまった娘たちの花嫁姿を必死になってかき消けそうとした。かき消さないと、少し泣いてしまいそうだった。
「本当に、アイズのことを責める資格がありません……」
「……戻ったら謝ろう」
自分たち以上に素直に、大きく、この悲しみを表していたアイズがいたからこそ取り繕えていたのだということに、二人はアイズが出かけたこの日にようやく気がついたのであった。
寂しがっている自分がいなくなったことでその寂しさが家人全員に表面化しようとは露ほども思ってないアイズは、その時、春姫と共にオラリオの中にあった。
昔より、圧倒的に上達したと自負している変装でオラリオの道を目立たぬように歩いていた。
「あなた、見てくださいませ。あ、あーんをしておりますっ」
「ほんとだ。あのクソガキ……!」
「あなた様、お気を確かにっ。あの子はもうお嫁にいったのですよ!」
「……わ、わかってる!」
春姫も同じように変装している。二人とも、どこからどう見ても付け髭が似合う趣味がいい貴婦人姿になりながら、こっそりと娘と義理の息子の跡をつけていたのだ。
普段はアイズのことを 『あなた』 とは呼ばない春姫だったが、二人で娘の様子を少しだけ確認しようというアイズの言葉に母親として意識が切り替わり、内縁の妻としてその言葉を口に出させていた。
今二人の視線の先では仲睦まじい様子の若い夫婦が自らの神様が売り子を務める屋台で買い食いをしている。
「っ、それは、それ、は……」
それは、かつての自分があの子と共に歩んだ記憶とそっくり同じだった。
幼い長女の手を引いて神ヘスティアが売り子を務めるいつもの屋台で、大好きな味を選び二人で並んで食べた日々。
──美味しい?
──はぁい。ふぉいしい。
まだ冒険者として忙しすぎた自分が一緒に買い食いに来てくれることを長女は尻尾を揺らして喜んでくれた。
それが今、同じように尻尾が揺れているのは大好きな夫とのデートに浮かれているからだ。
相思相愛の男女の姿が、愛し合う二人の姿が、そこにある。
神ヘスティアがその可愛らしい自らの眷属の姿にデレデレになっているのが見えた。
「……ぅ」
「あなた……」
「…………帰ろうか。春姫」
見に来ない方がよかったのか。
自分との思い出すら、義理の息子に上書きされてしまう様子を目撃したような気がした。
アイズは傷心を抱えながら、春姫を伴って【ロキ・ファミリア】のホームまでとぼとぼと帰っていた。オラリオに滞在している間の家はそこと決まっていた。
◇◆◇
「おやすみなさい。父さん」
「うん。おやすみ」
久しぶりの【ロキ・ファミリア】のホームでもアイズの部屋はそのまま残っていた。
その自室にファミリアの現役団員の中では唯一席を置いている息子を招いて、二人して長女が嫁いだことを悲しみながら──けれどもやはり祝福しながら──親子の時間を堪能していたアイズは後姿が本当に
「………だいじょうぶ」
枕に顔をうずめながら大丈夫大丈夫と自分に重ねて伝える。
この都市は昔よりも賑わい、繫栄し、彩深くなった。都会のざわめきから遠い我が家で過ごすよりも豊かに過ごせるだろう。
──でも、それに見合った危機は何時でも起こりえる。それがこの都市でもある。
長男がいる。
──我が子の危機を大丈夫だなんて思えない。
困ったときにはフィンやガレスにベートもいる。そうだ。ベルたちもいる。自分がいなくても、これだけ信頼できる人たちが周囲にいてくれるのだ。
──でも、彼らには彼らの大事な子たちがいるよ。私の子供を私のようには守ってくれない。
うるさい。大丈夫だ。大丈夫。だいじょうぶ。
だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ──。
「だいじょうぶ……はっ」
「あの、アイズ様? だいじょうぶ、なのですよね?」
「春、姫?」
「はい? 春姫でございますが……?」
顔を枕から上げたアイズと、しっかりノックして確認もして入室してきた春姫の視線がバッチリぶつかった。
自分に言い聞かせていたアイズには春姫のノックも声も何も届いていなかった。
「よく……これたね」
座りなおして隣を勧めながら、男女で別れた部屋割の中よく春姫がこれたものだとアイズは感心した。
アイズはその昔、ラウルがアキに夜這いを敢行して部屋にたどり着けずに吊るされてしまったことがあったのを覚えている。またその逆でしびれを切らしたティオネがフィンの下へと夜這いに向かってそれをアイズが食い止めたことがある。
アリシアのところに通った自分はアリシアという根回しがあったからこそうまくいったのであって、そうでないならなかなかこの場所でそんなことはうまくいかないのだ。
迷宮都市の第一線級の冒険者だったとしても仲間もそうなのだから。
「えっと
「あ……二人から話がいってたんだね」
「はい。二人とも、またアイズ様が酒瓶を持たれてはかなわないからと」
「……もう、しないよ」
「ふふ。はい」
娘の結婚式直後の自分の酒乱ぶりは酷い有様だった。
結婚してからは一度も自分に拳骨などしなかった
自分の評判は娘の評判にもかかわる以上もうあんなことはできない。
「春姫、今夜はこのまま一緒に寝てくれる?」
「……!」
「あの子が出て行ってから、やっぱり、寂しくなってきちゃった。だめなことばっかり、考えちゃって……眠れなさそう」
「まぁ……だから……わかりました。今夜はこのままアイズ様のベッドでおやすみしましょう」
春姫が軽やかに寝転んで手を広げてから、自分の胸元を誘うようにたたいた。
アイズは内縁の妻の柔かな胸元へ顔をうずめて横になり、部屋の明かりを片手間に落とした。
今夜は月も出ていない。窓から差し込む光も少なく、瞳が闇に馴染むまでは何も見えない。
お互いの体温、匂い、鼓動を静かに感じる、そんな一時を味わうようにアイズは深く息をしては静かにはきだして、春姫の体を真綿で包むようなお穏やかな力で抱きしめ続けた。
それは子が親に甘えるようでもあったが、実際はお互いに許しあった男女の緩やかな交わりだった。
「「……」」
闇に瞳が馴染めばうっすらと互いの色が見える。
感じ取っていた男女の交わりへの期待が視覚にも明らかにお互いの前に差し出される。
胸から這うように顔へと近づけて、吐息がぶつかるような距離ではあからさまだった。
二人の唇はそれが当然であるかのように重なり合って、相手の体液は自分の物でもあるかのようにまぐわいあう。
「ぁ」
わずかな物音も色合いを濃くさせる燃料でしかない中、溢れた出した一言はアイズの耳元で艶やかさを際立たせてその耳の奥まで魅了するようだった。
暗闇の中で貝殻のように合わさっていた男女がその瞬間だけ、間をつくった。
繋がるその時だけは不自然に膨らみと空白が生まれて、それを嫌うようにまた近づき──みっちりと一つになる。
「ん、ぁ」
どっちの声なのかもお互いにわからない。
快感に酔った男の漏らしたものか、快感に痺れた女からあふれ出したものか。
あるいはその両方か。
合わさった肌の合間からうまれた汗が染みこむように相手の肌と交わっていく。
そんな穏やかで緩やかな、溶けるような交わりに区切りがつくのはその時しかない。
どっちが先か、これもまたお互いにわからない。
自分が感じた痺れなのか、相手が感じた快感なのか、区別が全くつかない。
相手が感じるものを自分も感じている、そんな一体感のなかでの射精、達するということは意識を分かつような衝撃を二人に感じさせた。
お互いの吐息が間近で弾けて、混ざり合う。繋がりあった中で種が注がれていく振動音がしっかりとお互いの耳へとつたわっていく。
「ぁ──、ぁ」
声らしい声をあげたのは春姫だった。
男の長い射精とそれに応じるように長く断続的な快感の流れを──楽しみながら味わっていた春姫は過去に幾度か感じたことのある、特徴的な感触を久しぶりに感じたのである。
「ぅ──、ぁ」
そんな何かを理解したような春姫の様子をアイズは知っている。
過去に三度同じように見たことがある景色だった。
まだ、射精が終わらない。ゆっくり脈打つ感覚が伸びながら、多量の子種を注ごうとしている。
そんな遅い射精は本当に遅い。遅い。
「……でき、た?」
「はい。……また、たぶん、ですが」
──間違いないかと。
ただの感覚、そう感じたというだけのもので決まるわけではないのだが、断言できるほどに二人とも見覚えのある感覚と景色だった。
一回で普段の何回分に相当するのか、ようやく収まった獣の種付けのような射精はしかし、荒々しさなどなにも感じさせなかった。
「……女の子かな?」
「あっは。……男女どちらも、かもしれませんよ?」
初めてを過ごした際にはあれほど痛々しく、獣じみた交わりだったものは今ではその片鱗も見えない。
愛しい人を、大切な人を、守りたい人を。
ただただ愛おしく愛し合えるようになったのは春姫のおかげである。
ヴァンシュタイン家では二組目になる双子の姉妹に恵まれた夜は、そんな、ただただ愛しい時間だけで包まれていた。
未来の春姫編 END
春姫編の終わりで書エッチなシーンに選んだのがアリシアだったので、追加で未来の二人を。
子煩悩で過保護な親になっているアイズとそれにあてられて実は家族もみんな過保護が過ぎる。そんな一家になっております。
次回の話から新しいヒロインの話になる予定です。
よければ予想してみてくださいです。
お読みくださりありがとうございました。
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