メインヒロイン:リヴェリア
サブヒロイン:アリシア、春姫
になります。
今回は全年齢。
※性別反転有
迷宮都市の朝は早い。
そんなことは当然のようにアイズは理解している。
かつてはこの都市で誰よりも早くダンジョンに挑み、朝食の前にまた戻ってきたことすらあるのだ。
春姫とてそれは同じことだ。人が少ない時間にサポーターとしてアイズたちについていったことも何度もある。
そんな朝早くから起きだして訓練を頼んできた息子に、少々寝ぼけ眼で応じてしまうほどには現役時代の習慣はアイズから抜け落ちていた。
だが久しぶりの早起きでも気分は晴れやかなものだった。
「いってらっしゃいませ」
春姫に見送られて、今回のそもそもの目的のためにアイズはホームをでた。
娘の姿を隠れて追うためだけにわざわざ来たわけではないのだ。
朝食の時間は過ぎ、街は俄然活気をおびている。
これからダンジョンに向かう者、今ダンジョンから戻ってきた者。
それらを相手に商売をする住人達。
勇ましい声掛けや蠱惑的な囁きが大小様々に響いてる。
それを懐かしく感じて途中で足を止めて眺めるのを重ねながら、目的の場所へと歩いていく。するとその途中の、昔よくアイズも通った馴染の酒場の入り口でなにやら弁当を受け取っている集団がいる。
どうにも既視感を感じるその子たちは、皆よく似ている顔をこちらに向けてきて驚きと喜びを混ぜた表情を一様に浮かべた。
「あ、アイズさん! おはようございますっ」
「あー! アイズだぁ!」
「来てたんですか? おはようございます」
ヒューマンが三人、エルフが一人、ハーフエルフが一人、アマゾネスが一人の計六人の男女が口々に挨拶してくれる。
見知った顔だと思えば【ヘスティア・ファミリア】の若い子たちである。ベルの子供達だ。
その中にはレフィーヤの娘もいて、かつてのレフィーヤのように慕ってくれているのがわかるほど嬉しそうに挨拶をしてくれる。
レフィーヤの強い希望によってその娘の名付け親はアイズである。結婚式の時は一切の余裕がなかったのであまり話せなかったが、立派に育っているようだった。
──幸いなことに義理の息子はいないようだった。
「久しぶり。おはよう。ママやパパは変わってない?」
「はい。父たちは普段と変わらず、その、目のやり場に困る次第で……」
「そうそう、昨日は四人だっけ?」
「ちがう。ママが四人、パパが一人なんだから五人」
「あーーー……いつも通りなんだね」
妻の多いベルは複数人同時が基本だとは知っていたが、それが子供達にまで知れ渡っているのはどうなんだ。
昨夜は五人でしていた、と報告している子供たちの雰囲気は慣れた様子だ。おそらくもうレフィーヤたちは隠すのをあきらめているのだろう。
アイズのハーレムとベルのハーレムはまた違う。
かつてのオラリオにハーレムの文化を広めたのはアイズとベルの二人である。
英雄色を好むというのが許される風潮の切っ掛けは間違いなくアイズであり、それを複数の妻をもつほどまで拡大したのはベルである。
順序は単純だった。アイズがリヴェリアと結婚してから、アリシアや春姫といったその他の女性関係が表沙汰になり、それを手本にしたベルが当時想いを通じていた女性たち全員と結婚してしまったのである。
正直、自分なりとはいえ筋道を通した結果として女性と関係を持った自分と、最初から多方面に色目を使っていたベルが同じ扱いを受けるのはアイズとしてはかなり不満だった。なにが男は黙ってハーレムだ、当時は窘めたかったくらいである。もっとも出会った時点で複数の女性と関係を持っていたアイズがそれを口に出すことはできなかったのだが。
そんな当時ですら言い出せなかった不満である。今でも都市の中に残るハーレム文化の祖として自分の名前が残っていることを苦々しく思えども、今更、同じにするな、とは言えない。それに間違いなく自分が切っ掛けになっていることなのも事実ではあるのだ。
「これからダンジョンだよね。……ママたちを泣かせないように。無茶はだめだよ」
なのでそのハーレムの結果である母親違いの六人をアイズはただただ応援して送り出した。
元気よくダンジョンに向かっていく子供たちに、かつてのベルやレフィーヤの面影が重なってみえた。
願わくば、いいところだけ似てほしいとアイズは心底思った。
(あの義理の息子も……)
長女だけを見てくれればいいのに、と。
不満なのはそこだけなのだ。
それ以外は本当にベルに似て、いい子で優しくて……強い子だった。
「あら?【剣騎】さん」
「あ、どうも」
手を小さく振って見送っていたアイズに声をかけたのは昔からよく知る銀髪の美人店員だった。
「……あのお弁当は、貴女が?」
お互いに色々ありすぎた間柄だが、昔ベルのお弁当を作っていたこの店員なら今でもその子供たちに用立てているのかもしれない。
「あ、違いますよ?」
「あれ?」
「お弁当はーー……あの子からです。私は店の台所を貸してあげただけでーす」
いたずらを成功させた。
そんな声音で店の中からその“あの子”を連れだしてきた店員は女神のように美しい微笑みを浮かべていた。
「お、お父様!?」
「──っ!?」
嫁いだ娘がなぜか店員姿で酒場にいた。
なぜ──、そんな疑問のまなざしを店員に投げかけると。
「ダンジョンに向かう弟妹さんたちにお弁当を作りたいと相談されまして♪」
「は、はい。それでシル様にお台所をお借りしておりました」
「そう、なんだ……。ぁ……ぅ」
逃げよう。
アイズは真っ先に逃げることを思い立った。
待ち合わせの時間もある、事実としてある。理由もあるのだ。逃げよう。
オラリオに来ていたのに連絡もしなかったのだ。気まずい。
そんなアイズの逃げ腰を長女がつかんだ。
文字通りだった。アイズの腰に手を回して抱き着いた長女は、抱きしめてもらうのを待つように身を任せてきた。
いつものように──そんな感覚のまま──アイズは長女を抱きしめた。母親にそっくりな優しい熱がいつものように伝わってきた。
「お父様……式以来でございます」
「……うん」
式以来、手紙の返事は春姫が書いていた。
自分は何も言葉を返していない。それをどこか責めるような、いや違う、寂しいのだと訴えてきた。
「新しい家は皆暖かく、ヘスティア様はお優しい神様でございます。義理の母様達も皆優しい方たちで」
「うん」
「ですが、時折……時折、妹弟たちの顔が、お父様やお母様たちの顔が浮かんで消えない夜がございます」
「………ん」
父と娘の手に淡い力がこもる。
寂しさを堪える小さくもはっきりと熱を伝える力がこもった指先だった。
顔を上げた長女と視線が結ばれる。
お互いにわかった。
きっと同じ目をしているのだと。
「お父様……お会いしとうございました。わたくしは、まだ大人になりきれませぬ」
「……いいよ。どれだけ大きくなっても、私の子供なんだから」
そして、どれだけ歳を重ねても、自分はこの子の父親なのだ。
変わることなどありはしない。
寂しさのあまりに距離を置こうとしてしまった自分をアイズは脳内で叩き斬った。
「いつでも遊びにおいで。……ううん。いつでも遊びに行くから」
「はい……お待ちしております」
久しぶりにみることのできた長女の笑顔と同じくアイズは優しい笑みを浮かべた。
◇◆◇
待ち合わせに遅刻したのは長女には内緒だと相手と約束することになる。
それほどまでゆっくりしすぎてしまった。
「こちらをお持ちください。作りすぎてしまいました」
そう手渡されたお弁当を“三つ”抱えてアイズは慌てて走っていた。
全力である。疾風迅雷ここにありと言わんばかりの速度で屋根の上を爆走した。
もはや贈り物を選んでいる時間もない。
待ち合わせ場所に走りこむと、目をパチクリさせて驚き、喜び、そしてつんと顔をそむけた幼子が母親に抱かれて自分を待っていた。
「ごめん。遅れた」
「そのようですね。アイズさん。お弁当がこの子へのプレゼントでしょうか?」
「違う。これは三人で食べる分。……ごめん。アミッド」
「ふふ、いいえ。構いません。少し意地悪くしてみただけです。この子も私も」
リヴェリアの下の娘と同い年の息子を抱えたアミッドがその息子をアイズへと抱き渡した。
アイズの手の中でアミッドの息子はしばらくの間つーんとした顔をすると、ちらちらとアイズを見上げて、そして笑った。
「パパ、遅い」
「ごめんね。パパは足が遅くて」
うそつきーと笑う息子にアイズも「嘘じゃないよ、ベートさんよりは遅いから」と呆れられる言葉を口にした。
予定調和ですね、と分かっていたようにアミッドが笑った。
「ベートさんより遅くてもアイズさんは十分早いかと。遅刻の原因ではありません」
そうだそうだと母親の言う通りだと訴える息子を抱いて、アイズは降参だと頬を寄せた。
変わりに今年は何でも好きなものを買ってあげる。
という言葉に機嫌をいいほうに爆発させる息子を片手で抱えてアイズとアミッドは手をつないだ。
今日はアイズとアミッドの息子の誕生日だった。
アミッド編へ 続く。
というわけで次はアミッドとの話を書いていきます。
ベルのハーレムとアイズのハーレムが違うように。
他にも形態が違うものが存在しているという感じです。
ちなみにベルの妻たちは二桁にいってしまっているので夜の生活がアイズより圧倒的に大変です。
子供も多く【ヘスティア・ファミリア】の若手=ベルの子供です。
兎なので子沢山。
最新の投稿だけ章管理で分けてみたのですが、わかりやすいでしょうか?