※この作品はR-18です。

ダンまち in妄想部屋   作:美柚

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この剣騎と銘打った投稿作品は アイズが男性だったらというハーレム作品になります。
メインヒロイン:リヴェリア
サブヒロイン:アリシア、春姫、アミッド。

になります。
この話はアミッド編のエピローグになります。

※R18



【剣騎】アイズ・ヴァレンシュタインの現地妻

 人の波で騒めく街並みを親子は二人の足で歩いていた。

 

 「パパ。あれ、あれも」

 「あれも? いいのママ?」

 「ええ、食べ物ではないので」

 「……食べ物はダメ?」

 「ジャガ丸くんでしたら、上の姉(あの子)が家で用意しておりますので、今買い食いなどなさっては叱られますよ」

 

 父親に片腕で抱かれた幼い男の子が気に入る気に入らないを考えずに、あれもこれもと父にねだって指差しをしている。

 指の先にあったものは年相応とも思えるような遊び道具や歳不相応な背伸びをしたものでもあったりした。中には男の子に似つかわしくない女の子向けの髪飾りや、大人が嗜むような上品なグラスであったり、ペンなどもあった。

 まるでどこかの貴族や富豪のご子息のような無遠慮な買い物であったが、幼子はそういったものとは無縁な家庭で育っている。

 現在【ミアハ・ファミリア】の家族の中で最も末にあたる幼子は年に二十日と会う機会のない父親に甘えに甘えているだけであった。

 その希少な会う機会の一つ──幼子の誕生日を含めた前後日の三日間が今日から始まったのだ。

 

 「それを──」

 「三つ!」

 「──三つください」

 「お……はい。毎度ありがとうございます」

 

 同じ細工に違う色合いの輝石をはめ込んだ銀細工の首飾りを三つ注文した客の顔をみて商人は値引きすることにした。

 時折見かけるその女神にも迫る美形の顔立ちをした男の客を商人は忘れたことがない。商人は幼い頃にこの男に命を救われたことがあったからだ。

 商人が客の抱く幼子と同じ年頃だった時代、街中にまでモンスターの手が及んだことがあった。

 母親が目の前で殺され、商人は自分も死ぬのだと思った。だが、その次の瞬間、商人が見たのはモンスターが消滅して目の前に立った男の姿だった。

 

 ──大丈夫? 立てる? 立てるなら……お母さんの分も走って。

 

 大混乱になった街中でモンスターを倒し続けた男が【剣騎】と呼ばれる超一級の冒険者で、英雄として語られる存在だと知ったのはそれからすぐのことだ。

 親を失った商人が冒険者にあこがれて、世話になった神様の孤児院を抜け出してファミリアの扉を叩いたのも、この男の姿が頭から離れなかったからだ。

 ただ、その叩いたファミリアの扉の先に待っていたのが……鉄を打つ熱い熱気に満ちた鍛冶場だったのが運命を分けた。

 その商人こと【ヘファイストス・ファミリア】の若い鍛冶師はまだ武具を売って生計をたてられるほどの腕ではなかったが、手先が器用であり、芸術に才能があった。

 本人としては武具を打つ合間に金策として始めた銀細工や鉄細工のアクセサリー販売が若い職人としては無視できないほどに懐を潤わせていた。

 

 「はい。三つ。このままどうぞ」

 

 本来使わない小さな小袋に三つの首飾りを入れ、そこに二つ分の御代を入れて返す。

 若い鍛冶師は差し出した包みを怪訝そうに見た客をみて、英雄の目はやっぱり誤魔化せないな、と嬉しくなった。

 

 「お気になさらず。気持ちです。……いつも、ありがとうございます。【剣騎】様」

 「……わかった。お気持ちありがたく受け取ります」

 「はい! 奥様も坊っちゃんも、いい一日を」

 

 【剣騎】の隣に並んだ【聖女】の姿と腕に抱かれた幼子の姿は似合いの親子で、若い鍛冶師は自分を救ってくれた英雄に穏やかな日々が訪れていることが嬉しかった。

 去っていく憧れの姿を見送りながら三つも同時に売れてしまったこともあり店じまいにする。

 英雄と久しぶりに言葉をかわしてまた意欲が湧き上がってくる。

 

 「鉄は熱いうちに打たないとな──」

 

 手早く片付けホームへと足早に駆け戻る。

 その瞳は野望に満ちている。あこがれた英雄のように剣をふるう才能は全くなかった若い鍛冶師は、それならばと新しい夢に燃えていた。

 

 ──いつか自分の打った武器を、剣を、英雄に振るってもらえるように。

 

 気合を入れて頬を叩いた若い鍛冶師はそれにしてもと、英雄の子供のことを振り返った。

 数ある中で自分の細工を選んだのは偶然だったのか、それともモチーフに気が付いたのだろうか?

 鍛冶師のつくる細工物のモチーフは決まって美しい美女と一振りの剣である。そのまま直接表現するのは味気ないと工夫を凝らしたそれは、鍛冶師の背景を知らねば【剣騎】を題材にした作品だとは気が付くものではないのだが。

 

 「自分のお父さんの姿はわかるものなのかなぁ……お母さん」

 

 胸に下げた母の遺品の髪飾りを眺めて、子供ってのはどこも変わらないのかなと鍛冶師は笑った。

 そのまま笑顔のままでファミリアのホームに戻ると、いつものように年の近いファミリアの娘が声をかけてくる。

 小柄な体に似合わぬほど豊かな胸がそれでいて一部の神様のような大きさを極度に主張するわけでもなく綺麗に揺れている。

 その目の毒のような景色を若い鍛冶師はげんなりとした顔で迎えた。

 娘子の喜々とした表情と小躍りしそうな態度が、何を目的にしているかよく知っているからだ。

 

 「よっ、売れたー? 早かったからそうでしょう? 呑みに行く? 今なら両親(どっち)もお母様の姿もないのよね。どう?」 

 「うるせぇな。たかるんじゃねぇよ。鍛冶仕事の邪魔だ邪魔。あっち行ってろ。あと俺みたいな懐寂しい未熟者にねだるな! あとお前に酒を奢らないようにって、みんな主神様にも親父さんにも言われてんだよ」

 「産みの母には勧められている。それにあたしは吞みたい。あと、年が近いあんたと呑みたい。鍛冶仕事してるの見物してるしダメ出しもしてあげるから、そのお礼に奢れ!」

 「………かぁーー! 悔しいなぁ! わかったよ!」

 

 やったー! と喜色満面な様子を見せる娘子に若い鍛冶師はため息をついた。

 ファミリアの団長に似て美人極まりなく、結んだ赤髪が似合う娘子は年下だというのにその知見も腕前も、若い鍛冶師を上回っている。

 そのため、たかられているとわかっていても若い鍛冶師はそのダメ出しが欲しくて頷いた。助言の対価だと割り切っているそれが娘子の親である主神様達にはデートと思われているとも知らずに。

 鍛冶場に並んで入りながら作業に移る姿を見ている娘子の表情も知らずに、若い鍛冶師は情熱のままに鉄を打つ日々を今日も営んでいた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 いい年をして何をときめいているのかと、自分でも今更それはないだろうと思う。

 しかし、感じた気持ちや湧き上がる感情に嘘はつけない。

 隣り合って歩む、息子のパパの横顔を見つめる。

 息子のわがままのような要求に快く応じて目一杯甘えさせてくれているパパは、かつて自分が望んだとおりの父の顔で息子に微笑んでくれている。

 自分の顔がママの顔をしているのは当然として……それだけではないのだろう。

 先ほどの露店でかけられた言葉に大人げないほどに心が喜んでいる。

 

 (奥様ですか──)

 

 事情を知らぬ人たちが見れば自分たちはそう見えるのだと思うととても嬉しかった。

 上の子たちが幼い頃、まだ自分よりも小さかった頃にもそう言われたことを思い出す。

 今では自分よりも小さい子は息子しかいない。上の子たちは背丈は自分には似ずに、パパに似て高く、足が長い美人だと評判だった。

 恩寵によってまだ老け込むこともない自分の見た目もあってか、上の子たちと親子で並んで歩けば子供や妹のように扱われるのはむしろ自分であり、奥様扱いを受けるのは上の子たちであった。

 だから……並んで歩いて夫婦と思われることは久しぶりで嬉しかった。

 

 「ママ、みてみて」

 「ん? まぁ」

 「高いのーー!」

 

 息子が片腕の抱っこから肩車に変えてもらって喜んだ声を上げている。

 もうじき家に着くが、この肩車を見れば上の子たちがさぞ羨むだろうと思った。

 

 「お姉ちゃんたちの弟ですね」

 「そうだね」

 

 息子の喜びようにパパが懐かしむように笑った。

 脳裏にかつての思い出が、きっと同じように思い浮かんだのだろう。

 今ではママよりも大きく育った上の子たちが、思い出の中では息子のように幼い姿で同じように肩車をしてもらって喜んでいる。

 

 ──ぱぱ、たかい。ままより、たかーい。

 

 滅多に会えないパパにべったりと甘える上の子たちの姿が今でもはっきり思い出せた。

 今ではとても肩車をねだれるような背丈ではないあの子たちが弟を羨む姿を想像し二人して微笑みあった。

 

 「あ、おねえちゃんだ!」

 「あ──」

 

 肩車した息子の指し示す先を見れば家の三階の雨戸を閉めていた娘が振り返り、パパの姿に気が付いて手を大きく振った。

 

 「パパーー! おかえりなさーーい! ママ! おねえが爺様からお肉もらってきたって! 今日はご馳走ですよご馳走!」

 

 爺様──ディアンケヒト様から頂いたと聞いて子供たちのママは自らの主神にいつもすいません、と言葉にせずに感謝した。

 いつも記念日には何かしらの祝いをしてくれる主神が今回肉を選んだのは上の娘が張り切って料理を振舞うと決めていたのを知っていたからだろう。

 家の人間は誰も料理が得意ではないが、肉を焼くことはできる。最悪の場合それで乗り切れという意味が込められているに違いない。ステーキ用としてカットされている可能性まである。

 

 「お肉だって。これはご馳走だ」

 「アイズさんは普段、お肉をあまり食べられないのでしたよね」

 「うん。食べる日が決まってるから──うん、嬉しい」

 

 胃袋を掴むという言葉を思いだした。

 

 子供たちのパパはしっかりとその胃袋を奥様に握られているのだろう。

 だが、それでいいのだとこの場の妻としてアミッドは微笑んだ。

 

 「でしたら、存分に……普段食べられない味を──ご堪能ください」

 

 食べなれた味よりも、時折味わうもののほうが稀少で離しがたいものだと夫婦は腕を組んだ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 アミッドが家と呼ぶ場所にアイズは初めて来たわけではなかった。

 むしろ何度も足を運び利用していた場所なのだが、その場所を家として案内されたのは初めてであった。

 

 「まさか……ここを買ってたなんて……」

 

 どおりで家に案内されていると気が付かなかったわけだ。

 アイズは寝室だと案内された部屋の内部を備に確認してさらに驚いた。

 

 「わ……」

 「気づかれましたか?」

 「うん……あの時のままだけど……全部新調してある」 

 

 ここを買ったという上の娘に「夫婦の寝室です」と指定された部屋は、かつてアミッドと神婚のために子作りに通ったあの宿屋のあの部屋だった。

 老朽化と乱闘騒ぎで五年ほど前に宿屋として閉業したと聞いていたのに、内装は当時のままでありながら新築のような真新しさだった。

 同じ模様、同じ色のカーテンに敷物。ソファーに枕から小物の配置まで、最後に見た時のままだというのに全て新しい。

 

 「アミッドはこの部屋を?」

 「いえ、私もこの部屋に来たのは昨日が初めてで……いえ、初めてというの変なものですが、あの子が買ってからは初めてです。先日までここまでそっくりにしているとも知りませんでした。家を買った場所がここだということは知っていましたが……中は案内してくれなかったのです」

 

 上の娘──アイズとアミッドの間の初子、神婚の結果、あの夜に結ばれた子は今では独立していた。

 独立というのは文字通りの意味で、誰の庇護も受けないと宣言して、神の加護すら捨ててこの家に移り住むことだった。

 

 ──わたしは、爺様にも父様にも、偏りたくないのです。等しくわたしの愛しい家族なのです。

 

 成人を前にしてどちらかのファミリアに正式に所属することを選ぶものだと、アミッドも爺様と父様と呼ばれている二柱の神も思っていた。上の娘の周囲の皆はその答えが出るものだと信じて疑わなかった。

 だが上の娘の決断は、無所属のままこの迷宮都市で調合師として、薬師として、一人の医者として生きることであった。

 これには周囲の大反対があった。この決断に関しては迷宮都市に支持してくれる存在はなかった。それほどまでに上の娘の才能は母親に似て稀少であり、それを生かさないのは勿体ないを通り越していたのだ。

 二柱の神も、アミッドも考えを変えるように何度も説得した。好きなように両ファミリアを行き来したらいいとまで言った。だが、そういえばいうほど上の娘はパ(・)パ(・)を思い返させる芯の強さと、自らの意思の強さを強固に表した。

 

 ──認めてくざさらないのでしたら、誰かに頼んでこの身体を真っ二つに裂いていただきます。

 

 そうして別れた身体を分け合えばよろしい。

 

 呆気にとられた周囲に対して上の娘の覚悟は本気だった。

 返事を後日にと日を改めて集まった際には、いい返事がなければその場で裂いてもらおうと雇った冒険者まで連れてきた。

 どこで知り合ったのか。明らかにアミッド達の知る【猛者】に酷似した外見をした仮面の冒険者を背後に従えながら返事を迫った上の娘に、アミッドたちは折れるしかなかった。

 それ以来、その希少な才覚で陣営を問わずに人々のためにと活動してきた上の娘が買ったのがこの家であった。

 元々高級宿なだけあって一人の家にしては広すぎたが、家と仕事場を兼ねながら、年に二十日ほどあるパパの来る日には家族が一堂に集まれるようにと考えられていて、不要な部屋は何一つなかった。

 

 「あの子は頑なで……いえ、真面目で。私がここに出入りしすぎるのは偏りですと、玄関先までしか入れてくれなかったのです」

 「……あの子らしい」

 「本当に。その癖……あ(・)な(・)た(・)様(・)が来られるときは、あの有様で。ふふ……自慢の娘です」

 

 パパとママ、姉妹が三人、末の息子が一人の六人で囲んだ食卓。

 その賑やかな食事を終えてから、皆で一緒に風呂に入ることになったのは上の娘の提案だった。

 甘え上手というよりは、計算するのをやめるのが上手いのだろう。

 普段の頭の切れ具合を考えればその切り替えの巧みさは、純粋な娘として親に接することのありがたさを心底理解してのものだ。

 

 アイズがアミッドの夫であり子供たちのパパでいられるのは、子供たちの誕生日とその前後日だけなのだから。

 

 上の娘がどうしてもと言えば、もう一緒に入れないと思っていた下の娘たちもそれを後押しし、末の息子は当然一緒に入るつもりでいたため大合唱がはじまる。こうなればアミッドに止める術もない。アイズとしては子供たちの頼みはよほどのことでなければ断らないので、先ほどまでアイズを囲む形で同じ湯船に浸かっていた。

 

 「……大きくなってたね」

 「身長の話ですか? いえ、違いますね?」

 「うん。……目のやり場に困ったよ」

 

 娘たちの豊かに育った胸元が思い浮かんで、アイズは目を閉じて首を数度振りその記憶をとりあえず遠くに追いやろうとした。忘れてしまうには多少の恥じらいとともに甘えてきた娘たちの愛らしさは勿体なかった。

 次女も三女も湯船に浮くほどのモノに育っていたが、女子から女性へと育ちつつある長女の蠱惑的な肢体は父親だと強く意識しなければ堪えられない魅力があった。

 アイズとしてはよく自分のモノが反応しなかったと褒めてほしい気持ちだった。

 

 「体つきの良さは完全にあなた様に似ているのです……私が一番、貧相ですもの」

 

 アミッドが自分の裸(・)体(・)を少し恥ずかしそうに隠した。

 部屋の中に小さな灯りがかつてのようにともる中、ベッドに横たわっていたアミッドの胸が腕の中で少し窮屈そうに埋まっていた。

 その胸の豊かさはとても貧相といえるものではない。そんなことを言っては激怒する友人知人がアイズには何人もいる。だがアミッドが一番貧相だと評してしまうのは、こと娘たちと比較すると正しいのである。

 娘たちはアミッドに似た美人ではあったが、そのスタイルの良さだけはアミッドに似ていなかった。より……上回っていた。

 今年開催された迷宮都市のミスコンでそれは結果に表れていた。資金集めのために上の娘の策略で三姉妹揃って参加し上位入賞、上の娘に関してはなんと準優勝である。

 アミッドに似た美人でありながら背丈はアイズに似て高身長である娘たちは、それに見合ったスタイルの良さで女神たちに勝る輝きを放っていた。

 娘たちと会う間が空いてしまうアイズが、その度に驚かされるほどにその美貌は日に日に増すばかりである。

 

 アイズはそれほど美しく育っている娘たちと比べて貧相だと主張するアミッドを見下ろして──「隠さないで」とその腕をベッドに押し広げた。

 

 まるでプリンを皿の上に広げたように波揺れて二つの雪山があらわになる。

 そのしっかりと頂点が上向きながらも柔らかさを表すように揺れた様は、貧相な身体では絶対にありえない。

 アミッドの顔にさっと朱色が混ざった。

 

 「アミッドは貧相じゃないよ? ……背が少し低いだけ」

 

 既に夜は更け、子供たちは寝静まって……は、いない。

 アイズは一つだけ、かつてのこの部屋にはなかったものをチラリとみた。視線の先で明らかにひるんだ気配がした。

 姿見の鏡。その裏から隠し見る視線はアミッドは気が付かないほどのものだが、アイズにはすぐにわかるものだった。

 向こう側からも見えるようになっているな、と理解しつつ、その視線に一度微笑み返してからアイズは無視することにした。

 三姉妹の……十中八九、上の娘だろうと確信しつつも覗きを許可する。

 アイズは子供に見せる趣味はないものの、教える必要性はあると思っていた。独り立ちした娘が大人として学ぼうとするのを咎める気はなかった。

 嫁入りした長女が初夜で気絶したことが、親の責任としてアイズに申し訳ない思いを抱かせていたのだ。

 親であるならちゃんと教える機会を与えるべき。

 かつて娼館に通い学んだ経験もあってか、アイズにそうさせていた。

 

 「……そう、でしょうか?」

 

 アミッドはそんな娘の覗きに気がついていない。

 気が付いていたら母の顔を覗かせて、少なくてもアイズに確認をとっただろう。

 だが、今のアミッドにはそんな理性が働く気配はない。

 あるのは久しぶりの機会に飢えた女の情欲だけだ。

 

 ぷくっと露わになった胸の先が膨れて、硬くなる。

 

 触れてもいないのに硬く先をとがらせたその様が物語っている。

 はやく味わってほしいと訴えかけてくる。

 その様は隠しようがないほどに露骨だった。

 

 「うん。隠さないで。……この身体、好き」

 

 押さえつけていた手が滑らかに動き、硬くなった乳首を無遠慮に抓んだ。

 

 「んっ」

 

 強い刺激が声を上げさせる。

 アミッドの身体が小さく身じろぎし、耐えるように蠢いた。それは痛みに耐えてのものではない。

 この抓まれる痛みをあますことなく快感に感じられるほどに、仕上げられていた。

 

 「気持ちいいね。アミッド」

 「ふぁ、ふぁ、はぃ」

 「こうされるの、好きだよね」

 

 親指と中指で挟んだ乳首を音が鳴るような手ごたえでしごきあげる。

 アイズの指先とアミッドの乳首にゴリュっという音が感触として伝わり、何度も繰り返される。

 四人の子供たちに吸われてきたというのにその乳首は昔と変わらず乙女のような鮮やかさを保っていたが、その乙女の美しさは刈られるために育て上げられたものだ。

 

 「は、い……すき、です」

 

 完全にアイズの女、所有物へと意識が切り替わったアミッドの顔色は昼間の面影が消え失せている。

 そこには友人の顔も、母の顔も、聖女の顔もない。あるのは自分の主人へと媚び諂う雌の顔だ。

 雌の瞳が胸へのしごきを渇望するように、指先へと視線をむけては期待の吐息を漏らし続ける。

 

 「最初は罰のつもりだったのに、もうご褒美になって……アミッド、ごめんなさいしなさい」

 

 指の狭間で桜色の乳首が手折られるように頭を垂れた。

 電流が奔ったようにそこを起点してアミッドの身体が震えて、ベッドを二度、三度と汚した。

 

 「ーーっぅ♡」

 「アミッド、ごめんなさいは?」

 「は、ふ……ごめんなさい。これは、罰だというのに……ふ、っぐぅ♡」

 

 アイズは堕とした女にご褒美と躾を忘れない。

 ぎゅっと今度は人差し指と親指で挟み上げて、引っ張りあげる。

 背中が浮くほど引っ張り上げて、強すぎる痛みと共に快感を味合わせ続ける。

 

 ビクン、ビックンッ

 

 身体全体が跳ねるような強い振動がアミッドの身体を揺らした。

 

 「ーーーっぁ、あっ」

 「もう……誰にも、これ、触らせない?」

 

 アイズは胸全体を伸ばすようにひねり伸ばしながらアミッドの瞳を覗き込む。

 のけぞった顔の中で視線を通わせたその瞳は、艶やかな色で染まり切っていた。

 

 「は、はぃ。あなた様の、ものです。あなた様だけの、私の身体、ですっ」

 「約束する?」

 「はいっ。お約束、しますぅ」

 

 アミッドの返事によどみはない。躊躇いも迷いもとうの昔に過ぎさっている。

 神婚からもう子供が独立するほどに時間がたった。

 最初の子供を産んで以来、アミッドは愛しい神にすら身体を許そうとしなくなっていた。それは愛が鎮火したわけでも恋が冷めたわけでもない。ただ身体が反応しなくなった。その気にならなくなっただけである。

 それは神の愛の前には人の情欲など無用であると、理解したというのもある。

 だが最大の理由は、もう自分が誰のものなのかを分からされてしまったからだ。

 神は人を孕ませる力を持たない。神の種は子を実らせることはない。

 それを身体がわかってしまったのだ。人の種でなければ、アイズでなければ満たされないものがあるということを。

 

 上の娘が産まれた際、当然のように母としてアミッドは母乳を与えて育てようとした。

 その際にアミッドはなぜか疑問と申し訳ない気持ちを感じてしまったのだ。

 

 ──どうして自分の胸を主人以外が吸っているのだろう? 

 

 気がついた瞬間呆然としてしまう、そんな疑問を感じた段階でアミッドは自覚するしかなかった。

 自分の身体を味わう相手は一人だけなのだと。

 だが、そんな雌の自覚は母としての日々が覆い隠してしまうものだった。

 本能が疑問を呈して拒否反応を返しながらも、理性はそれを隠すことを選択する。

 アミッドは母として子供に乳を与え、愛する神と共に親として子供の傍で過ごしていた。

 

 そんな雌の自分を覆い隠すヴェールを外される時がある。それが今だった。

 

 「私はあなた様の、もの、です」

 

 桜色の鮮やかな美しさを真っ赤に染まりあがるほど責められながら、アミッドは何度も重ねて約束する。自分の身体はアイズのものであり、他の誰にも許しはしないのだと。

 だが、雌のその場の欲求が口にした言葉の軽さをアイズはすぐに察した。

 

 「嘘」

 

 先端を指先で痛むほどに引っ張りあげて、指を鳴らすように弾いた。

 ビンッと尖った乳首が一瞬の合間に激烈な痛みを与え、それと同じほどの快感を走らせる。

 

 「ん、ぉぉ♡」

 

 抑圧からの解放と同時にジンジンと響き渡る快感が胸先から伝わり、アミッドの身体をベッドの上で弾ませる。

 その痙攣のたびにシーツにぬめり毛を帯びた水玉模様が描かれた。

 

 「──ミアハ様に望まれたとして、断れる?」

 「そ、れは……」

 「できないよね?」

 「……は、い」

 「あの子が、誕生日のプレゼントに妹か弟が欲しいって、言ってたよね。産まれてきた子供に乳を上げないなんてこと、できるの?」

 「…………いいえ。胸を吸わせる、か、とぉっ」

 

 アイズがアミッドの乳首を二つ同時に指ではじいた。

 尖り切った乳首は硬く伸びて物欲しげなアピールをやめなかった。

 

 「できないことを、わかってて約束する。悪いことだと思わない?」

 「……は、い。思います」

 「お尻をむけて……鏡に立ちなさい」

 

 言われたとおりに鏡の前に立ち、手を鏡につけてアミッドは自分の顔と対面した。

 その顔のなんといやらしいことか。これから行われようとしている躾に期待し待ち望んで涎をこぼしている飢えた雌の顔だった。

 

 (なんて……浅ましい。申し訳、ありません)

 

 まるで鏡の中の自分に見られているような視線を感じてアミッドは羞恥を吐息に込めて吐き出した。

 

 「はぁ♡ はぁ……♡ はぁ♡」

 

 情欲の熱を帯びた吐息が鏡の自分を曇らせる。

 アイズにむけてつきだした尻の合間で雌口が溢れだすその涎を漏らし続けていた。

 そんな早く欲しいと訴えかけてくる雌の尻をアイズは二度三度と撫でると、音を鳴らすように引っ叩いた。

 鞭でうたれたような鋭く空気を裂く音が響くとアミッドは達した。

 

 「ひっ──ィ、ッ」

 

 鏡を支えに何とか堪えて姿勢を維持するもの、口元はだらしなく緩み舌が何かを求めるように姿を覗かせていた。

 ぶぴゅっと音を立てて愛液が床に零れ落ちた。床に垂れ落ちた雌の密汁は本当に媚薬のような効果を持っているようであった。

 

 「悪いことをしたら、お仕置きがあるってわかってる。だから──言ったね? アミッド」

 

 言葉と共に、再度空気を裂く音が響き、部屋の中に雌の匂いがより濃くなる。

 

 「だから、これだって躾にならない。ご褒美だ。……そうでしょう? アミッド」

 

 

 バチンッ  バチンッ  バチンッ  バチンッ

 

 

 返事を待たずに繰り返させれるご褒美のたびに情けないほど喜んだ雌の啼き声が返ってきた。

 

 「ふ、っ、お、ほ、ふ──っ♡ う♡」

 

 アミッドの白い肌の中でも日に当たりにくい尻は一層白く美しい。

 だが、ようやくアミッドが返事を返せた時には赤い果物のような有様になっていた。

 

 「は──ぃ♡ わか、てって、わかって、言ってましたぁ。ご褒美、ほしくて──っ」

 

 息も絶え絶えの有様でありながら、尻を突き出した姿勢は何も変わっていない。

 神婚の時よりも一つ昇華を重ねたアミッドの身体は既に高位の冒険者でもある。屈しようとしなければ姿勢を保つことなど容易だった。

 

 「悪い子。……でも、素直でいい子だね。アミッド。恥ずかしいのはここまでにしてあげる」

 

 アイズはアミッドと鏡越しに視線を合わせ、そ(・)の(・)先(・)にも微笑みながら、赤くなった尻を撫でまわすと両の親指で雌口を強引に開いた。

 強引に引き広げられた雌口から吹き出てきたその蜜が床にしたたって音をたてた。

 

 「また、ここで、赤ちゃん作ろうね。アミッド」

 「は……い♡」

 

 あてがわれた逸物が一気に奥へ突き刺さると一際大きな嬌声が部屋に響いた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 年を経れば抱き方も変わるものだと、アイズは懐かしい室内でかつて行っていた野性味じみた交わりが今ではすっかりなくなったと再認識していた。

 妻と内妻たち、それに加えて少なからず関係を持った女性たち。彼女たちとの長年過ごした経験が昔と今の違いなのだろうか。

 アミッドの動きが緩やかに止まった。

 ちんぽが子宮にめり込んで収まったままだ。先っぽが子袋の奥をを抉る感覚がとてもき心地よい。

 既に抱き始めてから時間も進んでいる。射精してもこれっぽちも中に納まらず全てシーツや床に零れ落ちていた。

 こちらに向けて背をむけながら座る体位ではろくに動けないには百も承知だが、これは罰も兼ねているのでそれでいいとはさせられない。

 腰を支えていた手を上にすすませて、柔かな胸を揉みあげながら、乳首を両手で揉みつぶす。

 

 ビクンっと身体が反応してアミッドがまた腰を動かして……すぐに脱力する。

 

 「……おねむ?」

 

 気をやったかと確認するとようやく眠ったようで、だらしなく緩んだ顔で小さく息をしている。

 本当に可愛いくて、綺麗な顔だった。

 可愛らしいその顔の柔かな頬に口づけをして、ずっとつないでいた交わりを引きはがしにかかる。

 アミッドの足を抱えて持ち上げる。子宮に引っかかっていたちんぽを我ながら器用だと思いながら、丁寧に動かして入り口から引き抜いた。

 栓の代わりになっていたちんぽを引き抜けばそうなるとわかっていたことだが、ぽっかりと穴をあけて広がった入り口から、今夜出し続けていた精液があふれ出した。

 

 「おお……」

 

 自分のものでありながらおかしな量だった。幼い頃、リヴェリアを想ってしていた時に比べたら天と地の差がある。出しすぎにもほどがある。

 高位の存在になったというのもあるのだろうが、やはり一人でしているのと誰かの手が加わるのでは違いがあるのだろう。今一人でしごいていてもこれほど出せると思えない。

 アリシアに初めてしてもらった時のことが久しぶりに頭によぎった。

 痛みがひどかったのに興奮はそれ以上だった。玉の部分に歯がつきたったときは怖かったが。

 

 「……そろそろ出ておいで」

 

 アミッドをベッドに寝かせて、鏡の奥にいる視線に声をかける。

 いまだにその視線がこっちを向いているのだから寝てもいなければ、逃げ帰ったわけでもない。

 ずっと鏡越しに見ていたはずだ。

 じっと眺めていると何やら鍵を外す重い音が数度響き、ゆっくりしすぎた、怖々とした様子で鏡が内側から開いた。

 

 「なるほど。そうなってたんだ」

 

 鏡の中から入ってきた上の娘──アミリア・テアサナーレの背後をさっと確認する。どうやら左に曲がって続いていて別室までいけるようになっているようだった。

 

 「……ぱ」

 「しっ」

 

 何かを言いかけようとしたアミリアに、唇に指をたてて静かにするように伝える。

 あまり見ていいもではないが、やはりというか、一人でしていたようで下着姿のアミリアは淫らに過ぎていた。 

 迷宮都市のミスコンで準優勝というのは伊達ではない。美の女神を除けば比較できるのはリヴェリアと愛姫ぐらいだろう。

 そんな美貌の持ち主が所在なさげに下着姿でこちらを伺っているというのは非常によろしいことではないので、手早く済ませねばならない。

 

 「アミリア、こっちにきなさい。静かにね? 冒険者は寝ていても声を覚えていたりするから」

 「はぃ……?」

 

 手招きをしてベッドの脇に引き寄せた椅子に座らせる。

 ここからがアミッドへの罰の本番であり、アミリアへの教えだった。

 

 「いい、男の人はね。女性を大事にしたいと思う反面、同じくらい無茶苦茶にしたいって願ってもいるの」

 

 気を失って眠るアミッドの足を広げて見せながら、抱く構えに入ればアミリアも察したようで、ものすごい視線で確認をとってくる。アミッドと自分の間を右往左往するその視線は本当にいいのかと問いかけてきている。

 

 「いいの。お母さんを見て、学べばいいよ」

 

 右手を伸ばして頬を撫でてあげれば、アミリアが照れた様子を見せる。裸でも下着姿でも恥ずかしがらない癖に、撫でられると照れるのはこの子の癖のようなものだった。

 

 「はじめてで余裕がないときは……自分では何もしないほうが、いいと思う。人形だなんていう人もいるだろうけど、はじめてでうまくはできないよ。……ここ、みて、ここからこうやって中に挿れるんだけど、ここを巻き込むと痛いからね? あ、これは女性側の痛いね」

 

 しっかりアミッドの下の口を広げて見せながら、ゆっくり挿入する。案の定この程度なら目覚める気配はもうなかった。

 アミッドのお腹が挿入されたことで内側からちんぽの形に添って膨れ上がってるのをみてアミリアが口元を覆っている。やはり鏡越しでは綺麗に見れていなかったようだ。

 

 「どう? 参考になる? こうして膨れていてもね。痛くはないんだよ? 女の人の身体は男の性器より太いもの、赤ちゃんを産めるようになってるからこのくらいほぐれていれば気にならないの」

 

 そうなの? という問いかけの視線に頷く。

 アミッドもそうだが、自分より小柄な相手を抱いた時には男としてやはり気にかけてしまうことが多いが、女性は行為中は気にしないらしいので間違ってはいないだろう。

 もしかしたら相手が冒険者だからそうなのかもしれないが。

 自分とはレベルに差があるとはいえアミッドも充分高レベルの冒険者だ。子作り程度の負担で体が壊れるようなことはない。

 

 「お母さんは冒険者だから……アミリアは相手が冒険者だと大変かもしれない」

 

 アミリアはファミリアに所属していない。神の恩寵がない存在だ。

 Lv.2以下の冒険者ならともかくそれ以上ともなれば相手を満足させるのは難しいのかもしれない。

 

 「……だから、こういう機会をつくるときは相手は冒険者じゃない方が、いいと思う」

 

 ゆっくりと前後に動かしてアミッドの中をほじくり返す。

 残留していた精液をこすり剥がしながら、新しい精液を送り込む準備をする。

 息子に頼まれたのだから、きちんとこの機会に種を仕込んでおきたかった。

 

 「………ヴァレンシュタイン様は──」

 「うん?」

 「冒険者以外の女を抱かれたことはあるのですか?」

 

 アミッドに聞こえない小さな声で耳打ちしてくるアミリアがちゃんとパパとは呼ばずに聞いてくる。

 今回は息子の誕生日、息子のパパとしてこの場に来たのであってこの子のパパではないのだ。

 それは厳密すぎるかもしれないが確かな線引きで必要なことだった。

 

 

 この場では──親子ではない。

 

 

 「ううん。ないよ。……だから、ごめんね。少し想像が混じってる」

 

 至近で視線が通ったアミリアの瞳がアミッドと自分を交互に一度見てから、繋がっているその様を艶やかさで彩りながら見つめている。

 根っこが研究者でもあるのでやはり実際に目の当たりにして興味がより沸いたのだろう。

 期待に応えてやらねばならない。

 

 「さ、見てて。弟か妹が……できる、かもね?」

 

 子宮の入り口に先を押し当てる。

 入れすぎれば入り込んでしまうのでここまでだ。

 しっかり注いで、種をまかねばならない。

 アミリアが右手を掴んで頷いた。

 無意識のうちに甘えているというか、秘め事を目撃している怖れにも似た感情を堪えるための行為だろう。

 わかるような気もするが、豊かで美しい身体を下着姿で押し付けるのは少々、ダメだと思う。

 

 

 ──我慢というものもあるのだ。

 

 

 「うん。……みてて。ここに手を置いてみて」

 

 アミリアの手をアミッドの腹の上、ちょうど子宮の上にのせて握ってあげる。

 種付けする際の感触というのは想像よりもしっかり伝わるものなのだ。

 

 

 ドピュ  ドビュ  ドプゥ

 

 

 「ん……ぁ♡」

 「ま……」

 「お母さん、寝てても気持ちよさそうにしてるね。……どう? 感触は」

 

 下の口で精液を飲み干しているアミッドの気持ちよさそうな声にアミリアは少し顔を赤くしている。

 寝てても声が漏れるというのも知らないよりは知っていた方がいいだろう。

 射精が終わったのが手に伝わる振動からわかったのか、アミリアがまた耳打ちしてくる。

 

 「想像以上に、ドプドプとした感触が伝わって──どんな、ものか知りたくなってきます」

 

 

 ──ふっ、とヴァレンシュタイン様の耳に吐息をかけてしまう。あの気持ちよさそうな雌の声が耳の奥に残ってはなれなかった。

 

 

 「そっか──いい勉強になった?」

 「はい。ありがとうございます。──ヴァレンシュタイン様」

 

 まるで美の女神のように微笑むアミリアの美しさを月光が照らした。

 カーテンの隙間から覗いた美しい月の高さが夜の闇が深まるにはまだ時間があるのだと知らせてくれた気がした。

 射精が終わり種付けに十分な量を注ぎ終われば、アミッドの身体を綺麗に拭きあげて身を整えてから新しい毛布を体にかける。

 

 「……まだそのように立派なままなのですね?」

 

 アミリアが耳元で囁きながら驚きを隠さずに確認してくる。

 もはや慣れたものだが、やはり初見では何度もしたあとにこれだけ硬いままというのは驚異的なものだろう。

 

 「うん。まだ──できるから」

 

 同じ色をした瞳が見つめあっていた。

 

 「送ろうか。あの鏡の先がどこなのか、気になるから──いい?」

 「はい──ご案内します」

 

 並んで立てば似合いの二人はそうして鏡の先へと消えていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 迷宮都市に【剣騎】の姿はない。

 【ロキ・ファミリア】の幹部として、世界を代表する英雄として名をはせてからすでに十数年の年月が流れた。

 今では都市の中では世代交代が進み【剣騎】の時代には子供であったり、産まれていなかったりした世代が原動力となって都市活動を支えていた。

 

 「……今日は散々だな」

 

 珍しく細工品だけでなく試作品の刃物なども並べてみせている若い鍛冶師はもう片付けてしまおうかと考えていた。

 全く売れる気配がない。

 

 「だからさぁ、そんなへたっぴな刃物じゃ悪評に繋がるって言ったじゃない。大人しくアクセサリー売ってればいいのに」

 「うるせぇ。こいつはぁそんなに悪いもんじゃねぇだろ」

 「それを悪いものだって言えないのがダメなのよねぇ……」

 「……うるせぇ」

 

 鍛冶師の背中にしな垂れかかりながら赤髪の美少女が繰り返しダメ出しをしている。

 おふざけなしの心からのダメ出しに若い鍛冶師は心が折れそうになっていた。

 

 「お二人様、それを一つ、いただけますか?」

 

 そんな二人の前に足を止めた客が広げられた品を指さして所望した。

 

 「お……あ、ありがとうございます。お一つで」

 

 鍛冶師はようやく売れたことに喜々として客に応対した。 

 残念ながら刃物が売れたわけではなく、銀細工の指輪が一つ売れただけなのだがそれでも本日初の買い手に喜ばない理由はなかった。

 

 「ありがとうございます。いい一日を」

 

 手を振って見送った鍛冶師の頭を娘子が引っ叩いた。

 その膨れた頬は不満を明らかに示していた。娘子には鍛冶師の対応が美人の客が来たことを喜んだようにも見えたのだ。

 

 「いてぇな。なんだよいったい」

 「ふーんだ。鼻伸ばしてさ。あのお客さん美人だったもんねぇ~?」

 「はぁ? 何言ってんだ。美人ならお前で見慣れてるっての。んなことで今更喜んだりしねぇよ」

 

 叩かれた頭を掻きながらなんとも面倒な様子を崩さない鍛冶師はいつもこんな調子であるがゆえに、主神様たちからデートしていると思われていると気が付いていない。

 本心から思うことに関しては何一つ躊躇がない男だった。

 口をパクパクと開閉させて顔を赤くしている娘子の姿に気が付いてもいないのも平常運転である。

 

 「それに、どんな美人でも──妊婦が相手じゃ相手の男を羨むだけさ」

 

 鍛冶師は今日はもう帰ると決めて露店を片付けながら、あんな美人に自分の銀細工では不足かもしれないと少し思ったが、自分の英雄である【剣騎】をモチーフにしたものが似合わない相手はいないだろうと思い直した。

 モチーフは世界の英雄なのだから誰にも不足しないに決まっているのだ。

 

 

 

 アミッド編 エピローグ終わり。

 




ここまでお読みくださりありがとうございます。
これでアミッド編はひと段落という感じです。

今回はお読みくださったのならお判りいただけると思うのですが
神婚関係でヴェルフのほうがどうなったのかを少し書いてみたり
フォント機能をつかってみたり
匂わせて終わってみたり

いろいろ試してみようかと思ったものになってます。

次回の【剣騎】は時系列が戻り、春姫が【ロキ・ファミリア】に来た直後当たりのリヴェリアとの話になると思ってます。

ただ、その前に【雌雄】のほうの更新だと思います。

いろいろ試験的な描写や表現をしてるので、よろしければご感想をいただけると大変うれしいです。
出来ればお願いします~~。
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