完全に全年齢なので安心してお読みください。
個人的にこのIFルートは好きです。
英雄の門出
英雄になるとはどういうことなのか。
英雄の定義とはなんなのか。
英雄とは何を指すのか。
ある者は勝者を指す言葉だという。
「勝った者の言葉が残り続ける。ならば英雄とは勝者である」
それは正しく思える。だが、勝者だけが英雄なのか?
「いや違う。敗者も時に英雄になりえる」
屈してもなお英雄たりえる存在もまたいる。
では勝者は英雄とはいいかえれない。ならば勝者を、敗者を英雄にするモノはなんなのだろうか?
「それは時に勇気と呼ばれるものかもしれない」
勇気? ならばもっとも勇気を持っているものが最も優れた英雄なのだろうか?
「いや違う。時にもっとも臆病な者が英雄たりえる偉業を成し遂げる」
偉業?
「そうだとも。英雄とは偉業を成し遂げたものだ」
でも、偉業と言っても誰かを助けることは誰かを助けないということだよ。
「そうだな」
なら、誰にとっての偉業なの?
「当然。その当人、救われた側にとっての偉業だろう」
なんだか、こんがらがってきた。
「お前の歳でこれだけ話せれば上々だろう。だがな、もう少し話そう。話せるうちにな」
……うん。
「今の話の結論は無視しろ。今のままではお前は英雄の偉業を助けた人の数で見てしまうだろう。1を切り捨て、残りの99人を救うことが英雄の偉業だと勘違いすることはない」
え、でもそうならないの? だって勝者がそれで助けられた側がそうなら、英雄の行いは──。
「より多くの人を救った者、か?」
う、うん。
「そうではない。いいか。英雄はそうではない。お前の好きな物語の中にもいるだろう? あれだ。国中の人間に石を投げられても──」
バーミリアンの弓張り師?
「そう。それだ。その物語では1人の孤児のために立ちあがった男こそ、間違いなく英雄だったはずだ。時に英雄は多くの人を敵に回すこともあるんだ」
……英雄って難しいや。おじいちゃんの言う通り女の子を助けるだけじゃだめかな?
「あのクソ爺の言うことは……いや、無視しろとはいえんな。俺は。間違ったことではないからな」
え?
「いいか。英雄譚には英雄とおなじくらいそのそばにいるヒロインが欠かせないだろう? 誰かの物語で誰かを救いあげた英雄にはその救った者にたいして責任がある。ただ救って、放り出してはいけない。幕引きをわすれてはいけないんだ」
それって……もしかしてハーレム?
「ああ、そうだ。お前が最後の英雄になるなら……多くの者を救うだろう。多くの者の英雄になるだろう。そうなれば自然とそうなる。そこでお前はしっかり、幕を引かねばならない」
幕をひくって……どういう意味?
「その物語のオチだよ。ハッピーエンドで終わる物語は英雄とヒロインが結ばれて幕が引かれる。だが、お前が目指すのは最後の英雄だ。ただの英雄じゃない。一人のヒロインと結ばれてはい終わりではすまされないんだ。……どうだ? 難しくなってきたと思わないか? ハッピーエンドの続きを描き続けなきゃいけないんだお前は」
難しい……ね。あはは。
「はは……お母さんには内緒だぞ? こんなことを言ったと知れたらまたどやされる。いや吹き飛ばされる。トドメをさされる」
あ、あはは……あ、はは。
「……許せ。冥土の土産だ」
……。
…………。
………………。
……………………。
「許さなかったら……まだここにいてくれる? おじさん」
とうとう堪え切れずベルは涙を流して大好きなおじさんにすがりついた。
いまでも屈強な厚みを感じさせるおじさんはとても臨終の瀬戸際とは思えない。
だが、その内をむしばむ病魔の牙はベルの大切な家族をついに捕らえていたのだ。
「なぁ。ベル。俺はいいおじさんだったか?」
「うん。当たり前だよ。当然だよ。大好きだよ……!」
「そう、か。……お前が最後の英雄になる、と、そう言ってくれたから、最後には後悔もなく、終われると思ったんだがなぁ……」
ベルの大切なおじさんは病魔に侵されて見えなくなった目をそれでもベルにむけていた。
「お前がどんな英雄になるのか、どんな男に育つのか、見てみたくなった」
「おじさん……っ」
「お前が望む、憧憬を目指せ。ベル。俺やお母さんを越えたその先にある真の英雄に、なって見せろ」
「うん。うん」
ベルが握っていたおじさんの手はもはやまったく力を感じさせなかった。
もう夜を超すことはないといった祖父と母の言葉は何一つ間違っていないのだと握ったその手から悲しいほどはっきりと伝わってきた。
「真の、英雄なら……お母さんも、ハーレム、ゆるすかもな……? は、は、はっ……っ」
「おじさん!」
「頑張れよ……ベル、しあわ、せ、つかめ」
そうして、最後の吐息を吐きだして、ベルのおじさんは逝ってしまった。
おじさんはベルの大切な家族だった。
母にこっぴどく怒られ、恐怖に震える夜を共に過ごした同士だった。
家族であり、友達であり、師匠であり、なによりもやはり、親代わりであった。
母に言ったらそれこそ手ひどい目にあうことが分かっていたので一度も漏らしたことがない父への想いをベルは大好きなおじさんにはっきりと感じていた。
この夜、ベルは父を失ったのであった。
◇◆◇
その日、ベルはついに故郷を旅立つことになっていた。
祖父が亡くなり、母と二人過ごす日々を捨てて一人、冒険に旅立つのだ。
「おかあさん、どうしても、だ──」
「くどい」
一緒にいこう。
そう何度もベルは母に言った。ベルにとっての父と同じく病魔に犯されていた母は明らかに介護が必要な状態であったからだ。
だがそんな息子のお荷物にはなりたくないと絶対の線引きを母はその態度で示していた。
そうされてはベルとしてはもうどうしようもない。
駄々をこねるようにすがりついても母がそれこそ一言で一蹴するということは骨身にしみていたからだ。
「私はお前を縛る鎖か? ベル」
「──!」
首を横に振るベルの姿に満足したように頷いて母はその頭を撫でた。
「ならばいけ。……お前に母と呼んでもらえて嬉しかった」
「おかあさん……」
「ところで荷物はもったな?」
「うん。えっとこの重たいの、何が入って……」
「ザルドのやつがお前が旅立つ際にと自分の武具を用意していたんだが──」
「え! おじさんが……」
「だが、身の丈に合わん装備など身を滅ぼすだけだ。だから金銭に変えた。その重さは金の重さだ」
「ええええ!? アルフィアおかあさん……お、おじさんの武具、う、売っちゃったの!?」
そういえば見かけなくなったとおもったら――!
いつかはベルがこれを扱う機会もあるかもしれんな。
そんなふうに語っていたおじさんとの思い出が脳裏を駆け巡る。
そう、あれはハーレム談義に盛り上がりすぎて祖父とおじさんと三人で夜中まで騒いでいたら母に吹き飛ばされて三人で星を眺めていた夜だった……。
「生活の足しにはしていない。お前の旅立ちのために全てのこしてあるのだから、あいつも本望だろう。気にするな」
ベルが瞬きの間に感じた哀愁のような感情もこの母のきっぱりとした口調の前ではすぐに消えさる。
母の指示は絶対のものだとベルはもはや魂にまで刻まれているのだ。
だからこそ、やはり、ここが別れの時なのだとそう分かってしまった。
「ベル」
「はい」
旅立つその瞬間に心配をかけさせるわけにはいかない。
強い母だが重い病を抱えてる身だ。自分のことで心労をかけるわけにはいかない。
例えここがあの夜と同じ別れ際であったとしても──。
旅立てばもう母には会えない。
そう分かっていたがゆえに悲壮な覚悟を決めたベルをしっかりと瞳をひらいて見つめた母はやさしく大切に息子を抱きしめた。
「……私を迎えに来れるほどの英雄になってこい」
「……おかあ、さん」
「私が何度言ってもハーレムハーレムと繰り返すお前たちには心底呆れていたが、諦めないその心意気だけは認めてやる」
「ヒッ……」
母の胸に抱かれながら背筋を震わせるベルを面白そうに、大切そうに母は眺めていた。やさしく頭を撫で、背中を抱く。
「認めてやるから──私の英雄になって迎えに来れるほどの男になってこい。ハーレムなど破たんするに決まっているからな。私がしきってやる」
「は、はは……うん。じゃあいつか、僕のヒロインになってね」
「馬鹿め。私がなるんじゃない。お前が英雄になれ」
「あはは、うん。うん……待っててね」
死なないでほしい。
最後に残った愛しい家族。
お互いにそう思い願っていることは言葉にする必要などなかった。
そして、ついに、馬車にのる。
ガラガラと音をたてて故郷が、家が、母が遠のく。
涙などいらない。
ベルは心底思った。
もっとはっきり瞳に焼き付けたかった。
最愛の母の姿を。
「おがぁさん……いってきます」
見えなくなるまで見続けてようやくベルは声をあげた。
声をあげれば泣いていることが分かってしまうから。我慢していた言葉をようやく口にできた。
こうしてベルは母と別れた。
約束した英雄になるために。
◇◆◇
そして運命の地にてベルはもう一つの家族と出会うことになるのだ。
「うわぁぁぁん! ベルく~~ん! 置いてかないでくれぇぇぇ!」
紐を揺らし鐘をならして運命は加速する。
最後の英雄に相応しい物語を紡ぎながら。
英雄の門出~終~
書き終ってからかなりの前提が読み込めてないと意味不明になるな、と思いましたのでなぜかあとがきで補足を。
おじさん=ザルド。
※ゼウス・ファミリアの冒険者でベルの実父も同じファミリアだった。
母=アルフィア。
※ヘラ・ファミリアの冒険者でベルの実母の姉。天才で何でもできる。
なお、二人とも理由は異なるが重大な病魔(に似た欠陥)を抱えている。
だいたいこんな登場人物です。
どちらも原作の7年前の時点でレベル7の冒険者でオッタルやリヴェリアが当時の時点で歯牙にもかけられないほどの英雄です。
ダンメモってこういう原作にない話を取り扱ってくれるから読み物として楽しいソシャげですね。
オバロのソシャゲであるオバマスもそんな感じで楽しいです。
ですが、ソシャげは時間泥棒なのであまり遊ぶのも考えもので困ってしまいますね。
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この話の軸にしたお話はまた暇があったらかいてみたいものです。