もう「彼」とのセックスは拒もう。大好きなプロデューサーを、これ以上裏切り続けるのはやめよう。
めぐるは、これまで何度もそう考えてきた。
「――はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ ひぃっ♡」
「ふぅ~……今日もたくさんイってたな、めぐる。気持ち良くて泣き叫んでるお前の顔、すっごく可愛いかったぞ? 僕もめちゃくちゃザーメン出たよ」
「はぁっ♡ はぁっ♡ ――ンっ♡ ふぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡」
彼の部屋でセックスされて、クリトリスと膣内だけでなく、胸やキスでも好き放題に絶頂させられたあとは、特にそう思う。彼から逃げないと、この快感が身体に染みついて、自分はダメになってしまう。
だからこんなことは、今日で終わりにしないと。快楽でグチャグチャになった頭の中で、めぐるは何度も自分に言い聞かせようとする。だが――
「でも、めぐるはイキ過ぎて辛かったよな? ――ごめんね」
「――――アっ♡♡」
ベッドで後ろから抱き締められ、耳元で優しい言葉を囁かれると、脳天から下腹部まで、脊椎を伝ってゾクゾクと甘い痺れが走り抜ける。胸と腰のあたりに巻き付けられた「彼」の腕に、自分もすがるように手を添えてしまう。
「好きだよ、めぐる」
なんのつもりなのか、彼は最近、めぐるに対してその言葉を使うようになってきた。
「大好きだよ」
「~~~~ぅ~~っ♡♡♡♡」
耳から入った言葉が脳に伝わり、頭の中で電流がバチバチと弾け、腰がビクビク震える。本当にやめて欲しいのに、彼はやめてくれない。
「めぐるのことが好きなんだ。アイツよりもね」
嘘だ。これはいつもの彼の嘘に決まっている。彼が、プロデューサーよりもめぐるのことを想っているなんて、そんなことが有るはずがない。彼はめぐるを自分のモノにするためになら、平気で噓をつく。
(…………あれ? なら、どうして君は、わたしを自分のものにしたいの?)
「めぐるのことが、好きだからだよ」
「――!!♡♡♡♡ ――やぁっ♡ ちが――っ♡ そんなの――っ♡」
「好きだよ」
「ぁ――――っ♡♡♡♡」
セックスで肉体の相性の良さを散々に「わからされ」てからの、この囁き。めぐる本人は、彼の腕から逃れようと必死に身体をよじっているつもりだが、外からは、めぐるが男の言葉だけで甘いオーガズムに達して全身を震わせているようにしか見えない。
(助けて……助けてプロデューサー……)
助けを求めるべき愛しい人の笑顔が、じわじわと毒が浸透するように、「彼」の囁きによって塗りつぶされていく。怖い。悲しい。寂しい。めぐるの中に津波のような負の感情が押し寄せてきたタイミングで、また彼が囁く。
「怖がらなくても、めぐるには僕がいるじゃないか。僕がめぐるを気持ち良くしてやる」
「…………あ」
「ほら、こっち向いて」
彼に背を向けるように横寝していためぐるの身体が、天井を向く。それと同時に、彼の身体がめぐるの上に覆いかぶさってくる。
かつてはただの同級生だったのに、今ではすっかり馴染みになった彼の顔。女子であるめぐるのものとは違う、のど仏が浮き出た首に、硬い感じのする男子の肉体。
「めぐる、もう一回してもいいか?」
彼は、まるでめぐるに拒否権があるかのように、優しい口調で尋ねてくる。
「うん……」
その言葉に、めぐるは逆らえない。だが外からは、めぐるが自ら頷いたようにしか見えないだろう。彼は微笑むと、めぐるの秘部に手を添えて、ゆっくり優しく彼女を愛撫し始める。
「――はぁっ♡ ――んっ……♡ あ……っ♡」
熱く湿っぽい吐息が、めぐるの口から漏れ出ていく。
めぐるの強張った心をほぐすような、いたわるような右手の動き。左手もめぐるの乳房をやんわりとマッサージしてきて、安心したくないのに安心してしまう。その安心の中で、めぐるの全身に、じわりと穏やかな快感が広がっていく。
(○○君、すごく優しい……。さっきは、あんなに激しかったのに……っ。ずるい……っ、こんなのずるいよぉ……っ)
今日の彼の愛撫は、いつもの荒々しい、めぐるの全てを貪って支配するようなセックスとは違う。だが、この優しさも、彼がめぐるを底なし沼に引っ張り込むための手管の一つに過ぎない。しかし、彼の優しい手つきが、今のめぐるに幸せな快楽をもたらしているのは、紛れもない現実である。彼の肉体の暖かさが、めぐるに確かな温もりを与えてくれているのは、否定しようのない事実なのだ。
めぐるがどんなに助けを求めようと、彼女の愛しいプロデューサーは、ここにはいない。「彼」によって、プロデューサーに抱かれた時の感覚がどんどん上書きされていくのは、避けようがなかった。
「――アっ♡ ぅっ……ンっ♡♡ んん……っ♡♡ んーーっっ♡♡」
「……めぐる、イった?」
「――はぁっ……♡ はぁっ……♡ はぁっ……♡ ……う、うん……イっちゃった……――ンんっ♡♡ イ、イっちゃってる……」
彼に指だけでイかされて、めぐるは軽くブリッジするように腰を上げ、腰から大腿部をぶるぶる震わせた。この快楽は、どんな愛の言葉よりも雄弁だ。めぐるがプロデューサーと積み上げてきた信頼関係も、この快楽の前には、藁の小屋ほど頼りない。しかも――
「じゃあ、もっかいチンポ挿れるぞ?」
「あ……っ」
彼の股間に雄々しく屹立しているモノを、めぐるの秘部に挿入されてしまえば、手でされる時の何倍、何十倍の快感がやってくるのだ。
「ま、待って……」
「ゆっくり挿れるから」
「は、はい…………で、でも、あのね……」
「どうした?」
「――あの、あのね……っ、する前に……キス……して欲しいの…………」
めぐるは堪えきれずに言ってしまった。途端に彼が微笑みを消し、めぐるの瞳を観察するようにじっと見つめてきた。
「…………」
「あ……あの……そのほうが、安心できると思うから……でも、違うの……」
めぐるは言い訳するようにつぶやいたが、これは何の弁解にもなっていない。また一つ、彼女が崖を踏み外したというだけだ。それでも、めぐるはまだ自分が引き返す道があると信じたいのか、顔を赤くしながら言い訳を重ねる。
「違うの……ホントに違うの……――ンっ……♡ はぁ……♡ ちゅ……っ♡ ……あ、ゴ、ゴム……」
辛うじて、彼に避妊具を付けてもらうことだけが、めぐるがプロデューサーのために残しておいた防波堤だった。しかし彼は、ベッドボードに置かれたコンドームの箱を取ろうと伸ばされためぐるの手首を、強い力で掴んだ。
「あ――」
「…………」
「だ、ダメ……ダメなの……――んぅ……♡ ちゅ……♡ ちゅる……っ♡」
彼の舌が、めぐるの口内を再び這い回る。理性的な思考がどんどん溶かされていく中、それでも彼女はコンドームを手に取ろうともがいた。それはまるで、蜘蛛に捕食される可憐な蝶の、最後の抗いのようにも見えた。
「ん……っ♡ ちゅ……っ♡ ダメぇ……♡ ちゅる……♡ はぁ……っ♡ ゴム……つけて……っ♡ ちゅぱ……♡ お願い……♡ はむ……♡」
避妊具を付けるよう懇願しているのか、それとも夢中で口づけを交わしているだけなのか、やがて判別がつかなくなった。だが、めぐるは何とか一枚のコンドームを指先に挟むことに成功すると、手をプルプル震わせながら、その封を切り、彼の怒張したペニスにかぶせていった。彼はそうしているあいだにも、まるで彼女に自らコンドームをはめる手を止めさせようとするかのごとく、めぐるの口内を執拗に舌で愛撫していた。
思えば、彼とめぐるが不実な肉体関係を結んだきっかけは、この一枚の薄いゴムだ。めぐるが学校の廊下でこれを落とさなければ、二人は今のような関係にはならなかった。この0.01㎜の薄い壁を、めぐるは未だ、恋人であるプロデューサーにも越えさせていない。――そう、彼は今、ほかならぬその壁を壊そうとして、めぐるの心と身体をキスで揺さぶっているのだ。
「――はぁっ……♡ はぁっ……♡ はぁっ……♡ はぁっ……♡」
「…………」
だが、今日のその勝負は、一応のところはめぐるが勝った。めぐるは彼のキスにも負けず、彼のペニスの熱を手と指に感じながら、コンドームをはめることに成功した。
「だ、ダメ…………だめだよ……」
自分を真剣な表情で見つめる彼に向かって、めぐるはうわごとのように、その一言を繰り返す。やがて、彼はふっと微笑んで、今しがたの二人のあいだの攻防が存在しなかったかのように、めぐるの頬を優しくなでた。
「めぐるは前からがいい? 後ろから?」
「前から……抱っこしてがいいの……。キスもたくさんして欲しい……」
避妊具を付けてもらえたことに安堵して、めぐるは素直に自分の欲求を口にした。彼はやはり柔らかく微笑み、上からめぐるを包みこむように覆いかぶさってくる。
「――ふあ……っ♡♡ あああっ♡♡」
彼の部屋に、感極まった甘ったるい声が響く。挿入に伴う喜悦のあまり、めぐるは彼の背中に自分の爪痕をつけてしまった。それくらい、彼に挿れられた瞬間はいつも気持ちいい。特に太いとか長いとかではなく、何もかもがめぐるにぴったりなのだ。
「――んぅっ♡ んっ♡ んぅ♡ あっ♡ んっ♡ んっ♡ やぁっ♡ ああんっ♡♡」
ゆさゆさとピストンされると、混じりっ気無しの快感が膣内から広がり始める。奥も入り口も、めぐるの感じる部分には、全て彼の一部が当たっている。
「めぐる、ここ擦られるの好き?」
「うんっ、好きっ♡ ソコすごいイイのっ♡ 段差のとこでゴリって――あうううっ♡♡♡♡」
「こう? こうされるの好きなんだろ?」
「うんっ、好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きぃっ♡♡」
「ほら、それもっと言って。素直になったほうが気持ちイイぞ」
「好きっ♡ あっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡」
緊張の緩和によって無防備になっためぐるは、さっきは警戒していたその単語を、節操なく繰り返してしまう。
「好き? めぐるは僕のチンポが好きなの?」
「あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡ ――う、うんっ♡ 好きだよっ♡ 大好きっ♡ あううううっ♡♡」
「僕も好きだよ。めぐるが大好きだ」
「うんっ♡ 好きっ♡ わたしも好きぃっ♡ あ゛っ♡ お゛っ♡お゛っ♡お゛っ♡お゛っ♡ す、すごぃいいっ♡♡♡ すごひよぉおっ♡♡♡ ん゛ぃいいっ♡♡♡」
恋人同士のように正常位で繋がって、お互いに「好きだ」と言い合いながらセックスする。例え「彼」によって気付かぬうちに誘導された形でも、この交わりは、めぐるの身体にさらに深い性の悦びを与えた。
「――き、きすっ♡ ねぇっ♡ キスっ♡ キスしよっ♡♡ ――ンっ♡ じゅる♡ んじゅ♡ ぷは♡ ――ちゅうっ♡♡ ちゅるるっ♡♡」
その口づけは、めぐるのほうから彼に頭を近づけて、息継ぎすら最低限に行われた。グラビアでも映えるめぐるの長い脚は、彼の胴体にガッシリ巻き付いていて、腰はクイクイと、あたかも射精を請うように淫らに動いていた。
「――ちゅっ♡ 好きっ♡ ちゅぅぅうっ♡♡ 好きぃっ♡♡ 大好きっ♡♡」
今のめぐるはアイドルではない。今のめぐるは、目の前のオスに浅ましく媚びへつらうだけのメスだった。自分を一番気持ち良くしてくれるオスのチンポに全てを捧げ、ファンのことも、恋人のことも忘れ去っていた。
(わたし……)
先日カラオケボックスでハメ潰された時と同じようで違うのは、めぐるのほうが彼を求めてしまっているということだ。
(わたし……もう戻れないのかな……)
彼を拒もう、この関係を断ち切ろうと考えても、それはもう無理なのかもしれない。
「出してっ♡ 出してっ♡ 一緒にイこっ♡ 一緒に♡ 一緒に気持ち良くなろっ♡ ――お゛っ♡♡♡ あ゛……♡♡♡ イ、イっちゃったぁ……♡♡♡ ~~~~~っっ♡♡♡♡」
彼の射精のタイミングに合わせ、めぐるの身体も本気絶頂を繰り返す。それが本当に幸せで、今さら手放すことなど不可能なのかもしれない。
だが、それでも。
(それでも……わたしはプロ■ュー■■の彼女だよね……?)
まだ辛うじて、本当に紙一重のところで、あの人への想いが、めぐるの理性を繋ぎとめていた。
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本当に欲しいものや、本気で叶えたい願いができたとき、人間は思わぬ行動力を発揮する。例えそれが、世間に褒められる願いだとは言えなくても。
僕もそうだ。本当に欲しいものができたから、待ってないで自分で行動することにした。
(……まだ話してるな)
今の僕は、何食わぬ顔をして、とある喫茶店の隅の席に座っている。視界の端に映っているのは、私服姿のめぐるのプロデューサーだ。
めぐるのプロデューサーの向かいには、同じ年代の女性が一人座っている。当然めぐるほどじゃなくても、けっこう美人だ。兄妹とか仕事先の関係者には見えない。その美人とめぐるのプロデューサーは、もう一時間以上も何かを話し合っていた。
会話の内容は、よく聞き取れない。でも、たまに女性のほうの声が大きくなるので、切れ端から何とか推測することはできる。どうやら、あの女の人はめぐるのプロデューサーの元カノのようだ。しかも、女の人のほうが、めぐるのプロデューサーを諦めきれていない。
(めぐるがいるんだから、はっきり断ればいいのに)
めぐるとあの男を引き離そうと考えている僕が、ついそんなことを考えてしまった。それくらいさっきから、めぐるのプロデューサーは言い寄ってくる相手に対して、強い態度を取れないでいる。
(まあ……僕にとっちゃ好都合だけど)
この状況は例によって盗撮している。このあと、あの二人がラブホかどこかに入ってくれれば最高であるが、それでもこの動画は、めぐるを揺さぶる材料に使えるかもしれない。
「――! そう、私なんかどうでもいいんだよね? ならもういい!」
「ちょっと待って――!」
「あ――っ」
女の人が椅子を蹴るように立って、こっちに近づいてきたので僕は慌てた。女の人のハンドバッグが僕のスマホをかすめ、カツンと床に転がった。
「――ごめんね、君」
皮肉なことに、そのスマホを拾った相手は、女の人を追いかけて席を立っためぐるのプロデューサーだ。
「はい、君のだよね。壊れてないかな?」
尾行して盗撮していたことがバレたらヤバい。僕の身体に、ブワっと冷や汗が噴き出た。でも、めぐるのプロデューサーは、画面を覗き見ようともせず、申し訳なさそうに僕にスマホを差し出した。
「いえ、大丈夫です」
そう言いながらスマホを受け取った時には、僕は何食わぬ顔を取り戻していた。我ながら、本当に面の皮が厚くなったものだ。さっきの盗撮風景だけじゃなく、この男の担当アイドル――めぐるの恥ずかしい写真や動画が大量に収められたスマホをポケットにしまいながら、僕は言った。
「追っかけなくていいんですか?」
「あ、そ、そうだね。本当にゴメン。――あ、もしスマホが壊れてたりしたら、ここに連絡して。弁償するから」
「気にしないでください」
そして、あの男は喫茶店を走り出て行った。ご丁寧に、僕に自分の名刺を渡して。