アーシア居候三日目。もひもひと夕飯を食べるアーシアをよそに考え込むイッセー。
(……ここ三日間で信頼は得られたようだな。少なくとも好意の感情を得ることができている……どうにかして悪魔の道に引きずり込むには俺にもっと依存させなければならないな。催眠は……あくまで最終手段にしよう。悪魔だけに)
イッセーにはイッセーなりの『信念』があった。イッセーは非常に選り好みが激しいタイプである。
たとえみてくれが良くても、他人と交わる可能性のあるビッチや性格がダメならば彼のお眼鏡には引っ掛からない。性格がいくら良くてもみてくれが最低ラインを越えていなければいけない。
そのかわり、上記二つを満たしていればロリだろうが熟女だろうが人外だろうが落ちてくる系ヒロインだろうがお構い無し。
イッセーの『お眼鏡』という門は、横に広いくせに縦に狭い。そういう意味ではアーシアやリアス達オカ研はお眼鏡にかなっていると言える。
ヤり捨てるのであれば見てくれしか気にしないし催眠でパパっとねかせてヤるのだが、これからハーレムの一員として加える予定であるとなると話が違ってくる。
それはイッセーの信念にある。それは一度関係を持ったら極力責任をもって面倒を見ることにするというものだ。オーフィスが良い例だ。
それにイッセーは非常に独占欲が強く、女性を束縛する面がある。一度自分の女にすると決めたのに他人に奪われたらそれはもう憤怒の形相で相手を血祭りにあげるだろう。
(うーん、なんとか吊り橋効果的にころっと堕ちてくれないかなぁ。まぁ、そんな都合の良いこと起こるわけがないか)
“手段は選ばない”のに“嘘はつかない”。少々矛盾した思考ではあるが、それが彼の信念なのだ。
その時、携帯電話がぶるぶると震える。
(……リアスから? なんだろう)
メールにはこう書かれていた。
“はぐれ悪魔討伐依頼がきたのですぐに部室に集合すること”
(……ほう)
イッセーはメールをすぐに返信する。すると、その返事もすぐに返ってきた。
(よし)
「アーシア、行くぞ」
「ふぇ?」
頬にソースがついているアーシアはすっとんきょうな声をあげた。
★
「来たわね」
俺たちは部室に到着する。
アーシアと眷属の皆が挨拶しているなか、俺はリアスに質問をする。木場ちゃんもとい優美は少々渋い顔をしていたが、アーシアの純粋さに毒気を抜かれていた。
「部長、はぐれ悪魔とはなんですか?」
「良い質問ね。はぐれ悪魔とは、主を殺したり主の元から逃げたりした悪魔のことよ。冥界の政府からは極力捕縛するようにとの通達が来ているのだけど、今回のはぐれ悪魔“バイサー”は力に飲まれて主を殺した、と資料にあるわ。なので今回は“討伐”とされているわ」
「成る程、わかりました」
成る程……。文字通りはぐれなわけか。経験値が高そうだな。一万くらいくれると俺的にも助かるんだが、なんか今回のはぐれ悪魔は弱そうだなぁ。
「部長、いきますわよ」
「ええ」
☆
「……このあたりね」
廃工場ともとれるこの場所に、はぐれ悪魔バイサーが潜んでいるとか。
「……血の臭い」
小猫がそう言う。……うん、確かに血の臭いがするが……薄い。
「近くに死体があるみたいです。しかも、新しい……」
小猫の言葉は最もだ。ここらへんは少々臭う。
「実践形式ということで、二人に優美達の力を見てもらうわ。先ずは駒の特性を――」
駒の特性か。
その瞬間、濃密な殺気がばら蒔かれる。
「んん? 旨そうな匂いがするぞ? 不味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」
闇から出てきたのは、上半身が裸の女性、下半身が獣という異形だった。
俺たちよりもよっぽと悪魔らしい姿だ。アーシアはヒッ、と短い悲鳴をあげて俺の背中に隠れる。
「はぐれ悪魔バイサー。私の管轄下に逃げ込んだのが運のつきね。大公の命により、消し飛ばしてあげるわ」
「こざかしいぃぃぃぃ! 小娘ごときがぁぁぁ! その紅の髪のように、おまえの身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁぁ!」
リアスを認識したとたんに殺気を膨らませるバイサー。なんだ?
「雑魚ほど洒落た台詞を吐くものね。――優美」
「はい部長」
優美の姿が一瞬ぶれる。すると――
斬っ!
「ぎゃぁぁぁ!? わ、私の腕がぁぁあ!」
一瞬で右腕を切り落としたらしい。
「彼女の駒は『
しかしいつの間にあんな御立派な剣なんざ持ってたんだ?
「次は小猫」
「……」
小猫がバイサーへと突撃する。
「小虫めぇ! 踏み潰してくれる!」
やつの巨大な足が小猫を踏みつける。おいおい
、不味くないか?
「あぁ、小猫ちゃんが!?」
悲鳴に近い声をあげるアーシア。
「心配しなくても良いわ。彼女の駒は『
ぐぐぐ、とバイサーの巨体が持ち上がる。あんなちっこい体にあんなパワーが秘められているのか……しかも余裕そうだ。
「馬鹿げたまでの攻撃力。あの程度では小猫は止められないわ」
小猫は完全にバイサーを持ち上げると。
「……ぶっとべ」
空中へ放り投げてしまう。すげぇ。アーシアもその怪力に驚いていた。
「ぐぁぁ!? くそぉぉ……ん? シスターがいるじゃないか」
バイサーはようやくアーシアを見つけて舌なめずりするが……
稲光と轟音が響く。
上空から、雷が落ちたのだ。室内なのに。
「ぐわぁぁぁ!?」
「あらあら、余所見はよくありませんわね」
……朱乃、ドSなんだな。加虐……さでずむだっけか。
ねちねちと死なない程度の雷を落とす。死なない程度の雷、という表現もアレだけどね。
「朱乃の駒は
あまいな。俺なら皮を剥いで再生、皮を剥いで再生、指を関節ごとにゆっくりぬいてから再生……っとと、思考を飛ばしすぎたな。アーシアはがくがく震えてる。
……すこし畳み掛けるか。
「アーシア。悪魔にも人間にも悪いやつといいやつがいる。……俺は心配なんだ、人間であるアーシアがこんな町ですんでたら殺されてしまいそうで」
「イッセーさん……」
……嬉しさ半分罪悪感半分ってところだな。よし、このまま一気に行くか。
「なぁ、アーシア。俺たちと同じ悪魔に、なってくれないか? 部長は優しいし、信用できる人だ。それに……君が死にゆくのを看取れる自信はないよ……」
隠し玉もだした。よし、これでなんとか……。
「えっ……」
困惑するアーシアを確認してからちらりと横をみる。黒こげのはぐれがリアスに消し飛ばされていたところだ。
「……この話はまた今度にしよう」
☆
「イッセーさん、さっきの話しはどういう事ですか?」
帰った来てすぐ、そう聞かれた。俺は丁寧に答える。
「アーシアは知らないかもしれないが、悪魔は一万年生きる。長い時間を生きた悪魔にとっては、人間の生まれてから死ぬまでの時間なんて、一瞬に等しいそうだ」
「……それじゃあ……」
アーシアは暗い顔をする。
「そうだアーシア。君が年老いて死んでしまっても、俺は生き続ける」
そしてハハ、と乾いた笑みを思わず浮かべてしまった。
「せっかく仲良くなれたのにな……言葉にすると辛いや」
……いや、本当に。
だってこんな美少女と仲良くできるなんてなかなかないぜ? 俺は食虫植物みたいな男だし。
基本動かないけど近づいてきたら喰う(性的な意味で)からな!
どうせなら長い時間、一緒にいたいと思うじゃないか。
「イッセーさん、私!」
「おおっと、速急に決める必要はない。まだまだ時間はある。アーシア、君が選ぶんだ。アーシアが決めるんだ。そこに俺の意思は関係ない」
敢えてそう言うことによって彼女の気を引かせる『押してダメなら引いてみよ』作戦。
「……」
アーシアが押し黙って考えているのを見てから、俺はリビングへと向かう。
――すげぇの見ちまったからな。今日は。もう、寝るか。既に俺の布団で寝てるフィーを抱き枕代わりにして。