01.おかしな理由
おかしい。なにがおかしいかというと、リアスだ。
リアスはなんだか上の空でボーッとしっぱなしだ。グレモリーというのは上級貴族のようだから、婚約者でもいるのだろうか。例えばそれがどうしようもない女たらしの種まき野郎だとか。
俺も似たようなもんだがな。といっても、まだ三人だ。いや、現状ふたりか。夕麻とは連絡とれねーし。
今もトレーニング中だってのになにか考えてる。
リアスが朝練をするから、ということで早起きしているのだが、言い出しっぺの本人がこれではな……。
まぁ、確かに基礎体力は資本だとは思う。俺は悪魔としては下の下といっても過言ではないだろう。だから別になにかを言うつもりはない。
肉弾戦特化の悪魔と後衛タイプが近接戦をするのは打開策でもない限り無謀だからな。取り合えず近接よりのオールラウンダーを目指そう。
「ふぁ……」
アーシアが大きな欠伸をしている。目尻に涙がたまっていて可愛い。まぁ、悪魔になりたての彼女ではまだ朝はキツいだろう。
時折神に祈っては頭痛を起こしているのを見るに、ただのおっちょこちょいなのかもしれないが。
兎に角、上の空なリアスだった。
★
悪魔社会は近世の封建社会に近いものがある。現魔王によるクーデター、サタン一族の断絶、旧魔王の一族徒党を魔界の隅へ追いやった。それらを加えても貴族社会なのは変わらなかった。徐々に変貌しつつあるものの、未だ差別は残っているし、名家の悪魔は優遇される。
旧体制の悪しき部分もまた、引き継がれていた。人々の感性を急に変化させることは、余程の事がない限り不可能だ。
例えば、サタン一族の末裔が地上に生き残っているとか、無限の龍神が誰かの手に堕ちたとか、真なる赤龍神帝が誰か一人を懇意にしているだとか、トライヘキサが見つかったとか。そのレベルの衝撃がない限り、不可能である。
悪魔たちのトップの一人、サーゼクスもまた、旧派――旧魔王派と呼ばれる派閥の暗躍や暴動に頭を抱える一人だ。
軍、外交、技術以外の政治のトップであるサーゼクス。アジュカ、セラフォルー、ファルビウムの三人に厄介事を押し付けられたと言っても過言ではないであろう。
そんな貧乏クジのサーゼクスはというと、書類整理でてんてこまい。主に口封じと情報秘匿のためである。後に、噂一つ流させまいとするその姿はまさに鬼気迫るものであった、と彼の嫁であり、イッセーの嫁の義姉という立場になるであろうグレイフィアは語る。
そんなサーゼクスが行っていた秘匿すべき情報とは、闇の魔力反応についてだ。
闇の魔力を潜在的に宿すのは悪魔ならサタンとそれに連なる一族のみだ。
余談ではあるが、なぜサタンが闇の魔力を宿しているのかは冥界の歴史学者、魔術学者達の命題でもある。
(
サーゼクスはこれを不味いと思った。唯でさえやっと安定し始めた冥界。悪魔たちも戦争やクーデターの痛みを忘れ始め、経済も発展した。そこでこの情報は――不味い。
然るべき時に、然るべき場所で発表し、尚且つ
それから、離反者――はぐれ悪魔の対応についても、目処が立っていない――訳ではない。
はぐれ悪魔取扱法。それは、はぐれ悪魔をより厳しく罰し、より正しく救う法。
我々悪魔はギブアンドテイク、等価交換をすべきなのだ――。
と、これは悪魔王――又の名を大魔王。レフィクル・サタンの言葉である。
正確にはレフィク・L・サタン。Lの意味は一族の誰も知らない。更に、レフィクル本人もなにも語らず、常にレフィクルと名乗る故に、レフィクル・サタンと呼ばれるようになったのである。歴史書にもそう書かれている。
兎も角、そのはぐれ悪魔取扱法――正確には『はぐれ悪魔の取り扱い、及び罰則と処置に関する法律』なのだが――についての書類も纏めた。近日中には発表する予定だ。
現行のはぐれ悪魔取扱法を取り下げ、この法律に変えるメリットはいくつかある。
一つは、転生悪魔や眷属悪魔の人権向上。
不可抗力、契約不履行、または不当な理由で転生悪魔、ならびはぐれ悪魔になってしまった場合に、現行悪魔政府の保護を受けることができる点だ。
例をあげるならば、契約不履行で非道を行おうとした主を殺した、本人の意思に反して悪魔にした、等。
一度転生してしまった悪魔はもとの種族には戻れない。こればかりはアジュカでもどうしようもない。「人化の法」なる異能や悪魔の力等を持った存在にが人間になる、という不可思議な法があるらしいが、信憑性は薄い上に出所は中国だ。道仙達が幅をきかせているため、悪魔では手を出し難いのが現状だ。
もう一つの利点は、契約不履行という魔王をも恐れぬ罪深き事を行う愚か者をみつけだせるという点だ。契約不履行は悪魔にとって最大の
例えば、『妹を悪魔にしない』という理由で眷属悪魔になったのに、その妹を悪魔にしようとするとか。そういった契約不履行者を捕縛、断罪することができる。
デメリットも勿論存在する。
まずは旧い悪魔たちの反論。支配思想が強い者が多い故に、屁理屈を並べ立ててなんとかこの法を排除しようとするだろう。
これはまだいい。悪魔王の言葉の一つに『下僕が制御できぬなら支配者の器無し』というものがある。悪魔王の言葉は『悪魔王の奇妙な名言集』として書籍化されており、冥界での格言とされている。流石は原初の悪魔と同世代とされるだけはある。
この法律程度で下僕や転生悪魔が反乱するようならその程度の器、ということだ。
二つ目はこの法律の抜け穴だ。
洗脳や催眠といった手法を用いれば、一度了承をとってしまえばこの法律は手が届かない。
日本のようにクーリングオフ制度を導入すべきかも考えたが、それはまだ悪魔社会には早すぎる。サーゼクスはそう考えた。
(平和か……)
堕天使の総督アザゼルにより停戦が求められた。
それ以降、小競り合いや小さな問題こそ続いているものの目立った大きな問題は見られなかった。
しかし、そんなものは微妙なバランスで保たれた仮初めの平和。本当の平和には程遠い。
(……一度、話し合ってみるのもいいかもしれない)
しかし、そんな機会など滅多に訪れないことをサーゼクスは自覚している。奇跡とは、普通起こらないから奇跡なんだ、と。
そんなサーゼクスの胃をキリキリと締め上げる案件が舞い上がるのはそう遠くはない。