「部長の様子がおかしい?」
翌日。とりあえずリアスの様子がおかしい事を優美にも伝えておく。
「そうなんだよ木場ちゃん。ほら、朝練の時も部活の時も活動の時も上の空でさぁ。この前なんか紅茶に胡椒振って普通に飲んでたし」
「ああ、そういえば……」
思う節があったのか考え込む優美。木場ちゃんはやめて、というのはなくなったけど、まだ恥ずかしいのかたまに人目を気にする。その様子がカップルっぽいのか、腐った方々の間では木場総受け説が定番となっているとかなんとか。
先に言っておこう。俺は男に性的、愛情的興味はない。つまりノンケだ。まあ、あまりノンケを主張すると逆にホモに見えるのでここら辺でやめておくことにする。
「朱乃さんならなにか知っているかもしれないね」
「姫島先輩かぁ。確かに知ってそうだ」
「うん。彼女は部長の懐刀だからね」
懐刀ねぇ。とまぁ、優美と喋っている内に旧校舎の部室前まで来たところで、たらりと冷や汗を流す優美。
「いくらイッセー君としゃべってたとはいえ……自惚れてるわけじゃないけど、僕がここまで来て漸く気づくなんて……まだまだ修行が足りないな」
優美がそう呟く。中に誰かいるのか? ……あの話の流れからしてルキフグスさんだろうか。
がちゃりと、部室のドアを開けた。
★
部室には一誠と木場を除いた部員と、グレイフィアがいる。一誠と木場はそれを確認すると、部長へと遅刻の謝罪をした。
「すいません部長、遅れました」
「大丈夫よ」
リアスの声の調子はイライラしてはいるものの、あのときのような不安定な精神状態ではないようだ。イッセーは少し安心し、木場と同じようにソファーへと腰を下ろす。
「いい加減にして。私にはハイスクールの間は結婚の話しはしない約束だったでしょう!?」
「今回は事が事です。あのような行動に出られた以上、こうする他ありません」
珍しく声を荒げるリアスと、淡々と告げるグレイフィア。グレイフィアの内心は知れずだが、このように婚約を急かす理由はある。
まずひとつ目か後継者問題だ。
基本的に悪魔は男性……特に長男が当主を勤める。しかし、その長男は魔王職に就き、家を継げない。グレモリーの姓を名乗ることができないからだ。よって、自動的に次期当主は当主継承権第二位のリアスのものとなる。
ここで問題なのが、リアスが女性で未婚である、ということだ。悪魔社会において、女性の立ち位置は弱い。そもそもが家は男が継ぐという風習があるため、すぐさま何処かの家へ嫁がなければならない。そうすれば、男の子を産みさえすればその子がグレモリーを継ぐのである。その間は現グレモリー当主が頑張ればいい。もし生まれなくともサーゼクスの子であるミリキャスという保険がいる。
そしてそのミリキャスは、理屈上ではあるが分家の子となっている。一応はグレモリー姓を名乗ってはいるものの、分家の子であるのでリアスやその子供よりも当主継承権は低い。それ故に本家の子を求めての婚約だった。
二つ目は言うまでもなくリアスがイッセーに夜這いをかけたことである。正確に言えば未遂なのだが、そうだとしても今後同じ行動が行われる可能性は高い。それ故にさっさと結婚させてしまおうと言うことだ。
三つ目は、純血悪魔を増やすことだ。戦争前ならともかく、いまでは純血悪魔はそう多くない。むしろ堕天使や天使との小競り合いで跡継ぎが死ぬ、なんてこともないわけではない。故に純血を守らなければならないという考え方故だ。
だからこそ、結婚を急かしているのであった。そんなことは露知らず、一誠と優美はソファーへと腰を下ろす。
突如、部屋の中に魔方陣が現れる。
「――フェニックス」
紋章からして、優美の呟く通りフェニックス家の者であると確認できる。
その魔方陣から炎が吹き上がり、アーシアが短く悲鳴をあげるも一誠が庇うように動く。そしてその炎が人の形を作って行く。
「ふぅ、人間界は久しぶりだな……」
「ライザー……」
「会いに来たぜ、リアス」
ライザーの登場に目を白黒させているアーシア。まだまだ悪魔に関しての耐性が低いのだろう。一誠は、やけに主に馴れ馴れしいライザーに渋い思いをしつつもそれをおくびにも出さずに涼しい顔をしていた。もっとも、
☆
「いやぁ、リアスの女王が淹れた紅茶は旨いなぁ」
「いえいえ、それほどでも」
体面上こそニコニコとしている朱乃であるが、目は笑っていない。本当に体面上だけのようだ。そんな様子を一誠は観察……いや、値踏みをするかのようにライザーを見ていた。
赤いスーツを崩したような、まさに崩れホストといったような体だ。それにほんのりと女物の香水の臭いがついているのに一誠は気づくことができた。仮にも婚約者に会うのに、別の女の臭いを消すくらいの気遣いもできない奴なのか、と内心でライザーの評価を一段階下げる。
ライザーはそれを知ってか知らずか、リアスの太ももや尻を狙ってはいるものの、全て
「いい加減にして!」
我慢の限界だったのか、リアスはキレた。もちろん、リアスとて婚約がどれだけ大事かは頭では理解している。が、相手がこんな男ではそうもいかない。もっと好ましい男性であったなら、眷属たちもこうも攻撃的な姿勢はとらないだろうし、リアスとてここまで無下にしなかっただろう。親同士が決めた婚約、女誑し、本当の己を見てくれない、気遣いもできないと来ればリアスの心境は察するに余りある。
一誠はその様子を見ながらライザーの値踏みをやめた。傲慢でプライドが高い女たらし。現時点での一誠からみたライザーの評価であった。五段階評価で2といったところだ。
一誠の視線に気づいたのかライザーは訝しむ。
「……なんだお前は?」
正確に言えば、ライザーは一誠に宿る“なにか”を感じ取った。それを訝しんでいるのであった。
「なんだと申されましても……リアス・グレモリー様の兵士、もしくは今代の赤龍帝だ、としか答えられませんが……」
一誠の赤龍帝という言葉に、ライザーは感じた“なにか”が赤龍帝のものだと勝手に納得した。
こんなやり取りをしているのは極々普通のはずだ。だがグレイフィアは何時この眠れる悪魔が暴れだすか気が気ではなかった。未熟な悪魔では判別できないほど紛れさせた闇の気配を、ライザーは違和感という形で感じていた点は、さすがは成熟した上級悪魔だと言える。しかし、真実に気づいていたのならグレイフィアと同種の恐怖と慟哭を覚えなければなかったのだ。それはある意味幸運ともとれる。
そんな幸運な三男ライザーは既に一誠への興味を失い、視線をリアスへと戻した。正確にはリアスの豊満な双乳に、だが。悟られないようにしている辺りは流石とも言える。
一誠もまた、もう用はないとでも言いたげにライザーから視線をはずしてグレイフィアのメイド服を見て「メイドかぁ」とのんきに呟いていた。
グレイフィアは心の中で私に何でも命じていいのはサーゼクスだけ、などと可愛い惚気をしながらも油断せず何時でも行動できるようにしていた。
「……なぁ、リアス」
ライザーが口を開く。
「わかってるわ。貴方が言いたいことも。純血悪魔の血は残さなければならないことも、跡継ぎのことも。家を潰さないためにも、いつかはやらなくちゃいけないことだってコトは。最悪婿養子でもとれば済むことよ。でも、今結婚したところで貴方は愛せないのよ! 貴方の家は炎と風を司るかもしれないけど、グレモリーは“情愛”よ! 愛してもいない男の人と結婚するなんて、そんなの嫌よ!」
「嫌でも、やらなくちゃいけないんだろ! 俺もな、三男とはいえフェニックスの看板背負ってんだ。これに泥を塗ったら一族の恥だ! 何としても、例え君が望まなくとも結婚しなくちゃならないんだ!」
二人の感情が高まり、魔力が漏れ出す。本人たちは意識しているのかいないのか、全身から威嚇するかのように魔力が溢れる。
この応酬を見ていて、一誠は僅かながら違和感を感じた。
(結婚
一誠の疑問も尤もであった。本当に純血の後継者を確実に残したいならば、婚約のままで交流を深めるとか、色々と婚約者同士の仲を良くする方法がある筈だ。子を成すには性交渉が必要である。その為には夫婦間の仲が良くなければ性交渉を拒む可能性も孕んでいる。それなのにリアスとライザーの仲は最悪であり、その上、間違い『かけた』事だけでこんなに急激に動くのか。まるで、焦っているかのように。
どうみても決着が着きそうにない問答にグレイフィアが待ったをかけた。
「こうなることは、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も重々承知でありました。故に、最後の手段として――レーティングゲームにて決着をつけるように、との言葉をいただいております」
闇が蠢いた。
★
レーティングゲームねぇ。
悪魔同士がチェスのように眷属悪魔を引き連れて戦うゲームだ。なるほど、こういった小競り合いの決着に用いられる事もあるのか。案外悪魔って分かりやすい種族なのかもしれない。
リアスはその言葉を聞いて「ゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね……?」といらついている。
もちろん拒否せず了承し、ゲームをすることになった。しかしフェニックスか……不死鳥なのだから、文字通り死なない、もしくは死ににくい種族なのだろう。漫画だと不死を殺すには殺し尽くして心を折る、とかあるよな。
まぁ、いいか。不死でも何でも。この婚約をぶち壊してやるさ。
「俺は既に成熟した悪魔だし、公式のレーティングゲームもこなしている上にフルメンバーだ。今のところ勝ち星も多い。それでもやるのか?」
「やるわ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「いいだろう、そちらが勝てば好きにするといい。だが負けたら即座に結婚だ。異論はないな」
「……ないわ」
随分と余裕たっぷりだな、この不死鳥サマは。
「承知いたしました。お二人の同意により、ここにレーティングゲーム開催を非公式ながらこのグレイフィアが認定いたします。両家の立会人として私がこのゲームの指揮をとらせていただきます。よろしいですね?」
「ええ」
「ああ」
リアスとライザー・フェニックスはルキフグスさんの言葉に同意する。
「では、両家にはそのようにお伝えいたします」
確認をとったルキフグスさんはぺこりと頭を下げる。
と、突如嘲笑を浮かべたライザーは問う。
「ところでリアス。眷属はここにいるメンバーで全部か?」
「本来はもう一人いるのだけれど、出場できるのは今ここにいる全員よ」
もう一人が少し気になるが、それよりもライザーの余裕たっぷりの笑みが気色悪……もとい、気になる。
「おいおい大丈夫か? この中で俺の可愛い下僕たちとまともに戦えそうなのは『雷の巫女』くらいじゃないか」
……ライザーの言い分も尤もだな。ライザーの言葉のなかにフルメンバー、という単語があった。おそらく『女王』『戦車』『騎士』『僧侶』『兵士』の全部の駒、計15駒を全て消費済みということなのだろう。戦いは数だよ兄貴、ってよく言うし。
小猫や優美は戦闘もやってるけど、それはあくまでグレモリー眷属が対処できるはぐれ悪魔や下級中級程度の強さ。上級悪魔レベルとの交戦経験はないだろうし、レーティングゲームだってはじめてなのだろう。俺とアーシアに至っては言うに及ばず。
……どう考えてもこちらが不利すぎる。数の利、経験、連携、実力、その他もろもろが足りない。悔しいが、やつの方が上手だ。
そしてやつの周りに魔方陣が現れ、そこから………………15人だと? 完全なフルメンバーじゃねーか。しかも全員女の子。
「とまぁ、これが俺の可愛い下僕たちだ」
やっぱりこいつ、ハーレムだったのか……どうりで女の臭いがついてる訳だ。どうせこの女達の中の一人といちゃついてたんだろう。そして別の女に会うのに香水で誤魔化すこともせず堂々としていたと。フン、気に入らないな。
しかもその眷属と見せつけるかのようにキスを始めてやがる。やれやれ、これが婚約者の前ですることか? アーシアの教育にも悪いじゃないか。
……だがその実、このようなことができる実力があるのだろう。今のところ勝ち星の方が多いと本人も言っていたしな。さてさて、どうしたものかね。
そんな風に考え事をしていたら。
「どうだ赤龍帝君。君にはこんなことできんだろう」
と、ライザーが誇ったように言う。
「……そのように申されましても、私程度ではなんとも」
俺はテメーみたいに周りに女の子を侍らせたいだけなわけじゃねーんだ、と心の中で呟いておく。俺は女の子を愛したいだけなんだ、そのためなら手段は問わないだけであって。
何? 鬼畜? ええそうですが何か問題でも?
「ふん、張り合いのない奴め……リアス、10日後だ。10日後にレーティングゲームを行う。いいな?」
「……それはハンデとして受け取っておくわね。分かったわ」
これでレーティングゲームの日時が決定された。
★
「オーフィス、今までどこをほっつき歩いていたのですか!?」
「我、闇の気配感じた。それを確認しにいっていた」
「闇!? まさか、サタン様が……!?」
「否。彼、大魔王ではなかった」
「そ、そうですか……では何故闇の気配を……」
(我、イッセーがサタンの子孫ではないとも、悪魔ではないとも、一言も言っていない。何故勝手に勘違いをした?)
「まさかご存命して……いえそんな、レフィクル様は餅を喉に詰まらせて真っ先に亡くなったと当時のレフィクル様の子孫に聞いた覚えが……」
(……我、関係ない)
歯車は狂う。
ABのPCゲーム化を数年前から待っている作者は今ABOWにハマってます。
……更新もやります!