※この作品はR-18です。

ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~   作:天舞蜜

12 / 23
第二部 再び調理される【剣姫】
₋ep.1₋ 予期せぬ下ごしらえ


 それは、とある日の午前の出来事だった。

 

「ない! ないっ! なぁああああいッッ‼‼」

 

 オラリオの『とある商店』から、断末魔のような叫び声が窓をつき破って近所へ響き渡った。

 

 とある商店とは、迷宮都市オラリオの中でも指折りの道具屋(アイテムショップ)にして、ディアンケヒト神を中心とする【ディアンケヒト・ファミリア】の拠点(ホーム)の一角だ。

 

 オラリオでも指折りの店というからには、当然販売しているものの中には一介の冒険者では手が出せない高級品を扱っているわけであって、訪れる客層の中には資産家のような者も少なくない。

 従って従業員は当然ながら、客も礼儀作法(マナー)を厳守して、間違っても大声を上げて床の上で赤子のようにジタバタ転がり回るなんてことはないはず、なのだが……。

 

「……あの、ディアンケヒト様。お客様が往来する公共の場で転がるのはやめていただきたいのですが。というか営業妨害で叩き出しますよ?」

 

 店の(かなめ)にして【ディアンケヒト・ファミリア】の団長でもある少女、アミッド・テアサナーレは、額に皺を作りながら冷ややかな目で足元を見下ろしていた。

 

【挿絵表示】

 

 彼女の眼前には大の字になって、今にも『絶望』の二文字に圧し潰されそうな主神ディアンケヒトが転がっていたのだ。

 

「儂の秘蔵の魔道具(マジックアイテム)が……魔道具(マジックアイテム)がぁあああッ‼」

 

「あの、泣き喚く理由を尋ねているのではなく、お静かにしてくださいと言っているのですが?」

 

 そろそろ沸点も近くなってきたアミッドは、いくら相手が神とはいえ我慢の限界だった。団員を呼んでしばらく拠点(ホーム)の倉庫に閉じ込めてもらおうかと考えて、人を呼ぼうとしたその時。

 

 ガバッ! と。

 ディアンケヒトが跳ね起きて怒りを露わにしながら、

 

「やかましいわっ! アミッド、お前に分かるか!? 大切なものが奪われる悲しみを!」

 

 あろうことか逆ギレして詰め寄ってきたのだった。

 いくら毎日店内を掃除しているとはいえ、床の上を転がってはボロ雑巾のように汚れるのも必然。アミッドは埃まみれの主神からズリズリとすり足で距離をとって、

 

「そ、それで何が無くなったのですか?」

 

 神威を開放する一歩手前の様子の主神に気圧されながら、アミッドが疑問を呈すると、

 

「……………………『官能薬(カーマ)』だ」

 

「……何ですか、それは?」

 

 聞き覚えのない魔道具(マジックアイテム)の名前に、アミッドは首を傾げる。

 

「儂にも用途は不明なんだが、【イシュタル・ファミリア】から材料を渡されて作ったものだ。しかもイシュタルの、奴直々の依頼だった」

 

「初耳なんですが、そのいかにも怪しい依頼に独断で首を突っ込んだのですか?」

 

「突っ込んだぞ。何せ前金が良かっ……いやいやいやっ! 他の神に、それもA級ファミリアに恩を売っておくことは主神として重要なことだからな!」

 

(結局お金目当てですか……)

 

 主神の独断行動という名の狼藉に怒りを覚えつつ、アミッドはさてどうしたものかと考える。

 

 何はともあれ【イシュタル・ファミリア】の依頼でケチがつくのはマズい。あそこは『とある事件』以来、ギルドすら迂闊に手を出せず、さらにはアマゾネスの国との国交があり、問題行動が絶えず聞こえてくる闇派閥(イヴィルス)一歩手前の存在(ファミリア)だ。

 ゆえに、今回の依頼に関しては最優先でこなさなくてはならない。

 

 そう考えたとき、問題は二つ。

 

 一つは、消えた魔道具(マジックアイテム)の行方だ。

 そして二つ目は、『官能薬(カーマ)』が一体どのようなモノなのかである。

 

「それでディアンケヒト様、肝心の『官能薬(カーマ)』ですが、どこで保管されていたのですか?」

 

「そこ、にあったはずだ……」

 

 しょぼくれた様子で指をさした先は、なんと精神力回復薬(マジック・ポーション)が陳列する棚だった。

 

「なあっ!?」

 

 ここがお客様のいない店の裏手だったらアミッドの怒声が飛んでいたところだ。商品並ぶ棚に、それもよりによって精神力回復薬(マジック・ポーション)の並ぶ棚に謎の物質Xを混ぜておくなど言語道断。

 主神に説教をしたい気持ちに後ろ髪を引かれながら、慌ててアミッドは会計士の元へダッシュ。店内を走ってはいけませんなどという規則(ルール)は無視して、会計士から証文履歴を拝借。

 

「ディアンケヒト様、その薬品を最後に見たのはいつ頃ですか!?」

 

 アミッドは帳簿を(めく)って今日の記録を探しながら問い詰める。

 

「えーと、いつごろだったか……そうそう、儂がギルドへ出かけたのが開店直後でその時はあったな。温泉の件の事情聴取が終わって帰ってくると、ご覧のありさまだ。くそっ、棚の一番奥に隠しておいたのに! 商品は手前からとるのが礼儀(マナー)というものだろうが!」

 

「そのお気持ちは店長として分りますが、そもそも商品棚に隠すほうがおかしいです!……えーと、本日の来店客数は計14名で回復薬を購入しているのは7名、うち精神力回復薬(マジック・ポーション)を購入されているのは1名。ということは…………ッ!?」

 

 ドサッ、と。

 

 アミッドの両手から証文がまとめられたファイルが床に落ちた。

 しかしアミッドは顔を青ざめて固まったまま動かず、散らばった証文を拾い上げようともしない。

 

 記録によれば、買い手は【剣姫】()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。