ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~ 作:天舞蜜
₋ep.1₋ 予期せぬ下ごしらえ
それは、とある日の午前の出来事だった。
「ない! ないっ! なぁああああいッッ‼‼」
オラリオの『とある商店』から、断末魔のような叫び声が窓をつき破って近所へ響き渡った。
とある商店とは、迷宮都市オラリオの中でも指折りの
オラリオでも指折りの店というからには、当然販売しているものの中には一介の冒険者では手が出せない高級品を扱っているわけであって、訪れる客層の中には資産家のような者も少なくない。
従って従業員は当然ながら、客も
「……あの、ディアンケヒト様。お客様が往来する公共の場で転がるのはやめていただきたいのですが。というか営業妨害で叩き出しますよ?」
店の
彼女の眼前には大の字になって、今にも『絶望』の二文字に圧し潰されそうな主神ディアンケヒトが転がっていたのだ。
「儂の秘蔵の
「あの、泣き喚く理由を尋ねているのではなく、お静かにしてくださいと言っているのですが?」
そろそろ沸点も近くなってきたアミッドは、いくら相手が神とはいえ我慢の限界だった。団員を呼んでしばらく
ガバッ! と。
ディアンケヒトが跳ね起きて怒りを露わにしながら、
「やかましいわっ! アミッド、お前に分かるか!? 大切なものが奪われる悲しみを!」
あろうことか逆ギレして詰め寄ってきたのだった。
いくら毎日店内を掃除しているとはいえ、床の上を転がってはボロ雑巾のように汚れるのも必然。アミッドは埃まみれの主神からズリズリとすり足で距離をとって、
「そ、それで何が無くなったのですか?」
神威を開放する一歩手前の様子の主神に気圧されながら、アミッドが疑問を呈すると、
「……………………『
「……何ですか、それは?」
聞き覚えのない
「儂にも用途は不明なんだが、【イシュタル・ファミリア】から材料を渡されて作ったものだ。しかもイシュタルの、奴直々の依頼だった」
「初耳なんですが、そのいかにも怪しい依頼に独断で首を突っ込んだのですか?」
「突っ込んだぞ。何せ前金が良かっ……いやいやいやっ! 他の神に、それもA級ファミリアに恩を売っておくことは主神として重要なことだからな!」
(結局お金目当てですか……)
主神の独断行動という名の狼藉に怒りを覚えつつ、アミッドはさてどうしたものかと考える。
何はともあれ【イシュタル・ファミリア】の依頼でケチがつくのはマズい。あそこは『とある事件』以来、ギルドすら迂闊に手を出せず、さらにはアマゾネスの国との国交があり、問題行動が絶えず聞こえてくる
ゆえに、今回の依頼に関しては最優先でこなさなくてはならない。
そう考えたとき、問題は二つ。
一つは、消えた
そして二つ目は、『
「それでディアンケヒト様、肝心の『
「そこ、にあったはずだ……」
しょぼくれた様子で指をさした先は、なんと
「なあっ!?」
ここがお客様のいない店の裏手だったらアミッドの怒声が飛んでいたところだ。商品並ぶ棚に、それもよりによって
主神に説教をしたい気持ちに後ろ髪を引かれながら、慌ててアミッドは会計士の元へダッシュ。店内を走ってはいけませんなどという
「ディアンケヒト様、その薬品を最後に見たのはいつ頃ですか!?」
アミッドは帳簿を
「えーと、いつごろだったか……そうそう、儂がギルドへ出かけたのが開店直後でその時はあったな。温泉の件の事情聴取が終わって帰ってくると、ご覧のありさまだ。くそっ、棚の一番奥に隠しておいたのに! 商品は手前からとるのが
「そのお気持ちは店長として分りますが、そもそも商品棚に隠すほうがおかしいです!……えーと、本日の来店客数は計14名で回復薬を購入しているのは7名、うち
ドサッ、と。
アミッドの両手から証文がまとめられたファイルが床に落ちた。
しかしアミッドは顔を青ざめて固まったまま動かず、散らばった証文を拾い上げようともしない。
記録によれば、買い手は【剣姫】