※この作品はR-18です。

ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~   作:天舞蜜

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₋ep.2₋ 路地裏の先付け

【剣姫】ことアイズ・ヴァレンシュタインはダンジョンからの帰り道、明らかに身体の調子がおかしかった。

 

 頭がボーっとして、身体中が火照っている。何よりも、歩くたびに股間を擦れるスパッツが湿っていくような感覚があった。

 

 金銭面に余裕のある冒険者なら、一度は【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠地(ホーム)を訪れてアミッドに治療をしてもらうだろう。あるいは万能薬(エリクサー)を服用したかもしれない。

 しかし、アイズにしてみればこの程度の倦怠感は日常茶飯事。連日ダンジョン中層の奥深くで何度も無茶な戦いをして、心身ともに酷使したのだから当然の疲れだろうと思っていた。

 

 頭がフラフラして焦点が合わなくなる一歩手前。

 

(……しょうがない、この間のポーションを……飲もう)

 

 節約して飲むのを躊躇っていた精神力回復薬(マジック・ポーション)を取り出す。すでに7割ほど口をつけて飲みかけだったが、何もお腹に入れないよりはマシだろうと思っての行動だった。

 

 ほどなくして、アイズは自力で歩くのも難しくなった。

 まるで見えない『力』に精神が蝕まれて、肉体までもが毒されているような気分。

 

【挿絵表示】

 

(なに……これ……? 私、どうして……こんな……)

 

 だからこそ、本拠地(ホーム)まで近道をしようと、街の路地裏を通って帰ることにする。

 

 しかし道中には荒くれ者たちが屯するスラム街が待ち受けていた。そこには正式な本拠地(ホーム)を持たず、スラム街を縄張りとする闇派閥(イヴィルス)の残党もうろついている。

 

 そんな悪党どもが、侵入者(アイズ)を見逃すはずがない。

 

 普段なら第一級冒険者に手を出すなど、自殺行為にも等しい真似をする物好きはいないが、この時のアイズの様子ははたから見てもおかしかった。

 目線が一点に絞れておらず、千鳥足のようで呼吸が荒い。

 

 結論から言えば、アイズが少し前に飲んだ液体こそが『官能薬(カーマ)』だった。

 

【イシュタル・ファミリア】が【フレイヤ・ファミリア】打倒計画で使用される筈だった魔道具(マジック・アイテム)にして、魔力を保持する冒険者にとって天敵ともいえる凶悪な劇薬。

 

 神イシュタルの『神血(イコル)』を原料として、【ソーマ・ファミリア】の主神ソーマの造る『神酒(ソーマ)』を数滴混ぜて、その他8種類の薬品を特殊な比率で掛け合わせた媚薬の一種。

 この薬液を僅かにでも摂取した者が魔力持ちだった場合、「魅了」と「酩酊」が同時に発現。これらの状態異常は一部冒険者を除いて如何なる場合でも抗えない。具体的には『神血(イコル)』の「魅了」によって性欲が爆発的に増幅され、『神酒(ソーマ)』の「酩酊」によってさらなる高み……すなわち絶頂を求めてしまう。

 魔力の【ステイタス】が高いほど効果は抜群で、精神力(マインド)の自動回復スキル『精癒』を発現させているアイズにとっては相性最悪の爆弾に値する。

 

 もちろん荒くれ者たちはそんな神々の悪戯など知ったことではない。

 

 が、状況はどうであれ【剣姫】との戦いの末の『勝利』という謳い文句は、縄張り争いをしている同業者への誇りと牽制になる。

 

 だからこそ、【剣姫】を襲撃しない手は無かった。

 

(——ッ⁉)

 

 囲まれている。

 

 第一級冒険者の直感が囁いた時には、包囲網の下準備は終わっていた。

 

「へっへっへっ!」

 

 アイズが顔を上げれば、武器を手にした冒険者もとい襲撃者たち十名近くが、三日月状に嗤う口から獰猛な歯を覗かせて、通路の前後を塞いでいる。

 

「総員、対人陣形でかかれい!」

 

 親玉らしき老人男性の命令で始まったのは、狩り。

 

「ッ!」

 

 スラム街を熟知した闇派閥(イヴィルス)たちは地の利を生かし、四方八方からヒット&アウェイの戦法でアイズへ襲い掛かる。

 

 アイズは緒戦こそ翻弄されたが、流石は第一級冒険者と恐れられるだけあり、次第に敵の動きや法則(パターン)に慣れ始める。

 

 一人、また一人と峰内で昏倒させていくお手並みは、流石第一級冒険者といったところか。

 

 だが、

 

「【掛けまくも畏きいかなるものを打ち破る我がよ、尊き天よりの導きよ——】」

 

「ッ!?」

 

 その声が、『呪文』が、裏路地に響いたことでアイズは動揺する。

 敵の中に魔導士がいるのは予想していたが、その姿が未だ捉えられないでいたからだ。

 

「【——卑小のこの身に巍然たる御身の神力を——救え浄化の光、破邪の刃——払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう) 今ここに——我が命(な)において招来する——】」

 

「長文詠唱……っ!?」

 

 仕掛けられた重力魔法こそが王手だった。

 

「【天より降り、地を統べよ——神武闘征(フツノミタマ)】」

 

 直後、アイズの足元を中心に紫色に光る術式が展開。

 

 咄嗟に魔法陣(サークル)を抜け出そうと疾走するが、その先の足元にワイヤートラップが仕掛けてあり、これに反応が遅れたアイズは躱そうと無理に身体をひねるが、跳んだ先で戦斧を振るう冒険者の姿をとらえた。

 戦斧が胸鎧(アーマープレート)に直撃したアイズは吹き飛ばされ、衝撃で防具を剝がされて再び重力魔法(フツノミタマ)魔法陣(サークル)中央へ投げ出される。

 

 動けないのをいいことに幾多の弱体魔法(デバフ)をかけられたのはいうまでもない。

 

 重力魔法(フツノミタマ)の効果が切れても、全身に『官能薬(カーマ)』が回っていた少女は立ち上がれなくなっていた。

 

 この時、闇派閥(ファミリア)一行の団長(ボス)である白髭を生やした老人は、勝利の余韻に浸りながらも彼女が反撃してこないか、油断なく徹底的に観察していた。そして偶然捲れたインナーのスカートから覗かせる青色のスパッツの染みを見て、

 

「ん? んんー? ……くっ、くはっ、フハハハハハッ!」

 

 団長はアイズを使って金を生み出す下劣な方法を閃いた。

 

「さぁて、全団員に告ぐ」

 

 老人の年相応とは思えない悪魔のような眼光を揺らめかせて、取り巻きに命令を下す。

 

「【剣姫】を囲え。決して逃がすでないぞ?」

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