ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~ 作:天舞蜜
【剣姫】ことアイズ・ヴァレンシュタインはダンジョンからの帰り道、明らかに身体の調子がおかしかった。
頭がボーっとして、身体中が火照っている。何よりも、歩くたびに股間を擦れるスパッツが湿っていくような感覚があった。
金銭面に余裕のある冒険者なら、一度は【ディアンケヒト・ファミリア】の
しかし、アイズにしてみればこの程度の倦怠感は日常茶飯事。連日ダンジョン中層の奥深くで何度も無茶な戦いをして、心身ともに酷使したのだから当然の疲れだろうと思っていた。
頭がフラフラして焦点が合わなくなる一歩手前。
(……しょうがない、この間のポーションを……飲もう)
節約して飲むのを躊躇っていた
ほどなくして、アイズは自力で歩くのも難しくなった。
まるで見えない『力』に精神が蝕まれて、肉体までもが毒されているような気分。
(なに……これ……? 私、どうして……こんな……)
だからこそ、
しかし道中には荒くれ者たちが屯するスラム街が待ち受けていた。そこには正式な
そんな悪党どもが、
普段なら第一級冒険者に手を出すなど、自殺行為にも等しい真似をする物好きはいないが、この時のアイズの様子ははたから見てもおかしかった。
目線が一点に絞れておらず、千鳥足のようで呼吸が荒い。
結論から言えば、アイズが少し前に飲んだ液体こそが『
【イシュタル・ファミリア】が【フレイヤ・ファミリア】打倒計画で使用される筈だった魔道具(マジック・アイテム)にして、魔力を保持する冒険者にとって天敵ともいえる凶悪な劇薬。
神イシュタルの『
この薬液を僅かにでも摂取した者が魔力持ちだった場合、「魅了」と「酩酊」が同時に発現。これらの状態異常は一部冒険者を除いて如何なる場合でも抗えない。具体的には『
魔力の【ステイタス】が高いほど効果は抜群で、
もちろん荒くれ者たちはそんな神々の悪戯など知ったことではない。
が、状況はどうであれ【剣姫】との戦いの末の『勝利』という謳い文句は、縄張り争いをしている同業者への誇りと牽制になる。
だからこそ、【剣姫】を襲撃しない手は無かった。
(——ッ⁉)
囲まれている。
第一級冒険者の直感が囁いた時には、包囲網の下準備は終わっていた。
「へっへっへっ!」
アイズが顔を上げれば、武器を手にした冒険者もとい襲撃者たち十名近くが、三日月状に嗤う口から獰猛な歯を覗かせて、通路の前後を塞いでいる。
「総員、対人陣形でかかれい!」
親玉らしき老人男性の命令で始まったのは、狩り。
「ッ!」
スラム街を熟知した
アイズは緒戦こそ翻弄されたが、流石は第一級冒険者と恐れられるだけあり、次第に敵の動きや
一人、また一人と峰内で昏倒させていくお手並みは、流石第一級冒険者といったところか。
だが、
「【掛けまくも畏きいかなるものを打ち破る我がよ、尊き天よりの導きよ——】」
「ッ!?」
その声が、『呪文』が、裏路地に響いたことでアイズは動揺する。
敵の中に魔導士がいるのは予想していたが、その姿が未だ捉えられないでいたからだ。
「【——卑小のこの身に巍然たる御身の神力を——救え浄化の光、破邪の刃——払え平定の太刀、征伐の
「長文詠唱……っ!?」
仕掛けられた重力魔法こそが王手だった。
「【天より降り、地を統べよ——
直後、アイズの足元を中心に紫色に光る術式が展開。
咄嗟に
戦斧が
動けないのをいいことに幾多の弱体魔法(デバフ)をかけられたのはいうまでもない。
この時、
「ん? んんー? ……くっ、くはっ、フハハハハハッ!」
団長はアイズを使って金を生み出す下劣な方法を閃いた。
「さぁて、全団員に告ぐ」
老人の年相応とは思えない悪魔のような眼光を揺らめかせて、取り巻きに命令を下す。
「【剣姫】を囲え。決して逃がすでないぞ?」